道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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派閥体験(帰還)

 

「…………えぇっと、ナノ、どうかしましたか?」

 

ベルには言わなかったが、実はレフィーヤはこの数日間忙しくしていた。

第七小隊の教導(インストラクト)だけでなく、それ以外にも学区内での講演や授業での臨時講師など。

様々な形で学区の生徒たちと多く関わっていた。

もちろん、一番関わったのは第七小隊であるし、大抵の行動は彼らと一緒だった。

だからこそ、分からなかったのだ。

 

眼の前にいる歳の割に幼い少女に。

こんなふうに目に涙をためた状態で睨まれる心当たりがまったくなかったから。

 

「う~~~~っ!!」

 

聞いても彼女は更に涙をためながら唸り声を上げるだけ。

手をバタバタとさせて、威嚇するように反意を示している。

正直その姿も庇護欲を誘われる心優しいものだったが、いつまでもこんな状態で居続けるわけにはいかない。

 

「…………素敵なお嬢さん。どうか私に君の涙を止める手伝いをさせてほしい。君のような美しい女性には、笑顔こそが似合うのだから」

 

「――――え?」

 

「すいません、間違えました」

 

いたたまれなくなってあの愚兄の真似事をしてみたが、どうやら失敗だったようだ。

本当に理解できなかったかのように素朴な疑問符を投げかけられ、こっちが恥ずかしくなる。

あの兄はどうやってこんな言動で上手く立ち回れたのだろうか?

一番近くで見てきたはずなのに、今思い返しても本当に分からない。

 

「さっきのは忘れてもらうとして、いい加減何があったのか話してくれませんか?」

 

兄を思い返すついでに学区での自分の言動を思い出してみたが、本当に心当たりがない。

ていうか、つい先日までは懐いてくれていたし、慕ってくれていたはずだ。

レフィーヤの勘違いでなければ、間違いなく。

もしそんな彼女を傷つけるようなことをしていたのであれば、謝らなくてはいけない。

 

「レフィーヤ先輩の……」

 

まるで男を寝取られた女のような声色で、顔で、目で。

彼女は叫ぶ。

 

「レフィーヤ先輩の、泥棒猫ォ!」

 

「……はい?」

 

まるで、ではなく、本当に男を寝取られた女のようなことをいうナノ。

呆気にとられるレフィーヤに、ナノは責め立てるように続ける。

 

「ルークを誘惑しちゃダメって言ったのにぃ~!」

 

あぁ、そういうことかと納得しながら、レフィーヤは遠い目をする。

確かに取らないで~とは冗談半分に言われた覚えがあるが、ここまで悲痛な叫びを言われるほどのことをしただろうか?

いや、完全に覚えがない。

 

「ルークは、レフィーヤ先輩に一目惚れしちゃったんですぅ!」

 

「はあ?」

 

「とぼけたってダメですぅ!初めてダンジョンに行ったあの日から、ルークの先輩を見る目は変わってますぅ!レフィーヤ先輩はそれを分かった上で翻弄する小悪魔ですぅ!」

 

「誰が小悪魔ですか……って、いや、そうじゃなくて――――」

 

確かにルークの態度が少しおかしいと思っていたが、年下の先輩という存在を相手に距離感を掴み損なっているからだとばかり。

自分自身も年下の兄という背徳的な存在に心を揺さぶれた経験があるので、その気持ちはよく分かる。

だからこそそういう類のものだとばかり(ちなみにだが、言うまでもなくもし借りにそうだとしてもその二つは全く違うものだ)。

 

「とにかく、少し落ち着いて話を――――」

 

「うわぁぁぁぁぁん!ルークの馬鹿ぁ!先輩なのに年下という陳腐なギャップに悩殺されてる憐れな童貞野郎ォ!」

 

「やめなさい、本当に!!ああもう、ミリー!ミリーリア!来てください、ミリーリア!」

 

取り敢えず叫んで頼りになる後輩を呼んでみる。

こんなに広い場所だからすぐに来るとは思っていなかったが、やはりエルフは耳が良いのかすぐに来てくれた。

あるいは、ナノの様子を察知してちかくにいてくれたのかもしれない。

とにかく、駆けつけたミリーリアと一緒に近くの空き教室までナノを連れていき、そこで彼女を落ち着かせることになった。

 

