フラダリ転生で世界を救おうと思います   作:十二の子

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物語が終わり、新たな物語へと歩き出す。


どっとはらい。

 先に手を打ったのは”フラダリ”だった。over=テラスタルはタイプを変えれたり兼ねれたりしながら強力なover=テラバーストを放てるのがメリットだが、逆に言えばそれしかないのだ。BREAK進化はタイプを変えないとはいえ強力になるだけではなくワザや特性が追加されるので、対応のバリエーションに勝る相手に長時間戦闘することになれば不利なのであるーそしてエリカはフィクトマキナに情報を与えられていないのでこのことを知らないという読みまで打てる。

 

 「type:ほのお=テラスタル。type:ほのお=テラバースト!」

 

 くさ耐性とくさ弱点を同時に取る選択肢。そして赤く染まったビームがラフレシアへと奔る。

 

 「展開、『かおるはなぞの』、アレルギーボムをぶつけるのですわっ!」

 

 花粉の霧が広がり、そして得体のしれない紫色の煙が空気砲のように飛んでいく。

 

 空中で、ビームと空気砲が衝突した。炸裂、そして大爆発。

 

 頭上の王冠とその上の宝玉ごと、結晶めいたキラメキをまとうポリゴンZが吹き飛ばされていく。

 

 「…粉塵爆発か。なるほど、『異世界もの・能力ものの定番』ってわけね。

 

 ポリゴンZ、かげぶんしんしてtype:ひこう=テラバースト!」

 

 無数のポリゴンZが、透明ながらも必殺の光線を放つ。それを金色に輝くラフレシアがくるくるまわりながら回避していくー見えてもいないのに、殺気で避けているのだ。

 

 「これが、ジムリーダーかよ…

 

 『ゲームとリアルじゃ大違い』だな…!」

 

 「いくら事情を知っているからと言って、メタ発言をなさるのは興ざめですわよ。わたくしたちは確かに今、ここまで、生きてきたのですから。」

 

 「『運命の配役が悪いからって、(作者)を恨むのは筋違い』、とでも?」

 

 「…そこまでは申しませんが…

 

 …後悔も反省もしても、それでもわたくしたちは、その時その時で最善だと思った選択肢を取ってきた、一生懸命世界を生きてきた、そのことは否定できないし、みんながそうだってことを否定したらいけない、でしょう?」

 

 「物語ダケド、ワタシが書いたワケジャナイし、みんなのジユウ意思が結果として物語のカタチで読めルだけだヨ。アカシックレコードはあるけど歴史も運命も決まってナクテ人がヒトリヒトリつかみ取ってるノ。ウーン、説明できない。ヒトにはわからない領域?」

 

 「…言いたいことはわかるさ。ああ、全部俺が選んできた路、配られたカードの中で最善手だと思ってやった人生ゲームだよ。

 

 だがなあ、鬱憤くらいは晴らさせてくれよ。ポリゴンZ,type:ほのお=テラバースト!」

 

 今度はかげぶんしんしている。アレルギーボムでの迎撃はできないだろう。

 

 「ラフレシア、はなびらのまいっ!」

 

 金色の花弁が無数に、回転するラフレシアを中心に竜巻を成す。超火力の無数の光線が四方八方から竜巻に巻き込まれ、金色の竜巻が赤熱していく。

 

 「全部吸収できるはずがない…!だいたい相性が悪いくさワザで、純粋なエネルギーのビームであるover=テラバーストを受け切るなんて...どこかでパワーを上げてないと…!」

 

 「…ポケモンという世界(物語)を、外から(読者として)見た期間が長い、そうお見受けしますわ。だから…こういった絡め手、ゲームなどでは描写できないような手に弱い。

 

 ワザでなければ大丈夫、そう思ってはございませんか?例えば特性、例えばポケモンの生態的特徴。ワザの『どくどく』ではなくても触れただけで『どくどく』と同じ効果を持つポケモンがいるように、ワザはバトルの一ファクターなのですわ。

 

 もう一度アレルギーボム!」

 

