道化の愉快な仲間たち   作:UBW・HF

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まえがき兼前回書くのを忘れていたヘルメス様とベルくんの会話。

時系列はテント内でベルくんとヘルメス様が初対面を迎えた時。
回想の中の会話を一部抜粋。

ベル君「あの、ヘルメス様。」
ヘルメス「なんだい、ベル君?」
ベル君「もしかしてなんですけど、ヘルメス様ってお祖父ちゃんの居場所って知ってたりします?」
ヘルメス「? あの好々爺の旅を手引したのは俺だからね。もちろん知ってるよ。あぁ、手紙を届けて欲しんなら、俺に言うと良い。必ず届けると誓おう」
ベル君「あ、いえ…。手紙は良いんですけど…。その……」
ヘルメス「おいおいおい。随分他人行儀だな。初対面とは言え、知らない仲じゃないんだ。何でも相談してくれて良いんだぜ?」
ベル君「じゃあ、その、お言葉に甘えて…。」
ヘルメス「うん、なんだい?」

ベル君「お祖父ちゃん、実はお祖母ちゃんに内緒で旅に出てるみたいで……」
ヘルメス「………まじで?」
ベル君「え、ええ。ちゃんと許可を貰って旅に出てるって聞いてたんですけど、違ったみたいで…。その様子だと、ヘルメス様もお祖父ちゃんに騙されてたみたいですね…。」
ヘルメス「スゥゥ―――…。よし、ベル君。腹を割って話すとしようじゃないか」
ベル君「は、はい…。」

ヘルメス「どうすればいい?俺はどうしたらあの[最凶最悪(クレイジーサイコ)に殺されずにすむ?」
ベル君「その、ぶっちゃけ、無理かと…。もし仮に今すぐお祖父ちゃんの居場所をお祖母ちゃんに教えたとしても、理不尽に折檻されるのは目に見えてますし」
ヘルメス「…………。」
ベル君「こうなったらもう、お祖母ちゃんに見つからないようにお祖父ちゃんの旅を手引しながら、ほとぼりが覚めるかお祖父ちゃんがいい手を思いつくのを待つしかないかと…。」
ヘルメス「その、君の口から俺の弁明をしたりしても……?」
ベル君「無理ですね。他のことならいざ知らず、お祖父ちゃんの事に関すると、誰の言葉も耳に入らなくなるので」
ヘルメス「だよなぁ…。あっはっはっはっ」

ベル君「………。」
ヘルメス「………。」
ベル君「………。」

ヘルメス「あのクソジジイ!!やってくれたな!!もうこうなったら俺も好き勝手やらせてもらうからな!!どうせ残り短い下界生活(よせい)だ!!好き勝手やってやる!!今の俺は無敵だァァァ―――!!」

叫びながらテントから出ていくヘルメス様。
以上、回想終了。

ということで、ヘルメス様は最凶がバックにいるベルくんに対し、原作と同じような行動に出ていくことになります。
「明日退職の田中先生は無敵」と同じような状態です。

以上、まえがきでした。


その6―英雄哀愁

 

 

レフィーヤに謎のスキルが発現し、ヘスティアに事情を話してベルのスキルを確認してもらうよう頼んだアイズたち。

フィンとリヴェリアにも軽く事情を話し、事情を知っている者たちだけを集める。

他の者たちに会話を聞かれないように、テント内で集まり待っていると、羊皮紙を持ったヘスティアがテントに入ってくる。

 

「言われた通りベルくんのステイタスの更新をしてきたよ」

 

「ありがとうございます、神ヘスティア。それで、結果は?」

 

「君たちの読み通りだったよ。文字化けしてたところが読めるようになってた」

 

ヘスティアはそう言いながらアイズたちにベルのスキルが書かれた羊皮紙を渡す。

そこに記された内容はアイズたちが昨夜ベルに見せてもらったものとほぼ同じ。

ただ、黒塗りになっていた場所だけが明らかになっている。

 

