道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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英雄神話~終幕~

 

朝日を眺めるアルゴノゥトは、久しぶりに見る眩しい光に目を細める。

体は限界を迎えており、スキル効果による反動も近づいている。

マルミアドワーズは最早形をなすことすら出来なくなり、雷霆の剣も消えていく。

立ってることすらままならなくなった彼は、ゆっくりと地面に向けて倒れ込もうとする。

だが、その寸前で彼の手を掴み、支える存在がいた。

 

「まったく、貴方は…。まだ倒れるには早いですよ」

 

「……あぁ、メーデイア。すまないね」

 

メーデイアに肩を借り、支えられながらもアルゴノゥトは振り向き顔を上げる。

そこにはかつての英雄にして友、そして今を生きる冒険者たちがいた。

未来への希望をその目で見ながら、彼はゆっくりと口を開く。

 

「何を言ったらいいものか…。君達には――――」

 

「アルゴノゥト」

 

だが、その寸前でアリアドネに名を呼ばれ言葉は途切れる。

驚いたような目で彼女を見ると、微笑みながら問われた。

 

「最後の大冒険は、どうでした?」

 

その問いかけに呆気にとられるアルゴノゥト。

だが、すぐに満面の笑みを浮かべ、心の底からの最高の笑顔を浮かべながら、答える。

 

「最ッ高に楽しかった!!」

 

「――――良かった」

 

アリアドネも、英雄たちも、その言葉を受けて破顔した。

前世ではついぞ見られなかった心の底からの笑顔を、見ることが出来た。

それだけできっと、この戦いに意味はあったのだと思えた。

アルゴノゥトだけでなく、メーデイアも。

 

「さてと…、最後にもう一度くらい謝ろうかと思っていたが、いらなそうだね」

 

「当たり前だ。貴様からの謝罪なんぞ聞き飽きた」

 

「ハハッ、それはまた辛辣だね。だけど…、まあ、そうなんだろうね」

 

アルゴノゥトは白み始めた空を見上げる。

そして、ほんの少しだけ考える。

自らの思いと、彼女たちのこれからを。

 

「きっと、これからも君達には試練が続く。絶対に敵わないと思えるような存在と相対することになる」

 

「心配するな。お前と…、ベルと一緒なら、きっと乗り越えられるさ」

 

「ん?あ、いやそうじゃないんだ。むしろこの少年が災禍というべきか……。ホントに気をつけなよ、特にアリアたち。マジで厄介で理不尽で横暴だからね。最終的には丸く収まるだろうけど、それまでが大変そうだ」

 

「……はぁ?」

 

「ま、それも含めてこの少年が背負う宿業ってことかな。精々頑張ってくれ。避けては通れない道だからね。君達が乗り越えることを祈っているよ」

 

腑に落ちない表情を浮かべる彼女たちをからかうように笑いながら、アルゴノゥトは自身を支えてくれる少女に向き合う。

この三千年のすべてに敬意を払いながら、感謝を告げる。

 

「メーデイアも、ありがとう。私の残したすべてを背負い続けてくれて」

 

「構いませんよ、別に。それが一族の意義であり、私の生まれた意味ですから。封印はなくなり獅子も討伐された。結構なことです。三千年の全てが報われたのですから。それに、一族の背負い続ける罪業も、なくなりましたから」

 

メーデイアの視線の先には笑う英雄たちがいる。

三千年前、アルゴノゥトが笑顔を奪ってしまった英雄たちが笑っているのだ。

それだけで、きっとすべてが報われたのだ。

優しく微笑む彼女を見て、アルゴノゥトは安心したように笑う。

 

「さ、私なんかに構う暇があるなら最期の言葉を捻り出してください。ご先祖様にしか伝えられないことが、まだあるでしょう?」

 

再度英雄たちに向き合うアルゴノゥトの手を引きながら、一歩踏み出す。

自分の力で立つように促し、アリアドネたちの隣に並ぶメーデイア。

彼女もまた、アルゴノゥトの思いを受け取る覚悟を持った。

 

「そう、だね…。うん、伝えたいことなんて数え切れないくらいあるんだけど、そうだね……。」

 

終わりの時間は近づいている。

その中で、彼は絞り出すように言葉を一つ一つ選びながら、話す。

 

この少年(わたし)を頼んだよ。まだ幼くて、未熟で。身の丈に合わない大きな理想を抱く愚かな少年だ。支えてやってくれ」

 

「ええ、もちろん。貴方だけでは叶わないその理想も、みんな一緒ならきっと叶います」

 

「ああ、そうだね。安心したよ」

 

笑う彼らを見て、自分の描いた理想が間違いではなかったと知って、アルゴノゥトは安心したように笑う。

 

「身体には気をつけるんだよ。怪我……は仕方ないとしても、病気にならないようにね」

「分かってますよ、兄さん!」

 

「無茶し過ぎないようにね。時には諦める勇気も必要だ」

「貴方に言われてもって感じだけど…、分かってるわよ、アル」

 

「皆で仲良く、喧嘩も程々にね」

「……ああ、分かってる」

 

「お酒もだよ?飲み過ぎには気をつけてね」

「分かっとるわ。余計なお世話だ」

 

「一人で背負いすぎないようにね?時には皆を頼ってくれ」

「ああ、分かってるとも…。」

 

「熱中するのはいいけど、しっかり睡眠も取るように」

「分かってるよ、親友」

 

「真面目なのはいいことだけど、自分を大切にしてね。時には好き勝手やればいいさ」

「分かってますよ、アル」

 

そして、最後に。

 

「頼りないだろうけど、この少年を頼ってあげてほしい。それがきっと、何よりの救いになるだろうから」

「ええ、分かってる、アルゴノゥト」

 

その最後すらも終わり、別れの時間が訪れる。

アルゴノゥトは心の底から笑いながら、しかしそれでも一筋の涙を溢しながら。

一瞬だけ心の中にいるもう一人の自分(ベル・クラネル)を幻視し、言葉を送る。

 

