道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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派閥大戦~第二章~+IF1

ベルはフレイヤ・ファミリアの本拠地まで戻ると、その門の前で鐘の音を鳴らす。

大鐘楼の音にはならない。

だが、4分間しっかりとチャージし、魔法を放つ。

 

「【ファイアボルト】ッ!!」

 

そのスキルは威力の乏しいただの速攻魔法を第一級冒険者の魔導士の放つ魔法と遜色のない火力に変貌させる。

土煙が晴れると、そこにはここ最近でかなり見慣れた光景が広がっている。

女神の寵愛を受けるための研鑽、という名の殺し合い。

だが、流石の彼らもこの状況下ではそれを取りやめ、ベルを睨む。

 

「ベル!お前、何の真似だ!?」

 

「知らんのか?それとも、殺し合いのし過ぎで頭がおかしくなったか?喧嘩を売ってきたクソバカに殴り込みに行く時は、盛大に門を破壊するのが礼儀だ」

 

またしても、ベルは変貌を遂げていた。

いつものような暖かさはない。

ただひたすらに冷徹さと抑えきれない激情を宿し、仲間を騙った彼らを冷たく睥睨する。

 

「仲間に対し、何を――――」

 

「貴様らの茶番は終わりだ。私はもう、迷わない」

 

ナイフを構え、堂々と前を向きながら、名を名乗る。

 

「ヘスティア・ファミリア団長、ベル・クラネル。いざ尋常に推して参る」

 

そして、箱庭から抜け出した最凶兎(クレイジー・ラビット)の反撃が始まる。

自身と同じレベル4の冒険者たちを相手に、ベルは一切負けない。

初日では運と瀕死経験の差でかろうじて勝っていたはずなのに、今ではその時の様子が見る影もない。

敵を利用し、全てを利用し、優位に立ち回り、一切の傷を負わない。

その瞳はいつもの暖かさをなくし、冷たい視線を携えフレイヤ・ファミリアを蹂躙する。

だが、異変を察知してやって来たヘグニたちの参戦により、ベルの快進は落ちてしまう。

それでもベルは止まらない。

快進撃が止まろうが、ベル自身は止まらない。

レベルが二つも上のヘグニと相対しても、止まらない。

一度は反撃すら出来ずに負けた相手にも関わらず、ベルは善戦し続ける。

 

「ベル…、なんで?」

 

「貴様らと過ごした日々も悪くはなかったが、それまでだ。私は私のいるべき場所に帰る」

 

「もう、居場所なんて……!」

 

「関係ない。たとえそうだとしても、私は帰って見せる」

 

「無理だ!そんなこと、絶対に出来ない――――!!」

 

「だろうな。いくら私でも、現状で貴様ら全員には勝てん。あのクソガキ一人にすら勝てんだろう」

 

「だったらなんで!?もう諦めた方がいいに決まってるのに!!」

 

「諦めんさ。私はあいつらの英雄なんでな。最後の最後まで、諦めるわけにはいかない」

 

決意を宿すベルを説得することは不可能。

それが嫌でも分からされたヘグニは魔法の詠唱を始める。

 

「【抜き放て、魔剣の王輝(おう)。代償の理性、供物の鮮血。宴終わるその時まで―殺戮せよ】」

 

「【それは遥か彼方の静穏の夢】」

 

ベルもそれに合わせ魔法の詠唱をする。

防御特化の魔法無効化魔法。

それはヘグニの人格改変魔法には無意味に思われた。

 

「【ダインスレイヴ】!」

 

「【静穏の園(トランクィリタス・エデン)】」

 

だが、ベルはそれをヘグニ自身に付与した。

ベルの魔法無効化は自身にも作用する。

だからこそ、威力の低い速攻魔法しか持たないベルは併用できずにいた。

今回はそれを逆手に取った。

人格改変魔法の効力は落ちる。

いつものような戦意高揚がない。

それはほんの一瞬の隙を生む。

 

その一瞬、ベルは白光を纏う右腕を振り抜き、ヘグニの顔面を捉える。

もし仮に、ヘグニが人格改変魔法を使っていなかったらベルはこのまま負けていた可能性が高い。

でも、ヘグニは使わざるを得なかった。

心優しい彼は、正気では友を斬れない。

 

「これで一人…、と言いたいところだが、あの程度では倒れてくれんか」

 

一秒にも満たない蓄積時間ではヘグニを倒すには至らない。

それに、状況は更に悪くなってくる。

 

