道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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学区生活

 

「レオン先生、おはようございます!」

「おはようございま~す」

 

「おはよう、ニム、インダー。今日は授業に遅れるんじゃないぞ」

 

「「はぁ~い!」」

 

ベルの学区侵入から2日が経った日の朝。

青空の下、白の石材で舗装された学区の通りをレオンに連れられるようにしながらベルは歩く。

周囲を見れば、様々な種族の子どもたちが入り乱れている。

喫茶店のような場所で食事をかき込むパルゥムとそれを呆れるように咎めるエルフ。

通りを話しながら歩く着崩した格好をした獣人とアマゾネス。

鞄や本を持ったヒューマンとドワーフ。

その全ての子供達は、共通して制服に腕を通しネクタイを締めている。

 

「さて、制服の着心地はどうかな?」

 

「ちょっと堅苦しい感じがしますけど、問題ないです」

 

「そうか。ならいいが、あまり気になるようだと多少なら着崩しても大丈夫だ。制服に関する細かな規定はさっき渡した手引き書(ガイドブック)の中にあるから、後で確認しておくといい」

 

「はい、ありがとうございます。ところで、気づかれてないですよね?」

 

「もちろん。気づかれてたら今頃大騒動だ」

 

そして、それはベルも同じだ。

他の子どもたちと同じように、生徒として制服を着こなしている。

ただ、その容貌は少しだけいつもと違っている。

 

アスえもん(アスフィ)謹製の魔道具(マジックアイテム)もとい獣人鬘。

目を隠すほど長く伸びた茶色い前髪、それと同色の耳や尻尾がベルの特徴を塗りつぶす。

軽度かつ代償なしの認識阻害がかけられているらしく、生徒たちは誰もベルの正体を看破できない。

昨日侵入した時は殆ど顔を見られていないから、余計に気付けないだろう。

まあ、気づかれたら気づかれたで大問題になるので、これで助かっているのだが。

 

「気づかれてない割には、随分人目を集めてますね?」

 

「君が物珍しいんだろうさ。ここは良くも悪くも隔離的な場所だからな。どうしても新参者は目立ってしまうんだ」

 

「あぁ、どおりで。そういえば、昔お祖父ちゃんが『カワイコチャンの転校生が注目を浴びるのは学園モノの鉄板~』って言ってましたけど、そういう意味だったんですね」

 

「その言葉の真意は知らないが、絶対違うと思う。やっぱり君、あの好々爺から悪影響受けてないか?」

 

「受けてませんよ。受ける前にお義母さんの鉄拳が飛んでくるんですから。ていうか、レオンさんまでそんなふうに言うんですか?」

 

「あれを君の教育から遠ざけるべき、という一点において私とあいつらの考えは一致してたからな」

 

ヘスティアにも似たようなことを言われたと思いながら、ベルは苦笑いを浮かべる。

この前の派閥大戦の一件でゼウスのことが露見した後など、念を押されるように言われてしまった。

あいつから学んだ全ては忘れろと。

あながち間違いでないとベルも思えてしまうところが、もうどうしようもない。

 

「だからってわけじゃないが、君には学区に入学して欲しかったんだ」

 

それは何度かレオンから提案されていたことだ。

当時のベルからしても、その提案はとても魅力的なものだった。

だが、ベルにはそれを受けるわけにはいかない理由があった。

 

「すいません。世界中を飛び回る学区に入学してしまうと、すぐに戻れなくなりますから。お義母さんたちの死に目に会えなくなる可能性が高くなるような真似は、あんまりしたくなかったんです」

 

「ああ、知ってる。オラリオなら最悪なんとかなることでも、学区は勝手が違うからな。仕方ないことさ。だが、君が今こうして高みにまで登ってきてるんだ。結果オーライってことにしておこう」

 

「ありがとうございます、レオンさん」

 

「今はレオン先生、だろう?」

 

「はい、レオン先生!」

 

当時を思い出し申し訳なく語るベルを笑い飛ばすように、レオンは茶化しながら話す。

 

「まあ、全部杞憂だったわけですしね」

 

「…………そういえばそうだった」

 

だが、その笑顔はベルが放った次の言葉で固まり、崩れ去る。

苦々しく苦悶の表情を浮かべながら、レオンは大きなため息を溢す。

 

「完治したあいつらがオラリオに来るまで、あと1ヶ月半だったか…。おまけにあの女神まで来るんだろう?」

 

「明言はされてませんけど、十中八九」

 

「絶対暴れるよなぁ……。」

 

15年前の惨状を思い出しながら、レオンは空を見上げる。

常日頃は清々しいこの晴れ空が、今はいっそ憎々しかった。

それだけあの二人の存在はレオンの心に影を落としているのだ。

 

「フレイヤの一件は話してるんだっけか?」

 

「話してたらとっくの昔にオラリオが血の海に沈んでますよ」

 

「それもそうか。あぁ……、どうするか。俺やザルドで抑え込めるわけもないし。個人的には君達ゼウスが生贄、もとい人柱になって騒動を鎮めてくれるのを期待してるんだが……」

 

「そうなったら絶対レオンさん巻き込みますからね?他の誰を遠ざけたとしても、レオンさんだけは一緒に地獄まで来て貰いますからね?」

 

「お前な……!」

 

