道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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まえがき

すいません。
このシリーズを書く上で、時系列をほんの少し弄ってます。
本来なら、リリの一件と24階層の事件は同じ時期だったのですが、この作品では別日になっています。
それと、このシリーズは原作と違う部分のみ書いていこうと思います。
飛ばされてる部分は、原作とほとんど同じなんだな~と思っていただければ…。
それでもおかしいな、と思うところがあれば気軽にご質問ください。


その4―英雄運命

 

 

昨晩行われたクソみたいな会議を何とか乗り越え、朝を迎えてベルとの訓練に向かうベート。

その足取りは、本来とても軽いもののはずだった。

ベルとの訓練はベートとしても楽しいし、あの純粋な少年に尊敬されれば悪い気はしない。

日を跨ぐたびに強くなっていくベルの成長を見るのは、とてもやりがいがあることだった。

だから、何度も繰り返すが本来はとても楽しいもののはずだったのだ。

後ろの三人さえ、いなければ―――…。

 

「おい、お前ら。一応確認しとくが、本当に着いてくる気か?」

 

足を止めて振り向きながら尋ねると、そこには兎のストーカー三人(アイズ・ティオナ・レフィーヤ)がいる。

尋ねられた三人は当然と言わんばかりの表情で、胸を張って答える。

 

「当たり前です。あんな話を聞いた以上、ベルの様子を確かめなくては気が済みません」

 

「念のためよ、念のため」

 

「訓練の邪魔はしませんので、ご安心を!」

 

三者三様にそう答える彼女たちを見て、ベートはため息をこぼす。

こんな奴らに好かれてるベルが不憫でならない。

 

「というか、アイズ。お前神ヘスティアに毛嫌いされてるだろ?」

 

「嫌われてません。何故か警戒されてるだけです」

 

「同じことだろうが。お前本当に何やったんだよ?」

 

「何もしてませんよ。ベルと仲のいい私に嫉妬でもしてるんじゃないですか?」

 

「お前のその根拠のない無駄な自信がどこから来るのかは知らんが、そんな有様のお前が今不用意にベルに近づけば、神ヘスティアの反感を買うぞ。いいのか?」

 

「大丈夫です。バレなければ良いんですよ、バレなければ」

 

思考回路が完全に犯罪者のそれになっている元お姫様をガネーシャ・ファミリア(おまわりさん)に突き出すべきか、ベートは本気で検討し始めた。

関わらせないほうがベルのためになると思えて仕方がない。

捕まることになったらロキ・ファミリアが落ちぶれるのは確定だし、何よりもベルが悲しむので現状は実行に移さないが、準備だけは進めておこうと心に決めた。

 

「本当に、邪魔だけはするなよ?」

 

最後の最後にそう念押しして、ベートは再び足を動かし市壁に向かっていく。

ストレスでキリキリと悲鳴を上げ始めた胃を擦りながら。

 

………………

……………

…………

………

……

 

「あ、おはようございます、ベートさん!―――えっと、後ろの御三方は…」

 

「気にするな。気にしたら負けだと思え」

 

「えっ?」

 

「本当に気にしてくれるな。私の胃が持たん。時間も惜しいし、さっさと始めよう」

 

「は、はい!」

 

なぜか増えている三人に戸惑うベルだったが、ベートの懇願を聞いて疑問を押し殺し、訓練を始める準備をする。

そして、神のナイフを構え、ベートと組手を始める。

当然のようにベートがベルを圧倒するが、それでもベルは何度も起き上がり食らいついていく。

その様子に、ベートは思わず笑みを浮かべてしまうし、高揚を抑えきれなかった。

兎専属の変態犯罪者三人(アイズ・ティオナ・レフィーヤ)のせいで荒んでいた胃や心が癒やされるのを感じる。

そうして暫くの間ベルとベートは組手を続けていたのだが、それは一度中断されることになる。

ベートが思わず力を入れすぎてしまい、ベルを地面に叩きつけてしまったのだ。

気絶こそしなかったが、起き上がるには少しの時間を要する。

丁度いいので、ベートはここで休憩を挟むことにした。

 

「少し力を入れすぎたな。大丈夫か、ベル」

 

「は、はい…。意識飛ばしたりはしてないので、全然平気です」

 

「お前の基準はどこかズレているな…。訓練で意識を飛ばすことなど早々ないだろう?」

 

「え?」

 

「「……え?」」

 

ベートの言葉に素朴な驚きを発するベル。

そのベルに驚くベートとレフィーヤ。

二人の視線は、自然とアイズ達の方に向かう。

 

「おい、そこのド脳筋のバカ二人。ベルを何度気絶させたか正直に言え」

 

「「………。」」

 

「言わなければ今回のことをベルの保護者(ヘスティア)にチクるぞ」

 

保護者にチクるとまで言われれば、流石の二人も黙ってはいられない。

最後の抵抗として出来る限り小さく呟く。

 

「か、数えてない…。」

 

「数えきれない程、だな。バカゾネス、お前は?」

 

「…最初の方に、うまく手加減出来ずに2.3回くらい?」

 

「ざっと4.5回といった所か…。アイズに比べればまだマシな方だが、それでも酷いな」

 