「さて、どうするべきか…。」

 

現れたのはガリバー四兄弟、そして副団長アレン・フローメル。

ベル個人が一番厄介だと思ってるヘディンがいないのは幸いだが、状況が最悪なことに変わりはない。

どう動くべきか思案していたその時、空から星が降ってきた。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ——星屑の光を宿し敵を討て】」

 

妖精が歌うきれいな歌とともに、その星は舞い踊る。

そして、最後に名を歌い上げた瞬間、その星は一斉にアレンたちに襲いかかる。

 

「【ルミノス・ウィンド】ッ!!」

 

魔法が直撃し、砂埃が舞う。

そんな中歌が聞こえてきた方向を見ると、そこには見知った顔の妖精がいた。

何よりも頼もしい、ベルの英雄がそこにいる。

 

「お久しぶりですね、ベル。助けに来るのが遅くなってしまい、申し訳ありません」

 

「リュー……!」

 

「ん?……って、うっわッ。おっかない時のベルじゃないですか……。」

 

この半年で何度かあったベルの変貌。

見慣れはしたものの、馴染むことはない。

いつもは礼儀正しく優しい少年が突如暴言を吐き煽りまくるようになるのだ。

いくら彼女たちでも、慣れることはないだろう。

 

「まあそうなってもおかしくはないんですけど…、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫なわけあるか。煮えくり返った腸が今にも溢れ出そうだ。自分の不甲斐なさに吐き気すら覚える」

 

「そこで自分を責めるのがあなたらしいですねぇ…。ところで、これどういう状況でどういう作戦なんです?出来ることがなくなってカチコミに来たら、ベルが戦ってたのでそのまま参戦しちゃいましたけど、勝算は?」

 

「ない。ただ苛立ったから殴り込んでるだけだ」

 

「いつものベルからは考えられない言動ですねぇ」

 

ケラケラと笑いながら、リューは呆れ返る。

ベルは相変わらずの冷たい視線のままだが、ほんの少しだけ纏う空気が柔らかくなった気がする。

 

「さてと、これからどうしますか?一旦逃げます?」

 

「いや、このまま突っ込む。逃げても意味はない」

 

「その心は?」

 

「箱庭の崩壊は近い。今の状態が壊れれば、都市全土が混沌とし対話どころではなくなる。そうなる前に一度、あの女神に言いたいことがあるんでな」

 

絶対に壊れないと思える箱庭の終わりをベルは予見する。

どんな確証があってそんな事を言っているのかは分からないが、彼はハッキリと断言した。

ならば、リューはそれを信じるだけだ。

 

「そうですか…。なら、私がここで時間稼ぎをしておきますので、ベルはフレイヤの元に行ってください」

 

「大丈夫だろうな……?」

 

「ええ、ご心配なさらず。勝つことは出来ずとも、足止め程度ならいくらでも出来ますとも」

 

「………信じるぞ、私の英雄」

 

「ええ、信じてください。あなたの英雄を」

 

彼が自分たちを英雄と呼んでくれる限り、自分たちは何だって出来る。

どんな困難にだって、打ち克つことが出来る。

そう思えるのだから、不思議なものだ。

 

「ベルの方こそ大丈夫ですか?きっと、彼女との対話は辛いものになりますよ?」

 

「それこそ心配いらん。その程度の覚悟は出来てるし、今回の一件は私が引き起こしたようなものだ。私にはあれに向き合う義務がある」

 

「そう、ですか…。」

 

「心配するなと言っている」

 

心配無用だというベルだったが、リューはそれでも不安そうに彼を見つめる。

だが、ベルは薄っすらと笑いながら胸を張って言うのだ。

 

「私はお前達の英雄だぞ?この程度の困難に負けるものか」

 

その一言に、リューは呆気にとられたように目を見開く。

そして、堪えきれなくなったように腹を抱えて笑い始める。

 

「……プッ、アッハッハッハッハッハッ!失敬失敬。私としたことが、とんだ愚問でしたね」

 

「まったくだ」

 

「ですが…、ええ、そうですね。あなたなら、きっと大丈夫だ」

 

ひとしきり笑った後、リューは前を向いて武器を構える。

今の彼にならすべてを任せても大丈夫。

きっと、上手くやってくれる。

投げやりな思いなどではなく、確かな希望を持ってそう言える。

 

「では、いってらっしゃい、ベル」

 

「ああ、行ってくる」

 