『後は頼んだよ』

 

『――――うん』

 

泣きそうな顔をしながらも、彼は頷いた。

これでもう、本当に心残りはない。

安心できた。

そして、皆に別れの言葉を告げる。

 

「さようなら、皆。共に未来を描いた、僕の英雄たち!!」

 

「さようなら、アルゴノゥト。誰よりも人々の未来を願った、私達の……皆の英雄!!」

 

その言葉を最後に、意識を失い倒れるアルゴノゥト。

そんな彼を、アイズ達は優しく抱きしめる。

皆で、笑いながら、それでも泣きながら。

彼の最期を悼むように、優しく抱きしめながら泣き続ける。

 

だが、今度こそ枯れない涙を流す者はいなかった。

あるいは、ようやく終わったのかも知れない。

三千年前のあの日から人知れず流し続けた涙が。

 

今日この日、ようやく終わったのだ。

 


 

この物語のエピローグ。

語るのはアルゴノゥトではなく、彼がいなくなったあとの英雄たち。

スキルの反動で目を覚まさないベルを連れてオラリオを目指す帰り道でのことだ。

森から離れオラリオを目指し、そして日が暮れて日を囲みながら夕食を取った。

そして、未だ意識が戻らないベルの様子を確認した後のこと。

 

「ベルの様子は?」

 

「意識は戻りませんが、呼吸も安定してますし大丈夫かと」

 

「そう」

 

ティオナとアイズの短い会話。

その後に、フィンは意を決したように問いかける。

 

「獅子退治は犠牲もなく無事に達成された。すべてが終わったことだし、そろそろ事実確認をしておきたいんだけど、いいかな?」

 

「……なんだ?」

 

火を囲みながら集う面々を前に、ベートは不機嫌な様子を隠すことはない。

だが、答える気はあるようで、それは他の英雄たちも同じだ。

 

「君達はかつて英雄アルゴノゥトと同じ時代を生きて、彼に賛同し、力を貸した英雄たち――――これは合ってるね?」

 

「まあ、概ね。後世で明確に英雄と呼ばれたのは、エルミナ殿・ユーリ殿・ガルムス殿。その三人だけです。それ以外の私達は対して記録が残ってなかったり、詩人として残っていたり、女王として残っていたり。そんな感じですね」

 

「エルシャナ、ユーリス、ガルムーザ…か。名前が変わってるのは?」

 

「それこそ知ったことではない。大方、伝承が長くなるにつれて発音が変わっただけだろう」

 

自分たちの呼び名などどうでもいいと言わんばかりに吐き捨てるベート。

本当に、彼らはどうでもいいと思っているのだろう。

大切なのは、アルゴノゥトの名がしっかりと後世に残っていることだけ。

 

「ティオナ様は語り部オルナ。剣姫様は女王アリアドネ。ヴェルフ様は初代クロッゾ様なのですよね?」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

「では、レフィーヤ様とリュー様は?」

 

アルゴノゥトや他の英雄たちが明確にその名で呼んでいた二人は分かるが、残りの二人はわからない。

彼が読んでいたその名を聞いても、記憶にある限りそのような英雄も詩人も存在しないのだから。

 

「私は特に。兄さんのお世話係というか、お目付け役というか。そんな感じだったので、殆ど残っていないと思いますよ。原典に近い喜劇に、偶に存在が確認できる程度です。リュールゥさんは――――」

 

「私もそんな感じですよ~。多少腕に覚えがあったので、英雄候補の集いに顔を出したのですがもうてんやわんやで。後の戦いも陰ながら応援する程度しか出来ませんでしたからね~」

 

「一人だけ面倒事から逃げられると思うなよ、『ウィーシェ』」

 

「はっはー……。喧嘩売ってんなら買いますよ?」

 

自分だけ逃げようとする彼女の真名を、問答無用で告げるベート。

流石のリューも苛立ってしまうが、それよりも前に別の所が色めき立つ。

 

「うぃ、ウィーシェって、もしかして……」

 

「エルフの王族にして古代三大詩人の一人。ウィーシェの森の始祖だな。セルディアよりもずっと前の、王族(わたし)の遠い祖先にあたる」

 

リヴェリアのその言葉から一転して、エルフたちのリューを見つめる瞳に今までなかった敬意や崇拝と言った感情が入り交じる。

その視線を受けて鬱陶しそうにしながら、リューは大きなため息を溢す。

 

「こうなるのが分かってたから言いたくなかったんですよ……。これだから王族信奉主義者のエルフ共は」

 

「知るか。それも含めて逃げるな、阿呆が」

 

愚痴を吐き捨てながらも、エルフたちを冷たく見つめるリュー。

そんな彼女の言葉をベートは斬り捨て、リューも逃げられないと悟ったのかやがて面倒くさそうに口を開く。

 

「生憎ですが、今の私はただのエルフです。あなた達が大好きな高貴な血なんてものは、一ミリたりとも流れていません。残念でしたね」

 

「そ、そんなもの関係ありません!王族の方々は血など関係なく佇まいや魂が――――」

 

「私がクロッゾ殿の魔剣を使った時、ギャーギャー喚いてたのはどこの誰ですか?」

 

「そ、それは――――」

 

「今の今まで気づいてなかったくせに何言ってんですか?それに、私達の前で魂を語らないでください。虫酸が走る」

 

彼女は徹底的にエルフを拒絶する。

そもそも前世ですら嫌気が差して逃げ回り色々やっていたのだ。

今更王族扱いされたところで嬉しくない。

前世での活動すべてがエルフの誇りだ何だのと言われている時点で虫酸が走るというのに。

 

「分かったらこれ以上私に関わるな。もしくだらないことでベルに因縁をつけるような真似でもしてみろ。血祭りにあげるぞ」

 

「しかし――――」

 

