~物語の1ページを綴る~
(時々罪状列挙)
◇『ヘスティア・ファミリアの本拠にて:2』
ヘスティア・ファミリアの本拠、もといアルフィアとメーテリアが愛した教会は現在工事中。
ベル達が来て手狭になったこともあるし、母たちが愛した教会をボロボロのままにさせておくのも忍びないとのことで、補修・改築工事の真っ最中だ。
ちなみに、工事費用はすべてベルと春姫持ち。
恨みと同じくらいお礼も貰っているため、それを使ったらしい。
まあ、今回の工事ですべて使い切ったようだが。
さておき、元の様相や雰囲気を残したまま新しくし、拠点として使えるよう住居部分の拡張が行われている。
ゴブニュ・ファミリアに工事を依頼したこともあって、工事期間はそう長くない。
もう大部分は完成しているし、明日になれば完成するだろう。
完成を楽しみにその建物を見上げながら、春姫は周辺の木々の手入れや掃除を行っている。
「春姫様!こっちはもう出来ましたよ!」
「ありがとうございます、リリ団長!ベル様達もそろそろ戻られるでしょうし、お茶の準備でもしましょうか」
後は細かな確認や工事だけということもあり、ゴブニュ・ファミリアはもう帰っている。
日もだいぶ傾いてきたし、今日の作業はここまで。
そう見切りをつけて、二人は中に入ろうとする。
今は完成した一部で暮らしているため、そこに戻ろうとしたのだ。
だが、その背後に多くの影が立ち並び始める。
聞こえてくる足音、そして鎧や武器がこすれる金属音。
それを聞いて、春姫はスッと目を細める。
「当家に、何か御用ですか?」
「ハッハッ!ホントにガキ共だけだよ!」
春姫の問いに帰ってくるの下卑た笑い声。
もう何度も見てきた、自分たちを見下すような視線。
それでもしっかりと対応しなくてはいけないと気を引き締める。
「どなたか存じませんが、もう夜も近いです。日と場所を改めてくださいませんか?」
「そういうわけにはいかねえよ。俺達は、テメエらに恨み辛みがたっぷりあんだからな」
「リリ団長、なにかしました?」
「してません!!絶対ヘラ・ファミリア関係ですよ!」
「そのとおり!15年前の恨み、忘れたとは言わせねえぞ!」
「存じ上げませんね。私もベル様も、15年前にはヘラ・ファミリアにいなかったので」
「関係ねえよ。あいつらの関係者だってことが重要なんだから」
自分たちを女として侮る視線。
汚らわしい性欲の対象としてみている視線。
鬱陶しいことこの上ない、面倒な視線。
それらを見て、面倒くさそうに春姫は目を細める。
「完全に八つ当たりじゃないですか!そもそも、リリ達になにかしても意味なんてないですよ!ていうか、そんな真似しておいてベル様が黙ってると思いますか!?」
「関係ねえだろ。あの白ガキはここにいねえんだから。テメエらをいたぶって人質にするには、充分な時間がある」
ジリジリとにじり寄る男たち。
この男たちは15年前の惨劇を忘れているのだろうか。
それとも、所詮当時はいなかった若輩だからと侮っているのだろうか。
いずれにせよ、この現状はマズイ。
それを察した春姫は、一歩前に出る。
「リリ団長は私の後ろに。絶対に前に出ないでください」
「春姫様!?」
団長として庇おうとするが、体が動かない。
この人数、しかもこの自信ならレベル4もいるのだろう。
圧倒的な物量の差に、リリは身体を震わせるしかない。
「あまり好ましくはありませんが、仕方ありません。この教会も完成が近く、荒らされたくはありませんし」
「なんだ?嬢ちゃんが俺達の相手してくれんのか?」
「ええ。そのとおりでございます」
その言葉に、男たちは笑い声を上げる。
どうせ、相手するの意味合いも違ったものとして捉えているのだろう。
だが、そんなものは関係ない。
ここにいるのは、ただ悲観するだけのお姫様ではないのだから。
「では、準備が出来た方からどうぞ。何人同時でも構いません。私がお相手いたします」
血と悲鳴が溢れる惨劇が、始まってしまった。
…………
………
……
…
多くの人が行き交う市場。
この都市で最も多くの商品が並ぶ商業エリアの中を、彼女たちは人の隙間を縫うように走っている。
「はやく、早くベルくんに伝えなきゃ!!」
「いました!いましたよ、アリーゼ、アーディ!!」
一人の妖精が指差す先には、店先に並ぶぬいぐるみを抱える女神と、彼女に呆れるようにしている少年がいた。
「これ買おうぜ、ベルくん!」
「ダメです。改修工事でお金残ってないんですから、暫くは我慢してください。リリ団長に怒られますよ?」
「ちぇっ!」
「ほら、早く必要なもの買い揃えましょう。あとは新しいランプですよ。大量に必要になるんですから、急ぎましょう」
「どうせだったら良いの買おうぜ!」
「ダメですって」
改修して広くなる居住スペースに、今まで使ってこなかった教会部分も憩い場として活用していくため、必要なものは大量にある。
それを抱えたり、教会に送ってもらう手配をしたり、購入していきながら二人はそこにいた。
「ベル殿!!」
「ベルくん!!」
「リューさん?アリーゼさんにアーディさんまで?」
