道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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時を渡る道化英雄~脈動~

 

さて、ここからどうしたものか。

 

包帯から左目だけを覗かせて、アルゴノゥトはその相手を見据える。

アルゴノゥトはヴェナとディナの相手をたった一人でしていた。

周囲には彼女たちが率いていると思われる闇派閥もいたし、その相手はアイズたちにしてもらっている。

というか、そうでもしないと彼女たちの身が危ない。

 

闇派閥の現状最高戦力。

7年後ならいざ知らず、今の彼女たちが敵う相手ではない。

とはいえ、今のアルゴノゥトが敗走するレベルで強いかと問われれば答えは否。

ただ、厄介なのは────

 

「「アハハハハハハハハハッ!!」」

 

「とっとっと………見境なしかい──【雷霆よ】!!」

 

周囲への被害や仲間への同士討ちも厭わず行われる無差別攻撃。

これが厄介だった。

姉妹の連携はピカイチ。

この姉妹が戦いにおいて互いを傷つけることはあり得ないだろう。

だが反面、部下への気遣いなどは毛ほども感じられなかった。

アイズたちへの被害も出かねないそれを、アルゴノゥトは全て相殺させていた。

 

「すごいわ!すごいわね!」

「私達を相手にしながらそこまでするなんて!」

 

「そりゃどうも。君達が私だけに集中してくれたら楽なんだけどね」

 

「お互い様でしょう?」

「どちらかが眼の前の相手に集中すれば、一瞬で終わるわ?」

 

「判断力と分析力も優れてる……ホント厄介だね」

 

ディナの言う通り、どちらかが眼の前の殲滅に切り替えた瞬間、この戦いはアルゴノゥトの勝利で幕を閉じる。

素でレベル6と、ディース姉妹を圧倒するステイタスを持っているアルゴノゥトは圧倒的優位に立っている。

剣の効果が落ちる魔法無効化を使っても問題がないくらい差があるのだ。

魔法使い(マジック・ユーザー)に対して理不尽なまでの優位性を持っているアルゴノゥトなら、尚更。

 

「膠着状態が続きそうだし、質問に答えてもらおうか。エレボスは今どこにいる?」

 

「なんでそんなにあの邪神の居場所が知りたいの?」

「恨みでもある?」

 

「今のところはない。それが生まれるかどうかは、今後の彼の行動次第だけどね」

 

彼の言葉の意味が理解出来ないようで、姉妹は首を傾げている。

その間にも周囲への無差別攻撃は続いており、アルゴノゥトはそれらすべてを撃ち落とす。

それでも決して余裕を崩さず、微笑みながら彼女たちに問いかける。

 

「君達だって教えた程度であの邪神の居場所を私が捕捉出来るなんて思ってないだろう?それに加え、彼に忠誠心があるわけでもない。もしかして、罰されるのを恐れているのかい?だったら大丈夫。あの神はこの程度のこと、笑って流すだけの度量は持ってるよ」

 

彼女たちの心境を見透かすかのような言動。

すべてを理解してるかのような瞳。

それらすべてが不愉快だった。

 

「不愉快ね、お姉様」

「そうね、不愉快だわ。言動のすべてが、不愉快」

 

「だったらさっさと質問に答えたらどうだい?質問に答えさえすれば、私はこれ以上口を開かなくなるかも知れないよ?」

 

「その口を永遠に黙らせる方がマシじゃない?」

「ええ、その方が早くて確実で、楽しいわ?」

 

「出来るものなら、どうぞ?」

 

「「…………はぁ」」

 

現状のディース姉妹ではアルゴノゥトには敵わない。

それを分かっている姉妹は、不愉快そうに目を細めながら彼を睨みつけている。

だが、やがて彼の態度を見て馬鹿らしくなったのかため息を溢して語り始める。

外見相応の、やけに気の抜けた声だったのは意外だった。

 

「なんでエレボス様を探してるか知らないけど、いないわよ」

 

「いない?」

 

「昨日だったか一昨日だったか」

「迎えにいくって言ってオラリオを発ったわ」

 

「いつ戻るのかは知らないけど、少なくとも今はオラリオにいない」

 

迎えにいく。

オラリオにはいない。

その言葉は、アルゴノゥトが知りたかった情報だった。

だが同時に、知りたくない情報でもあった。

 

