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「ビビヨン、ぼうふうだ!」
落下する天井の欠片が、とっさに赤穂が繰り出したビビヨンにより吹き飛ばされていく。その下を、各国要人が駆けだしていく。
「首相、逃げますよ!」
SPが赤穂の腕を引き走るーが、奥行50メートル幅35メートル高さ23メートルの国連総会議場すべてをカバーするぼうふうなどジムリーダーレベルに鍛えたポケモンでなければ出せるはずもなく、ここにきて赤穂のポケモン過信が裏目に出たービビヨンが十数秒と経たぬうちに疲れ果て、翅を弱弱しく震えさせボールに戻ってしまったのである。
依然として煙は総会議場の屋根から噴き出し、無数のコンクリート片が徐々に落ち、あまつさえ大崩落の兆しを見せている。
出口は人が殺到して混雑しており、総会議場から出るのは間に合わないそうにないー「
首相の、もはやおぼろげになったフランス語の知識が、彼を振り返らせた。
足がもつれて、振り向きざまに派手に転倒する。
「総理っ!?」
だが、赤穂は立ち上がることができなかった。
降り注ぐ瓦礫が、頭上すぐ上で停止している。
屋根が吹き飛んで、眩しい日差しが降り注ぎ、瓦礫を輝かせーそれはまるで、男を照らす後光のようだった。
みじめに地面に這いつくばる赤穂首相を見下ろし、男、フランス大統領フルール・ド・リスは言った。
「早く逃げたまえ。ここは私が食い止めよう。」
エリカ嬢があれだけ新大統領に気を付けろと言っていたのはあながち間違いではないのではないかもしれないー赤穂は、助けられているにもかかわらず、畏れが身体を震わせるのを止められなかった。
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てつさびきょうかい国連本部ビル爆破テロ事件ーそれは、21世紀を象徴する歴史的事件だったと、のちの歴史家の何人かが述べることになる。
ポケモン出現、世界のポケモン出現への動揺ーポケモンの受容と排斥というだけではなく、怪しげなカルトが横行し誰もが新時代の到来に戸惑っていた時代の針を、一気に強制的に押し進めたという点で、この事件は全人類にとって忘れがたいものとなった。
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一面田畑で奥には雄大な山々、そんな日本のあちこちにある過疎地の風景の一角に、異質な、異様に錆で赤黒いコンテナ村が立ち並んでいた。
「各員、ガスマスクとモンスターボールは持ったな!」
迷彩服の勇士が整列しコンテナ村をにらむ。
「「「「「はい!」」」」」
あの始まりの日破壊された10式戦車の上に、あの日10式戦車を破壊したコータスが登り、乗員とともに前を見据える。
「作戦目的を確認する!
我々は、国際的テロ組織であるIAVFに協力し世界各地で紛争を勃発させたばかりではなく、国連本部ビルを爆破したてつさびきょうだんを、壊滅せしめなければならない!
当該の組織は多数の武器で武装していることが予測される!警察からの情報提供によれば少なくとも対戦車ロケット砲を密輸、原始的な化学兵器を所持している可能性があり、航空偵察によれば中華製
たかがネットで集まったカルトと侮るな!ポケモン出現で不安定化した社会を養分に成長した教団は、小国並みの作戦遂行能力を有する反政府武装勢力だ!現にIAVFが挙兵した国の多くが有事状態となっている!
だが我々は、敵がなんであろうと、日本の明日のために戦う!日々の訓練の成果を活かし、全員帰還すべし!
総員状況始め!」
訓示が終わった瞬間、キリキザンが「くろいまなざし」を使うーどれほど効果があるかわからないが、逃走抑止に役立つかもしれない。
「てつさびきょうだん構成員に告ぐ!逮捕状及び捜索令状に従い、教祖”鉄錆卿”の身柄を引き渡し、投降せよ!」
返答は...