「アストレアのとこの子と、ガネーシャの子?どうしたの?」
呼びかけると呑気な表情と声で振り返る二人。
二人は慌てた様子で走っている彼女たちを見て、少し驚いたような仕草をしている。
「大変なんです!今すぐ本拠に戻ってください!!」
「どうしたんですか、いきなり?」
「落ち着きなって。なにがあったの?」
「今、君達の本拠が襲撃されてるって情報が入ったの!!」
「へぇ~…………襲撃!?」
「うっわ、心当たりが多すぎる……どれだろう?」
「言ってる場合!?」
驚いて慌てるヘスティアとは対照的に、ベルは何処までも呑気に呟いている。
それに檄を飛ばしながら、三人は叫ぶ。
「本当にヤバいって!!元々ヘラ・ファミリアに恨みを持ってたのがアルテナの関係者に唆されて!レベル3まで何人も参加してるし、急いで戻らないと春姫ちゃん達が危ないよ!」
「今輝夜とお姉ちゃん達も先に向かってるから!早くベルくんも!!」
「あ、神様。ランプの次は台所で使う調理器具です。これは食事に関わるものなので、奮発して良いのを買いましょう」
「うん、いいよ~……じゃなくて!!」
「少しは慌てよう!?」
慌てる周囲を他所に、ベルは何処までも呑気にメモを見て買い物を続けている。
その様子に若干苛立ちを覚え始めた頃。
ベルは真意を語り始める。
「大丈夫ですよ。リリ団長だけならともかく、春姫さんも一緒なんですから。むしろ、ここで慌てて神様を置いて行くほうが面倒なことになりますよ。今も狙ってるのが数人いますし」
「え、うそ!?」
ベルは商品のフォークを投擲し、数人の刺客を地面に落とす。
それを魔法で沈めた後、そのままお金を渡して買い物を続ける。
「刺客対処できたなら戻って!?ヘスティア様は私達が守るからさ!!」
「だから、大丈夫ですって。春姫さんがいるんですから」
「だから!レベル3が何人もいるんだよ!?」
「レベル3程度でしょう?レベル4や5までいるんなら流石に僕も動きますけど、そうじゃないなら心配はありませんよ」
ベルはこの店で必要な物を買い終えたのか、次の店に移っていく。
その様子には動揺も狼狽もなく、余裕すら感じさせる。
そんな彼を見て、アリーゼ達もようやく少し落ち着いてきた。
「実際、ガネーシャ・ファミリアと戦ったときも普通に大丈夫だったじゃないですか」
「でも、あの時とは数が…………」
「問題ないですよ。この前はオラリオに来てからは初めての戦闘だったので、一応安全策取って僕が請け負いましたけど、本来ならレベル4の前衛が相手でも勝てます。サクヤさんを相手にしても、状況さえ整えればワンチャンあります」
「サクヤって輝夜の妹だよね?あの子、レベル5じゃなかった?」
「春姫ちゃんって、もしかしてああ見えて前衛の武闘派?」
「いいえ?本職は妖術師です」
「じゃあ、何がどうなってそうなるの?」
「扱う魔法が少し厄介で、強力な反面得られる経験値が少なくなるんですよ。それが判明してからは、お義母さんが実戦ではあまり使わせないようにしてて……やることがなくなってヤキモキしてたら、いつの間にか肉弾戦叩き込まれてましたね」
「え、えぇ……」
とはいえ、その道程は並大抵のものではなかった。
なにせ素がポンコツ狐なのだから。
上達しない技量、何度言っても直らないポンコツ具合。
あのアルフィアが匙を投げる寸前まで追い詰められ、『ベル……もしかしてお前、才能があった方なのか?』などとのたまうレベル。
春姫の上達の裏で、アルフィアの頭が何度痛んだか数え切れないほどだ。
だが、最終的には形になった。
何とか形になった。
あのアルフィアが『まあまあだな』と褒めるレベルにはなった。
「だから、心配はないですよ」
ベルは必要なものを買えたのか、ようやく本拠に向けて歩き始める。
「同じレベル帯すらいないなら、春姫さんが負けるわけないですから」
単純な技量だけなら、ベルと遜色ないレベルにまで至った。
それをベルは誰よりも知っている。
そこに至るまでの道程も含めて、すべて。
だから心配などしない。
ベルのゆったりした足取りにつられて、全員で本拠に向かっていく。
暫く歩いて見えてきたのは、傷一つない完成間近の教会。
その前に大量に転がっているゴロツキ達と、それを一人ひとり捕まえていく輝夜やシャクティ、ガネーシャ・ファミリア達。
そして、何事もなかったかのように玄関の掃除をしている春姫。
守られるだけのお姫様ではない。
泣いてるだけの少女ではない。
共に戦う、仲間として。
春姫は今も、彼の隣りにいるのだから。
◇『黄昏の館にて』
「おい、何故貴様らがここにいる?」
「はい?」
「惚けた顔してんとちゃうぞ、ボケ」
そこはロキ・ファミリアの本拠、『黄昏の館』。
その応接室。
そこには紅茶やコーヒー、茶菓子などが用意され饗さている
呑気に饗されているその様子に、リヴェリアは苛立ちを覚えた。
「なんでって、アイズさんたちにいつでも遊びに来てくださいって言われたんで」
「ベル~!追加のお菓子持ってきましたよ~!」
「アイズ!!」
「なにしてんねん!?」