そのやり取りを最後に、ベルは駆け出す。

フレイヤ・ファミリアの多くがベルを止めようと躍起になって動き始めるが、その尽くをリューは阻止する。

そして、見えなくなったベルの背中を見据えながら、どこか哀愁を漂わせながら小さく呟く。

 

「英雄…ですか。あなたが最後の最後まで、胸を張って言うことが出来なかったことを、ベルは言ってのけましたよ?」

 

ここにはいないもう一人の英雄に対し、リューは思いを馳せる。

そして息を一つ吐き、武器を構えながら詠唱を始める。

彼から受け継いだ、その証を発現させる。

 

「【使命は果たせず、道化を乞い願う。楽園の悲劇、復讐の騎士、無限の魔物。無力な自分を投げ捨て、踊り明かす道化の如く、今度こそ私は希望を歌う。喜劇をここに】―――【ジェスター・レコード】」

 

そして詠唱を終えると同時に、彼女の身体から炎と雷が湧き上がる。

偽りの大精霊の力。

それを身に宿し、彼女は駆け出す。

 

「ユピテル、ウルカヌス、並立起動」

 

自分よりも格上の冒険者を相手に、リューは啖呵を切る。

勝算は皆無。

それでも彼女は戦い続ける。

 

「そう簡単にはやられてあげませんので、覚悟しておいてくださいね?」

 

英雄の背中を守るため、彼女も駆け出した。

 


 

館の中を走るベルは、眼の前に現れた彼女によって止められる。

無視して走ることは出来る。

彼女にベルを止めるだけの力はない。

手に持っているのは『神様のナイフ』。

ベル以外が持てばナマクラ以下の斬れ味しかないナイフだ。

そもそも、どんな武器であろうと彼女ではベルを止めることなど出来ない。

だがそれでも、彼女を力付くで排除するやり方をベルは選ばなかった。

 

「何のようだ、小娘」

 

依然変わりなく態度は冷酷なまま。

ベルは厳しい口調で彼女を問いただす。

眼の前の彼女――以前自分を殺そうとしてきた侍女ヘルン。

彼女の理不尽な殺意に晒されても、ベルは揺るがない。

 

「どこまで、答えを得ていますか?」

 

「私がヘスティア・ファミリア団長であること。私はあいつらの英雄であるということ。私の愛した家族は確かに存在すること。他にも数え切れんほどあるが、全部言ってやろうか?」

 

苛立ちは隠さず。

真実も隠さず。

ベルは全てを語る。

 

「ならば、どこまで気付いていますか?」

 

しかし、ヘルンも一切同様せずに問いかけを続ける。

その質問の真意は、かつてのベルには計り知れない。

だが、あの人と同調した今のベルならば、分かる。

 

「すべて」

 

返ってきた短いその答えに、ヘルンは目を見開く。

 

「なんだ、その顔は?気付いてほしかったんじゃないのか?だからあのような無様を晒したんじゃないのか?」

 

「あなたは、どこまで気付いて……!?」

 

「全てだと言っている。フレイヤがあの町娘として私に接触してきたこと、時折別の誰かと入れ替わっていたこと。気付いていたとも。ただ、害がなさそうだから放置していただけだ」

 

フレイヤの変装も、自身の変神魔法も完璧だったはずだ。

神威をゼロにしている以上、気づかれるはずがない。

そんな思いがヘルンの脳内を駆け巡る。

 

気づいていなければ怒鳴り散らすつもりだった。

気付いていないだろうから、殺意を向けて気づかせるつもりだった。

でも、その前提が崩れたことで彼女の気勢は削がれてしまう。

 

「似たような真似をしていたクソジジイが傍にいたせいか、そのあたりの変化に敏感になっていてな。初めて会ったあの時、落ちた魔石を拾ったように見せかけて接触してきたあの時から、あの娘が人間でないことくらい知っていた」

 

返す言葉を失う彼女に、ベルは語り続ける。

 

「どこの神かまでは分からなかったが、それも今回の一件で痛いくらいに知れた。最初は何の思惑があっての行動かと警戒したが、何もなくて拍子抜けしたな。途中入れ替わっていたのはお前か?入れ替わりを初めて見た時も警戒したが、すぐに元に戻ったから警戒も解いた。ロールプレイをする変わり者の神と、それに付き合わされている便利な魔法を持つ眷属。その程度の認識だった」

 

「…………。」

 