「爆音!?」
無数の火が線を引き、降り注いでくる。
「ロケット砲だっ!各員防御っ!トレーナー隊員はまもる、リフレクター、ひかりのかべを使用!」
「コータス、ふんえん!ミサイルの誘導装置を攪乱するぞ!」
「来るぞぉーー!伏せろぉーーっ!」
降り注ぐロケットが大地に衝突し、ふんえんなど瞬く間に吹き飛ばして自らの煙を上げる。だが、防御ワザのバリアに衝突したロケットはへしまがってその場で爆発し、真下の自衛隊員は無事だった。
「損害は!?」「なし!」「誘導攪乱は成功したか!?」「いいえ!無誘導ロケット弾のようです!」
「カッサームロケットのような簡易なものだろう。極左過激派も使っていたから充分ありえる。」
「隊長、対空レーダーに感アリ!」「直掩UAV部隊に連絡!迎撃し、掩体滑走路を特定、破壊せよっ!」「小隊、小型ドローン迎撃姿勢!構え!」「行けっ、エアームド!ドローンにつつく!」
「地雷探知機に感アリ!」「地雷除去実施します!ドリュウズ、ねっさのだいち!」「バクーダ、だいちのちから!」「イシヘンジン、じゅうりょく!」「バクフーン、ブラストバーン!」
地面に圧と熱を同時に一気にかけることで地雷を誘爆させるー通常は気化爆弾などを用いる広域地雷処理手段だが、ポケモンを用いれば極めて効率的である。
「ロケット第二波来ます!」「もう一度『まもる』!」
これ以上敵を進ませて乗り込ませてはたまらないと、簡素なロケット弾がいくつも飛来するー今度はただのロケット弾ではなかった。
「ゴホッ、ゴホッ」
速やかに、異臭を感じた数人が卒倒する。皆がすぐに、ガスマスク越しに目を抑え膝をついたー毒ガスだ。
「ゴホッ、頼むマタドガス、ワンダースチーム!」
2本の煙突を付けたマタドガスが、ピンク色の霧を噴き出す。同時にあちこちで回復ワザの指示が飛び交う。頭上ではロケットの発射源へと催涙弾ロケットがお返しとばかりに投下される。
「進軍!制圧せよっ!」
煙を引き、ドローンが落ちていった。
ー*-
日本の人里離れた僻地でてつさびきょうだんの
通信頻度とサイバー空間での戦闘に基づけば、チャネル諸島、シーランド公国などと呼ばれる海上要塞に、てつさびきょうだんの本部がある可能性が高い…その情報に基づき、フルール・ド・リス大統領の命令一下、機動部隊が集結していたのである(てつさびきょうだんはインターネット発のカルトだったから、ネットミームとして有名なシーランド公国の関係者が「ネットで発行していたパスポートを持って上陸してきた武装集団に叩き出された」と着の身着のままイギリス政府に駆けこんだ話も信憑性があった)。
要塞へ落下傘が降りていく。狙撃手が顔を出そうものなら逆に狙撃してやろうとドローンが銃口を覗かせ、何かがあれば艦砲射撃で要塞ごと粉砕してやろうとフリゲートが砲を向ける。
パラシュートが、もうすぐ、要塞の屋根に降り立つ…その時、マゼンタの透明な壁が、要塞を包みこんだ。
「いかんっ!撃てっ!」
小型ドローンが銃口を揺らし、誘導爆弾を懸吊したバイラクタル大型ドローンが真上へ飛んでいく。
銃弾が空を進み…いつの間にか現れていた男が、銃弾をつまみ、放り捨てた。
「そんな馬鹿な!」空挺隊員が発砲する。ゆっくり進む銃弾をつまみ、投げ返す。空挺隊員の頭が弾ける。
「トリックルーム…って言ってな、速い物は遅く、遅い物は速く進むんだとよ…っ!」
銃から弾倉を抜き、中の弾を一気に投げるー空中をのんびり這い進むドローンの銃弾が、次々撃ち落とされる。
「光ですら多少は減速し、自分が見ている物が本当かも信じられないこの空間…何処まで戦えるかな?」
「…確かに、前政権の軍備なら、強力なポケモンへの軍事的アプローチは限られていた…
…だが、今は違う!
フランス軍のポケモン国防は、リス政権下で長足の進歩を遂げた!往けっアーマーガア!」
男に続きハッチから登場した軍服の女が、ボールを放り投げる。
「タダのポケモンには興味ありません、この中に伝説、準伝、幻のポケモンがいたら、あたしのところに来なさい…ってね。戦うのよファイヤー!」
黒鉄の鴉を、幻焔を纏う漆黒の魔鳥が扇ぐ。
「アーマーガア、ブレイブバード!」「加勢しろファイアロー!はがねのつばさ!」「ムクバード、エアスラッシュだ!」
次々とパラシュートが舞い降り、ポケモンを繰り出していく。
「ふん...格が違うのよ。
世界をやり直すために一度終わらせる、そのためのトドメとして、神はこの世界にポケモンを与えられた。あたしたちが選ばれたポケモンを持っていることこそその証...!
