まえがき
今回は一気に話を進めたいと思います。
それと、前回ハーメルンの感想で書かれていた“ベルゴノゥト”という造語、とても面白くて語感がいいので、勝手ながら使わせていただきたいと思います。
コメント欄を頂いた方、お嫌でしたらまた仰っていただければ幸いです。
あとがきにQ&Aがありますので、よろしければ御覧ください。
「では、これより第7回ベルゴノゥト会議を始めます。今回の司会進行は、私ことアイズ・ヴァレンシュタインが務めさせていただきます」
ベルとアルゴノゥトを合わせた造語(アイズ命名)の名を関する会議は、ベルを見つけてからまだ3週間と1日しか経っていないにも関わらずもう七回目となっている。
ロキ・ファミリア内部のアルゴノゥト関係者だけじゃなく、他派閥であるヴェルフとリューも一緒になって開催されているこの会議。
議題はもちろん、ベル・クラネル兼アルゴノゥトについて。
「もう七回目になるこの会議ですが、今日最初の議題は、『ベルの成長速度が頭おかしい件について』です。なにか意見がある方、いらっしゃいますか?」
アイズが司会進行として全員にそう問いかけると、その中のティオナ、ベート、そしてヴェルフが揃って頭を抱える。
そして、そんな二人を見て、アイズもまた同じように頭を抱える。
そんな三人を見て、他の面々は困惑を隠せない。
「えっと…、私達はベル殿の相手をしてないのであまり実感が湧かないのですが、そんなに?」
「昨日まで反応すら出来てなかった攻撃も、次の日には……」
「躱せるようになった?」
「躱せるどころかカウンターまでしてきたわよ」
「もちろん、私達が手加減していたからこそ出来ることだ。私達が本気で攻撃すれば、何度繰り返そうと同じことなど出来ないだろう。だが、それを差し引いてもこれは異常だ」
例の騒動の後、ホームに帰って全員で殴り合いの喧嘩をしたが決着がつかず、ロキの命令により“
結果としてはアイズが勝利したのだが、負けた全員が癇癪を起こして
その結果、訓練を始めて一週間しか経っていない現段階では、アイズ、ティオナ、ベートの三名しかベルの相手ができていないのだ。
ヴェルフはベルと一緒にダンジョンに潜っているので、三人とは別でベルの急成長を見ている。
そんな彼らは、ベルの成長速度の異常さを、肌で感じていた。
第一級冒険者兼古代の英雄達ですら、異常だと断言するほどの成長速度。
他の冒険者たちが見れば不正を疑うほどだろう。
だが、そんなことはあり得ないということを、彼らは痛いほど知っている。
だからこそ、彼らはこの状況を誰よりも訝しんでいるのだ。
「俺も何回かベルとダンジョン潜ったが、下手すりゃ俺と同じかそれ以上のステイタス持ってるぞ、あいつ」
「クロッゾ殿と同じとは…。まだ冒険者になって半年も経ってないですよね?」
「本人に聞いたら、半年どころか一月も経ってないって言ってたわ。ホントに頭おかしいでしょ…」
「あんなもの最早成長とは言わん。飛躍だ。私達が苦労して登っていった階段を、あいつは一足で駆け上がっていく。私達がバカに思えてくるほどだ」
諦めや悟りの境地に達しつつある四人。
そんな四人を見て、残った面々はなんとも言えない表情をする。
「ベル自身、アルゴノゥトと同じように才能はない。意地と根性は人一倍どころか十倍以上あるが、それだけだ。だが、そこに
「バグ?」
「曰く、神の恩恵とは“可能性を引き出すもの”。外部から与えられた力なのではなく、あくまで促進剤。まあ、これは
「そう言えば、アストレア様も似たようなことを仰っていましたねぇ…。それがどうかされたのですか?」
