「さて、今日も今日とてダンジョン探索。頑張っていきましょう」
ダンジョン実習が始まって四日目。
大分板についてきた
初日に比べれば余裕もかなり出てきた。
今ではこうして、講義をしながら探索できるほどだ。
「今日は話しながらゆっくりと進めていきましょう。ルークも落ち着いたことですし、もう安心して18階層までいけるでしょうが、急いでも良いことはありませんし。今後のため、役立つ戦略や戦術の作り方というものを教えながら進んでいきましょう」
余裕が出てきたのはレフィーヤだけでなく、第七小隊も同じ。
周囲への警戒を続けながらも、落ち着いてレフィーヤの言葉に耳を傾けている。
「まず最初に。ずっと見ていて思っていたことですが、戦い方が教科書通りすぎます。もう少し柔軟な考えをしましょう」
「教科書通り、ですか?」
「はい。前衛が戦って、後衛中衛がそれをサポートする。一般的な戦い方であり、模範的な戦い方です。でも、それだけなんですよ。同じレベル帯、同じくらいの技量を持った冒険者を相手にすれば、今の貴方達はほぼ確実に負けることになります」
レベルが足りないわけではなく、技量が足りないわけではない。
でも、必ず負けることになる。
「具体的には、どういうところで俺達は劣っているんだ?」
「生き汚さ、泥臭さ、あるいは姑息さ。一般的には褒められた行為ではありませんが、戦いになればそれらは有用になってきます。他人を上手く利用し、敵すらも上手く利用し、勝ち残っていく。そういう考えの違いで、確実に遅れを取ります」
リヴィラの連中を見れば分かるが、それらの考えは非常に有用になってくる。
ダンジョンという、いつ誰が死ぬかも定かではないこの場所ならば、余計に。
それらが学区の生徒にないとは言わないが、冒険者に比べれば大したことはない。
「あそこまで姑息になれとは言いません。ですが、見習うべきところは大いにあります。まずはそれらを自覚しましょう」
学区の生徒と冒険者が不仲なのは昔からなので交流もクソもない。
だからこういったものを学ぶ機会も、必然的に減ってしまう。
それさえなくなれば、もう少し学区のレベルも上がるのに。
「まずは魔法や武器の使い方ですね。壊れた武器を使って罠にしたり、敵の放った毒を他の敵にぶつけたり。氷の攻撃系魔法を使って壁を作ったり。リヴェリア様なんかは、離れた場所にある船への道を作るために使ったこともあります」
「リヴェリア様が……!!」
王族の名を出すと、エルフの説得は簡単になる。
昔リューが言っていたことだ。
自分も少なからずそういう側面があるので、骨身に染みる言葉だった。
「要するに全部、物は使いよう、ってことなんですよ。決まった使い方だけでなく、使えるものは何でも使い、使えるのなら何にでも使う。そういう意識を持つことが大事です。そして、ここでも一つ例を上げましょう」
前々から話そうと思っていた話題。
ベルがしでかした、大きな失敗を糧にするときだ。
「貴方達が馬鹿にした編入生の魔法。覚えてますか?」
「魔法無効化魔法……ですよね?」
「でも、あれはどうしようもないだろう?対人戦闘ならともかく、ダンジョンでは何の役にも――――」
「だから、考え方次第なんですよ。ヘルハウンドの火炎放射や竜種の息吹、あれらは魔法に近しい声質を持ってますから。あの魔法の無効化対象です」
もっと言えば、ベルのあれはミノタウロスの咆哮やバットバットの怪音波なども無効化出来る。
というか、ベル曰く音に関する攻撃や精神干渉は完全に無効化出来るらしい。
あれは、静寂を愛する人が作った魔法だから。
「そう考えると……有用性は一気に上がってきますわね。確か彼、他者にも付与できるんですわよね?」
「でも、回復魔法も効かなくなっちゃうんだろ?いざって時に怖くない?」
「それこそ考え方次第ですよ」
回復魔法も効かない――――つまり、味方の魔法も問答無用で無効化してくる。
触れた魔法の存在そのものを消すのではなく、あくまで触れた部分だけを無効化する。
「良い引き付け役になるんですよね……あれ」
一緒にダンジョンに行った時のことを思い出しながら、レフィーヤはそう呟いた。
つまり、フレンドリーファイアし放題ということだ。
拝啓、お義母さん。
最後にお会いしたのはいつになるか定かではありませんが、最近は如何お過ごしでしょうか?