「どこに、誰を迎えに?」

 

「知らないわ。興味もないし」

「聞いてたとしても忘れてるわ」

 

「だろうねぇ……」

 

嘘をつく理由はあるだろうが、おそらく嘘ではない。

彼女たちが本当に知らない……もしくは忘れているのだということは、見れば分かる。

 

「はぁ~あ……あぁ、クッソ、一足遅かったか……。これも運命様の言う通りってことなのかねぇ……」

 

自嘲するように、変え難い現実を憎むように、彼は呟く。

 

「十中八九間違いない。オシリスの連中なら迎えにいくなんて真似しないだろうし。ホント嫌になるが……、今知れただけ良しとしよう」

 

「知りたいことは知れた?」

 

「おかげさまで。ありがとう、美しき妖精たちよ」

 

彼女たちを妖精と呼んだのは、皮肉か純粋な感謝か。

それは分からないが、たしかに彼は呼んだ。

その事実に、姉妹は目を丸くする。

 

「……いいわね、あなた。私達を『妖精』と呼ぶなんて、分かってる」

「お礼に飼い殺しにしてあげる。痛めつけて、嬲って、それでも決して命は奪わない」

 

「「私達の愛を、刻み込んであげる!!」」

 

「何が琴線に触れたのかは分からないが、遠慮願おうか」

 

二人の猛攻が再び始まる───ところで、思わぬ横やりが入ってしまう。

 

「アルゴノゥト!!」

「アル殿!!」

 

「……ん?」

 

振り返れば、姉妹の部下であろう闇派閥の一人が迫っていた。

少し会話に集中しすぎたのだろう、距離が近い。

とは言え、問題になるほどではない。

剣を使うまでもなく殴り、蹴り飛ばす。

吹っ飛んでいくそれを見ながら、アルゴノゥトはアーディとリューの方を見る。

 

「もしかして、そっちかなりヤバイ?」

 

「いえ、まだ大丈夫です!数が多いので、そっちの通さないようにするのが面倒なだけで」

 

「そっか。ならもう少し────」

 

「【開け、第五の園。響け、第九の歌】」

 

詠唱が聞こえてくる。

先程は使っていなかった長文詠唱。

見上げれば合計で10の魔法円が展開され輝いていた。

 

「アリア!」

 

「ん!」

 

遠くにいた彼女は急いでアルゴノゥトに駆け寄り、その背中に飛びつく。

何かあった時に決めていたことだ。

両手でリューとアーディを助けるために、アイズは自分の力でアルゴノゥトに掴まってほしいと言われていた。

元々二人のサポートをしていただけの彼女は魔法が完成するよりも早くアルゴノゥトの下にたどり着けた。

だが、それが限界。

リューとアーディを連れて退散するだけの時間はない。

 

「【ディアルヴ・ディース】──!!」

 

「“雷霆の斬光(アルゴ・ケラウノス)”」

 

鐘の音がなる。

数秒間の蓄積でしかないそれでも、雷霆の剣があることで十分過ぎる威力を持つことが出来る。

白光を纏うその剣を、アルゴノゥトは天に向けて振り抜いた。

 

灼熱の柱が落とされる。

だが、そのすべてをアルゴノゥトは斬り飛ばす。

雷と炎が相殺しあい、衝撃波と灼熱の風が周囲を飲み込んでいく。

周囲の建物を瓦礫へと変えるそれを肌で感じながら、姉妹は舞い上がった砂埃に目を凝らす。

 

「どう、ヴェナ?やった?あの男ならきっと、死んでないわよね?」

 

「残念だけどお姉様、手応えがないわ」

 

「その通り!」

 

声がした方を見れば、アルゴノゥトが瓦礫の上から姉妹を見下ろしていた。

その両手にはアーディとリューの姿があり、俵でも担ぐかのように肩と脇に抱えている。

 

「た、俵担ぎ……」

 

「折角なら、もっと素敵な運び方をしてほしかった……」

 

「案外余裕あるね、君達」

 

「贅沢、言わない……」

 

これ以外にどうしろと?

