道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

28 / 56
道化と愉快な仲間たち

 

彼が眼の前で微笑んでいる現実が、信じられなかった。

夢だと思った。

死ぬ前に見る都合の良い幻覚だと思った。

だが、頬を撫でる生ぬるい風がそれを否定する。

 

「……あれが、アルゴノゥト?」

 

「かつて英雄時代を築き、人類を希望の未来へと導いてみせた………」

 

「リューたちの英雄――!!」

 

アリーゼ達は、感嘆と驚愕が入り交じる声で呟く。

その声でようやく我に返ることが出来たアイズ達。

そして、これが夢でないことも受け入れることが出来た。

 

「アル…?」

 

「兄、さん……?もしかして、記憶が!?」

 

期待の入り交じる声で問いかけるレフィーヤだったが、その答えは否。

優しさと共に悲哀を帯びた彼の瞳を見て、その考えがただの願望に過ぎないことを悟る。

 

「ちょ、どういうこと!?なんでベルくんがアルゴノゥト!?兄さんって何!?」

 

「それに、なぜ君が雷霆の剣を――――!?」

 

「あぁ…、すまないね。君たちの疑問も当然なんだが、ちょっと待ってくれ。その前に、もう少しだけあれの相手をしなくてはいけないようだ」

 

『―――グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

アイズたちの方を向いて話をしていたアルゴノゥトの背後に、獅子が迫る。

今までにないほど感情の篭ったその鳴き声に、思わず見が竦んでしまうのを感じる。

 

「そんなに私が憎いのかい?君だって私を殺したんだ、お相子だろうに」

 

獅子の爪や牙がアルゴノゥトに襲いかかる。

巨体に似合わず俊敏なその攻撃は、レベル4以下では反応も難しいほど。

だが、雷霆をまとった彼には通じない。

それらをすべて躱し、剣の鋒を獅子へと向ける。

 

「やっぱり、ただの雷じゃ通じないみたいだね…。どうする、少年?」

「いつも通りの方法で火力を底上げする。【ファイアボルト】――――あれ?」

 

ヘスティア・ナイフと同じように自身の魔法を雷霆の剣に撃ち込み、それをさらにスキルで強化しようとする。

レベル4に至ってからずっと使い続けてきた技だ。

だから確信を持って使えると思ったのだが、失敗した。

放った魔法は剣に宿ることなく弾かれた。

 

「ちょ、危なっ!おい、少年!どうしたんだ!?」

「ごめん、魔法(ファイアボルト)が弾かれた!」

「いっつもやってるあれか!?原因は!?」

「多分撃ち込んだ先が雷霆の剣だから!君の時と違って、今のこれは僕の魔法になってる!」

「つまりどういうこと!?」

「魔法として完成されてる雷霆の剣を、魔法を使って更に強化することは出来ない!!」

 

一人二役で独り言でも喋るようにしながら、アルゴノゥトは戦い続ける。

二人で先程の強化された一撃が出来ない要因を分析しながらも、攻撃全てを避け続けている。

本来のベルやアルゴノゥトではそんな器用な真似は出来ないが、今は意識が二人分ある。

それぞれの役割を決めて動くことで、今の彼はより優れた行動が可能となっているのだ。

 

「どうする、アルゴノゥト?大鐘楼はまだ使えないよ!」

「発想を逆転させよう。完成されているから強化できないというのなら、あえて未完成にすればいい」

「どういうこと!?」

「雷霆の剣“を”付与するんだ!!」

 

大きく振りかぶった獅子の一撃。

それを回避し、大きく空に舞い上がったアルゴノゥト。

 

「レオンという御仁は魔法で武器を模っていた。それと同じように、神様の刃(ヘスティア・ナイフ)に雷霆の剣を付与して剣を作るんだ!!」

「出来るの!?」

「出来る!今のこれは私達の魔法だ!そして、君は一度それを成している!オリオンの矢を思い出せ!」

 

ベルにとっては呪わしい過去。

だが、それも全てベルの経験であり力だ。

それは形を変えてベルの糧となる。

 

「これは相当自由度が高く使い勝手がいい!今こうして雷霆の剣の形をしているのも、私が無意識下でそうあるべきだと思い込んでいるからだ!」

「ナイフは耐えれるの!?」

「鍛冶神が鍛えた一振りなんだ!きっと耐えてくれるさ!」

 

空に舞い上がったアルゴノゥトは落ちていく。

下には獅子がアギトを開けて待ち構えている。

もう時間はない。

 

「造形などの詳細なイメージは私が担当しよう!君はただひたすらに、剣がナイフに宿っているという姿を想像し続けろ!」

「ッ、無茶を言うね!!」

「無茶でもやってくれ!出来なきゃ死ぬぞ!!」

「ああ、もう!!分かってるよ!!」

 

思い描くのはレオン・ヴァーデンベルグが使っていたあの魔法。

その魔法効果とその形。

そしてオリオンの矢、アルテミスとの全て。

今の雷霆の剣に精霊としての力以外に明確なものなどなにもない。

そこに形を与えるのは、ベル自身だ。

 

(宿した力を自覚しろ。この力を活かせるように、憧憬を抱け!)