「これはただの推測だが、ベルやアルゴノゥトのような存在は神の恩恵と相性がいいのだろう。才がないとは、言い換えれば何にでもなれる“可能性”を持っているということ。そこに、ステイタス…特にスキルにおいて燃料となるだけの大きな“思い”。この二つが上手く合わさることにより、ベルは異常な急成長を遂げている。どちらか一つが欠ければ、すぐに崩壊するほど脆いものだ。特に、強い思いを維持し続けるなど、常人の精神では不可能だ。あいつほどの覚悟と、一途さ、あるいは執念とも言い変えることが出来るそれ。それらは、才能や他のものと違い、手に入れようと思って手にできるものではない」
「なるほど…。中々に説得力のある話ですな。つまり、ベート殿はベル殿の急成長の理由は、ベル殿が発現したであろうレアスキルによるものだと、そう考えておられるわけですね?」
「ああ」
ベートの話を受けて、全員がその考察について神妙な顔で考え始める。
少なくとも、各々が考えていた他の考察よりは頭一つ抜けて説得力があるものだった。
ベル…アルゴノゥトの思いの大きさはこの場にいる誰もが知っている。
だからこそ、ベートの推測をありえないと一蹴することなど、出来なかった。
「でもよ、ベルのやつ何も言ってなかったぜ?この前それとなく聞いてみたが、“ヴェルフはもうスキルや魔法を持ってるんだね、いいな~。僕にも早く発現しないかな~”って言ってたくらいだし。あいつが嘘吐けないの、お前らだって分かってるだろ?」
「それを聞いたのは本当に“
「でも、それって矛盾してませんか?成長促進のスキルがあるからこそベルは飛躍出来てる。でも、少なくともクロッゾさんが聞いた時点ではそんなスキルは持っていない。だけど―――…」
「ああ。言っとくが、前って言っても飛躍が明らかになった後だぜ?じゃなきゃ、いくら親友と言えど
「でしょうね。だから、ベルがスキルを獲得したのは、おそらく私達と出会う前」
「いや、だからそれだと話の前後が合わね―――…、いや、もう一つ可能性があったな」
「ええ」
ヴェルフはティオナの言葉に異議を申し立てていたが、そこでもう一つの可能性に気がつく。
そして、その可能性に全員が気がついた。
全員の考えを代弁するかのように、ティオネは静かに声を上げる。
「神ヘスティアが、ベル自身にもスキルの存在を秘匿している可能性」
その声を切っ掛けに、全員がその可能性について思案する。
そして、結論はすぐに出た。
おそらく、この考えは正しい。
「おそらく、この考えで間違いはないじゃろうな…。じゃが―――」
「確かめるすべがないな。例えそうだとしても、他派閥である私達に打ち明けるとは考えにくい」
「成長促進なんて前代未聞のスキルがあると露見すれば、他の神々によってどのような目に遭うか…。下界の未知に魅了された神々は、新しい玩具を見つけた子供より手に負えない」
「ましてや、私達の主神は“あの”ロキだ」
「ベルに良くないイタズラをするであろう神の代表格と言っていい」
「もし仮に、この中の誰かがヘスティア・ファミリアに
「“神に嘘は通じない”ですか…。こうなると、神というのは本当に厄介な存在ですね。情報戦において、他とは比較にならないほど大きなアドバンテージを持っている」
「今後は、他の冒険者だけでなく、神々を相手取る方法も考えておく必要があるな」
敵はモンスターや人間だけではない。
太古とは違い、神々にも目を向けていく必要がある。
これはそう簡単にはいかないことだ。
神々という圧倒的上位者との駆け引きは、どんなに知略に優れているものでも難しい。
平気な顔をして神々と駆け引きをし、挙句の果てに神々の想像すらも超えて出し抜けるものがいるとすれば、それはアルゴノゥトをおいて他にいない。
下界の未知の塊であると言える彼にしか、出来ないことなのだ。
「神々と言えば、一つ気になることがあるのですが……」
「なんだ?」
「ベルとの訓練の休憩していた時―――」
ベルに相談されたのだという。
