道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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時を渡る道化英雄~最強~

 

 

史上最大の親子喧嘩が幕を開けた。

二人の衝突はそれだけで周囲に被害を齎す程のもの。

地面が歪み、亀裂が走る。

互いの刃が鎬を削りながら拮抗し、火花が飛び散る。

その状態が数瞬続いて、最初に負けたのはベルだった。

 

「───ッ!!」

 

吹き飛ばされ、廃屋を壊しながら都市の中心部の方へと弾かれる。

廃屋を5つほど壊してようやく止まったベルは、すぐに立ち上がって切れて血が滴る口元を拭う。

それ以外に目立った傷はない。

 

「どうした?あれだけ大見得切ってこの程度か?」

 

「わざとだよ。義息子(むすこ)気遣いが分かんない?」

 

「あ?気遣い?」

 

「あのままあそこで戦ってたら、喧嘩する前にお義母さんにボコボコにされてたよ?」

 

「マジでありがとうございますッ!!」

 

「どういたしまし……てッ!!」

 

頭に血が上れば、割りとその辺りのことがおざなりになるザルドは腰を直角に曲げて頭を勢いよく下げる。

その隙をついて、今度はベルから仕掛けていく。

当然のようにザルドは攻撃事態は防げたが、それでも押し負けてしまう。

先ほどとは打って変わって、今度はザルドのほうが吹き飛んでいく。

 

「ドンドン行くよ!【ファイアボルト】!!」

 

「無詠唱かよ……だが、甘いわぁッ!!」

 

「甘いわけないでしょ!蓄積(チャージ)10秒───雷霆の斬光(アルゴ・ケラウノス)!!」

 

ファイアボルトは目くらまし。

それを薙ぎ払い一瞬視界を奪った瞬間、さらなる追撃をお見舞いするベル。

 

「猪口才ッ!」

 

だが、ザルドは一刀の下にそれをすべて切り捨てる。

ファイアボルトの残りも、追撃として放たれた雷霆も。

 

「【父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを】────」

 

「チッ!!」

 

今度はザルドの追撃。

魔法の詠唱が聞こえてくる。

となると、来るのはあの炎獄の一撃と見て間違いない。

 

「【それは遥か彼方の静穏の夢】」

 

「【レーア、アムブロシア】!!」

 

その一撃も当然、斬光となって距離殺してくる。

今のベルでも、真正面から喰らってしまえば一撃で戦闘不能になるレベルの代物だ。

だから、徹底的に回避する。

 

「……あぁ?ったく、アルフィアと同じ魔法無効化かよ」

 

「攻撃ぶつけ合うようなバチバチの戦い期待してたんだろうけど、するわけないでしょ。この後にはお義母さんも控えてるんだから」

 

「つまんねえなぁ~」

 

「命掛かってるんだから、つまんなくもなるよ」

 

魔法無効化を駆使して、逃げるベル。

当然それで消せるのは魔法だけなので、斬撃の方は自力で相殺した。

その事にザルドは不満げだが、そうも言ってられない。

命がかかっているのだから。

しかも、掛かっているのはザルトたちの命だ。

だったら、つまらなかろうがなんだろうが、なんだってやってやる。

 

「初めての親子喧嘩なんだ。盛大に行こうぜ?」

 

「それには賛成。都市に危機感を煽るためにも、ド派手に行こう」

 

気づけば、戦闘場所は都市の中心へと近づいていた。

周囲からは悲鳴とともに逃げ惑う足音が聞こえてくる。

さっき壊した民家の中には廃屋ではないものも混ざっていたのだろう。

死者が出ないように気をつけているため、その点は問題ないがそれ以外の問題は山積み。

この後自分がどれだけの大罪人として祀り上げられるのか、想像するだけで愉快な気持ちになってくるレベルだ。

 

「それじゃあ続きを……っと、言いたいところだが」

 

「その前に────」

 

多くの足音が遠ざかっていく中、近づいてくる足音がある。

一つ、二つ……三つか。

まあ大体の顔は想像できる。

 

「白髪の狩人だけではないね……なんで君までいる?」

 

「ガレスを誘拐するだけでなく、都市を荒らしてどういうつもりだ……?」

 

「ザルド……!!」

 

フィン、リヴェリア、オッタルの三人。

それ以外の足音も聞こえてくるが、一番面倒くさそうなのはこの三人だ。

見事なまでに雁首を揃えて、みっともないと言わざるを得ない。

 

「「何たる惰弱、何たる脆弱」」

 

エルフの部隊がやってきた。

その他のロキやフレイヤの団員たちが続々やって来る。

そのすべてを見ても、やはり二人にとっては脅威になり得なかった。

 