「蓋を開けてみれば少し驚いたがな。まさか、都市最大派閥の主神があのような真似をしているとはな?変身魔法…いや、姿を借り受けているのか?少しカマを掛けたこともあったが、問題なく対応していたな。変身中の記憶と感情も共有しているのか?」

 

「…………。」

 

「町娘として私にフラれたから今度は神として行動し、それも失敗したから強硬に出たと言ったところだろう。愛を司りながら、愛に狂いでもしたか?自分を制御できなくなったか?自分でも止められなくなったか?演じていた全てを嘘だと思い込もうとして失敗したか?誰も傷つけたくないのに止められないか?」

 

「…………。」

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

ベルはシル/フレイヤ/ヘルンが抱く複雑な思いの全てを察し、言葉にする。

そして、その全てを馬鹿なものだと断ずる。

 

「狂いたくないのであれば狂わなければいい。傷つけたくないのであれば傷つけなければいい。そんな簡単なことも出来んような奴を、馬鹿と呼ばずに何と呼ぶ?」

 

「ッ、あなたが、それを言うか!!」

 

ベルの言葉に、ヘルンは激昂する。

激昂し、ナイフを構え襲いかかってくる。

その手をベルは掴み、抑え込む。

だが、それでも彼女の怒りまでは抑えられない。

 

「お前のせいであの方は――――私はッ!!何が一途だ、何が英雄だ!!憧憬の奴隷め!!英雄を名乗るなら色を好めばいい!!そうすればあの方も、少しは報われるのに!?」

 

「知るか、そんなこと。生憎だが、昔唆されるままに理由も分からずハーレムなどとほざいて義母にキツく調教された。恨むならそういう教育をした義母を恨め」

 

「黙れ!!黙れ黙れ黙れ黙れ!!人畜無害を装った淫獣!!無自覚の犯罪者!!遍く女の敵!!人類の汚物!!誠実さと鈍感を履き違えた化け物!!神の失敗があるとすればお前みたいな怪物を生み出したこと!!崇高なる女神まで誑し込んで、恥を知れ!!」

 

「神を崇高と言ってる時点で馬鹿だ。神など碌でもないのが大半だ。浮気覗きセクハラ三昧のクソジジイを最高神に選ぶアホ共の集まりだぞ?浮気したクソジジイにキレ散らかして周囲にとんでもない被害を与える女神だっている。お前のところの主神も碌でもない神の部類だろうが」

 

恨み辛み罵詈雑言の全てをぶつけるヘルン。

そんな彼女に負けじとベルも言い返す。

 

「思い違うなよ、小娘。女神が傷ついた?今も苦しんでいる?それを言っている時点で馬鹿だと気づけ。誰も傷つかない恋愛など存在しない。恋も、愛も、すべて互いを等しく傷つけ合う行為に他ならない。恋をした時点で傷つく覚悟を持てなかった方が悪い」

 

「そんな暴論があってたまるか!!そんな…、そんなふざけた話があってたまるか!!だったらあの方はどうなる!?あの方の思いはどうすればいい!?傷だけを抱えて一生生きていけと言うつもりか!?」

 

「それが恋だ、それが愛だ。恋とは対等でなくてはならず、愛とは公平なものでなくてはならない。傷つける覚悟を持って望まなくてはならないし、傷つけられる覚悟を持って挑まなくてはいけない。だからこそ、それらを乗り越えた先にある婚儀とは神聖で価値のあるものになる。私は傷つける覚悟も傷つけられる覚悟も持って、正面から誠実に向き合った」

 

それは婚儀を司るあの神に育てられたベルの持つポリシー。

誰かを愛した時点で傷つく覚悟も傷つける覚悟も持っていた。

だからこそ、ベルはアイズ達に何も言わなかった。

自分を見ておらず、他者を重ねているだけだと思っても、怒りをぶつけることもしなかった。

あの英雄たちを愛した以上、その覚悟はしっかりと持っていたのだから。

 

「私だけを傷つけるのであれば何も言わなかった。傷つけた以上、傷つけられる覚悟は持っていた。だが、貴様らは私の英雄たちまで傷つけた。そのことを許すつもりはない。傷つけたのに傷つきたくないなどと宣うことは、私が許さない」

 

その言葉は、きっと正しい。

ベルの言葉は、何よりも正しい。

だからこそ、その言葉は何よりも強い牙となる。

 

「だったら…、だったら、どうすればよかったの…?」

 