偶に誰かから見られている気がする、と。
「はぁ?お前らがストーキングしていたからだろう。自重もせずに己が欲望のためにベルを付け回しているから、そうしてベルに警戒されることになるのだ。少しは自制しろ」
「それだったら私は何も言いませんよ。これまで通り、ベルを影から見守ります」
「アタオカか、お前らは。それを止めろと言っているのだ。ベルにだって人には知られたくない秘密の一つや二つくらいあるだろう」
ベートはベルを慮って苦言を呈すが、
それどころか、話の本題はそこではないと、強引に話を進める始末。
本当になんとかしないと、そろそろ
都市最大派閥の幹部と準幹部が合わせてストーカーで捕まるなど、前代未聞だ。
成長促進のスキルよりも前代未聞だ。
絶対に自分が胃痛で死ぬ。
自らの胃と、ベルのプライバシーのために、三人を止める決意をするベート。
その決意は奇しくも、英雄になると誓った少年の決意と同質のものだった(んなわけない)。
そんな決意をするベートをおいて、アイズたちは話を進めていく。
最初はベートもアイズ達の犯行の一部だろうと考えていたのだが、どうやら毛色が違うようだ。
「ベル曰く、私達の視線も感じていたそうです。自分を見守るような、そんな視線を感じることがあると」
「まあ、私達のことでしょうね」
そう、ここまではいい(よくない)。
だが、問題はここからだ(これまでも問題だ)。
「でも、それとは別に、時折誰かから値踏みされるような視線を感じると」
その言葉を聞いた全員の視線が、一気に鋭くなる。
冒険者というのは、良くも悪くも目立つ存在だ。
だが、それでも現状大した噂もない少年を見定めるほど、好奇な存在でもない。
ならば、一体誰がそのような視線を送ったというのだろうか。
「一応聞いておくが、お前らやベルの勘違いではないだろうな?」
「当たり前でしょう。私達がそんな変な視線を送るわけないし、多分ベルの勘違いでもない」
「その根拠は?」
「―――魔導書…。」
あれは数日前のこと。
酒場に忘れられていた本を、酒場の従業員がベルに貸したところ、それが偶々魔導書であり、ベルが魔法を発現してしまったという事件が起きた。
「魔導書の件なら、私もよく覚えていますとも。偶然酒場に居合わせて、ベル殿を取りなしたのでよく覚えています」
「それ、奇妙なのよ。わざわざ高価な魔導書を持って出歩く?買った帰りだとしても、酒場に来て酒を飲む?普通、真っ先に帰って仕舞うなり使うなりするでしょう。なのに、忘れていくなんて……。これじゃまるで、ベルに使って欲しいから置いて行ったみたいじゃない」
「酒場の従業員が……シルが嘘をついていると?ですが、それはどう考えてもおかしい。ティオナ殿自身が仰ったように、魔導書は高価です。一介の酒場の看板娘が買えるような代物ではない」
「分かってるわよ、自分でも無茶苦茶言ってるって。でも、何か気持ち悪いのよ…。こう、得体の知れないドロドロとしたものが動いてるような気がして…」
「まあ、言わんとしていることは分かります。シルが何かをしたとは私には思えませんが、それでも何かの陰謀に巻き込まれてる可能性は否めない」
「……―――そう言えば、あなたと彼女は友人だったわね。ごめんなさい、少し無遠慮だったわ」
「いえ、お気になさらず。むしろ、早い段階で異変を知ることが出来てよかった」
最強と最凶がいなくなったことで発生したオラリオ暗黒期。
だが、それでも被害は大きく、リューも大きく傷ついていた。
そんな時リューはシルに出会い、救われたという経緯を持つ。
ある種の恩人とも言える彼女のことを、リューはとても大切に想っている。
「魔導書の件は分かりましたけど、それと神々がどう繋がるんですか?」
ティオナの話の続きを、レフィーヤは望む。
