道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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派閥大戦~第四章~

 

まえがき

 

情報整理兼説明

道化行進(アルゴノゥト)】効果一覧

レフィーヤ

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者の魔法効果の増幅。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

魔法効果の限界突破。

魔法効果の増幅。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・魔法効果統合可能。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

ティオナ

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者の『耐久』に高補正。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

『耐久』の限界突破。

『耐久』に高補正。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・血縁者と共闘時、攻撃力上昇。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

ティオネ

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者の『器用』に高補正。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

『器用』の限界突破。

『器用』に高補正。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・血縁者と共闘時、攻撃力上昇。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

ガレス

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者の『力』に高補正。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

『力』の限界突破。

『力』に高補正。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・地面上での戦闘時、攻撃力上昇。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

ベート

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者の『敏捷』に高補正。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

『敏捷』の限界突破。

『敏捷』に高補正。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・魔法スロット数に関係なく速攻魔法『ファイアボルト』を使用可能。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

ヴェルフ

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者のスキル効果増幅。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

スキル効果の限界突破。

スキル効果増幅。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・精霊に関わる攻撃時、効果増幅。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

リュー

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り発動。

『英雄運命』発現者の『魔力』に高補正。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

『魔力』の限界突破。

『魔力』に高補正。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・一定範囲内で消費された同恩恵を持つ者の魔素を精神力に変換し吸収する。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

アイズ

・自動発現

・英雄の讃鐘

・『英雄運命』発現者と共にある時に限り任意発動。

『英雄運命』発現者の攻撃力高域強化。

『英雄運命』発現者が『限界解除』した戦闘時に限り、自身の階位昇華。

攻撃力高域強化。

獅子の怪物種に対し攻撃力超域強化。

讃嘆の丈により効果向上。

・戦闘時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。

・共鳴相手を探知。隠蔽無効。

・同名スキル及び『英雄運命』発現者と共鳴。

 

その他の相違点

ヴェルフ・クロッゾ

所属:ヘスティア・ファミリア

レベル4

スキル

鍛炎創師(クロッゾ・ブラッドオリジン)

・魔剣作成可能。

・作成時における魔剣能力超強化。

・精霊憑依。

・経験値憑依。

 

リュー・リオン

所属:ヘスティア・ファミリア

レベル5

【ジェスター・レコード】

・喜劇継承。

詠唱式:【使命は果たせず、道化を乞い願う】

【楽園の悲劇、復讐の騎士、無限の魔物】

【無力な自分を投げ捨て、踊り明かす道化の如く、今度こそ私は希望を歌う】

【喜劇をここに】

 

だいたいこんな感じです。

ちなみに、アイズが道化行進で共鳴相手の探知能力を手にしたことを知った時、ティオナ・レフィーヤ・リューは内心羨ましいと思い、ティオネは自分もフィンの居場所がわかるスキルが欲しいと思い、ベート・ガレス・ヴェルフの三人はドン引きしてました。

 

それと、アイズさんはオッタルさんに師事していません。

フレイヤを警戒しているから自分から近づこうとは思わなかったし、原作アイズさんより精神的に安定して大人になってるので、異端児の件で迷いも生まれてません。

それ以前に、オッタルよりベートやティオネ、ガレスに師事した方がいいと考えているから、頼ろうとも思わない。

 


 

燃え盛る聖火により魅了が焼き尽くされ、混沌が広がる都市。

そして、その混沌は秩序を求めフレイヤ・ファミリアを襲う。

 

記憶を改竄され、尊厳を踏み躙られたことへの怒り。

自身の英雄を奪われ、思い出すらも消し去ったことへの怒り。

それらを宿したベルの英雄たちは、眼下で暴れている。

 

「前代未聞の魅了事件となると、戦火が広がるのも早いな」

 

下を眺めながら何処か他人事のように呟くベル。

こうなるのが当然だと思っているベルにとっては、本当に予定調和の出来事だったのだろう。

だが、フレイヤからしてみればそうではない。

自身の権能を打ち破ったヘスティアに、動揺を隠せない。

 

「結局、お前はヘスティアを軽視しすぎなんだ。一人では何も出来ないと思ったか?阿呆が。あれは私の主神(かみ)だぞ?いかなる逆境にあろうと、あれが屈することはない」

 

そこにあるのはヘスティアへの揺るぎない信頼。

彼女は愛する眷属の為になら、決して諦めることはない。

それを、ベルは痛いくらい知っている。

 

「ん?………――――ハァ」

 

ベルはなにかに気付いたのか、フレイヤから視線を外して一瞬だけ夜空を眺めると、ため息を吐いて大窓から離れる。

そして次の瞬間、大窓が割れた。

ガラスの破片が飛び散り宙を舞う中、ベルが見たのはガラスを破った螺旋のついたニードル。

それを放ったと思われる、タラリアを操り羽ばたくアスフィ。

彼女から無理矢理身を投げ出し、飛びかかってきたヘスティアの姿。

 

「ベルくぅうううううううううんっっ!!――――ヘブッし、ミナッせ、ぶあぁ!!」

 

「何をやってるんだ、お前は」

 

ベルに抱きつこうとと身を投げだしたヘスティア。

そんな彼女をベルは優しく受け止めるかと思えば、華麗に避けた。

その結果ヘスティアは地面を十回転し、やがて勢いを失ったのか止まった。

止まったヘスティアは勢いよく顔を上げ、呆れたような表情を向けるベルに憤慨する。

 

「なんで受け止めてくれないんだよ、ベルくん!!」

 

「お前が勝手に飛びついてきただけだろう?危ないから止めろ」

 

「って、ヤバい時のベルくんじゃん!!なんでこうなった!?フレイヤ、君のせいか!?」

 

「喧しい。少し静かにしろ」

 

アスフィは先程まで威厳ある佇まいで神威を開放していたヘスティアと、常日頃は温和な態度が鳴りを潜め、苛烈な態度を取るベルのギャップに戸惑い、顔を引き攣らせている。

頭上を抜けベルたちの背後に着地した後、眉をひそめ怪訝そうな表情でベルに尋ねる。

 

