誰も知らないはずの物騙/誰かの書置
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禿頭の老人が、コツコツ、深夜の廃墟を歩いている。
「ふむ。エリカがフラダリに出会った、とな?」
ニヤリと笑って、スマホを通話も切らずにポケットに突っ込む。
「さて、始めるとするかの。」
錆が浮いたー人為的にボロボロにしたとしてもこのように均等に錆に覆われるとは思えないー3DSを机の上に置き、老人は部屋の外へ出る。同時に、スマホが通信圏外を示し通話が終了したー電波が3本経っているにもかかわらず。
扉の先は、博物館だった。深夜でも煌々と灯が付き、なかでも通路の一番奥のケースは警報機が無数に取り付けられている。
「造作もないの。」
老人は枯れ腕を分厚いケースに振り下ろした。ケースは粉々に砕けちる。不気味なまでの静寂。
「ふむ。」
ケースの中にある2つのマスターボールを取り出し、そして少し首をひねってから老人は代わりに2つのゲームカセットを静かに置いた。
カセットにはこう書かれていたー「ポケットモンスター X」「ポケットモンスター Y」
老人から零れ落ちる鉄錆が、心なしか、キラリと輝いたような気がした。
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まことに哀しき世界が、開化期を迎えようとしている。
哀しいといえば、21世紀初頭の地球程行き詰った哀しさはなかったであろう。
版図と言えば狭い地球の限られた資源と環境を食い荒らすばかりであり、人口といえば不足する水食糧医療インフラを奪い合う78億人がひしめきあっていた。
ポケモン時代の到来によって人類は初めて、「理想的な文明」というものを目指せるようになった。
誰もが「新時代の途上」にあった。
不慣れながら「新時代」を迎えた21世紀人たちは、人類史上の最初の体験者として、その新鮮さに昂揚した。この痛々しいばかりの昂揚が分からなければ、この段階の歴史は分からない。
社会のどういう階層の、どういう家の子でも、ポケモンを従えるために必要な優しさと勇気さえあれば、博士にも、官吏にも、教師にも、軍人にも、成り得た。
この物騙は、かの哀しき世界が、古き因縁と思い残しを引っ提げた2人の人間に導かれる中で、ポケモン世界と融合し、どのように振舞ったかという物騙である。主人公は、あるいはこの時代の地球人類ということになるかもしれない。が、ともかく我々は3つの組織の跡を追わねばならない。
この古い国家を治める日本政府は、ポケモンが現れるに当たって、衝突は不可避だと振り返られたポケモン達と共存する新国家を計画し、それを建設した。地球の裏のフランス政府は、新時代の荒波とともに現れた梟雄に呑まれ、ナポレオン大乱以来の大禍で過渡期を彩った。もう1組織は、ポケモンという新時代の潮流に抗い、自らの信じた新時代のカタチを追い求めた終末論カルト、てつさびきょうだんである。
彼ら彼女らは令和という時代人の体質で、閉塞感に背を押されて駆けだしていく。
地平線までを占め尽くす焼け野原の向こうに、もし一瞥、緑のオアシスを望めたのならば、それのみを見すえて、荒野を後にするであろう。
新章、始まります。