 

憧憬を抱くのは得意だ。

ならば、あとはそれを形にするだけ。

 

「「ここに願い奉る。そして、どうか赦し給え。雷霆よ――――」」

 

取り出したヘスティア・ナイフを雷霆の剣に重ねる。

イメージは出来た。

そして、そのとおりに剣とナイフは一つになる。

 

「【ファイアボルト】!」

「ああ、そうだ。これで完成だ。さあ、ここに名付けよう!」

 

その仕上げとばかりに、アルゴノゥトはこの姿に名前をつける。

名は体を現すもの。

名を冠すれば、自然と形は定まり固まるものだ。

ならば、この剣の名は………

 

「【聖剣――」

「――マルミアドワーズ】!!」

 

二つの刃を重ねたその大剣の一振りは、獅子を吹き飛ばした。

獅子の巨体は森をえぐり、倒れ伏す。

これで暫くは動けないはずだ。

乱れる息を整えながら、ベルは手にした大剣を見つめる。

 

「どうだい?カッコいいだろう?」

「マルミアドワーズって…なに?」

「イルコス王家に伝わっていた破邪の剣の名だよ。本物はただの儀礼剣に過ぎないが、折角だから貰い受けることにした」

「なんだい、それ……。ていうか、柄が長くて使いにくいんだけど。もう少し短くして」

「あ、ごめん、無理。一回イメージが固まっちゃったから、多分簡単には変えられない」

「はぁ!?」

 

最後の最後で、締まらない声が聞こえてくる。

 

「いや、ごめんて。私も結構ギリギリでやってたからさ。本物のマルミアドワーズの形状をそっくりそのまま持ってきちゃったんだよね」

「じゃあ一回変わって!僕が形状をイメージするから!」

「無理だと思うよ?君も一緒に名付けて、この形を眼にしたんだ。もうイメージが固まっちゃってる」

「え?じゃあずっとこのまま!?」

「ずっとってことはないだろうけど、形を変える練習するくらいなら、これを使いこなす練習した方が早いと思う」

「~~~~!!この土壇場で何やってんの!?もう少し聞いてからやってくれ!!」

「だから、ごめんて」

 

同じ声のはずなのに、まるで違うように聞こえる。

本人たちは必死なのだろうが、その滑稽な様子がどこか笑えてくる。

ずっと夢見ていた光景が、眼の前にある。

 

「さてと。これで少しは時間が稼げたはずだよ」

「まだこっちの話が終わってないけど?」

「悪いが諦めてくれ」

「……もう一回殴りたい!」

「それも諦めてくれ」

 

軽快な口調に、様々な感情が溢れ出そうになる。

 

「えっと……まいったな。泣かれるとは思わなかった」

 

どこか困ったように呟く彼の声を聞いて、初めて自分たちが涙を流していることに気がついた。

すぐに涙を拭おうとするが、涙が次々溢れ出てきて止まらない。

こんな顔を、彼に見せたいわけではないのに。

 

「あなたは……、英雄アルゴノゥトなんですか?なんで英雄がベル様に?」

 

「それを説明するのは後だね。全部が終わった後、アリアたちから聞いてくれ」

 

「そんな――――!!」

 

「ただそれでも一つ言うとしたら、これは一時的なものだ。私が取って代わったわけではない。この戦いが終われば、私は消える」

 

その言葉にリリ達は安心するが、アイズ達は絶望する。

これもまた、泡沫の夢に過ぎないのだと、思い知らされる。

 

「いなく、なっちゃうんですか……?」

 

「私は君達とは違う。最後まで戦い抜いた君達と違って、私はここで終わった。私は君達のようにはなれない。『また会おう』とは、もう言えない」

 

それは明確な違い。

アルゴノゥトと彼らの絶対的な差。

彼らとは違い、アルゴノゥトの道はここで途絶えているのだ。

故に、アルゴノゥトはここで終わる。

 