言い方を変えたり嘘をついたりして、誤魔化そうとしている事実をベートは正確に読み取る。

胃痛こそしないが、頭痛がしてくる。

あの時何が何でも止めればよかったと、今になって後悔してくる。

 

「お前らな…、あれだけ意気揚々と名乗り出しておいてこのザマか?ベルを潰すつもりか?」

 

「そ、そんなつもりはありません…。それに、この経験もいつかきっと、役に立つ日が―――…」

 

「役に立つ立たないの問題ではない。ベルでなかったら一日で逃げ出してるぞ?少しは自らの行いを省みろ。そして反省しろ」

 

「「………はい。」」

 

「それとお前ら、ベルに謝ったのか?謝ってないだろう?謝ってたらこれが普通だと思うはずがないよな?謝れ」

 

「「ごめんなさい…、ベル」」

 

年上の上級冒険者に謝られたベルは、狼狽える。

自分よりも目上の人物にここまで素直に謝られる機会は早々ない。

ましてや、ベルはまだ15にも満たない少年だ。

この様な経験など、一度たりともありはしない。

 

「えっと、その、本当に気にしないでください。僕が弱いのが悪いんですし、それに、あの人との修行に比べたら、ずっとマシですから…」

 

「……一応聞いておくが、どんな内容の修行だったんだ?」

 

「モンスターの巣に放り込んで凌辱させられたり、川底の岩に体をくくりつけて死の感覚を教え込まれたり…。」

 

「お前…、よく生きてるな」

 

ベートはベルを今まで以上に憐憫の目で見つめる。

ベルは何故こんな目に遭うのだろう。

前世でアルゴノゥトとして調子の乗っていた罰だろうか?

 

「でも、それで良かったんだと思います…。僕みたいなのが英雄になるには、限界を三百は超えないといけないので。アイズさんたちの訓練も、あの人の修行も、きっと僕にとっては必要なことです。だから、本当に気にしないでください」

 

どこか達観した様子のベルを見て、ベートは何も言えなくなってしまう。

一体ベルに何があったのだろう?

そして、そんなふざけたことをベルに吹き込んだのは誰なのだろう?

その人物に“限界”の意味を知れと言いたい。

 

「お前がそう言うのであれば、私からもこのバカ共に何かを言うのは止めておこう。だが、何かあったら素直に言え。こいつらは本当に何をしでかすか分からんからな」

 

同じファミリアであるにも関わらず、兎への加害者予備軍(アイズ・ティオナ・レフィーヤ)への信頼が無に等しいベート。

ベルは苦笑いしか返せない。

 

「まあ、それはそれとして。訓練を再開しよう。そう言えばベル、魔法を発現したと聞いたが、どんな魔法なんだ?」

 

嫌な空気を変えるように、ベートはベルにそう問いかける。

魔法を発現したとは聞いていたが、どの様な魔法か実際に目にしたのはまだ彼らの中でも少ない。

折角得た魔法だ。

自分のように使わないのではなく、積極的に使っていくべきだろうとベートは考える。

そう思って尋ねたら、ベルは嬉しそうに自らの魔法を話し始め、実際に目の前で使ってくれた。

“ファイアボルト”とベルが唱えると、ベルの手から赤い炎雷が飛び出る。

それを見て、レフィーヤたちは目を丸くする。

 

「詠唱を必要としない魔法か。なるほど、これは便利だな」

 

「発動が速い分威力はそこまでですけど、乱戦や魔導士相手にはかなり優位に立てそうですね。格上相手にも、牽制なんかで十分役に立つでしょうし」

 

詠唱を必要としない魔法の優位性とその弱点をすぐに見抜く。

たしかに、レフィーヤが言うように魔導士が使う魔法に比べれば威力などの面は落ちるだろうが、それを補えるだけのポテンシャルが“無詠唱”には含まれている。

むしろ、ベルの戦闘スタイルを考えればこれ以上ない魔法と言えるだろう。

 

「流石に市壁の上で魔法を乱射するわけにもいかないですし、魔法の特訓は別の機会にしますか?まあ、特訓と言ってもするようなことは何もありませんけど…」

 

「通常の魔法であれば高速詠唱なり並行詠唱なりの練習をするんでしょうけど、ベルには必要ないわね」

 

「戦闘スタイルとしては、私が近いですかね?」

 

「まあ、強いて言えばそうなるな。本当に強いて言えばだが」

 

真面目に考察しているベートは、少し思いふけるように今は消え去ったファイア・ボルトの余韻を見つめる。

そして、思ったことをそのまま口にする。

 

「ベル、お前の魔法は炎雷と呼ばれるものなのだろうが、どちらかと言えば炎の要素のほうが大きいようだな。雷の要素は、速射と連射の性能くらいしかないようだ」

 

「…そう、なんですか?」

 

「ああ。私の知る雷は、もっと違ったものだった。もっと速く、もっと強かった。まあ、お前のレベルはまだ1だし、将来性は十二分にある。それに、あれは比較対象としては馬鹿げたものだったからな。比べて見劣りするのは仕方ない。あれと比べて遜色ない威力の魔法の方が少ないくらいだ」

 