むしろ丁寧に運んでいる方だろう。

これ以外の運び方があるなら教えて欲しい。

そんなことをブツクサ呟きながらも、彼は姉妹から視線を逸らさない。

 

「さてと、それじゃあ私達は失礼させてもらうよ。これ以上ここで君達の相手をすれば、この子達に少なくない被害が出かねないし」

 

「逃さないわよ?」

「逃げられないわよ?」

 

「君達も言ってないで逃げた方がいい。ご自慢の穴倉へ帰るのに苦労するんだから」

 

「どういう意味?」

 

「これ、な~んだ?」

 

怪訝な表情で睨みつける彼女達に、リューを肩に担いでいることで空いている右手を見せつける。

その手の中にある、金属に包まれたその瞳を。

“D”の文字が刻まれた、鍵を。

 

「『鍵』……!!」

「私達が持っていた……いつの間に!?」

 

「さっきの砂埃に紛れてね。私、手癖も悪いんだよ。昔それでオルナに呆れられたもんだ」

 

「殺す……殺すッ!!」

「殺してやるわ!!」

 

「おっと!」

 

迫りくる二人から距離を取りながら、アルゴノゥトは笑う。

先程までは愉快に思えたその笑顔が、今はただただ憎たらしい。

 

「私達の大切な『鍵』!」

「なくしてしまうと、怒られて、殴られて、罰されてしまうもの!」

 

「返しなさい、盗人!!」

「口が上手かろうが関係ない!」

 

「女の体を無遠慮に弄る下品な男!」

「美しき妖精を汚す下劣な男!」

 

「「絶対に愛さない!!殺してやる───!!」」

 

猛攻が酷くなる。

だが、それでもアルゴノゥトは涼しい顔で躱し続ける。

 

「そう過敏に反応するもんでもないだろう?世界はいつだって『H(エッチ)』と『ERO(エロ)』に救われてるらしい…………意味はよく分かんないけど」

 

本当に意味が分かっていないのだろう。

軽快でありながら辿々しい口調で彼は笑う。

 

「欲しいすべてが手に入った。これでようやく動き始めることが出来る」

 

演者のように、彼は笑う。

道化のように、彼は笑う。

英雄のように、彼は笑う。

 

「闇派閥全員に伝えろ。そして震えて待て。私によってすべてを破壊される、その瞬間を」

 

笑みを消して、彼は告げる。

 

「私は『アルゴノゥト』。混沌を以て秩序を成す者───“キミタチ”の“テキ”だよ」

 

ディース姉妹に余裕はない。

彼の言葉を聞いているのかも分からない。

ただ一刻も早く、彼を消したかった。

 

「【喰らえ、始門。あらゆる希望を絶望に塗り替え】───」

 

「【それは遥か彼方の静穏の夢】」

 

魔法の詠唱が始まった。

だが、それに遅れを取るアルゴノゥトではない。

 

「【ディアルヴ・オチュア】!!」

 

「【静穏の園(トランクィリタス・エデン)】」

 

無数の火球が放たれる。

その全てがアルゴノゥトの近くに被弾し、抱える少女もろとも彼の全てを飲み込む。

だが、その火球すべてが消えたあと、そこに彼の姿はなかった。

 

 


 

 

「アーディ!!」

 

「お姉ちゃん!」

 

ディース姉妹の追撃と追跡から逃げ延びたアーディを迎えたのは、姉であるシャクティ。

心配で仕方なかった彼女は駆けつけると、そのままの勢いでアーディを抱きしめた。

 

「あぁ、良かった!お前がディース姉妹と交戦してると聞いてから、気が気じゃなかった!」

 

「だ、大丈夫だよ!あの二人と戦ってたのはアルゴノゥトだし……。私やリオンは取り巻きの相手してただけだから」

 

「……アルゴノゥト?」

 

抱擁から離れて顔を見る。

アーディが見つめる先には、少し離れた位置に顔に包帯を巻いた不審な男がいた。

その男は鈍色に光る魔道具を空にかざしながらその場で考え込むようにクルクルと回っている。

 

「お前が、アーディの言っていた『アルゴノゥト』か?」

 

「ん?ああ、ようやく来たんだ。君だけじゃ色々足りないんだけど……っと、来た来た」

 

「────リオン!」

 

アルゴノゥトの呟きの後に、リューの名を呼ぶ声が聞こえてくる。

走る足音とともに来たのは、アストレア・ファミリアの少女たち。

 

「あれ?アリーゼたちだけ?ネーゼ達はどうしたんだい?」

 