…………

………

……

 

まだグスングスンと鼻を鳴らしているナノを宥めながら、レフィーヤはため息をこぼす。

こういう類の話は前世含めてあまりなかったので、どう対応するべきなのか分からないのだ。

今世は学区にいた頃はこういう話とは無縁だったし、ロキ・ファミリアは女性の多い閉鎖環境になので余計に縁がなかった。

前世など、差別の対象であるハーフエルフだったのでマトモに恋慕を向けられることはなかった。

そういうのもあって、自分から向ける分ならまだしも、自分に向けられる恋慕には慣れていないのだ。

 

「レフィーヤ先輩は15歳なのにレベル4で、【ロキ・ファミリア】の団員で……ドジでチンチクリンな私じゃあ逆立ちしたって敵わないですぅ……」

 

(やっばい、死ぬほど面倒くさい……)

 

自分からは無遠慮にそういう感情をぶつけまくってるくせに、失礼な感想を抱くレフィーヤ。

というか、前世含めればレフィーヤは都市に入る大多数より年上だ。

そのこともあって余計、子供相手に恋愛感情など持てるわけもない。

 

「あのですね、ナノ。あなたがドジで間抜けでチンチクリンなんてこと、もう今更でしょう?それを嘆いても何にもなりませんわよ?」

 

「ミリー、それ慰めてます?」

 

「ともかく、あの無駄にプライドが高くて意地を張って鬱陶しくて素直になれないツンデレで面倒くさいバカでアホなルークなんですから。彼がレフィーヤ先輩に好意を向けているって決まったわけじゃないでしょう?」

 

「だからミリー、それ慰めてます?」

 

ナノやルーク相手に無駄な形容詞を付けているような気がする。

憧れの先輩(レフィーヤ)を面倒事に巻き込んだのを怒っているのだろうか?

ありえなくもないなと思いながら、レフィーヤもナノに声を掛ける。

 

「取り敢えず、安心してください。ナノの考えが合ってるとしても、私が彼の想いに応えることはありませんから」

 

「それはそれで腹が立ちますぅ!ルークはとってもカッコいいんですー!」

 

「ナノ……」

 

「いや、だから、そうじゃなくて……」

 

何を答えても面倒になるナノ。

言い方は悪いが、本当に鬱陶しくて面倒くさい。

そもそも、レフィーヤの言葉の解釈の仕方が間違われている。

ルークが取るに足らない相手だから応えないのではなく、彼以上に素敵な人を知っているから応えないのだ。

 

「私、他に好きな人いますから」

 

「「え!?」」

 

あ、ヤバイ、余計なこと言ったかも知れない。

と、思ったが、もう遅い。

ミリーは信じられないような目で、ナノは先程と打って変わって好奇心に満ちた目で。

レフィーヤを見つめている。

 

「れ、れれれ、レフィーヤ先輩?そ、その、す、好きな相手というのは……?」

 

「……言わなきゃ、駄目ですか?」

 

「ダメですよぉ!気になって夜も眠れません!」

 

「有名な冒険者ですか!?同じファミリアの方ですか!?それとも関係ない一般の方ですか!?」

 

「えぇ……」

 

二人同時にすごい剣幕で詰め寄られる。

このままはぐらかし続けてダンジョンで問題があっても嫌だし、この剣幕から逃げる方が面倒くさい。

そう思ったレフィーヤは、ため息とともに観念して小さくその名を告げる。

 

「………ベル」

 

「ベル?さん?」

 

「ま、まさか【世界最速兎(レコードホルダー)】!?」

 

せめてもの抵抗に聞こえないくらい小さな声で告げるが、結局無意味だった。

神の眷属の五感は鋭いのだから、この距離でごまかせる訳もない。

 

「だ、ダメですよ、レフィーヤ先輩!あの兎は学区に不法侵入した不届き者で――――」

 

「彼の名誉のために言っておきますが、神ヘルメスに無理矢理連れてこられただけですよ。レオン先生と顔見知りだったらしく、うまく言いくるめられたようで………彼本人は不正を嫌う心優しくも清らかな人物です」

 

「そ、そうなんですかぁ……」

 

