道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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まえがき

前回のお話が予想以上にブックマークがついていてとても驚いています。
皆様のご期待に少しでも添えるように、頑張っていきたいと思います。
よろしくお願いします。


その2―英雄親友

 

例の酒場の一件から一週間。

謝罪方法を考えたり、件の少年(ベル・クラネル)の身分や事情などをフィン達が調べている中、アイズたちは入念な下調べ(非合法的行為)をしていた。

年齢・性格・交友関係、好きなものや嫌いなもの、それだけでなくよく行くお店やダンジョンでの様子、その他必要だと思われたすべて、余すことなく調べ尽くした。

途中、“兄さんが年下…なんて素敵な響きでしょう”などと宣いながら、年下の兄という存在に何かを開花させそうになったレフィーヤを必死で正気に戻しつつ、懸命に調べ尽くした。

その一貫で犯罪行為(ストーキング)も行われた。

通常では難しいとされるストーキングも、圧倒的なレベル差がある現状何の問題にもならなかった。

まあ、それでも何度か気取られて見つかりそうになったのだが…。

いつの時代も兎の危機感知能力はずば抜けているということだろうか。

そんなことを考えながら、解せぬと言いたげな兎が大好きな三人(アイズ・ティオナ・レフィーヤ)を見たガレスとベートはドン引きしていた。

いくらなんでもやりすぎだろと思ったのだが、言ったら後が怖いので自重した。

二人は心のなかで英雄(ベル)に謝った。

 

((すまん、ベル・クラネル))

 

ちなみに、ベルのことを調べるためにあちこち出歩く中で、そのついでにもう一人の知己にベルのことを教えようとしたのだが、失敗した。

彼の所属しているファミリアの主神曰く、数日前から工房に籠もり切って武具を製作しているらしい。

今までに見たことがないほどの熱意と熱気を持って作業に当たる彼を誰も止められないらしく、自分たちも伝えるのを断念したのだ。

そんなこんなで一週間を過ごした後、ようやく準備が整ったということでベルのもとに謝罪に行くことになった。

 

希望者全員で。

 

…………

………

……

 

「何なんだよ、ロキ!第一級冒険者の幹部総出でこんなところにまで来て!ボクのファミリアを潰す気か!?」

 

「人聞きの悪いこと言うなや、ドチビ!うちかてこないな大人数で来る気なんかなかったわ!仕方なくや仕方なく!!大体おどれのファミリア潰すのにこないな人数いるかいな!!調子乗ってんとちゃうぞボケ―――」

 

ヘスティア・ファミリアの拠点(ホーム)である廃教会を大勢の幹部を連れて訪れたロキに警戒を顕わにし、叫びだすベルの主神(ヘスティア)の売り言葉を買い言葉で反論するロキ。

暴言混じりの乱暴な言葉でのそれは、途中で打ち切られることになる。

アイズとティオナの拳骨がロキの頭に落ち、レフィーヤのボディブローが鳩尾目掛けて繰り出された。

上級冒険者の会心の一撃(クリティカルヒット)を受けたロキは思わずうずくまる。

ここで吐き出さなかったのが、せめてもの救いだろう。

 

「ちょ、いきなり何やねん…」

 

「ベルの主神様に失礼でしょう、ロキ?」

 

「私達は加害者で彼は被害者。そして神ヘスティアは彼の保護者。そんな神物に暴言を吐くとか、意味分かってやってる?」

 

「やからってやり過ぎやろ!?」

 

「一番ステータスが低い私がボディブローをしてるんですよ?必要最低限の手加減くらいはしてます」

 

「ホンマに必要最低限やな!?」

 

淡々とした口調でそう告げる三人を、ヘスティアはなんとも言えない表情で見ていた。

そりゃあ、会うたびに難癖をつけて嫌味を言ってくるロキが痛い目を見ればいいとは思っていた。

だけど、ここまでやってほしいとは思っていなかったのだ。

ぶっちゃけ、ドン引きしている。

 

ちなみに、三人がこんな行動に出たのは言うまでもなくベルがいるからである。

色々言いながらロキを殴ってはいるが、そのすべてを直訳すると“ベルに嫌われたらどうしてくれる?”だ。

彼女たちは、ベルと友好関係を築くためならば、神であろうと容赦なく殴る。

神々の言うトンチキ言葉を用いて言うのであれば、“彼女たちには、やると言ったらやる…『スゴ味』があるッ!”のだ。

 

三人のスゴ味にドン引きしているヘスティアに対し、フィンは今更感が半端ないがそれでも何とか取り繕って大手ファミリアとしての面目を保とうと話しかける。

 

「申し訳ない、神ヘスティア。今回僕たちはあなたの眷属であるベル・クラネルに謝罪したいことがあって、この場所を訪れさせてもらった」

 

「じゃあ、なんでこんな大人数で?それと、そこで蹲ってるロキは大丈夫なのかい?」

 

「人選に関する説明は後ほど。あと、ロキに関してはお気になさらず。うちのファミリアにはロキの言動が目に余れば殴っていいという不文律があるので」

 

生まれて初めてロキを哀れに思ったヘスティアは、大きなため息を吐きながらも来た面子を眺める。

一応、敵意のようなものは見られない。

ヘスティアは戦いを司る神ではないので、戦意や殺気は分からない。

だが、悠久の聖火という一種の平穏を司る神として、悪意や害意といったものには敏感な方だ。

ロキの眷属たち(こどもたち)が全員嘘をついていないのも確認済みなので、おそらく問題ないのだろう。

だがそれでも、嫌な予感はするし、別のベクトルでヤバい感情を抱いている可能性もあるのでベルに会わせるのは正直止めておきたいのだが、そこは大手ファミリアと零細ファミリアの関係。

謝罪に来たとは言っても、立場としては向こうのほうが圧倒的に上。

断ることなど出来るわけもない。

 

不本意ではあるが、来た時点で迎え入れるのは確定事項。

もうどうすることも出来ない。

そう思いながらも、ヘスティアは一番うしろにいる二人に目を向ける。

彼女たちは、他とは毛色が違って見えたから。

 

「分かったよ。君たちを迎え入れよう。それで?一番うしろの二人はどうしたんだい?君たち二人はロキの眷属じゃあないだろう?」

 

「おやおや、一目でそこまで見抜かれるとは!いやはや、やはり神というものは侮れませんねぇ」

 

そう言いながら、二人はヘスティアの前まで来て一礼をし、挨拶をする。

一人は演者のように芝居がかった口調で、一人は元気よく。

 

「では、改めまして。今回の一件の仲裁人としてアストレア・ファミリアから来たリュー・リオンと申します。こっちは―――」

 

「同じく仲裁人としてガネーシャ・ファミリアから来た、アーディ・ヴァルマです!よろしく!!」

 