 金赤色の竜巻が内部から炸裂し、キラキラと光が飛び散る。

 

 ラフレシアははなびらのまいの副作用でグルグル目を回している。今がチャンスー”フラダリ”はポリゴンZに指示を出そうとして、ポリゴンZもフラフラして調子も悪そうなことに気が付いた。

 

 最初のアレルギーボム、特性の「かおるはなぞの」、燃えた花弁、二度目のアレルギーボム、それらが爆発で撒き散らされ、うっすら視界が悪くなりさえしている。つまり、離れていても危険なアレルギー粉末の影響を受けてどく・やけど・マヒになるということだ。

 

 「っ、ポリゴンZ、もう少し戦えるか?」

 

 ポリゴンZがゆっくりとだがうなずく。

 

 「行きますわよラフレシア。」

 

 ラフレシアがふらつきながらもうなずく。

 

 「にほんばれ!」

 

 「over=テラスタル!」

 

 太陽のない不思議なフィクトマキナ製異次元空間に、温かみのある光が満ちる。

 

 ポリゴンZの頭上の宝玉が、虹色に点滅する。

 

 ここからは小細工なし。育ててきたポケモンと自分のーポケモン生活のすべてを全力でぶつける一発勝負。

 

 「ソーラービームですわッ!」

 

 にほんばれで溜まり続けるエネルギーと、type:ひこう=テラバーストからの回避中にしていたつるぎのまいの模倣(ワザではない)で上げた攻撃力により、無尽蔵に継続する超火力が金色の光条となって迸る。

 

 「ぶつけろtype:ほのお+こおり+ひこう+エスパー=テラバースト、集中放出!」

 

 全タイプを併せ持つover=テラスタル中のポリゴンZが放つのは、2倍弱点4つの属性を秘めたタイプ一致over=テラバースト、そのダメージ倍率たるや(2×1.5)⁴=81倍の光弾が、赤水白紫の光をミラーボールのごとく瞬かせ迫る。

 

 巨大な光弾が、光線をグイグイ押しながら進んでいくーしかしソーラービームのエネルギーはにほんばれ+BREAK進化補正で追加され続ける。

 

 虹色の光を衝突面から放ちながら徐々に伯仲点が2体の中央へ寄っていき、そして、迎え撃つラフレシアの金色の身体に冷や汗がテカったーまだはなびらのまいの回転酔いが残っている中で踏ん張って莫大なエネルギーを放ち続けるのは無理がある。

 

 ラフレシアが短い脚を折り、膝をつく。ソーラービームがズレる。

 

 エネルギーのベクトルの均衡がズレた瞬間、拮抗する膨大なエネルギーの奔流はその平衡を保てなくなり、カタストロフが訪れる。

 

 ビッグバンでも起こったのかと錯覚してしまうような究極の極光が、すべてを染め上げた。

 

ー*-

 

 「いいバトルだったな。」「貴方こそ、重みのあるバトルでしたわ。」

 

 やっぱりポケモントレーナーは会話よりもバトルで通じ合うものだーエリカも”フラダリ”も、満足満足と握手を交わす。

 

 「ねえお兄、終わった?」

 

 ひょいっと、”フラダリ”の後ろから、セーラー服の少女が浮遊しながら顔をのぞかせた。

 

 「ひゃあっ!だ、どなたですの!?というか、失礼ながら。人間ですの…?」

 

 「えーっと、幽霊というかなんというか…紹介しよう。いちおう、俺の妹だ。」

 

 「いちおう妹やってます。レイって呼んで?

