道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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英雄神話
英雄神話~末裔~


 

ヘルメスの口から伝えられた強制遠征任務。

討伐対象は不明。

どこにいるのかも不明。

あの後いくら問いただそうと、ヘルメスは答えることはなかった。

 

曰く、『伝承も何も残っていないから自分も分からない』とのこと。

 

ただ、一度実際に封印を目にしたことはあるらしく、その脅威度だけは保証する。

何ともいい加減で意味不明な話だ。

 

結局、その後宴を続けることなど出来るわけもなく解散。

各々が散っていき、準備を進めるために身体を休めることに。

 

そして翌日。

店を休む連絡を告げるため、ついでにいくつか武器を借り受けるため、ヘスティアはヘファイストスの店舗に訪れていた。

 

「ねえ、ヘスティア。あなた本気?」

 

「本気も本気だよ。ボクも遠征についていく」

 

「旅行を装ったアンタレスの時や、あなたを招致という形で動いていたオリンピアの時とは訳が違うのよ?今回は正真正銘、戦いが前提となる遠征任務よ。それに神がついていくなんて、正気じゃないわ」

 

ベルたちの遠征任務についていくと言って聞かないヘスティアに呆れ返るヘファイストス。

ヘスティアだって、自分がおかしな事を言っている自覚はある。

だがそれでも、どうしてもついていかなくてはいけないと、何かが訴えかけているのだ。

 

「分かってるよ…。でも、ボクは着いていく。今回の件、どう考えても胡散臭い。絶対に何か裏がある」

 

「裏も何も…。モンスターの討伐でしょう?それも多分、漆黒のモンスターの。ヘルメスが動いているから色々勘ぐりたくなる気持ちも分かるけど、考え過ぎよ」

 

「考えすぎならそれでいいんだ。でも、絶対に違う。ヘルメスはボク達に……いや、ベルくんやヴァレン何某くんたちに隠してることがある」

 

「……剣姫たちに?」

 

ベルとアイズの名が出てきたことで、ヘファイストスの表情が変わる。

彼女は、知っているのだ。

ベルとアイズ、そして他の7人が抱える運命を。

古代から続く、呪いのような因果を。

 

「――昨日からヴェルフくんやベートくん、エルフくん達の様子がおかしい。多分今も、例の8人で会って話をしてるはずだよ」

 

「具体的にはどうおかしいの?」

 

「考え込んだり、何か思い詰めるみたいに顔をしかめたり。多分、あの子達も訝しんでるんだよ。何でわざわざ自分たち8人と、ベルくんを一緒にして戦わせようとしてるのか」

 

たしかに、言われてみればおかしい。

あの関係は彼らが直接話しでもしない限り知ることは不可能だ。

だから、ヘルメスが彼女たちの真実を知っているとは考えにくい。

だがしかし、偶然とも思えない。

フレイヤ・ファミリアが名目上とは言え解散し、今現在ギルドが扱える都市最高戦力を集めたと言われればそこまでだが、どうしてもそれだけだとは思えない。

 

「……ベル・クラネルの様子はどうなの?」

 

「ベルくんもベルくんでちょっとね。心此処にあらずっていうか、ボーッとしてたよ」

 

「そう……」

 

ヴェルフからベルに真実を話したという話は聞いていない。

ヘスティアの様子からしても、話していないのはほぼ間違いない。

なら、ベルの様子がおかしいのはただ疲労が溜まっているのか、それとも偶然か。

あるいは、ベル自身が何かを感じ取ったのか。

 

「ヘルメスを疑ってるのはボクだけじゃなくて、ロキとアストレアもなんだ。あの二人もついていくつもりらしい」

 

「アストレアも?」

 

「うん」

 

自分と同じくアストレアも知っていることは、ヘファイストスも知っている。

彼女も同行するという言葉を聞き、ヘファイストスは少し目を伏せ考える。

アストレアも行くというのなら、おそらくヘスティアの勘が当たっていることは間違いない。

ヘルメスは、何かを隠している。

 

「ねえ、ヘファイストス」

 

「なに?」

 

「ヘファイストスは知ってるんだよね?」

 