「やめろ、お前たち。彼女の言うことが全面的に正しい」

 

リヴェリアの言葉に、周囲のエルフたちは何も言えなくなってしまう。

その様子を見たリューは、面々の笑みを浮かべる。

 

「流石リヴェリア様!森が嫌になった同士!分かってくれると思ってました!」

 

「……お前はエルフを代表して世界を回り、歌ったのではないのか?」

 

「まさか!私が勝手にやってただけですよ。だからリュールゥなんて偽名を使ってたわけですし。当時の連中は人類全体が危機に瀕しているというのに、保身や威厳のために森に引きこもってばかりで。だから嫌いなんですよ、森にいる腐った王族も、そいつらを手放しに称賛する連中も!」

 

個人を称賛するのは良い。

だが、血筋だけを称賛するのは嫌いだ。

自分が何をやったわけでもないくせに、偉そうにふんぞり返って他者を見下して。

本当に吐き気がする。

彼ら彼女らへの怒りを宿し、語気を強めながらリューは言い切る。

その言葉遣いに思わず肩を震わせるエルフたちを見て、さらに冷たい視線を向ける。

本当に、もうどうでもいい存在にしか思えなくなっていた。

 

「ああもう!!終わり終わり!!折角アルとの冒険を終えた余韻に浸っていたのに、台無しです!」

 

手を大きく振りながら、彼女は強引に話を終わらせる。

リューは話を聞こうとしないが、エルフたちはそれでも言い募ろうとする。

そんな彼女たちをリヴェリアとフィンが落ち着かせようとしている中、リリは気になっていたことを聞く。

 

「前世での記憶があって、リュー様は歌い手と呼ばれた詩人だったのですよね?」

 

「ええ、そうですが?」

 

「じゃあ、その、エピメテウス様の時は――――?」

 

リリルカのその問いに、リューは少し目を伏せ顔を曇らせながら答える。

あの英雄の末路は、リューも思うところがあるのだ。

 

「当時私は別で動いていたから、面識はなかったんです。アルに感化された私達が本格的に動き出した時には、彼はもう隠遁していましたから」

 

「そう、だったんですか……。」

 

「だから、オリンピアに赴いた時も気付けなかった。説得に赴いたレフィーヤ殿か、讃えようとした彼がいれば、結末も違ったかも知れません」

 

「……彼?」

 

疑問に思ったリリルカが声を上げるが、リューがそれに答えることはなかった。

そしておもむろに顔を背け、話から逃げようとする。

結局、その答えをリリが知ることはなかった。

その答えを聞こうとする前に、フィンがリューに話しかけたからだ。

 

「うちの団員がすまなかったね」

 

「お気になさらず。でも、口外させないでくださいね。アルの思いを踏みにじるような真似はしたくありませんし、これ以上面倒になりたくないので」

 

「もちろん、約束するよ。ところで――――」

 

リューの口止めを快く受け入れるフィンだったが、その顔はどこか興奮が抑えきれない様子で。

ソワソワしながらも彼女に問いかける。

 

「歌い手ウィーシェはフィオナ騎士団のことも歌ってたよね…?」

 

「ほらぁ!!更に面倒くさいことになった!!全部ベート殿のせいですからね!!責任取ってベート殿が語ってくださいよ!!」

 

「知るか。そもそも、私達が知っているのはフィンやその騎士団員だけだ。フィアナと面識があるのはお前だけだろうが」

 

「え~…。彼だったら、ちゃっかり会っててもおかしくないですけどねぇ」

 

「いくらあいつでも、それはどうだろうな?まあ、どの道あいつはいないんだ。お前が語れ」

 

「はいはい…。分かりましたよ」

 

渋々と言った様子で、ベートに詰め寄っていたリューはフィンと向き合うことになった。

 

「で?何が聞きたいんですか?性格ですか?容姿ですか?それとも彼女たちから路銀くすねた時のことで文句ですか?」

 

「君、そんなことやったのかい?」

 

「あぁ、そういえばそこは残さなかったんでしたっけ?失言失言」

 

かなり面倒くさくなっているのか、適当な発言が目立っている。

だが、その中にある重要な情報をフィンは見逃さなかった。

 

「その口ぶりだと、女神フィアナが存在したのは事実なんだね…。」

 

「フィアナという小人族の女騎士は実在しましたが、女神はいません。神格化して書いた覚えもありませんし。多分、希望として担ぎ上げる過程で、空想が肥大化していったんでしょう。だから言ったんですよ。もっと親しみを覚えられるように、彼女の悪いところも語るべきだって。なのにやいのやいのと口を挟んできて……」

 

「口を挟んだって…、誰が?」

 

「前世の貴方が」

 

「…………はぁ!?」

 

たっぷり五秒間の沈黙を挟み、フィンの驚きに満ちた声が響く。

 

「あれ?これ言ってませんでした?じゃあ、やっぱ今のナシで」

 

「ナシに出来るわけないだろう!?ちゃんと説明してくれ!!」

 

「前世の貴方は二代目騎士団長フィンでした。フィアナとは腹違いの姉弟でした。以上」

 

「もっと詳しく!!」

 

「これ以上説明のしようがありませんよ。アルゴノゥトと違って、フィアナ殿以外はほぼ事実が伝わってるんですから。所々記憶の怪しい私より、貴方のほうが詳しいのでは?」

 

「い、いや、そうじゃなくて――――」

 

「それに、貴方だけではありませんよ。貴方を含めたフィアナ騎士団員は他にも何人かいます。ガリバー兄弟やライラだってそうです」

 

「前世であたし達は婚約してたらしいぜ?」

 

「最悪だ!!」

 

「そうそう。前世ではおしどり夫婦として有名で――――」

 

「おい」

 

「はい!違います!ライラは前世で小姓時代のあなたをこき使ってました!」

 

「どっちなんだよ!?」

 