「ついこの間あんなに虐めてあげたのに、まだそんな悠長なことを続けるのかい?」

 

「目的はどうあれ、俺達の戦いに首を突っ込むということの意味を分かっているのか?」

 

「力量差も弁えず、無駄に雁首揃えて挙句の果てに動機確認?今の君達は道化(わたし)よりも滑稽だね」

 

「俺達の楽しみを邪魔するということがどういう意味を持つのか、教えてやろう」

 

鐘の音がなる。

ベルは白光と共に刃を高く振り上げる。

それと対になるように、ザルドは腰に剣を構える。

 

「「邪魔だ───失せろ、クソガキ共!!」」

 

「リヴェリア!!」

 

「舐めるなぁッ!!」

 

白と黒の斬撃がフィンたちを襲う。

リヴェリアは当然準備していた結界魔法を発動させる。

その見事な魔法で、二人の攻撃を完璧に防ぎきった……かのように思えた。

だが、現実はそこまで甘いものではない。

 

「お見事お見事。さ、次だ」

 

完璧に防ぎきったリヴェリアの結界を、魔法無効化を纏ったベルの蹴りが簡単に破壊していく。

そう、これがベルの魔法無効化の恐ろしいところ。

回復魔法も防御魔法も支援魔法も、ありとあらゆる魔法的作用のすべてを今のベルは打ち消していくのだから。

結界という穴がない状態が完成である魔法など、一つ穴を開ければあとは砂の城よりも簡単に壊せる。

 

「【ファイアボルト】」

 

リヴェリアの頭を掴み、そのままゼロ距離で速攻魔法を放つベル。

いつもの彼からは考えられないほど容赦がないその一発で、リヴェリアはもう戦闘不能になる。

ベルが二つの大派閥を一度は壊滅させられた理由はここにある。

初撃の不意打ちで本拠を大破させたということも、大いに理由にはなっている。

だが、それ以上に。

ベル・クラネルという冒険者は、格下に対して圧倒的なアドバンテージを有しているのだから。

 

レベル6のステイタスに加え、大精霊の加護を宿した身体から放たれる速攻魔法はそれだけでレベルが一つ下の冒険者など容易く蹂躙できる。

格上殺しに最も有効な攻撃手段である魔法も、魔法無効化を有するベルには意味をなさない。

そして、全ての基本攻撃に雷霆の力が乗せられ敵対者の身体を怯ませる。

挙句の果てに、蓄積(チャージ)攻撃により気を抜けば大軍すらも蹴散らせる程の破壊力が手段を問わず飛んでくる。

こんな化け物を相手に、格下がどうやって勝てというのだ。

 

「俺のこと、忘れてねえだろうな?」

 

フィンの見積もりが甘かった。

二人が争っているのなら、どちらかと結託してもう片方を倒せると思っていた。

そして、消耗したところを狙って残った方も倒せば良いと考えていた。

だが、そうではなかった。

 

負けた同士ということで、フレイヤ・ファミリアとも力を合わせられると考えていた。

それすらも全て無意味だった。

ザルドとベルが力を合わせて戦い始めたのだから。

 

二人は武器を投げ捨て、ただの徒手空拳を以てフィンたちを蹂躙していく。

 

 


 

 

「はぁ~あ、あやつらも馬鹿じゃのう」

 

「あんなところに突っ込んでいくとは……モノ好きもいたものですね」

 

フィンたちが蹂躙されていく様を見ながら、ガレスとリューは呑気に呟く。

命の危険があれば止めに入るつもりだったが、あれは大丈夫だと一目でわかる。

ザルドの方が不安だったが、彼も勝敗が決するまでは両方の道を遵守できるように動くつもりだ。

なら、今不用意に手を出すのは悪手以外の何物でもない。

 

「ところで、貴方は戦わなくてよろしいので?」

 

「バカか、お前は。子どもを2対1で追い詰める親が何処にいる?」

 

あくまで喧嘩。

なら、一対一で正々堂々と行わなくてはいけない。

彼ら彼女らにとって、喧嘩とはそういうものだ。

 

「私はザルドが負けた後だ。もっとも、その時あの子が動ける状態であればの話だがな」

 

「それなら、多分大丈夫……」

 

ベルの動きを見ながらそう語るのはアイズ。

彼の身体に迸る雷霆を、彼女はベルとアルの次に知っている。

だからこそ、断言できる。

勝つのは、ベルだと。

 

「根拠は?」

 

「ベルの感情に合わせて、剣の出力が上がってきてる……多分、もっと上がる……」

 