「ベル・クラネル、あなたどうしたんですか…?フレイヤ・ファミリアに染まりましたか?」

 

「深層意識の同調に引きずられて、表層人格が少し歪んでいるだけだ。本質は変わってないから安心しろ」

 

「……はぁ?」

 

ベルの言葉の意味が分からず困惑するアスフィは取り敢えず置いておく。

あまり時間は残っていないのだ。

 

「すぐに馬鹿な眷属共がここに乗り込んでくる。言うことがあるなら早くしろ」

 

「あ、そうだった!!やい、フレイヤ!ボ・ク・の、ベルくんは返してもらうからな!!君のじゃなくて、ボッ・クッ・のッ、ベルくんだからな!!相思相愛で誰よりも固い絆で結ばれた、ボクの!!ベルくんをね!!」

 

「……はぁ」

 

ここぞとばかりに煽りまくるヘスティアに呆れ果てるベルだったが、止める気にはなれない。

それをする権利がヘスティアにはあるし、ベルとしても自分はヘスティアの眷属であるという自負がある。

フレイヤに、それを見せつけなくてはならない。

 

「お前がこれからどのような行動に打って出るか、大体予想はつくが一応聞いてやる。どうするつもりだ、フレイヤ?大人しく降伏し、救界の為に今まで以上に尽力すると誓うなら、全てを不問に付してやるが?」

 

「……ああ、やっと分かったわ」

 

ベルが最後に言った言葉。

それによりフレイヤは妙な既視感の正体にようやく気がついた。

 

「今の貴方が何で不愉快なのか、ようやく分かった。口調も、姿も、何もかもが違うけど、そっくりなのよ。傲岸不遜で、横暴極まりないあの女神(おんな)に……!!」

 

苛立ちを隠しきれないフレイヤを、ベルは目を細め鼻で笑う。

 

「答えないのか?ならば、私が言ってやる。お前は私達に対し、戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛ける。そこが唯一、全員が納得する落とし所になるからな」

 

「いきなり何を言い出すんだ、君は!?それに、仮にそうだとしても、ボク達がそれを受ける義理なんて――――」

 

「ある。そうしないと、同じことが何度も繰り返される」

 

その言葉は正しい。

それだけの地位と権力を、今のフレイヤ・ファミリアは有している。

 

「ギルドのクソ豚はフレイヤ・ファミリアを切り捨てることは出来ない。絶対にフレイヤ・ファミリアを優遇する形で始末をつける」

 

「ええ、そうなるでしょうね。ギルドからは追って処罰がくだされる。でも、それだけよ。黒竜討伐も、ダンジョン攻略も、都市最大派閥(わたしたち)をなくして達成できない。それが、今まで私が築いてきた地位。それが私のファミリアの実力」

 

傲岸不遜で厚顔無恥。

すべての頂点に立つ女王は、誰にも止められない。

その地位から、引きずり降ろさない限り。

 

「戦争をしましょう、ヘスティア。私が勝てばベルを頂戴?貴女が勝てば、今言った私の全てをあげるわ」

 

「そんなもの――――」

 

「もちろん、一対一でとは言わない。貴方達はいくら徒党を組んでもいい。私は私のファミリアだけでそれを迎え撃ちましょう」

 

追い詰めているはずなのに、いつの間にか追い詰められていた。

その事実に、ヘスティアとアスフィは脂汗が滲むのを感じる。

 

だが、ベルだけは変わらず態度を崩さない。

むしろ、不愉快そうに眉間にシワを寄せ、フレイヤを睨みつけている。

 

「一つ気になっていたことがある。フレイヤ、お前どうやってウラノスを黙らせた?あの祈祷神を魅了することは都市どころか世界の崩壊に繋がりかねない以上、いくらお前でも手出しできなかった筈だ」

 

「簡単よ。交渉しただけ。黒竜討伐も、未到達領域の進出も、私が成すことを条件に黙らせた」

 

「…………。」

 

「救界は私以外に成し遂げることは出来ない。それは周知の事実よ。だからこそ、ウラノスも黙るしか出来なかった」

 

下界の命すべてを人質に取ったようなものだ。

たった一人の男のために、そこまでの行動を取るフレイヤに、ヘスティア達は恐ろしいものを感じざるを得ない。

ベルですら、頭を抱え肩を震わせる。

 

「クフフフフ……。」

 

「―――ベルくん?」

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハッ――――!!」

 

頭を上げたベルは、笑っていた。

肩を震わせ、腹の底から笑っていた。

愚かな女神を嘲笑っていた。

 

「何がおかしいの?」

 

「これが笑わずにいられるか!!馬鹿もここまで突き抜ければ愉快だな!!まさかここまで……!!アッハッハッハッハ!!」

 

そうしてベルは、笑い続ける。

フレイヤを嘲笑し続ける。

狂ったように笑い続ける。

 

「図に乗るなよ」

 

そして、嘲笑はピタリと止まり、底冷えするような低い声が響いた。

ベルの瞳には先程以上の怒りが滲んでいる。

何が彼をここまで激怒させたのか分からない。

何が彼をここまで変えたのかは分からない。

ただ、今の彼はひたすらに恐ろしかった。

 

「お前は余程私を愚弄するのが好きなようだ。黒竜を倒す?ダンジョンを攻略する?救界はお前以外に成し得ない?笑わせるな。この15年停滞し続けたお前らが今更何を言うかと思えば」

 

小馬鹿にするように見下しながら、ベルは続ける。

 

私達(さいきょう)に並んだとでも思ったか?自分の力で最強を名乗れていると勘違いしたか?勇者を気取るあのパルゥムも、お前らも、かつての私達(さいきょう)より遥かに弱いというのに」

 

その口ぶりはおかしなものだった。

まるで、ベル自身が最強の一員であるかのように語っている。

 