そう言う二人を見て、ヘスティアは再度大きなため息を吐く。

どうやら、今回の一件は自分が思っている以上に大事になっているのだと悟ったから。

 

「仲裁人ね…。まあ、いいさ。ガネーシャと、何よりアストレアのとこの子供なら信頼できる。よろしく頼むよ」

 

「おや?アストレア様とお知り合いで?」

 

「同郷だからね。まあ、それなりに。あの子、天界にいた時からアルテミスに匹敵するくらい真面目だったから、揉め事の仲裁とかして色々と顔が広いんだよ」

 

「それはそれは」

 

ヘスティアの言葉がどれだけの信憑性を持っているのか分からないが、主神の昔のエピソードを聞けて何処となく嬉しそうにするリュー。

だが、今はそんな場合ではないと気持ちを切り替え、話を本筋に戻す。

 

「さてと、話が少々逸れてしまいましたが、本題へ。これから当人を交えて賠償などの話し合いをしたいと思いますが、よろしいですか?」

 

「ああ、いいとも。外で話すわけにもいかないし、ロキたちも入ってくれ。くれぐれも!暴れたりなんてしないでくれよ?見ての通りボロいんだから」

 

こうして、廃教会にてベル・クラネルとロキ・ファミリアの示談交渉が行われることになった。

 


 

「主神のロキや。よろしゅう、少年」

 

「初めまして。僕はロキ・ファミリアの団長を務めているフィン・ディムナ。よろしく」

 

「私は副団長のリヴェリアだ。今回は、迷惑をかけたな」

 

「儂は一応幹部ということになっておるガレスじゃ。こう見えて俺はまだ18だ!と、言いたいところじゃが、見た目通りの年齢じゃよ」

 

「私はベートだ。よろしく頼む」

 

「ティオネだ。よろしく頼む」

 

「ティオナよ。よろしく、ベル」

 

「レフィーヤです。この中では唯一幹部でも何でもないので、気軽に呼んでください」

 

「最後に。アイズ・ヴァレンシュタインです。こうして会うのは二度目ですね。よろしく、ベル」

 

次々に挨拶をするロキ・ファミリアの面々を、ベルはなんとも言えない表情で見ている。

困惑している、というのが一番正しいのだろう。

そんなベルに畳み掛けるように、残る二人も挨拶をする。

 

「アストレア・ファミリアのリュー・リオンです。気軽にリューと呼んでください。今回は、仲裁人としてこの場にいます。アストレア様の名の下に、公正に物事を判断すると誓いましょう」

 

「同じく、ガネーシャ・ファミリアのアーディです。よろしく!!」

 

更に困惑を続けるベルを見て、ヘスティアはベルを庇うように進んで話し始める。

 

「ベル君の主神兼保護者のヘスティアだよ。よろしく」

 

「へ、ヘスティア・ファミリア所属のベル・クラネルです。よろしくお願いします」

 

オドオドとした様子ではあるが、ヘスティアに続きベルも挨拶をする。

そのタイミングで、リューの口から改めて今回の一件について、立場が明確に語られることになる。

 

「まず、立場を明確にしておきましょう。今回、ロキ・ファミリアの過失により、ベル・クラネル少年は本来であれば遭遇するはずもなかった命の危機に瀕してしまった。ロキ・ファミリアの過失とベル・クラネル少年の命の危機は明確な因果関係があり、ロキ・ファミリアは責任を取るものとする。ここまででなにか異論はありますか?」

 

「ないで」

 

「ないよ」

 

「では、具体的な賠償の内容について話し合っていきましょうか」

 

「その前に、一ついいかい?」

 

賠償の話の前に、ヘスティアが手を上げて疑問を口にする。

最初から聞いてはいたが、ずっと保留になっていた疑問だ。

 

「ここで明確に口にしてくれ。なんで派閥の幹部がこんな大人数でここに来たんだい?本来であれば、ボク達のような零細ファミリアなんて、誰かが使い走りになって適当に済ませればいいだけの相手だ。なのになんで派閥の主神が、団長が、副団長が、幹部たちが、挙句の果てに他の派閥まで呼んで大袈裟にして。なぜボク達に…いや、ベル君にそこまでする?」

 

「………。」

 

「答えてくれ。じゃなきゃ、話が進められないぜ?」

 

フィン達は、ヘスティアの質問に何も言えずに黙ってしまう。

ベルも、今まで見たことがないような真剣な様子のヘスティアに驚き、何も言えなくなってしまう。

そんな中、ロキは一つため息を吐いて何でもないように答える。

こうなるに至ったことの顛末を。

 

「別に、そないな深い理由なんてあらへんて。うちとフィンだけで謝りに行こかって話てたところに、ガレスが来て自分も行く言い出して。偶然通りがかったベートがずるいぞって言いながら自分も行く言い出して。またまた偶然通りかかったアイズたんとティオナとレフィーヤが自分たちも行く言い出して。リヴェリアママはアイズたんが心配だから、ティオネは自分も行きたいの半分ティオナが心配なの半分で行く言い出して。それで、今回の件どこから聞きつけたんか知らんけど、アストレアんとこの子が仲裁人として一緒に行く言い出して、ついでにガネーシャんとこの子連れてきて。じゃあ、みんなで行こかって話になったから、みんなで来た。それだけや」

 

「ピクニックや飲み会感覚で示談交渉に来るんじゃない!!そんな状態許可するなよ!というか、君たちも君たちで何でそんなウキウキ気分で来たんだ!?示談交渉がそんなに楽しいか!?」

 

シリアスな空気が長続きしないのがお決まりのヘスティアは、案の定すぐに空気を破談させて怒り狂う。

ゼェゼェと、肩で息をしながらも獣のように威嚇を続ける。

そんなヘスティアを前に、アイズはゆっくりと立ち上がると真摯に話し始める。

 

「神ヘスティア。あなたが訝しみ、私達を警戒するのも無理はありません。ですが、一度話を聞いていただけないでしょうか?」

 

「……話をするのはボクじゃなくて、ベル君だ。被害者はボクじゃなくて、ベル君だ。君たちは謝りに来た、なんて言ってるが、謝る相手が違う。話を聞いて欲しいんなら、まずはベル君に謝るのが道理じゃないのかい?」

 

「ええ。それが道理でしょう。ですが同時に、眷属()を危機に晒したのであれば、主神(おや)に謝罪をするというのも道理です。親は誰よりも、それこそ子自身よりも子のことを大切に思うものですから」

 

「それは……」

 

「改めて、謝罪を。今回は、本当に申し訳ございませんでした。私達の不手際でベルを危険に晒し、あまつさえ酒場では嘲笑してしまった。謝って許されることではないでしょうが、どうか謝罪を受け取ってください」

 

「少年…ベル・クラネルよ。私からも謝罪しよう。すまなかった」

 

「ごめんなさい、ベル」

 