雄牛退治の時はこんなものではなかった。

今のベルがあそこまでの極限状態を維持できるとは限らないが、瞬間出力だけで言えばザルドの全盛期をも上回っているだろう。

否、知らないだけで、ザルドも出力を底上げする方法があるかもしれないので、断言は出来ないが。

それでも、平時の出力は並び始めている。

 

「あの剣は何だ?ただの魔法にしては、異質過ぎる」

 

付与魔法ではない。

だが、ただの強化魔法や攻撃魔法でもない。

あんな魔法、今まで見たことがない。

 

「あれは……雷霆の剣」

 

「なに?」

 

「ねえ、やっぱりあれって────」

 

あの魔法の正体を端的に告げるアイズ。

その後を引き継いで語るのは、本を携えたヘファイストスだ。

 

「かつて、ただの道化を英雄にまで押し上げた大精霊の写し身。持ち主に絶大なる加護を齎す伝説にして鍛冶師泣かせの剣。あれは、三千年前に英雄によって振るわれていたその剣の────『原典(オリジナル)』」

 

本のページを捲りながら該当する欄を探すヘファイストスだが、やがて見つけたのかその指が止まる。

左目を細めながら、そのページを読み上げていく。

 

「封印に成功した獅子を抑え込み続けるためにずっと使われてきて……アルゴノゥトの子孫によって封印と共に守り続けられてきた物を、獅子討伐の際にあの子が獲得したみたいね」

 

「……どういう経緯で?」

 

「獅子が力を奪ってたものを、本来の契約者であるあの子が無理矢理取り返したって感じ?本人もよく分かってないから、これを読んだ私の推測にはなるけど」

 

ページを行ったり来たりしながら読み深め、推測を語るヘファイストス。

だが、一番注目を集めているのはその本だ。

 

「ねえ、ヘファイストス。その本って────」

 

「ええ、お察しの通りベル・クラネルの未来日記。本人に合わせて言うなら、手記。あの子が今使ってる片手剣の対価の一つとして貰ったものよ」

 

「ヒュウッ!リアル予言書じゃないか!」

 

その本に目を通し続けながら、ヘファイストスは語る。

アストレアは目を細めて何かを思い詰めるように見定め、エレボスは何が可笑しいのか笑っている。

そして、アイズとリューはその本を彼女が持っていることに少し驚いていた。

 

「……その本、貴女が受け取ったんだ」

 

「ええ。一番中立的に、自由に動ける立場だからって。アストレアに渡そうとも考えてたみたいだけど、事情を話す手間と渡しに戻る手間もあって、諦めたみたい」

 

「それだけではないだろう?随分あいつに信用されてるな」

 

そうボヤくのはベート。

彼としては、ヘファイストスに入れ込むベルが少し気がかりだったようだ。

 

「私達の過去も、知っているな?」

 

「一応。物語に関与しないことを条件に教えてもらったわ」

 

「だとしても、ですよ。俺達のことを何よりも大切に思ってるあいつが、よく語りましたね」

 

「未来で……オリンピアで、関わりがあったみたいよ」

 

「オリンピア…………大英雄、エピメテウス……」

 

「まだ生きておるのか、あの傑物は……」

 

かつて彼に助けられた身としては、複雑な感情を抱くベートとガレス。

きっとあの大英雄は、今も苦しんでいるのだから。

 

「その件については話せないわよ。この世界でもまだ解決できていない、生きてる問題だから。それ以外のこともね。大半が潰れたとは言え、これが歴史上類を見ない爆弾であることに変わりはないし」

 

「そんなに……ヤバイの?」

 

「私も身の振り方を考えなくちゃいけないレベルよ。だから貴女達にも、不用意に話すわけにはいかないの。だから代わりに、彼によって潰えていった問題について話しましょう」

 

都市の破壊者(エニュオ)による狂乱、フレイヤの乱心、異端児(ゼノス)を巡る都市の混乱など、小さいものも含めれば数え切れないほど。

ちなみにだが、ギルドが保管している花嫁衣装の焼却をヘファイストスは決意している。

あんな呪物、残しておいてたまるか。

 

そんな事を考えながら、ページを捲る動き加速させ獅子よりも過去のページを探す。

そうして見つけられたのは、ベルにとって五年前の出来事。

 

「二年後、アストレア・ファミリアを生き埋めにしようと、ルドラ・ファミリアの策略によってダンジョン30階層で大爆破が引き起こされる」

 

「それによって、ネーゼ達は?」

 

「いいえ、違うわ。問題はここから。引き起こされた爆発により、ダンジョンの防衛本能が障害を排除しようと特殊個体(イレギュラーモンスター)を産み落とす。後にウラノスによって『ジャガーノート』と命名されるこのモンスターによって、アストレア・ファミリアは半壊する」