その言葉の意味が分からないほど、彼女は愚鈍ではなかった。

ただ何と答えるか迷っていると、ヘスティアはいつになく真剣に話し始める。

 

「ヴェルフくんから聞いたんでしょ?」

 

「……私が無理矢理聞き出したのよ。あなただけ話してないとか、のけ者にしてるとか、そういうのじゃないから」

 

「大丈夫だよ。そのあたりの心配はしてない。ボクが意図的にその話題を避けてるって面もあるからね。流石にベルくんが聞いてない大事な秘密を、ボクが先に聞くわけにはいかないし」

 

「……ごめん」

 

「責めてないよ。ただのボクの意地なんだから。ただ、これだけは教えてくれないか?今回の件と、あの子達が抱えてる秘密。関係あると思う?」

 

その問いかけに、ヘファイストスは断言する。

 

「まず間違いなく、関係してるわ」

 

その断言を聞いて、ヘスティアも思い詰めて顔を歪ませる。

ベルから貰った髪飾りを撫で、彼らを慮り考え込む。

そんな彼女に、ヘファイストスは自分が今出来る最大限のアドバイスを送る。

 

「あの子どもたちとヘルメスの動向には目を光らせておきなさい、ヘスティア。どちらも何をしでかすか分からないわ」

 

「……うん、分かったよ」

 

「それともう一つ。ヘルメスがどこでその秘密を知ったのか、それを探れるようだったら探って」

 

「どこで知ったのか…?」

 

「あの子達の秘密は、あの子達しか知らないものよ。その出来事を知る関係者も観測者も当事者も、今では彼女たちしか残っていないわ。神々でも知らないはずだし、文献や伝承もすべて消えている。なのに、ヘルメスはどこでそれを知ったのか」

 

すべてを教えてもらったヘファイストスの口から出る、純粋な疑問。

それを聞いて、ヘスティアも神妙に頷く。

 

「気をつけなさい。今回のあの男は、いつも以上に油断ならないわよ」

 

ヘルメスは人を弄び破滅に導く悪神ではない。

人を良き方向に導こうとする善神だ。

だが、彼は良くも悪くも神としての思考が抜けきっていない。

多数を救うためなら、一個人がどれだけ苦しみ、死のうがいいと考えているフシがある。

ゼノスの一件である程度は改善されたかも知れないが、それでもその思考の全てが一新されるわけではない。

依然油断ならない神であることに変わりはない。

 

ヘファイストスのアドバイスを受け、ヘスティアは決意する。

愛するベルや家族達を守るため、ヘルメスの策略に立ち向かうことを。

彼の神意を探り、打開することを。

 

だが、彼女の決意はあっさりと打ち捨てられることになる。

そんな決意をするまでもなく、その全ては語られることになった。

他ならぬ、ヘルメスの口から。

 


 

翌日の朝。

オラリオの門の前に集まる3ファミリア達。

一応ここで一悶着があったことを言っておこう。

頭の固い一部のエルフがヴェルフに突っかかったのが原因だ。

エルフの森を焼いた一族がどうのこうと言っていたが、最終的にベルが『じゃあ僕の家族(ゼウス・ファミリア)の団長を殺したファミリアってことで、僕もあなた達を斬っていいですね?』と言ったことで収束した。

仲裁しようとしていたリューやレフィーヤの努力がバカバカしくなるほど、一瞬だった。

この時笑顔で言っていたのがめっちゃ怖かった。

和解したわけではなく、ただ作戦が終わるまでは互いに出来る限り距離を置こうという話になったようだ。

 

閑話休題。

 

出発の時間になった。

場所の詳細を知るヘルメス・ファミリアが先頭を努め、冒険者の足を持って出来る限りのスピードで行軍を開始する予定だ。

同行する四人の神はそれぞれの団長が運ぶことに。

出発直前の挨拶として、ヘルメスが声を張り上げる。

 

「よし、皆。集まったな?」

 

「集まりましたけど……」

 

「大丈夫、これ?」

 

各ファミリアの幹部を前に。

ヘルメスがそう尋ねるが、その返答は戸惑うようなベルとアリーゼの声だけ。

二人が見つめる先には、見るからに不機嫌な幹部と神々がいる。

 