 

 それでどうせお兄たちも気づいてるんでしょ?意味わかんない伝説ポケモンに頼らなくても、答えはもう手の中にあるって。

 

 物語改変で世界を書き換えるって下策に奔らなくても、自分たちの手で何とかする、お兄っていじっぱりだしエリカさんは正義のジムリーダーズ率いるくらい曲がったこと嫌いだから、フィクトマキナに頼りたくない、そうだよねっ?」

 

 「…正義のジムリーダー...?確かにフラダリとは戦いましたけれど…」

 

 「おっと、この歴史はあなたにとっては並行(ポケスペ)世界のことでしたね?なんちって。」

 

 「初対面でいきなりドヤ顔でクソオタクっぽいパロディやるのお兄ちゃん恥ずかしいからやめて…」

 

 「えっお兄ひどっ。

 

 まーいいや。どうせ見てるんでしょ?アルセウスー?」

 

 ぬっと、虚空からアルセウスが出現した。相対するように、3人の背後にフィクトマキナがしんのすがたで顕現する。

 

 「…フィクトマキナ、あなたも、分をわきまえたようですね。」

 

 「わきまえたワケじゃない。ワタシがしたいようにしてイルだけ。見守っていて欲しソウだから見守る、ソレダケ。」

 

 「もしまた世界を書き換えようとしたら、理解っていますよね?」

 

 「ミンナが奇跡を願っても姿ヲ見せサエしなかった奴が、ナニ言ってルノ?www」

 

 「「「…えぇ…」」」

 

 こいつらけっこう大人げないな?-3人の思いが一つになった。

 

 「それで、貴方方は、何の用ですか?」「ワタシの力ジャナクテ、この神ノ力求めてルノ?」

 

 「すみません、フィクトマキナ。わたくしたちは、すでに来た物語の書き換えではなくて、これからも続く物語を書き足したいのです。」

 

 「そう...ダヨネ。」

 

 アルセウスが心なしかほくそ笑んだように見えるーこいついい性格してるな?

 

 「アルセウス、私たちを」「俺たちを」「わたくしたちを、あの日に戻していただけませんか?」

 

 「…その時失敗して死んだから、今貴方方はここにいるのでは?」

 

 「アルセウス、あのネ、私たちと違っテ、全能じゃない、第四の壁も越えられない、神の視点も持たない、ケドネ、毎日成長するんだヨ?

 

 『世界が滅んだあの日の自分じゃない』、そう、言いタイんだよね?」

 

 「…ふっ、わかりました。

 

 目を、つぶってください。」

 

 慈愛に満ちたオーラが、3人を包み込んだ。

 

 「サヨウナラ。ワタシも、いつデモ読みまもってルカラね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 「これで、ようやく、私の理想の世界が…!」

 

 一面茶色に染まった世界で、フラダリが歓声を響かせた、その時だった。

 

 「そうは、させませんわ。」「そういうわけにはいかねえよ。」「まだまだ続き、あるんだよねー。」

 

 「むっ...まだ、生き残りがいたか?お前たちは誰だ?」

 

 「六条エリカと申します。」「フラダリだ。お前とはまったく違う世界の、な。」「うーん、あなたの妹?」

 

 「…何やらまったくわけがわからんが、とにかく私の美しい世界には不要と見た。

 

 さようならだっ、デスウィング!」

 

 巨大なーそれはもうたんまりと生命エネルギーを吸い尽くし空を覆うか迄に巨大になったイベルタルが羽ばたき、猛風とともにオーラを集約させていく。

 

 ーだが、もう怖くはない。 

 

 「行きますわよ、イベルタルっ!」

 

 「何!?2体目のイベルタル、だと…!?」

 

 わずかに錆に覆われたマスターボール。ある世界のフラダリが全身全霊を賭けて消し飛ばそうとして挫折し、別の世界で怒り狂ってフランス一国を危うく滅ぼしかけたそれが、金色の粉を撒き散らしながら出現する。

 

 「イベルタルにはむしろイベルタル、けれど一味違いますわ。BREAK進化!」

 

 金色に輝くイベルタルは、空を圧するそれとはけた違いに小さいながらも、ひるむことなく、今にも降り注がんとする絶死のオーラを見据えた。

 

 「イベルタルBREAK、わざわいのよる!」

 

 この世界の悲劇を表すかのように真っ赤に染まっていた空が、暗くーいや、満天の星空に塗り替わる(究極の天候ワザ)。そして、金色の星々が降り注いだ。

 

 巨大なイベルタルが死のオーラを凝縮させ、放出するーしかし、それは夜の暗闇に吸い込まれ、金色の雨がイベルタルの背中を貫いていく。

 

 「くっ、何が起きているのかさっぱりわからん…

 

 …ならばいけ、ゼルネアス!どんな相手でも無限に回復すればかなうまい!」

 

 世界樹ユグドラシルもかくや、天を突くような巨大なゼルネアスが無尽蔵の生命エネルギーをイベルタルへ送り、イベルタルが再び死のオーラの濃縮を始める。

 

 「往くのですわ、ゼルネアスBREAK!