ライラの軽口に乗り有耶無耶にしようとしたが、その寸前で響いてきたティオネの地を這うように低い声にビビり、既のところで惨劇を回避する。

ここにティオネがいなければこのまま話を通したのだが、そうは問屋が卸さないようだ。

 

「ホントのことを言うとライラ…、ヘルガはフィアナ殿が亡くなった時一緒に。他にも多くの団員たちが亡くなりました。その後の貴方は謀殺した王と王妃への復讐の道を選び、成し遂げた。それを止められなかったのは、私の罪です」

 

「………止められなかった」

 

「その後の貴方は魂が抜けたように暮らしていて、紆余曲折あって己を取り戻し最後の戦いに向かいました」

 

「………そっか」

 

前世の自分の最期を知り、フィンはどこか思いを馳せるように小さく呟く。

その様子とは対象的に、リューは脂汗を浮かべている。

 

「ただ、その、ですね…。隠居する貴方に協力要請に行った時、色々あって、エルミナ殿と、貴方が戦うことになって………。」

 

「おい、嘘だろ?嘘だって言ってくれ!!」

 

「嘘なものか。フィン、お前は前世から私の雄なんだ。私を打ち負かしたお前は私を組み伏せ、そのまま――――」

 

「嘘だそんなこと!!」

 

もちろん、嘘である。

だが、ティオネの無言の圧力に負けてリューは何も言えない。

誰も助けない彼を流石に憐れに思ったのか、ガレスが助け舟を出す。

 

「安心せい。夜這いこそされとったが、すんでのところで逃げとったぞ」

 

「良かったぁ!!」

 

「チィッ!」

 

既成事実はなかったということに心の底から安堵するフィン。

上手く言いくるめられそうだったのを邪魔されたティオネは舌打ちをするが、これ以上続けるつもりはないようだ。

もともと、こんな方法で上手く行っても不本意なところもあったのだろう。

大人しく引き下がってくれた。

 

「もう良いですか?疲れたんですけど…」

 

「それはこっちのセリフなんだが…、まあいいや。最後にもう一つだけ。フィアナは、どのような人物だったんだい?」

 

「どのようなって別に、普通の人でしたよ」

 

当時の彼女を思い出しながら、リューは語る。

 

「公的には騎士らしい佇まいと言動をしてましたが、素の彼女は意外と口が悪かった。悪口に悪口で返して、それを隣りにいたヘルガに擦り付けてました。生まれ持った厄介な力に振り回されながらも人の為に戦った偉大な騎士ではありますが、それでも彼女は完璧な女神でも聖女でもなく、ごく普通の女性でした」

 

彼女の素を知るリューからしてみれば、あれは女神などとは程遠い。

どこまでも人間臭くて、優しい人だった。

 

「……ちなみになんだけど、僕達と同じように、彼女の生まれ変わりはいるのかい?」

 

それは、ほんの出来心のようなものだった。

フィアナの伝説は知っている。

彼女がどんな最後を迎えたのかも知っている。

だからこそ、前世での弟として、知りたかった。

彼女がもし生まれ変わっているのなら、無事で元気に生きているのなら、それをひと目だけでも見たかった。

ただ、それだけだった。

 

「え?まあ、はい。いないと言えば嘘になりますけど……」

 

「もしよかったら、その人物を教えてくれないか?その人の邪魔をするつもりはない。ただ、生きて、笑っているところを、見たいんだ」

 

「えぇ……、と言われましても……。」

 

リューは思わずリリルカの方を見てしまう。

それは無意識に近い行動だった。

だが、注目の集まっているリューが見つめる先は、当然視線が集まる。

 

大勢に見つめられたリリは、欠伸を噛み殺していた。

小人族の過去に興味がないとまでは言わないが、自分には関係ないと思っているから油断していた。

だが、現実は非情だった。

 

「………なんですか?まさか、リリがその生まれ変わりとか言わないですよね?」

 

「残念ながらそのまさかですね」

 

「――――はあああああああぁ!?」

 

衝撃の事実を伝えられたリリルカは思いっきり後退りし、守るように自分を抱きしめる。

 

「知りません知りません知りません!!小人族の女神だとか騎士だとか、リリには関係ありませんッ!!今のリリはただのサポーター兼指揮官です!!よしんばリリの前世がフィアナだとしても、知ったことじゃありません!!今のリリはベル様一筋です!!ベル様大好きベル様愛してるッ!!小人族の栄光なんて知ったことかぁ!!」

 

怒涛の勢いでまくしたてるリリに呆気にとられる。

その一方、リューだけはだろうなと言わんばかりの顔をしていた。

 

「でしょうねぇ。ぶっちゃけ、前世なんか覚えてないなら関係ないですし。むしろ、私達が異質なだけですから。そんな神経質になって叫ばなくても、押し付けるつもりなんてありませんよ」

 

「それ、僕の目を見て言える?」

 

「貴方は…まあ、ドンマイってことで」

 

「おい」

 

今世の自分もやったとは言え、前世含めて愛情マシマシで迫られているフィンは怒りを含めながらリューを睨む。

だが、今はそれよりも気になることがあった。

 

「ねえ、リュー・リオン。聞きたいんだけど、君は僕がリリルカ・アーデに求婚したって聞いた時、どう思ったんだい?」

 

「その前にリリ殿がベルに惚れてるのは知ってましたからねぇ。リリ殿がベルに惚れてるのを見た時は笑いましたし、貴方が求婚した時は爆笑しました。その後フラレたと聞いた時にはもう失笑しましたね」

 

「よし、もう我慢の限界だ。ちょっと向こうで喧嘩しようか」

 

「嫌で~す」

 

その後、前世での関係を総洗いするための騒動が巻き起こることになり、自体はより混迷を極める。

フィンはリューにキレて喧嘩を売るし、ティオナ達は我関せずで止める気もない。

結局、迷走に迷走を続けたこの状況が収束するのに、約二時間かかった。

 


 