ベートが思い出しているのは、あの道化が振るっていた一振りの剣。

大精霊の加護を宿した、雷霆の剣。

そして、それと同時にもう一つ思い出していた。

あの道化は、炎の魔剣も振るっていたな、と。

そう考えると、笑えてくる。

考え過ぎなのかも知れない。

だが、ベルの中であの英雄が確かに息づいているのだと思えると、なぜだか笑えてくる。

 

「お前にもいつか、本当の意味での雷が宿るかも知れない。あるいは、今の魔法がもっと変わるかも知れない。予想でも推察でもない、希望的観測ですらないただの妄想だが、私はそれを信じている」

 

ベートはそう言うと、ベルの頭を優しく撫でる。

頭を撫でられたベルは、不思議そうな顔をしていた。

そして、この機会に、ずっと気になっていたことを聞くことにした。

 

「あの、ベートさん」

 

「なんだ?」

 

「ベートさんたちは、なんで僕にここまでしてくれるんですか?」

 

ずっと疑問だった。

ベルは最初の頃ベートたちのことをあの人達の関係者かと思っていたが、少し話してみたら違うことがわかった。

第一級冒険者にここまでされて、嬉しくないわけがない。

だが、それと同時に不安も覚える。

才も何もない自分に、なぜここまでしてくれるのかと。

 

その質問を受けたベートたちは、どう答えるべきか迷う。

バカ正直に言っても、信じてくれるとは思えなかった。

自分たちはお前の知らないお前に救われたから、今度はお前の面倒を見る、などと言われたら、自分たちでもどんな反応を示すかわからない。

信じないだろうし、そもそも言われていい気分はしないだろう。

だが、だからといって嘘をつくような真似はしたくなかった。

これは彼らの矜持の問題なのだろう。

だからこそ、彼らはこれを譲るわけにはいかなかった。

 

どう答えるべきか迷い、沈黙が続く中、ティオナはゆっくりと声を上げる。

一つ一つ言葉を選び、諭すようにベルに告げる。

 

「ごめんなさい、ベル。今のあなたに、それを教えることは出来ないわ」

 

「そう…、ですよね。すいません、変なこと聞いちゃって」

 

「だから、約束をしましょう、ベル」

 

「約束?」

 

「ええ。あなたが私達に並ぶ冒険者になった時、きっとすべてを話すわ」

 

今答えることが出来ないティオナ達は、本当に申し訳無さそうな顔をしてベルに謝る。

そして、そう言ってティオナはベルの手を取る。

いつの日か、すべてを話す時は必ずやってくる。

その時までの、約束だ。

 

「……分かりました。じゃあ、その時まで僕は待ち続けます。すぐに追いついてみせますから、ティオナさん達も待っててくださいね?」

 

ティオナの表情を見て、ベルは優しく笑う。

アルゴノゥトのように、ニッコリと。

その笑顔を見て、懐かしいものを見たかのようにティオナ達も目を細めて笑う。

 


 

ベルとの訓練を終えた後、ベートたちは揃って拠点に戻った。

日が昇って時間は経っているが、まだまだ朝の早い時間だ。

誰にも見られることなく、戻ってくることが出来た、はずだった―――…。

 

「お願いします、ベートさん!彼にやったのと全く同じ訓練で良いんで!!」

 

「だから!なんで俺なんだよ!?お前は治療士(ヒーラー)だろうが!俺が教えることは何もねえ!」

 

拠点に戻った直後、ベートたちは一人の少女に捕まってしまった。

少女はリーネ・アルシェ。

道化の侍者(ロコライト)という二つ名を持つ、ロキ・ファミリア所属の第三級冒険者だ。

どうやら、最近のベート達の様子がおかしいことに気が付き、後をつけてベルとの特訓のことを知ったらしい。

フィンたちの許可を貰っているとは言え、対外的にはかなりマズイ行動には違いない。

下手をしたら、ベルに余計な火の粉が及ぶ可能性がある。

だから、言うことを聞くのを条件に、黙って貰う約束を取り付けたのだが…。

その結果、ベートにベルと同じ訓練をつけてもらうことを要求してきたのだ。

 

「お前は後衛で俺は前衛!教えられることは何もねえだろうが!ババアか、そうでなくてもレフィーヤに言え!」

 

「そ、そういう問題じゃないんですよ!」

 

「じゃあ、どういう問題だよ!?」

 

「そ、それは―――…」

 

押し問答を繰り返す中、ベートは叫ぶようにしてそう尋ねるが、リーネは言いにくそうに顔を赤らめ、視線を彷徨わせる。

 

「それは、その……、なんと言いますか…。ほら、ね?」

 

「訳分かんねえこと言ってんじゃねえぞ!?」

 

答えをはぐらかすようにするリーネにベートは吠える。

そして、このままでは埒が明かないと思ったベートは、近くにいるアイズたちに助けを求める。

 

「おい、お前らからも何とか―――…」

 

だが、そこに助けなどいなかった。

リーネの表情ですべてを察した彼女たちは、素早くリーネの味方になる。

ここでベートの味方をしても良いことなんてないし、当然の判断だ。

ぶっちゃけ、ベートが少し苦労すれば丸く収まるし。

 

「すいません、ベートさん。私、これからダンジョンに行ってくるので!!」

 

「あたしはティオネと一緒に遠征の買い出しに行くから、じゃあね~」

 

