道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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IFルート2-6【貞潔/貞淑】

 

IFルート2-6

 

これまでのあらすじ

 

学区VSオラリオ支配下連合で全面戦争勃発。

ザルド、レオン学区組でフレイヤ・ファミリア幹部とロキ・ファミリア含めた第一級冒険者を足止め。

ベル、リューの二人は戦いの野に潜入しヘスティアの奪還に成功。

その後やってきたフレイヤ率いられた古代組・その他のフレイヤ・ファミリア団員らと交戦。

ヘスティアはヘラと合流し、魅了解除を開始。

 

 

相対するフレイヤたちを嘲笑いながら、ベルは武器を構える。

その嘲りを見て不愉快そうに眉をひそめる。

 

「何が、そんなにおかしいのかしら?」

 

「これが笑わずにいられるか?一丁前に持っていたプライドをかなぐり捨て、それでも私を手に入れられず、こうして世界に混沌を撒き散らし、無様に金切り声をあげている。誇れ、今のお前は道化より道化らしい。世界中の神と人に笑わせられるだろうさ」

 

「ほぼ勝ち確だからって、あんまり煽らないでほしいんですけど?あとで大変になりますよ?」

 

煽るベルを窘めながらも、リューの顔には余裕が生まれている。

二人はもう、勝利を疑っていない。

 

「……勝てると、本気で思ってるの?この人数差で?このレベル差で?」

 

「勝てるさ。自我のない操り人形に負けるほど弱くはない」

 

「アイズ殿たちの相手は嫌なんですが、それ以外ならどうとでも。散々いたぶってくれた借りもありますしね」

 

話にならない。

互いの主張はどうあっても相容れない。

互いが自身の勝利を疑っていない。

だが、フレイヤがどう考えてもベルたちの勝利はありえない。

 

ザルドとレオンはたしかに強い。

だが、決して勝てないわけではない。

反則級の魔法を持っている春姫を含め、オラリオの全戦力を集中させれば倒すことは可能なはずだ。

そして、ヘスティアを解放したところで今更出来ることなどない。

 

あの神殿は作り上げるのに入念な事前準備が必要になってくるはずだ。

少なくとも、自身の持つ魅了の権能とは違い、容易く行使できるような代物ではない。

ならば、今のヘスティアには何も出来ない。

もし借りに他の処女神の力を借りて解除を試みたとしても、それは不可能。

 

自身の魅了を解除できるのはおそらく、ヘスティアと同格のアテナ、アルテミスの三柱だけ。

アテナの具体的な所在などは知らないが、少なくともオラリオ近辺にはいない。

そして、アルテミスは死んでいる。

他ならぬベルが殺したのだから。

 

そもそも、解除にはヘスティアと同じ手順を踏む必要があるが、支配下に置かれた今のオラリオでは出来ない。

入ってくる人々を含めて、すべて完全に支配できている。

一回目のような隙は完全に潰した。

仮にアテナがいたとしても、自らの布陣は揺るがない。

 

揺るがない……、揺るがないはずだ。

なのに、なぜだ?

なぜだか悪寒が止まらない。

重大な何かを見落としているような気がしてならない。

 

「いえ、そんなものはないわ。今の私に隙はない。今のベルたちに負ける可能性なんて、あり得ない」

 

自分に言い聞かせるように、フレイヤは呟く。

そんな自分を、どこか滑稽なものでも見るかのように眺めるベルたちの視線には、気が付かない。

 

「一刻も早く、ベルを捕まえなさい!」

 

思考を切り替えたフレイヤは素早く指示を出す。

その瞬間、魅了により自我を奪われたアイズたちは一斉にベルに襲いかかる。

レベル差も人数差も圧倒的。

いくら行動が鈍っていても負ける理由はない。

そして何より、ベルがまともに攻撃できるとは思えない。

 

自らを攻撃しようと、どれだけ自身を傷付けようと、彼女たちはベルにとっての英雄であり、友だ。

攻撃なんて出来るわけもない。

まして、支配されて無理やり攻撃させられている現状なら、尚の事。

 

「ベルっ!!」

 

「――――ッ!」

 