「チッ!」

「行くならさっさとせんかい」

「早くしてください」

「早くして」

「お前が仕切んなや、ボケ」

「あまりフザケないでくれる?」

「また飛び蹴り喰らわせるよ?」

「神ヘルメス、早く出発することをオススメするよ」

 

舌打ちから始まり、罵詈雑言の連続。

フィンに至っては口元は笑っているのに目が笑っていない。

まあ、それでも返答するだけマシな方だろう。

大多数が不機嫌にヘルメスを睨むだけで、返事をしようとすらしないのだから。

 

流石に空気がヤバいと判断したのか、ヘルメスは慌てて咳払いをして誤魔化そうとする。

見ていてかなり無理がある。

やはりというべきか、全員が白い目を向けている。

 

「ゴ、ゴホンっ!じゃあ、早速だけど出発しようか」

 

「一応聞くけど、討伐対象の説明とかは?」

 

「残念ながら、俺の口からは出来ないね。説明できるほど俺も知らないんだよ」

 

そう嘯くヘルメスに全員が胡乱な視線を向けるが、意に介した様子はない。

だがそれでも説明する気がまったくないわけではないらしく、とある方向を指さしながら語り始める。

 

「この方角に真っ直ぐ行くと、神秘的な様相をした森がある。そこに例のモンスターはいる。俺達を運ぶことも考えて、君たちの脚で大体1日半ってところかな?」

 

日が落ちると休み、日中だけ移動したことを想定しての距離感だろう。

本気で移動すれば、おそらく丸一日あればつくくらい。

ヘルメスが指さした方角をベートはジッと見つめる。

不機嫌そうに目を細めながら、何かを確かめている。

 

「さてと、皆のご要望どおりさっさと出発しようか。時間がないのも本当だしね」

 

ヘルメスはそう言いながら自身の眷属たちに声をかけ、出発を促す。

そんな彼の背中を、アイズ達はやはり冷たい目で見つめていた。

 

……………

…………

………

……

 

その後の移動は何の問題もなかった。

迷宮外のモンスターなど、第一級冒険者たちの敵ではないのだから。

限界まで走り続け、途中にあった村を一つ素通りし、とある森の近くにまでたどり着いた。

流石に森の中で夜を過ごすのは危険だと判断され、入る直前の平原に拠点を構える。

ダンジョンに籠もることも日常の一部となっている冒険者なだけあって、そのあたりのことは完全に手慣れている。

交代で火の番をすることになり、それ以外の全員は眠りについた。

 

そして、全員が寝静まった夜。

ベルは寝苦しさを覚えて目が覚める。

ヘルメスが都市外の遠征を告げたあの夜から、ずっと眠れなかった。

疲れているはずなのに、夜に何度も目が覚めてしまう。

深層に落ちた直後のように神経が過敏になっているわけではない。

だが、何かがずっと引っかかり、気が落ち着かない。

 

あるいは、悪夢でも見ているのかも知れない。

目が覚めると、ずっと無力感に苛まれる。

誰かを傷つけたような気がする。

誰かを失ったような気がする。

誰かを守れなかったような気がする。

どうしようもない感覚を覚えながらも、その内容を全く覚えていない。

ただ胸に寂しさを覚えてしまうのは、何故だろうか?

感傷か、あるいは――――。

 

ここまで考えた後、すぐに思考を打ち切って立ち上がる。

なぜか隣で眠りこけているヘスティアを起こさないように、テントの入口まで歩いていく。

実感はまるで湧かないが、明日は戦いになる以上寝不足でいるわけにもいかない。

少し散歩でもして、気を紛らわせて無理矢理にでも寝ないと。

 

そう思いながら外に出て顔を上げると、目が合った。

 

目を合わせた相手は神ヘルメス。

この状況を作り出した張本人だ。

そんな彼と、目が合った。

 

焚き火が弾ける音がやけに響く。

時間が止まったような感覚さえ覚える。

ベルにとってそれだけ衝撃的だったのだ。

 

神が魔女のごとく磔にされ、火にあぶられている姿というのは。

 