英雄運命(アルゴノゥト)

・能動的行動に対するチャージ実行権。

・喜劇を紡ぐ道化は英雄の(ふね)となる。(07/10)

・【道化行進(アルゴノゥト)】発現者と共鳴。

 

そこにはやはり、レフィーヤに発現したスキルの名が書かれていた。

 

「【道化行進(アルゴノゥト)】だっけ?そこのエルフくんが発現したスキル。スキル効果はボクも見たけど…、よくあそこまで他者と結び付いたスキルが発現できたものだね」

 

「それに関しては私自身も驚いているんですが…。あの、この2つ目のスキル効果欄の横にある数字は?」

 

「文字化けしてたスキル名と同じで、今回の更新で新しく追加されたものだよ。ボクも下界に降りたばかりでステイタスやスキルに詳しいって訳じゃないから推測の域を出ないんだけど、それは多分、回数制限だ」

 

「回数制限…?」

 

ヘスティアの言葉を理解しきれず言葉をただ反芻するリュー。

疑問を抱く彼女に応えるように、ヘスティアはひとつ頷いたあと説明を始める。

 

「他者に干渉し、スキル発現に至るほどの影響を与えるような効果が無限に続くわけがない。回数制限があるのは当然だろ?制限が一切なければ、それこそ神の力みたいなものだからね」

 

「じゃあ……」

 

「うん。その回数制限が正しければ、“道化(ベルくん)”が導けるのはあと7人だけだ」

 

7人。

それはレフィーヤを除くこの場にいる英雄たちの数と同じ。

つまり、あのスキルは彼女たちの為にあると言っているようなものだ。

しかし、そこまで考えて少し疑問も覚えた。

 

スキル効果の残数は07/10。

最初は10回あったものが、3回使用されていることになる。

しかし、今のところスキルを発現しているのはレフィーヤだけ。

ならば、残る2回はどこに消えたのか。

 

「神ヘスティア。もしその考えが正しいとして、ならばすでに使用された残りの2回はどこに消えたのですか?」

 

「それも謎だね。そもそも、本当に残数なのかどうかも分からないし、ベルくんの“導き”がスキル発現という形で現れるのかどうかも分からない。もしかしたら、本来あるはずの運命を変える、火事場の馬鹿力を出す、なんて形で消費される可能性もある。ベルくん自身に適応される可能性だって十分あるしね」

 

ヘスティアは幾つかの可能性を口にするが、それでもハッキリとしたことは分からないと口にする。

 

「君たちは残りの7回が自分たちのためにあるのかも知れないって思ってるだろうけど、ボクの口からそれを断言することは出来ない。ハッキリと違うって否定することも出来ないけどね。ベルくんを守ろうとしてくれてる君たちには、恩を仇で返す可能性を口にするようで心苦しいけど、もしかしたら―――」

 

「いえ、お気になさらず。もし仮にそうなったとしても、ベルもあなたも悪くはありません。そもそも、私達はそんな見返りが欲しくてベルを守りたい訳じゃありません。ベルを愛してるから、守りたいんです」

 

「―――ごめん。野暮なことを言ったね」

 

親愛か、友愛か、恋愛か。

それぞれの差異はあるものの、この場にいる彼女たちは全員ベルを愛している。

それは、ヘスティアも知っていることだった。

 

「ボクはもう行くよ。君たちにも話し合う時間は必要だろうしね」

 

沈黙から空気を察して、ヘスティアは立ち上がりテントから出ていこうとする。

ただ、出ていくその前に一度立ち止まり、振り返りながら尋ねる。

 

「最後にいいかい?君たちにとって、ベルくんは何なんだい?」

 

「英雄です。あの日私達を救い、希望を示してくれた、紛れもない英雄です」

 

アイズは躊躇いなくハッキリとした口調で応える。

そして、それに同意するように他の七人も頷いている。

そんな彼らを見て、ヘスティアは訝しむように目を細める。

 