アイズに続き、ベートとティオナが。

ベートとティオナに続き、ガレスが、ティオネが、レフィーヤが。

頭を下げて、謝罪していく。

 

そんな様子に、ベルは戸惑う。

ベルだけでなく、フィンたちですらも。

 

フィンたちは今まで見たことがなかった。

寡黙で無表情だったアイズが理路整然とした口調で喋り、感情を表に出しているところを。

粗野で粗暴だったベートがここまで真摯に向き合い、謝る姿を。

快活でガサツだったティオナがここまで落ち着き払い、語る姿を。

目に見えるほどの違いはないが、ティオネやレフィーヤ、ガレスも同様だ。

 

眼の前の人物が、自分の知っている彼女たちではないような気がして、とても気持ちが悪かった。

それと同時に、今まで自分たちにも、アイズに至っては親代わりのリヴェリアにすら見せてこなかった一面を目の前の少年に曝け出しているという事実に、言いようのない嫉妬のような感情を覚える。

そして、疑問も覚えた。

彼は何者なのか。

アイズたちにとって、彼は一体何なのか。

それが、知りたかった。

 

そんなフィンたちの心情を知らないヘスティアは、アイズたちの謝罪を見て、その真摯さを感じ取った。

もちろん、嘘など欠片もついていなかった。

ならば、もうヘスティアにできることなどない。

 

「謝罪を受け取ろう。顔を上げてくれ」

 

ヘスティアの言葉に、アイズたちはゆっくりと顔をあげる。

アイズたちの顔を見て、今度はヘスティアも真摯に向き合う。

 

「君たちの真摯な態度はたしかに受け取った。ボクから言うことはなにもないよ。さっきも言ったが、被害にあったのはベル君なんだ。許す許さない含めて、最終的なことは全てベル君が決めてくれ」

 

「ぼ、僕ですか!?」

 

「この子達がお巫山戯でここに来たわけじゃないって分かったし、ボクからは何も言えないよ。もちろん、無責任に投げ出すわけじゃない。君の意見を尊重するために、ボクもサポートするさ。だから、思ったことをそのまま言ってくれ」

 

「お、思ったこと―――」

 

ベルはヘスティアにそう言われ、しばらく考え込む。

だが、やがて結論が出たのかゆっくりと話し始める。

 

「ぼ、ボクからは、本当に何もないです。みなさんがこうして来てくださっただけで十分と言うか、そもそも僕が弱かったからこんな事態になったわけですし、むしろ助けていただいたのに申し訳ないと言うか…。それに、ベートさんは酒場でも僕を庇ってくれたって、シルさん…酒場の従業員さんに聞きましたし…。あ、あの時のお代!建て替えて貰ったのに、お礼が遅くなってすいませんでした!!足りないかもしれませんが、今お金を――」

 

「気にするな。私が勝手にやったことだ」

 

お金を出そうとするベルを、ベートは手を上げて制する。

そんな様子のベルを見て、フィンたちは更に目を丸くする。

冒険者というのは、良くも悪くも自己が強く利己的な者たちだ。

自分たちもそうであるという自覚があるから、尚更。

 

だが、目の前にいる少年は純粋で温和だった。

まだ日が浅いと言っても、これはかなり珍しいことだ。

 

「えっと、ベルくん?って呼んでいいかな?」

 

「あ、はい!」

 

「オッケー!私のこともアーディでいいよ!で、話を戻すと、ベルくんとしてはロキ・ファミリアに要求することって言うか、お願いしたいことって何もないの?相場だと、お金とかだけど」

 

「特には…。確かに豊かな生活をしているとは言えませんけど、それでも僕と神様が明日食べる分には困らないだけのお金はありますし…。」

 

「う~ん、そっかぁ…。困ったなぁ。どうする、リオン?」

 

「そうですね…。ここまで来て何も払ってないとなると、ロキ・ファミリアとしては問題になるでしょうね。彼らにも面子というものがありますから。なので、ベル殿には難しいかもしれませんが、ロキ・ファミリアから提示されたものから一つ選んでいただく、という形が一番無難ですね。それでいいですか、【勇者(ブレイバー)】?」

 

「ああ、こちらとしても異存はない」

 

ベルに対して、大まかな方針が決まったことで早速フィンは副団長(リヴェリア)と話し始める。

 

「リヴェリア、どうするべきだと思う?」

 

「一番無難なのは、やはり武具のたぐいではないか?冒険者として、質のいい武器はあって困るものではない。金銭も考えたが、この少年たちに渡しても持て余すだろう。武器を買うにしても、武器というものは金だけで買えるものでもない。優秀な職人とのコネクションは、中々作れるものでもないしな」

 

「やはり、君もそう考えたか…。なら、やはり武器になるかな?というわけで、僕たちとしては良質な武具の提供を薦めるんだが、どうだろうか?」

 

「えっと、その……」

 

フィンたちの提案に対し、ベルはなにか言いたげにする。

言い淀んでいるのは明白だが、彼が何に困っているのかフィンたちには分からなかった。

 

「その、折角のご提案ですし、言いにくいんですが……」

 

「ハッキリ言ってもらって構わないよ。何か問題が―――」

 

「問題?大アリに決まってんだろ!」

 

ベルとフィンが話をしていると、後ろから声が聞こえてきた。

その声の主は室内にズカズカ踏み入ってくると、持っていた荷物を横に置き、ベルの肩を組む。

こいつは俺の相棒(もの)だと、証明するかのように。

 

「俺の大事な顧客様に何コナ掛けてんだよ、【勇者(ブレイバー)】」

 

「クロッゾさん!?」

 

「クロッゾ…?呪われた魔剣鍛冶師の末裔か…」

 

「ん?おお、お前らも久しぶりだな!無事こいつに出会えたようで何より!」

 

クロッゾと呼ばれた青年――ヴェルフ・クロッゾはアイズやベートたちに快活な笑顔を見せるが、ベートは苛立ちを隠すことなく眉間にしわを寄せる。

その理由は、分からなくもない。

 

「あなた、数日前から工房に籠もりきりって聞いてたけど?」

 

「ああ。そうだぜ?」

 

「いつ彼と出会ったの?」

 

「6日前の朝だな。ダンジョンで倒れてるのを拾った。目が覚めるまで介抱してたんだが、目が覚めたら俺の作った武器を絶賛してくれてな!もう、逃すわけにゃいかねえと思ってその場で直接契約結んだ!!一緒にパーティ組むって約束してな!そっからはこいつの防具作るために工房に籠もってた!今日は完成したその防具を持ってきたんだよ!」

 

「鍛冶師、お前……」

 

「そういや来客があったって伝言があったな!悪ぃ悪ぃ!あれお前らのことだったのか!」

 

悪びれもせずにそう宣う彼を見て、一同は頭を抱える。

そうだ、忘れかけていたがこいつはこういう奴だった。

アルゴノゥトとは別ベクトルで非常識な奴だったことを思い出す。

 