「ン゙ーーっ!!ン゙っ、ン゙ン゙ーッ!!(ベルくん!!た、助けてッ!!)」

 

口には猿轡があり、喋れないようにされている。

その周囲には、自分の英雄たちが彼を取り囲んでいる。

それを見たベルは、思いっきり叫ぶのだ。

 

「何やってんですか――――ッ!!??」

 

先程までの陰鬱な気分など一気に吹き飛び、混乱と動揺が駆け巡る。

純粋に理解できなかった。

何故彼らがこんなことをしているのか。

……いや、まあ、動機くらい腐るほどあるので丸っ切り理解出来ない訳では無いが。

だからといって、この状況を見過ごすわけにはいかない。

 

「ちょ、ベートさんっ!?ヴェルフ!?何やってるの!?」

 

「ん?ベル?どうしたんだ?交代はまだだろう?」

 

「もしかして、うるさかったですか?」

 

「だから言ったでしょ、ベート。火が強すぎるって」

 

「弱かったら意味ないだろうが」

 

「やはり、爪を剥ぐ方がいいのではないか?」

 

「それだと今度は神ヘルメスのほうがうるさくなりますよ?喉を潰したら尋問もできなくなりますし」

 

「じゃから、直接問いただすべきだと言ったじゃろうが」

 

「ガレス殿、この神が正直に話すわけないじゃないですか。時間もないですし、やっぱり拷問が一番ですよ」

 

「そうじゃなくて!!なんでヘルメス様拷問してるんですか!?」

 

「大丈夫ですよ、ベル。ここは森が近いおかげで私の回復魔法の効果も高まりますし」

 

「そういう問題でもなくて!!ちょ、誰か!!神様、起きてください!神様――――!!」

 

ベルの悲鳴を聞いて、のそのそとヘスティアが出てくる。

眠たそうに瞼をこすりながら、寝ぼけた表情をしている。

 

「なんだい、ベルくん…。やっと寝付いたところだったのに―――って、何やってんだ君たちはっ!?」

 

「喧しいで、ドチビ…。静かにせえ――――って、何やってんねん!?」

 

眠気が一気に吹き飛んだのか、目を見開きながら叫ぶヘスティア。

そして、ヘスティアの叫び声を聞いて別のテントからロキも出てくる。

そしてそして、ロキの叫び声を聞いてフィンやリヴェリアも起き、怒号が飛んで次々と起きてくる。

 

叫び声や怒号が伝播していき、十分が経つ頃には全員が目を覚ました。

全員が起き、アイズ達は尋問が無理だと悟り解放されるヘルメスを黙って見つめている。

 

ヘルメスが助け出され、アイズ達はリヴェリアから説教を受けることに。

話題はやがて、彼女たちの犯行動機に移っていく。

 


 

「た、助かった…。」

 

間一髪のところで救出されたヘルメス。

肩で息をしながら無事を喜んでいる。

 

「なんでこんなことをしたんだ、お前らは!?」

 

一方のアイズたちはというと、全員リヴェリアの前に立たされ、説教を受けている。

とは言え、誰もまともに聞いてなどいない。

ベートなど耳の穴をほじりながらそっぽを向いている。

 

「分かっているのか!?そもそもこれから強大なモンスターとの戦闘が控えているというのに、なぜ今問題を起こす!?」

 

「……ハァ、うるさっ」

 

「聞こえているぞ、ベート!!」

 

「チッ!」

 

ベートがこぼす文句を耳聡く聞き取り、更に怒り狂うリヴェリア。

とは言え、彼女の指摘も真っ当なものなので、アイズ達も自身の行動を語り始める。

アイズたちだって、フザケてこんな真似をしたわけではないのだから。

 

「戦闘が控えているというが、そもそも本当にそうなのか?」

 

「……なに?」

 

「このクソ神の発言そのものがすべて怪しい。封印されているモンスターが居るという話すらも怪しい。だから、私達はそれを問いただそうとしただけだ」

 

「怪しいと思った根拠は?」

 

「この先、ここ以外に森などない」

 

ハッキリとした口調で断ずるベート。

彼の言葉を聞いて、リヴェリア達も視線が鋭くなる。

真偽を確かめようと、ベートを問いただす。

 

「どういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。どういう理屈か知らんが、この先は森を境に環境が一気に変わる。緑豊かな森から一転して、草一本生えない荒野が広がり続けるだけだ。出発の時はこの森が目的地かとも思っていたんだがな…。」

 

全員の鋭くなった視線が、そのままヘルメスに向けられる。

軽い手当を受け終わったヘルメスはその視線を感じ取り、意味深に笑う。

余裕を取り戻したのだろうが、その顔がムカつく。

一回殴りたいと思ってしまったのはヘスティアやロキだけではないはずだ。

 

「それだけではありません。神ヘルメス、何故私達とベルを一緒に連れてきたんですか?」

 

「そりゃもちろん、都市最高戦力を――――」

 

「そんなつまらない言い訳が通用するとでも?」

 

アイズの視線に射抜かれたヘルメスは、やがて観念したようにホールドアップする。

流石に黙り続けるのは諦めたようだ。

とは言え、全てを素直に話すほど、この神の性根は善良ではない。

 

「ま、仕方ないか。いずれ話さなくてはいけないことだしな」

 

「ヘルメス、真面目に答えて。事と次第によっては――――」

 

「分かってるさ。そんなに睨まないでくれよ、アストレア。取り敢えず最初に弁明させてもらうが、ちゃんと古代のモンスターは存在するよ。森だってある」

 

ヘルメスはそう弁明するが、皆の視線は依然鋭いまま。

だが、ヘルメスはそれでも臆することなく話し続ける。

 

「だが、そうだね。たしかに、昔はベート君の言う通りの環境だったんだろう。丁度、三千年(■■■)くらい前までは」

 

その言葉の意味を、アイズ達はすぐに察した。

ヴェルフがヘルメスの胸ぐらを掴み上げ、至近距離で睨みつける。

突然の行動に、周囲の反応も一歩遅れてしまった。

 

「やっぱりか…。どこで知りやがった?」

 

「おいおい、突然何だい、ヴェルフ君?オレにそういう趣味はないぜ?」

 

「戯れんじゃねえよ。答えろ」

 

「はてさて、何のことやら?」

 

「テメェ――――!!」

 

とぼけ続けるヘルメスに痺れを切らしたヴェルフは拳を振り上げる。

だが、その拳を掴み、彼の行動を止めたのは他ならぬアイズだった。

彼女の行動にヴェルフは怒りをつのらせ、睨みつける。

 

「やめなさい、クロッゾ」

 

「……何の真似だよ?」

 

「やめなさいと言っているんです。冷静になりなさい」

 

「俺ァ死ぬほど冷静だよ。それに、今の俺達にアンタの命令を聞く道理はねえ。今までアンタの命令を聞いてたのは、あいつへの義理とかつての名残だ。この状況で、それに意味があると思ってんのか?」

 

「その神を許せと言っているわけではありません。今は、その拳をおろしなさい。その神を処すのはすべてを聞き出した後です。でないと、第二第三の真実を知る者が出てきます」

 

「…………。」

 

「もう一度言います。やめなさい、クロッゾ」

 

「………………………チッ」

 

アイズの制止を受けて止まったヴェルフだが、その怒りは変わらずそこにあり、ヘルメスを睨み続けている。

周囲はわけもわからず混乱しているが、アーディを除くアストレア・ファミリアの面々だけは状況を正しく理解できていた。

そして、この状況の不味さも分かっていた。

ヘルメスにも何かしらの理由があるのだろうが、その言動全てがアイズ達の神経を逆なでしている。

それを本人も分かっているはずなのに、それを態度に出さない。

ただ悠然と、乱れた身だしなみを整えている。

 

「おい、クソ神。どういうことだ?まさかあの封印が今も残っているとでも言うつもりか?三千年も前だぞ?」

 

「そのまさかさ。英雄の執念とも言うべきか、三千年の時を経ても尚封印はその力を発揮し続けた。だが、それももう限界だ」

 

「そして、あの獣を今度こそ私達に…ベルに殺させるつもりか?」

 

その問いかけに、ヘルメスは意味深な笑みを浮かべる。

だが、それを我慢し続けるほど、ベートは優しくない。

 