長年の大病から解放されたと言えど、それでもまだ繊細なお身体でしょう。
風邪は万病の元とも言いますので、些細なことかもしれませんがお気をつけください。
お義母さんたちが穏やかに過ごされることを、心よりお祈り申し上げます。
さて、一方の僕はというと――――
「ちくしょうっ!」
12階層のインファント・ドラゴンに苦戦している真っ最中です。
「早くあの竜を倒せえっ!」
「無理……疲れた」
「スーパー強いボクも多勢に無勢かなっ!ゴメンね、みんな!」
攻めあぐねて逃げ惑うばかり、一方に進歩が見えません。
今もインプやオークとともに追われています。
あんなクソ雑魚相手に何を……と思われるかも知れませんが、今の僕は学区に所属するレベル1のサポーターラピ・フレミッシュ。
ヘルメス様の策略だか悪戯だかに巻き込まれてしまい、本来の実力を出す訳にもいかない現状なのです。
そのため五人一組のパーティで挑んでいるのですが、皆実力こそ高いものの幼く我が強く。
高慢なドワーフ。
無口なダークエルフ。
自信家なパルゥム。
彼らに振り回される苦労人のハーフエルフ。
全員レベル2に至っているものの、協調性の“き”の字もない彼らではあれを倒すのは難しいようです。
レオン先生から彼らを導くよう頼まれているのですが、如何せん上手くいかず。
お義母さんなら、どのように彼らを導きますか?……とは聞きません。
どうせ殴って黙らせる以外の選択肢がないでしょうから。
聞くならおじさんに聞きます。
「……って、こんなこと考えてるのが知られたら、ブン殴られるよね」
現実逃避気味に呑気なことを考えていると、続々とモンスターが集まってきている。
これは流石にマズイ。
今のベルならただファイアボルトを連打するだけで殲滅できるが、それをするわけにもいかない。
「ニイナ、ひとまず撤退しよう。この戦いは無理だ」
「……うんっ」
ニイナは一瞬迷いながらも、それでも撤退を選んだ。
というか、もう全員が薄々分かっていることだ。
今のままではどうやっても勝てないと。
そんなわけで、逃げの一択。
イグリンは不服そうにしていたが、前衛で戦っていた彼が一番この状況の不味さを理解しているのだろう。
苛立ちを募らせながらも、最終的には納得していた。
しかし、このままでは撤退も危うい。
追手が多いし、モンスターたちも標的を見逃すような真似をしない。
だからこそ、ある程度の戦力を削ぎながら司会を奪わなくてはいけない。
「レギさん、魔法お願いできる?」
「……詠唱、時間がない」
「そこは僕がなんとかするよ。一本先の枯れ木のあたりに。無理かな?」
出来る限り温和に笑いながら、頼りになるように。
そう意識しながら話しかける。
「……やったげる」
それが上手くいったのかは分からないが、取り敢えず了承は貰った。
設置する距離と時間を稼ぐため、ラピは学区製の片手剣を抜き放つ。
レベル1に出来る範囲で、ギリギリ感を演出しながら。
とにかく、それを待って戦い続ける。
「【ダーク・マイン】!……完了」
「僕ごとやって」
完了を告げるレギに、ベルはなんでもないようにそう告げる。
その言葉に一瞬戸惑ったレギだが、最初の授業を思い出したのかすぐに行動に移る。
「【それは遥か彼方の静穏の夢】」
「【
ベルの詠唱が終わるとほぼ同時に、レギのスペルキーが唱えられる。
そしてその瞬間、ベルもろとも爆発がオークたちを飲み込む。
魔法無効化を発動したベルだけは無傷のまま。
だが、これだけでは倒しきれない。
逃げるだけならこれでいいが、この後少しでもニイナたちが出来るように、ここにいる追手のオークたちくらいは排除した方が良いだろう。
「ラピくんっ!!」
レギの地雷魔法の良いところは、地面のすぐ近くで爆発するということ。