クロッゾ。

魔剣鍛冶師のクロッゾ。

アルゴノゥトに魔剣を与えた鍛冶師にして、彼の無二の親友。

そんな存在の生まれ変わりが、今目の前にいる青年だ。

 

「しっかし、なんでダンジョンで倒れてたのか気にはなっていたが、なるほどな……。そういうことか」

 

目を細めるようにして、ヴェルフは彼らを見つめる。

そうだ、忘れかけていたがこいつはこういう奴だった。

こいつはやけに鋭く、人を見る目がある。

断片的な情報だけでも、凡そ正しい真実にまでたどり着く。

 

「まあ、いいさ。そのおかげで俺は親友(ベル)に出会えたんだ。何も言わねえし、何も聞かねえ。ここでのことも、外に漏らしたりしねえよ。もっとも、そこのエルフの女王様が俺の言葉を信じるとは思ってねえがな」

 

「……なぜ私だけなのだ?この場にいるエルフは私だけではない。【疾風】もレフィーヤもいるだろう?なぜ私だけを名指しで言った?この二人は物の数に入らないとでも言うつもりか?」

 

「んなわきゃねえだろ。ただ単に、昔馴染みを疑うほど人間性腐っちゃねえだけだ」

 

二人に視線で確認を取ると、二人とも小さくうなずく。

その様子を見て、リヴェリアは少し目を伏せ沈黙を保つ。

何も言うことはないという意味だろう。

その意図を察して、今度はフィンがヴェルフに問いかける。

 

「クロッゾの少年、いいかい?」

 

「なんだよ、【勇者(ブレイバー)】。有名人に名指しなんざされたら、緊張してくるじゃねえか」

 

「一つ聞きたいんだが、君は先程彼と直接契約を結んだと言ったね?」

 

「ああ、そうだな。それがどうかしたか?」

 

「それは、彼のために魔剣を打つという意味だと捉えていいのかい?」

 

「まあ、行く行くはな。今はまだダメだ。今のこいつに渡しても持て余すだけだろうしな。安易な言い方すりゃ、“まだその時ではない”って奴だ」

 

「君は今まで、誰にも魔剣を打ってこなかったと聞いたが?」

 

「なんでこいつだけ、とでも言いたげだな?」

 

「まさにそう言いたいからね」

 

ヴェルフ・クロッゾという男を知らない存在からしてみれば、当然の疑問。

それをフィンは投げかける。

何故他はだめで、彼はいいのか。

その違いを、フィンは問う。

 

「俺は、人を救う剣が打ちたかった」

 

「……は?」

 

「綺麗事だってことは分かってる。まあ、無茶苦茶言ってるってことも分かってる。剣なんざ所詮人斬り包丁だ。いくら取り繕おうとそれは変わらねえ。だけど俺は、流れた血の千分の、万分の一でも構わねえから、人が救われて欲しいと願ったから、魔剣を打った」

 

「では、なぜ今は魔剣を打たないんだい?」

 

「その理由は単純だ。足りねえからだよ、覚悟が」

 

「覚悟?」

 

「魔剣は、剣は手段だ。何かを守り、何かを成す。そのための手段の一つに過ぎねえ。お前らはモンスターに剣での攻撃が効かなかったら魔法を試すだろう?魔法がダメだったら、別の手段を探すだろう?魔剣もそれと同じだ。可能性を広げるためのものでしかねえ。一番重要なのは、使い手だ」

 

「それには酷く同意するよ。でも、それがどう覚悟に繋がってくるんだい?人を救う剣という話とも関連性が見えない」

 

「俺の昔の相棒に、とんでもない大馬鹿がいた。特別な力を手に入れたらはしゃぐし、魔剣を手にしたら調子に乗るようなお調子者だ」

 

「君の言っている覚悟とは程遠い人物像だね」

 

「そうでもねえさ。あいつはどんな力を手にしようと、どんな剣を手にしようと、何も変わらなかった。ただひたすらに真っ直ぐに、たった二人の女を助けようと喜劇を巻き起こした」

 

ヴェルフの…クロッゾの言葉を聞いて、アイズたちは一人の人物を思い出した。

自分たちにとって眩く、遠い、あの英雄の姿を。

 

「あいつは分かってたんだよ。真に大事なのは力じゃねえ。力を振るう覚悟だってことが。だからこそ、あいつは何も変わらずに二人の女を救ってみせた。そいつらを笑顔にしてみせた。最高の喜劇を作ってみせた。あいつは世間じゃ散々に言われてるらしいが、俺はあいつこそが真の英雄だと思ってる!!」

 

「………。」

 

「それに引き換え、俺の魔剣を欲しがる連中はどうだ?安易に力を欲して、楽をしたい連中だらけだ。仲間を守るため、誰かを守るため、女を守るため。そういう理由で魔剣を欲しがるやつなんざ、誰もいやしねえ。俺は別に意地悪で打たねえって言ってるわけじゃねえぜ?そういう連中は魔剣以外に手段を用意しなくなるからな。そんな連中に持たせても、魔剣が砕けてダンジョンで呆気なく死ぬのがオチだ」

 

「………。」

 

「魔剣を欲する連中の中に、あいつの百分の一でも覚悟がありゃ、俺は作ってもいいと思ってる。あいつほど覚悟を持ってるやつなんざ、そうそういねえからな。現に、俺はそこにいる昔馴染みの為なら魔剣を打ってもいいと思ってるんだぜ?そいつらの覚悟は、痛いほど知ってるからな」

 

クロッゾは知っている。

彼女たちが味わった喪失を。

彼女たちの覚悟を。

それを、そばで見てきた。

だからこそ、彼女たちの為ならば魔剣を打ちたいとも思っているのだ。

 

「だけど、そういう奴らに限って俺の魔剣を欲しがらねんだよな。ベルもそうだ。どいつもこいつも、俺に気持ちよく魔剣を打たせてはくれねんだよ」

 

そう言いながらも、ヴェルフはどこか嬉しそうだった。

魔剣など関係なくても、親友(ベル)は自分を欲してくれている。

そう知ることが出来て、嬉しかったのだろう。

 

「まあ、色々長くなったがそういうわけだ。端的に言ってしまえば、俺が魔剣を打たねえのは俺の魔剣を欲する奴らの根性が気に食わねえから。ったく、神時代って言ってもいいことばっかじゃねえな。脅威への対抗手段は増えたが、その分気概がある奴が減った」

 

まるで神時代よりも以前を知っているかのようなその発言に、フィンたちは首を傾げるが、その真意は分からないし、分からせようともしない。

これ以上この質問をしても意味はないと悟ったフィンは、別の質問を投げて揺さぶりをかける。

 

「一つといった手前悪いが、もう一ついいかい?」

 