 

そのモンスターによって殺されたのが、ネーゼたちだ。

 

ふと前を見れば、フィンたちを倒し終えたザルドとベルが再び斬り結んでいる。

状況は互角。

ただ、毒の有無でベルが若干有利。

戦えば戦うだけ、ベルは優位に立っていく。

 

「初撃で殺された者が大半だったけど、アリーゼ・ローヴェル達は運良く生き残り、リュー・リオンの機転とウラノスが事前に派遣していた魔術師(メイジ)によってその場を離脱。難を逃れるに至った」

 

「その後、そのモンスターは?」

 

「自然消滅した。そもそもモンスターが生きる上での核となる魔石も持っていない、本当にダンジョンの破壊者を殺戮するためだけのモンスターで、死んでも何も残さない。詳しい特性や能力についてはまた後で話すけど、産まれ落ちてから数時間で死ぬみたい」

 

「そう……残念だったわね、エレボス」

 

「ありゃりゃ、俺が考えてることはお見通しか」

 

ベルの試練が失敗に終わった時、新たなる手駒として考えていたエレボスだが、産まれて数時間で死ぬようなら使えない。

ルドラ・ファミリアがやったみたいに誘き出してみればうまくいくかも知れないが、それをやるにはリスクとリターンが見合わない。

そもそも、アストレア・ファミリアが壊滅したことを考えれば完全なる初見殺しのような性能をしてるようだし、試練に向いている魔物というわけでもなさそうだ。

流石のエレボスと言えども、これでは諦めざるを得ない。

 

「その後、当時の凄惨な記憶を拭いきれず、アストレア・ファミリアは都市防衛のみに専念しダンジョンにはいかなくなる。五年間の停滞の末奮起し、あの子がここに来るちょっと前からはダンジョンに戻ってるらしいわ」

 

「…………軟弱な」

 

「そういうもんじゃないぜ、アルフィア。未来を知ったこの子達だって、眼の前で仲間が惨殺されれば…………って、あれ?でもルドラ・ファミリアって確か…………」

 

「全員捕まえておるぞ。ベルが血眼になって根城を探り当て……」

 

「俺達三人で全員引っ捕らえてやった」

 

最初にヘファイストスが言ったとおり、これはもう潰された悲劇。

ベル・ガレス・ベートの三人の活躍により、ルドラ・ファミリアは主神諸共捕縛済み。

今となっては、何も出来ない。

 

「この世界、大分ヌルゲーになってるわよ。ダイダロスの末裔も捕まってるし、子どもを使った自爆機構を作ろうとした連中も軒並み捕まえた。ヴァレッタ・グレーテやオリヴァス・アクトも」

 

「やってくれたよなぁ、ホント」

 

「でも、当然残ったのもいる。レヴィスと呼ばれた、モンスターの力を持つ人間……『怪人(クリーチャー)』。そして、善神ズラしながら、裏で最悪なことを企んでるバカもいる。エレボス、貴方なら心当たりあるでしょう?」

 

「あ?あ~……もしかして、あの若造か?下界に降りてから随分丸くなったと思ってたら……」

 

「それについて、ベル・クラネルから伝言。『あれはダメだ。下界の可能性を信じておらず、また信念もなく、ただ我欲によって混沌を望むだけの外道。あれは試練にはなり得ない。使うなら、せめて貴方が管理しろ』だって。使わせる気なんてないでしょうけど」

 

事の顛末の全てをアイズやレフィーヤから聞いていたベルは、その可能性も排除している。

だからオリヴァス・アクトも捕まえたのだ。

正体のこともヘファイストスに伝えた以上、あの神はもう詰んでいる。

 

「やり過ぎだろ、あいつ。本当に自分だけで成長させる気あるのか?」

 

「もちろん、あるわよ。それらに変わる障害として、あるモンスターのことをここに記してるわ」

 

ページを動かし、未来の出来事へ。

それは、ベルにとって数ヶ月前の出来事。

 

「『エルソスの遺跡』に封印されている漆黒のモンスター、アンタレス。これを討伐しろって」

 

「漆黒のモンスターもピンキリだろ?ちゃんと強いんだろうな、そいつ」

 

「分からないって」

 

「はあ?」

 

「あの子が対峙した時には全部手遅れだったのよ。アルテミスを取り込んで力に振り回されて。やったことと言えば、スキルとともにオリオンの矢を放っただけ。だから具体的な強さは分からないって」

 

「あぁ~、なるほど……そりゃ確かに分かるわけないか……」

 