その衝撃は砂埃を巻き起こし、周囲の視界を奪う。
モンスターの視界も、ニイナたちの視界も。
ベルも周囲は殆ど見えていないが、この数日間で見えていない状態には慣れた。
この程度なら、目を瞑っていても出来るのだ。
「――――ッ!」
最小限の動きで、そして最速の動きで、オークたちの魔石を狙い一撃で仕留めていく。
「さすがレギさん!!オークたちも一網打尽だ!!よし、今のうちに逃げよう!!」
「ん……?」
「ほら、早く早く!」
あたかも自分は何もしてないかのように、ベルは砂埃を抜けてニイナたちの方に駆け寄っていく。
魔法の規模を正確に把握しているレギだけは一瞬疑問に思ったかも知れないが、勢いでそれを誤魔化す。
そうして逃げ惑うように、第三小隊は安全圏まで退避することが出来た。
………………
……………
…………
………
……
…
「くそったれ!」
脱ぎ捨てた兜を地面に叩きつけるイグリン。
戦闘時になると人格が豹変する彼は、戦闘が終わってもなお元に戻らない。
緊張状態がそうさせているのか、あるいは苛立ちがそうさせているのか。
「これでもう四度目だぞ!?またあの竜を仕留め損なったじゃねえか……!」
晴れて四度目のチャレンジも敢えなく失敗。
いい加減こりて少しは連携というものをすればいいのに。
とはいえ、それを馬鹿正直に言うわけにもいかない。
精神的にも肉体的にも疲労している彼らに、それを受け入れるだけの余裕はない。
本当だったらもう少し自分たちだけで解決できるよう調整したり見守ったりする方がいいのだろうが、これ以上待っても進展は見込めそうにない。
ここらが潮時だと考え、ベルは行動をシフトする。
「そこの
怒りが消えないイグリン。
言葉にこそしないが、レギやクリスも同じ考えなのだろう。
なぜ上手くいかないのかが理解できていない。
否、その本質が分かっていない。
連携が出来ていない、ダンジョンに慣れていない、戦術がなっていない。
どれも理由だろうが、これはそれ以前の問題だ。
そのことを、彼らは分かっていない。
「『
「ていっ」
激昂して叫び続けるイグリンを遮るように、彼の頭に手刀を振り下ろすベル。
もちろん、軽く小突く程度の可愛いものだ。
本気でやればイグリンの頭など、ザクロの実のように弾けてしまうのだから。
痛みもないそれは、イグリンの怒りを更に強くする結果になってしまう。
「てめ、何しやがんだ、この
「落ち着きましょう?そんなに苛立っても、良いことはありませんよ?」
「なんだと!?」
「ちょ、イグリン!!」
イグリンは怒りのままにベルの胸ぐらを掴み上げる。
ニイナが慌てて制止するが、それで止まることはありえない。
どんどん手に力が入っていき、ベルを締め上げていく。
「そもそも、テメエが役立たずなのも原因だろうが!!テメエがダンジョンに来て何やったよ!?何もやってねえだろうが!!あ!?」
「やめて、イグリン!!」
「
緊張感と現状に対する不満は苛立ちに変換され、それらはすべて怒りに変わる。
ついに爆発した怒りに危機感を覚えたニイナが止めに入る、その前に。
髪に隠れた赤い瞳でそれを静かに睥睨した後、ベルは再び告げる。
「いいから、落ち着くんだ」
聞くものを自然と強張らせる緊張感を含んだその一言。
ダンジョンでの危機感やプレッシャーとはまた違った、形容し難い雰囲気を含んだそれらは、この場にいる全員の動きを止める。
思わず息をするのも忘れるほどの圧倒感が、そこにはあった。
「僕を蔑んで気が楽になるならそうすればいい。僕を殴って気が晴れるならそうすればいい。僕を笑って何かが好転するのなら、そうすればいい。でも、そうでないのなら一度落ち着くんだ」
ベルを掴んでいた手の力が抜けていく。
彼の手を振りほどき、崩れた衣服を直すように居住まいを正す。