レオンだけは逃がすまいと誓った強い瞳をしているベル。

茶色い前髪の間から覗いているその赤い瞳が、今だけは腹立たしかった。

 

「なんでお前ら二人は俺を巻き込みたがるんだ?二人で死んでくれよ」

 

「嫌ですよ。ていうか、レオンさんだって僕やおじさんを巻き込もうとするじゃないですか」

 

「当たり前だろ。何が悲しくてあの化け物の相手を一人でしなくちゃいけないんだ」

 

「それと同じですよ」

 

「せめてオッタルを巻き込めよ」

 

「あの人、脳筋だからこういうのに巻き込んでも役に立たないんですよ。それだったらヘディンさんを巻き込みます。後が怖いからやらないですけど」

 

「くっそ、嫌に納得できるな」

 

「頼りにしてますよ、レオン先生」

 

「調子の良いこと言いやがって」

 

二人は揃って大きなため息を溢す。

いくら考えても答えなどないのだから。

 

「ああ、やめだやめ。一ヶ月以上先のことを今考えても埒が明かない。どうせなるようにしかならないんだし、考えるだけ無駄だ」

 

「それもそうですね。それに、案外なんとかなるかもしれませんよ。お祖母ちゃん、うちの神様に頭が上がらないらしいですし」

 

「は?あの最凶最悪(クレイジーサイコ)が?」

 

「はい。何でも、天界で怒り狂ったお祖母ちゃんを止められる唯一の存在だったとか。本神(ほんにん)にもそれとなく聞いてみたら、お祖母ちゃんのことを『ちょっと周りが見えないところもあるけど、可愛い子だよ~』って言ってました」

 

「マジで…?昨日見たあの温厚そうな神がか……。神は見かけによらない――――いや、そういった神だからこそ、あの女神も心を許しているのか?」

 

「詳細不明です。ただ、事情を知ってるヘルメス様は『大当たり』って」

 

「ヘルメスか…。あれは胡散臭いからな。話半分に聞いておいた方がいいかもだ。とはいえ、希望が見えてきたというのは大きいぞ!」

 

「ま、仮にお祖母ちゃんを味方に出来たとしても、それはお義母さんが止まる理由にはならないんですけどね」

 

「現実を突きつけるなよ!見ないようにしてたんだから!ていうか、主神の制止くらい聞けよ、あのバカ女!」

 

「レオンさんが言います~?」

 

「うっさい!」

 

不良時代のレオンのことを色々聞かされているベルには、流石のレオンも返す言葉がない。

不機嫌に悪態を吐くだけだ。

 

「ほんと、いざとなれば神ヘスティアに泣きつこう。今から土下座の練習でもしとくか」

 

「それ、どっち目的ですか?僕を巻き込むためですか?それとも純粋に神様に助けてもらうためですか?」

 

「どっちもに決まってるだろう。はぁ、まったく……。まあこの話はいい。それよりも目先のことだ。学区の仕組みについては昔説明したとおりだし、さっきバルドル様からある程度説明を受けたから大丈夫だと思うが、確認しておこう」

 

「はい。えっと、僕は『ラピ・フレミッシュ』。ベルラの都に住んでいて、そこで入学試験に合格していた。だけど家庭の事情で合流が遅れ、オラリオに来てから編入という形になった」

 

「うん、それであってる。名前が似てる街を出身に設定したからな。間違えてもある程度なら大丈夫だ」

 

「お気遣い痛み入ります」

 

口調を教師としてのそれに戻したレオンは、説明を始める。

最終的な摺り合わせが行われる中、ベルは気になっていたことを確認する。

 

「そういえば、僕ってどれくらいの強さってことになってるんですか?」

 

「当然レベル1だ。なにせ合流したばかり。こうする他ない」

 

「なるほど…。魔法やスキルは?」

 

「スキルは持っている方が不自然だからなし。魔法は……、魔法はどうしようかな?『ベル』はどんな魔法が使えるんだ?」

 

「僕が使えるのはステイタス上限の三つです。威力は低いけど無詠唱の速攻魔法、魔法無効化魔法、それと……【雷霆の剣】」

 

つい先日手にしたばかりの魔法。

あれはどうあっても学区で扱える代物ではない。

そして、それはレオンも分かっているようだ。

 

「雷霆…、昨日持ってた派手な剣か。あれは無理だな。パッと見た限りだからハッキリとは分からないが、あれ、相当規格外だろう?」

 

「ええ、まあ。仮にも大精霊の写し身ですから」

 

「大精霊?なんでそんなものを?」

 

「色々あったんですよ、色々と。これに関しては昔の僕の失敗が原因なんですけどね」

 

「そうか…。まあ深くは聞かないさ。とはいえ、それは使わないで貰えると助かる」

 

「もちろん」

 

ベルの表情から察して深くは尋ねないように配慮したレオン。

こういった心遣いが本当にありがたい。

あの義母には存在しないものだから、余計に。

 

「となると、残りは無詠唱の速攻魔法と魔法無効化の二つ。無難なのは魔法無効化だな。いっそのこと使えないってことにするのも有りだ」

 

「速攻魔法は?そっちを使えたほうが正直助かります。威力も低いですし、あんまり問題ないと思いますよ?」

 

「詠唱ありならそれでも良かったんだが、無詠唱はな……。」

 

「一発で第一級冒険者ノックアウトしたり出来ないですよ?見えますし、速度も連射以外は普通と大差ないですし」

 