「そんな!?だったらルークに勝ち目なんてあるわけありませんわ!!」

 

何に驚いているのか知らないが、愕然とした表情をするミリー。

一方で、ナノはその言い方にムッとしたのか言い返そうとする。

 

「ミーちゃん、ルークだって――――」

 

「そういう次元の話ではありませんわ!【白兎の脚(ラビット・フット)】と言えば、歴代最速……たった半年ちょっとでレベル6にまで上り詰めた英雄候補!しかも噂ではゼウス・ファミリアの血を引いているとか!!」

 

「あ、その噂本当ですよ」

 

「やっぱり!!年相応の幼さを残した甘いマスク!しかし、その実態は都市最高峰の冒険者!14歳にして数多の困難を乗り越え、都市最強の【猛者】すらも倒した現都市最強ですわよ!?」

 

「で、でもルークにもいいところはいっぱいありますぅ!!」

 

「いくつかの面では勝ってるかも知れませんが、それらを帳消しにできるだけの長所をあちらはもってるんです!」

 

「そ、そんなぁ!!」

 

「ナノはどういう立場で落ち込んでるんですか?」

 

本来なら喜ぶべきでは?

恋敵が絶対に勝てない超ハイスペックなのだから。

 

まあ、レフィーヤとしてはベルが現在冠するそれらの称号を嬉しく思いながらもどこか歯痒さを隠せない。

彼は、そんなのじゃない。

もっとこう、努力家で優しくて情けなくて、でもいざって時は頼りがいがあって頼もしくて……みたいな感じなのだ。

可愛い弟兼世話の焼ける兄なのだから。

もっと本質を見てほしいと思ってしまう。

 

「ちなみにですが、どのような経緯で好きに?やはり憧れから?」

 

「違いますよ。憧れなんて持ってません。彼がまだレベル1だった時から交流があるんですから」

 

「やっぱりルークじゃ相手になりませんわ!!」

 

英雄が大成する前から交流があり、力ではなく人格で好きになっているのは確実。

勝ち目なんてない。

少なくとも、ベルが他に恋人でも作らない限り、レフィーヤがルークに振り向く可能性はゼロだ。

 

「取り敢えず、もういいですか?私が彼を好きになることはありませんから。そもそも一過性の感情でしょうし、そんなに真剣に考えなくても平気ですよ」

 

「は、はいぃ……」

 

「お騒がせしてすみませんでした、レフィーヤ先輩」

 

「分かってくれたらいいです。ルークにも、それとなく伝えておいてください」

 

「しょ、承知いたしました……」

 

一応、これでこの件は終わった。

しかし、どういう経緯かは不明だがこの話が学区中で噂として広まることになってしまう。

おそらくだが、ミリーたちがルークにそれとなく伝えたのを他の誰かが聞いて……みたいな感じで広まったのだと思う。

レフィーヤがこれから学区で過ごす残りの期間、ずっとこの噂が後をついて回り、彼女が頭を悩ませるのはまた別の話。

 


 

一方のベルはと言うと。

一夜明け、迷宮にいた。

学区生徒のラピ・フレミッシュはヘスティア・ファミリア団長のベル・クラネルに戻った。

ファミリアの仲間とともに訪れた階層は22階層。

もっと深い階層まで潜っても良かったのだが、今日は派閥大戦以降初めてのダンジョン。

久しぶりだし、ベルがファミリアにいられる時間にも限りがあるため、この階層での探索となった。

 

そして、この場にはヘスティア・ファミリアだけでなく、アストレア・ファミリアの四人もいる。

五年前団員たちの大半を失って以降、彼女達はダンジョンから遠ざかっていた。

悲劇が足を竦ませ、その身を遠ざけていた。

だが、エニュオとの決戦や派閥大戦でのこともあり、徐々にではあるがこうしてダンジョンに戻っているのだ。

 

「では、位置について、よ~い…………ドンッ!!」

 

リリの掛け声とともに構えたベートとベルが勢いよく駆け抜けていく。

向かう先にはデッドリーホーネットやガン・リベルラが群れのように蠢いている。

そこに突っ込んでいった二人は、そのままそれらを駆逐し始める。

 

「「【ファイアボルト】――――!」」

 