「これで最後にしろよ?そもそも本題は俺じゃなくてベルだろ?」

 

「分かっているとも。では最後の質問だ。ヴェルフ・クロッゾ、先程君はパーティを組むことを約束した上で直接契約を結んだと言ったね?それはなぜだい?」

 

「何故も何も、俺同業からはハブられてるんだよ。理由は聞くなよ、ロクでもねえから。だけど、俺も強くならなきゃいけないし、“鍛冶”のアビリティも欲しい。だから、ランクアップ効率化のためにレベル1同士でパーティを組む。何もおかしくねえだろ」

 

「つまり、レベル2になって発展アビリティが発現したらパーティを解散すると?」

 

「するわきゃねえだろ。ずっとパーティ組んだままだよ。言っただろ?俺も強くならなきゃいけないんだよ」

 

「分からないな。君には魔剣を打つという能力がある。それは君にしか出来ないことだし、代わりはいない。それなのに、わざわざ危険を犯してダンジョンに潜るのかい?地上で剣を打つのが鍛冶師の本懐なのに?もちろん、椿のような例外もあるが君はそれとも違うようだ。君は何がしたいんだい?」

 

フィンの追求を心底鬱陶しそうにしながら、ヴェルフは頭を掻きむしる。

そして、分かっていないと言わんばかりにフィンをにらみつける。

 

「どれだけ魔剣を打てても、意味ねぇんだよ」

 

「どういうことだい?」

 

「さっき、俺の昔の相棒の話しただろ?そいつについて更に教えてやる。そいつはな、ある日突然俺達の前からいなくなった」

 

「………!?」

 

「他の連中を庇って、呆気なくやられちまった。もちろん、魔剣は持たせてたし、出来る限りの装備はさせてた。でも、あいつは俺たちを残して逝っちまった」

 

「………。」

 

「意味ねえんだよ、魔剣だけじゃ。あいつに対して、一度は英雄なんて柄じゃねえって言ったが、俺はそれを少し後悔してる。もちろん、大衆にとっての英雄なんてものは柄じゃねえって今でも思ってるが、それでも―――…」

 

ヴェルフはそこで一度言葉を区切り、どこか遠くを見据えるように天井を眺め、やがて何かを掴むように手を握る。

彼が何を掴もうとしたのかは分からない。

だが、彼が掴もうとした何かは、彼の手からすり抜けていったのだということだけは、分かった。

 

「それでも、あいつの為の英雄くらいには、なればよかった。物語の主人公にはなれなくても、主人公を支える相棒くらいには、なれるはずだったのに」

 

彼が強さを欲している理由は、後悔。

かつてと同じ過ちを繰り返さないために、ヴェルフ・クロッゾは力を望む。

かつてのクロッゾは何者にもなれなかった。

そこに立てるだけの力と、資格は持ち合わせていたはずなのに、それを選ばなかった。

クロッゾは、それを今でも後悔し続けている。

 

「なってますよ!」

 

しかし、それを否定する声が一つ、ここに上がる。

これは一つだけだが、視線はそうではない。

この場にいる彼らは、雄弁に語る。

他の誰が知らなくても、クロッゾはたしかに英雄の相棒であったと。

 

「クロッゾさんは確かに兄さんの親友で、相棒で、英雄です!私も、兄さんも、確かにクロッゾさんに助けられて、救われてました!」

 

その言葉に、ヴェルフは大きく目を見開き、どこか寂しげな目をする。

そんなヴェルフを更に励ますように、ベルはゆっくりと話し始める。

 

「あの、ヴェルフ…。」

 

「……なんだ、ベル?」

 

「僕はヴェルフの相棒さんを知らないし、どんな事情があったのかは詳しくは分からない。けど、それでもヴェルフはその人を救ってたと思うよ」

 

「……なんで?」

 

「だって―――」

 

ベルは言う。

かつての英雄と同じ、優しい笑みを浮かべながら。

かつての親友に、今の親友に。

感謝の気持ちを込めながら。

 

『「僕自身、君に救われてるからね」』

 

その言葉を聞いて、ヴェルフは先程以上に大きく目を見開く。

そして、嬉しそうにベルの頭を乱暴に撫で回す。

何度も何度も、繰り返し。

 

「な、なに!?」

 

「なんでもねえよ!!ただ、そっか…、そうだな―――。そうだといいな」

 

撫で回されるベルも、最初は戸惑っていたがやがて嬉しそうに笑うようになる。

二人して、屈託なく笑うようになる。

そんな光景を、かつての英雄たちはどこか懐かしいものを見るような目で、暖かく見守っていた。

 

きっと、これもまた、喜劇なのだろう。

 


 

ひとしきりのじゃれ合いが終わった後、ふと我に返ったヴェルフが思い出した。

そう言えば、元々ベルの話し合いをしていたのだと。

 

「話題を全部かっ攫っていった俺が言えることじゃねえが、元々ベルの賠償について話してたんじゃねえのか?いいのか?何も決まってないだろ?」

 

そう言えばそうだと言わんばかりに、全員が再び頭を抱える。

結局、何も決まっていないのだ。

ベルとヘスティアは何も欲していないし、何も求めない。

しかし、そのままという訳にはいかない。

 

「ベル・クラネル。何でもいいから自分のことを喋ってくれ。夢でも目標でも、何でもいい。私たちは、それを助けるために行動することを約束しよう」

 

ベートは何かきっかけを探すためにベルにそう投げかける。

その言葉を受けたベルは何か悩むように逡巡した後、ゆっくりと話し始める。

自らが目標とする姿を。

 

「僕は……」

 

ベルは最後の最後まで、言うかどうかを迷った。

しかし、それでも意を決して真剣な表情で話し始める。

 

「僕は、英雄になりたい」

 

この都市を代表とする数多の冒険者を前にして、この白き少年は言った。

都市の住民が聞けば大抵が笑い飛ばすような、そんな夢を。

現に、ロキも腹を抱えて笑っている。

 

「おい、何を笑っている、ロキ!」

 

「英雄って…、英雄って…!!今時子供でも言わへんで!」

 

「この少年は私たちの問いに答えて言ってくれたのだ。それに、純粋ないい夢だろう!笑うな!!」

 

「何がおもろいて、このメンツの前で言うてるのが一番おもろいやん!!」

 

笑いまくるロキをリヴェリア達が窘める中、アイズたちは何も言えなくなった。

目の前の少年は、あの英雄とあまりにも重なって見えたから。

そして、ロキですらもやがて笑うことが出来ないセリフが飛び出ることになる。

 

「『黒き終末はもう近い』」

 

ベルがそう言った瞬間、ロキは息を呑んだ。

そして、ロキを黙らせるように少年は語り始める。

伝え聞いていたものを、そっくりそのまま語り始める。

 