「ネーゼ達は防衛の増援に……って、それよりも無事!?アイズちゃんも!」

 

「見ての通り無事ですから」

「元気」

 

心配で叫ぶアリーゼに対し呆れるリューと、無表情にピースを作るアイズ。

一方で、アルゴノゥトは来たのがアリーゼたちだけだということに反応していた。

来たのはアリーゼ、輝夜、ライラの三人。

他のメンバーは今も暴れているところの鎮圧に向かったようだ。

 

この場にいるのはアストレア・ファミリアのアリーゼ、輝夜、ライラ、リュー。

ガネーシャ・ファミリアのシャクティ、アーディ。

そしてロキ・ファミリアのアイズ。

周囲には何人かガネーシャ・ファミリアと思しき神の眷属がいるが、それはおそらくシャクティが指揮している部下たちだろう。

この場で重要な意味を持つのは、彼女たちだけだ。

 

「アーディから話は聞いている。元ゼウス・ファミリアの一人が都市に現れ、闇派閥の制圧に協力してくれていると」

 

「どうも。ちなみにそれってどこまで情報共有してる?ロキやフレイヤには話したのかい?」

 

「話していない。あまり存在を公にしたくない事情があるのだろう?それがなにかは知らないが、追放された過去を思えば妥当な話だ」

 

「そう言えば君はゼウスを知ってるのか。話が早いね。まあ、どっちでも良かったんだけどね~」

 

「…………?」

 

アルゴノゥトの纏う空気がどこか重い。

距離を取ろうとそっけない態度を取ることは今までもあったが、それとは何かが違う。

彼の中で、何かが変わった。

 

「……アル殿、さっきあの姉妹から奪ったそれはなんですか?」

 

「これ?これは……いや、これ話していいかな?ダメか、ダメだな。今下手にうろつかれたら面倒だし」

 

「アル?」

 

「悪いけど今は内緒。また今度気が向いたら話すよ」

 

近づこうとすると、彼は離れる。

心理的な話だけでなく、物理的にも。

一定の距離を保ち、決して彼女たちに近づこうとしない。

 

「よっと」

 

彼はおもむろに包帯を取り始める。

今まで決して取ろうとしなかった包帯を。

その事に驚いていると、すぐに素顔が明らかになる。

 

白い髪に深紅の瞳。

まだあどけなさを残した少年の顔。

中性的な美少年、その言葉がピッタリな可愛い顔立ちだった。

 

「う~ん、どうしようかな……出来ればネーゼ達も一緒の方が都合がいいんだけど、待ってる時間もないし始めるか……前に一回見せたし大丈夫でしょ」

 

「アル……あなた、何をするつもり?」

 

「まあまあ。君達、一回そこに直りなさい」

 

あどけない顔に反し、その相貌は冷たかった。

その口調は穏やかでも、その声色は冷たかった。

言われるがままに、距離を保ったまま彼の前に並ぶアリーゼ達。

彼女たちを前に、彼は近くに転がっていた樽を持ってきてそこに座る。

 

「時に聞くが、正義ってなんだと思う?」

 

「…………突然なんだ?」

 

「聞き方が悪かったかな?じゃあこう聞こう。この暗黒期の終わりっていつだと思う?君達はいつになれば、気を張って巡回しなくてよくなる?」

 

「闇派閥全てが根絶するその時まで、『闇』が全て消え去るまで。そうすれば、必要なくなるでしょう」

 

「それは違うだろうさ、リュールゥ。闇が消えても次の闇が生まれる……かもしれない。人間の猜疑心なんてキリがないんだ。その理屈だと、君達は延々と続けるだろうぜ?君達のだぁい好きな、『無償の奉仕』を」

 

「随分と意地の悪い質問ですね。貴方らしくもない」

 

「今回はそういう役回りなんだよ。三千年前(かつて)必要だったのは『喜劇』。今必要なのは『悪』。それだけの話さ」

 

きっと、世界にとってそれが必要になれば躊躇いなくやるだろうぜ、『アルゴノゥト』は。

彼は笑う、彼は嗤う。

『悪』という役を羽織り、嗤い続ける。

 

「何なんだ、お前は。昨日と今日で言っていることが随分と違う。昨日は頑張ってるなどと言っておきながら、今日は意地の悪いクソみたいな質問をする。何がしたいんだ?」

 