「思い上がるな、思い違うな。私達がいなくなったオラリオで、なし崩し的にそうなっただけのお前らが、最強になれたと思っているのか?馬鹿か、お前は。もしそうであるなら、暗黒期など存在しない。もしそうであるなら、エレボスは絶対悪になどなっていない。もしそうであるなら、都市の破壊者など現れていない。すべてはお前らが弱く矮小なままであるが故に引き起こされた出来事だ」

 

「貴方は、何を――――」

 

ベルは服を脱ぎ捨てる。

フレイヤ・ファミリアの制服である、栄光のファミリア・クロスを。

それは決別の証。

それはベルの覚悟の証。

脱ぎ捨てたその服を、ベルはフレイヤの前に叩きつける。

 

「ここに誓おう。私はお前を空の王座から引きずり降ろすと。お前が勝てば、私の貞操だろうが心だろうが好きにくれてやる」

 

最強と最凶の面影を携え、ベルは宣言する。

 

「戦争だ、フレイヤ。最強を騙る贋物よ。お前らに、そして世界に、今一度教えてやろう。真の最強とは、最強の英雄とは何たるかを」

 


 

フレイヤとの決別を終えたベルは、部屋に迫りくる足音を聞き、鬱陶しそうに髪をかきむしる。

やるべきことは終わった以上、ここに長居をする理由などどこにもない。

 

「撤収するぞ、ヘスティア。これ以上ここにいる意味はない」

 

「う、うん…。って、ちょっと待って。ボクを抱えて動くのは良いけど、君今どこに向かってる?」

 

ベルはヘスティアを小脇に抱えると、そのままヘスティア達が入ってきた窓の方に進んでいく。

当然、ベルが入ってきた扉は背後にあり、眼の前にはなにもない。

嫌な予感がしたヘスティアはそのことを尋ねるが、ベルは答えずにアスフィの方を向く。

 

「アンドロメダ、お前もだ。バカどもに捕まって面倒になる前に帰れ。それと、あの不愉快な主神に後で話があると伝えておけ」

 

「え、ええ。分かりました。ところであなた、どこに向かってるんですか?」

 

「螺旋階段の方からはバカどもが向かってきている。そちらから降りれば鉢合わせて面倒だ」

 

「ベルくん、君、まさか――――」

 

「空を飛んでここまで来たんだ。今更だろう?」

 

「え!?ちょ、まっ――――ベルくんの、バカぁあああああああああああああああああっ!!」

 

そして、ベルはそのまま何の躊躇いもなく飛び降りた。

一応フレイヤ・ファミリアで使っていた方のナイフを壁に突き刺して減速を図っているが、それでも抱えられているヘスティアの恐怖が和らぐことなどない。

とは言え、ベルにも少し事情がある。

こうでもしないと、ヘスティアと話す時間が取れそうになかったから。

本拠に帰ればリリルカ達が号泣して時間がなくなるし、戦争遊戯まで時間もない。

それに、彼女にはできる限り早く話し、誠実でありたいと思っているから。

 

「ぎゃぁあああああああああああああああっ!!」

 

「ヘスティア。そのままでいいから聞け」

 

「なに、なに!?今じゃなきゃダメ!?」

 

「どうせ下に降りたら他の連中が騒がしくなって話どころではない。いいから聞け」

 

ナイフをさらに深く刺して、落下速度を更に遅くする。

ベルの真剣な表情を見て深刻さを悟ったヘスティアは、落下速度が落ちて余裕が出来たこともあって話が出来るようになった。

 

「フレイヤとの戦争が終わるまでの間、おそらく私は元に戻れない」

 

「……どういうことだい?」

 

「お前らのよく知るベル・クラネルには戻れないという意味だ」

 

言葉の意味が分からず、ヘスティアは更に困惑する。

そんな彼女に、ベルは申し訳なさそうに眉をひそめる。

 

「今の私は外部存在と同調することで深層意識が変化し、それが表層人格にまで影響を与えている状態だ。本来なら激情時のみあれらと同調するのだが、今回は因縁と因果が絡みすぎた所為か戻る気配がない。それに、生半可な時間では激情が消えそうもないしな。突発的に一瞬だけ戻ることはあっても、それが継続することはないだろう」

 

「………それで?」

 

「迷惑をかける、という話だ。本人がどう思っているのかは知らんが、少なくとも私は今の自分の性格があまりよろしいものではないと思っている。お前達に不愉快な思いをさせることも、きっとあるだろう」

 

そこでベル達はようやく地面についた。

かなり乱暴な使い方をしたせいでナイフはボロボロになっており、使い物にはならない。

使えなくなったナイフを投げ捨てたベルは抱えていたヘスティアを降ろすと、彼女と視線を合わせることなく歩き出す。

彼女と合わせる顔がないベルは、ヘスティアを直視できない。

 

「それに、今の私は酷く身勝手だ。英雄として全てを救うために戦う私、ファミリアの団長として全てを守るために戦う私、遺された者として勝つために戦う私。それらが絡み合って、今の自分がどういう立ち位置にいるのかも分からなくなる。お前達全員に不誠実だとも思っている。だが――――」

 

「まったく、君は!!」

 

ヘスティアは前を歩くベルに飛びかかると、そのまま乱暴にベルの頭を撫でる。

 

「そんなこと気にしなくていいんだよ、別に。どれだけ表っ面が変わろうと、君は優しい君のままさ。強くて、優しくて、ほんの少し欲張りな皆の英雄さ。深く考える必要なんてない、君は君らしく戦えばいいんだよ」

 

ベルから飛び降りると、彼の少し前を歩き、振り返り、手を差し伸べる。

迷う子を親が導くように、笑顔で手を引く。

 

「救うために、守るために、勝つために。戦おう、ベルくん」

 

手を引かれたベルはヘスティアとともに歩き出す。

二人ならんで、家族のもとに帰るのだ。

ああ、でも、その前に。

もう一つだけ、伝えなくてはいけないことがあるのだった。

 