「あの化け物を基準にするな。あれは外れ値中の外れ値だからな?そもそも、どれだけ低威力でもレベル6のステイタスで放てばそれだけで生徒たちは全員吹き飛ぶ。というか、多分私以外の教員でも吹き飛ぶ。念の為聞くが、魔力のステイタスは?」

 

「ステイタスを知ってる仲間全員から化け物を見るような目で見られました」

 

「余計ダメだわ」

 

急速成長しすぎた弊害か、あるいは意図的にやっているのか。

どうにもベルは物事の基準をあの二人に合わせているフシがある。

ここにいる生徒たち全員があの二人と同等の才能や能力を有していればそれでも問題ないのだろうが、そういうわけにはいかない。

というか、例え未熟な卵であろうともあれだけの傑物たちと同格の才能の持ち主がポンポンいてたまるか。

ただでさえ、戦闘は向き不向きが激しいというのに。

 

「じゃあ、魔法無効化で行きます。流石にいざという時何かしらは制約なしに使えた方が良いですし。防御系の中でもかなり限定的な魔法ですから、悪目立ちもしないでしょう」

 

「だな。ちなみにそれってあいつと同じ?」

 

「大体は。ただ、僕はお義母さんと比べて詠唱文が少し長いのと性能が若干劣ります。でも、自分以外にも付与できるのと、もう一段階上があります。一段階上は使い所がまったくないですけど」

 

「性能は単純なレベル差じゃないのか?」

 

「ハッキリとは分かりませんけど、多分違います。外への防御力はあんまり変わらないと思うんですけど、内への抑制力がお義母さんより強いみたいで」

 

「なるほど。それは確かな性能差だな。だが、自分以外にも付与できるのは良いな。他人を慮るという思考を持たないあいつには出来ないことだ」

 

「お義母さんもちゃんと人を慮りますよ?」

 

「それ、多分君限定だからな?あと君の実母」

 

「………否定できませんね」

 

実際どうなんだろう?

慮る云々はさておき、あの義母の魔法は他者に付与できるものなのか。

この魔法は自他ともに魔法を使いにくくなるというリスクが存在するし、他者に付与するメリットは少ない。

義母の性格も考慮したら、守るより直接敵を倒す方がよっぽど効率的だ。

だからこそやらないのか、出来ないのか、そのどちらなのか曖昧なままだ。

それも含めて、今度会った時話さないと。

 

「まあ、あいつのことはともかく、君のそれは学区での生活の中でも使えるだろう。演習でダンジョンに潜ればモンスターへの対抗手段にもなる。それに――――……。」

 

「冒険者のやっかみから守る時にも使える」

 

言い淀むレオンに代わり、ベルは続けた。

ベートたちから聞いたことだが、一部の冒険者は学区の生徒たちを嫌っているらしい。

考えてみれば、荒くれ者が多い冒険者たちが、品行方正を謳われる学区の生徒たちを嫌うのは自明の理と言えるだろう。

当然、嫌がらせを受けることもある。

 

「御名答。とはいえ、直接何かを仕掛けてくることはないだろう。一介の冒険者が敵に回すには、学区という看板は大き過ぎる」

 

「正体を隠しての闇討ちはありえますかね?」

 

「昔はあったが、今はない。そういうのは私が散々対処してきた。それをすればどうなるか、連中はよく知っている」

 

タイマンでレオンに敵うのは今の都市ではベルかオッタル、次点でフィン。

大精霊という反則技を持つベルを除き、レベル7に成り立ての彼らではレオンの相手は厳しい。

ただでやられることはないし、勝機がないわけでもない。

だが、それでも両者の間には無視できない壁がある。

同じレベル7ですらこれなのだ。

他の有象無象の冒険者たちがレオンに勝てるわけもない。

 

「となると、誤情報か怪物進呈(パス・パレード)……。」

 

「現実的に考えて有り得るのはそのあたりだな。そうなれば、どういう種類のものであれ防御魔法というのは有用だ。最悪生きてさえいれば、君がどうにでも出来るんだから」

 

「き、期待が重い……。」

 

「オッタルを降しておいて何を言ってるんだか」

 

もちろん、ベルも本気で言っているわけではない。

自分が暴れれば上層から中層程度ならどうにでもなるということを、ベルは知っている。

自信でも確信でもなく、ただの客観的事実として受け入れている。

むしろ、大精霊という大層なものまで背負っているのだ。

この程度出来なければ、それこそあの義母に殴られる。

 

「よし、じゃあステイタスに関する疑問は大丈夫かな?」

 

「ええ、大体は。あとはアドリブでなんとかします。それと、性格や口調も変えた方が良いですか?例えば、“ボク”、“オレ”、『俺』、“私”、……、『私』――――」

 

「ヘラの連中みたくなってる。頼むからやめてくれ。ただでさえその“君”は胃に悪い。昨日見た時は穴が空くかと思ったんだぞ」

 

「あ、すいません」

 

後から説明されたからよかったが、それがなかったら距離感を考え直さなくてはいけないところだった。

 

「性格や口調は大丈夫だろう。元々交流があるわけでもないし、そこからバレることはない。素の君の方が馴染みやすいだろうしな」

 

「了解です」

 

「さて、名残惜しいが到着だ。心の準備はいいか?」

 