「嘘は言ってないぜ?ああ、そうだとも。私はここに来てから嘘など一度もついたことがない。神に誓ってもいい」

 

「薄っぺらい誓いだな」

 

「言ってくれるねぇ。でもいいよ。私の誓いより薄い正義しか持てない君達に何を言われても、構わないさ」

 

酷薄な挑発だ。

でも、その言葉が何故か突き刺さる。

 

「君たちの頑張りは知ってる。でも、その頑張りっていつまで続くの?見返りのない頑張りってキツイよ?私から言わせればすごく不健全で歪なんだ」

 

「……アルが、言う?」

 

「私だからこそ言うんだよ、アリア。私ほど歪みきった人間はそうそういない。これは(フィーナ)に何度も言われたことだが、私は人間として異常だ。英雄なんて皆そうだ。たまたま世界に都合がいい方に振り切れてるだけで、狂人となんら変わらない」

 

英雄は狂人だ。

英雄は異常者だ。

自分よりも世界を優先させる、破綻者だ。

 

「真っ当な人間は何処かで潰える。エピメテウスがいい例だ。彼はたまたま丘にいただけ、たまたま『炎の鷲』を受け取ってしまっただけだ。それだけで英雄となり、無償の善意で偉業を成した。その結果、擦り切れて疲れ果て、倒れてしまった」

 

「私達もそうなると?」

 

「かもしれない。今のままだと可能性が高いよって話。不確かな人の善意なんてもんを信じ切ってるうちは、そのうちプツッと倒れるのがオチだろうさ」

 

人は極限状態になればどうにかなってしまうものだ。

女傑も涙と悲鳴をこぼして逃げ惑い、英傑も成すすべなく倒れていく。

助けに来た全員に罵声を浴びせ、手を伸ばした英雄を刺してしまう。

人とは、そういうものなのだ。

 

「君達の正義とは何だ?君達は何のために戦う?何を信じて戦う?君達の掲げる普遍的で絶対の正義とは何だ?」

 

「それは────」

 

「断言しよう!この世に絶対の正義などない!」

 

大衆に語りかける指導者のように。

舞台に立った演者のように。

彼は語り続ける。

 

「でも、絶対の悪は存在する。悪ってのはね、『気持ちのいいもの』なんだよ」

 

快楽に酔う中毒者のように、蠱惑的な笑みで彼は演説するように語る。

 

「己の欲望のみを追求した先にある利己的で自己中心的!他を排除しても、他を傷つけても構わないという醜い人の本性!憎まれ、不利益を与え、恨まれる!そういったものが───『悪』なんだよ」

 

正義をせせら笑い、指を差して嗤い、踏み潰す。

全てを踏みにじるように、彼は嗤う。

 

「秩序・法律・規則・常識・倫理・良心……正義を構成して遵守するうえで必要な枷や縛りは多くあるが、悪にそんなもんはない。悪ってのは、究極的に自由な存在なんだから」

 

酷薄に嗤う。

醜く嗤う。

彼は、絶対悪を象り嗤い続ける。

 

「お前たちが今から相手にするのはそういう存在だ。この程度で怯むな、迷うな。エレボスは私ほど生温くない。理不尽な混沌で全てを蹂躙する。今まで怠惰に生きてきたツケが、すべて回ってくる」

 

これはきっと、彼が最後に見せた優しさ。

 

「さあ、焦る時だぜ、『正義の味方』」

 

彼は立ち上がる。

彼は嗤う。

彼は、剣を持って斬りかかる

 

「───ッ!!」

 

「反応が早いね。流石ガネーシャ・ファミリア団長……いや、私を信用してなかっただけだな」

 

唯一反応できたシャクティが応戦するが、失望したような声色とともに吹き飛ばされる。

次に反応したのは輝夜。

刀を持って渾身の力で斬りかかるが、指先だけで止められてしまう。

 

「正体を見せたか?刺し違えてでも殺すと言ったのを忘れたか?」

 

「笑わせるなよ、その程度の実力で」

 

「ッ!舐めるな!」

 

「耳障りだ、退けよ」

 

全員が斬り飛ばされる。

ただの剣撃を受け止めることも出来ず、壁や床に叩きつけられる。

 