「えっと、えっと…、私は…、そうだ、リヴェリア様に呼び出されてたんでした!すいません、失礼します!!」

 

「おい、ふざけんな、お前ら!おい待て!待てって言ってんだろうが!?」

 

ベートの願い虚しく、彼女たちは足早に去っていく。

この場には、ベートとリーネの二人だけ。

恐る恐るリーネの方を見ると、上目遣いで見つめてきている。

その様子を見たベートは、引きつった笑みを浮かべることしか出来ない。

 

「……勘弁してくれ」

 

こうして、断り切ることが出来なかったベートは、また一つ胃痛の種を抱える羽目になった。

 

………………

……………

…………

………

……

 

「ふざけんなよ、どいつもこいつも!!俺にばっかり面倒事押し付けやがって!!」

 

ベートは激怒した。

必ず、かの脳筋単細胞の剣姫に制裁をくださねばならぬと決意した。

 

朝の訓練から時は流れ、正午回った頃。

アイズから一通の手紙が届いた。

24階層でクエストを受けると。

そして、それとほぼ同時に、ディオニュソス・ファミリアが拠点を訪れ、24階層での異変を伝えてきた。

その結果、ベートとレフィーヤが24階層に駆り出されることになったのだ。

 

「大体、アイズもアイズだ!なに遠征前で忙しいこの時に呑気にクエスト受けてんだ!?下水道の調査だってあるんだぞ!?」

 

「ま、まあまあ。お姉様にもきっと、なにか考えがあるんですよ…」

 

「あいつにそんなもんねえ!!大方、何も考えずに口車に乗せられて面倒事に巻き込まれたんだろ!同じように面倒事に巻き込まれるにしても、考えて行動するだけあの道化の方がまだマシだ!!」

 

「それは、まあ…。」

 

ベートが怒りで吠える中、レフィーヤはどうにか宥めようとするが、朝と昨晩の一件もあってベートの怒りは収まるところを知らない。

レフィーヤも、色々やりすぎた自覚があるにはあるので、強く言い出せない。

もう18階層にまでたどり着いたが、ベートの様子は一向に変わらない。

流石にここで休息と情報収集に勤しまなければならないので立ち止まっているが、ベートの気が晴れる気配はない。

自分ではどうすることも出来ないと悟り、レフィーヤはもうひとりの同行者の近くに避難することに。

 

「……なんだ、レフィーヤ・ウィリディス」

 

「えっと、その、見ての通りベートさんの怒りが収まらないので、少し避難しに…。」

 

「フン、噂通り粗野な奴だ」

 

「いつもはあんな感じじゃないですよ!?昨日今日と、少し私達が迷惑をかけたので、今は鬱憤が溜まってるんですよ」

 

もう一人の同行者―ディオニュソス・ファミリア所属のフィルヴィス・シャリアは、ベートの様子を見て毒を吐く。

レフィーヤはベートのことを弁明するが、効果の程は分からない。

まあ、ベートの粗暴な面が目立っていたのは事実だ。

ベルと再会する前は、特に。

だが、今はかなり落ち着きを取り戻しており、かつての狼帝としての風格を感じさせるようになった。

 

苦笑いしながらベートの弁明をしていくが、フィルヴィスは相槌の一つも打つことなく黙り込んでいる。

その様子にどうするべきか悩んでいると、フィルヴィスは突然話し始めた。

 

「レフィーヤ・ウィリディス……間違っても私に情を移すな。近付くな」

 

ここに来るまでずっと気にかけてくれた彼女に警告するように、あるいはその優しさを拒むように、フィルヴィスは言って聞かせる。

 

「私は汚れている」

 

そして、何かを悟り切っているかのように、弱々しく微笑んだ。

 

「同胞を汚したくはないのだ」

 

そう告げるフィルヴィスを、レフィーヤは静かな目で見つめていた。

そして、何も言わないレフィーヤに背を向けてフィルヴィスはこの場を去ろうとする。

だが、その前にレフィーヤはフィルヴィスに声をかける。

伝えなくてはいけないことが、彼女にあったから。

 

「私には一人、兄がいました」

 

突然話し始めたレフィーヤに驚き、フィルヴィスは思わず足を止め振り返る。

そんなフィルヴィスの様子を見ながら、レフィーヤはゆっくりと話を続ける。

 

「血の繋がっていない、ヒューマンの兄でした。お調子者で、軽薄で、風車を魔物に見立てて妄想の冒険を繰り広げるようなバカな兄でした」

 

「……お前とは似ていないな。兄妹仲は悪かったんじゃないか?」

 

「そこまで悪くはなかったですよ。私が兄さんに振り回されることは多かったですけど、笑顔が絶えない日々を送れましたから」

 

「……そうか」

 

何が言いたいのか分からず、フィルヴィスは曖昧な返答をするしかなかった。

そして何より、フィルヴィスはずっと気になっていた。

レフィーヤがずっと、話を過去形で話していることが。

その疑問を晴らすように、レフィーヤは唐突に告げる。

 

「でも、兄さんは死にました。私達を庇って、魔物に殺されました」

 

レフィーヤの言葉にフィルヴィスは目を大きく見開き、戸惑う。

だがそれでも、レフィーヤを突き放そうと、必死に言葉を絞り出す。

 