気づけば扉の前に立っていた。

中からは多くの人の気配を感じる。

ここがこれからベルが過ごす教室のようだ。

 

「では、ベル・クラネル改めラピ・フレミッシュ」

 

教室の扉を背に、レオンは笑う。

子どもを導く教師のように。

いたずら好きな子どものように。

 

「ようこそ、学区へ」

 

これからベルが巻き起こすすべてに期待して、彼は告げた。

 

 

 

そうしてレオンに連れられ入った教室は、半円上に広がる場所だった。

後ろに座る生徒が見やすいようにという配慮なのか、後ろに行くにつれ階段状に高くなっている。

これが演劇などで使われるシアターが近いだろう。

 

そして、席に各々座る生徒たちは全部で五十名ほど。

ベルから見ればまだまだ幼く、未熟な子どもだった。

 

(って、僕も14のくせして何を偉そうにしてんだか……)

 

どうもアルゴノゥトとの一件以来、精神的な変化が大きい。

ベルはあくまでベルだ。

それは何があっても変わらない。

ベルはアイズたちのようにはなれないのだから。

 

だが、それでも無視できない程度には影響が出ている。

人への接し方、物事の見方、そして精神的な成熟具合。

それらはかつての自分にかなり近づいたように思える。

常日頃は年上ばかりに囲まれているせいで気づきにくいが、こういう環境に放り込まれれば顕著になる。

決して悪いことではないが、どうにも違和感が拭えない。

 

「――――ピ、ラピ!」

 

「は、はいっ!」

 

考え込んでいたせいで反応が遅れてしまった。

見れば、レオンが自分に向かって声をかけている。

 

「そんなに緊張しなくてもいい。ゆっくり息を吸って、落ち着いたら自己紹介を頼む」

 

「はい、えっと、自己紹介ですね……」

 

先程までレオンと話していた設定を思い起こしながら、なんとか自己紹介を考える。

変に奇をてらう必要はない。

目立たないように、出来れば周囲からちょっと小馬鹿にされるような挙動の方が良い。

 

(こういうのを考えるって時点で、変わってるんだよな……)

 

以前の自分では思いつきもしなかった思考に若干辟易としながらも、それでも努めて振る舞う。

大丈夫、そのイメージは簡単だ。

都市に来る前の自分を思い浮かべればいい。

 

「べ、ベルラの都から来ました、ラピ・フレミッシュです!!よっ、よろしくお願いします!」

 

出来る限り大袈裟に頭を下げたあと、おずおずと頭を上げる。

小心で、自信がなく、臆病で。

そんな本来の自分を醸し出しながら、ベルは教室を見渡す。

 

「よろしく、同胞~」

「そんなに緊張しなくていいのよー?」

「男だろ、もっと胸を張れ!」

 

その様子にホッと息を吐いて安心する。

頼りなく、弱そうで、所在がない。

そういうふうに、見られている。

 

「ラピはベルラの都で試験には合格していたが、一身上の都合により入学が遅れ、自らの足で港町(メレン)にまでやって来た。右も左も分からない彼に、今日から級友として色々なことを教えてあげてほしい。『学区』に初めて訪れた君達もそうであったように」

 

「「「はい!」」」

 

元気よく返事をする生徒たち。

その様子を、ベルはつぶさに観察する。

レオンが言っていた例の問題児たちに該当しそうなのは大体3人。

ダークエルフの少女、ドワーフの少年、次いでヒューマンの少年。

それ以外にも何人か問題がありそうなのがいたし、一番気になったのは別の生徒だが、問題児感が顕著なのはこの三人だ。

協調性がないのか、高慢なのか、焦っているのか。

そのどれかは分からないが、少なくとも新しい級友を素直に歓迎できていない時点で、何かしらはあるだろう。

 

「………面倒なことになりそうだ」

 

誰にも聞こえないよう、口の中で小さく呟く。

今更ながら後悔しそうになるが、もう遅い。

一度引き受けた以上、どうあってもやり遂げなくていけない。

途中で投げ出すという選択肢は、ベルの中には存在しない。

7年前から、生まれたときから、あるいは三千年前から。

そんな選択肢は持ち合わせていない。

面倒臭さからくる陰鬱な感情を噛み殺しながら、ベルは静かに瞳を閉じる。

 

「ではラピ、概略説明(ガイダンス)を始めるから空いている席に座ってくれ」

 

「は、はい!」

 

レオンの指示にベルは答え、言われるがまま席を探して教室内を歩き始める。

人数がそれなりにいることもあってか、空いている席は中々見つからない。

 

「ここ、空いてるよ!」

 

どこに座ろうか迷っていると、一人の女生徒が手を上げて声をかけてくる。

見れば彼女の隣は空いている。

申し出に感謝して移動する中、声をかけてきたこの女生徒について少し考え込む。

さっき見た中で一番気になっていた人物だ。

おそらくハーフと思われる尖った耳。

茶髪の中に混じった一房の翡翠。

その顔立ちは、とても見覚えがあった。

 

「ありがとうございます……えっと、君は――――」

 

「私、ニイナ・チュールっていうの。よろしくね、ラピ君」

 

チュール。

その家名はベルもよく知っているところ。

なにせ、この半年で一番お世話になったと言っても過言ではない彼女と同じものなのだから。

 

「………あれ?どうしたの?もしかして、名前を呼ぶの馴れ馴れしかった?」

 