二つの炎雷が蟲を飲み込む。

いくら威力の低い速攻魔法と言えど、レベル7とレベル6が放てばそれだけで中層のモンスター程度は大抵駆逐できる。

しかも、ベルに至ってはステイタス何度もカンスト超えしているのに加え、魔力値補正(リューのスキル)まであるのだ。

レベル差があるにも関わらず、魔法の威力はベートを超えている。

 

「さ、お二人に任せてばかりでは悪いですし、私達も行きますよヴェルフ殿」

 

「よっしゃ、任せろ!」

 

「アリーゼ様達はリリ達と一緒に行きますよ~」

 

これが当たり前の光景であるように、ヘスティア・ファミリアの面々はそれぞれの行動に移る。

リューとヴェルフはそれぞれの武器を構え、先に突撃していった二人に続いている。

リリと春姫は魔剣を出して周囲の魔物を倒しながら、アリーゼ達を呼んでいる。

やがてレベル・ブーストが四人に付与され、行動を促される。

 

「半年前まで、こんな階層にいることが想像できないくらいの弱小ファミリアだったのにねぇ………」

 

「それが今や、都市最大派閥に伍するほどの精鋭ファミリアか……」

 

「ほんと、どうなってんだか……」

 

半年前から、都市は大きく変わった。

闇派閥はほぼ根絶されたし、都市内の勢力図も動いた。

二大派閥の片方は解体されたし、それ以外にも多くのファミリアが成長した。

その中心には、あの子どもがいた。

英雄、あるいは道化、あるいは導者。

彼という眩い光に導かれるように、全てのものが動かされた。

 

「これが最強の血筋って奴の力なのかねぇ……」

 

「英雄の魂が為せる御業とも言えるだろうな……」

 

ライラと輝夜はそれぞれ感嘆と諦念が入り交じるような声で呟いた。

ベルは良くも悪くも特殊な生い立ちだ。

生まれも特殊だし、その魂すらも特別だ。

 

「もう、ダメよ二人とも!またそんな捻くれた見方して!」

 

「んだよ、アリーゼ……」

 

「血筋とか魂とか関係なく、私達はベルくんだからこそ戦ったんでしょう?」

 

派閥大戦で力を貸した時、彼女達の胸の中にあったのは怒りだ。

打算や下心ではなく、純粋にフレイヤ・ファミリアに怒っていたのだ。

心優しい彼を奪われた怒り、自らを慕ってくれている彼を傷つけてしまった怒り。

そして何より、ささやかな笑顔をくれた弟分を傷つけられた怒り。

それらがあったからこそ、アリーゼ達は戦ったのだ。

 

「ほら、行くよみんな。可愛い弟にカッコいい所、見せなきゃでしょ?」

 

アーディのその言葉に、三人は笑う。

そうして金光を纏いながら、武器を引き抜き駆け出す。

もう手が届かないところに行ったかも知れない。

それでもまだ、もう少しだけ、ベルにはカッコいいと思って貰いたいのだ。

 

そして、鐘の音が響く。

何かが削れるような轟音が聞こえてくる。

見れば、ベルがその一振で大樹を十数本切り倒していた。

 

…………

………

……

 

「ひゃっほう!『魔石』や『ドロップアイテム』もたんまり!やはり幸運の兎(ベル)様がいると違いますね!」

 

「すっげ……こんなにアイテムがドロップする所初めて見たぜ」

 

バックパックをパンパンに膨らませながらホクホクと満面の笑みを浮かべるリリ。

幸運兎の噂は聞いていたのだろうが、それを実際に目にしたアストレア・ファミリアは少し面食らっている。

一応ベートたちも戦闘時限定で幸運のアビリティが生えてくるが、やはり戦闘時だけというのがいけないのか、思ったよりドロップアイテムの増加量が実感できない。

その点、ベルは常時幸運状態だからやはり違う。

カジノにでも行けば大儲けできるだろうし、実際にしたこともある。

 

「レベル6になってから初めてのダンジョンだったがどうだった、ベル?」

 

「特に問題はなさそうですね。春姫さんのおかげで、違和感もかなり少ないですし」

 

「お役に立てているのであれば、何よりです!」

 