「嘘を言ってないだなんてどの口が言ってんだ!?アタシたちを強くするって言ってたのは嘘か!?」

「嘘じゃないよ。ちゃんと強くしたいと思ってる。その過程で倒れるようなら、その程度だったってだけの話さ」

 

「暗黒期を平定するって言ってたのは!?」

「それも本当さ。平定する、全てを平らにして定める。闇派閥も、冒険者も、すべて」

 

「それの何処に貴方の『正義』はあるの!?」

「なんだってやると言っただろう?私程度を倒せない正義に用はない」

 

雷が迸る。

炎雷が舞い踊る。

 

「私はね、この世界にうんざりしてるんだ。何も期待できないんだ。君達を数日見ても、その考えは変わらなかった。頑張ってるだけ、戦ってるだけ。違うだろう?そうじゃないだろう?もっと命賭けろよ。だからこの程度なんだよ」

 

その言葉だけで怖くなる。

震えてくる。

 

「私の魔法はすべて短文以下だ。魔力の起こりがあった瞬間魔法は完成してると思え。そら、行くぞ」

 

斬光が、放たれる。

その一撃で、誰も立てなくなる。

 

「その身と脳髄に刻め、轟かせろ、私の名を。そして震えて待て。私によってすべてを破壊される、その瞬間を」

 

彼は語る。

彼は歌う。

彼は、叫ぶ。

 

「私は『アルゴノゥト』。混沌を以て秩序を成す者───“この世界(キミタチ)”の“(テキ)”だ」

 

光も闇も、混沌も秩序も。

今のオラリオをすべて飲み込む、『悪』。

否────

 

「さあ───『絶対悪』を始めようか」

 

悠然と告げる彼は、嗤っていた。

絶対悪は、嗤っていた。

 

「脆き者よ、汝の名は『正義』なり」

 

絶望が、場を支配する。

 

…………

………

……

 

『アルゴノゥトによるオラリオの被害』

一日目

アストレア・ファミリア所属4名負傷。

ガネーシャ・ファミリア所属25名負傷。

ロキ・ファミリア所属1名負傷。

 

二日目

魔石工場他、重要施設計3箇所が全壊。

守備隊に負傷者多数。

いくつかのインゴットや魔石、希少金属などが略奪被害に。

 

三日目

ロキ・ファミリア所属構成員が本拠諸共半壊。

うち幹部1名が拉致後行方不明。

ヴィーザル・ファミリア所属3名が負傷。

うち団長が拉致後行方不明。

九日目

フレイヤ・ファミリア所属構成員が本拠諸共全壊。

 

 

死亡者及び民間人への被害───なし。

 

 


 

 

「事情は分かったわ」

 

そこはオラリオにある建物の一室。

部屋の主は予期せぬ来訪者を前に、静かに息を吐く。

 

「ステイタスも見せてもらった以上、その全てを事実だと認め信じましょう。それで?貴方はそこまでのリスクを背負って、何をしてほしいの?」

 

「武器を一振り作ってほしいんです。元の時代で使っていたものに代わるナイフ……いや、片手剣を。材料にはミスリルと僕の血と髪を」

 

「そこまでする理由は?武器化した大精霊があるでしょう」

 

「これだけじゃ足りない。僕のすべてを十全に発揮できる器がほしいんです。本当は神様のイコルが含まれたあのナイフがあれば一番なんですけど、この時代に神様はいないから……」

 

来訪者の無茶な要望に、部屋の主は頭を抱える。

だが、その無茶を通してでも彼の提示した報酬は魅力的だった。

 

「報酬はオラリオの平定と成長。そして未来で起こるはずの全ての出来事。それらを対価に、作ってください」

 

「…………貴方が干渉した時点で、かなり変わってる点もあるでしょうけど危険因子を知れるだけで有用性は十分ある。同郷のバカがやらかしたのもあるんでしょう?」

 

「惨劇が、ありました……」

 

「うちも無関係じゃないでしょうし、危険は少ない方がいいし、安全マージンがあるなら尚良し。対処法まで分かれば万全。ついでにこの世界の成長と安定もある。断る理由を探す方が難しいわね……」

 

今のオラリオが救われるだけでも、価値はある。

イレギュラーの塊であるこの来訪者に賭けるには、十分な理由だった。

それに────

 