「あ、いえ!そんなことありません!よ、よろしくお願いします………えっと、チュールさん?」

 

「うん、よろしくね!」

 

名前に戸惑っているのを誤魔化すように、ベルは返事をする。

なんと呼べばいいのか少し迷った結果、無難に家名呼びをすることにした。

アルゴノゥトなら即座にファーストネームで呼ぶのだろうが、ベルには出来ないしラピにはもっと出来ない。

 

「レオン先生も言ってたけど、分からないことがあったら言ってね?」

 

「す、すいません……ありがとうございます!」

 

困った表情を浮かべながらも、出来るだけ愛想よく返事をする。

お世話になっている人の関係者ならば、失礼をするわけにもいかない。

目を合わせているように顔を向け、にこやかに笑うことにした。

 

「優しくされたからといって勘違いしてはいけませんわよ、新入りさん。ニイナは優等生で、誰にでもこうなんですから」

 

「ミリー先輩!変なこと言わないでください!レオン先生の概略説明(ガイダンス)、始まりますよ!」

 

にこやかに笑っていると、それを勘違いしたのか同じくエルフの少女が声をかけてくる。

ああ、なるほど。

普通のエルフを相手にすればそういう懸念への配慮も必要になってくるのか。

一番身近な例がエイナを除けばレフィーヤやリューだから、そういった意識は今まで殆どなかった。

以後気をつけなくては。

 

こういう時、アルゴノゥトのような対応をすれば楽なのだろうが、今からキャラ変をするには遅すぎる。

次なんてあるか分からないが、もしその時があればそうしてみよう。

あれもあれで色々立ち回りを考えなくてはいけないが、きっとその方が自由に動けそうだ。

 

「では、ラピに頼れる級友が出来たところで概略説明(ガイダンス)を始めよう。君達も知っての通り、このオラリオで君達戦技学科は他の学科より重要な日々が始める」

 

教室に凛と響くレオンの声は聞くものの背筋を自然と伸ばす。

そこから語られるのはダンジョンでの実習について。

それはきっと、ベルが導かなくてはいけない日々のことだ。

 


 

そして、その日の放課後。

ニイナとの交流を深めながら履修登録や学区での勉強の予習を始めることになったベルは、疲れた表情で朝と同じ教室にいる。

問題児その2(ドワーフのイグリン)を筆頭に、色んな人物たちに小馬鹿にされてきた。

頼りない、弱そう、ひょろひょろしてる、などなど。

散々な言われようだった。

 

それ以外にも、アイズやヘスティアが聞いたら怒り出しそうな魔改造ジャガ丸くんだったり、広大な学区の構造についてだったり、色々と知ったり驚いたりすることが多すぎて大変だった。

だが、その中でも一番大変だったのは、ニイナの勉強だ。

 

「随分お疲れだな、ラピ」

 

「……どうも、レオン先生。見ての通り疲労困憊です」

 

いつの間にか教室にいたレオンに驚くことなく、無気力に返答するベル。

そんな彼をいたわるようにコーヒーを差し出しながら、レオンは机に体を預ける。

 

「どうだった、学区は」

 

「色々と新鮮で楽しかったですよ。その分大変でしたけど」

 

「ここは色んな文化を吸収して煮凝りみたいになっているからな。それも仕方ないことだ」

 

「あ、でもあのジャガ丸くんの邪神像みたいな奴はどうかと思いますよ?僕の周りにジャガ丸くんに命を賭けてる人が二人くらいいますけど、あれ見たら何て言うか」

 

「あぁ、あれね。私も一度食したが流石に胸焼けしそうになったよ。だが、ニイナを見れば分かると思うが、あれはあれで生徒たちから好評なんだ。需要がある以上供給を止めることは出来ないさ」

 

名前が長すぎるせいでどちらも正式名称を呼ばない『ジャガ丸くんグランデチョコレートチップエクストラコーヒー(以下略)』。

甘いものが好きな義母たちでもあれを好んで食べるとは思えない。

というか、あの義母はかなり繊細な味覚を持っているので上品な甘さしか受け付けない。

試しにあれを食べさせたらどうなるか。

持っていった時点で殴り飛ばされるのが目に見えているのでやらないが、何となく興味が湧いた。

試す度胸もないし。

 

「えぇ……、若者の感性って分かんないですね……」

 

「俺はともかく、君も若者だろう?」

 

「甘いもの苦手なんで」

 

一度義母に好みがジジ臭いと言われたことがあるレベルで、ベルは甘いものを受け付けない。

昔からこういうコーヒーなどの方が好きだった。

これも前世からの縁なのだろうか。

いや、多分関係ないな。

純粋にベルが甘いものが苦手なだけだろう。

 

「ま、それはさておき。うまく擬態していたな、ベル。誰にも片鱗すら気づかせなかったのは流石だ」

 

「色々と工夫しました。弱くみっともない男のことは誰よりも知っているので、それを活かしながら」

 

「それだけじゃないだろう?今日一日、自己紹介を終えた後からずっと目を閉じて生活していたな」

 

自己紹介を終えて全員の顔を把握した後から、今レオンに声をかけられるまで。

文字の読み書きをする時以外はずっと、目を閉じていた。

歩く時も、物を食べる時も、ずっと。

 

「あの女もそうだが、よく目を瞑って生活できるものだ」

 