たしかに、今のティオナの説明では、魔導書のおかしさは分かったが、ベルに向けられる視線については分からないままだ。
重要なところは分かっていないまま。
もちろん、ティオナの説明もここで終わりではない。
「
「もちろん覚えてますよ?あの極彩色のモンスターが現れて―――…」
「そっちじゃないわ。
「シルバーバックって…、ガネーシャ・ファミリアの管理不足で脱走したあれですよね?最終的に、ベルが倒したみたいですけど。それこそ無関係じゃないですか?ガネーシャ・ファミリアがベルを狙う理由なんてないですし」
「ガネーシャ・ファミリアは、そうでしょうね…。」
そこでティオナは、視線をリューの方に向ける。
知っていることを話せと言外に訴えかけると、リューは少し悩んだ後ため息を吐いて話し始める。
「外部には漏らさないでくださいよ。もちろん、神ロキにも」
「分かってるわよ」
最低限の釘を差しつつ、リューはあの日あったことの詳細を話し始める。
「実はあの日一部モンスターが脱走したのは、見張りをしていたガネーシャ・ファミリアの団員が昏倒していたのが原因なんです」
「昏倒?」
「ええ。その団員を診た
その言葉に、全員が目を見開く。
魅了と聞いて思いつくのは、ロキ・ファミリアと双璧をなす都市最大派閥の主神。
美の女神フレイヤ。
もちろん、都市にいる美の女神はフレイヤだけではないが、自然と頭に浮かんだのはフレイヤだ。
なぜならあの日、アイズはロキとともに怪物祭の会場近くでフレイヤに会っていたのだから。
「そう言えば、ロキもフレイヤを警戒してた。まさか、本当にフレイヤが?」
「都市最大派閥の主神なら、魔導書も簡単に入手できる。それもこれも、全部フレイヤが仕組んだことだって考えれば、全部辻褄が合うわ」
「だとしても…、それこそどうしようもないですよ?下手したら都市最大派閥二つが全面戦争になりかねないんですから」
「分かってるわよ。いくら私達でも、フレイヤ・ファミリアと争うような愚は犯せない。だからこそ、こうして頭抱えてるのよ」
最大手ファミリアの戦力という面から見てももちろん、それ以上に厄介なのが美の神が持っている固有の能力“魅了”だ。
美の女神の魅了は、神々ですらも抗うことが出来ないのだから。
「美の女神の魅了は意識の昏倒だけにとどまらず、認識や記憶の書き換え、もしくは阻害なども出来るという。目にしたことがないからどこまでの規模で行使できるかは分からんが、もし都市すべてを巻き込むレベルのものを使われたら、私達ではどうしようもない」
「どの時点の記憶まで弄れるのかは分からないけど、下手したら三千年前の記憶すら―――…」
「させない!!」
最悪の可能性を口にし、全員の顔色が悪くなっていく中、アイズは大きな声を上げてそれを否定する。
それだけは、それだけは絶対に許せなかった。
神だろうがモンスターだろうが、許せるわけがなかった。
「もう二度と、私達から英雄を奪わせたりなんかしない。あの記憶すらも奪うなんて、絶対にさせない!!」
「アイズ……。」
三千年前のあの日。
この場にいる全員は誰ひとりとして例外なくアルゴノゥトに魅せられた。
童話にしたようなキレイな話ではなかった。
辛く、苦しいものだった。
それでも、あの記憶はアイズたちにとって、何にも代えがたい宝物だ。
生まれ変わった今でも、決して薄れることなく輝き続けている光そのものだ。
アイズ達が生きる意味とも言えるものだ。
アイズ達が戦う理由とも言えるものだ。
それを穢すことなど、何人たりとも許されない。
神だろうが、許してたまるものか。
アイズの悲痛な思いに全員が俯いていく中、リューは大きく手を叩いて空気を変える。
どれだけの可能性を想定しようが、それはあくまで可能性。
その可能性をいくら危惧しようが、現象できることは何もない。