「もう一つだけいいか、ヘスティア」

 

「なんだい?」

 

「ありがとう、大好きだよ」

 

その言葉に一瞬だけキョトンとしたヘスティアは、すぐに破顔して満面の笑みを浮かべる。

愛する眷属からの言葉が、嬉しくて嬉しくてたまらないのだ。

 

「ボクもだよ、ベルくんっ!!」

 

ヘスティアの笑顔を見たベルも、穏やかな笑みを浮かべた。

その笑顔は在りし日の義母と重なる、とても美しいものだった。

 


 

壁の方から少し歩くと、そこは戦場と化していた。

風が舞い、炎雷が飛び、土塊がぶつかる戦場だった。

回復魔法で動けるようになったリューも再び戦っているし、レフィーヤも参戦している。

他の六人も、変わらず怒り狂いながら戦っている。

比較的冷静だったリューも、共鳴で当てられてしまったのか先程以上に怒っているように見える。

 

それ以外にも、駆けつけたリリ達は間を縫ってどうにか館内に侵入しようとしているし、エイナもベルの名を叫びながら探している。

タケミカヅチ、ミアハ・ファミリアの面々も似たような感じだ。

 

「う、うわぁ…。上通った時も思ったけど、近くで見るとより酷いな、これ」

 

阿鼻叫喚と言うべきか、一番ひどいのがリリだ。

操がどうとか叫びながら泣きじゃくっている。

仕方ないのは分かるし、こうなってしまったのは自分が不甲斐ないせいだというのも理解しているが、もう少しどうにかならないものかと思わずにはいられない。

面倒くさそうにため息を吐いたベルは、ゆっくりと歩いていく。

 

「!? ベルっ!!」

 

一番最初に気がついたのはアイズ。

ほぼストーキング専用としか思えない能力を持つ彼女は誰よりも早くベルの存在に気がついた。

というか、それどころじゃなくて気付かなかったが、魅了が焼かれ記憶の改竄が正された時点で【道化行進(アルゴノゥト)】は効力を取り戻しているようだ。

 

「まったく、お前らは…。」

 

呆れるように頭を抱えながら、ベルは歩いていく。

 

「ベル様――――」

 

「ヴェルフ!リュー!リリ!命!春姫!」

 

リリがベルに駆け寄ろうと声を上げる前に、ベルは家族の名を呼んだ。

その声に誰もが押し黙り、止まってしまう。

ベルが現れたことで、いつの間にか戦いまで止まっている。

静寂が場を包む中、ベルは厳しくも温かい声色で言うのだ。

 

「帰るぞ」

 

家に帰ろう、と。

アイズが空けた巨壁の穴を、瓦礫の上を通りながら抜けていく。

周囲が呆然とする中、ベルは一度だけ振り返る。

 

「帰るぞ」

 

そして、もう一度同じ言葉をかける。

二度目は呆れたような口調だった。

その言葉を受けてようやく動き出した彼の家族は駆け出す。

彼の後を追って、帰路を辿る。

 

……………

…………

………

……

 

「ベルしゃまぁ~~~~~!!」

 

「べぇルぅ~~~~~!!」

 

本拠に帰ったベルは、絶賛拘束中だった。

手足を縛られている訳でも、監禁されているわけでもない。

ただ、手も足も胴も、余すことなく誰かしらがしがみついて泣きじゃくっているのだ。

フレイヤのところでは空気が張り詰めていたこともあって堪えていたのだろうが、帰った途端すべてが切れて溢れ出してしまったようだ。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!リリはっ、リリはぁぁぁぁぁ~~~~~!!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ベぇルぅ~~!!」

 

「ごめんね、ベル君……!あんなこと言って……!私、アドバイザー失格だね…!」

 

「私を救ってくださった英雄様(あなた)に、恩を仇で返しました…。春姫は……一体何を償えばいいのでしょうか……」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ベル…!!私だけ貴方の味方でいないといけないのに、私は……!」

 

「ごめん、ごめん…!ベル……!」

 

右手をエイナが、左手を春姫が。

右足をレフィーヤが、左足をティオナが。

胴の前側をリリが、後ろ側をアイズが。

それぞれ占領して泣きじゃくっている。

涙か鼻水かは分からないがなんか湿ってきて気持ち悪いし、そもそも女に泣かれるのは気分が悪い。

ヴェルフ達に視線で助けを求めるが、彼らの表情も重く暗いものになっている。

 

「申し訳ありません、ベル殿……貴方を忘れるどころか、突き放して…!窮地を救えず、一体何が眷属(ファミリア)か……!土下座をもってしても許されない!」

「悪い、ベル。俺は、お前の親友なのに……!」

「ベル、儂は…俺は……何も出来んかった……!」

「俺もだ…。何も出来ずに当たり散らずばかりで…クソッ!これでは獣以下ではないか…!」

 

命もヴェルフもガレスもベートも。

全員が沈痛な面持ちで顔を歪めている。

助けを求めていることにも気付いていない。

 

「いっそ握り拳で殴ってほしい……」

「それ、自分の罪悪感を減らすための自己満足じゃん……」

「じゃ、じゃあどうすれば……!?」

「……切腹か」

「や、やめてよ桜花ぁ!べ、ベルさんっ、私がするから!」

「取り乱しすぎだろ、お前ら…」

「お、俺は別に悪いと思っちゃいねえぞ…!ただ、なんだ……お前が落ち込んでねえかって思って……」

 

ミアハ、タケミカヅチ・ファミリア、そこにアイシャやモルドを加えた面々が周囲を取り囲んでいる。

随分厳重な体勢だ、などと呆れるベル。

 

「お前ら、いい加減離れろ。というか、着替えさせろ」

 

「ベぇルぅううううううう~、うぅ~~~~~!!」

 

「最早何の唸り声だ、それは……」

 