嬉しそうにする春姫だが、役に立てているどころの話ではない。

春姫がいなければとっくの昔にこのファミリアは壊滅しているだろうってくらい、彼女はファミリアに貢献している。

派閥大戦でもそうだったし、今だってベルはレベル6の状態に慣れていたからこそここまで早く順応できているのだから。

 

「そう言えばベルくんって、今学区に編入してるんだっけ?どんな調子?」

 

「始めはあんまりうまくいかなかったですけど、今は何とかなってますよ。同じ小隊の子たちともようやく打ち解けてきましたし。ていうかむしろ、レフィーヤさんの視線が怖くて……」

 

「あぁ、そう言えばあいつも学区に行ってるんだったか……」

 

「記憶から消してんじゃねえよ。ここんとこ毎日、あの姫さんたちやそこのポンコツエルフが騒いでたろうが」

 

「誰がポンコツですか!?」

 

なんでも毎日押しかけて来て、リューと一緒に泣いたり喚いたりしていたらしい。

 

「戻ってくる時も大変だったんですよね……。どういう経緯で知ったのか知りませんけど、僕が派閥体験(インターン)するって情報を聞きつけて、ロキ・ファミリアに連行するためにティオナさんとアイズさんがメレンで待ち伏せしてましたし……」

 

「何やってんだ、あのバカどもは」

 

おそらく、ベルの派閥体験(インターン)先を自分たちの派閥にしたかったのだろう。

ぶっちゃけ、少し危なかった。

ただでさえ雷霆の剣がなければステイタス的に厳しいのに、二人がかりになれば余計に危うい。

結局、駆けつけたリヴェリアに拳骨を食らわされた後引きずられていったが、そうでなければどうなっていたか。

その時のリヴェリアの哀愁漂うその背中が、今でも忘れられない。

 

「ハァ……お前が少し離れればバカどもも静かになるだろうと思ったんだが、こんな形で騒がしくなるとは……昔はもう少しマトモだったんだがな……」

 

「ホントだよな……アルのことがトラウマなのは分かるけど、少しは落ち着けっての」

 

「私の感想にはなりますが、あれはトラウマなどとは少し違うような……」

 

「もっとハッキリ言っていいぞ、命。あれはただの独占欲だと」

 

ベートとヴェルフは顔を見合わせた後、大きなため息をこぼす。

なぜ腐れ縁とは言え、自分たちがこうも頭を悩ませなければいけないのか。

甚だ疑問である。

 

「やめだやめ。いくら考えても馬鹿馬鹿しいし、帰るぞ」

 

「そうですね、もう充分ってくらいアイテムも入手できましたし、そろそろ切り上げましょうか」

 

「だな。さっさと帰って、皆でゆっくりしようぜ。あ、久々にベルの料理が食いたい」

 

「いいな~……ねえ、私達も一緒していい?」

 

「はい、もちろん。大勢で食べたほうが楽しいですし」

 

「やった!」

 

「あ、ベル様!折角だったらレアな素材を探しながら帰りましょう!ベル様がいれば見つかりやすいですし!」

 

「お前、ホント抜け目ないよな……」

 

少し気を抜いて、一行は帰り道を目指し始める。

ダンジョンで油断は禁物だが、そもそもこのメンツなら深層でも余裕で生還できるのだから、この階層で無理に緊張を続けるメリットもない。

そうして少し寄り道をしながら、時折素材探しをして帰路につく。

 

…………

………

……

 

そして、ようやく13階層まで戻った時のこと。

岩窟の迷宮と呼ばれるこのあたりの階層は無骨な岩場ばかりで声も反響しやすい。

だからこそ、その声は良く聞こえてきた。

 

「てめぇ……!『学区』のガキども!調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

「そっちこそ、もうちょっと品を持った行動ができないの!やっぱり冒険者ってみんな、ならず者なのね!」

 

聞こえてくる怒号達。

見れば、学区の生徒たちと冒険者がモメている。

怪物進呈か、それとも獲物の奪い合いか。

いずれにせよ、その剣呑さはドンドン増していき、いつ互いに武器を取ってもおかしくない。

ダンジョン内で迂闊な真似は冒険者でも危ないのに、慣れていない学区の生徒ならなおさらだ。

ベルは思わずその集団に駆け寄り、声を掛ける。

 