「…それがどうした。だから、兄が死んでいるから私の気持ちが分かるとでも言うつもりか?」

 

「言いませんよ、そんなこと。似てはいますが、私の体験とフィルヴィスさんの体験は別物です。気持ちを慮ることは出来ますが、理解なんて出来ないし、出来ちゃいけない」

 

「なら、なぜ私にそんな事を話した?同情でもして欲しいのか?」

 

「違いますよ。ただの事実提示です。それに、本題はこれからです」

 

レフィーヤはフィルヴィスに向けて優しく微笑みながら、さらなる事実を告げる。

 

「私、昔差別されてたんですよ」

 

何でもないように告げるレフィーヤを、フィルヴィスは驚いたような目で見つめる。

何を思ったのか、それは分からない。

ただ、その瞳は確かな動揺を表していた。

 

「諸事情あって、色んな人から蔑まれてました。でも、それをそこまで気にしたことはありませんでした」

 

「それは、なんで……」

 

「兄さんがいたから」

 

優しい笑顔で、レフィーヤは答える。

当たり前のように、それが誇りであるかのように。

どこか晴れやかな表情で、レフィーヤは答える。

 

「常日頃は魔物相手に逃げ回ってる情けない兄だったんですが、私が泣いてると誰よりも早く私のところに来てくれて、慰めてくれました。自分がどれだけバカにされてもヘラヘラした態度で笑ってる頼りない兄だったんですが、私が侮辱されているといつものおちゃらけた態度も忘れ去って、私以上に怒ってくれました。そんな兄がいたからこそ、私は胸を張って生きることが出来ました。大好きな兄が大切に想ってくれてる私自身を、私は愛することが出来た」

 

そう言うと、レフィーヤはフィルヴィスに近づき、彼女の手を取る。

その手を持ち上げながら、優しく語りかける。

 

「だから、あまり自分を蔑まないでください。あなたが自分を貶めることで、あなたを愛した人々も傷つきます。それだけは忘れないで。それに、あなたは汚れてなんかいません。私なんかよりずっと美しくて、優しい人です」

 

フィルヴィスはすぐにでも手を振りほどこうとしたが、出来なかった。

見た目以上に大人びた雰囲気をまとう彼女の慈愛の籠もった手を、フィルヴィスは拒むことが出来なかった。

だがそれでも、この優しい少女を自分から遠ざけようと、フィルヴィスは反論する。

 

「何故そんなことがわかるっ、いい加減なことを言うなっ。私とお前はまだ会って間もない筈だ」

 

「これから一杯見つけていきます。女の人にだらしない兄を持ったおかげで、そういうのは得意なんです」

 

しかし、レフィーヤは一切動じることなく答える。

そんな様子のレフィーヤに、フィルヴィスの反論も段々と弱くなっていく。

 

「なんなんだ、それは。結局答えになってないぞ」

 

「いい加減で強情なところは兄譲りです。こうなったら梃子でも動かないので、諦めてください」

 

そう言いながら、レフィーヤは目を細めてニッコリと笑う。

それに釣られるように、フィルヴィスの口からも小鳥のさえずりのような笑い声が溢れる。

彼女たちの笑い声は、ベートが呼びに来るまで続いていた。

 

これが物語の始まり。

彼女が作る、喜劇の始まり。

どのような結末を迎えるかは、まだ誰にもわからない。

 


 

再び時は流れ、ロキ・ファミリアの遠征当日。

彼らは新たなる階層を踏破するために、深層を目指して行動を始めた。

しかし、ここはまだ上層。

第一級冒険者である彼らにとっては、脅威となるべきものなど何も存在しない。

故に、ここは何事もなく駆け抜けるはずだった。

しかし―――…。

 

その途中で、上層であるにも関わらずミノタウロスがいるという冒険者の話を聞き、動きを止めた。

そして何より、白髪の少年が襲われているという情報を聞いて、彼女たちは駆け出した。

 

足の速いアイズとベートが先行し、ティオナ、ティオネが続き、足の遅いガレスと後衛のレフィーヤがその後ろを走る。

道中エンカウントするモンスターは先頭を走る二人が一秒も掛けずに始末し、そのままスピードを落とさずに走り続ける。

詳しい場所はわからない。

ベートの耳に入るかすかな音だけを頼りに、必死に探し続ける。

そんな中、その声が全員の耳に届いた。

 

「冒険者、さま……どうかっ、どうかお助けください!?」

 

割れた頭から血を流し、自らも重体でありながら背中に青年を背負った少女は、言葉と同時に倒れ込んだ。

アイズはその少女と面識はなかったが、その少女のことを知っていた。

リューから特徴を聞いていたから。

少女のことは憶測でしかなかったが、少女の背負う青年のことは知っていた。

自分たちの、同胞だったから。

 

「クロッゾ!?」

 

「鍛冶師!?」

 

「ん…?おぉ、お前らか…。悪いな、ちょっとしくじった」

 

アイズ達は少女とヴェルフに駆け寄り、容態を確認する。

たしかに重傷だが、致命傷ではない。

出血も、見た目は酷いが殆ど止まりかけだ。

放置し続ければ危険だが、しばらくは大丈夫なはずだ。

なら、二人には悪いがこのまま進み続ける。

 

「鍛冶師、何があった!?」

 