「『次代の英雄の踏み台となる絶対悪は現れなかった。超克の先には、誰も行けないかもしれない」』

 

「『“最後の英雄”は……生まれないかもしれない』」

 

やけに現実味を帯びた口調で、ベルは滔々と語る。

そして、最後のセリフを言った後、雰囲気を一変させ元の様子に戻って話し始める。

 

「僕にそう語った人がいました。その時、その人は今まで聞いたことがないくらいの慙愧の絶えない声と、今まで見た事がないくらい儚い表情をしてました」

 

どこか憂いを感じさせる表情で、少年は言った。

 

「僕は、その人にそんな顔をして欲しくなかった。その人に笑っていて欲しかった。だから、不意をついて“英雄になる”なんて言葉が僕の口から溢れました」

 

その人物は何を思ったのだろうか。

自分の後悔がこの子供の未来を破滅に変えたのかもしれないと、その人物も悟ったはずだ。

いつか、ベル・クラネルはこの選択を後悔する日が来るかもしれない。

それでも、彼はあの日見た光景を目に焼き付け、誇りに思い続けるのだろう。

 

「そうしたら、その人は笑ってくれました。笑って、僕の手を引いて一緒に歩いてくれました。僕はその光景が続けばいいと思った。あの人の笑顔が、ずっと続けばいいと思った。僕が英雄を目指した理由なんて、そんなものです」

 

大義ももちろんあるのだろう。

だがそれ以上に、ベルは目の前の人に笑って欲しかった。

その姿は奇しくも、始まりの英雄と同じものだった。

 

「だから、僕は英雄になります。今以上の強さを手に入れて、あの人を含めたすべてを救う英雄になる。それが僕の目標であり、夢です」

 

そこまで言い切ったベルは、やがて照れ臭そうに笑いながら頬をかく。

 

「まあ、今の弱い僕が言っても、カッコ悪いだけなんでしょうけどね。えっと、だから、本当に僕からは何もないんです。こうして皆さんが来てくださっただけで十分ですし、貰えるようなものなんて何もないですから」

 

そう言って、ベルは笑う。

善意からの拒絶である以上、フィンとしてはこれ以上何も言えない。

金銭を渡したところで、突き返されるのがオチだろう。

だから、これ以上フィンに出来ることは何もない。

そう思い諦めかけたところで、思わぬ所で救いの手が差し伸べられる。

 

「ベル、つかぬ事を聞きますが、戦闘訓練などはどうしていますか?」

 

「えっと、ヴァレンシュタインさん?」

 

「アイズで構いませんよ、ベル。それで、戦闘訓練などは?」

 

「ほ、ほとんど独学です。昔一時期だけさっき話した人が教えてくれてたことがあるんですけど、持病の関係で離れて暮らす事になって。それ以降は…」

 

「なるほどなるほど…」

 

ベルの言葉を聞いて、アイズは意味深にうなずく。

顎に手を当てて少し考え込んでいたが、やがて考えがまとまったのかベルに一つ提案をする。

誰もが予想打にしなかった提案を。

 

「ベル、戦闘訓練というものは一人でやっていれば必ず限界が来るものです。どれだけ優れた戦士であっても、例外はありません。クロッゾも、あなたの訓練相手になることはできるかもしれませんが師にはなれませんし、そもそも彼は鍛冶師です。剣を打っている間は訓練をすることはできません」

 

「まあ、それは否定しねえよ。だけど、それが今関係あんのか……って、まさか、あんた――!!」

 

アイズは満面の笑みで、告げる。

この場の全員が驚愕する衝撃の提案を。

 

「良ければ、私が手ほどきをしましょうか?」

 


 

アイズがこの発言をした瞬間、この場は荒れに荒れた。

主に、ロキとリヴェリアが。

 

「何言うてんねん、アイズたん!!そんなん駄目や、駄目に決まっとるやろ!!」

 

「派閥幹部としての立場を考えろ!幹部が他派閥に入れ込むなど、あってはならないことだ!!」

 

しかし、激昂する二人に対してもアイズは冷静に反論していく。

 

「別に、いいでしょう。現状ヘスティア・ファミリアの団員はベル一人だけ。大手ファミリアに戦闘技術を漏洩させるなら兎も角、ヘスティア・ファミリアに技術提供をする分にはリスクが少ないはずです。それに、こちらにもメリットがあるのですよ?」

 

「メリットぉ?」

 

「これから第一級冒険者になるベルと、早い段階から繋がりを作っておくことが出来る。ベルの力はダンジョン攻略で必ず役に立つ。でも、現状の険悪な状態では、ベルの力を借りることは不可能です」

 

ハッキリとした口調でそう断じるアイズに、ロキもリヴェリアも疑問を隠せない。

レベル4の冒険者を指して、これから第一級冒険者になると言うのであれば分かる。

だが、まだ冒険者になりたての、しかもレベル1の少年を指してそのセリフを言うのは、とても奇妙に思えた。

 

「第一級冒険者になる?その少年が?確かに可能性はあるのだろうが、なぜそこまで確信を持って言える?」

 

「リヴェリア。あなたの目は節穴ですか?逆に問いましょう。なぜベルが2級や3級で収まる器に見えるのですか?ベルはいずれ、私達も超える冒険者になります。ここでコネクションを作っておかないと、いずれ後悔するのはあなた達ですよ?」

 

確かな意志と確信を持って断言するアイズを言い負かすだけの言葉を、ロキもリヴェリアも持ち合わせていなかった。

リヴェリアは助けを求めるようにフィンに視線を向けるが、フィンは軽く首を振るだけ。

おそらく、フィンにも無理なのだろう。

それに、フィンはアイズの言葉を否定するつもりはなかった。

ベルが大成しようがしまいが、ベルについて来るクロッゾの魔剣という付加価値は無視できないものだ。

そのためになら、派閥幹部を一人貸し出すのも惜しくないと考えている。

 

そうして、否定したいロキとリヴェリア、肯定したいアイズとの間で、膠着状態が発生する。

しかし、やがてアイズは大きなため息を吐いて、ベルの方を見つめる。

少し残念そうにしながら。

 

「そもそも、ベルがロキ・ファミリアに入団してくれればここまで拗れなかったのに…。ベル、なんでロキ・ファミリアに入らなかったんですか?」

 

「いや、入るも何も…。僕じゃ無理ですって……」

 

「あなたなら入団試験を突破できたと思いますよ?」

 

「いや、でも、実際無理でしたし…。」

 

「「「「「………………は?」」」」」

 

ベルのその発言に、この場にいた全員が言葉を失った。

数秒間の沈黙が流れる中、一番最初に我に返ったのはフィンだった。

 

「ベル・クラネル。無理だったというのは、君はロキ・ファミリアの入団試験を受けたことがあると、そう受け取って問題ないかな?」

 