「少し落ち着いてください。子供相手に何やってるんですか?」

 

「あァン!?関係ない奴は――――って、【白兎の脚(ラビット・フット)】!?」

 

深層のモンスターにでも遭遇したかのように仰け反り、怖気づく冒険者たち。

とはいえ、ベルの温厚さは比較的有名だ。

派閥大戦のことはあれど、余程のことがない限り怒ることはないと知られている。

それもあって、一人の冒険者は諦めずに食って掛かろうとする。

 

「お、お前には関係ないだろ!?首ツッコんでんじゃ――――」

 

「あ?」

 

「ヒィ!?ゔぁ、【凶狼(ヴァナルガンド)】!?」

 

とはいえ、ベートを相手にできる程の度胸があるわけもなし。

ユーリではなく、ベート自身として暴れまくっていた半年以前のこともあり、一睨みで一気に竦み上がっている。

やがて、ベートの視線に耐えきれなくなったのか「す、すいませんでしたぁ!」と言いながら走っていく。

その様子を見て、ベートは呆れたようにため息をこぼす。

 

「流石の顔面凶器ね、バチコーン!!」

 

「それで褒めてるつもりか、アーパー女」

 

「あれがアーパーよ!?」

 

からかってくるアリーゼを置いて、今度は学区の生徒たちの方を見つめるベート。

彼らも、ベートを相手にする気はまったくない。

 

「た、助けてくれたことは感謝するわ!」

「でも学区に潜入したことは忘れてないわよ!?」

「覚えておきなさい、世界最速兎(レコードホルダー)!」

 

「「「「ありがとうございました!ペッッ!」」」」

 

お礼を言いながら唾を吐き捨てていく彼等を見て、ベートはもう一回大きなため息をこぼす。

本当に面倒くさそうにしながら、呆れ返っている。

 

「にしても、またモメてるのね~」

 

「この時期の風物詩みたいなもんだけど、よくもまあ飽きもせずやるもんだ」

 

「モメてしょっぴかれたのもいるだろうに、懲りない奴らだ」

 

「まあ、学区の生徒と冒険者の反りが合わないなんて、今に始まったことじゃないからね」

 

都市防衛に関わってきた彼女達にとって見れば、本当によく見る光景なのだろう。

この手のことを取り扱ってきたのも、一度や二度ではない。

 

「オラリオ側で対策とかは?」

 

「もちろんやってるよ。でも、流石にダンジョン内はね……人手が足りないし、そもそも冒険者に何を言っても無駄だから。どうしても防ぎきれないんだよ」

 

「なる、ほど……」

 

ベルは何かを考え込むように目を細める。

彼が見つめる先は、去っていった生徒たちと冒険者がいるのだろう。

それを見つめながら、何かを危惧するように考え込んでいる。

 

「どうかしたか?」

 

「いや、なんでもないよ。ただ、レフィーヤさんに剣を預けといて正解だったなって思っただけ」

 

「あ、そう言えばベルくん雷霆の剣持ってないね。預けてたんだ」

 

その意図はおそらく伝わっているのだろう。

それを尋ねてくることはなかった。

心配性な彼を見ても、何がそんなに気がかりなのかは分からない。

だが、彼ががそうしたということはきっと、そうするべきだと思ったから。

だったら、部外者がとやかく言うことじゃない。

 

「にしても、毎年そんなに酷いんですか?」

 

「酷いな。特に、今のお前ほどの年齢の幼い生徒とモメることが多い。品行方正な人物に囲まれすぎた弊害だな。そりゃあ、粗野な冒険者を見れば、偉そうに物申したくなる奴もいるだろうさ。まあ、冒険者側に問題があることが大半だがな」

 

「そうなんですか……そんなくだらないことしてるから、いつまで経ってもあの程度の実力しか持てないんだろうに……」

 

ベルの疑問に、輝夜が答える。

答えを聞いて、ベルは素朴な疑問というか感想を抱くだけ。

その答えが頭ゼウスなことに、周囲は呆れ返る。

 

「小僧、お前派閥大戦以降そういうのを隠さなくなってきたな。前々からそういう側面があるのは知っていたが、ここのところ露骨だ」

 

「え?何がですか?」

 