「やっと終わったの?」

 

ティオナはヘルメスから取り上げた一冊の本を眺めながら、小さく呟いた。

 

「そう言うんなら、少しは手伝ってください」

 

「嫌よ。面倒くさい」

 

「言うと思いましたよ」

 

リューの不貞腐れるような反応を横目で少し見る。

そして、それを見た後、持っていた本を火にくべる。

 

「「あぁああああああああ~~~~!!!」」

 

その瞬間二つの甲高い悲鳴が木霊する。

だが、間に合わなかった。

火は一瞬沈んだが、焚べられたその本を糧に強く燃え上がる。

本はすぐに黒く燃えていき、完全になくなるまで対した時間は掛からないだろう。

今ですら、読むことは困難だろうから。

 

「ちょ、何してんの、ティオナッ!?」

 

「貴重な文化的遺産でございますよ!?」

 

「うるさいわね。私が書いた本をどうしようが私の勝手でしょ?」

 

「だとしてもだよ!?」

 

「あ~あ、燃えちゃった」

 

燃える本を眺める3つの影。

その中の二つ、アーディと春姫は惜しむような視線を送っているが、もう一つは違った。

感情の薄い声色と声で、ただ眼の前の事象を詠み上げるかのように無機質に呟いている。

その影を眺めながら、ティオナは問いかける。

 

「そんなことより、良かったの?あそこは貴女にとって家族の眠る大切な場所のはずでしょう?――――メーデイア」

 

問いかけられたその人物。

森の守護者であるメーデイアは、小首を傾げながら振り返る。

 

そう、彼女は一行と共にオラリオを目指している。

一つの大荷物といくつかの小荷物を抱えて、森を離れることにしたのだ。

そのことを少し疑問に思ったティオナは問いかけるが、本人の答えはあっけらかんとしたものだった。

 

「良いも何も、住めた環境じゃないですよ。封印がなくなった以上遠くないうちに森もなくなるでしょうし、屋敷だってご先祖様の攻撃の余波で壊れちゃったんですから。そんな環境に一人留まり続けるなんて、流石にそこまで酔狂な真似はしませんよ」

 

「でも、家族のお墓は……」

 

「いいんですよ、別に。どうせ下に何が埋まってるってわけじゃないですし。オラリオに行って、それなりに立派な一族碑を建てられればそれで満足です」

 

「……そう」

 

「それに、一番大切なものはちゃんと持ち出せてますから」

 

メーデイアは持ってきた荷物を眺めながら、そう言った。

その顔は憑き物が落ちたように穏やかに微笑んでおり、それを見るだけでこれ以上は無粋だと分かる。

 

「貴女が良いなら、これ以上は言わないわ。ただ、お墓を作る時は言って。そのお金くらいは用意するから」

 

「お構いなく。自分で稼ぎながら、ゆっくりと作っていきますよ」

 

ヒラヒラと手を振りながら、ティオナの提案をやんわりと断るメーデイア。

ティオナは納得してないようだが、少なくとも彼女にお金を受け取る意志はないようだ。

もう少しその話を続けようとしたティオナだったが、その前にメーデイアが持ってきた荷物が気になっていたフィンが話しだしたことで、それは中断される。

 

「そういえばイルコス、何を持ってきたんだい?それなりに大きなものを運んでたけど」

 

「ん?あぁ、これですか。大したものじゃありませんよ。ただ、頑張った英雄の方々への報酬代わりというか、なんというか――――よいしょ、ドンッ!」

 

「効果音自分で言う人初めて見た……。」

 

「ずっと森にいたくせにそんなのどこで覚えてくるんだ?」

 

神々の言うところの電波的行動を繰り返すメーデイアに若干呆れながら、一同は包み布の中から取り出されたそれを目にする。

 

「……絵画?」

 

「それ…、無事だったの!?」

 

「ええ、まあ」

 

書斎の天井に飾られていた絵画。

アルゴノゥトと英雄たちの日々を切り取った、最初で最後の一枚だ。

所々傷んだり破けたりしているが、それでも許容範囲内だろう。

人物が描かれている部分に大きな損傷はないし、修繕が効くレベルだ。

 

「書斎も崩れてたのでダメかと思ったんですが、ギリギリ残ってました。保護された状態で飾られていたっていうのが大きかったのでしょうね。とは言え、他の本は全部ダメになってましたけどね」

 

「それが残ってるだけでも奇跡でしょうに……」

 

「それもそうですね。ま、というわけで。お譲りしますので、お好きにどうぞ」

 

「……いいの?」

 

「ええ。私が持っていてもしょうがないですし。あなた達の手に渡る方が、描いた町娘も本望でしょう」

 

差し出されるそれを、代表してアイズが受け取る。

自分たちが受け取ってもいいものかと少しの葛藤があったが、自分の思いに嘘はつけず。

ほんの少し震える手で、受け取った。

 

「ありがとう、ございます…。」

 

「いえいえ。お気になさらず~」

 

なんてことないように答えるメーデイアに、少し苦笑する。

掴み所がないのはアルゴノゥトに似ているが、彼とはまた違う。

それが彼女が自分の人生を歩み始めたように思えて、どこか嬉しかった。

 

「いいな~、私達もなんか欲しい~」

 

「えぇ~、そう言われましても~。なにかあったっけ~」

 

間延びする口調で冗談交じりにそう言ったアリーゼに、同じような口調でメーデイアは答える。

懐をあさりながら何かないかと探していたが、渡せそうなものが見つかったのかそれを取り出した。

 

「あ、賢王アリアドネの手記がありました」

 

「何であるんですか!?」

 

メーデイアの手から手記をひったくったアイズはそのままの勢いでそれを火にくべる。

 

「「またあああああああああああ!?」」

 

「あ~あ、燃えちゃった」

 

同じようなリアクションを取る三人。

メーデイアはどこか他人事のようだった。

 