「いいじゃないですか。フィンの許可はもらってますし」
「「フィィィィンっ!!」」
「別に今更敵対する理由もないだろ~?」
ベルに敵対的なリヴェリアとロキ。
対照的に呑気にベルと談笑しているフィン。
まあ、完全なる打算だ。
ここで彼と協力関係を持っておけば、レベル7という破格の戦力を確保できるのだから。
その意図通り彼が動くとは限らないが、敵対しないよう立ち回るだけの価値はある。
「フィンの思惑は分かったけど、本当になんで来たの、ベル?アイズに誘われたからってわけじゃないでしょ?」
「? それもちゃんと理由の一つですよ?」
「それ以外にも理由があるという口ぶりだな。何があった?」
中立的に彼を問いただすティオナとティオネ。
内心はバリバリに彼に肩入れしているが、リヴェリアやロキには極力悟られないようにして。
冷静に彼に問いかける。
ベルは少し視線を彷徨わせて迷った後、コーヒーを口に含む。
それをゆっくり飲み干した後、語り始める。
「本拠としてる教会、ようやく工事が終わったんですよ」
「は?」
「なんや?ホームパーティーのお誘いか?」
「別にしてもいいですけど、そうじゃなくて。あんまり壊したくないんですよね。アルフィアお義母さん達の思い出の場所だから、下手に荒らしたのがバレたら怒られそうですし」
「…………おい、ベル。その口ぶりじゃと、まるで近々襲撃されるように聞こえるが?」
「襲撃されますよ。これまでの傾向からして、あと二・三日もしないうちに来ると思いますし」
「アルテナか?極東か?それともそれ以外か?」
襲撃されるから助けを求めてきた。
それが彼の行動の真実だった。
いや、正確には面倒事を押し付けるため、と言った方が正しいだろうか。
その口ぶりに、リヴェリアとロキの視線はより一層鋭くなる。
「チッ、面倒事に巻き込む気かいな」
「つくづく私の神経を逆撫でするな、貴様らは」
「なんでリヴェリアさんはそんなに敵対的なんですか?この前バカにしたこと、まだ怒ってるんですか?」
「黙れ!」
「お義母さんに勝てなかったからって僕に八つ当たりしないでください」
「そういうことではないわ!!」
「そんなに声を荒げて、大木の心とやらはどこかにお出かけですか?」
「貴様ら
「僕がリヴェリアさん殴るほうが早いから無理だと思いますよ~」
「やってやろうか、クソガキ!!」
「我儘小娘の相手をする気は─────」
「やめましょう、ベル!?それ以上リヴェリア様を煽らないでください!!」
リヴェリアを煽りまくるベルだったが、それをレフィーヤに止められてしまう。
一応言っておこう。
ベルはリヴェリアをバカにする気など一切ない。
ただ、ヘラ・ファミリアの教えに従ってるだけ。
『売られた喧嘩は買え』
『舐めてくる奴は叩き潰せ』
この二つに従い、喧嘩を売ってくるリヴェリアを叩き潰そうとしているだけだ。
ほぼ反射に近い無意識で。
「あんまりうちの副団長を虐めないでくれるかな、ベル・クラネル」
「先に虐められてるのは僕ですよ?いい年して喧嘩売ってくるんですから」
「ベル、本当にやめましょう!?」
「う~ん、それに関しては謝るからさ。取り敢えず、何処の誰に命を狙われてるか教えてくれない?条件次第では手伝ってもいいから」
「いや、命は狙われてないですよ?」
「え?」
狙われていると言うから話を聞こうとしているのに、当の本人は命を狙われていないという。
つまり、命以外のものを狙われているということ。
「じゃあ何を狙われてるの?あの剣?」
「貞操」
「…………なんて?」
「貞操です」
「は?」
「もっと言えば子種」
全員が空を仰ぎスゥーッと息を吸い込む。
そして、思いっきり息を吐いて、座った目でベルを見つめる。
「本当に、どういうことだい?」
「どういうことって言われましても…………」
「大変です、団長!!」
ベルを問い詰めようとした瞬間、応接室の扉が勢いよく開かれた。
そこにいたのはラウル。
彼は血相を変えて叫んでいる。
「ラウル。今は来客中だから後に─────」
「それどころじゃないっすよ!!外!窓の外見てください!!」
「外?」
全員で窓辺に移動し、門の付近を見る。
すると、そこには大勢の褐色の美女たち、アマゾネス達がいた。
『ナル・ラーゼ・ベル!』
『ナル・ラーゼ・ベル!』
そう叫んでいる彼女たちを、フィンは何とも言えない表情で見つめている。
言葉の意味は分からないが、あれは絶対ベルの客だ。
それだけは分かる。
「“ベルは何処だ!”って言ってるわね」
「ありがとう、ティオナ。君が通訳できてるってことは…………」
「ええ。あれ、テルスキュラのアマゾネスたちよ」
「うっわ、もう来たんだ。予想より早いな~」
「あの方々の執念は、変わらず凄まじいですね」
戸惑うばかりの周囲とは違い、ベルは呑気に、春姫も困ったような表情でそう呟く。
そのことを問いただそうとしたが、それよりも前にまずい状況になった。
「ベル!!ここにいるのは分かってる!!さあ、出てこい!強くカッコよく可愛らしい、私の雄!!」
「嘘でしょ!?アルガナまで!?」