「自棄になるにはまだ早い。井の中の蛙大海を知らず、という言葉が極東にはあるらしいが、僕はそれはそれで構わないと思ってるんだよ。自分の周りの小さな世界があり、それの平和が守られるなら、大海など知らずともいいじゃないか」
人には人の世界がある。
どこまでを世界とするのかは人それぞれ。
出来る限り沢山の人々を含めるのか、たった一人の肉親だけを世界とするのか。
それらの酌量は比べるものではないし、それぞれの違いや良さがある。
だったら、無理に飛び出る必要もない。
少なくとも、ベルはその生き方を否定しない。
「だけどね、その井戸の中すらも満足に知ろうとしないのは、とても愚かなことじゃないかな?自分に何が出来るのか、自分の仲間は何が出来るのか。それすらも知ろうとしないのは、とても怠慢なことじゃないかな?」
自分に出来ることすらも知らないのに、それを出来ないと駄々をこねるのは、あまりにも浅はかではないのか?
子どもだって、もう少し努力するだろう。
「君達に足りないのは、たった一度の成功体験だ。一度出来れば何度でもできる。その一度さえあれば、何だって出来るんだ。今はそれを得るための試行錯誤の段階だ。この程度のことで、自暴自棄になんてなるものじゃないよ」
かつてのアルゴノゥトがやったのと同じようなものだ。
一度出来れば何度でもできる。
小さな成功があれば、それを土台に大きな成功にできる。
彼はそれを、人類全体というスケールでやっただけなのだから。
「君達はまだ、挫折する段階ですらないんだから」
神妙な面持ちでベルはそう言い切った。
それを言わせないだけの説得力が、そこにはあった。
「――――って、昔会った人に言われたことがあるんだよ!」
先程までの雰囲気を一転させ、ベルからラピの戻った彼は明るく告げる。
息をするのを思い出したように、彼らは空気を吸った。
「みんなは凄いんだよ!その年でレベル2に至れる人は多くない。だから、その凄さを他にも分けてあげよう!パーティなんだからさ!全部一人でやる必要なんてない!出来ないことは他の人に任せて、出来ることは他の人の分もやって!そうやって、協力してみよう」
希望に満ちた笑顔で、彼はそう言った。
「――――ラピくん」
それにつられるように、ニイナも笑う。
レギも、クリスも、苦々しく困ったようにではあるが、笑みを浮かべる。
「…………
イグリンは不貞腐れたようにそう言った。
そこに先程までのような怒りや苛立ちはない。
初めて、協力できる段階にまで行けたような気がする。
「……いい雰囲気になったけど、何も変わってない」
「それもそうだ!まだ試行錯誤する段階かもしれないけど、流石に何回もチャレンジするのは嫌だよ!?」
「レギ……クリス……」
「間違ってないだろう?実際どうするんだ、ラピ」
落ち着いた貴公子モードに戻ったイグリンに、ラピは初めて名を呼ばれる。
そのことに驚いて、少し目を丸くする。
「驚いた…。君が他人に……しかも僕に意見を求めるなんて」
「他人の言葉だろうが、あそこまでの大言壮語を口にしたんだ。何も策はありません、などとは言わせんぞ」
「僕の作戦に従ってくれるんですか?」
「一度だけだ。失敗は許さんからな」
ぶっきらぼうに言い放つイグリン。
その様子に、流石のベルも驚きが収まらない。
「レギさんやクリスさんも、それでいいですか?」
「……他に策はないし……いいよ」
「スーパー強いボクを上手く使ってよね!」
反対意見はない。
最後に小隊長であるニイナに目で確認を取る。
静かに頷く彼女を見て、ラピも気合を入れる。
「じゃ、皆で簡単なハントでもやってみようか」
【それは遥か彼方の静穏の夢】
魔法を無効化する魔法――――【
その効果は敵味方問わずありとあらゆる魔法的干渉を無効化するというもの。