「受けてはいないです。門番の方に、お前なんかじゃ入れないからって言われたので、試験自体は…。」

 

スゥ~ーと、全員の息を吸う音だけが響き渡る。

再び場が硬直する中、一番最初に動き出したのはロキ・ファミリアに所属している古代の英雄たちだ。

 

「ベル、その時の門番の着衣人相、あるいは名前。もしくは拠点を訪れた日時などでも構いません。詳しく教えてください」

 

「……え、え?」

 

「お前を独断と偏見だけで追い返したような恥知らずの無能だ。私達が制裁を加えてやる」

 

「せ、制裁って…、なんで!?」

 

「ただの門番に入団希望者の可否を決める権限なんてないわ。本来であれば、決めてはいけないものを勝手に決めた、これだけでも充分な厳罰対象よ。しかも、それがよりによって入団希望者の可否についてなんて…。ありえない…!!」

 

「安心してください。しっかり息の根を止めておきますので!」

 

「何も安心できませんよ!?」

 

「気にするな。ダンジョンがある以上死体の処理には困らない」

 

「余計気になります!?」

 

「息の根や死体は流石に冗談じゃが、何かしらの対処はしたい。こんなことが続くのはファミリアとしても問題じゃ。儂等を助けるためと思って、教えてくれんかのう」

 

怒りを込めた声をしながらベルの肩をがっしりと掴み、門番の詳細を聞き出そうとする五人。

うち三人はかなり殺意が高めだ。

まあ、アイズたちからしてみれば、ベルとの素敵なファミリア生活を邪魔された形になるのだ。

そのせいで今こうして苦労しているわけだし、そりゃあ殺意の一つや二つ湧いてくる。

唯一、ガレスだけは冷静に諭そうとしているが、この現状では焼け石に水もいいところだ。

 

ちなみに、この様子を見ているヴェルフとリューは腹を抱えて爆笑している。

 

「ハイハイ、君たち一旦ストップだ!そのままだとベルくんの肩が砕ける!!」

 

詰問のあまり手に力が入りすぎており、肩から嫌な音がなり始めていたところを間一髪のところでヘスティアが止める。

ヘスティアに声を掛けられたことで我に返った彼女たちはベルから手を離し、何事もなかったかのように居住まいを正す。

そんな様子の彼女たちを見てヘスティアは呆れ返るが、それでも保護者として最低限の苦言を呈する。

 

「いいかい?これだけは言っておく。たしかに、今ここにベルくんがいるのは、ボタンを掛け違えた結果でしかないんだろう。もしかしたら、君たちの近くにいる方があるべき姿なのかもしれない。けど、今のベルくんはボクの家族(ファミリア)だ。本人が望むのならボクはベルくんを送り出すが、そうでないならベルくんは渡さないよ。ここに居たいと願ってくれる眷属を、ボクは絶対に見捨てたりしない。だから、軽々しくこっちに来れば良かったのに、なんて言わないでくれ。今の僕たちの関係を蔑ろにされているようで、少し不愉快だ」

 

「………。申し訳ございません。少々、軽率だったようです」

 

子供を叱りつけるようなその口調は、ベルと話し合ったことで無意識のうちに高まっていた彼女たちの激情を沈めるには、充分すぎるものだった。

そして、その次にヘスティアは優しく諭すように彼女たちに語りかける。

 

「でも、君たちがベルくんを大切に想っているのもよく伝わってきた。訓練や、個人的な交流なんかは好きにするといい。君たちのファミリアの事情はボクにはどうにも出来ないが、少なくともボクは止めないよ」

 

「―――!ありがとうございます、神ヘスティア」

 

「いいよ、別に。それと、例の門番君については後でベル君に話を聞いて、また今度伝えるよ。流石にこの状況を放置するのは君たちとしてもマズイだろうからね。まあ、そういうわけだから、今はベル君との今後を話し合うといい」

 

アイズはヘスティアの言葉を聞いて、リヴェリアとロキの方を向く。

 

「聞いての通りです。私達はベルに対して、三つの大きな負債があります。一つ目はミノタウロスの一件、二つ目は酒場での一件、三つ目は今日新たに発覚した入団希望の一件。この三つを返すのは、並大抵のことではないと思いませんか?」

 

「それは……、そうだが…。」

 

「もちろん、派閥としての立場も考えています。他の団員にも同じように訓練を施しますし、ベルとの訓練はこの場にいる団員以外には漏れないよう秘密裏に行います。これでもまだ、不十分ですか?」

 

リヴェリアはしばらく目をつむり、考え込む。

今までの話と、派閥としてのデメリットを天秤にかけ、判断する。

やがて目を開けたリヴェリアは、思い沈黙を破って話し始める。

 

「―――その少年の意思次第だ。その少年が断れば、それまで。無理強いはするな」

 

「もちろんです」

 

アイズはリヴェリアの返答を当然のものとして受け取り、再びベルに向かい合う。

 

「ベル、あなたの答えを聞かせてください。私はあなたの望む全てを叶える準備はできています。私達は……、今度は(・・・)私達があなたを導いてみせます。だから、教えてください。あなたは、どうしたいですか…?」

 

アイズのその問いかけに、ベルは迷うことなく答える。

彼のそれは、既に願望ではなく決意に変わっている。

ならば、迷うことなどありはしない。

 

「強くなりたいです。誰かを救えるように、誰でも救えるように。すべての人の涙を枯らし、笑顔をもたらす。そんな英雄に、僕はなりたい」

 

少年の決意を、この場にいる全員が聞き届けた。

この少年の喜劇は、今この瞬間から始まるのだろう。

 


 

話がまとまり、一段落付いた。

そんな時だった。

再び大きな争いの火種が投下されたのは。

 

「さて、賠償の話もまとまったことですし、明日からの予定を話し合いましょう、ベル。訓練の日時ですが、明日の明朝に市壁の上などで―――」

 

「おい待て、アイズ」

 

アイズがベルと話を進めようとした時だった。

それを遮るように、ベートは話に割って入った。

ベートの突然の発言に全員が驚きを隠せなかったが、ベートは構うことなく話し続ける。

 

「ベルの訓練相手はどうするつもりだ?」

 

「? もちろん私が務めますが?」

 

「ふざけるな。そんなこと、認められるわけがないだろう」

 

ベートはアイズに好意を持っている(と思われている)ので、アイズが異性と二人っきりという状況が気に食わないのだろう。

フィンたちはそう思った。

しかし、次にベートの口から飛び出てきたのは彼らが思っていたものとは全く逆の言葉だった。

 

「お前にだけ良い思いをさせてたまるか。ベルの訓練相手は私が務める」

 

「………はあ?」

 

ベートのその発言を受けて、アイズは露骨に不機嫌になる。

そして、連鎖するように更に不機嫌になる者は増えていく。

 