そこにいたのは、テルスキュラを支配するカーリー・ファミリアの団長アルガナ。
頬を紅潮させ身を震わせ嬌声を上げながら、ベルの名を呼んでいる。
一体何だ、この状況。
「チッ!他の
「あ、ちょ、ティオネ!?」
「私も行きます!」
「わ、私も!!」
「アイズ!レフィーヤまで!?」
「いってらっしゃ~い」
「呑気に言うな!!」
飛び出していく三人を手を振って見送るベル。
もう何がなんだか分からないが、取り敢えずこの馬鹿を問いただすしかないことだけは分かった。
ベルの頭をアイアンクローしながら、ドスの利いた声でティオナは問いただす。
「ベル?貴方本当に何やったの?正直に言いなさい」
「…………あれは、三年前のこと。当時レベル4だった僕は────」
「そういう来歴を語れって言ってんじゃないのよ!!詳細を端的に言え!!」
「お義母さんにテルスキュラに放り込まれて、全員を一騎打ちで倒しました…………」
「何やってんのよ、この馬鹿!!」
アマゾネスという種族は自分より強いオスに惹かれるという傾向と性質を持っている。
そして、戦いに明け暮れてその性質をより一層強くしたテルスキュラのアマゾネスを相手にしたのだ。
そりゃ、貞操を狙われるに決まってる。
「もっと言ってやれ、ティオナ。其奴のせいで妾の理想郷が跡形もなく消え去ったんじゃからな」
「…………は?」
いつの間にか声がした。
見ると、開け放たれた扉の先には幼い女神と、一人のアマゾネスがいた。
その二人を、ティオナは知っていた。
「カーリー?バーチェも!」
「久しいのう、ティオナ」
「久しぶりだな、ティオナ。そしてベル」
「お久しぶりです、バーチェさん。お菓子食べます?」
「菓子より胃に優しい食い物をくれ……」
「じゃあ、バナナ食べます?」
「もうそれでいいから寄越せ」
座ってバナナを食べ始めるバーチェとカーリー。
そんな二人をまたしても呑気な態度で対応するベル。
もう、本当に何がなんだか分からない。
「ベル……貴方本当に何やったの?」
「だから、三年前テルスキュラの全員を倒したんですよ」
「酷いもんじゃぞ、コヤツは。突然男子禁制のテルスキュラにやって来たかと思えば、全員をブチのめし始めて。結果的に、全員が『真の戦士』ではなく『愛に生きる戦士』になってしもうた。挙句の果てにうるさいとの理由で妾に拳骨まで」
「テルスキュラの内実が問題だったんですよ。殺し合いでしか強くなれないようなバカげた場所を野放しにしてる方が悪いです」
「それこそ種の本質じゃろうが。そもそも、妾達が降臨するよりも前の時代からの文化を神の一存で取り止めさせるほうが、神の暴挙であり下界への冒涜じゃろう?」
「人が誤った方向に進んでるのなら、正しい方向に導く。それも神の側面でしょう?」
「はぁ~あ、ああ言えばこう言う。相変わらず口の減らんガキじゃ」
「そっちこそ一々うるさいんですよ。もう一回拳骨喰らわせますよ?」
「マジでやめろよ!!漫画みたいなタンコブ作りおってからに!あの後一ヶ月も腫れと痛みが引かなかったんじゃからな!?」
「知りませんよ、そんなこと」
二人は言い争うようにグチグチ言っているが、話は平行線。
元々殺戮と闘争を司るカーリーと、元来平和主義のベルでは考え方が違うのだろう。
「大体の事情は分かったけど、じゃあバーチェは?バーチェも負けたのなら、アルガナたちみたいに行動しなくていいの?」
「無論、私もアマゾネスである以上、強い雄に惹かれる本能は持っている。可能ならベルの子種が欲しいとも思う。だが、その…………」
「パニックになった時自分以上にパニックのやつを見れば一周回って落ち着くじゃろ。今のバーチェはそういう状態じゃ」
「あぁ、そう……」
「今ではアルガナたちの暴走を止める係。妾と同じ苦労人枠じゃ」
「バーチェさん、
「やめろよお前!!妾の唯一の同士を奪うなよ!?バーチェなくしてどうやってアルガナたちを止めれば良いんじゃ!?」
「知りませんよ、そんなこと」
「ほんとふざけんなよ、お前!!」
「魅力的な提案だが、やめておこう。それをやった時のアルガナ達の反応が怖い……」
「気が変わったらいつでも言ってくださいね?」
「ああ」
カーリーがここまで取り乱すのを初めて見る。
というか、あんな状態のアルガナ達も初めて見る。
あんな状態のアマゾネスたちも…………いや、似たようなのが身近にいたな。
「酷いもんですよ、全く。バーチェさん以外全員一度はお義母さんに半殺しにされてるのに、それでも諦めないし。行く先々に来て追いかけ回してきて、国規模のストーカーになってるし。こっちの事情や思いはフル無視だし。種族の特性として仕方ないのは分かりますけど、本能に忠実すぎるでしょう…………」
「完全に自業自得だろうが」
「リヴェリアさんも一回ストーカーに追いかけ回されたら分かりますよ。それとは別にサクヤさんにも命狙われてるし、なんか妙な双子のエルフにも狙われてるし、もう散々で─────」
「ベル・クラネル」
「ッと、すいませんでした。巻き込んだことは謝ります」
色々愚痴をこぼす中、フィンの声で正気に戻る。