「言っておくが、私はクロッゾほど物わかりが良くない。今度は制止を振り切って、お前を送還させるぞ」

 

「おっと、怖い怖い。なら、少し真面目に話すとしよう」

 

居住まいを正したヘルメスは語り始める。

 

「オレが君たちの言う真実を知ったのは、数ヶ月前だ。いつものように巡検(フィールドワーク)をしていた時のことだ。大陸中央部の遺跡で、とある物を見つけた」

 

そう言うと、ヘルメスは懐から一冊の古ぼけた本を取り出す。

表紙すらもボロボロになったそれを、唯一ティオナだけが見覚えがあった。

 

「あなた、それ―――!」

 

「そう!この本こそ、あの名高き詩人、【語り部】のオルナが残した手記!これにはとある英雄が奮起し、そして儚い生涯を終えるまでの全てが記されている」

 

「「か、【語り部】のオルナの!?」」

 

思わぬビッグネームに、英雄譚を愛するアーディと春姫は手を取り合い小躍りする。

目を輝かせ、その内容を知りたいと言わんばかりに息を荒げている。

 

「へ、へへ、ヘルメス様?そ、それ本物なんですか!?」

 

「本物だとしたら歴史的大発見ですよ!?」

 

「ああ、もちろん本物だとも。内容から見ても、間違いない」

 

ヘルメスの言葉とともにテンションを上げていく二人と反比例するように、アイズ達はどんどん表情をなくしていく。

事情を知っているアストレアからしてみれば気が気でないくらいに殺気立っている。

中でも一番ひどいのは、ティオナだった。

苦虫を噛み潰したような表情をしながら、ヘルメスを睨み続けている。

 

「……くだらない本を読んだ程度で知った気になってんじゃないわよ」

 

誰にも聞かれないよう小さく呟かれたその言葉。

彼女たちの方に注視していたアストレアの耳には聞こえてきた。

 

「詳細は話せないが、この本の内容をザックリとだけ話すと【語り部】自身が葬った歴史の真実だ。この手記に登場する英雄の思いを慮っての行動らしい。封印のことも、その中に含まれていた」

 

「そ、その英雄って!?」

 

「う~ん、そうだな…。」

 

興奮して問いただしてくるアーディを楽しそうにはぐらかすヘルメス。

アイズ達の表情はどんどん失われていき、貧乏ゆすりや舌打ちまで始める始末だ。

 

「やっぱりオレの口からは語れないね。話すのにもっと適任がいるし」

 

「………私達が話すとでも?」

 

「思ってないさ。適任ってのは君たちじゃない。これから行く先にいる人物のことさ」

 

「………………は?」

 

ヘルメスの言葉の意味が分からずに間の抜けた声を上げる。

だが、その意味が分かってきたのか、先程までとは違った意味で表情をなくしていく。

焦燥し、その事実を受け入れられずに、体が震えてくる。

 

「本の記述を辿って、ようやく会うことが出来た。その時に封印も見たんだ。オレが会ったその人物――その一族は封印の力を流用し、その雷の権能を持ってして、ありとあらゆる脅威から封印を守り続けて――――」

 

説明を続けるヘルメスの胸ぐらを、ベートは掴み上げる。

身体の震えをぶつけるように、彼に怒りを向ける。

だが、その瞳には隠しきれない動揺があった。

ヘルメスが話す、恐ろしい現実を受け入れたくなかったから。

 

「巫山戯るなよ…!」

 

「フザケてなんか――――」

 

「そんなことがあってたまるか!!」

 

ヘルメスの言葉を遮るように、ベートは叫ぶ。

 

「あいつは命を賭してあの獅子を封じたんだぞ!?文字通り、自分のすべてを擲ったんだ!!なのに…、そんなことがあっていいはずないだろう!?」

 

「…………。」

 

「なにかの、何かの間違いだ!!」

 

「間違いなんかじゃ――――」

 

「黙れっ!!間違いだ、間違いなんだよ!!」

 

震える手から力が抜ける。

もう立ち続けることすら出来ずに、蹲ってしまう。

 