「ふざけないで。どっちも適任じゃないわ。ベルの相手は私がする」

「全員駄目ですよ!皆さん仮にも派閥の幹部でしょう?ここは、一派閥団員として自由に動ける私がするべきです!」

「お主は後衛の魔導士じゃろうが!ここは、一番経験のある儂がするべきじゃろう!」

「全員論外だ。私がする」

「貴様、少しは論理立てて喋る努力をしたらどうだ?その程度も出来ん脳筋に任せられるか」

「それを言うならあなたもでしょう!?そもそも、一番最初にこのことを提案したのは私です!なら、私にはベルの訓練相手を務める義務と権利がある!」

「そんなものはない!!ふざけたことを抜かすな!」

「まあまあまあ、皆さん落ち着いてください。ここは、間を取って私が相手を務めるということで―――」

 

「「「「「関係ないポンコツエルフはすっこんでろ!!」」」」」

 

「ブハハハハハッ!!大変だな、お前ら!まあ、同じレベルの俺はお前らみたいに必死にならなくても今すぐにでも一緒に冒険できるし、俺には関係ない話だな!無駄にレベル上げてるからこうなるんだよ、バーカ!」

 

「「「「「喧嘩売ってんなら買うぞ、クソ鍛冶師!!」」」」」

 

ヴェルフの挑発に全員で答えた後、全員が息を荒くし静まり返った。

そして、その視線はやがて冷たくなり、殺気を伴うようになる。

全員、振り切れてしまったようだ。

 

「やめだ。いつまでやっても埒が明かん」

 

「そうね。なら、ここは単純明快にいきましょう」

 

「一番強いものが教えれば、ベルは一番強くなれる。単純な答えだ」

 

「いいでしょう。受けて立ちます」

 

静かに闘志を燃やし、全員が武器に手を掛ける。

そして、誰が合図をすることもなく、全員が同時に攻撃を仕掛ける―――、前に、ヘスティアの怒りが爆発した。

 

「良いわけあるか―――!!全員出てけ―――!!!」

 

ヘスティアの咆哮により、廃教会は倒壊の危機をなんとかくぐり抜けることが出来た。

これが、彼女たちにとって今日一番の幸運と言えるだろう。

 


 

「ベートさんのせいで、追い出された…。もっとベルと一緒に居たかったのに…。」

 

「俺のせいにしてんじゃねえぞ!テメエらも原因だろうが!!」

 

「あたし達悪くないもーん。全部クソ狼のせいだし」

 

「ふざけんなゴラァ!拠点(ホーム)に戻ったらさっきの決着つけてやろうか、このバカゾネス!!」

 

「上等だし!」

 

「やめんか、お前ら!他の通行人に迷惑じゃろうが!」

 

「少しは落ち着きなさいよ、あんた達…。」

 

「まあ、多少浮かれるのは別に構わないのでは?あまりに目に余るようでしたら止めますが、そうでないなら構わないでしょう。彼らも、嬉しいのでしょう。神ヘスティアが思った以上の神格者で。あの御方なら、安心してベル殿を任せられる」

 

「そうですね…。あそこまで真剣に眷属のことを考えてくれる優しい神なんて滅多に居ませんよ。本当に、あの人がベルの神様で良かったです…。ロキに爪の垢を煎じて飲ませたいです」

 

「「「「「それは同感」」」」」

 

「なんでやねん!?」

 

ヘスティアに追い出された後、自分たちの拠点に戻るまでの道中。

ベルの前で纏っていたいつもの彼らとは違う異質な雰囲気は、すっかり消え失せていた。

アイズは無表情になったし、ベートとティオナの口調も元通りになった。

ティオネやガレス、レフィーヤの様子も元通りになっていた。

リューも、演者のような口調は鳴りを潜め、いつものカタブツに戻っている。

 

そんな様子の彼女たちに、やはり他のメンバーは驚きを隠せない。

やがて、その疑問を堪えきれなくなったアーディは、ティオナとリューに問いかける。

交流があり、仲がいいと自負している彼女たちならば、何か答えてくれると信じて。

 

「ねえ、リオン、ティオナ」

 

「なんですか、アーディ?」

 

「なあに?」

 

「あの子は、一体何者なの?」

 

分からなかった。

都市を代表する冒険者達が、あの少年に入れ込む理由が。

分からなかった。

あの少年の前でだけ豹変する、友人達が。

 

だからこそ、知りたかった。

この冒険者達は、あの少年に何を見出したのか。

あの少年の中に、何も見たのか。

 

それらを全てひっくるめて、アーディはこの問いを投げかけた。

そして、この問いの答えはもう決まっている。

三千年も前から、ずっと。

 

「「「「「俺(私)たちの“英雄”」」」」」

 

そう言って、彼らは笑う。

自分たちが愛した、あの英雄のように。

 

「すぐに分かる。ベルはきっと、すぐに巻き起こす。最高の喜劇を」

 

「私達の様子が変わることに関しては、まああまりお気になさらず。ただ単に、テンションが上がってるだけですので」

 

はぐらかすように、彼女たちは笑いながら答える。

その答えを、アーディたちは納得できないような表情で聞いていた。

 

「気になるのなら、今度ベルと話してみると良い。アーディとは気が合うでしょう。おそらく、アリーゼとも」

 

「あ~、確かに!」

 

そう言って、彼女たちは笑う。

すべてを振り回した、あの道化のように。

 





あとがき

4pを見て、少し驚かれた方もいるかもしれません。
詳しくは言いませんが、生きてますよあの二人。
大変なことになりますね、これは。
知~らね。

それと、前回ハーメルンの感想で質問されたことですが、アイズたちは生まれたときから記憶を持っていたわけではなく、それぞれが途中で思い出しています。
切っ掛けは、例を挙げるならベート、ティオナ、ティオネはロキ・ファミリアに入団する時。
正確に言えば、フィンやガレスと再会した時。
アイズとリューは七年前出会ったときにそれぞれ。
レフィーヤも、アイズに出会ったときに思い出しています。
だからこそ、アイズたちはベルが自分たちの姿を見て、思い出してくれるのではないかと期待していたのです。

今ハッキリ明言しておきますが、ベルがアルゴノゥトの記憶を思い出すことはありません。
これだけは絶対です。
しかし、アイズたちはアルゴノゥトと再び喜劇を作り上げます。
これも、絶対です。

いつか来るその時まで、お付き合いください。

その他にもなにか気になることがあれば気軽にご質問ください。
話を進めていく上で話しても問題ないことであれば、あとがきでお答えしていきます。
本来であれば一つ一つ返信をするべきなのでしょうが、何を返せば良いのか分からず、こんな方法になってしまいました。
調子乗ってんじゃねえぞ、と思われるかもしれませんが、ご了承ください。

こんなにも多くの方に読んでいただけるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。
ありがとうございます。
引き続き、お楽しみいただけたら幸いです。
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