流石に身勝手に動きすぎた。
都市に無用な被害を出さないためにも、戦力と土地が揃ってるここに来たのだが、流石に何も言わずにやったのはマズかった。
言ったら絶対に断られるだろうとの判断だが、そんなものはフィンには関係ない。
怒りの説教、賠償、あるいは殺し合いになる可能性も含めて。
ベルは思わず身構える。
「─────分かる」
「…………え?」
「分かるよ、その気持ち!!本当によく分かる!!勝ったら強い雄認定で番になれ!?なるわけないだろ!!こっちの事情も考えろよ!!本能に忠実すぎるんだよ!!こっちが負けておんなじこと言ったら絶対断ってるだろ!!自分勝手過ぎるんだよ!!」
「おい、フィン?」
「百歩譲って好きになるのは当人の自由だ!!でも、周りの被害を考えろ!!嫉妬して怒り狂うな!被害を出すな!暴れるな!ストーキングするな!!挙句の果てに媚薬盛るわ夜這いするわで…………!限度ってもんを知れ!!常識を身に着けろ!!」
「おい、何同調してるんだ!?」
「ベル・クラネル!今この瞬間だけは僕たちは同士だ!!打算も何もかもを投げ捨て君に全力で協力すると、女神フィアナに誓おう!!」
「フィンさん……ありがとうございます!!」
予想に反し、完全にベルに同情・同調し声を荒げるフィン。
彼もまた、被害者なのだ。
はた迷惑なアマゾネスに追いかけ回されている、哀れな被害者なのだ。
「共に戦おう、ベル・クラネル!!行くぞ!ガレス、ラウル!!」
「はい!!」
「儂らもか!?」
「勘弁してくださいっす!!」
窓から飛び出していく四人。
うち二人は無理矢理だが、戦いに加わっていった。
その様子を見て、空を仰ぎながらティオナは呟く。
「はぁ~あ、ダメだこりゃ」
これから長きに渡ってオラリオがアマゾネスの不法侵入に悩まされるのは、また別の話だ。
【闘国テルスキュラ】
罪状
・全アマゾネスへの暴行
・主神への暴行
功績
・悪習の実質的な廃絶
◇『バベルの塔にて』
この子の担当アドバイザーになって、もう二ヶ月になるか。
当時の衝撃と騒動は今も覚えている。
『嫌です嫌です嫌です!!絶対嫌です!!』
『お願いエイナ!!ヘスティア・ファミリアの
『だからってなんで私がその子達の担当なんですか!?大体アドバイザーなんていらないでしょう!?レベル7と4!!元ヘラ・ファミリア!!』
『規則上必要なんだって!ギルド長からもエイナがやるようにって言われてるし!!』
『絶対私への嫌がらせでしょ!!ふざけんなよ、あのブタ!!』
『口調がヤバいよ、エイナ!!』
『完全な厄ネタ押し付けようとしてる方がヤバいでしょ!!』
それはもう、酷い有り様だった。
他の業務全てをそっちのけで疫病神の押し付け合いをしているのだから。
ちなみに、この場にはベルも春姫もいる。
なんなら直ぐ側で聞いている。
『やるのはいいけど、本人たちの前ではやめてほしいですよね……』
『あ、アハハ……』
苦笑を溢す二人だが、それに構うだけの余裕はない。
本人たちそっちのけで、醜い押し付け合いをしているのだから。
まあ、気持ちはわかる。
それだけの醜聞が広がっているのも知っている。
なんだったら初日に暴れたのもマズかったと反省している。
ただ、それはそれ。
余程のことがなければ、ギルド相手にそこまで暴れる気もないというのに。
『お願いします、エイナ!エルフとして、誰にも恥じない行いを……!』
『だったらソフィ先輩がやればいいじゃないですか!!』
『嫌です!!』
『この正直者!!』
『お願いエイナ~!!』
『頼む、チュール!!』
『絶対に嫌ですって!!』
上司や同僚からの懇願を力強く拒否するエイナ。
だが、彼女のフルネームを二人が知ったことで、風向きが変わる。
『エイナ……』
『チュール?』
反芻するように彼女の名を呟き、顔を見合わせる。
そして、今もなお言い争いを続けているギルド職員達に思い切って声をかける。
『あの!』
『『『はい、なんでしょう!?』』』
『えっと、エイナ、チュールさん……?』
『な、なんですか……?』
『もしかして、ニイナ・チュールさんのご家族の方ですか?』
『…………な、なんで妹の名前を!?』
『まあ、お姉様だったのですね!』
名を出された人物の親族だと分かり、手を叩いて喜ぶ二人。
その様子に、エイナは顔色をドンドン悪くさせていく。
『学区と少し交流を持った時期があって、その時にニイナさんには良くしていただいたんです』
『お世話になった方のお姉様とは知らず、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした』
『たとえ担当にならずとも、よろしければまたお話させていただけませんか?ニイナも、お姉さんのことを気にしていたので……』
にこやかに告げるベルと春姫。
表情を見れば分かる。
完全に善意で言っている。
だが、だからこそエイナの状況を悪くさせているのだ。
『エイナ……』
『エイナ!』
『エイナ』
『チュール』
同僚たちの視線が突き刺さる。
妹の知り合いなら、分かってるよな?