「お義母さんは知らないですけど、僕は一時期目が見えなかった時の経験が身体に染み付いているので、それを思い起こしながらやったら意外と出来ただけです。今日一日である程度慣れたとは言え完成度も低いですし、こういう何にもない場所ならともかくダンジョンとかの複雑な場所は怖くてできませんよ。不甲斐ないです」

 

「目を閉じたまま生活できる時点ですごいことだろう?」

 

レオンは感心しているが、ベルはそんなに誇るものではないと思う。

引き継いだかつての長い経験が身体に染み付いていてもこの程度なのだ。

むしろ、恥じるべきだろうとさえ思えてくる。

 

いや、違うな、あの義母が異常なだけだ。

なんでただ疲れるという理由だけで自ら盲目の真似事をするのか。

なんでそれで何の問題もなく日常生活を送れるのか。

こういう時、あの義母は異常だとつくづく思い知らされる。

 

「ていうか、それ以外にも色々と不甲斐ないところがいくつか。ニイナのテストの結果が……。」

 

「悪かったのか?」

 

「平均70点でした」

 

「初日でそれだけ出来れば充分だと思うぞ?」

 

「お義母さんにバレれば折檻される……!」

 

「安心しろ!学区の威信にかけて外部には漏らさないと約束しよう!」

 

ここにはいないあの最凶のマザーへの恐怖が湧き上がる。

学区の一生徒が個人的に作った問題だからまず外部に漏れることはないだろうが、レオンは知られないよう努力すると約束する。

 

ザルド、レオン、ベルの三人はこういう時の団結力が一段と強い。

あの義母を相手にする時、一人だと何も出来ずにやられるしかないが、二人だと協力して逃げる可能性が生まれる。

だからこそ、この三人の結束力は強いのだ。

 

ちなみに、二人だけの場合は協力するが、三人揃えば誰か一人を犠牲(おとり)にして他の二人は逃げようとする。

誰が犠牲になるかはその時々。

誰も犠牲になりたくないので、運の悪いやつが押し付けられるのだ。

 

閑話休題。

 

「ところで、気になってたんですけど、ニイナってエイナさんのご家族ですよね?」

 

「ん?エイナと知り合いなのか?」

 

「僕の担当アドバイザーです」

 

「それはそれは。また奇妙な縁だ」

 

人の縁は思わぬところで繋がっている。

それはよく知っているが、まさかこんな形でもそれが示されるとは思わなかった。

これもまた、運命なのかもしれない。

 

「君も察している通り、ニイナはエイナの六つ違いの妹だ。エイナと入れ替わる形で学区に入学してきた」

 

「入れ替わる…?一緒に学区生活を送ってきたわけじゃないんですか?」

 

「ああ、違う。というか、私の認識が間違っていなければ、エイナとニイナに面識は殆どない」

 

「家族なのに、面識がない?」

 

無論、ベルとその実母・実父のように面識がないことはザラになる。

だが、両方とも生きていて他の家族も健康に問題はあれど健在。

それなのに、面識がないというのは少し不思議に思えた。

 

「エイナが入学してきたのは彼女が六歳の時。ニイナが生まれた直後だ。その理由などについてはプライバシーに関わることだから私の口から教えることは出来ないが、ともかくニイナが物心ついた頃にはエイナは既に親元を離れていた」

 

「その後帰郷したりなどは?」

 

「君も危惧していた通り、学区はその特性上親元への帰省が中々難しい側面がある。学区にいる間は帰ってないだろうし、帰ったとしてもギルドに就職してから。その頃になれば今度はニイナが学区に入学していたんだ」

 

「結果、擦れ違いになってしまった……。」

 

学区がオラリオに寄るのは一定の周期があるという。

詳しいことは知らないが、記憶が正しければ前回寄ったのは三年前。

それ以降学区は世界中を飛び回ってきた。

レオンのような埒外の健脚でもない限り、出会うのは難しいだろう。

彼女がいつから学区にいるのかは分からないが、うまく擦れ違ったのだろう。

あるいは、ニイナが意図してエイナから逃げたのか。

 

「ギルドで噂を耳にしたんですけど、エイナさんってとても優秀だったんですよね?」

 

「合格率が一割を切る総合神学すらも合格し、実際に【神聖文字(ヒエログリフ)】を読めるようになった数少ない生徒だったからな。勉学に関しては、学区の歴史の中でも屈指だ」

 

「………そのことに、ニイナは強いコンプレックスを抱いている」

 

「………よく分かったな」

 

秀でたものへのコンプレックスはベルがよく知っている。

三千年前や、幼少期義母たちへ抱いたことがあるのだから。

幼少期に関しては比べるのが馬鹿らしすぎて途中からなくなったが、三千年前からのそれは今も変わらず燻っている。

 

「今日一日、僕の目から見てもニイナは優秀でした。優秀な頭脳を腐らせることなく、努力し続ける才能もある。でも、大量の参考書を持ってきた時のあの様子は、少し異常でした」

 

先程までここにあった大量の参考書。

それを持ってきた時、彼女は言っていた。

 

『私もあまり勉強は得意じゃないんだけど……やっておかないと、とっても不安になるでしょ?』

 

屈託のない笑顔でそう言いながら、絶望的な量の課題を差し出してきた彼女。

大量に勉強をするのは分かる。

それで優秀な成績が取れるのならいくらでもするべきだろう。

実際、彼女はその方法で今までやってきたのだから。

 