同調が続いている今で良かったと思うベル。

元の自分のままだと、暫くの間は何も出来ずに右往左往するだけだろうから。

そして、ここにいるのが自分で良かったと思う。

もしあの義母がここにいれば、全員殴り倒されているのは間違いない。

魅了されたことが不甲斐ないとか、そういう理由ではなく、ただ単純に鬱陶しいというだけの理由で殴られる。

自分は流石にそこまでの理不尽さは持てないのだが、ぶっちゃけこの状況が続けばついうっかり手が出てしまいそうで怖い。

 

「おい、リュー。助けろ」

 

「無茶言わないでくださいよ、ベル。私だって、本当は泣きじゃくりたいのを我慢してるくらいなんですから」

 

妖精に助けを求めるが、すげなく断られる。

こうなったら自分でこの状況をどうにかするしかないのだが、その方法が思いつかない。

あの義母なら殴るぞ、とでも脅して大人しくさせるのだろうが、今の状況でそれを言うと殴ってくれと言われかねないし。

どうしたものかと思案し、頼りになる家族たちならどうするか思い起こす。

 

『殴って黙らせればいい』

今それをやったら余計面倒になります。

 

『元凶を血祭りに上げ、報復という報復を行うのだ。そうすればすべて丸く収まる』

貴女方は蛮族ですか?

 

『ベルよ。こういう時は寝室に連れ込み、慰め――――』

お前は一回シバかれろ。

 

『いいか、ベル。こういう時は取り敢えず自分の気持ちに嘘はつくな。適当なことを言って収めても後で面倒になるぞ』

やはり、頼りになるのは叔父だった。

 

ベルは大きなため息を吐いて、心の中の叔父の言葉に従うことにした。

心に嘘をつかず、思ったことを口にする。

 

「取り敢えず一つ言っておくが、俺はお前らを罰するつもりはないからな?自罰的になるのは構わんが、それに俺を付き合わせるな」

 

いつの間にか、あの叔父の口調になっていた。

同調の比重が、傾いた。

意識が切り替わるのを感じる。

 

一方で、アイズ達は初めて聞くベルの言葉遣いに少し驚き、真っ赤に腫らした目でベルを見つめる。

涙と鼻水で凄いことになっているが、今は言わないでおこう。

 

「俺はお前達に救われてきた。お前達の誰か一人でも欠けていれば、俺は今ここにいないかも知れない。だからこそ、一度や二度の裏切り…それも裏切りとも言えんような馬鹿げた不条理で、どうこう言うつもりはない」

 

呆れたような口調だった。

いや、実際に呆れているのだろう。

自分の思いを軽んじられているのだから。

この程度の出来事で、ベルの思いは揺るがない。

 

「お前達がいなければ俺は死んでいた。俺の英雄たちがいなければ俺は屈していた。誰が何と言おうと、それは変わらん。それを疑うな。俺の思いを疑うな。疑い続けるのであれば、それこそ俺に対する裏切りだと思え」

 

その言葉の重みに、誰もが黙り込む。

そして、次に放たれる言葉は、逆襲の狼煙だ。

 

「それでもお前達が気に病むというのなら、俺に力を貸せ。あの最強もどきを引きずり下ろすために、手を貸せ」

 

これから待ち受ける戦争はすでに周知の事実。

その言葉の意味を疑うことはない。

 

「勝てるのかい、坊や」

 

アイシャがベルに尋ねる。

それこそ馬鹿な質問だ。

 

「勝つ。15年も停滞し続けた間抜けに、負けてられるか」

 

その言葉に、誰もが震える。

 

「奴等が今の最強であるというのなら、俺はそのすべてを余すことなく喰らい、さらなる高みへと至る。今を越え、過去を超え、未来を超え、最後の大いなる獣をも討ち取る」

 

すべては過程だ。

彼らが成せなかった悲願を成すために。

大いなる獣を討ち取り最後の英雄になるための、過程に過ぎない。

こんなところで躓いてなどいられない。

 

「覚悟のある奴だけついてこい」

 

かつての最強達はその魂に宿り続けている。

そして、その最強を超えるためにも、ベルは止まるわけにはいかない。

 

ならば、ベルを英雄と呼ぶ彼らがそれについていかないわけがない。

今度こそ英雄を守るため、今度こそすべてを救うため。

道化の行進は、続いていく。

 


 

「とは言え、お前らは参加できんだろうがな」

 

決意表明をしたベルは、その後着替えてソファにゆったりと腰を掛ける。

口にした紅茶をゆっくりと机に置くと、ベルはつまらなそうにそう言った。

先程まで泣きついていた彼ら彼女らは周囲に座り、今後の作戦や行動などを話し合っている。

そんな中落とされたその発言に、驚きを隠せず目を丸くする。

 

「そのお前らとは、誰のことを言っている?」

 

「ロキ・ファミリアに所属するお前らだ。あと、ここにはいないがアーディも参加できん。アストレアの連中はどうなるか分からん」

 

ベルと比較的親交のある彼女たちはこの場にはいない。

都市の防衛や警備を担当する彼女たちは、今回の騒動で出た影響や今後出るであろう混乱を少しでも抑えるため、今も動き回っている。

一応、帰って来る前に顔を合わせたが、案の定そこで泣かれた。

 

『頼りにならないお姉さんでごめんね~~!!』

 

『酷いこと言っちゃってごめん~~!!』

 

先程のアイズ達と同じように、アリーゼとアーディに思いっきり泣きつかれた。

輝夜とライラは申し訳無さそうにしかめっ面をして謝ってきた。

別に気にしていないと告げても、ひっついて離れなかった。

最終的には痺れを切らした輝夜とライラに引きずられるように巡回に行った。

あれはあれで面倒だったと思う。

 

「参加できないって、そんなこと――――」

 

「あ~~~っ、ダメだ!!ロキたちを説得できそうにない!!」

 