「ベルは…、ベルは無事なの!?」

 

「……今も、ミノタウロスと戦ってるはずだ。行ってやってくれ」

 

「場所は!?」

 

「正規ルートッ、Eー16の、広間(ルーム)……!」

 

ヴェルフの代わりにベルの場所を答えた少女は、それを最後に意識を失ってしまう。

 

「私は少女を抱えます。ベートさんはクロッゾを背負ってください。レフィーヤは走りながら二人に回復魔法を。二人には悪いですが、このまま進みます!」

 

アイズの言葉に従い、ベートがヴェルフを背負ったのを確認すると、再び走り始める。

その中で、ヴェルフは何があったのか詳細を話し始めた。

 

「何があった、鍛冶師。お前がいれば勝つことは出来なくとも、三人揃って撤退くらいは出来たはずだ。そもそも、魔剣はどうした!?」

 

「壊された。お前らに渡しすぎて、一本しか残してなかったのが仇になったな。ベルと少し離れて戦ってたら、不意を突かれてこのザマだ。情けねえ…。」

 

「あなたの魔剣を壊したの!?そんなのが相手じゃ、今頃ベルは―――」

 

「違う」

 

最悪の可能性と想像し、顔を青くするティオナの言葉を、ヴェルフは否定する。

そう、違う…違うのだ。

戦闘経験の豊富なヴェルフがいれば、上層から18階層の間であればどんな敵だろうと撤退くらいは出来る。

それが出来なかったということは、原因は別にあるということだ。

 

「俺をやったのは、モンスターじゃねえ。冒険者(にんげん)だ。ベル達は見てねえだろうが、やられる寸前にその姿を見た」

 

「人間…闇派閥(イヴィルス)ということか!?」

 

「それも違う…。連中だったらこんなまどろっこしい真似はしねえよ。力尽くで皆殺しにして終わりだ」

 

「じゃあ、誰が!?魔剣を持ったあなたを不意打ちとは言え、一撃で沈めたんでしょ!?そんなの、それこそ第一級冒険者(わたしたち)レベルの力が……、まさか―――!?」

 

「その、まさかだろうな…。おそらく、フレイヤ・ファミリアだ」

 

その話を聞いて、アイズは数日前のことを思い出す。

フレイヤ・ファミリアの【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】と【炎金の四戦士(ブリンガル)】に襲撃された時のことを。

そして更に、怪物祭の時のことを。

それらのことが脳を過ぎるたびに、アイズはどんどん顔色を悪くさせる。

 

「しっかりしなさい、アイズ!今はベルのことだけを考えて!」

 

ティオナの叱責を受けて、気を持ち直したアイズはベルの元を目指し続ける。

そうして、遂に目的の広間が見つかり、そこに足を踏み入れた時だった。

その男が、目の前に現れたのは。

 

「止まれ」

 

その男は短くそう言うと、目の前に立ちふさがる。

あり得ないほど厚い軽装と、武器の入った背嚢を携えたその男は、【猛者】オッタル。

先程まで話していた、フレイヤ・ファミリアの首領だ。

 

「何のマネだ、貴様。私達は忙しい。貴様如きに構っている暇はない。そこを退け」

 

退こうとしないオッタルに、ベートは高圧的にそう告げる。

だが、オッタルはそれに答えることなく、背嚢を破き多くの武器を散乱させる。

武器の中から大剣を掴んだオッタルは、その鋒をアイズたちに向け、厳かに言い放つ。

 

「手合わせ願おう」

 

その言葉を聞いた全員が、不機嫌を隠すことなく舌打ちをする。

自分たちの当たって欲しくない予想が当たったことに対する苛立ちか、目の前の猛者に対する苛立ちか。

それらが綯い交ぜになった、とても不愉快な感情が彼女たちの中に渦巻く。

 

「どうして?」

 

「敵対する積年の派閥(かたき)と、絶好の状況でダンジョンで相見えた……殺し合う理由には足りんか?」

 

アイズ達の苛立ちをものともせずにそう言い放つオッタル。

苛立ちを超えて殺意すらも湧いてくる。

 

正直、この人数差ならば勝算は十二分にある。

だが、勝つにはどうしても時間がかかってしまう。

後からフィン達も追いかけてくるだろうが、それを待つ時間すらも惜しい。

一刻、一秒でも早く、ベルのもとに駆けつけたかった。

もう二度と、英雄を失うあんな思いをするのは、嫌だった。

 

ここまで来て、一周回って冷静になったアイズは、冷たい瞳でオッタルを見据えながら、命令を出す。

 

「エルミナ、ガルムス、二人で【猛者】の足止めをしなさい。勝つことは出来なくても、足止めくらいなら二人でも出来るはずです。ユーリ、オルナ、フィーナは私と一緒にベルのもとに向かいます。道中、他のフレイヤ・ファミリアがいれば、相手をしてもらいます」

 

「……命令か?」

 

「王としての命令です。従いなさい」

 

かつての名を呼び、命令を下すその姿はまさしく“王”。

崩壊しかかっていた人類最後の楽園を守り抜いた、王としての威厳を携え、アリアドネは命じる。

その姿を見て、エルミナ達は一瞬起こしそうになった反抗心を抑え込む。

この命令に逆らうことは、彼女たちには出来ない。

 