「そっか。何があったのかは聞かないよ。君たちとベルくんがどんな風に出会い、どんな冒険をしたのか。深くは尋ねないし、詮索もしない」

 

「―――ありがとうございます」

 

「ただ、これだけは聞かせてもらうよ」

 

ヘスティアは神として、そしてベルの保護者としての威厳を携えながら、アイズたちに問いかける。

 

「君たちが愛しているのは、本当にベルくんなのかい?」

 

ヘスティアはその質問をしたあと、今度こそ振り返ることなくテントから出ていく。

その質問の答えをアイズたちは持ち合わせていなかった。

 


 

18階層での異常事態から1週間と少し経ったある日。

ヘスティアとベルはとある派閥の宴に来ていた。

 

「その、大丈夫なんでしょうか、神様。アポロン・ファミリアとはこの前…。」

 

「色々心配事もあるけど、取り敢えず今は宴を楽しもうぜ?いくら心配したって、どうしようもないことなんだし。それに、前にも言ったが君が責任を感じる必要なんかないんだ」

 

この宴より二日ほど前。

火蜂亭という場所で食事を楽しんでいたベルたちは、アポロン・ファミリアの団員に因縁をつけられ喧嘩になってしまった。

その場はベートが偶然居合わせたことでなんとかなったが、それでも禍根自体がなくなったわけではない。

ベルが警戒するのも、当然と言えるだろう。

 

「あ、ベルくん!久しぶり!」

 

「アーディさん…?」

 

ヘスティアと話しながら会場を歩いていると、同じく招待された参加者であるアーディに話しかけられる。

会うのは久しぶりなので少し戸惑っていると、アーディは少しからかうような口調でベルに話しかける。

 

「なに、その反応…。もしかして、お姉さんのこと忘れちゃった?」

 

「い、いえ、そんなことは!アーディさんにはお世話になりましたし!」

 

「まあ、お世話って言うほどのことは何もしてないけどねぇ。リオンに連れられて行っただけだし」

 

アーディは笑いながらそう言う。

そんな彼女にベルは苦笑いを返すしか出来ない。

その時、アーディと一緒にいた一人の女性と、一人の女神が会話に加わる。

 

「アーディ?ベルって、もしかしてその子がリトル・ルーキー?」

 

「あ、うん、そうだよ。ほら、リオンがいっつも話してるでしょ?」

 

「うんうん、話してる話してる!」

 

明るく話すその少女は、赤い髪を一つに結んだ快活な少女。

一方の女神は、美の女神と比べても遜色ない美貌を持つお淑やかな女神。

その女神のことを、ヘスティアは知っていたようだ。

 

「あ、アストレア!久しぶりだね!元気そうで何より!」

 

「久しぶりね、ヘスティア。そっちこそ、元気そうで何より」

 

再会を喜び合う二人を見ながら、ベルは先程ヘスティアが出した名前について少し考える。

 

「あの、神様、アストレア様ってもしかして……。」

 

「ああ、うん、そうだよ。エルフ君…、エルフ君って二人いるな。あの金髪の方のエルフ君が所属しているファミリアの主神だよ。ボクの同郷なんだ」

 

「りゅ、リューさんの!?」

 

「ええ、そうよ。はじめまして、ベル。アストレア・ファミリア…、リューが所属しているファミリアの主神、アストレアよ。よろしく」

 

「はじめまして~。アストレア・ファミリア団長の、アリーゼ・ローヴェルよ!バチコーン!!」

 

おしとやかに挨拶をするアストレアに、最後に理由のわからない効果音をつけながら元気に挨拶をするアリーゼ。

そんな二人に戸惑いながらも、ベルは勢いよく頭を下げながら挨拶をする。

 

「は、はじめまして!ベル・クラネルと申します!いつもリューさんにはお世話になってます!」

 

「はいは~い、うちのリオンがお世話してま~す。噂はかねがね聞いてるよ?世界最速兎(レコードホルダー)くん?」

 