神を取り込んだモンスターなど、前例がない。

だが、その脅威度だけは推し量ることが出来る。

しかも取り込んだ相手が天界屈指の武闘派であるアルテミスなのだから。

下界にとって、最悪のケースだ。

 

「エレボス、説明しろ」

 

「説明も何もねえよ。神を取り込んで、制約なしに好き勝手その力を行使できるようになったモンスター。その力を使いこなせるレベルまで放置してたら、黒竜以上に強くなってた。お前らがいても、デコピン一発でお陀仏だぜ?」

 

デコピン一発は流石に大袈裟かもしれないが、それでも下界が総力を上げても討伐できないほどの化け物には違いない。

神という存在は、それだけ強大なのだ。

精霊や人間がいくら力を合わせようが、絶対に敵わないと断言できるほどに。

その力の片鱗だけで下界を焼き払えるくらい、強いのだ。

 

「だから、俺はベルが下界を救ったとは思ってもアルテミスを殺したとは思えないんだよなぁ……。確かにそういう見方もあるが、それは悪様に言い過ぎだろ。安楽死や介錯って言ったほうが良いんじゃないのか?」

 

「私もそう思うわよ。本人にもそう言われたって言ってた。でも、自分の中で折り合いがつけられないんでしょう。割り切れるほど、あの子は強くないのよ」

 

「逆だな。割り切らない強さを持ってるんだよ、あの子は」

 

「ええ、確かに────あれ?これは」

 

ヘファイストスが見つけたのは、アンタレスの一件が書かれた最後のページ。

討伐し終わった後のベル・クラネルの独白などが記された部分。

その、終わりの部分だった。

 

『────最後の瞬間、アルテミス様と話ができた。それはオリオンの矢がもたらした奇跡なのか何なのか。二人の心を繋いだその場所で、最後の邂逅を果たした』

『アルテミス様が初めて僕の名を呼んだ。その声が、言葉が、触れた手の温もりが、今でも鮮明に思い起こせる』

『また出会うと言ってくれた。笑ってくれと言われた。だから僕は、笑い続ける。強くなり続ける』

次にあった時、一万年分の恋をするために

 

最後の部分が、消されていた。

黒く塗りつぶされて、読ませないようにされている。

それはきっと、ベル・クラネルが自分で消したのだろう。

彼女との約束を、自分だけのものにしたいと思ったから。

 

「子どもねぇ、ホント……」

 

アルテミスも、ベルも。

聞き分けのない子どものように頑固で、愚かだ。

 

「どうかしたか?」

 

「いいえ、何でも」

 

子どものわがままを聞く大人のように笑いながら、ヘファイストスは何でもないと告げる。

この思いと葛藤は、世界に知られるべきではないと思ったから。

 

「話を戻しましょう。いずれにせよ、これは防ぐべき悲劇。これは何も生まないわ」

 

「それには同意。だが、今のままで勝てるのか?相手の力量が分からないってことは、弱い可能性と同じくらい強い可能性だってある。黒竜とまでは言わないが、もしかしたらベヒーモスとかと同じレベルで強いかも知れないぜ?」

 

「現状不明。アンタレスに挑めるだけ強くなれるかどうかは、ベル・クラネルの頑張り次第ね」

 

「結局のところ、それに尽きるよなぁ……。あいつが散々この世界を甘やかした結果なんだから、責任持ってキツく躾けてもらわないと」

 

ベルが勝つのか負けるのかにもよるが、この世界の命運はベルの手に委ねられていると言っても過言ではない。

それはもちろん本人が一番強く自覚しているだろうが、それでも不安なものは不安だ。

 

「あいつはこの世界に長くは残れない。だったら後は、どれだけの焦燥感と無力感を抱かせるかだ。こうなりたい、こうならなければいけないと誓えるほど、鮮烈な光を見せなくちゃいけない」

 

「だったら大丈夫」

 

ここで、ずっと黙っていたアイズが口を開く。

その言葉は確信と信頼に満ちていた。

いや、これはそんなものではなく、もっと強いもの。

彼女は見て、知っているのだ。

彼がどれだけ強く鮮烈な光を宿しているのかを。

それを、世界に見せつけてきたのかを。

 

「アルなら、それが出来る」

 

「へえ?」

 

「私達は知ってる、アルが抱く理想がどれだけ無謀なものかを。私達は見てきた、アルが成した偉業がどれだけ輝かしいものかを」

 

誰に笑われようと、誰にバカにされようと、彼はそれを成し遂げた。

その偉業は例え世界が知らなくとも、彼女たちだけは知っている。

 

「喜劇は終わらない。英雄時代のその先に行くその時まで、『英雄の船(アルゴノゥト)』は続いていく。彼という希望の光はきっと、世界を照らし続ける道標となる」

 