「そこまでにしましょう。未来をいくら悲観したところで何も変わりません。まだ見ぬ明日を悲観して笑顔を曇らすなど、それこそアル殿に笑われてしまいますよ?」
リューのその言葉で、全員がハッとし、肩の力を抜き息を吐く。
心配する皆を慮るように、リューは優しい面持ちと声色で全員を諭す。
「たとえその日がやってくるとしても、その日まで精一杯笑顔で日々を過ごしましょう。その笑顔こそが、糧となり、いつか来るその災厄を打ち砕く力となるのですから」
「リュールゥ…。」
「さて、そんな皆様に一つ朗報が!ベル殿はクロッゾ殿だけでなく、一人サポーターを雇うことになり、三人でパーティを組むことになりました!」
「ええ、聞いたわよ。
「そうですともそうですとも。その少女です。その少女なのですがね…、フィアナ殿でした」
「「「「…………はぁ!?」」」」
たっぷり三秒の沈黙を噛み締めた後、全員が同じリアクションを示す。
その反応を見て、当の本人は楽しそうに笑っているが。
「いやぁ、見た時には驚きましたね…。ベル殿のナイフ持っていた盗人が誰かと思えば、見知った顔で。思わず取り逃がしてしまいましたよ。あ、ナイフはちゃんと回収しましたよ?」
「ちょ、待ちなさい!フィアナってあのフィアナ!?フィンの前任にして、初代フィアナ騎士団団長!?」
「そうですよ~」
「そうですよ~って、そんな大事なことなんで言わなかったんだ!?」
「確証がなかったので。何分、フィアナ殿はいつも目元を隠していたので、ハッキリ言えなかったんですよ。確かめてたらこんな時分になってしまいました」
「ふざけんな、絶対嘘だろうが!!」
「はてさて、何のことやら」
「ぶっ飛ばすぞ、ポンコツエルフ!」
「ハッハッハッハッ」
太古にも通じる大事なことを言ってこなかったリューに、全員で詰め寄る。
しかし、リュー自身はアルゴノゥトのように高笑いをしながら誤魔化すだけ。
一発殴らせろと言わんばかりに、全員がブチギレている。
だが、リューのほうが一枚上手だったようで、もう一つの情報を開示して、全員の怒りを沈静化させる。
「とはいえ、私達とは違い記憶なんてものは持ち合わせていないようですよ。フィン殿のように、過去と類似する魔法を持っている訳でもなさそうですし。あそこにいるのは正真正銘、パルゥムのサポーターです」
「ベルたちと同じ…ってこと?」
「ええ。ですが、その方がいいのでしょうね。彼女はこれ以上苦しまなくてすむわけですから。それに、記憶があったとしたらフィン殿やベル殿の胃が死にますよ!彼女、中々面倒な性格をしてましたから!」
「笑い事じゃないでしょう…。」
「そういう人に限ってベルやアルのことを好きになるのよ」
「意地悪な占い師殿が言うと、説得力が違いますなぁ」
「うるさいわよ!!」
誂われたティオナは思わず顔を赤くし、声を荒げる。
だが、ここでもうひとつ、リューは爆弾を落とす。
「まあ、もう手遅れですけどね……」
「手遅れ?」
「フィアナ殿の生まれ変わり…、リリルカ殿という少女なのですがね、ベル殿に惚れてしまいましたよ」
「「「…………………はぁ!?」」」
それはもう、今まで以上の勢いで。
「それに、受付嬢のエイナ殿とも何やらあるようですし…。英雄色を好むとはよく言ったものですな!」
「次から次に…、ああもう!!」
「おっと、そろそろ巡回の時間になったようです。では、私はこれで!」
「待ちなさい!ちゃんと説明しろ――!!」
「場を掻き乱すだけ掻き乱して行くな!!この場を治めてから行け!!」
「待ってください、本当に!本当に待って!!」
リューは言いたいことだけ言って、この場を去っていった。
それはもう、とんでもないスピードで。
兎のように、街を駆けていった。