やはり動きは鈍い。

思考と動きが噛み合っていない。

アイズに切られ、レフィーヤの魔法に焼かれ、殴られ、蹴られ、ベルの身体はすぐにボロボロになっていく。

リューはフレイヤ・ファミリアの団員たちを相手にしながらベルを援護しようとするが、うまくいかない。

ベルは成すすべなく傷ついていく。

 

「あら?呆気ないわね。さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら?」

 

ベルのその様子を見て、フレイヤは言いようのない気持ち悪さを覚える。

こんなことを言いたいわけじゃないのに。

こんなことをしたいわけじゃないのに。

 

彼に恋してほしいだけなのに。

彼に恋したいだけなのに。

彼に愛してほしいだけなのに。

彼を愛したいだけなのに。

 

ただ彼に――――。

 

ベルへの思いがフレイヤの胸を締め付ける。

ベルへの思いがフレイヤを苦しめる。

ベルが傷つくのと同じように、フレイヤの心も傷ついていく。

 

だが、そのすべてを飲み込むように、爆炎が上がる。

フレイヤの抱く思いを焼き尽くすように。

そのすべてが愚かだと断じるように。

 

アイズやベートたちを含め、自身を襲う英雄たちを巻き込みながら。

その爆炎はすべてを焼き焦がす。

 

「ようやく感覚が掴めてきた。やはり、何度経験しても慣れるのには時間がかかるようだな」

 

「………どういう、こと?」

 

支配されたアイズたちは爆炎を喰らいながらも何とか回避し、距離を取る。

傷は負っているようだが、戦闘不能になるほどではない。

だが、フレイヤが驚いたのはそんなことではない。

その爆炎を放ったであろう、ベルの様相だ。

 

「何に驚いている?よもや、私がアイズたちに攻撃出来ないとでも思っていたのか?だとすれば、これまで以上にお前の頭の出来を疑わなくてはいけないようだ。どれだけお花畑なんだ?」

 

一歩一歩踏みしめるように、ベルは前に歩いていく。

先程の攻撃は自分すらも巻き込んでのものだったようで、その上半身は一部が焼けただれ筋組織が露出している。

だが、それらはまるで逆再生でもするかのように消えていく。

 

「私を傷付けたと知れば、アイズ達が傷つくだろう?ああ、そうに決まっている。私の英雄たちは優しいからな。自分を責め立て、苦しむことになる。そうなるくらいなら、私が傷付けたほうが幾分かマシだ」

 

英雄が傷つくくらいなら、そのすべてを背負う。

その覚悟を秘めながら、ベルはフレイヤを睨みつける。

 

「覚悟しろよ、フレイヤ。今の私は、優しくないぞ」

 

白き女王をその身に宿しながら、彼は戦う。

 


 

時は少し戻り、学区での作戦会議。

都市全土に施された魅了をどのようにして解除するのかという議題の時だ。

ヘラは唐突に語り始める。

 

「私とヘスティアは共通点の多い、とても似通った存在だ」

 

「え?」

 

その言葉に呆気にとられ、思わず声をこぼしてしまったのがリュー。

まあ、その反応は仕方ないだろう。

あの温和で優しくてグータラなヘスティアは、この暴虐で理不尽で規律正しい女神とは大凡正反対の存在と言えるだろうから。

声にこそ出していないものの、ゼウスも同じこと思った。

 

自認ヘスティアかよ、と思ってしまった。

 

しかし、そんなことを言ってしまえば折檻を受けるのは目に見えているので必死に飲み込んだ。

ザルドとレオンはヘスティアを知らないから、堪えられた。

もし知っていたら堪えられなかっただろう。

ヘラと付き合いの長い彼らですらこうなのだ。

知り合ったばかりのリューが思わず声をこぼしてしまうのは仕方ないことなのだ。

だが、その反応に対してヘラが怒らないかはまた別の話。

リューの胸ぐらを掴み上げながら、ヘラは詰め寄る。

 

「おい、小娘。何が『え?』だ?何を疑問に思った?何に驚いた?言ってみろ」

 

「あ、いえ、ちょ!あ、あれですよ、あれ!!その、よ、容姿とか!?美しさの中にちょっと幼さの残るヘスティア様とはイメージが違ったので!!」

 

完全に口から出任せだが、嘘はついていない。

それはヘラにも分かった。

本来ならこんなものを許すつもりはないが、ベルがいる手前多少脅すだけに留める。

敬愛するヘスティアを嘘偽りなく美しいと評したこともあって、許すことにした。

 