という意味を含んだ視線が突き刺さる。
『い、いや!それとこれとは関係ないですから!』
『『『…………。』』』
『嫌ですからね!?そ、そんな目を向けられても───』
『『『…………。』』』
『向けられても…………』
『『『…………。』』』
『向けられ、ても…………』
『『『…………。』』』
無言の圧が強い。
ドンドン退路が断たれている。
エイナも分かっているのだ。
妹の関係者であるのなら、自分がやったほうが色々都合がいいのだと。
分かっているからこそ、エイナは負けてしまった。
『分かった!!分かりました!!やればいいんでしょう、やれば!!やってやろうじゃないの!!』
『よっしゃ!!』
『流石です、エイナ!』
『信じてましたよ、エイナ!!』
『やかましいわ!!』
こうして半ば押し付けられる形で、エイナ・チュールはベル・クラネルとサンジョウノ・春姫の担当アドバイザーに就任したのだった。
…………
………
……
…
当時を思い出しながら、エイナは眼の前の少年を見つめる。
懸念していた事態は殆ど生じていない。
理不尽に殴られることもなければ、怒鳴られることも圧をかけられることもない。
男特有の下卑た視線をぶつけられることも、変にアプローチされることもない。
優秀だし素直だし可愛いしで、なんだったら少し役得に思えるくらいだ。
課題もダンジョン内部の情報も、決して物覚えがいいわけではないのに、それでも必死に努力してすぐに覚えた。
途中で投げ出すことも不貞腐れることも、こんなの必要ないと吐き捨てることもない。
春姫も同じように、優秀で素直で可愛らしい。
他の冒険者を相手するより、よっぽどマシだった。
ただ、それでも一つだけ文句があるとすれば────
「ベルくん!!言ったよね!?深層で勝手なことするなって!!さっきヴィーザル・ファミリアとアルテミス・ファミリアの人達に聞いたよ!?勝手に先行してウダイオス斬り飛ばしてたって!!」
「だって退屈だった…………ゲフンゲフン!いつまでも不慣れを理由に怯えていては、強くなれませんから」
「退屈だったからって言いそうになってたよね!?危ないからやめなさい!!」
「…………善処しま~す」
「絶対またおんなじことするでしょ!本当にやめて!!後悔するよ!?」
「しません。もう、絶対に……助けられないって思いをするのは、もう嫌なんです」
「事情は察するけど、湿っぽい雰囲気に誤魔化されないからね!?」
「チッ!」
「あと、都市内で問題起こさないで!!2日に一回のペースでフレイヤ・ファミリアの人と喧嘩するのもやめて!!」
「あれは向こうが先に喧嘩売ってきてるんですよ。僕は買ってるだけです。時々本気で命狙ってきてるのも交じってますし」
「買わないで!出来る限り穏便に済ませて!命狙う人はこっちから苦情入れるから!」
「命があるだけ有情だと思いますよ?」
「それと、エルフの人たちも殴り飛ばさないで!!そっちは元はと言えばベルくんがリヴェリア様を煽るのが悪いんでしょ!?」
「先にブツクサ言ってくるのは向こうですって」
「だとしてもだよ!!お願いだから、エルフとしてもアドバイザーとしてもお願いだから!そっちの苦情まで私に来るんだよ!?」
「ヘラ・ファミリアの
「それも聞いたよ、何回も!!どういう教育方針なの!?」
「こういう教育方針です」
「やかましいわ!!」
このように、問題行動が跡を絶たないのだ。
ダンジョン内での独断専行は当たり前。
都市内での問題行動も当たり前。
ダンジョン内でのあれこれはさておき、本人の気質的に積極的に問題を起こしているわけではないのは分かる。
だが、それはそれとして喧嘩っ早い。
春姫も春姫で、売られた喧嘩はしっかり買うし、舐められたら叩き潰す。
彼女の申し訳なさそうに謝りながら殴ってる姿は一種のホラーだ。
二人は決して暴力的ではない。
エイナが二人と話す中で、暴力やそれを背景にした脅迫のたぐいは一切受けたことがない。
でも、喧嘩は買う、マジで根こそぎ買う。
些細な言い争いから、くだらない嫉妬混じりの挑発まで。
その全てを買う。
「ベルくん、君に必要なのはアンガーマネジメントだよ!」
「アンガーマネジメント?」
「そう!神々が広めた怒りのコントロール方法!イラッときたら一旦心の中で6秒数える!人の怒りのピークは6秒らしいから、それを過ぎれば感情は抑えられるの!だから─────」
「つまり、6秒以内に仕留めろと?」
「違う!!6秒待って怒りを抑えて、落ち着いて行動しろって言ってんの!!」
「あ、そっちでしたか」
「そっちってどっち!?これ以外に何があるの!?」
「すいません……あと、それやってもいいですけど、多分無駄ですよ?」
「なんで!?」
「僕、別に怒ってるわけじゃないので」
「余計タチが悪いわ!!」
本能というか習慣というか反射というか。
彼は怒りなどではなく、ただ純粋に習性として相手をブチのめしているだけだ。
だから余計に始末に負えないのだ。
「はぁ…………ベルくんに何言っても無駄だって分かったよ」
「すいません……」
「喧嘩するなとは言わないから、もう少し被害を抑えて。相手ももう少しマシな状態で帰してあげて」
「分かりました」
言ってもどうせ聞かない。
こうして話を聞いてくれるだけマシだと割り切り、せめて被害を軽減する方向に持っていこう。
「じゃあ、取り敢えず報告の受付はこれで終わるけど、なにか質問は?」
「昨日帰った時から思ってたんですけど、なんか都市が騒がしくないですか?」
「ん?ああ、そっか。ベルくんたち、丁度そのタイミングで遠征に行ってたもんね。そりゃ知らないか」
「知らないって、なにが?」
「実は、三日前から学区が寄港してるんだよ」
「学区が?」
その事実に、ベルは少し驚いたような表情をしている。
エイナとの契約経緯からも分かるように、ベルは学区と少なくない交流を持ちその動向をある程度は知っている。
だが、その予定では学区の寄港はあと4ヶ月以上先のはずなのだ。
「予定より早くないですか?」
「うん。なんかトラブルがあったらしくて、予定を変更してオラリオに来たらしいよ?」
「ニイナとは会えました?」
「まだ。なんか、色々とバタバタしてるらしくてさ、それが終わったら会いに来るってこの前手紙が届いたんだけど」
「そう、ですか……」
二人は姉妹であるが交流は少なく、会ったことも殆どない。
そんな中、ニイナが姉であるエイナに劣等感に似た感情を抱いていたことは知っている。
ベルとの交流する中でそれがある程度解消され文通を再開したことも知っている。