「自覚なしか。余計タチが悪い。口だけでなく実力もあるから尚更だな」

 

声を押し殺すようにして笑う輝夜。

そんな彼女にベルは疑問符を浮かべるが、それ以降彼女が答えることはなかった。

周囲を見ても、苦笑いを浮かべるだけ。

結局、ベルはこの答えを得ることはなかった。

 

「さ、気を取り直して帰るわよ!美味しいタダ飯が出てくる天国、竈火の館(ヘスティア・ファミリア)に!」

 

「多少ならいいですけど、あんまりにも来るようだったらお金取りますからね?」

 

「ヒドい!!」

 

「そりゃそうだろ」

 

「安心してね、リリルカちゃん。食材費くらいはちゃんと払うから」

 

「アリーゼ、極東に伝わる言葉をお前にくれてやろう。『ただより高いものはない』」

 

「そんなぁ!私達の未来の家族(メーデイアちゃん)がいるよしみで、お願い!」

 

「嫌です!ていうか、メーデイア様はアストレア・ファミリアに入るって決まったわけじゃないでしょう!?」

 

「ほぼ決まってるようなもんじゃん!!」

 

「決まってません!!」

 

「一応他にも兎が紹介できる候補があるんだったか。どんなファミリアなんだ?」

 

「ちゃんと歴史はありますし、ノウハウもしっかりしてるファミリアです。ただ、主神と団員……じゃなくて、一人しかいないし今は団長か。団長の性格に多少の難はありますけど、二人共立派な善人であるので何だかんだ上手くやれると思いますよ?」

 

「一人しかいないんだ?それ、戦力的に大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ。僕達を含めた、オラリオ全軍相手にしても勝てるくらい強い人なんで」

 

「またまた~」

 

「はははははははははっ」

 

ベルの言葉を冗談だと思ったのかアリーゼたちは笑っているが、ベルからしてみれば冗談ではない。

あの人は、正真正銘人類最強なのだから。

今のオラリオがどうこうしようと、勝てる相手ではない。

この世界で勝てるとすれば、それこそ黒竜くらいだ。

乾いた無機質な笑い声を出すしかないのだ。

 

この日で、派閥大戦が後処理を含めて完全に終了した宴から17日目。

ベルが学区に行ってから8日目。

あの人達が来るまで、あと6日。

 


 

あとがき

 

作中のタイムスケジュールについての言い訳。

 

ベル君の主観として、完全に終わった宴の日を終了日として考えて。

1日目、獅子退治の準備。

2,3日目、移動時間と森での待機時間。

4日目、日中は準備で夜に決戦。

5,6日目、撤収と移動時間(ベルくんは代償で昏睡状態)。

7日目、ベル君が目覚める&宴(このタイミングで古代組と話し合う)。

8日目、学区侵入騒動。

9日目、学区入学準備。

10日目、学区入学。

11,12日目、学区での生活。

13日目、ダンジョン演習開始(第七小隊問題解決)。

14,15,16日目、12階層苦戦と課題クリア(第三小隊問題概ね解決)。

17日目、派閥体験でヘスティア・ファミリアに戻る。

18日目、階層崩落で18階層で過ごす。

19日目、修学旅行でニイナの問題解決。

20,21,22日目、チュール姉妹の和解とニイナが派閥体験名目でヘスティア・ファミリアに転がり込む。

23日目、ラスボス襲来。

 

うん、どう考えても二週間じゃ無理だ。

獅子退治で絶対一週間かかるもん。

超過密スケジュールにしてこれだもん。

絶対無理だ。

 

はい、というわけで、ラスボス襲来は派閥大戦から3週間ちょっと。

台詞修正しておきます。

誠に申し訳ございませんでした。

あれ書いた時、そこまで詳しく考えてなかったんです。

見切り発車で色々やっちゃダメってことですね。

反省してます。

でも、後悔してないんで多分おんなじようなこと今後もやらかしますね。

 

混乱させてしまい、誠に申し訳ございませんでした

こういう感じでお願いします。

ここもタイムスケジュールがおかしい、セリフの期間が間違ってるみたいなのがあったら教えて下さい。

その都度修正していきます。

 

あと、おみいさんは来てくれませんでした。

 

以上、あとがきでした。

 

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