(あの子の眷属(こども)なら、見捨てるのも忍びないし……)

 

利益と事情と私情、すべてが揃った。

ならばやらない理由がない。

 

「分かったわ。やってあげましょう」

 

「ッ、ありがとうございます!!」

 

「いいわよ、対価ありきだし。ああ、でも、一つ気になったのが……」

 

部屋の主は来訪者を見つめながら、問いかける。

眼帯に覆われていない左目で彼を映しながら、純粋な疑問をぶつける。

 

「なんで私にすべてを打ち明けたの?武器が欲しいにしても、危険性とかは考えなかったの?」

 

その疑問に、来訪者は目を丸くする。

そして暫く呆然とした後、穏やかに笑って答える。

 

「神様が自分に何かあった時は真っ先に貴女を頼れって言ってたんです。神友だからって。実際、お世話になったこともありますし。オリンピアとかで」

 

「あの子がねぇ……って、オリンピア?まさか、浄化に成功したの?犠牲もなしに?」

 

「さあ、どうでしょう?答えは……ね?」

 

「あぁもう!爆速で最高のもの仕上げてあげるから覚悟しておきなさい!」

 

「はい、もちろん!」

 

答えを焦らすように笑う来訪者に、部屋の主も困ったように笑う。

親は子に似ると言うが、本当だったようだ。

二人が笑っていると、コンコンッと言う音が聞こえてくる。

 

「すいません、完成した物を持ってきました」

 

部屋の扉がノックされ声が聞こえてくる。

声の主はまだ子どもで多分男の子。

 

「今客人がいるからちょっと待ってなさい───貴方も、やることがあるんでしょう?早く行きなさい」

 

扉を開けることなく答える部屋の主。

来訪者の存在を知られるとマズイと判断したのだろう。

彼に向き合い、出ていくよう促す。

だが、来訪者は声がした扉を見続けているだけ。

 

「…………まさか」

 

彼は小さく呟いている。

その事に疑問を覚えていると、来訪者は何処か落ち着きがない様子で尋ねる。

 

「あの、すいません。彼に会っても、いいですか?」

 

「? どうして?」

 

「事情はあとで説明します!お願いします!」

 

「…………まあ、いいけど」

 

少し迷った結果、問題ないと判断した。

扉の前にいる彼はまだ幼いし、今の来訪者に会っても大したことにはならない。

そう判断したのだ。

 

そして、主に促されて彼は入ってくる。

部屋に入って来訪者の顔を見た途端、驚き固まってしまう。

それは来訪者も同じだった。

驚き、固まり、やがて肩を震わせる。

 

「ハハッ、ハッハッハッハッ!あぁ、なるほど!つくづく私は運命というものに愛されているらしい!」

 

先程までの固い生真面目な口調が一転して、道化のように軽快な口調になる。

それに違和感を覚える間もなく、子どもも声を上げて笑い始める。

 

「なんでお前がこんなとこにいるんだか……だがいいさ。こうして出会えたってことが、何より重要だ」

 

「こっちのセリフだよ。この時期のオラリオに君がいるとは思わなかった」

 

笑い合いながら、彼らは頷き合う。

互いの絆を確かめるように、笑みを不敵なものに変える。

 

「防具一式、それと魔剣と大剣をそれぞれ一振りずつ作ってほしい。頼めるかな、親友」

 

「ああ、もちろんだ。任せやがれ、親友」

 

どうしようもなく愉快に、彼らは笑い合う。

 

 


 

 

あとがき

 

少し悩んだ結果、ここで区切ることに。

絶望感マシマシだから、もうちょっと明るい展開のところで区切りたかったんですけど。

どうせだったら絶望感を含めて楽しんでもらおうかなって思ってしまいました。

まあ死者出してない時点でお察しですけどね。

短くなっちゃいましたけど、ご勘弁ください。

 

さて、なんでこんなに暗くなっちゃったんだろう。

ベルくんがエレボスエミュなんか始めるから。

 

でも、まあ友情出演でオールオッケーってことにしといてください。

彼がいる理由?

ご都合主義以外の何物でもございませんが?(開き直り)

 

暗黒期はあと3か4話くらい。

その続きはどのくらいの長さになるか未定です。

次回は苦労人二人が瀕死になってます、多分。

 

以上、あとがきでした

 

 

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