「はぁ…、そういう話ではない。司る事物や性質に関してだ」

 

呆れたようにリューを投げ捨てたヘラは椅子に座り直し居住まいを正す。

そして、一つ一つ丁寧に説明していく。

 

「ベル、ヘスティアがどういったものを司っているか、聞いたことはあるか?」

 

「えっと、初めて恩恵を刻んでもらった時自慢げに言ってたのは確か……、『竈門』『家庭』あとは、『悠久の聖火』」

 

「うむ、よく覚えていたな。それで概ねあっている。ヘスティアは家庭、家族といった人間社会の最小コミュニティの守護神であり、悠久を司る貞潔の女神。孤児などの孤独を抱える子どもの保護者でもある。では、私が何を司っているか……、おい、そこのクソガキ。答えてみろ」

 

「俺かよ…。婚儀とか婚姻を司ってるんじゃなかったか?お前んとこの連中が自慢げに言ってたぞ」

 

「不正解だ、アホが。私は婚儀と婚姻、そして貞淑や母性を司る女神であり、夫を持つ全ての女性の守護神だ。ちゃんと覚えておけ」

 

「……殆どあってるじゃねえか」

 

「なにか言ったか?」

 

「なにも!」

 

ブツクサと文句を溢すザルドを睨みつけながら、ヘラは話を続ける。

 

「字面を見れば分かるだろうが、私とヘスティアは切っても切れない関係にある。婚姻と家庭は密接に結びついているし、貞淑と貞潔は紙一重だ。強いて違いを挙げるとすれば、私は家庭などの制度という側面を司り、ヘスティアは家庭や家族という在り方を司っている」

 

「えっと、つまり?」

 

「つまり、支配するか見守るかの違いだな。私達は共に秩序を司り、安寧と平穏を守ろうとする存在――――」

 

「「「は?秩序?平穏を守る?お前が?」」」

 

天界に血の雨を降らせたくせに。

オラリオを阿鼻叫喚の渦に陥れたくせに。

眷属率いて暴れまわってたくせに。

 

ゼウス、ザルド、レオンは口々に言う。

そんな事を言ってしまえばどうなるか。

まあ、お察しのとおりだ。

三人並んで正座させられ、その上に石板を置かれている。

苦悶の表情を浮かべながら正座している三人を、ベルとリューは憐れむような視線で見つめ、アルフィアは冷たく見下している。

 

「私とヘスティアは近しい事物を司り、共に秩序側の存在ではあるが、それに対する在り方が違う。私は秩序を守り、平穏を齎すためには武力を用いることも辞さないが、ヘスティアはそうではない。神々の女王として武力も有している私と違い、ヘスティアは本当に温和で無害な神なんだ」

 

三人に石板を追加しながら、ヘラは語り続ける。

これにツッコんではいけない。

下手に彼らを助けようとして口を挟めば巻き添えになりかねない。

 

「おい、話が逸れてきてるぞ。要点を絞って簡潔に話せ」

 

「あいも変わらず不遜な娘だ。まあいい。簡潔に言えば、多少の差や違いこそあれど私達には互換性があるということだ」

 

「じゃあ、あなたでも魅了の解除は出来ると?」

 

「出来るわけないだろうが。近しい性質こそ有しているものの私は処女神ではないし、そもそも単純な神としての格で言うならヘスティアは愚夫(ゼウス)と同等かそれ以上だ。ヘスティアは私の代理が出来るだろうが、私にヘスティアの代わりは出来ん」

 

想像以上にヘスティアを持ち上げて語るヘラに、驚いているリュー。

だが、その驚きこそがヘラにとって不本意なものなのだ。

 

「まったく、どいつもこいつもヘスティアを軽んじ過ぎなんだ。それが特にひどいのがあのまな板女だ。ヘスティアにくだらん因縁をつけて絡んで……、身の程を知れ」

 

「えっと……」

 

「お前たちが思っている以上に、ヘスティアは偉大な神だということだ。将来どんな家庭を持つにせよ、穏やかな家庭を築きたくばヘスティアへの信仰と尊敬は絶やすな」

 