アリアドネは語る。

道標の象徴たる彼女は、高らかに告げる。

 

「私達の愛した英雄を、舐めないで───!」

 

アイズは、リューは、ベートはガレスはヴェルフは、笑い続ける。

彼という英雄を称えるように、声を上げながら笑うのだ。

 

「形は違えど、姿は変われど、それだけは同じ。世界は今日目撃する。新たなる時代の、幕開けを」

 

ベルはザルドと戦い続けている。

互いにもうボロボロになりながら、それでも戦い続けている。

笑いながら、声を上げながら、彼は今も戦い続けているのだ。

 

 


 

 

「ハハッ、ハハハハハハハハハッ!!」

 

「いいぞ!もっと、もっとだ、ベル!!」

 

二人の戦いは最高潮に達していた。

フィンやオッタル?

そんなもの、とっくの昔に片付け終わった。

どうせ今頃、退避して回復を図っているところだろう。

そんなものはもうどうでもいい。

今はただ、この偉大なる英雄との戦いさえあればそれで良かった。

 

「俺から技を盗め!すべてを糧にしろ!」

 

「言われなくても!!」

 

ステイタス的には若干勝っている。

だが、それでも依然として技術的には遅れを取っている。

当たり前だ。

何十年も冒険者として戦い続けたおじに、今のベルが敵うわけがないのだから。

だが、今はそれすらも心地良い。

この技のすべてを間近で見れる今が、何よりも楽しかった。

 

「どうした!?そんなものか!?」

 

「まさか!!さあ────親子喧嘩を続けよう!!」

 

その瞬間、ベルは加速する。

 

「ッ!?」

 

ザルドですら反応が遅れるほどに、劇的に動きが変わる。

何が起こったのかを理解するのに回す余裕などない。

今はただ、息子の全てに向き合わなくてはいけないのだから。

 

『感情すらも飛び越えて、更に力を手にする方法が、あの剣にはある』

 

この戦いを見ているアリアドネが語る。

ベルはこの瞬間だけはザルドを翻弄するように、彼の身体に傷を増やし続ける。

だが、ベルの身体も無事ではいられない。

 

『電流を体内に流し、動きだけでなく反応速度すらも飛躍的に向上させる雷霆増幅(オーバーブースト)。それが、アルゴノゥトが雄牛との決戦で使った雷霆の剣の切り札』

 

『それって───!?』

 

その言葉に、アリーゼやアーディから悲鳴が上がる。

体内に電流を流し、全てを加速・増幅させる。

これは言葉で表すほど単純なものではない。

 

『うん。動くどころか、息をするのすら苦しいくらいの激痛が絶え間なくアルを襲う。使いすぎればやがて重要な神経や臓器すらも機能不全を起こす可能性を秘める、諸刃の剣。常人が使おうとすれば、意識を保つのすら困難なはず』

 

あの時を知っているのは、今の都市にはアイズだけ。

彼の苦しむ姿を知っているのは、彼女だけなのだ。

 

ベルは笑い続ける。

かつてのアルゴノゥトと同じように、血反吐を吐きながらも唇を曲げて、笑い続けている。

 

『それでも、ベルは戦い続ける。守ると誓ったもののために、命を懸ける』

 

彼はまさしく英雄だ。

誰がなんと言おうと、英雄なのだ。

愛する人のために命を懸ける男が英雄でないのなら、誰を英雄と呼ぶのだ?

 

「おおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「まだ、まだまだまだまだまだァッ!!!」

 

周囲は壊れ、最早都市の原型は残っていない。

それでも雄叫びを上げながら、二人の戦いは続いていく。

互いの血が流れる。

雷霆のせいで、互いの身体が焼け焦げていく。

それすらも楽しむように、二人は笑う。

 

『頑張って……アル(ベル)

 

雷霆の奔流が見るものを寄せ付けない。

誰もその場に近づけない。

命を懸ける男だけの世界が、そこにはあった。

 

やがて、大鐘楼の音が聞こえてくる。

これはこの世界の誰も知らないベルの必殺。

不可能を可能にしてきた、英雄の一撃。

 

「勝負だ、来いベルゥ!!」

 

「あああああああああああッ!!」

 

1分間の蓄積(チャージ)

英雄運命(スキル)】の引鉄(トリガー)となる英雄は、『偉大なる最強達(ゼウス・ファミリア)』。

顔も知らない、名前も知らない。

でも、ベルにとって彼らは確かに英雄だ。

自分の中に流れる彼らの血、彼らの思い、それらを糧にすべてを燃え上がらせる。

 