レフィーヤがそんなことあり得ないと反論を口にしようとした瞬間、扉が開かれヘスティアが入ってきた。

苛立ち半分疲れたのが半分といった様子の彼女は、持っていた紙を投げ出すと、ベルの膝に転がり込むように横になる。

ヴェルフが落ちた紙を拾ってその文字を読むと、“ロキ・ファミリア参戦禁止”の文字が書かれていた。

周囲は顔を歪めているが、ベルは当たり前のことであるかのように平然としている。

 

「やはりそうなったか…。アストレア・ファミリアはどうなった?」

 

「アストレアは多分参戦するって。この前の騒乱でベルくんに助けられたのもあるし、フレイヤにギャフンと言わせるって息巻いてたよ。あの子、あれでアルテミス並みに血の気が多いからね」

 

「なら、幹部一人はどうにかなるな。レベル6並の戦力があと一つ分くらいは欲しいところだが、そこは作戦で補うしかないか…。勝負内容と日時は?」

 

「そこはまだ。色々荒れてる。女神の大半が反フレイヤ派になってるけど、他の色ボケ男神共がフレイヤの味方するんだよ。それに、ロキが参戦しないからって及び腰になって見送る連中も増えた」

 

「参加者が増えないのはこの際別に構わん。だが、出来るだけ早く始められるようにしてくれ。一週間……長くても二週間だ」

 

「いや、焦る気持ちも分かるけど、出来る限り引き伸ばして少しでも戦力増強した方がいいんじゃない?」

 

「ダメだ。それ以上時間をかければ盤面どころか盤そのものがひっくり返る」

 

「どういう意味?」

 

「私が勝てば、勝者の権利を主張してなんとか諌められる可能性も出てくるが、勝負前に出張ってこられたらどうしようもない。止める間もなくオラリオが崩壊するぞ」

 

「お、オラリオが崩壊……?」

 

「ヘルメスを無理矢理動かしてでも早めてくれ」

 

「わ、分かったよ…。」

 

ダラダラとしながら話をする二人に周囲はついていけていない。

一部の察しのいい面々は気がついているが、それ以外はロキが参戦しないことも納得がいっていない。

 

「待ってください、ベルさん!ロキ・ファミリアが参戦しないって、何で―――!?」

 

「少し考えれば分かることだ」

 

不愉快そうに眉をひそめながら、ベルは説明を始める。

 

「今回の戦争の終着は大きく分けて二つある。フレイヤ・ファミリアが勝利した場合と、敗北した場合。勝利すればフレイヤは私を手にすることが出来る。敗北すればフレイヤはすべてを失う。敗北した場合、その後の処遇がどうなるかは分からんがフレイヤ・ファミリアという組織がオラリオから消滅することだけは確実だ。そうなれば、一番困るのは誰だ?」

 

「……ギルド」

 

「そう。あのギルドのクソ豚は何が何でもフレイヤ・ファミリアに負けてほしくないんだろうな。負ければ悲願の成就が遠のくし、それ以前にロキとフレイヤが戦争になって死者が出ない保証もない。貴重な戦力を失いたくないギルドからしてみれば、ロキが参戦した時点で損失が出るのが確定している以上見過ごせない」

 

「だから、ロキ・ファミリアになんらかの圧力をかけて、参加できないようにしたってことかい?」

 

「圧力ではないだろう。そんなことをすれば、流石のロキでもギルドに反旗を翻す。ギルドに出来るのは、あくまで中立の域を出ない交渉だけだ」

 

その交渉に、おそらくロキ達は乗っかった。

どのような交渉がされたか、具体的な内容までは分からないが、その概要くらいは分かる。

 

「おそらく、私達が取ってきた深層の情報を得意げに持ち出して交渉したんだろう。寄生するしか能がないくせに何様のつもりだ、あのクソ豚が…!」

 

ギルド長に明確な怒りを見せるベル。

その姿はとても珍しいものだったが、それとは別にアイシャはとあることが引っかかった。

 

「私達…って言うけど、この前深層に落ちた時そんな珍しいもん見つけたのかい?」

 

「いえ?私とベルが見つけたのは、精々コロシアム下にあった未開拓領域くらいです。そんなものをロキ・ファミリアが欲しがるとは思えませんし、そもそも例の一件はギルドには報告してません。エイナ殿には話したと聞きましたが、上に報告しました?」

 

「し、してませんっ!」

 

深層落下の一件はギルドには隠蔽してるし、エイナもそれに協力した。

ギルドが知っているわけがない。

ならば、ベルの言う“私達”とは誰のことを指し、情報とは何のことなのか。

疑惑の視線がベルに集中する。

ベルは一瞬視線を彷徨わせ悩んだ後、答えた。

 

「また後で話す。今の私の状態にも関わってくることだしな」

 

話すと面倒になるのは目に見えているので、今は話さない。

戦争遊戯が始まる前には話すつもりだが、それも半分だけ。

祖父は兎も角、あの祖母はどこでどんな恨みを買っているか分かったもんじゃない。

戦争遊戯前にあの祖母との関係が露見すれば、最悪参加するファミリアがゼロになりかねない。

 

「話を戻すぞ。ロキ・ファミリアの戦力は端から期待出来ない以上、私達だけで倒す。戦力差がある以上、勝つためには知恵を絞る必要がある」

 

「まだ勝負内容も決まっていないのに――――?」

 

「概ね予想は出来る」

 

ヘスティアの疑問に、ベルは自信を持って答える。

 

「まず、代表者による決闘。一番理想なのは私と猪が一対一で決着をつけることだが、派閥連合を組む以上これはほぼあり得ない。だからといって、攻城戦のように直接戦闘が前提にある団体戦も戦力差が大き過ぎるためほぼあり得ない。ならば残るは直接戦闘と戦闘回避が両立できる戦いだ」

 

「具体的には?」

 

「陣取り、鬼ごっこ、あとはかくれんぼ。隠密行動を行えるような何かだ」

 

その言葉には説得力があった。

何より、ベルがそう言っているのだ。

それさえあれば、その言葉を信じるには十分だった。

 