ヘスティアは信仰をする人間社会そのものを支える守護神であるのだ。

炉のあるところにヘスティアへの信仰あり。

家庭で使われる竈門から、儀式で用いられる祭壇まで。

そのすべてをヘスティアは司っている。

 

家庭という基盤を支え、人間の国家を支え、悠久を齎す。

そして孤児たちの保護者でもあるのだから。

人間たちの社会や信仰は、すべてヘスティアありきで存在していると言っても過言ではない。

 

「私がヘスティアを敬愛しているのは、何もその神格や神望だけの話ではない。ヘスティアは私が唯一、絶対に勝てないと思ってしまった神だ。こういう側面において、ヘスティアは私の上位互換に等しい。故に、ヘスティアは私を使うことが出来る」

 

ヘラはオラリオを中心とした地図を広げ、周囲にある村々に印をつけていく。

 

「私が神殿を降ろす場合必要になってくるのは婚姻関係にある男女、最悪既婚女性か恋人関係の男女でもいい。それらに私のイコルをもたせる必要がある」

 

「魅了の支配下にあるオラリオで、そんなこと可能なの?」

 

「不可能だろうな。だから、範囲を広げる。オラリオだけでなく、周囲に点在する村にまで」

 

オラリオの周囲にある山や森を超えた先などに、村はいくつか存在する。

今回使うのは、それだ。

 

「おい、クソガキ。こういう男女に溢れた場所だ。どうせ生徒たちの中に恋人関係になっている奴らくらいいるだろう。そいつらを見つけて連れてこい。全員だ。今はとにかく数がいる」

 

「え?どうやって?」

 

「そんなもの、一箇所に集めて挙手させればいいだけだろう」

 

「鬼かお前は!!多感な時期の子どもたちを吊し上げる気か!?」

 

「知るか、そんなこと」

 

「だいたい、そんな真似イズン様が許すわけ――――」

 

「ああ、あの小娘か。安心しろ、私が畳んでやる」

 

「安心できるか!?」

 

「タダでとは言わん。礼として、そいつらが祝言を挙げる際には私が祝福してやろう。光栄に思え」

 

「ヤンデレなクレイジーサイコを量産する気か!?生徒たちがお前みたいになったら世の終わりだわ!!ていうか、相手の男子生徒が気の毒だわ!!」

 

「なんだ、その口の利き方は?石板を増やしてほしいならそう言え」

 

「やめろやめろやめろ!!」

 

「まあ、お前がやらないならやらないでいい。私がやるだけだ」

 

「それこそやめろよ!?お前に任せるくらいなら俺がやった方がまだマシだわ!!」

 

「じゃあやれ」

 

ヘラからの思わぬ注文に慌てふためくレオンだったが、最終的には口車に乗せられてしまう結果に。

巻き込まれてしまった学区の子どもたちが可哀想で仕方ないが、これも世界のためだと割り切ってもらうしかない。

これも全部フレイヤって奴のせいなんだ。

 

「具体的にはどうするつもりなの、お祖母ちゃん」

 

「さっき言った生徒共を村々に派遣し、そこで数を増やす。結婚していれば年齢は関係ないからな。それなりの数にはなるはずだ。それを起点に私の神殿を作り上げる。そして、その神殿をそっくりそのままヘスティアに明け渡す。本来こんな真似は出来ないが、私とヘスティアの関係性なら出来るはずだ」

 

「村々を起点にって…、大丈夫なんですか?距離の問題もあります。大規模なんていうレベルじゃないくらい巨大な――――」

 

「言ったはずだ。ヘスティアを軽んじるな。あれは信仰の基盤を支えるこの世で最も偉大な神の一人だ。この程度、簡単にやってのける」

 

揺るぎないヘスティアへの信頼を語るヘラ。

大言壮語、過大評価にも思えるそれらはすべて現実となる。

 


 

あとがき

 

久々に書いたので、少し短いですけどこれで終わりです。

次回もう一回IFルートを書いてそれで一旦終わって、また学区編を続けます。

このIFルート魅了解除後のこととか全く考えてないですし。

また思いついたら続くかもしれません。

 

学区編が終わったら時を渡る道化師ですね。

色々考えが固まってきたので、大丈夫だと思います。

あとがきでまた色々書こうと思ってたんですけど、忘れたんでこれで終わります。

 

以上、あとがきでした。

 

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