「実を言うとね、君達に会うつもりはなかったんだよ。会えば君達が傷つくことは分かりきっていた。私は君達に傷ついて欲しくなかったから」

 

「じゃあ、なんで……?」

 

「そんな腑抜けたことを言ってたら、この少年にドヤされてしまってね。それに、メーデイアにも。もう自分勝手に逃げ回るのはやめろって」

 

自分の終わりを知りながらも、アルゴノゥトは笑い続ける。

ニッコリと、穏やかに。

その笑顔が、何よりも最期の時を彼女たちに突きつける。

 

「……本当に、最期なのか?」

 

「うん」

 

「もう、会えないのかよ?」

 

「今までが奇跡のようなものなんだ。むしろ、よく保ったほうだろう?」

 

「お前は……、そうやって!なんで、もっと……!!」

 

「ごめんね。君達には迷惑をかけてばかりだ」

 

「迷惑なんてどうでもいい!いくらでもかけていい!だから……、だからもう少しだけ、一緒にいてよ…!」

 

「それは出来ない。どう足掻いても、これが最期なんだ」

 

「俺達はお前にまだまだ言いたいことがある。まだ、まだ―――」

 

「私も同じだよ。時間がいくらあっても足りやしない。口惜しいものだ」

 

「そう思うんなら、もう少し態度に出してくださいよ…。私達が馬鹿みたいじゃないですか!?」

 

「馬鹿なのは私の方さ。君達の涙を拭う方法すら分からない」

 

「兄さんは、いつもそうやって!!自分を、なんだと思ってるんですか!?」

 

「さあ、なんだろうね?自分でもわからないよ」

 

「せめて、あなたも泣いてください…!強がらずに、寂しがってくださいよぉ…!」

 

「……君達の前で涙を流すには、まだ少しだけ早い。私はもう、覚悟を決めたから」

 

涙を流す友の前、アルゴノゥトはそれでも毅然と告げる。

これが最期だと分かっても、己の終わりを知っても、彼は未来を指し示す。

 

「これは最期だ。でも、まだ終わってない。あの日の冒険はまだ続いている」

 

それは、喜劇の本当の終わり。

獅子退治に出た彼らの物語。

その最後を締めくくるための言葉。

 

「私は君達を傷つける。君達の涙を拭うことは私には出来ない。私に出来るのはきっと、この物語を終わらせることだけだ」

 

あの日魔女の恋を終わらせたベルのように。

アルゴノゥトは英雄達の喜劇を終わらせる。

 

「だから、最期に大冒険をしよう。君達がいつでも思い出して笑えるように。一生君達の心に残り続けるくらい、いつまで経っても色褪せないくらい、鮮烈な物語を刻もう」

 

これは喜劇ではない。

これは英雄譚ではない。

これはただ、道化と愉快な仲間たちが踊り明かすだけの物語。

あの日の冒険を続け、今度こそ終わらせるだけの物語。

 

「さあ立って、皆!今度こそ誰もが笑う結末を作ろう!」

 

涙はまだ早い。

それらを拭い去って、彼らは立ち上がる。

アルゴノゥトの手を取り、肩を叩き、手を打ち鳴らし。

互いを鼓舞しながら、彼の隣に並び立つのだ。

 


 

「ほら、君達も行くよ」

 

アルゴノゥトは振り向いて背後にいるフィンたちに声を掛ける。

その声を聞いて、フィンはどこか不思議な気持ちになる。

あれほど絶望的な状況で、それは今も変わっていない。

彼の攻撃は獅子に通じるようだが、それだけで倒せるほど獅子は容易い相手ではない。

それは分かっている。

分かっているが、それでも不思議なもので。

彼がいれば、どんな相手でも勝てる気がするのだ。

本当に、不思議な気分だ。

 

「何か策はあるのかい、アルゴノゥト」

 

「もちろんあるとも。さっきこの少年が発現した、とっておきの切り札(スキル)がね」

 

「それは頼もしい」

 

フィンたちも笑いながら、ボロボロの身体を起こして構える。

先程までの鬱屈とした雰囲気はない。

闘志は十分、絶望はもうない。

ならば、負ける理由はない。

 

「いいかい?10分だ。それ以内に決めなければ負ける」

 

「ほざくな、クソバカアルゴノゥト。10分もいるか。5分で終わらせて、残りはお前への罵詈雑言の時間だ。覚悟しておけ」

 

「ハハッ、それは楽しみだね」

 

軽口を叩く彼らは頼もしい。

 

精神力(マインド)は大丈夫なのか?」

 