牙によって剥がされたその先には、ただか弱い少女がいるだけだった。

傷つくことも傷つけられることも良しとしない、心優しい少女がいるだけだった。

 

「自分でも分からなくなって、捨てたはずの思いに苦しみ続けるあの方は、どうやったら救われるの…?」

 

「…………。」

 

「こんな未来を知っていたら、女神と出会う前に私があなたを抱きしめていたのに………!女神は苦しむことはなかったのに……、私は私として、貴方に――――」

 

ヘルンの力が抜ける。

床に崩れ落ちる。

 

「僕に一言いえばよかったんですよ、“助けて”って」

 

力なくうずくまる彼女に、ベルは初めて優しい言葉を投げかける。

 

「全てを投げ出すにはまだ早い。諦めて変わりもしない過去を悔やむより、未来を変えるために声をかけてください。僕は助けを求める手を拒んだりしない。誰一人として溢したりしない。すべての人を救って見せる。僕は、そういう英雄を目指しています」

 

「貴方は、拒んだくせに……、あの方を、拒んだくせに!!」

 

「ええ、拒みました。傷つけました。だからこそ、僕が救わなくちゃいけないんです。これがどんなに醜いエゴだとしても、僕が果たすべき責任です。誰にも譲ったりしません」

 

ベルはヘルンの手を取り、前を向かせ見つめ合う。

確かな信念と覚悟を持って、彼女と向かい合う。

 

「僕は英雄になります。あなた達にとっての英雄に。あなた達を救う英雄に。すべての理不尽に打ち克つ最強の英雄に」

 

「もう、すでに、他の女の英雄になってるくせに――――!」

 

「ええ。僕はアイズさんたちの英雄です。でも、僕はあなた達の英雄にもなりたい」

 

「……っ!!」

 

「すべてを諦める前に、どうか呼んでほしい」

 

その思い。

その言葉。

魔女の吐息よりも甘い誘惑。

でも、その言葉は何も明るい希望の光だった。

 

「助けて…、ベルさん…!!お願い、あの方を止めて!!」

 

ヘルンの手からナイフがこぼれ落ちる。

そのナイフを受けとり、ベルは前を向いて歩いていく。

思いは託された。

ならば、後は全てを救うだけだ。

 

「はい、助けます。貴女を、あの人を。助けてみせます」

 

誓いはここに。

英雄譚が幕を開ける。

 

 

 

あとがき

 

ソード・オラトリア15巻を読んで色々堪えきれなくなったので衝動で書きました。

今回で17巻の終わりまで書くつもりだったんですが、長くなりそうなんでここで一旦切ります。

なんか、前回も同じようなこと言った気がします。

 

ヘルンさんやシルさん関係書くのムズいですね。

思いが複雑っていうか、何ていうか。

あれを書き上げた大森先生まじで凄いと思います。

解釈違いがあったらごめんなさい。

 

それとオラトリア、色々やばいことになりましたね。

本編20巻で分かってたとは言え、すんごいハラハラします。

これからどうなるのか、どうやって解決していくのか、楽しみですね。

 

次のページはIFルートです。

皆大好きお義母さんが登場します。

続きなんてものは存在しないので、悪しからず。

 

今回短くてごめんなさい。

 


 

IFルート

もし、フレイヤ・ファミリアが事態隠蔽のために偽装した手紙をアルフィアに送っていたら

 

自身が所有する家の一室。

食事などを行うリビングから安楽椅子に座り外を眺めるアルフィア。

いつもなら穏やかな顔をしているのだが、ここ最近は違った様相をしている。

 

いつも以上に眉間にシワを寄せ、不機嫌な様子を見せながら不貞腐れたように外を眺めている。

彼女の地雷がどこにあるのかなど誰にも分からないので、なぜ不機嫌になっているのかなど分かりようもないのだが、今回ばかりはその理由は明白だった。

 

「遅い」

 

紅茶を一口飲んでティーカップを置いた後、彼女は一言そう呟いた。

何度目になるか分からない彼女のその呟きを聞いて、厨房で作業をしていたザルドは呆れたようにため息を吐く。

 

「手紙を送ってもう二週間は経っているぞ?いつもならとっくの昔に返事が来ているはずなのに、一向に来る気配がない」

 

「その愚痴何回目だよ?聞き飽きたわ」

 

「黙れ。親が子の安否を気遣うのは当然だろうが」

 

「お前のそれはただの過干渉だ。ベルだって忙しんだろうさ。遠征行ったり、ミッションやったり、やることなんていくらでもあるだろ?それにちょっと手こずって、返事を書く余裕がないだけじゃないのか?」