だが、彼女の自己評価は他者評価と一致してなかった。

他者があれだけ優秀と言っておきながらも、努力する才能を持っていながらも、彼女は自分を評価していなかった。

 

努力は認められなくてはいけない。

他の誰が認めずとも、自分だけは自分を認めなくてはいけない。

そうしないと、やっていけない。

 

成長を忘れず、努力を忘れず、理想を忘れず、歩みを止めることなく進み続ける。

 

その道筋をすべて知っているのは自分だけなのだから。

自分だけは、その全てを肯定しなくてはいけない。

その工程こそが、その肯定こそが、進み続ける糧になるのだから。

 

「レオンさんが僕に任せたいって言ってた小隊って、ニイナのところですよね?」

 

「ああ。顔合わせは出来たか?」

 

「はい。ロクな初対面じゃなかったですけど」

 

高慢なドワーフ、他者から離れるダークエルフ、そして自意識と自信が過剰なパルゥム。

それがニイナの小隊の隊員たちだった。

 

「この短い期間でよくそこまで摺り合わせが出来たものだ」

 

「全部ニイナのおかげですよ。素直に聞けば、全部教えてくれたので」

 

「そのような交友関係を築けることも、立派な能力の一つだよ。実際若者同士の交流は喜ばしいものだ。イズン様が言うところの、アオハルという奴だ」

 

「なんですか、それ?」

 

「思春期の子どもたち特有の情動さ。物語の定番、恋や友情のロマンスだ。気になってたんだよ。実際どうなんだ?教えてくれ」

 

「レオンさん……」

 

この一日で名前で呼び合うようになり、親しげになった二人にレオンも少し興味が湧いていた。

ましてや幼少期から知っている友人兼親戚の子供のような存在のアオハルだ。

気にならないわけがない。

 

呆れるような視線をベルからぶつけられるが、意に介する様子がない。

ベルは呆れたようにため息を吐く。

だが、その時だった。

 

「私も気になりますね。教えて下さいよ」

 

冷水を浴びたように背筋が凍る。

地の底から響くように低い声が聞こえてくる。

やばい、流石に会話に集中しすぎた。

というか、油断していた。

こんな場所で誰かが気配を殺して近づいてくるなど、思ってもみなかった。

 

『ベ ル』

 

名を呼ばれるが、振り向くのが怖い。

それでも勇気を振り絞り意を決して、油の切れたブリキ人形のようにぎこちない動きで、声がした方向を振り返る。

そこには見慣れた山吹色の髪。

だが、見慣れない貼り付けたような笑みを浮かべたエルフがいた。

 

「れ、レフィーヤさん……!」

 

扉の内側に入りこちらを見つめる彼女。

この場にいるはずのない彼女を見て、ベルは思わず呟くのだった。

 


 

「……あの、すいません、よろしければなんですけど、このヘッドロックをそろそろ離してもらえればなって、はい、思います」

 

「あなたが話してくれれば離しますよ?幼い少女を誑かして、何をやってたんですか?」

 

「誤解です!!誑かしてなんかいません!!」

 

「この愚兄(ぐてい)!!どの口が言ってるんですか、どの口が!!」

 

弁明をするベルだったが、かえって怒りを買ってしまい力が強くなる。

無論、今のベルならば簡単に逃げることは出来るが、そんなことをやっても意味はない。

怒った彼女から逃げ切れないことは三千年前から知っている。

後でアイズたちも交えて、より強い尋問を受けることは目に見えている。

 

「だいたい、何で僕が学区にいるって、レフィーヤさんが知ってるんですか…?レオンさん、教えました?」

 

「いや、教えてないぞ。というか、君達が知り合いだってことも今知ったくらいだ」

 

認識阻害などレフィーヤ相手には通じないのは分かっている。

そこに疑問はない。

だが、気配を殺して現れた以上偶然見つけたというには違和感がある。

 

「お姉様が一昨日あなたが学区に行ってたって教えてくれました。嫌な予感がして何か変わったことがないかアリサに聞いてみれば一発でしたよ」

 

「なんでアイズさんは僕の居場所を逐一把握してるんですか!?偶然にしては出来すぎてません!?」

 

「何言ってるんですか?お姉様は暇さえあればあなたの居場所を確認してますよ?」

 

「レフィーヤさんこそ何言ってるんですか!?ていうか、アイズさんは何やってるんですか!?」

 

いわく、ベルの居場所が分かれば安心するらしい。

彼が自分の見えないところで死んだ経験があるからこその行動なのだろうが、ベルからしてみればたまったものじゃない。

最近ではより詳細な居場所を知るために、オラリオの詳細な地図を持ち歩くようになったようで、最早ベルのプライバシーなどアイズからしてみればあってないようなもの。

まったく、恐ろしい話だ。

 

叫ぶベルに呆れた様子でため息を溢すレフィーヤ。

ベルの頭を掴んでいた手を離し、二人に向き合う。

 

「で、結局何やってるんですか?レオン先生を巻き込んでまで」

 

「逆ですよ。僕がレオンさんに巻き込まれたんです」

 

「正確に言えば、私も巻き込まれた側だ。もっと穏便に事を進めるつもりだったんだが、神ヘルメスのせいでそれが出来なくなってしまってね」

 