回復魔法も他の付与魔法も、すべて。
その抑制効果は内側にも働き、発動者であるベルよりレベルが3つ以上離れていれば、後衛の魔道士すら満足に魔法を使うことが出来なくなる。
レベル2しかいない第三小隊は、この魔法を付与された時点で誰も魔法を使えなくなってしまう。
使い所は限られるし、使うにしても中々癖があって使いにくい魔法だ。
しかし、この魔法を最も効率よく、最も簡単に使いこなす方法もないわけではない。
それはヘスティア・ファミリアで何度も実践した方法。
効果の程は折り紙付きだ。
その方法とは――――
「みんな、釣れたよ!」
その声とともに、広間にインファント・ドラゴンを引き連れてニイナとクリスが走ってくる。
ついでに言うと、オークやインプも一緒だ。
上手くモンスターたちの視界から外れ、退避に成功する二人。
ここまでは計画通りだ。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫ですよ。さっき自分で試しましたから」
「――ああもう、クッソ!!やってやらぁぁぁぁ!!!」
イグリンはそう雄叫びを上げながら、家宝だという大鎚を振り上げて向かっていく。
ラピ自身も、周囲のインプやオークを相手にするために向かっていく。
「【ダーク・マイン】!」
その声とともに、インファント・ドラゴンの足元は爆発していく。
それに向かっていくイグリンやラピも、地雷魔法を踏んで爆発を起こす。
だが、ダメージを受けるのはモンスターだけ。
あらかじめ魔法無効化を付与された二人は、何の問題もない。
そう、これがこの魔法の最も効率的な運用方法。
魔法無効化を付与した人物を特攻させ囮にし、その隙に魔法で爆撃するというシンプルなものだ。
ヘスティア・ファミリアでこれを行う際は、『
ベルがレベル3になったばかりの時によくやっていた手法だ。
最初は心配していたリリルカも、この方法の効果を見てからは目の色を変えて多用するようになった。
今のヘスティア・ファミリアで行う時は、ベルだけが囮になることが多い。
魔法の威力が高くなれば、それだけ早く魔法無効化も消費されてしまうから。
だから万一のことを考え、ベル以外では使用しないようになっている。
だが、言っては悪いがレギ程度の魔法なら百発受けても平気だ。
今までの急成長で培われたバカみたいな潜在値とレベルによる、理不尽なまでの防御力があるのだから。
余談だが、ベルとしてはベートも交えたほうがより効率的だと思っている。
ベートなら万一張り替えをし損ねて負傷してもタフだから大丈夫だし、【
むしろ多少傷を追ったほうが魔法の効果量が上がるし、そうでなくとも魔法無効化も切れているので【
ためしにこのことをベートに言ってみたら、信じられないものを見るような目で見られた。
悪意なしにこれを言ってのけるところは、ベルもあの義母や祖母に似ているのかも知れない。
閑話休題。
「よっ!!」
「うおらぁ!」
地雷魔法で打ち漏らしたインプとオークをベルは刈り取っていく。
元々瀕死に近いダメージを受けているので、いくら倒しても怪しまれることはない。
その間にも、イグリンはインファント・ドラゴンと格闘している。
竜種の鱗は強靭な鎧だが、この数の地雷魔法を受ければ当然傷は増えていく。
移動に欠かせない足は重点的に負傷するので動けない。
咆哮を挙げて増援を呼ぼうとするインファント・ドラゴンだが、それも無駄だ。
「広間の壁は既に粗方傷つけてる。新しいモンスターが生まれることはない」
傷の修復を優先するダンジョンの習性だ。
それを知っているベルは、抜かりはない。
こうなってくると、あとはただのワンサイドゲーム。
地雷魔法が完全に打ち終わった後は、ニイナやクリス、レギも一緒になって攻撃する。