「今は二人分の意識があるからね。その分余裕はあるさ」

 

「そうか…。ならいい」

 

短い言葉でも信頼が感じられる。

その様子がどこか羨ましくもあった。

 

「随分大人しいな…。いつもの騒がしさはどうした?」

 

「今更君達の前で強がっても意味ないと思ったんだけど、やったほうがいい?」

 

「ああ、頼む。最期くらい、騒がしくやろうじゃないか」

 

その言葉を受け、アルゴノゥトは笑いながら一歩前に踏み出る。

見れば獅子はゆっくりと起き上がっている。

もう時間はない。

それでもアルゴノゥトは笑いながら、声を上げる。

 

「神々よご照覧あれ!今より始まるは喜劇にあらず!滑稽な道化と偉大な英y――――いったぁ!?何すんの!?」

 

その途中で、アイズやベートにぶん殴られる。

思わず声を上げて振り返るが、二人は不機嫌そうに呆れながらため息を溢す。

 

「あなたは本当に……。」

 

「さっき自分で言ったことも忘れたのか?」

 

「何が!?」

 

「お前も英雄だろうが」

 

ベートの言葉に、アルゴノゥトは眼を丸くして驚く。

周囲を見渡すと、レフィーヤもティオナもティオネもガレスもリューもヴェルフも。

それだけでない、フィンやリヴェリア、アリーゼやアーディたちも。

この場にいる全員がその言葉に頷いている。

 

それを見たアルゴノゥトは泣きそうな顔をしながらも笑う。

そして、今度こそ声高らかに声を上げるのだ。

 

「悪かったね。では行こう――――神々よご照覧あれ!今より始まるは喜劇にあらず!我ら英雄の船(アルゴノゥツ)による英雄時代の真の終劇(トゥルーエンディング)だ!人類の新たな一歩を刮目するがいい!!」

 

獅子は迫ってくる。

だが、もう恐れはない。

 

「さあ――――冒険を始めよう!!」

 

『『―――応!!』』

 

アルゴノゥトの喜劇の幕が下りる。

そして、アルゴノゥトの最期の大冒険が幕を開ける。

 

………………

……………

…………

………

……

 

英雄神話(アルゴノゥト・イルコス)

ベルが発現した新たなスキル。

その効果は失われた英雄神話の再演。

過去を同じくする八人が揃っている場合に限り、自身の階位昇華と八名のステイタスを限界突破させるもの。

強大なスキルだが、反動として限られた時間しか発動できず、その時間が過ぎればベルは眠りにつく。

故に、最後の切り札。

そして、ベルにアルゴノゥトが宿るこの時に限り、このスキルは予想外の副次効果を発揮する。

それは容姿の変様。

ベルも含めた九人全員が、古代の姿へと変貌する。

 

ベルはアルゴノゥトへ。

レフィーヤはフィーナへ。

ティオナはオルナへ。

ティオネはエルミナへ。

ガレスはガルムスへ。

ベートはユーリへ。

ヴェルフはクロッゾへ。

リューはリュールゥへ。

そして、アイズはアリアドネへ。

 

容姿も、服装も、防具も。

手に持った武器とステイタスだけはそのままだが、それ以外の全てがあの当時のものへ移り変わっていく。

 

アリアドネなどはドレス姿だし、装備も現代のものの方が優れている。

だからこれはデメリットにしかならない。

それでも、彼らはこの姿を選んだのだ。

 

「よっしゃ、行くぞ親友!!」

 

「応とも!!」

 

「考えなしに突っ込むな、この馬鹿共!!」

 

「まあまあ。いいではありませんか。いつものことですし」

 

「そういう問題ではない!!」

 

「子孫として恥ずかしいので止めてください」

 

笑いながら獅子に突っ込んでいくアルゴノゥトとクロッゾ。

それに檄を飛ばすユーリと、庇い立てるリュールゥ。

メーデイアの冷ややかな言葉が飛び交う。

 

「一気にステイタス上がってるんだから、振り回されるんじゃないわよ!?」

 

「分かってるって――――!」

「分かってない!苦労してるの僕だからね!?」

 

「ベルを振り回してんじゃないわよッ!?」

 

「はい、すいません!!――――って」

 

「アル!キャッ――――」

 

「アル!?アリアまで!?ああもう、言わんこっちゃない!!」

 

アルゴノゥト達は攻撃を刃で受け、大きく後退りする。

獅子の雷はアルゴノゥトが奪還したことでもう使えない。

それでも、蓄えられた力の全てはそのまま。

より強靭になった身体も、そのままだ。

 