 

返事がないことを心配するアルフィアとは対照的に、ザルドは呑気にそう言う。

だが、その反論はより一層アルフィアの機嫌を悪くさせる。

 

「それなら事前に忙しくなると伝えるはずだ。それがない時点でおかしい」

 

「だったら、過干渉な母親の相手をするのが嫌になっただけじゃないのか?」

 

「あ”?」

 

「ベルだって年頃なんだし、気になる女の一人や二人いるだろ。面倒見てくれる女冒険者が何人もいるって言ってたし、その中の誰かにお熱なんだろ」

 

「……………。」

 

 

「口うるさい母親より、面倒見のいい若い女の方が――――」

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

勢いのままに捲し立てようとしたザルドはアルフィアの魔法によって吹き飛ばされる。

厨房は全壊した。

これで何度目になるか分からないが、またしても家が壊れた。

 

「こっ、このバカ女、殺す気か―――っ!!」

 

「誰がバカ女だ。第一、お前らがこの程度で死ぬか」

 

アルフィアは瓦礫の中に沈むザルドの胸ぐらをつかんで無理やり起こすと、拳骨を作って更に殴ろうとする。

 

「お前、本当にそういうとこだからな!?そんなだからベルに愛想つかされるんだよ!!」

 

「ぶっ殺すぞ、お前。ベルが私を嫌うはずないだろうが」

 

「家壊しまくってるバイオレンスな母親のどこをどうしたら好きになるんだよ!?ベルじゃなかったら3日で逃げてるからな!?」

 

「よし、殺す」

 

「だから、そういう――――」

 

ただでさえ苛立っていたアルフィアは我慢の限界を迎え、ザルドを処すべく拳を掲げる。

だがその時玄関の方から「郵便で~す!」という声が聞こえてきた。

二人揃って玄関の方を見つめる。

 

「ほら、手紙が来たぞ!ベルからじゃないのか!?」

 

「………チッ、命拾いしたな」

 

アルフィアは数瞬迷った後、ザルドを投げ捨て玄関に向かう。

この町の住民はこの家が壊れることに慣れきってしまったので、爆音が起こっても関係なく玄関を叩く。

周囲を毒しまくっている二人をベルが見たら、また呆れ返るのは間違いないだろう。

 

「ハァ……、やっぱりお前の杞憂だったじゃねえか。心配し過ぎなんだよ」

 

「うるさい。お前らは息子を憂う母の心というものを――――」

 

「? どうかしたのか?」

 

配達員から手紙を受け取ったアルフィアは安楽椅子に戻り手紙を読む。

ザルドも、一安心したようにアルフィアに文句を言いながら瓦礫を片付け始める。

アルフィアの苦言を聞き流しながら作業をしていると、それが途中で途絶えた。

不審に思ってアルフィアの方を見てみると、先程以上に険しい顔をしながら手紙を睨みつけている。

 

「ゼウスとヘラを回収してオラリオに行く。準備しろ」

 

「はあ!?」

 

突如として立ち上がりそう言ったアルフィア。

彼女自身も少ない荷物をまとめ準備を始めている。

だが、ザルドとしては何がなんだかわからないままだ。

 

「ヘラと合流次第、ゼウスを探せ。あの女のことだ。すぐ近くにまで迫ること事態は出来ているはずだ」

 

「待て待て待て!!いきなり何なんだよ!?少しは説明しろ!!手紙に何が書いてあったんだよ!?」

 

「読め。すぐに分かるはずだ」

 

ザルドはアルフィアから受け取った手紙を見る。

だが、そこにはごく普通の文章しか書いていない。

 

『拝啓、お母さん、おじさん、おばあちゃん、おじいちゃんへ

手紙を返すのが遅くなってしまい、ごめんなさい。

僕は元気でやっていますので、心配しないでください。

これからまた忙しくなりそうなので、手紙の返事が遅れるかもしれないことを、あらかじめお詫びします。

ベル・クラネルより』

 

ベルにしては少し短い気もするが、筆跡も同じだしやはりおかしなところはなにもない。

 

「これのどこがおかしいんだ?」

 

「よく見ろ。筆跡こそ似せているが文体がおかしい。最初の文章、ベルなら“ごめんなさい”ではなく、“すいませんでした”と書く。それに、私達の体調を気遣う文がないのも不自然だ」

 