「またあの神ですか……懲りないですね」

 

「ヘルメス様に関しては気にしなくていいですよ。どうせあと一ヶ月と少しの命ですから」

 

「あ~、そういえばそうだな…。」

 

「?」

 

あの二人が来た瞬間、ヘルメスの命運は終わる。

どう言い繕おうが変わることなく、絶対に終わる。

それまでの辛抱だと思えば、この程度どうということもない。

 

「まあ、あの神についてはいいです。レオン先生、ベルを巻き込んで何を?」

 

「形式こそ違うが、君に頼んだのと概ね同じ頼みごと。要するに、生徒たちの意識改善だ」

 

「え?レフィーヤさんも?」

 

話を聞いてみれば、レフィーヤもベルと似たような依頼をされたらしい。

違うのは、ベルは生徒として内側に入ったのに対し、レフィーヤは外部からの教導(インストラクト)

同じ生徒ではなく、講師という立ち位置になっている。

 

「レフィーヤさんも、ですか……。レフィーヤさんが担当するのって、もしかして第七小隊ですか?」

 

「御名答。他の場所ならあれでも充分通用するが、ダンジョンは別だ。今の小隊長…ルークは少し生き急ぎ過ぎている」

 

「世界中の悲鳴を聞いて、身の丈に合わない英雄願望を抱いているから、ですか……。耳の痛い話ですね」

 

「本当ですよ。言っておきますが、兄さんは彼より酷いですからね?」

 

「分かってるよ。だが、今の彼は僕より少し青い。大き過ぎる理想を追い求めるあまり、眼の前のことが何も見えていない。それでは本末転倒だ。眼の前で泣く誰かすら救えない者に、英雄を名乗る資格などない」

 

レフィーヤの方が歳上なのに、彼女はベルを兄と呼ぶ。

ベルもそれを受け入れている。

先程まではまるで姉と弟のようだったのに、一瞬で立場が入れ替わっている。

なんとも不思議で奇妙な関係で、光景だった。

 

「第三小隊も、聞く限りかなり酷いですよね…。四人一組(フォーマンセル)じゃなくて、単独(ソロ)×4っていう有り様だとか」

 

「優秀な子たちではあるんだ。他の小隊に行けば、エースになれるほどに。だが、優秀すぎる弊害とも言うべきか、自己主張が激しすぎる子達でね」

 

「各々が尖りすぎてて、針山みたいになってると。ルークを更に悪化させた感じですか?」

 

「う~ん、どうでしょう?また違った系統だと思いますよ。あの子達は思ったより子供っぽくて、単純ですから」

 

「だからこそ、小さな気付きで大きく化けることが出来る。そして、それはルークも同じだ。期待してるよ、二人共」

 

レオンの期待には、小隊全体のことだけでなく個人の悩みも含まれている。

ルークのこと、ニイナのこと。

それらをどうするのか、それがこの二人の腕の見せ所だ。

 

「レフィーヤさん、上手く導いてあげてくださいね?何かあれば、僕が絶対助けますから」

 

「ええ、もちろん。あなたこそ、上手く導いてあげてください。何かれば、私が絶対助けますから」

 

奇妙な関係はそのままに。

ただ、そこには確かな信頼が感じられた。

見ている側が羨ましくなるくらい、純粋でキレイな愛が、そこにはあった。

なあに、何も心配ない。

あの手の輩など、前世で腐る程見てきた。

それを導いてきたのは、それらの船となったのは、他ならぬ彼らなのだから。

何も心配ない。

 

「あ、そうだ。念の為―――【これは我が理想の全て】」

 

ベルは突然詠唱を始め、雷霆の剣を取り出す。

それをあらかじめ持って来ていた巻き布で覆い、レフィーヤに手渡す。

 

「これ、学区にいる間はレフィーヤさんが持っててください」

 

「は?なんでいきなり?」

 

「アイズさんみたいにはいきませんけど、雷霆の剣の居場所は分かりますから。ダンジョンで何かあった時のために、持っててください。戦闘で使ってもいいですけど、僕がいきなり召喚することも考えながら、切り札や普段遣いはしないようにしてくださいね」

 

「それは分かりましたけど……用心しすぎじゃありませんか?」

 

「用心しすぎて困ることはありませんから。それに、なんとな~く嫌な予感がしますから」

 

レフィーヤは何か言いたげだったが、それらを飲み込んで剣を受け取る。

あって困るものではないし、すぐに手元に戻せる以上ベルは問題ない。

何より、ベルやベートの予感はよく当たる。

そうならないように祈りながら用心することしか、今は出来ないのだから。

 

そして、その予感は最悪の形で的中することになる。

 


 

あとがき

 

さて、ようやく学区編に戻ることが出来ました。

更新の時期が空いて、ほんの少し申し訳なく思います。

卒業研究の発表があったり、制作の大詰めをしたり、異次元に行って伝説のポケモンを捕まえたりしてたんです。

そんなこんなで忙しく、更新が遅れてしまいました。

これからも無理のない範囲でゆっくりと気ままに更新していこうと思っているので、お付き合いいただければ幸いです。

 

えっと、これ以外であとがきに何書こうと思ってたんだっけ……。

書き終わったらいつも達成感が出て忘れちゃうんですよね。

そろそろ対策を考えるべきかもしれません。

 

以上、あとがきでした。

 

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