「ちょ、揃ってなんでこんなところにまで飛ばされてきてるんですか!?」

 

「あ、アルゴノゥト様!?」

 

「アルゴノゥト殿、大丈夫ですか!?」

 

「ヘスティア・ファミリアの皆…。」

 

飛ばされた先に居たのは、ヘスティア・ファミリアの三人。

ベルを通してずっと見てきたアルゴノゥトに取って、馴染み深い三人だった。

 

「もう!調子に乗ってあんなに行くからですよ!」

 

「リリルカさんの言うとおりです!反省してください、兄さん!」

 

「フィーナまで!?ごめんって~!」

 

「フィーナ…。私もです、すいません…。」

 

「お姉様はいいんですよ!!」

 

「依怙贔屓!?」

 

アリアドネに対してダダ甘なフィーナに悲鳴を漏らすアルゴノゥト。

緊迫しているのにどこか笑みがこぼれる不思議な空気がそこにはあった。

そして、そんな空気に後押しされるように、春姫はアルゴノゥトに声を掛ける。

 

「アルゴノゥト様!ベル様を通じてご存知でしょうが、改めてお礼を言わせてくださいませ!春姫は英雄の皆様方に寄って救われました!もちろん、アルゴノゥト様にもです!」

 

「英雄譚云々はありませんが、一応リリもです!!クノッソスで士気が下がりかけた時、ベル様と一緒に激励してくれてありがとうございました!!お陰で楽になりました!!」

 

「アルゴノゥト殿、ありがとうございます!あなたは春姫殿の…、自分の友の支えとなっていました!」

 

「………こちらこそありがとう、少女たち。喜劇を遺した意味を、教えてくれて」

 

三人の声に背を押され、アルゴノゥトはフィーナとアリアとともに、駆け抜けていく。

 

「頑張って下さいね、アルゴノゥト!!」

 

「頑張ってくださいませ、アルゴノゥト様!!」

 

「頑張ってください、頼みます!!」

 

最後に声援を受け、アルゴノゥトたちは走る。

戦場を走っていると、次にアリーゼやアーディ達の近くにまで来た。

そして、そこにはオルナとリュールゥもいる。

 

「あ、アルゴノゥト!?こんなに近くに!?ファンです!!一瞬でいいんで、握手お願いできますか!?」

 

「ふぁ、ファン?喜劇(アルゴノゥト)の?随分変わった子が居たもんだ」

 

「そんなことないですよ!!面白くて元気が貰えて、行間読めば色々複雑な事情も感じれて!!特に意地悪な占い師が――――グッフゥ!!」

 

「それに関しては黙ってなさい!!」

 

「戦いの最中に何やってるの、あなた達!!」

 

「アッハッハッハッハッハッハッ!」

 

「笑ってんじゃないわよ!!」

 

余計なことを喋られそうになった占い師(オルナ)がアーディを引っ叩く。

それにとうとう我慢の限界を迎えたアリーゼがツッコミを入れる。

それを見て爆笑するリュールゥに、オルナのさらなる怒号が飛んでいく。

 

「えっと、とにかく、ありがとうございます!!あなたの物語に、私は何度も助けられました!!」

 

「私からも!!リューを助けてくれてありがとう!!私も助かった!!」

 

「感謝しますよ、英雄殿」

 

「サンキューな!!」

 

彼女たちの言葉を受け取り、アルゴノゥトは前に進む。

アーディに手を掴まれ、今度こそ最前線まで投げ飛ばされる。

 

「頑張って、アルゴノゥト!!」

 

「頑張れ!」

 

「頑張ってくださいませ」

 

「頑張れよ!!」

 

最前線にまで行く。

そこは一番渾沌としていた。

獅子だけでなく、駆除した端から寄ってくる数多のモンスターを相手に入り乱れて戦っている。

 

「やあ、アルゴノゥト!!」

 

「ああ、エルミナの騎士様!」

 

「出来ればその呼び方は止めてほしいんだけどね…」

 

「いいぞ!もっと言え、アルゴノゥト!」

 

最前衛にまでたどり着いたアルゴノゥトを迎えたのはフィン。

その周囲にはエルミナとガルムス、リヴェリアもいる。

 

「まずは礼を。君達のお陰でエニュオの策を打破できた」

 

「私は何もしてないよ。精々嫌味と声援を言ってやっただけだ」

 

「それで救われた人がいるんだ。礼は素直に受け取っておくべきだよ?」

 