リューがこの場を去り、暫くの間は全員が息を荒げたり取り乱したりしていたが、しばらく(それなりの時間)したら何とか落ち着くことが出来た。
その間、ガレス、ティオネ、ヴェルフは上手いこと逃げ果せていたが、その分のダメージをベート一人が背負うことになった。
ベートの胃が荒んだのは、言うまでもない。
「取り敢えず、今日はもう解散でいいな?というか解散させろ。これ以上は私の胃が死ぬ」
「分かってるよ…。というか、お前明日朝イチでベルと特訓だろ?大丈夫か?」
「このバカ三人の相手をするより余程マシだ」
それは、ベートの偽らざる本音だろう。
精神的にも、体力的にも、ベルの相手の方が良い。
というか、その方が癒しになる。
「まあ、色々苦労するだろうが頑張れよ」
「他人事のように言いやがって…。そもそも貴様らが手を貸していれば私の負担も減っただろうが」
「「「それは無理」」」
「―――クソどもが…!!」
あくまで負担をベート一人に背負わせる気満々な三人を見て、ベートは歯ぎしりをする。
ぶっちゃけ、かなり苛ついている。
そして、そんなベートを知ってか知らずか、ヴェルフは少し真面目な話をする。
「ああ、そうだ。明日ベルにあったら言っておいてくれ。暫くの間は一緒にダンジョン潜れないが、無茶すんなって」
「何か他に用事でもあるのか?」
「お前ら、もう少ししたら遠征だろ?お前らに持たせる用の魔剣打ってるんだよ」
その言葉を聞いて、ベートたちは少し驚いた。
ヴェルフがここまでの気遣いをしてくれるとは、思っていなかったのだ。
「あって困るもんでもないし、一応持って行っとけ」
「儂たちは助かるが、良いのか?」
「構わねえよ。あとで材料費だけはもらうがな」
「それは当然だが……」
ベートの言わんとしていることは分かる。
ヴェルフがオラリオに来てベートたちと再会してからも、何度か遠征はあった。
ベルがミノタウロスに襲われていた時などがそうだ。
だが、これほどまでに心配しているのを見たことがなかったのだ。
「嫌な予感がするんだよ」
「嫌な予感?」
「あいつが居なくなった時と同じ様な、嫌な予感だ。俺の杞憂ならそれでいい。だが、そうじゃないなら、出来る限りの手は打っておきたい。お前らからも、ベルの方に言っておいてくれ。この予感が、ベルなのかお前らなのか、分からねえからな」
心配し過ぎだと笑い飛ばすことは出来るだろう。
だが、あえてそうしない。
ダンジョンでは何が起こるかわからない。
それを、彼らは痛いくらい知っているから。
「気遣い、感謝しよう」
「礼なんざいらねえよ。ただ、絶対生きて帰ってこいよ」
「言われるまでもない」
ベートはそう返し、アイズたちもうなずく。
誰も死ぬ気など毛頭ない。
だが、ヴェルフのこの予感が最悪の形で的中することになるとは、まだ誰も思っていなかった。
Q&A
Q.「ナイツ・オブ・フィアナの人たちは前世の記憶を持っている?」
A.持ってないです。そして、思い出すこともありません。そこまで行くと、作者の技量的に収拾つかなくなりそうなので…。こうなってくると、フィンが一番可哀想ですよね。いきなり訳分かんないレベルの激重感情で迫られてるわけですから。
Q.「ベルがアルゴノゥトの記憶を思い出すことはある?」
A.ありません。これは絶対です。もし可能性があるとしても、ティオナの胸がデメテル様クラスになる可能性と同じくらいの可能性しかありません。
Q.「ヴェルフはベル君に置いて行かれそうだけど大丈夫?」
A.大丈夫です。ちゃんと、オリジナル展開で強化します。
あとがき
というわけで、会議のお話です。
本当は今回でミノタウロス戦まで終わらせる予定だったんですが、思った以上に長くなりました。
次のミノタウロス戦が終われば、ついにベルがあのスキルを獲得します。
アルゴノゥトがどのような変化を遂げているのか、お楽しみに。