ザルドも、今までの戦いで分かっている。

彼の奏でる鐘の音が、スキル発動の証だと。

鐘が鳴る時間に比例して一撃の威力が重くなっていく。

この大鐘楼はきっと、その完全上位互換。

今までとは威力が桁違いになってくるだろう。

 

「【父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを】────】」

 

詠唱を歌う、スキルを練り上げる。

今の自分が放てる最高の一撃を以て、彼を迎えうつ。

それが、今の自分に出来る精一杯の手向けだ。

 

「【レーア・アムブロシア】ッ!!」

 

「『雷霆(ケラウノス)』!!!」

 

両者の一撃はぶつかり合う。

鐘の音が途切れ、破壊音が響く。

 

(─────は?)

 

だが、ここでザルドは異変に気づく。

おかしい、何かが可怪しい。

この一撃は今のベルが放てる最高の一撃。

それは間違いない。

絶対に間違いないのだ。

でも、だったらなんで───

 

(───まだ鐘の音が聴こえて来やがる!?)

 

大鐘楼に隠れるように鳴っていた、小さな鐘の音が響き続けている。

気づけば、不意をつくように下からベルが迫ってきている。

鐘の音はまだ聞こえてくる。

完全に不意を突かれた。

 

「まだだッ!!」

 

たった数秒の蓄積で自分が倒せないことくらい今までで分かっている。

しかも、ベルは不意をつくために雷霆の剣を投げ捨てている。

だったら、この一撃で自分が倒れることはない。

そう思った。

 

(いや……違う!!)

 

だが、違う。

この白き輝きは、数秒間の蓄積などではない。

あの大鐘楼と同じくらいの時間蓄積されたものだ。

 

蓄積(チャージ)が一箇所しか出来ないなんて、言ったっけ?」

 

ベルが過去に来てから果たした成長。

手数が足りない、力が足りない、素早さが足りない。

それらの足りないものを補うべく、進化を果たしたスキル。

それが、同時に二箇所まで蓄積させることを可能にした。

 

そして、腰から引き抜くはクロッゾの魔剣。

本物の魔法(オリジナル)を超える、唯一の魔剣。

何よりも頼りになる親友が作ってくれた、一振りだ。

 

聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)!!」

 

愛する女神の名を冠する英雄の一撃が、炸裂した。

 

 


 

 

その一撃を以て、決着はついた。

鎧諸共焼け焦げたザルドは、ゆっくりと仰向けに倒れていく。

魔剣は一撃で砕け散った。

それと同時にベルは深い疲労感に襲われ、思わず倒れそうになる。

 

「あぁ……クッソ、してやられた……」

 

倒れそうになる身体をなんとか支えていると、ザルドがそう溢す。

若干の苛立ちと不快感と、それでも清々しい気持ちで。

ベルに負け惜しみのような愚痴を言っている。

 

「お前、最後のあれは互いに全力をぶつけ合うところだろ?英雄譚見てないのか?それを途中で放り出して不意打ち決めやがって」

 

「全力でぶつけ合ったらどっちかが無事じゃすまないでしょ?喧嘩はしても、殺し合いなんてする気はないよ」

 

「ああ?男同士が全力でぶつかり合うんだ!それをお前……手ェ抜いてやがったな!?」

 

ザルドは強い。

レベル7に恥じない力を技術を持ち、ベルを追い詰めた。

だが、全盛期ではなかった。

ベヒーモスの猛毒によってその身を侵され、余命も限られている。

肉体強度的にも、全盛期には遠く及ばない。

だから、本来ならベルがこんなに苦戦するわけがないのだ。

 

だったらなぜこんなに満身創痍になったのか。

それはもちろん、ベルが何処か本気になり切れていなかったから。

手加減していたわけでも、ザルドが言うように手を抜いていたわけでもない。

ただ、それでも……家族との喧嘩で、殺意も敵意も抱けるわけがないのだ。

 

全力だった。

死ぬ気だった。

全身全霊だった。

でも、どこか本気ではなかった。

そして、それはザルドも同じだ。

 

「それを言うならおじさんもでしょ?【神饌恩寵(デウス・アムブロシア)】、なんで使わなかったの?」

 

相手を食すことで発動するザルドのレアスキル。

能力は食べれば食べるだけ強化される『強喰増幅(オーバーイート)』。

ベルの髪でも皮膚でも肉でも、何でもいいから食べてこのスキルを発動させていれば、ベルは絶対に負けていた。

何をどうやっても、ザルドには勝てなかった。

でも、ザルドはこのスキルと使わなかった。

 

「当たり前だ!俺は同胞(なかま)だけは喰ったことねえし、ましてや家族なんて喰えるわけねえだろうが!!自分のガキ喰う親が何処にいんだ!?」

 