フィンの言葉に、アルゴノゥトはまたしても目を丸くする。

最後だというのに、色々学ぶことが多い。

本当に、ここで終わってしまうのが残念で仕方ない。

思わずそう思ってしまう。

 

「――――やれやれ。子どもに諭されるとは、私はとことん愚かだねぇ」

 

「僕を子ども扱いする?」

 

「子どもだよ。君だけじゃない、全員だ。今を生きる全ての人類は、私達英雄にとって須らく守るべき宝であり、子どもなんだ。私達は、君達という未来のために戦ったんだから。………ま、受け売りだけどね」

 

「含蓄のある言葉だ。いつか僕も言ってみたいよ」

 

フィンの会話が途切れ、次はリヴェリアが話し始める。

 

「こうして会うのは三度目か、英雄アルゴノゥト」

 

「えっと、いつぞやの妖精のお姫様?なにか失礼があっても勘弁してね?」

 

「こんな状況で何も言わん。むしろ、私が貴殿に謝罪するべきだろう。偉大な先人とも知らず色々と嗅ぎ回って、無礼な真似をした」

 

「そうじゃそうじゃ~」

 

「黙れ、ガレス」

 

「……私は何も。謝るならアリア達にしてあげてくれ」

 

「ああ、もちろんだとも。そして、フィンと合わせて最後に大いなる感謝を」

 

二人は立ち止まり、それぞれが魔法を放つ。

自分たちが生きる今を作ってくれた、アルゴノゥトへの感謝を乗せて。

 

「ありがとう、アルゴノゥト。偉大なる我らが英雄よ。君と共に戦えたことを、僕は生涯誇りに思う」

 

「一人の冒険者として、一人の人類として、一人の母として。救ってくれてありがとう、アルゴノゥト」

 

「【ティル・ナ・ノーグ】ッ!!」

「【ヴァース・ヴィンドヘイム】ッ!!」

 

二人の渾身の一撃が道を開け、獅子にダメージを与える。

 

「頑張って!」

 

「頑張れ!」

 

そして、獅子の前にまで躍り出る。

共に戦うは、古代を生きた八人。

 

「やっと戻ってきたか!」

 

「待ちわびた!!行くぞッ!!」

 

「―――ああ!!」

 

そして、アルゴノゥトは大鐘楼を打ち鳴らす。

戦場の戦意を高揚させ、更に士気を高めていく。

その最中、アルゴノゥトは戦友たちに語りかける。

 

「私から君達に、伝えられなかった言葉と……、私だけの真実を言わせてくれ」

 

大鐘楼が鳴り響き、様々な音が轟く戦場においても、その声は確かに彼らに聞こえていた。

戦場に不似合いな穏やかな声色。

優しさの中に隠しきれない慚愧と憐憫を含ませながら、彼は語る。

それはきっと、あの日の後悔だ。

 

「私は三千年前のあの日、己の死を悟っていた」

 

衝撃的であるはずのその真実を聞いても、彼女たちは何も言わない。

獅子を前に戦い続けながら、その言葉の続きを待ちわびる。

 

「虫の知らせ、って奴なのかな?私は獅子の話を聞いた時から、戦えば自分が死ぬって何となく分かってた。そして、実際に獅子を前にした時、それは確信に変わった」

 

「……じゃあ、なんで?」

 

なぜ戦ったのか。

なぜ逃げなかったのか。

なぜ死んだのか。

死ぬと分かっていたのなら逃げればいい。

他の英雄も呼んで、一緒に戦えばよかった。

なぜ、そうしなかったのか。

 

「――――他ならぬ私自身が、死を望んでいたからだよ」

 

英雄願望ではなく、自殺願望。

あの時彼は死を望んでいた。

初めて知るその事実に、彼らは目を見開く。

 

「人類のため、民のため、人々のため。他の英雄を待ってる余裕はなかった。当時あの獅子の封印は私にしか出来なかった。なんて、いくら理由を積み重ねても、それは後付けの理由に過ぎないんだ。決して嘘ではないが、そこに真実はない」

 

「なんで…、ですか?なんで死のうと思ったんですかッ!?」

 

「お前は、何を言っている!?お前は、何で――――!?」

 

堪えきれなかった怒号が飛んでいく。

それでもアルゴノゥトは、罪深い自身を呪うように話を続けようとする。

だが、その前にアリアドネの口から答えが語られる。

 

「私達を解放するため、ですね?」

 

「………うん」

 

彼女から出たのは、解放という言葉。

それはきっと、彼からの解放。

彼が作ってしまった、喜劇という名の鳥籠からの解放。

誰よりも残酷で優しい、彼の思い。

 