「言われてみりゃ、確かに……」

 

「書き出しが“拝啓”なのもだ。ベルは今までずっと“前略”と書き出していた。宛名にゼウスのことが書かれているのもおかしい。あのジジイが私達と一緒にいないことくらい、ベルは知っているはずだ」

 

「おいおいおい、マジかよ……」

 

「一番おかしいのは、私を“お母さん”と書いていることだ。ベルは私のことを書く時、メーテリアと区別するために必ず“お義母さん”と書く」

 

ここまでくれば、ザルドにももうこの手紙が本物には思えなかった。

 

「オラリオで一体何があったんだよ?」

 

「そこまでは分からん。だが、何かあったのは確かだ。お前もランクアップしているはずだから、ゼウスと合流次第ステイタスを更新して万全を期せ。下手をすれば、オラリオ全土と戦争になる」

 

最悪の事態を想定し、アルフィアは眉をひそめる。

何が起こっているのかは分からない。

ベルが無事なのかも分からない。

だがそれでも、アルフィアはベルの母親としていかなくてはいけない。

 

…………

………

……

 

ヘラのいる場所にまで赴き、合流するまでに半日。

ザルドが五感のすべてをフル活用し、ゼウスを見つけるのに更に半日。

神を抱えた状態で出せる二人の全速力を使っても、オラリオに到達するまでそこからさらに一日の時間を要した。

オラリオに到着しても、すんなり入ることは出来ない。

一度オラリオから追い出された身である以上、入ろうとすれば騒ぎになることは間違いないので、ウラノス用に作られた秘密通路を使って都市内に侵入した。

ローブを目深に被り、路地裏を通りながら極力目立たないように移動しながら都市内を見て回る四人。

そこは、何一つ異変がない普通の街だった。

 

「変わらんのう、ここは。街並みこそ多少変わったが、他は15年前と何も変わっとらん」

 

「あなた、分かっているのでしょう?ベルに起こった異変の原因が」

 

「まあ、そりゃあの」

 

無理矢理連れてこられたゼウスは最初こそ乗り気ではなかったものの、都市に一歩足を踏み入れた瞬間から雰囲気を一変させた。

いつものふざけた様子は欠片もなく、大神としての厳格さを携えながらあたりを見渡している。

今回の騒動は、ゼウスにとっても無視できないことなのだ。

 

「どういうことだ?原因が分かったのか?」

 

「焦らしてねえでさっさと教えろ。ベルに何があった?」

 

「簡単な話じゃよ。――――おい、そこのお前さん。ベル・クラネルとその所属先について教えてくれんか?」

 

「ん?【白兎の脚(ラビット・フット)】について?今一番の有望株だろ?フレイヤ・ファミリア所属の」

 

「な――――!?」

 

「どういうことだ!?」

 

ゼウスが路地裏を通りすがった一人の男にベルについて尋ねる。

すると、愛息子の所属先について、思いも寄らないファミリアの名が帰ってきた。

ベルは間違いなくヘスティア・ファミリア所属だ。

戦争遊戯もあったのだから間違いない。

だが、眼の前の男はベルをフレイヤ・ファミリア所属だと認識している。

 

「…………お前達、ベル・クラネルについて嗅ぎ回ってるのか?」

 

先程までのごく普通の対応から一転、スッと表情が抜け落ち虚ろな表情で襲いかかってくる男。

だが、それを予期していたゼウスによって速やかに絞め落とされた。

 

「仕方ないとは言え、悪いことをしたな。ザルド、此奴に見舞金代わりに金でも置いていってやってくれ」

 

「そんなどうでもいいことより、早く説明しろ!!何があった!?」

 

「フレイヤによる魅了だ」

 

動揺するザルドの問いに答えたのはヘラ。

かつてフレイヤを御していた彼女は、その力について詳しい。

だからこそ、都市に足を踏み入れた瞬間にすべてを察していたのだ。

 

「都市に漂っている甘ったるい気配。間違いなく魅了の気配だ」

 

「都市全土を魅了したとでも言うつもりか?」

 

「ああ、そうだ。まず間違いない」

 

「なぜそんなマネを!?」

 

「ベルに魅了が効かんかったんじゃろ。でないと、こんな壮大な真似する訳ないからの」

 

「神の魅了が効かないなど、普通はありえませんが……」

 

「そうであると受け入れろ。ベルが正気を失わないのであれば、周囲の全てを狂気にするしかあるまい」

 