ファイヤー、世界への怒りを燃え上がらせるのよっ!」
血のように赤黒いオーラが、要塞のヘリポートを覆いつくした。
-空挺部隊が待ち伏せの餌食になっているころ、要塞占領を海空から支援するはずの機動部隊と言えば、これも混乱に陥っていた。
「対空目標の画像来ました!自爆ドローン30、オトシドリ40!」
「迎撃開始ィ!」
ー大前提として、飛行ポケモンの迎撃は、ミニ・イージス艦であるアキテーヌ級防空ミサイル駆逐艦ですら困難である。レーダーというものは生物をノイズとしないように進化を続けてきたのもさることながら、空を飛ぶ鳥にいちいち近接信管を作動させていては迎撃ミサイルが対艦ミサイル迎撃の要を成さないからだ。
「ポケモンによる空からの攻撃には、主砲、及び
オトシドリそのものは数百mの高さにいて、爆弾ー通常爆弾かははなはだ疑わしいーを落としてくる。フランス海軍はCIWSに機関砲ではなくミストラル近接防空ミサイルを採用していたことがポケモン出現以来仇となり、応急処置で20mm機関砲F2へ換装していたが、この対空砲は仰角最大40度で照準すら厳しいし単装砲で防空システムとのリンクも怪しい以上、期待はできない。
「オトシドリ、投下してきます!」「対空、撃ち続けろ!」
弾幕が空を埋め尽くすが、火線の奥をオトシドリが嘲笑いながら飛んでいく。
「くそっ...いくらなんでも当たらないはずは...」「すばやさをいじってるか、回避ワザを覚えてるんじゃないですかね…?」「着弾、来ます!」
閃光が、瞬いた。
「な、なんだ!?」「レ、レーダーにノイズが…!EMP攻撃です!」「対空対艦ともにレーダー不調!システム、
まさか対ポケモン戦で、電磁パルス攻撃によるレーダー破壊などというハイテク攻撃が来るとは…驚愕している間にも、無人の特攻機が迫る。
弾幕が空を覆う。対航空機攻撃という本場で、いくら視界を電子的に半分奪われようとも、負けるわけにはいかない。
オトシドリが、羽ばたいた。
「な、なんだ!?」
弾幕が、はるか手前、各艦のそばで爆発し、ドローンへ届かないー
「電子デコイ発射されますっ!」
NGDSデコイ発射装置が、自らを発射艦の輻射電波と誤認させる電波を発する。
ーどうか、可視光誘導ではなく電波誘導ドローンでありますようにー願いはむなしく裏切られた。
「『アミラル・ルゾー』、被弾!」「『フォルバン』、被弾、速度低下っ!」「『シュルクーフ』、通信途絶えました!」」「『ディスクミュード』、直撃なれども目立った損傷なしとのこと!」「『ジェルミナル』、姿が見えません…轟沈!?」「本艦にも来ます!」「『ゲプラット』、隊列を落伍!」「総員、耐衝撃姿勢ィ!」
直後、海面すれすれでホップアップした無人飛行機が、直上から76㎜主砲へクラッシュした。
凌波性に配慮された流麗な舳先が、まるごとかききえる。
「主砲、艦首ソナー、応答なし!喪失と判断します!」
「ダメコン!
むしろVLS直前の艦首甲板の主砲が跡形もなく吹き飛び艦首が消えうせているのに、VLSが無事であることが奇跡であるーと思ったが、予想は常に裏切られるものである。
「艦首浸水過大!速力低下します!」「このままでは水没するぞ!」「隔壁どうなってる!」
あまりに奇跡的な運の悪さでVLSのセルが波に現れ、そこから艦内へ浸水したーまた1隻、艦隊は戦闘能力を喪失した。
一方で無事な艦では、対潜ソナーが生きているがために、深海から聞きたくもない音を拾ってしまう。
「ち、直下に音源反応!」
「
「爆発!?やったかっ!」
「ダメです…!魚雷、水中で迎撃されてます!この音波は…該当するワザ、なし!未知のワザ!」
この世界どころか、ポケモンの世界のほとんどの人間にとっても、そのワザは未知だー
「欺瞞魚雷放てっ!」
「謎の音源!止まりません…!第二艦隊旗艦に向かう…!」
「空母を沈めるな!盾になるぞ!」
「真下から来るものをどうやって防げと!?」
深海から、白銀のビームが高圧の海水を無理やり沸騰させる。
「未知のワザの音波来ました!『ドゴール』に直撃します!」
-そのワザの名を、「エアロブラスト」と言う。
高温の水蒸気が海上に噴き出し、巨大な空母を水柱で包み隠した。
ー*-
「くくく、だが、我々など捨て石に過ぎない!本命は我々ではなくチャネル本部なのだからな!」
「捨て文句を吐きやがって...」
日本支部マスターを名乗る男を縛り上げて、隊員は隊長に向けて向き直る。
「これにて作戦完了!」
「あとは警察の捜査部隊に引き継ぐぞ。作戦本部に通信!