だからそこまで心配はしていないのだが、それと同時に少し気がかりだ。
なぜエイナに会いにこないのか……。
「少し妙なんだよね。学区では出来ない大規模演習をするからって言って、
「う~ん、それは確かに妙ですね……」
それではまるで、大掛かりな戦いをする前のようだ。
極東や帝国では一緒にそういった類の戦いに参加したこともあるが、その時にどことなく似ているような気がする。
では、一体何と戦うというのか。
「その疑問の答え、教えてあげようか?」
「! レオンさん?」
「レオン先生!」
「私もいるわよー☆さ、ご一緒に~っ、レッツアオハルーー!」
「アオハル~」
「イズン様語に適応してる!?」
面談用ボックスに入ってきたのは、学区の教員であるレオンと神であるイズン。
突然現れた二人に、ベルとエイナは驚いている。
「久しぶりだな、ベル」
「お久しぶりです。なんでここに?」
「君に話があってね」
「話?」
「ああ、そうだ。称賛と相談と文句。どれから聞きたい?」
「なんですか、その三択。じゃあ称賛で」
「承知した」
面談用ボックス内にあるベルの隣の椅子に腰掛けながら、レオンは話し始める。
イズンも適当な位置に腰掛けて気軽な雰囲気を演出しているが、二人からはどこか真剣な様子も感じられて。
学区に何かしらの異常事態が起こっているのは確かなようだった。
「レベル7おめでとう。君の成長を喜ばしく思うよ」
「ありがとうございます」
「じゃ、次は相談だな」
「称賛短っ!」
「で、相談内容だが、実は今学区は軽い内部闘争状態にあってね。それの解決を君にお願いしたいんだ」
「「内部闘争?」」
レオンの言葉に、ベルとエイナは声を揃えて疑問符を浮かべる。
内部闘争など、普通はありえない。
学区とは大人によって管理された、権力や権威からは無縁の教育機関。
その中で軽い対立はあっても、レオンが“内部闘争”と形容するほどの争いが起こるとは考えにくいのだ。
「学区に在籍する生徒がキッカリ二分して、対立しているんだ。結構酷くて、今回オラリオへの寄港を前倒しにしたのも、ギルドに演習をすると偽って土地の確保を依頼したのもそれが理由だ」
「学区創設以来類を見ない規模の対立でね、
「そして、更にマズイのがこの情報が何処からか漏れたってことだ。神々の間で少しずつ広まっていってるが、多分本格的にスタートする頃にはほぼ周知の事実になってるだろうな」
「一体何が原因で起こった対立なんですか?」
「それが君への文句だ。実際に見たほうが早いだろう。イズン様、お願いします」
「オッケー☆」
イズンの手によって作られた鏡に映るのは、遺跡のような場所で準備をしている生徒たち。
今は互いに士気を高め、勝つための決起集会が行われている。
『ベル・クラネルとサンジョウノ・春姫の暴走は、許すべきではない!!』
「「…………え?」」
リーダーと思しき少年が口にするのは、ベル達への反抗の意思。
それを口にして、士気を高めようとしている。
『彼らの行いがある種の正義に基づくものだということは認めよう!!彼らの行いで救われたものがいることは認めよう!!ただそれでも、彼らの行動には危うさがある!!』
「…………危うさ?」
『彼らはやり過ぎた!あまりにも多くの血を流しすぎた!この行動が過ぎればいずれ、多くの後悔が募ることになる!!その前に、我々学区一同だけでも、彼らに警鐘を鳴らし続けなくてはいけない!!』
『行くぞ、諸君!!我らの正しさを証明するときだ!!』
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』
リーダーの少年の言葉に雄叫びと歓声を上げる生徒たち。
それをレオン達は頭が痛そうな表情で見つめている。
「今見た通り、これが理由だ」
「いや、これって…………」
「『
「暴走なんてしてないですけど!?」
「俺もそう思う。君達の行動は昔のクソ女どもと比べたらかなりマイルドだ。天と地以上にかけ離れてる。でも、あの子たちは当時を知らないからな。過激に映ったんだろう」
「それに、あの件もあったしね~」
「あの件?」
「ベル、お前…………ワルサ国の王城でラシャプ・ファミリアを拷問しただろう?」
「あ~、やりましたね」
あれは今思い返しても胸糞悪くなる出来事だった。
シャルザード王国と敵対していたワルサ国が王都を進行するためにラシャプ・ファミリアを雇ったことが発端だ。
ワルサ国の予想以上に悪辣で外道だったラシャプ・ファミリアは暴走し、都市の人々に凌辱の限りを尽くした。
見ていたワルサ国側の騎士が吐き気を催すレベルの所業だったと言われている。
それを知って、実際に連中を見たベルは今までにないくらいブチギレて、アルフィアからの指示ではなく自らの意思でその所業を行った。
あの行動に後悔はないし、間違ったことをやったとも思っていない。
「下らない連中でしたよ。自分がやったことをやられただけですぐに死にたいって泣き叫び始めるんですから。主神も小物でしたしね。たった三日で耐えきれず自殺する腰抜けでしたし」
「それに関しては何も言わない。元々悪名高い連中だったしな。むしろ正しいことをしたと言えるだろう。なにせ、原因となったワルサ国をシャルザードの実質的な属国にまでしたくらいだ。君の功績は計り知れない」
「何もしてませんよ。アリィさん……アラム王の手腕によるものでしょう」
「そういうことにしておいてやる。話を戻すと、その所業が問題だった。復興途中ということもあって、他国と足並みを揃えるためにシャルザードは君を出入り禁止にしただろう?」
「あ、それただの対外的なポーズですよ?立派な国になった暁には国賓待遇で歓迎するって言われましたし」
「分かってる。俺がしてるのはイメージの話だ。助けたはずのシャルザードからも入国禁止を言い渡されたお前は、生徒の目からはラシャプ並のとんでもない悪逆を行ったように映ったんだ」
「あながち間違いでもないですけどね」
「そうじゃなくて。君の人とナリをあまり知らない子どもからしてみれば、君はトンデモなくヤバい奴って認識なんだよ。分かるか?あの子たちは、そんな奴を野放しにしておけるかって立ち上がった子たちなの」
「正義感の強いいい子たちですね」
「あの中には君より年上何人もいるからな?」
ふざけているのか真面目に聞く気がないのか。
どこまでも的外れな返答しかしないベルに、レオンも呆れ果てている。
「レオン先生、あの子たちは一体誰と戦ってるんですか?」
「決まってるだろう?