「あ、あはは」

 

ベル自身がまだ慣れない呼び方をされて戸惑っていると、アリーゼたちに興味津々といった様子で見つめられる。

あちこち角度を変えられながら見つめられると、ベルとしても落ち着かない。

 

「いやぁ~、それにしても、リオンがいつも話すベルくんがどんな子か気になってたけど…。うん、予想以上に可愛い子だね!」

 

「か、かわいい……。」

 

「大丈夫?リオンと仲良くやれてる?あの子、あんまり笑わないから色々誤解されがちだけど、根はいい子だから仲良くしてあげてね?」

 

リューとの関係をアリーゼは心配してそんな事を言うが、ベルにはイマイチしっくり来なかった。

アリーゼの発言が、ベルにはおかしなものに聞こえたから。

 

「? リューさんは見かけるといつも笑顔で気さくに話しかけてくださるので…、大丈夫ですよ?」

 

「笑顔で気さくに?あの子が?」

 

ベルが少しうろたえながらそう答えると、今度はアリーゼが驚いたような表情をすることになる。

そんなアリーゼに、アーディは少し声を潜めながら話しかける。

 

「ほら、前に話したでしょ?」

 

「あ~、あれのこと?あんまりにも信じられないからアーディが白昼夢でも見たのかと……」

 

「そんなわけないでしょ」

 

アーディから示談交渉の時の話は聞いていたようだが、どうやら話半分に聞いていたらしいアリーゼに、彼女はムッとしたような表情で応える。

アーディとベルの様子を見て話が本当だと悟ったらしいアリーゼは、慈しむような表情をしながらベルの頭を撫でる。

 

「いやぁ、そっかそっか。あの子がね~」

 

「あの、アリーゼさん?」

 

「ん。なんでもないよ。これからもあの子と仲良くしてあげてね」

 

「え?あ、はい!」

 

何がなんだか分からなかったが、ベルは取り敢えず元気に返事をする。

そうして会話が一段落した時を見計らったかのように、その少女はドレス姿でありながら駆け足でやって来る。

 

「ベル!」

 

「あ、アイズさん!?」

 

満面の笑みでベルに駆け寄ってくるアイズ。

一方ベルはと言うと、ドレス姿のアイズに見とれていた。

 

「久しぶりですね、ベル。元気そうで良かったです。ベートさんからアポロン・ファミリアと騒動になったと聞いて、心配してたんですよ?」

 

「その説はお世話になりました。それに、ご心配をおかけしてすいませんでした…。」

 

「あなたが無事ならそれでいいんですよ」

 

申し訳無さそうにするベルに、アイズは優しく微笑みかける。

リュー同様、滅多に笑わないことで有名な剣姫が満面の笑みを浮かべていることに、アリーゼたちは驚きを隠せないでいた。

 

「おうおうおう!なんやなんや!服に着られとるみっともないドチビの姿があるやないか!馬子にも衣装っちゅうんはまさにこのこと―――ヘブシッ!」

 

「今ベルと話してるから邪魔しないで、ロキ」

 

「やからって、殴ることはないやろ……」

 

満面の笑みからいつもの人形のような無表情に戻り、ロキに制裁を加えるアイズ。

ベルはそんな様子を見て苦笑いを浮かべていると、アイズに手を引かれる。

 

「ロキは放っておいて、折角のパーティーなんですから。踊りましょう、ベル」

 

「お、踊りって…!?僕、踊れませんよ!?」

 

「大丈夫です。私がエスコートするので」

 

「え、ちょ!?」

 

前世で培った教養を遺憾なく発揮するアイズ。

そんな彼女に半ば強引に手を引かれながら、ベルは多くの男女(カップル)が踊る輪の中に入っていく。

そして、そんな二人を主神たちは恨めしそうに見ている。

 

「おのれ、ヴァレン某め…!ボクのベルくんを!」

 