「その予想が正しいとして、どう動きますか?」

 

「あの猪は私がどうにかする。それ以外を頼む」

 

「どうにかって、まさか一対一で倒すつもりですか!?相手は都市最強のレベル7ですよ!?」

 

「ああ、そうだな。都市最強程度だ」

 

オッタルを程度と言ってのけるベル。

その言葉は、流石にリリたちでも受け入れがたいものだった。

 

「ヘスティア、一応の確認だ。私はランクアップ出来るな?」

 

「う、うん…出来るよ。ランクアップするのが早すぎたから保留してたけど、条件自体は前回の更新で満たしてる」

 

「ならば大丈夫だ。勝てるだけの土壌はある」

 

ベルの瞳には、揺るぎない確信がある。

 

「レベル5になって、春姫の魔法を使ったとしてもレベル6」

 

「あのクソ猪は任意のタイミングで獣化出来る。そうなれば、レベル8相当のステイタスになるぞ。それでも一対一で勝てるのか?」

 

「レベル二つ分の差ですよ!?」

 

流石に無茶だという声が上がる。

だがそれでも、ベルは揺るがない。

 

「ただのレベル差程度なら、知恵と工夫と技術でひっくり返せる。それに、レベル5がレベル7に挑む程度の話だ。レベル7なのにレベル9の怪物に勝てる可能性がある才能の権化に比べれば、どうということはない」

 

「お前さん、それは――――」

 

「この7年間、ずっと追い続けてきた憧憬だ」

 

それはあの日見た理想の姿。

ずっと追いかけてきた大きな背中。

ここまで来て、ようやくその輪郭が見えてきたのだ。

 

「たった一人、無茶苦茶な方法で時間を無駄にしながらも、追い続けてきた。この都市に来て英雄(おまえ)たちから技術を学び、ステイタスを得て、ようやく理解できるようになってきた」

 

絵描きを例に挙げよう。

ずっと絵を描き続けても何の進歩もない画家がいる。

だが、その画家はある時を境に急激に絵がうまくなり始める。

なぜそのようなことが起こったのか。

それは、その絵描きがとある瞬間にコツを理解したから。

 

人間は毎日の特訓で緩やかに成長するのではない。

コツを掴めば急激に成長するのだ。

毎日の特訓は、コツを掴む機会を増やすための行為でしかない。

 

だからこそ、天才というものが存在する。

他者よりも早くコツに気づき、それを自分のものに出来る才禍の化身が存在するのだ。

 

ベルは天才ではない。

天才がたった一回で気づくことを、千回やってようやく気づく凡人だ。

だが、ベルには憧憬がある。

その憧憬を脳裏に焼き付け、何千回何万回と繰り返し見続けた。

 

「“資格(スキル)”は持っていた。“条件(ステイタス)”も、今回のランクアップで満たせるはずだ。あの一撃に、ようやく届く」

 

一度だけ見た、あの英雄の一撃。

それを見据え、ベルはヴェルフの方を向く。

 

「ヴェルフ、頼みがある」

 

「おう、何でも言ってくれ!」

 

「大剣を作ってくれ」

 

今まで使ってこなかった種類の武器に、目を丸くする。

確かに、ベルはその場その場で最適な武器として剣を使ったことが何度もある。

アステリオスと戦った時や、食人花と戦った時などがそうだ。

だが、今回ははじめから大剣を使おうとしている。

 

「いいのか?今までとは戦闘スタイルが変わるぞ?それに、言っちゃ何だがヘファイストス様が作ったナイフの方が武器としちゃ優れてる」

 

「すべて問題ない。今必要なのは剣だ。ナイフでアレは使えない」

 

「ベル…、お前さんまさか、あやつらの――――」

 

ガレスだけは何か察するものがあったようで、ベルに問いかける。

その問いは言葉になりきらなかったが、その意図はベルに伝わったようだ。

少し目を伏せ、肯定の意を示す。

 

「………余計なことを聞いてすまんかったな。もう何も言わん」

 

「感謝する……。」

 

今話すと進行に差し支えが出ると判断したガレスは口をつぐむ。

それを見届けたベルは、改めてヴェルフに向き合う。

 

「頼めるか、ヴェルフ」

 

「そういうことなら、任せろ!とは言え、時間も限られる。クロッゾの魔剣も大量に作る必要があるからな。どんなのがいい?」

 

「両刃の大剣。とにかく重く、丈夫なものだ。魔剣でなくていい」

 

「両刃…、俺が今使ってる煌月みたいな感じのやつか?」

 

「ああ、丁度そんなイメージだ」

 

ヴェルフが今使ってる魔剣・煌月はヴェルフが下層で作った壊れない魔剣。

それは、前世で彼が使っていた形状をしていた。

 

「そっか。なら、これ使え」

 

ベルの肯定を聞くと、ヴェルフは持っている煌月をベルに投げ渡す。

ベルの膝で寝ていたヘスティアは顔上に大剣が投げられて驚いていたが、ベルが何の問題もなく受け止めて事なきを得た。

一方、ベルはと言うと、投げ渡された大剣を受け取り、訝しげにヴェルフを見つめる。

 

「なんだ?不満か?強度は俺が作ってきた中で歴代トップクラス、威力は使用者に依存するとはいえ魔剣としても使える。我ながらいいもんだと思うぜ?」

 

「そういう問題ではない。これはお前の主武装だろう?自分はどうする?」

 

「俺のは前使ってたのがある。それを使えば問題ねえよ」

 

「だったら、私がそれを使えば――――」

 

「ダメだ。他の奴じゃお前のスキルに耐えられない」

 

苦言を呈すベルを、ヴェルフは黙らせる。

 

「お前の使用に耐えれる武器自体が限られてくる。それを作ろうとすれば、他の魔剣を作る時間が減ってくる。なら、こうするのが最適解だ」

 

「だが――――」

 