もうどうやっても、インファント・ドラゴンが勝つことは不可能だ。
「おぉりゃあああああああああああ!!」
雄叫びを上げながら、イグリンは枯れ木を踏み台に高く飛び上がる。
そして落下の勢いそのままに、背中の魔石に狙いを合わせて振り下ろす。
背骨と鱗を貫くその一打。
致命的なその一撃を持って、インファント・ドラゴンは灰になる。
「単位修得、そして記念すべき初めての成功体験だ。おめでとう、みんな」
彼等を称賛するように拍手を送るラピ。
それと同じくして、音を立てて鋭い『小竜の牙』が地面に突き刺さる。
単位修得に必要なドロップアイテムだ。
幸運の兎がいるからだろうか。
それとも彼らの記念すべき第一歩への褒美だろうか。
そのドロップアイテムを以て、彼らの初めての成功体験を迎えるのだった。
「『井の中の蛙大海を知らず』……か。中々どうして深い含蓄を感じる言葉だよな」
そうしていつものように定例報告会。
今回は諸事情あって帰るのが遅くなってしまったので、消灯時間を過ぎた深夜になっている。
それもあって、レフィーヤとレオンはいるがバルドルはいない。
「極東の言葉ですよね?それってどういう意味なんですか?」
「僕も春姫さんに教わっただけなんで偉そうには言えませんが、『自分の狭い知識や経験にとらわれ、広い世界や物事の全体像を知らないこと』を表す言葉らしいです」
「面白い例えを使ったものだな、ベル」
ベルがこの言葉を引き合いに出したことなのか、それともこの言葉の言い回しのことなのか。
レオンの面白いがどちらを指しての言葉なのかは分からない。
そんなベルをからかうように、レオンは言葉を投げかける。
「その言葉、実は続きがあることを知っているか?」
「続き?」
「ええ。『井の中の蛙大海を知らず。されど空の深さを知る』。狭い世界にいるからこそ、その一つのことを極めることができ、深い境地に至れるって意味らしいです。もっとも、この続きの言葉は後の時代に付け加えられたものらしいですけど」
「やっぱり知ってたか」
悪戯が失敗した子どものような顔をするレオン。
そんなレオンに困ったような笑顔を浮かべながら、ベルは話を続ける。
「僕がこの言葉を選んだ理由も、そこにあるんですよ」
「意味が180度変わりましたね。視野狭窄を咎める言葉が、ひたむきさを称える言葉に変わる。たしかに、
新たな世界へ飛び出すのか、今の世界を深く追求していくのか。
どちらにせよ、彼らはこの一件で大きく変わる。
続きによって意味が変わる、この言葉のように。
「まあ何にせよ、お疲れ様、ベル。君のおかげで、あの子達もようやく次のステージに至れるだろう」
「まだ終わってませんよ。ニイナのことが残ってますから」
「……エイナから聞いた話は、どうだった?」
「概ねはレオンさんから聞いたのと同じです。経緯などは詳しく知れましたが、それだけです」
「そうか」
インファント・ドラゴンを倒して意気揚々と帰ってきたニイナは、都市に来て初めてエイナと会った。
いや、ニイナからしてみれば本当に初めましてなのかもしれない。
そのあたりの感覚は本人にしか分からないが、幼い頃のことなど覚えていないだろう。
現に、ベルだって幼い頃メーデイアと会ったことを覚えていなかったのだから。
「中々複雑そうですけど、多分なんとかなりますよ。互いを嫌い合ってるわけじゃないんですから。ほんの少し気持ちを整理できたら、それだけですべて解決します」
「そのほんの少しが、果てしなく遠いんだよ。少なくとも私達教員には無理だ。無理矢理生きる道を強制することは出来るが、それでは意味がない。同じ立場に立って、同じ目線で語ってくれる存在が、彼女には必要なんだ」
「ええ、分かってますよ。頼まれた以上は果たして見せます。それに――――」