「承知した」

 

「相分かった。その任、確かにやり遂げてみせよう」

 

二人の返答を聞くのと同時に、アイズ達は駆け出す。

当然、オッタルもそれを妨害しようとするが、ティオネとガレスに止められ叶わない。

超えてきた修羅場の数だけで言えば、オッタルをも凌ぐ二人。

この二人を退かしてアイズたちを押し止めるのは、いくら猛者といえど簡単なことではない。

 

アイズはこの広間を後にし、ベルのもとに向かおうとする。

だが、その寸前で未だ二人を沈黙させようとするオッタルを振り返り、警告を残す。

 

「【猛者】、主神に伝えておきなさい。彼に手を出すのなら、覚悟しなさい、と」

 

「……お前らが、少年に代わり俺たちの相手をすると?」

 

「違う」

 

アイズは軽蔑を含めた瞳で、オッタルを見据える。

所詮、お前たちはその程度だと。

お前たちはベルのことを何も分かっていないのだと、そう嘲笑うかのように。

 

「彼の劇場に…舞台に足を踏み入れるのであれば、覚悟をしておきなさいということです。彼の喜劇に振り回されるのは、骨が折れますよ?」

 

「喜劇…?」

 

「彼の関わる物語に、悲劇はあり得ない。そのことを、あなた達は知らない」

 

それだけ告げると、アイズは再び走り始める。

言いたいことは言った。

後のことは、後で考える。

思考を切り捨て、アイズ達は走る。

今も尚一人で戦っているであろう、ベルの元へ。

 

……………

…………

………

……

 

そこに足を踏み入れると、少年はミノタウロスと戦っていた。

その猛攻に破れ、弾き飛ばされたベルはアイズの方に飛ばされる。

アイズは飛んできたベルを優しく抱きとめると、自らの後ろにやり前に出る。

既に少女はレフィーヤに渡している。

もう、何も迷うことなく目の前のモンスターの相手をできる。

そう、思っていた。

 

「もう、大丈夫。よく頑張りましたね。今、助けますから」

 

三千年前とは違う。

今の自分なら、英雄(ベル)を助けることが出来るのだ。

そう思うと、どこか仄暗い感情が湧き出そうになる。

だが、それらを押し殺し、愛剣に手を掛ける。

一歩踏み出し、ミノタウロスへ攻撃を―――…。

 

しかし、それは他ならぬベル自身に止められた。

 

「ベルッ!?」

 

ベルは前に出る。

ボロボロの体で、今にも倒れそうなその体で、前へ。

決意を秘めた瞳で、ミノタウロスを睨みつけながら。

 

「……いかないんだっ」

 

少年は前へ出る。

今度こそ、勝つために。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」

 

少年は駆ける。

好敵手に向かって。

 

当然、ベルを止めようとアイズやレフィーヤは手を伸ばそうとする。

しかし、その手はベートによって止められた。

 

「ベートさん、なんで!?」

 

「ここであいつを止めれば、あいつはもう二度と英雄にも道化にもなれなくなるぞ。ここで冒険をしなければ、あいつはもう二度と何者にもなれなくなる」

 

そう言われ、アイズは思わず目を見開く。

 

「あなたを助け出した、あの時と一緒よ。覚悟を決めたあの人を止めることなんて、誰にもできない。私達に出来るのは、見守ることだけよ」

 

「でも、このままじゃベルが―――!!」

 

「本当に死にそうになれば、私とお前でミノタウロスを倒せば良い。今の私達ならば、それくらい容易いはずだ。過保護と保護を履き違えるな」

 

そう言われ、アイズは何も言えなくなる。

今にも倒れそうになっているベルを見て、必死に戦い続けるベルを見て、胸が痛くなってくる。

でも、それでも手を出すことが出来ない現状が、何よりももどかしかった。

 

「アイズ、少年は―――…」

 

後ろから、追ってきたフィン達の声が響く。

現状を尋ねようとしたフィンだったが、目の前の光景を見て言葉をなくす。

レベル1の少年が…絶対に敵わないはずの少年が、ミノタウロスを相手に死闘を繰り広げているから。

 

「どういうことだ…?あの少年は、レベル1だったはずじゃないのか?」

 

リヴェリアの声が聞こえる。

 

「あの少年は、何者だ?」

 

「何度も言わせるな」

 

その疑問に、ベートが答える。

その疑問に、ティオナが答える。

その疑問に、レフィーヤが答える。

その疑問に、ティオネが答える。

その疑問に、ガレスが答える。

その疑問に、アイズが答える。

 

「「「「「「私達の英雄だ!!」」」」」」

 

誇りを持って、自信を持って答える。

彼こそが、英雄だと!