「なんでそんなピンポイントに私にダメージがあるようなもの持ってるんですか!?」

 

「いやぁ、いるかな~って思って、戦いの前に書斎から抜き取ってました」

 

「だとしても!!なんで書いた本人の前でそれを渡そうとしてるんですか!?」

 

「冗談ですよ、冗談~」

 

メーデイアは表情を変えることなくヘラヘラとしているが、その態度がどこか苛立たしい。

悪気があるのかないのかすら分からないが、絶対に悪戯心はあったと思う。

 

「あ、そこのお二人はそんなに気を落とさなくても大丈夫ですよ。二つの手記を含め、今まで見たすべての本の内容は覚えてますから。写本程度ならいくらでも作れます」

 

「「ホントッ!?」」

 

「「今はその記憶力が憎い!!」」

 

実行に移すかどうかは別として、彼女には容易く実現できるのだろう。

それが分かっているからこそ、二人には耐えられないのだ。

自分の感情やアルゴノゥトへの思いを色々書きまくった記憶があるあの本が、絶対に手出しできない場所に残り続けているのだから。

 

「そこの二人の羞恥は置くとして、メーデイア。お前、これからどうするつもりだ?」

 

「どう、とは?」

 

「オラリオについた後だ。ファミリアに入るのか?」

 

「あ~、そういう意味ですか…」

 

ベートの問いかけに少し悩むような仕草を見せるメーデイア。

しかし、ある程度は考えていたのか、すぐに答えを出す。

 

「一旦は適当なところで働いて、オラリオの様子をある程度知ってから身の振り方を選ぼうと思います。それまでの間、ご先祖様たちのどちらかで居候させていただけると幸いです」

 

「別に、無理に今すぐ働いたりファミリアに入ろうとしなくてもいいのよ?貴女がどこかに嫁いだり、あるいは安定した生活を送れるようになるまでだったら私達が面倒見るから。私達のところが嫌なら家くらい買ってあげるし」

 

「無駄飯食らいになるのは性に合わないので。あと、事あるごとに私に貢ごうとしてくるのは何なんですか?」

 

今まで頑張ってきたアルゴノゥトの子孫。

それだけで、彼女たちからしてみれば無碍に出来ない存在だ。

アルゴノゥトの子どもは自分たちの子どもも同義。

メーデイアが止めろと言わなければ、際限なく甘やかし続けるだろう。

 

「そういうことだったら、ヘスティア・ファミリアのお世話になると良い。僕が言うのも何だけど、こっちに来たらロキにセクハラされかねないからね」

 

「ちょ、フィン!?何言うてんねん!?貴重な逸材やで!?なんでわざわざドチビんとこにくれてやらんといかんねや!?」

 

完全記憶能力に大精霊の加護。

見目も麗しく美しい。

教養もある程度しっかりしているし、人格面も多少ズレているところがあるが問題はない。

まごうことなく優良物件。

まごうことなく常軌を逸した存在だ。

ここで逃がすには大き過ぎる魚だと言えるだろう。

とは言え……。

 

「ヘスティア・ファミリアの世話になるってだけで、入ると決まった訳じゃないだろう?それと、発言には気をつけた方が良いよ?」

 

「――――へ?」

 

フィンに詰め寄っていたロキだが、彼が指差す方を見ると表情を失う。

自派閥であるアイズやティオナを含め、前世組全員にとんでもないレベルで睨みつけられていたのだ。

思わず息が止まるのを自覚する中、ティオネが重々しく口を開く。

 

「ロキ、言っておくぞ?メーデイアに手を出すのであれば、私達全員が敵に回ると思え」

 

「自分の意志で儂らの所に来るならそれでも良いが、少しでも無理強いするのであれば潰すぞ」

 

純粋な脅しを受け、萎縮するロキ。

準幹部含めた五人に裏切られるのは流石に不味い。

嫌々ではあるが、勧誘を諦めざるを得ないようだ。

 

「メーデイアさん、ファミリアや働く環境などで理想とか要望みたいなのってありますか?一応大派閥ですし、ある程度の推薦が出来るかも知れませんよ」

 

「う~ん、理想ですか…。」

 

レフィーヤからの問いかけに、メーデイアは悩む。

流石にそこまでは考えていなかったのか、先程のようにスッと答えが出てこない。

だが、やがて答えを見つけたのか指を立てながら話し始める。

 

「働く環境は、特に。適当な場所で売り子でも出来ればそれでいいです」

 

「じゃあ、ジャガ丸くんの売り子あたりが無難ですね。ヘスティア様、口利きお願いしてもいいですか?」

 

「まっかせろ!!」

 

ヘスティアが親指を立てながら二つ返事で了承する。

 

「ファミリアの方は、そうですね…。信頼が置けるのは大前提として、まず経済的に安定してる所が良いですね。借金など論外です」

 

「グッフっ!!」

「ドチビ、ザマァ!!」

 

「それと出自が出自ですから、主神様に変なイタズラをしない程度の良識があることも重要ですね」

 

「じゃあロキは無理だな」

「なんでやねん!?」

 

「それと、血を絶やすことにも抵抗があるので、いつか良人を見つけた時暖かく迎え入れる、あるいは送り出してくれるような所の方が良いですね」

 

「アストレア・ファミリアにフラグ立った!?」

 

「先輩となる団員の方々に子どもや恋人がいれば、前例となりより安心できますね」

 

「フラグが折れたっ!!」

「アリーゼ、ちょっと黙ろうか」

「となると、今一番有力なのはデメテル様のところなどですかね…」

 

「ファミリア運営にある程度のノウハウがあり、しっかりしていることも大事です。それと、これが一番重要なんですが――――」

 

そこで少し悩むようにしながらも、メーデイアはそれを口にした。

 

「しっかりとした強さがあればいいですね。皆様レベルとまでは言いませんが、有事の際に身を守れるだけの力は欲しいです」

 