頼まれたから、任されたから。
それもある。
だが、今のベルにとって、それ以上に――――
「ニイナは学区に来て初めて出来た友達ですから。友達が困ってるのを見過ごすなんて、出来ませんよ」
「……そうか、安心した」
ベルの言葉を噛みしめるように受け取ったレオンは、穏やかに微笑みながら安堵の息を吐く。
ベルならばきっと、彼女を導いてくれる。
安心して、任せることが出来る。
「導くのはいいですけど、誑かさないでくださいね?」
「…………あ、あの、痛い、痛いです、レフィーヤさん」
隣に座るレフィーヤは不穏なものを感じ取って、額に青筋を浮かべながらヘッドロックをかます。
「だから、誤解ですって………誑かしてません………」
「どの口が…………」
「あと、前の時もそうでしたけど、胸当たってますよ?」
「当ててるんですよ。どうです?最近更に大きくなったんですよ。嬉しいですか?」
「え?いや、特に――――」
「そうですか嬉しいですか!もっと堪能していいんですよ!」
「痛い痛い痛い痛い――――!!キマってる!キマってますって!」
更に力を込めながらキリキリと締め上げていくレフィーヤ。
その分柔らかな胸は形を変えてより密着していくが、ベル相手なので一向に構わん!状態だ。
二人の様子を、レオンは苦笑いを浮かべながら眺めていた。
「あ、そうだ。聞き忘れてたんだがベルお前、【剣姫】とどういう関係なんだ?」
「ちょ、それ今ですか!?ていうかどういう意味ですか!?」
「いや、今日オラリオを歩いてたら『ベルは渡しません!』って言いながら襲われそうになったから」
「何やってんですかあの人は!?」
「あぁ~、そう言えば昨日、お姉様に『レオン先生がベルと二人っきりでダンジョンに行く計画を立ててる』って教えたんでした……」
「百パーそれが原因ですよね!?絶対変な勘違いしてますよ!?」
何をしているんだ、この人は。
何をやらかしてるんだ、あの人は。
ヘッドロックはそのままに。
力だけが緩まった状態で叫ぶベル。
「先生、大丈夫だったんですか?」
「うん?まあ、斬りかかる直前で【
多分リヴェリアママのところにでも連行したのだろう。
ベートとリヴェリアの胃が心配だ。
「結局、どういう関係なんだ?」
「えっと、その――――」
「兄さんの犠牲者の一人です!私もお姉様もティオナさんもリューさんも、ヘスティア様もアルテミス様もフレイヤもリリルカさんも春姫さんもカサンドラさんもレイさんもマリィさんもエイナさんもヘルンさんも!!みんなみんな!犠牲者です!!」
「なんで僕に怒りの矛先が!?誤解です!!ていうか半分以上勘違いでしょ!!」
「この、朴念仁がぁ――――!!」
「痛い痛い痛い痛い!!」
「大変だなぁ、ベル。あ、それと明日の『
「それ今ですか!?見てないで助けて――――」
「俺はゼウスやヘラの連中を見て学んだんだ。他人の修羅場に首を突っ込んだらロクなことにならんと」
「クッソ――――!!」
ベルの悲鳴が木霊する中、夜は更けていく。
あとがき
後2回で終わりそうですね。
こうも何回もあとがき書いてると、書くことなくなってきますね。
何の話をしましょうか?
おみいさんが実装される話でもします?
星4だし引きたいんですけどね……。
星4って沼る時は星5以上に沼るから怖いんですよね…。
金がないし、悩み中です。
でも期間限定だしなぁ……配布じゃないから霊基再臨もあるし、それも見たいし……。
せめて宝具1くらいは……って考えてます。
あと、花咲か爺さんめっちゃイケメンでしたね。
てな感じで、物欲センサー外す方法知ってる人、おすすめのガチャ宗教など。
ぜひ教えて下さい。
出るまで回す教とかいう指定暴力団は出禁でお願いします。
以上、あとがきでした。