だが、まだ足りない。

まだ足りなかった。

 

ベルは再び吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

思わず出そうになる手を、アイズ達はグッと抑え込む。

そんな中、ティオナだけが、口を開いて声をかける。

 

「笑いなさい、ベル」

 

それは助言。

それは、あの日自分自身が、彼に貰った言葉。

すべての原点である、魔法の言葉。

それを今、ベルに返す。

 

声を掛けられたベルは、ゆっくり振り返る。

そんなベルに、ティオナは笑いながら、言葉をかけるのだ。

 

「どんなに馬鹿にされたって、どんなに笑われたって………どんなに絶望したって、唇を曲げて笑うの」

 

あの日の光景を、思い出す。

あの日の笑顔を、思い出す。

そのすべてを、ベルに返していく。

 

「じゃなきゃ精霊だって、運命の女神様だって、微笑んではくれないわよ」

 

その言葉は、ベルの胸に染み渡っていく。

力になっていく。

そして、ベルは満面の笑みで答えるのだ。

 

「――はい!!」

 

ここから始まるは少年の冒険。

これから始まるは少年の英雄譚。

このあと紡がれるは、少年の喜劇。

 

「『愉快に、そして滑稽に笑われよう!さあミノタウロス、君も笑え!』」

 

少年は叫ぶ。

かつての道化と同じ言葉を。

 

「『天上の神々よ、見ているか!大地に塞がれていても無理矢理見ろ!精霊達よ、力を貸せ!極上の物語を紡ぐために!』」

 

少年は笑う。

誰もが知るあの道化のように。

 

「『これが我々の“英雄神話”!雄牛を倒すだけの物語!あるいは雄牛に倒されるだけの物語!』」

 

少年は吠える。

誰もが知るあの喜劇のように。

 

「『とくとご覧あれ!雄と雄の悲喜こもごも、笑いに満ちた勇壮なる戦いを!』」

 

少年は笑う。

そして、最後の言葉を紡ぐ。

これは、道化の言葉ではない。

少年自身の言葉だ。

少年の思いで、すべてで、その言葉を世界に轟かせる。

 

「さあ、喜劇を始めよう!」

 

その言葉を聞いて、思わずアイズ達は笑ってしまう。

あの英雄のことを、思い出したから。

おかしくなってしまう。

何も覚えていないはずなのに。

ここであの言葉が出てくるのが、おかしくって。

 

“運命”なんてものを、感じずにはいられなかった。

 

少年の攻撃は、ミノタウロスに傷を与えていく。

ミノタウロスの攻撃は、少年に傷を与えていく。

 

互いのすべてを賭けた戦い。

文字通りの“死闘”。

そして、その決着はついた。

 

ゼロ距離の魔法。

体内から炸裂するファイアボルト。

何度も何度も、繰り返していく。

やがてミノタウロスの体は爆ぜ、残ったのは黒い灰と魔石、そしてドロップアイテム。

 

「これって……」

 

「ええ」

 

アイズのつぶやきに、ティオナが答える。

 

「ベルの勝ちよ」

 

この日、英雄は世界に産声を届かせる。

これが始まり。

ここから全てが始まる。

少年が紡ぐ喜劇が。

少年が歩む英雄譚が。

 

その全てが、ここから。

 


 

ここから少し未来のこと。

それをほんの少しだけ、お見せしよう。

 

ベルは嬉しそうに羊皮紙をアイズ達に見せる。

少しでも早く見せたくて、いつも持ち歩いていたそうだ。

絶対に落とさないように、アイズ達以外には絶対に見せないように、見せた後は燃やすように、などなど幾つか厳重注意は受けたそうだが、主神がよく許可したなと若干の呆れが入ってしまう。

もちろん、誰のものか分からないように細工はされてるし、明かされてる情報は最低限。

各ステイタスの具体的な値は書かれていないし、魔法も書かれていない。

だが、それでもそこに写された“レベル2”という文字は、一際異彩を放っている。

 

そして、その紙に書かれているのはそれだけではなかった。

たった一つだけ、スキルが書かれていた。

 

英雄運命(アルゴノゥト)

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

・喜劇を紡ぐ道化は英雄の(ふね)となる。

・【⬛⬛⬛⬛(XXXXxX)】発現者と共鳴。

 

 

 

 

 




Q&A

Q.「アルゴノゥトは登場しないの?少しでもどんな形でもいいから出して欲しい」
A.…次かな?

Q.「フィアナ達の記憶や力が断片的にでも出る可能性は?」
A.ありません。ごめんなさい。この物語はあくまでアルゴノゥト達の物語なので…。ご期待に添えれず申し訳ないです。

Q.「この面子は憧憬一途のようなアルゴノゥトに対するスキルは発現したりしていないの?」
A.今後登場します。【⬛⬛⬛⬛】がそうです。ただ、それでも魅了無効はないですね。

Q.「10階層のイベントにはアイズは関係していなくて、もしかしてリューが関係してる?」
A.書いてる時はそこまで考えてなかったですけど、そうですね。そうなりますね。

Q.「リュールゥはリューさん(原作)みたいにベルに惚れる?」
A.今後の展開次第ですね。お楽しみに。

Q.「この世界でもアイズさんはじゃが丸くんが好きなの?」
A.好きだと思いますよ。一応、じゃが丸くんに出会ったのは記憶を取り戻す前ですから。

あとがき

後世に残されたアルゴノゥトって、どんな感じで改変されたんですかね?
そっちの方も読んでみたい。

それはそれとして、戦争遊戯、どうしよう…。
外部助っ人アリだとラスボスが来るし、そうしないと戦力が足りないし…。
どういうルートを辿ろうが、アホロン(誤字じゃないです)が死ぬのは確定なんですけどね…。
本当にどうしましょう…。
アイデア募集中です。
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