「人のこと言えないじゃん……」

 

不貞腐れるように、ベルは溢す。

言ってしまえば、これは死ぬ気の手加減勝負。

殺すためでも生きるためでも守るための戦いでもない。

ただの意地の張り合いなのだから。

 

「くっそ、色々消化不良だ……」

 

「でも負けは負けでしょ?約束、守ってよね」

 

「分かってるよ。アルフィアはどうなるか知らんが、少なくとも俺はお前の下にいく。約束だ」

 

「ありがと!」

 

満面の笑みで感謝を告げるベルに、ザルドは呆れたように溜息を溢しながら身体を起こす。

痛む体を抑えながら座り、ベルを見る。

 

「いっててて……あぁ、無茶しすぎた……」

 

「動けるなら離れてね。マリューさんの治療受けながら大人しくしてて。ヘファイストス様に二本だけ万能薬(エリクサー)渡してるから、受け取って一本は自分で飲んでね」

 

「用意周到だな、この野郎」

 

当然だが、自分が勝つこと前提の行動をしているベルになんとも言えない表情を向けるザルド。

見れば、ベルの背後からアルフィアがゆっくりと歩いてきている。

 

「さあ、世界一おっかない女のご登場だ。そんな状態で勝てんのか?」

 

「勝つよ。じゃないと、ここまで戦った意味がないし」

 

「気をつけろよ?そもそも、この世の絶対普遍の摂理として───」

 

その先の言葉を、ベルは知っている。

 

「「男なんていくら調子に乗ろうが、強い女には敵わないんだ」」

 

疲れたように語る彼の言葉を、ベルは知っている。

だから声を揃えて、疲れたように、同じように、言うのだ。

 

「フフッ」

 

「カッハッハッ」

 

二人は顔を見合わせた後、声を上げて笑う。

その声は何処か暖かく、安心できるようなものだった。

この時間が一生続けばいいのにと思うほど、ザルドにとって心地の良いものだった。

 

この時間が、本当に楽しかった。

この時間が、本当に嬉しかった。

この時間が、本当に暖かかった。

 

未来なんてものに、希望を見いだせるほどに。

この瞬間が、心地よかった

 

「勝算はあるんだろうな?」

 

「もちろん。おっかない女が怖いなら、こっちもおっかない女を味方にすればいい……ってね」

 

「なんだそりゃ」

 

「大丈夫だよ。だって、僕はヘラ・ファミリアの子どもでもあるんだから」

 

「ああ、そう言えばそうだったな」

 

最後にもう一度だけ、二人は顔を見合わせる。

激励するために、笑い合うために、手を伸ばす。

 

「それじゃあ行ってこい、バカ息子!!」

 

「うん!行ってくるよ、お義父さん!!」

 

あとでいくら怒られようと構わない。

この瞬間だけは、ザルドを父と呼びたかった。

手を伸ばし、最後のハイタッチで全てを受け取る。

希望も、理想も、思いも、すべて。

 

…………

………

……

 

 

ポーションとマジック・ポーションを同時服用し体をなんとか治していく。

効果を発揮するまでに時間はかかるが、何もしないよりはマシだ。

 

相対するのは、最凶の一角。

世界で最も才能という概念に愛された麒麟児。

だったら、こっちも出し惜しみなどしない。

最初から全力全開で、相手の長所を潰しにかかる。

 

「【それは遥か彼方の静穏の夢】」

 

魔法無効化の詠唱。

これはザルドとの戦いでアルフィアにもバレている手札。

だが、これはまだ誰も知らない切り札の一つ。

 

「【福音の慈愛、父母の奇跡、恩寵受けし我が身の幸福】」

 

だってこれは、アルフィアを止めるための魔法なのだから。

 

 


 

 

あとがき

 

はい、二日連続?更新。

あとがきで書こうと思ってたことまた忘れた!

 

取り敢えず、ザルドとベルくん戦はあれですよ、あれ。

 

ルキア奪還編の剣ちゃんとチャン一に近いあれ。

全身全霊で戦いながらも、心の何処かで相手の体のことを気遣ってる、みたいな感じ。

自分より小さい弟と喧嘩する時、無意識に手加減する兄貴、みたいな感じです。

まあ、作者は二人兄弟の弟なので、その辺の感覚は分かんないんですけどね。

 

あと、フィンさんたちの様子やほぼ空気になってるアストレア・ファミリアの面々は、この後でしっかり描写します。

あんまり面白くないかもですけど、お楽しみに。

 

取り敢えず、以上で。

 

あとがきでした。

 

 

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