美の女神のその権能に、流石のザルドとアルフィアも顔を歪める。

自分たちが標的にされているだけなら連中をぶちのめせば終わるが、今回はそうもいかない。

なにせ、都市全土が標的となっているのだから。

 

「美の女神の魅了の解除方法は?」

 

「あるにはある。だが、私達には無理だ。出来るとすればヘスティアだけだろう」

 

「ヘラ、分かっておるじゃろうが、いくらヘスティアが気がかりでも会いに行こうとは思うなよ?ヘスティアが魅了に掛かったとは考えられん以上、もう動いとるじゃろ。今から接触すればリスクが増すだけじゃ」

 

「分かっています」

 

日は暮れていく。

この都市の未来を指し示すかのように暗く沈んでいく。

だがそれでも沈むことのない希望の光は、確かに前を向いて歩いていく。

 

「行くぞ、お前ら。儂らの子を取り戻しに」

 

…………

………

……

 

とは言え、門をぶち破ってすぐさま殴り込むことなど出来ない。

フレイヤ・ファミリアの本拠にベルがいる保証もないし、どういう状態なのかも分からない。

故に、性分ではないがこっそりと侵入することにした。

現都市最大派閥とは言え、広い本拠のすべてを警備することなど不可能。

壁を登ってこっそりと忍び込めばバレることはない。

その後、館の中に侵入し捜索を開始するつもりだった。

 

だが、そんな真似をする必要はなくなった。

運良く、あるいは運悪く。

侵入した彼女たちはすぐにベルを見つけることが出来た。

 

そこにいたベルは、自分たちが知っている姿ではなかった。

洗礼でボロボロになっていることが問題ではない。

戦いは冒険者には避けては通れない道と言えるのだから。

問題は、彼の心だ。

 

自分以外の全てが狂気に侵され、自分の正気をも疑い始めた少年は限界だった。

何を信じればいいのか、何を疑えばいいのか、それすらも分からない彼は苦悩し続けている。

そんな愛息子を見て、アルフィアは駆け出した。

 

本来であればベルを避難させるだけのつもりだった。

フレイヤ・ファミリアと騒ぎを起こせばヘスティアの方にも影響があるかもしれないから。

一人になったタイミングでベルを救うつもりだった。

でも、堪えきれなかった。

苦しみ続ける息子を捨て置くなど、アルフィアには出来なかった。

そして、それはザルドも同じだ。

倒れそうになるベルに手を伸ばし、二人は彼を助け起こす。

二人を見て、初めてベルの瞳には生気が戻った気がした。

 

「お義母さん……?」

 

「一人でよく頑張ったな、ベル」

 

たった一人で足掻き続けた彼を称賛し、優しく抱きかかえる。

そして、突如として現れた二人に動揺するフレイヤ・ファミリアに向かって、冷たく告げる。

 

「【福音(しね)】」

 

鐘の音が鳴る。

周囲の全てが吹き飛ぶ。

だが、こんなもので彼女の怒りは晴れない。

むしろ、不快感が増していくばかりだ。

 

「ジジイ、止めるなよ」

 

「止めんわ、好きにせい」

 

ゼウスの一言を受けたザルドは、斬った。

巨大なフレイヤ・ファミリアの本拠を、一振りで真っ二つにした。

丘を斬り、城を斬り、巨人をも斬り捨てるその一撃を防ぐことなど、今のフレイヤ・ファミリアに出来はしない。

 

倒壊する館の中にフレイヤがいたような気がする。

どうせ近くにいた眷属が助けただろうから、まだ生きている。

まだ、死んでいない。

まだ、死ねていない。

これから味合う全てを考えれば、今の一撃で送還されていたほうがマシだっただろうに。

 

無様に倒れ伏すフレイヤ・ファミリアを見て、アルフィア達は失望する。

この程度なのか、と。

たった一撃で、このザマなのかと。

そんな連中ごときが、愛しい息子を苦しめているのかと、怒りを燃やす。

 

「この程度か、貴様らは。私達がいなくなった15年間なにをやっていた?」

 

「この程度で最強を名乗っていたのか?この程度で威張り散らしていたのか?」

 

ふざけるな。

怠惰で惰性で怠慢で、あまりにも弱い今の最強に、彼女たちは怒る。

 

「来い、クソガキ共」

 

「お前らには今一度、最強と言うものを教えてやる」

 

愛子を苦しめられた最強と最凶は、再び猛威をふるい始める。

 

 

 

 

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