「雷公と前王の失墜から始まる国の混乱が収まり、人類の楽園としての体裁を何とか取り戻すことが出来た。少なくとも、今後数十年程度は苦しくも安定した生活を送れるだろうって所まで漕ぎ着けることが出来た。次は人類の領域を取り戻すための戦いが始まろうとしていた。皆理想に向かって、戦い続ける決心があった。私もそのつもりだった。でも、そんな時ふと考えてしまったんだ。『もう、このままでもいいんじゃないか』って」

 

それは停滞、そして裏切り。

誰よりも人類の未来を望んだ彼は、自分たち個人の未来に目を向けてしまった。

一度見てしまったその光景を、彼は忘れることが出来なかった。

 

「英雄は君達以外にも沢山いる。だったら、いいじゃないか。英雄の援助をしながら、楽園で幸せに過ごしたって。君達が無理に戦う必要はないじゃないか」

 

こぼれでる、英雄の醜い本心。

だが、それに失望などはしない。

それは人が抱いて当然のものだから。

 

「一度考え出してしまえば、もう無理だった。次から次に、君達を戦場から遠ざける手段ばかりを考えてしまう。私は、そんな自分を畏れてしまった。変わっていく自分が怖くなった。堕ちていく自分を許せなかった。だから、君達の前から姿を消そうと決意した。変わりきる前に、君達を縛り付ける前に、消える必要があった」

 

「そん、な、こと………」

 

「光を失った私に旅に出る選択肢はない。私に残っているのは死だけだ。だが、ただの自死ではダメだ。君達は心を閉ざしてしまう。君達が私の死を悼み抱えながらも、それを糧に戦い続けられるような死に方でないとダメだ。そんな時だった……、獅子退治の話が舞い込んできたのは」

 

本当に、運命的なタイミングだった。

 

「私には天啓に思えたよ。それと同時に、これを逃せば次はないと思った。だから獅子の生態を調べて計画を練って、見事成功させた。心情も真実も知られることなく、死ぬことが出来た。まあ、幾つかの計算外もあったけどね」

 

真実を知り、英雄達は痛みを堪えるように顔を歪める。

湧いてくるのは、怒りと後悔。

あの時、ここまで彼が追い詰められていることに気付けなかった。

いつも通り間抜けをさらして、笑顔を齎して。

変わらない日々と送っていると、思っていた。

彼だけは変わらず在り続けるのだと、思い込みたかった。

アルゴノゥトだって、ただの人間であるというのに。

そのことを忘れていた。

 

「ごめんね」

 

彼の口からこぼれる、謝罪の言葉。

 

「君達がそこまで傷ついて、引きずるとは思ってなかったんだ。傷ついて涙を流しても、いつかは私のことを忘れるだろうと思ってた。君達がそこまで私を愛してくれていたなんて、知らなかった」

 

「ッ!アルゴノゥト…!!自分が何言ってるのか分かってる!?それがベルの身体であることに感謝しなさい!じゃなかったらぶん殴ってるわよ!?」

 

「分かってるよ、私が愚かなことくらい。本当に、よく分かってる」

 

彼は自身に向けられる愛の重さを知らなかった。

そのことが、彼の罪。

その罪を彼はようやく知ることが出来た。

 

「メーデイアに言われるまで、私は君達を傷つけたという自覚すらなかった。これが君達の為だと思い込んで、疑いもしなかった。これはきっと、何よりも罪深い行いだ」

 

結局彼は、自分自身という存在を軽く見過ぎてしまったのだ。

自分に価値はないと思った、愛される要素などないと思っていた。

それは国を失いながらも生き残った王族が抱いて当然の、生存者的罪悪感(サバイバーズ・ギルト)

 

「今になって、ようやく自身の間違いに気づいた。何もかもが遅すぎたし、意味はないだろう。私を許さなくていいし、一生恨み続けてくれ。それでも最後に一つだけ、伝えさせてほしい」

 

「『愛してる』」

 

博愛のアルゴノゥトが、彼らにだけ向ける特別な思い。

ヘルメスの言葉を借りるなら、男と女も超えた神愛(アガペー)にも勝る尊き愛だ。

 

「笑ってほしいとは言えない。君達から笑顔を奪ったのは、私なんだから。生きてほしいとは言えない。戦ってほしいとは言えない。全てを諦めて逃げてしまったのは、私なんだから。今伝えられるのは、僕の中に唯一残った揺るがない思いはきっと、君達への愛だけだ」

 

変わっていく中で、変わらなかった思い。

大切に思う彼ら彼女らへの、尊き愛。

 