「舐めんな。俺にはウルスがいる。お前が心配するようなことにはならねえよ」

 

ヴェルフの言葉に同意するようにウルスが出てくる。

確かな思いを宿した二つの視線がベルを射抜く。

 

「俺が負けても最悪何とかなる可能性があるが、お前が負けりゃその時点で俺達は終わりだ。だったら、俺はお前にすべてを託す」

 

ここまでの覚悟を持ったヴェルフは、決して譲らない。

 

「………壊しても文句は言うなよ」

 

「言わねえよ。その時はその時だ。今度こそお前に相応しい武器を作ってみせるさ」

 

今度こそ、本当の意味でベルは煌月を受け取る。

今話せるすべては話した。

ならば、あとは動くだけだ。

俺達は、俺達として戦うのだ。

 

「お前達は一度、自分たちの本拠に帰れ。協力してくれるのは助かるが、それでもファミリアとしての方針もある。それを確かめた上で、協力してくれるなら改めて来てくれ」

 

「「「「おう!!」」」」

 

「アイシャ、帰ったらヘルメスに『俺達の団旗と拡声器を用意しておけ』と伝えろ」

 

「あん?拡声器?そんなもん、何に使うんだい?作戦大声で話す気かい?」

 

「あとで分かる。いいから頼んだぞ。正確に伝えろ。『私達の団旗ではなく、俺達の団旗だ』。そう言えばヘルメスには伝わる」

 

「何のことかは分かんないけど、分かったよ。確かに伝える」

 

「私達も準備を進めるぞ。ヴェルフは魔剣の作成に取り掛かってくれ。リリは今さっき言った想定で作戦を考えろ。命と春姫も出来る限りの特訓をしろ」

 

「「「は、はい!」」」

 

「リューは俺と一緒に戦いだ。ダンジョンに潜る暇がない以上、フレイヤ・ファミリアと似たような真似をせざるを得ん」

 

「ええ、分かりましたとも」

 

「カサンドラだけはファミリアの方針が分かったらすぐに戻ってきてくれ。治療を頼みたい」

 

「分かりましたっ!!」

 

ベルの指示に従い、各々が動き出す。

そして、そんな中一人のウェアウルフはベルに歩み寄る。

 

「ベル、一つ確認だ」

 

「なんだ?」

 

「お前は俺達が参戦することをどう思う?」

 

その言葉に、ベルは眉をひそめた。

 

「どうとも思わん。いてくれれば心強いが、おそらく参戦は無理だ。情報提供や特訓相手程度ならあのパルゥムも許すだろうから、戻ってきてくれると助かる」

 

「……つまり、許可さえ降りれば俺達が加わってもいいわけだな?」

 

「ああ。だが、ほぼ無理だろう。お前も分かっているだろうが、アイズ達が近づくこと自体フレイヤの嫉妬の対象だ。特訓程度なら兎も角、参戦するとなると神会(デナトゥス)に出張って勝負内容に口を出さないとも限らん。それを言われれば、お前らも動けないだろう?」

 

「……ああ、そうだな」

 

「お前らはどう思ってるんだ?今回の件、一番怒り心頭なのはお前らだろう?」

 

「当たり前だ。お前を奪われたんだぞ?」

 

「俺が愛されてるのは自覚してる。俺もお前達を愛している。だからこそ、俺はお前らが心配だ。鬱屈したものが溜まり続けてるんじゃないのか?」

 

その言葉に、ベートは考え込む。

フレイヤに対する怒りはもちろんある。

眼の前にいれば、今すぐにでも殺してやりたいくらいだ。

だが、それでも――――

 

「それでも、お前が戦っている。お前が勝つと言っている。ならば、俺達は俺達に出来る限りのことをして、それを信じるだけだ」

 

ベートは歩き出す。

成すべきことは決まった。

 

「待ってろ。必ず帰って来る。今度こそ、お前の隣で戦うために」

 

一人の戦士として、一人の男として、一人の英雄として。

彼は決意と覚悟と愛を持って、誓うのだ。

それを見たベルは、穏やかに笑う。

 

「ああ、待ってる」

 

彼もまた、自分の英雄を信じる。

 


 

あとがき

 

アイズさんたちの心境としては、今すぐにでもフレイヤぶっ殺したいけど、一番しんどい思いをしたベルが戦ってるから何とか堪えてるって感じです。

その上で、ロキたちを説得し、出来る限りの協力をしようとしています。

ただ、フレイヤはアイズたち(憧憬対象+異性)がベルに近づくのを毛嫌いしているので、参加できそうにない。

百歩譲ってティオナ、ティオネ、レフィーヤ、リューは仕方ないけど、アイズだけは絶対に近づけたくないと思ってます。

そのためには、多分色々とやる。

それがベート達も分かっているから、アイズ達は上手く動けないわけです。

というか、そもそも色々な柵もありますしね。

ティオネは流石にフィンを置いてファミリアを出ていくわけには行きませんし、ガレスも最古参としての責任があります。

おやおや?

条件から外れてる上に、許しさえ貰えればすぐにでも改宗しそうな狼がいますね。

というわけで、次回をお楽しみにしていただけたら幸いです。

今回、長くなりました。

前回の反応があんまり良くなかったんで、頑張ってみました。

少しでも喜んでいただけたら、それに勝る幸せはありません。

 

それと、補足説明。

 

ベルの性格が変わることについて、ヒロインズはどう思っているのか。

ヘスティア達は、あんまり何とも思ってない。

最初は驚いたけどベルにだって怒りたい時はあるし、そういうもんだと思ってる。

ただ、あの状態が続くと気軽に抱きついたり出来なくなるから、それを嫌がってるだけ。

アイズ達も似たような感じです。

 

ドSなベルも、これはこれでいいかも…なんて思ってる変態も、何人かいます。

剣姫とかロリ神とか妖精とか駄狐とか剣姫とか剣姫とか剣姫とか……。

具体的な名前は、ご想像にお任せします。

 

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