 

 ライブストリーム!」

 

 ならばこちらも回復ーエリカはもう一つのマスターボールを投げた。金色のゼルネアスは確かに遥か仰ぐようなフラダリのそれに比べれば矮小な存在だが、生命エネルギーが大地にしみわたり、金色に染まった生命の波導が天地を満たす。

 

 茶色い荒野が金色に塗り替わる中、崩れた石像が、積み石が、もはや流れ去った砂が、時間を巻き戻すようにして集まり、石像を成し、そして。

 

 -エリカは知っている。フラダリに勝ちゼルネアスを手に入れさえすれば、多少の時間はかかるが文明はともかく人々を生き返らせる算段が付いていたことを。

 

 -”フラダリ”は知っている。ジガルデは秩序を保つポケモンとしてエントロピーを巻き戻す権能を持ち、倒されてもそのセルまでなくなってしまったわけではないことを。

 

 増幅された力が、塗り替わった世界に満ち、そして、金色の石像が、動いた。

 

 金色の波導が引いていく。トレーナーが、ポケモンが、自分の手を見、顔を触り、そしてお互い手を叩いて喜び合う。

 

 そこには、世界中から集められた歴戦のポケモントレーナーが勢ぞろいしていた。

 

 「お~壮観。じゃあ俺も助っ人するか。行くぞポリゴンZ。」

 

 「くっ...全員生き返らせたからなんだと言うのだ!再び蹂躙するのみ!」

 

 夜空を割って、巨大な赤黒い渦巻きから、手が伸びる。赤紫のムゲンダイビームが戦場全てを包み込まんばかりに照射される。

 

 「来るかムゲンダイマックス。だけど甘く見てると」「痛い目に合うんだよ~こうゆーの。ポリゴンZ、type:フェアリー=テラバーストだよっ!」

 

 たとえ都市を灰燼に帰せる一撃でも、それはドラゴン技だ。そしてメガシンカエネルギーにより放たれるフェアリーのテラバーストは、タイプ相性を加味できればその絶大な威力を消しきることができた。

 

 「なぜだ…!なぜそんな卑小なゼルネアスとイベルタルが、たかがテラスタルしたポリゴンZごときが、私の崇高な最終兵器の邪魔をする!」

 

 …このフラダリは知らない。自分が壊した世界から旅立った一人の少女が手にした力、それは自分とは異なる自分が壊しかけた世界で発現した「壊れ新しく変わっていく世界の力」なのだ。つまり同じくフラダリという人物が完全に破壊したこの世界では、BREAK進化の力は無限大に強くなる。

 

 …このフラダリは知らない。手持ちのすべてを失った”フラダリ”がメガシンカ研究とテラスタル研究と前世知識の3系統すべてを活かして得たその力は、世界を滅ぼせる力に驕り部下(パキラ)他人(ローズ社長)から掠め取らせたダイマックス1系統の究極ワザに勝るのだと言うことを。

 

 背後では、復仇と希望に燃える数百人のトレーナーが勢ぞろいし、構えている。

 

 エリカ、フラダリ、レイはうなずいた。

 

 「よしっ、変わってくれエリカさん!」「わかりましたわ。」

 

 「「ゼルネアスBREAK、イベルタルBREAK、full:over=テラバースト!」」

 

 「ポリゴンZ、BREAK進化ですわ!全力を解き放ちなさいっ!」

 

 白金の閃光を放つ巨大な光球が、夜空を昼間よりなお明るく照らす。

 