…どうした?」
通信兵の顔が真っ青だ。
「隊長、作戦本部から、極秘の連絡です。耳をお貸しください。」
「…ふむ?」
「チャ、チャネル諸島にて、げ、原子力空母『シャルル・ド・ゴール』、轟沈っ!」
ー*-
「だ、大統領閣下!ここも危険です!
本艦も撤退します!」
原子力空母「フランシス・トマ・トレウアール」ー虎の子の新鋭艦に直々に座乗していたフランス軍最高司令官に、艦隊司令が叫ぶ。
「いや、撤退はない。」
フラダリは、未知のポケモンを睨みつけたー目があったような気がした。
「白い翼、脚、頭、尾、青い腹…ルギアだったか…?しかしあの眼…」
フラダリは知らないー
「…この世界でも、人は争い、ポケモンを苦しめ人を苦しめ、世界は醜くなっていく…」
「大統領閣下、何か、おっしゃいましたか?」
「いや…?ただ…
…伝説には伝説だ。」
いでよゼルネアス、ジオコントロール!」
海面に、虹色のオーラが広がっていく。
真っ二つに折れて波間に消えつつある原子力空母が、時間を巻き戻しでもしたかのように、勇姿を取り戻していく。
空からシャドウルギアが、要塞からシャドウガラルファイヤーが、次々と艦隊を復活させる仕立て人を睨みつけ、口を開いた。
「大統領閣下、とてもこれは守り切れません!」
「ふむ、守り切れないならば...
…攻撃もすればいいのだろう?
往けイベルタル、デスウィング。」
ー*-
てつさびきょうだんはもともと日本のインターネット発のカルトだ。軍事的見地で海外の海上要塞に本部を隠していても、誘拐した新見教授の身柄は国内のアジトにあるだろう...警察も自衛隊もそう思っていたが、なかなか新見教授を発見することはできなかった。
「まさか、教授を殺して隠蔽した、とかではないだろうな…?」
しかし全世界に、鉄錆卿のビデオのバックに映り込んでいたのを見られている…隠しきれるはずもない。それにそもそも隠すべき人物なのだろうか…?
「チャネルでの作戦では結局教団幹部はポケモンの攻撃によって壊滅し聴取はできず鉄錆卿の確保の成否も定かではない…これでは勝って負けたようなものだぞ…」
警察幹部が焦っていたその時だった。
「警察庁長官宛に匿名の通報です!『教団が誘拐した人々はメイン施設の一階と二階の間、鉄錆卿の日本での潜伏のための隠しルームにいる』!」
「…!探せ!見取り図を精査しろ!警察ポチエナで一階天井を嗅ぎ直せ!」
ー*-
「…私はね、ずっと思っていた。」
石像が並ぶ海上要塞で、フラダリはおもむろにしゃべり始めた。
テレビカメラが目の前にあるといって、とても今から取材に応える人間の口調ではない。それでも、レポーターはあわてて中継を指示した。
「この世界は、私が知っているそれよりも、ずっと行き詰っていた。
80億人が争い、奪い合い、欲望は留まることを知らず、人は人を踏みにじり、恨みつらみは連鎖して果てることなく、誇りは消え失せ、生きていくだけで人々は環境を削りまるでわが身をむしばむかのよう。」
大統領はどうなされたんだ?まるで教団の言いざまそのままじゃないか…と思いつつも、生中継が繋がり、「大統領、占領した要塞で話す」とテロップが流れる。
「…私は、そうだと思って、このままでは世界はどんどん醜くすりつぶされていく、それは耐えられないと思って、世界を美しいまま終わらせることにした。だがこの世界はどうだ!?
…そして今、頼みの綱のポケモンは、3000年前と同じオチに陥ってしまった...」
なるほど確かに、要塞には人の石像に混じり、てつさびきょうかいが使っていたポケモンたちのそれが並んでいる。
「本当に醜いとはどういうことか、終わらせなければならないとはどういうものか、私は今初めて知った。
この世界がこのまま争いと衰えに消えていくよりは、有終の美を飾った方が、君たちも本望だろう?」
初めて、フラダリがカメラ目線になるー大統領の瞳は、狂気に満ちていた。
次話「フレア団ボスの フラダリが 現代世界に 絶滅戦争をしかけてきた!」
※本作では既にフランス2隻目の原子力空母が就役し、海軍大元帥フランシス・トマ・トレウアールの名前を付けられています。
本作の年代設定は「21世紀前半」以上の限定をしないので、現在この世界で建造が発表されている1938年就役予定次期空母と同一なのかあるいは過去に数度計画段階でぽしゃったフランス次期空母計画のものなのかは御想像にお任せします。