「あ……、あぁ、じゃあ、無理、なんですかね?」

 

「それに、デメテルも子どもを何人も失ったばっかりだし、結構特殊なこの子を抱えるのは危ないんじゃない?」

 

「それもそうですねぇ…」

 

春姫ですらレベルブーストが知られて狙われているのだ。

それを知っている以上、様々な事情を抱えるメーデイアも万が一を考えないわけにはいかない。

メーデイアに自衛能力はあるし、アイズたちも守る気満々ではあるが、それでも限界はある。

何かあった時他の団員を人質に取られるような自体は避けたい。

 

「まあ、あくまで理想です。全部が全部叶えられるとは思ってませんよ。オラリオで生活をしながら、ゆっくり妥協できる点を探していこうと思います。何分、世間知らずですから」

 

「そうですね、それが良いと思います」

 

「今のところの第一候補はアストレアのとこかな?」

 

「そうねぇ、そうなるかしら」

 

「どうせアーディくんが遊びに来るだろうけど、他の子も交流を持ってくれたら助かる」

 

「ええ、もちろん」

 

現状最有力候補との交流を約束しながら、とりあえずこの会話はここで終わり。

後日、この話を聞いたベルが

 

『あ~、心当たり、ありますね。後二ヶ月くらいしたらオラリオに来ます。全員性格に多少の難はありますけど』

 

と言ったのはまた別の話。

その心当たりを前にした他の神々が顔を青白くさせるのも、また別の話だ。

 

「あの、話も一段落したところで、よろしいですか?」

 

おずおずと手を上げながら発言するのはアスフィ。

何の話があるのかは、必然――――

 

「そろそろヘルメス様をどうにかしてほしいのですが……」

 

アスフィが指差す先には、最初の日の夜のように磔にされ火に炙られているヘルメス。

ちなみに、アイズとティオネが本を燃やした焚き火は、ヘルメスを炙っている火だ。

ここで初めてヘルメスのことを思い出したように、古代組達はヘルメスを睨みつける。

 

「そういえばいたな、こんな奴。どうする?送還させるか?」

 

「神殺しは大罪ですよ、ベート殿」

 

「ロキ、帰ったらジャガ丸くんあげるからお願い」

 

「いや、流石にうちでもジャガ丸くんでは殺さんわ」

 

猿轡をされて喋ることが出来ないヘルメスを前に、好き放題言っている。

当然必死に何かを訴えているが、何を言っているかはわからないし聞く気もない。

 

「一応さ、弁明位はさせてあげようよ。流石に可哀想じゃない?」

 

「これに同情する気はありませんが、ヘスティア様が言うのであればそうしましょうか」

 

リューがヘルメスに近づき猿轡を外す。

当然磔からは外すつもりがないので、そのままだ。

それでもようやく喋れるようになったヘルメスは、勢いよく喋り始める。

 

「ブハッ、ちょ、待ってくれって皆!!俺今回そこまで悪いことした!?」

 

「メーデイアに配慮の欠けた対応をした」

「アルゴノゥトの思いに土足で踏み入った」

「私達を散々弄んだ」

「純粋にムカつく」

 

「最後のは理不尽すぎない!?」

 

ヘルメスは理不尽を訴えかけるが、彼らは一切動じない。

それどころか汚物を見るような目で見つめている。

 

「悪いことをしてないと言いますが、そもそもメーデイア殿の危機を伝えるだけなら他にも方法はあったでしょう?なぜわざわざ私達を逆撫でするような真似をしたんですか?」

 

「えっと、それは……。」

 

「どのような理由があろうとそれは許す理由にはならないが、その様子ではまともな理由すらないようだな。妙な悪戯心が湧いたか、あるいは知的好奇心が疼いたか?」

 

「ギクゥッ!?」

 

「よし、問答無用で有罪だ。リュー、口を塞げ」

 

「了解!」

 

「ちょ、待って待って待って!!」

 

「はいはい、皆一回落ち着いて」

 

情状酌量の余地なしとして猿轡を再度取り付けられそうになり、叫ぶヘルメス。

怒りのあまり暴走している英雄たちを諌めたのは、ベルの保護者でもあるヘスティアだった。

 

「気持ちも分かるけど、勝手に決めない。ベルくんが一番の被害者なんだから」

 

「へ、ヘスティア……!」

 

「ちゃんとベルくんの分も残すようにね」

 

「「「「「了解です!」」」」」

 

「ヘスティア!?」

 

ヘスティアからも見捨てられたヘルメス。

とはいえ、一応命の保証だけはされたようだ。

最終的に火あぶりではなく、全員から一発ずつぶん殴られた後逆さ吊りで一晩放置されるだけですんだ。

ちなみに、ヘルメスの処遇をどうするか聞かれたベルは

 

『どうもしませんよ、僕は』

 

と言った。

ヘスティア達は、ベルはやはり優しいと感心していたが、ヘルメスだけはその言葉の真意を知り顔を青ざめさせていた。

なぜそうなったのか、その答え合わせの日は近い。

 


 

そうしてヘルメスを一通りボコボコにしてある程度落ち着いた後。

ヘスティアは思い出したように言った。

 

「そう言えば、ベルくんランクアップする」

 

考えないようにしていたことを思い出してしまったのだろう。

その顔は苦悶に満ちていた。

ヘスティアの言葉を聞いた周囲はと言うと――――

 

『『だと思ったよ、畜生!!』』

 

叫んだ。

 

「派閥大戦前にランクアップしてからまだ3週間程度だぞ!?」

 

「ちなみに、アビリティはオールS超え」

 

「いかれてんのか、あいつは!!早すぎるわ!!」

 

「ホント、ヤバいよね…。ぶっちゃけるとさ、ベルくんの最終ステイタス、レベル3に上がる時魔力がAだっただけで、それ以外全部S超えてたからね?レベル5の時とか全部SSSだったからね?」

 