「愛してる。君達がどんな道を歩もうと、君達がどんな決断を下そうとも、君達が世界に取り残されたとしても、私だけは君達を愛し続ける」

 

それでも悲しげに笑う彼に、英雄達は答える。

大切に思う彼への、尊き愛を。

 

「愛しています、アルゴノゥト」

 

それは初めて、『アルゴノゥト』へ告げられる愛の言葉。

そして最初で最後の懺悔の言葉。

 

「ごめんなさい。三千年前、あなたの思いに気づくことが出来なくて。ごめんなさい。あなたに愛を伝えきることが出来なくて」

 

伝わっていると思った。

言わなくても、分かってくれると思っていた。

でも、違った。

気づいていれば、伝えていれば。

どちらか片方でも違えば、未来は変わっていたかも知れない。

その事実は彼女たちに後悔として残り続けることになるだろう。

 

「あなたが私達への罪を抱え続けるように、私達も抱え続けましょう。あなたへの罪も、想いも、後悔も、何もかも、すべて!それでも私達は前を向いて歩いていきます!あなたと思い描く理想の未来を紡ぐために!」

 

アリアドネはアルゴノゥトの手を掴む。

そして、共に駆け上がり構える。

獅子を倒したあの時のように。

二人で剣を握り、戦うのだ。

 

「さあ、アルゴノゥト!最初の一歩を踏み出すのは、あなたの役目でしょう?」

 

始まりの英雄として、新たな時代を迎える鐘の音を響かせる。

 

「行ってください、兄さんッ!」

「行って、アル!」

「行け…、アルゴノゥト!」

「行けェ、アルゴノゥトォ!」

「行って来い、アルゴノゥト!」

「行きやがれ、親友!」

「行ってらっしゃい、アル!」

 

英雄達が道を開く。

大鐘楼の音が最大限にまで高まる。

 

「行きましょう、アル!!」

 

「――――あぁ、行こう、アリア!!」

 

アルゴノゥトとアリアドネは剣を振り上げる。

雷霆の剣を神の刃に纏わせ、そこに炎雷も宿らせる。

大鐘楼の音と共にその一撃にベルとアルゴノゥト、そして英雄達から貰ったすべてを込める。

そして、そこにアリアドネの風と【道化行進(アルゴノゥト)】による獅子への攻撃力超域強化が加わる。

 

「神々よ、ご照覧あれ。今日この日、人類は咆哮をあげる!!英雄の時代を超え、神の時代すらも越えて、新たな時代を作り上げると天に誓おう!!我々は貴方方が想像もつかない未知なる世界へ足を踏み入れる!!これはその始まりだ!!」

 

ベル、アルゴノゥト、アリアドネ。

その三人の全ての込めた一撃は振り下ろされる。

 

「――――“天への咆哮(ヘブンズロア)”ッ!!」

 

光が世界を包む。

雷霆と風と炎雷と、それらを包む白き光が獅子を飲み込む。

衝撃が走る。

そして、すべてが終わる。

その眩しさに誰もが目をつむるが、瞳を開けた先にあったのは大きくえぐれた森。

地面もえぐれ木々もなく、全てが吹き飛んでいた。

大地に大きな爪痕を残し、その先からは太陽が上がってくるのが見える。

 

獅子の姿はどこにもない。

それは紛れもない勝利を表している。

 

「私達の、勝利だ――――!!」

 

アルゴノゥトの勝利宣言を聞いて、ようやく実感が湧いた。

勝鬨が上がる。

こうして、長きに渡る因縁に決着がついた。

 


 

あとがき

 

個人的に、アルゴノゥトも何だかんだでサバイバーズ・ギルト抱えてそうだなって思ってます。

推定王族で、都市が壊滅したのに生き残って、その後人類の未来のために喜劇作って。

衛宮士郎ほど歪んではないでしょうが、結構近しい感じがしますよね。

 

まあそんな感じで、次回で英雄神話編終わりです。

これが終われば学区で、その次にお義母さん襲来ですね。

 

それはさておき。

前回あとがきで言ってた番外編ですが、やっぱり公開しないことにしました。

大森先生のご意向がやっぱり一番ですので、ほんの少しでもそれに添えない可能性があるのなら辞めるべきだと判断しました。

楽しみにしていた方がいらっしゃれば、大変申し訳ございません。

もし掌編集であの特典が公開される時が来れば、また公開しようと思います。

特装版買って特典の内容を知っている方は…、まあそういうことなんだなって何となく察してください。

以上、あとがきでした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。