 「「「「「「「「「「いっけぇぇぇぇぇっ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 後ろを、無数の熟練ポケモンたちの最強の一撃が駆け抜けていく。はかいこうせんブラストバーンハイドロカノンでんじほうハードプラントふぶききあいだまダストシュートぶちかましゴッドバードアシストパワーメガホーンメテオビームポルターガイストりゅうせいぐんイカサマてっていこうせんムーンフォース...一塊となった奔流が蓄えられた巨大な光球に衝突した瞬間、3人もまた、叫んだ。

 

 「やれっ!」「いけるっいくよっ!」「今度こそ、勝つのですわッ...!」

 

 宇宙にヒビが入りかねないほどの、理論も理論値も超えた一撃。

 

 描写不可能なその光は光速で大気圏を横刺しし、進路上のすべてを呑み、宇宙の果てへと消え去っていった。

 

 空気がなくなった軌跡上に周囲の空気が急速に吸い込まれ、暴風はエリカのボブカットをぐちゃぐちゃにするのみならず天地のすべてを海も山も吸い込まんばかりに荒れ狂う。

 

 すべての人が視界を奪われた中で、唯一、幽霊にだけは視えていたーいや、視えていなかった。

 

 この星に、フラダリもゼルネアスもイベルタルもムゲンダイナも、もういない。

 

 「だが私は諦めない…!私にはムゲンのエネルギーが、生死を操る力があるのだ...!

 

 おいゼルネアス、イベルタル、ムゲンダイナ!地球に戻るぞ...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -だが、その声は聞こえることはない。

 

 空気の存在しない宇宙空間で、トレーナーの指示は聞こえない。

 

 絆を結んだ相手となら以心伝心できるかもしれない。だが彼にとって3体はしょせん目的を果たすための発掘品や鹵獲品、最終兵器の電池、邪魔者の処刑道具でしかない。

 

 「おいっ!なぜだ…なぜだぁ…!」

 

 叫び声すら、誰にも伝わることはなかった。

 

 最終兵器が与えたもうた無限の生命によって3000年さまよい続けたAZは、フラダリが世界を滅ぼす過程で引導を渡された。だが彼を滅ぼしえる者は、この広大無辺な星空に果たしていつになったら現れるのだろうか?

 

 「…そしてフラダリは、考えるのをやめた...なんてね。」

 

 幽霊は、ちろっと舌を出した。

 

ー*-

 

 「アナタ、このセカイ、戻るの?」

 

 「…急に脳内に直接話しかけないでくださいますか?」

 

 絶対神の片方はいい性格でもう片方は生まれたてかつお茶目。前途多難である。

 

 「わたくしはこの世界には戻らない。なぜならわたくしはポケモントレーナー、六条エリカだからですわ。」

 

 タマムシジムジムリーダーエリカとしての宿題は終わった。六摂家筆頭六条家嫡流第33代かつ転生者六条絵里華としての義務も、まあもういいだろう。ひとりのポケモントレーナー六条エリカとして平穏に人生という旅物語を始めたい…そして、あの一度壊れ変わりゆく世界の顛末、途中で見逃すのは惜しい。

 

 「ラシイよ、アルセウス。あっ、ゼルネアスとイベルタルはどうする?」

 

 「この世界の人々はもう見たくもないでしょう。フランスも復興させなければなりませんし…持っていきますわ。」

 

 「わかりました。ではゼルネアスBREAKがこの世界の生命を再生している間に、残り2人を送り届けてきましょう。」

 

ー*-

 

 茶色い海面が、視界いっぱいに迫る。

 

 -別にゼルネアスそのものを借りてきてもよかった。もともとは彼の転生先のゼルネアスだったし、BREAK進化は彼には維持できないがそれでもトーカイ地方を襲った大津波程度ならどうとでもなる。どうしても力が足りなければ天災特効を持つジガルデを連れてきてもいい。

 

 「お兄、私は、生き返らせないで。」

 

 -ただ、ここまできたら、最後の最後に自分が押すべきボタンがどのボタンなのか、粋や興というものを解する彼はわかっていた。

 