「どうなってんだ、あのバグ兎は!?」

 

一通り叫んだあと、全員が肩で呼吸をする。

気を落ち着かせるように空を見上げながら、大きく息を吐く。

 

「どうするんだ、俺達ですら追いつかれたぞ?」

 

「残るはガレス一人ね…。」

 

「レベルなんて最早指標にならんわ。今までなら儂らの力がなければギリ勝てたかもしれんが、雷霆の剣がある以上サシでも勝てんぞ?」

 

「えっと、そのことなんだけどさ……」

 

ヘスティアは悩むように言い淀むが、やがて意を決して話し始める。

ステイタスを書いた羊皮紙を手に持ち眺めながら。

 

「【英雄神話(アルゴノゥト・イルコス)】のスキル効果が何か影響がないか調べるために、メーデイアくんが荷物まとめてる間にボク達だけステイタス確認したじゃん?」

 

「ええ、人数が少なく丁度いいから、と。それがどうかしましたか?」

 

結局特に何も問題なかったと結論付けられた。

道化行進(アルゴノゥト)】のスキル効果はベルが目覚めるまで使えなくなっているが、それ以外に影響はない。

そう判断された。

 

「本当は都市に戻ってから言おうと思ってたんだけど、もう丁度いいから今言うね?ヴェルフくん、エルフくん、ベートくん。君達三人、ランクアップできるよ」

 

「「「………はぁ!?」」」

 

三人とも最後にランクアップしたのは最近だ。

ベルに比べれば昔になるが、これは比較対象がおかしいだけ。

一般的な冒険者にしては、早すぎるレベルだ。

 

「エニュオとの戦いや派閥大戦はあったとしても、早すぎませんか?」

 

「この分だとヴァレン某くんたちもかな?もちろん、ベルくんみたいにオールSとかはないよ?得意なアビリティが辛うじてD、良くてもCに届いている程度で、それ以外は殆どEとかFだったし。でも、偉業は満たされてるからランクアップできるんだよ」

 

「ちょ、待っとれ!アイズたん、更新すんで!」

 

「ちょ、ロキ!?」

 

ロキに手を引かれる形で、テントの中に入っていたアイズ。

その直後ロキの悲鳴が聞こえ、続いてティオナ、ティオネ、レフィーヤ、ガレスのステイタスも更新された。

結果、アイズ、ティオナ、ティオネの三人はランクアップが出来ることが判明した。

ランクアップできなかった二人にしても、ステイタスは大きく伸びており、アビリティがDに届き次第ランクアップ出来るだろうとのこと。

つまり、偉業が達成されているのだ。

 

「いや、あ、偉業は分かりますけど……。」

 

獅子との戦いは、ある意味で過去との決別だ。

過去を乗り越えた、大きな戦いだ。

偉業としては十分すぎると言えるだろう。

だが、アビリティの伸びがおかしいのだ。

 

「考えられるのは、英雄神話(ベルくんのスキル)の副次効果。経験値を増やす、みたいなのがあるかもしれない。ま、だとしても検証は簡単じゃないだろうけどね」

 

言うまでもなく、反動が大きいのが主な原因だ。

スキルを使えばベルは3日間意識を失うことになってしまう。

それに、大抵の相手は使うまでもなく倒せるし、使うほどの相手でも使ってしまえば簡単に倒せる。

スキルを使っても簡単に倒せない相手など、戦えば命の保証はない。

検証するには、様々な面でリスクが高すぎるのだ。

 

「答えは謎の中。ま、命からがら使って、もし大きくステイタスが伸びたんならラッキーだな、くらいに思っておいた方がいいだろうね。使うにはリスクの高いスキルだし」

 

「そうですね…。それがいいでしょう…。」

 

「それに、案外スキル効果じゃないかもしれないしね」

 

その言葉に思わず目を丸くしてヘスティアを見る。

手に持った羊皮紙を火に投げ捨てながら、ヘスティアは薄く微笑んでいる。

 

「スキル効果じゃないなら、一体――――?」

 

「う~ん、有り体な言い方をするなら、英雄からの最後の贈り物、かな?」

 

その言葉を聞いて、全員が思わず吹き出してしまう。

声を上げながら、笑った。

 

「最後の贈り物、か。なるほど、生真面目なあいつらしい」

 

「そう思っていたほうがロマンがあるだろう?」

 

おちゃらけるように語るヘスティア。

そして、女神として、戦いを見届けた一人の(おや)として。

 

「英雄に代わり、君達にこの言葉を送ろうと思う。――――おめでとう、皆」

 

アルゴノゥトのように、ベルのように。

眩しい笑顔を浮かべながら、ヘスティアは言った。

 

そして都市に戻った後、彼らは全員ランクアップすることを選んだ。

このままステイタスを伸ばすことも考えたが、この道を選んだ。

それは贈ってくれた英雄への敬意であり、対抗心だった。

 

このまま置いていかれるつもりはない。

彼らは全員、英雄の隣で戦うために武器を取ったのだから。

ベルを支えるために、ベルと戦うために。

彼らは強くなるのだ。

 


 

あとがき

 

ウソダドンドコドーン!!

ネタが分かる人には分かると思います。

あのシーンはこういう感じで読んでください。

 

それはさておき。

英雄神話終わりました~。

この後は学区編を挟んで、お義母さん襲来の続きを書いて、時々IFルートの続き書いて、時を渡る道化師を書こうと思います。

このお話の中ではアーディさんは生きてますし、アストレア・ファミリアも半分だけですが生き残ってます。

なら、過去に行って誰を助けるのか。

ある程度考えてるので、頑張って書いていきたいです。

 

時を渡る正義の乙女たちの方も、頑張って書いていきます。

あれ、最後に更新したの一年前でした。

この前のダンクロ見て、ようやく書かなきゃなって思いました。

本当にすいません。

誰か書いてくれる人、まだ募集してます。

 

以上、あとがきでした。

 

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