神の鏡に続いて映し出されるのは、もう一つの陣営。
『ABR』と敵対している団体だ。
『さあ、今こそ立ち上がる時です!!ベル先輩と、春姫さんの正しさを証明するために!!』
「「……え?」」
『お二人の道は多くには理解されないものです!だからこそ、私達は二人を信じ、応援し続けなくてはいけない!彼らの直ぐ側で見たすべてを語り、彼らの行いを世に広めなくてはいけない!!』
演説をするのはまだ幼い少女。
だが、その言葉にはかつてないほどの熱と説得力が宿っている。
そして、その少女を、ベルとエイナは知っていた。
『彼らに救われたものがいる!!彼らを愛するものがいる!!彼らに恋するものがいる!!私達はその人達の代わりに、そのすべてを代弁するために、戦わなくてはいけない!!勝たなくてはいけない!!』
『行くぞォっ!!ベル先輩と春姫さんに、勝利の花束を!!』
『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』
「「…………。」」
その光景を見て、二人は何も言えなくなる。
理解が追いついていないのだろう。
硬直し、黙り込んでしまう。
やがて理解が追いついたのか、二人はスッと息を吸い、叫びだす。
「「ニイナァッ!?」」
「何やってるの、ホントに何やってるの!?な・ん・で!そんなことになってんの!?」
「ていうか、この団体なんですか!?」
「これは『ベル春
「なんでそんなものが出来てるんですか!?」
「最初はただ、親しい友人たちと君達について語り合っていただけみたいだが、『ABR』が出来たことをキッカケにドンドン規模が拡大していってな。今では立派な大規模ファンクラブになってしまったよ」
この事実には、流石のベルも慌てる。
ただの学生の一時のノリや内輪揉めかと思っていれば、想像以上に大規模な話になっている。
学区を二分する戦いとは言っていたが、ここまでの規模と熱量だとは思わなかった。
「ちなみに、ファンクラブ内は主に『ガチ恋勢』『カプ厨勢』『推し活勢』の三つに分かれてるわ☆ニイナはガチ恋勢よ!」
「こんな形で妹の恋路を知りたくなかった!!」
「ガチ恋勢ってなに!?」
「分かっただろう、ベル?君が学区に与えた影響の大きさが」
呆れ果てるようにそう溜息を溢すレオンに、ベルは何も言えなくなる。
ここまでだとは、本当に思わなかったのだ。
「ここで勝利が決すると、生徒間での軋轢になりかねない。だが、私達教員が介入するのは生徒たちの自主性を阻害する形になってしまう。何が言いたいか、分かるよな?」
「…………はい。行って止めてきます」
「よろしい。それと、止める時は両方平等に攻撃するんだぞ?間違ってもファンクラブの方にだけ肩入れするなよ?」
「はい…………」
その後、走って演習場所まで駆けつけたベルによって、両組織とも手酷く伸されて有耶無耶に終わった。
以降もこの争いは続いていき、そのことにベルとレオンが頭を悩ませるのはまた別の話。
【シャルザード王国・ワルサ国】
罪状
・ラシャプ・ファミリアへの拷問(主神は自殺、団員は全員が廃人化)
・ワルサ国王城破壊
・ワルサ国王族への暴行
・ワルサ国兵士団壊滅
功績
・シャルザード王国の王都奪還
・シャルザード王国の救済と復権
・ワルサ国のシャルザード王国への実質的な属国化
【学区】
罪状
・特になし
功績
・特になし
▶備考
生徒への多大な良/悪影響。
学区内にファンとアンチを増産し、結果的に学区を二分する原因となった。
あとがき
前回の補足説明?
ベルくん達がやったことに関しては、まあそうですね。
やってることは正しいけど、やり過ぎ。
物壊したり貴族や組織潰したりで、好き勝手してますからね。
何も知らない側からしてみれば、めっちゃ危うく映ってます。
「被害がデカいことを除けばいい奴なのでは?」
はい、そうです。
問題なのは、被害がデカすぎることなんです。
まあ、それでもレオン視点で15年前よりはマイルドだし、そもそも関係ない人は巻き込んでないし。
疚しいことさえなければ、何の問題もない。
良心的ですらある。
ベルくんがブチギレて、自分の意志で少しやり過ぎたのはシャルザードの一件だけですし。
あれはワルサ国側にトラウマ刻み込んで、見た人は全員その後肉を食べられなくなってます。
誰も死んではないけど、死んでないだけ。
死ぬより悲惨な目に合ってるのも大勢いる。
ま、自業自得ですけどね。
前回のオッタルさん?
あの人は、まあ脳まで筋肉の人だし。
あれでも丁寧(フレイヤ・ファミリア基準)な対応でしたよ?
ベルくんはそれでも気に喰わなかっただけです。
ちなみにですけど、アルフィアとザルドは今、獅子の封印されてる森にいます。
あんまり書くこともなさそうなので、これでおしまいです。
以上、あとがきでした