 「…それは、どうして?」

 

 津波が、街を、家々を、人々の営為を、呑み込んでいく。

 

 「私の心は、まだお兄と旅をしたいって言ってるから。これはきっと、レイだからじゃなくて、お兄の妹だからそう感じてるんだって、私は、そうじゃないかもしれないけど、そう信じたいの。」

 

 6枚の透明な花弁を持つ巨大な花(フレア団最終兵器)に、銀色の光が溜まり、花弁が徐々に閉じていく。

 

 「そうか。」

 

 濁流が去っていったまさにその時、ひとつの世界を完膚なきまでに滅ぼしたその花は完全に花弁を閉じーそして、わずかに蓄えられていたゼルネアスの力を宇宙へと撃ちだすことは、ついにできなかった。

 

 「フレア団の最終兵器って言ったら、自爆だよな」「自爆だよねっ」

 

 銀色の光が、見えないオーラとなって日本中に広がる。

 

 フレア団最終兵器は負荷に耐えられずーいや、ついに役目を終えたと自ら判断したのかー銀色の光を放出した瞬間に砕け散り、砂の山となって崩壊する。

 

 「おい、ぼっちゃん、じょっちゃん、なんだか知らないがお前も一生を拾ったのか!?」

 

 「ええ、まあ、はい、そうですね。」

 

 「だったら逃げろ!津波は第二波のほうが高いんだぞ!」

 

 「…はい。よく、知っております。俺は後から逃げるんで。」

 

 「そうか。じょっちゃんも元気でな!裏山で会おう!じゃっ!

 

 …ところでさっきの銀色の光、本当になんだったんだろうな?死んだと思ったけど、夢だったんかな?」

 

 「ごほっごほっ、集団幻覚とかじゃないの~?たまにはご都合主義も悪くないって~」

 

 ーしばらくして、第2波は、市街地をまるごとーある家の庭を埋め尽くしていた透明な砂山も含めてー洗い流していった。歴史的大災害にもかかわらず全国的にも死者は不思議なことにゼロ人で、翌日になると第1波通過時のことを誰も覚えておらず記録も消失しているという日本史上屈指のミステリー(怪事件)の中、ある唯一行方不明の兄妹のことはすぐに忘れ去られたという。

 

ー*-

 

 多摩に、風が吹いている。

 

 経年劣化と高齢化に悩んでいたニュータウンはポケモン共存化に伴って徐々に利便性を回復し再建され、その中央には浦和新内閣肝入りの政策「ポケモンリーグ」のための第一弾、緑の庭園に囲まれた憩いの地にして数多のトレーナーが一流への通過点として挑戦する登竜門、シンタマジムが、今日もかぐわしい草木の香りを街の風にのせていた。

 

 「はー…いいお天気よね…」

 

 もっとも、気持ちいい風、気持ちいい天気、気持ちいいフローラルでも、寝ている余裕などありはしないーポケモンとともに生きていくという時代の趨勢を大衆は敏感にかぎ分け、ポケモンリーグ法も時限立法では絶対に済まないと誰もが感づいている。

 

 「あら、また試合の申し込み?

 

 …って師匠!?旅は!?」

 

 「…師匠はやめてくださりませんか?ただ、旅の途中で、ふとジムバッジを集めてみようかと。」

 

 「師匠ならジャパンリーグ最速クリアも夢じゃないんじゃないの?チャンピオンと四天王の法案はまだポケモン省で審議中だけどさ、初代チャンピオンになっちゃったりして。」

 

 「いえ、わたくしにはあまり似合いませんわよ。

 

 それで、あれからどうですの?」

 

 「…師匠にはかなわないかもしれないけど、私も後輩だからね、ジムリーダーの名に恥じないように頑張ったりしたわけよ。」

 

 「あら…

 

 わたくし、そう簡単に、負けませんわよ?」

 

 -ポケモントレーナーの六条エリカが、しょうぶをいどんできた!

 




これにて本作「フラダリ転生で世界を救おうと思います」は完結となります!お付き合いありがとうございました!
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