「間違いだって、言ってくれ……!」

 

「ベート君…。」

 

「人類の未来のために自身を擲ったあいつが、よりによって自分の子供の未来を犠牲にしてるなんて、そんなこと………。」

 

認めたくなかった。

自身が愛した英雄の行動が、彼の子々孫々の未来に犠牲を強いるものだったなんて。

認められるわけがなかった。

だが、現実は非情だ。

どれだけ受け入れがたく、認め難い現実だとしても、平等に襲いかかってくるのだから。

 

「もし、そこの旅の方々」

 

声が聞こえてきた。

誰かを思い出させるような声色だった。

全く似ていないのに、なぜかそう思えてしまった。

 

「すぐにこの場から立ち去りなさい。もうすぐここに、大きな災厄が訪れます。命が惜しくば、来た道を引き返しなさい」

 

誰かを思いやるその言葉が、とても似ていた。

 

「ちょいちょいちょい。待ってくれ。オレだよ、オレ」

 

「……誰でしたっけ?」

 

「それ嘘だよな!?覚えてるくせにやめてくれよ!?」

 

「冗談です。ただ、いきなり訪れて無神経に嗅ぎ回ったのが鬱陶しかったので、存在を抹消したいと思ってるだけです」

 

「余計にひどくないか!?」

 

彼にはない毒のある冗句だ。

だが、どんな状況でもユーモアを忘れないその在り方が似ている。

 

「ところで、なんで君はここにいるんだい?」

 

「ここに来る途中に村があったでしょう?そこに逃げるよう言ってきただけです。ある程度の交流があったので事情は分かってくれてると思いますが、どれだけの効果があるか…」

 

大局の未来を見据えるその考え方が似ている。

 

「で?何をやってるんですか?」

 

「手紙を受け取って、例のモンスターを討伐するためにやって来たんだよ」

 

「うわぁ、本当に来たんだ…。」

 

「君が手紙を出したんだろ!?」

 

「いやぁ、殆どダメ元でしたし、当てにしてませんでしたから。とは言え――――」

 

声の主、その少女は一度だけヘルメスから目線をそらし、ベルを見つめる。

 

「約定は果たされたようで、良かったです」

 

その言葉の意味はわからなかった。

大事なことを話そうとしないところまで一緒なのか。

 

「神ヘルメス、彼女は?」

 

「ああ、自己紹介がまだでしたね」

 

フィンは突然現れた少女に疑問を抱き、ヘルメスに尋ねる。

その問いかけを受けて、少女はスカートの端を持ち上げカーテシーを決める。

深々と頭を下げながら、彼女は名乗りを上げる。

 

「私は113代目【イルコス(■■■■)】。この先にある“雷霆の森”にて、封印と墓標の管理をせし“墓守”にして――――」

 

彼女は頭を上げ、真っ直ぐと全員を見つめる。

アイズ達は初めて、彼女の顔を直視する。

そこには色素の薄い雷鳴色をした髪。

そして、ベルによく似た赤い瞳があった。

 

「封印の主たる【始まりの英雄】……アルゴノゥトの末裔にございます」

 

彼女は笑わない。

鉄仮面のごとく、表情を一切動かさない。

そこだけは、あの男と似ていない。

 

「以後、よしなに」

 

だが、最後の最後で見せたその微笑みだけは。

それだけは、だめだ。

受け入れたくない現実が真実だと理解できてしまう。

ああ、まったくもって本当に……。

 

救いようがない、悲劇だ。

 

 


 

あとがき

 

ようやく始められました!

もう楽しくて楽しくて仕方ないです!

それと、一応の補足説明と前回の質問にあったことです。

 

Q.「ベルくんが言ってた天界で匿ってくれる心当たりって誰?」

A.七年前送還されたどこぞの絶対悪。勧誘の時、義母の目を盗んで話しており、それ以降ちょくちょくベルくんに会いに行ってました。

 

補足説明:アルテミス様とオリンピアでの一件について。

両方ともほぼ原作通りに終わりました。アルテミス様と再会するのは一万年後ですし、大英雄はもう亡くなってます。

ただ、最後の最後で約束が果たされたことに満足して逝きました。

 

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