「おのれ、あのガキンチョめ…!ウチのアイズたんを!」

 

「あなた達、本当は仲いいの?」

 

犬猿の仲で知られる割に似たようなリアクションを取る二人に、アストレアは思わずツッコむ。

そうしてため息を一つ吐いたあと、アストレアは少し真剣な表情をしてヘスティアに尋ねる。

ずっと、気になっていたことを。

 

「ねえ、ヘスティア。あの子供は何者なの?」

 

「………何者って?」

 

「うちのリューと、ロキのところの剣姫。代表的なのはこの二人だけど、噂を聞く限りもっといるんでしょうね。笑わない二人が彼の前だけで笑い、他の子供も彼の前でだけ態度を変える」

 

「うちが知っとるだけで、8人か?まあ、そう大して変わっとらんのもおるけど。いずれにせよ、結構な人数やないか。それも、高位の冒険者ばっかで」

 

「そんな状況、何かあるって考えるほうが自然でしょう?」

 

「………。」

 

「もちろん、あの子供が良からぬことをしたって疑ってるわけじゃないわ。でも、なにか知っているなら教えて。あなたも分かるでしょう?大切な子供のことを知りたいって気持ちは」

 

アストレアとロキは、輪の中で踊るベルとアイズを眺めながら、ヘスティアにそう尋ねる。

ロキに聞かれただけならば答えるつもりはなかったヘスティアも、仲の良いアストレアに聞かれれば答えないわけにはいかない。

観念したようにため息を一つ吐いたあと、ヘスティアは話し始める。

 

「ボクも分からないんだ。一回、ベルくんに聞いたことがあるんだよ。どういう関係なんだい?って」

 

「あの子は、なんて?」

 

「初対面です、だそうだ」

 

その答えに、アストレアとロキは訝しむように目を細める。

 

「初対面って、オラリオに来て初めて会うたちゅうことかいな?」

 

「オラリオに来てどころか、話したのは示談交渉の時が初めてだって。ヴァレン某くんに関しては、ミノタウロスの時らしいけど。もちろん、嘘なんてついてなかったよ」

 

「どういうことや…?」

 

「分からない。本当に分からないんだよ。君たちこそ、なにか聞いていないのかい?」

 

「あのガキンチョが自分たちの英雄や~って、その一点張りや。嘘も何もないわ」

 

「英雄…?」

 

「リューも言い回しは少し違うけど、似たようなことを言ってたわね」

 

「変な話やろ?恩人やのうて、英雄やなんて。今どき、子供でも言わんで」

 

「………。」

 

ロキの話を聞いて、少し考え込むヘスティア。

何がなんだか分からなかったが、それでも一つだけあることを思い出した。

関係ないと思って、切り捨てていたあることを。

 

「ベルくんに話を聞いた時、もう一つだけあることを言ってたんだ」

 

「はぁ!?先に言えや!」

 

「関係ないと思ってたんだよ!ベルくん自身も思い過ごしかも知れないって言ってたし!!」

 

「で、彼はなんて?」

 

噛みついてくるロキを声を荒げて黙らせると、アストレアが尋ねてくる。

ヘスティアは少し迷うようにしながらも、答える。

 

「初対面なのは間違いない。でも―――」

 

「でも?」

 

「あの子達の笑顔を見た時、“懐かしい”って、思ったらしい」

 

「懐かしい…?」

 

「身に覚えはない。それこそ初めて見るものだっていう感覚はあるんだけど、それでもどこか懐かしく感じたらしい」

 

身に覚えはないのに懐かしく感じる。

そんなこと、あるはずがない。

だからこそ、ベルも思い過ごしだと判断したのだろう。

 

だけど、彼女たちには、そうは思えなかった。

その“懐かしさ”こそが、なによりも重要なものに思えて仕方なかった。

 

 

とは言え、全ては謎のまま

彼女たちが話してくれるのを待つしかない。

だから、この話はここでおしまいだ。

 

ここからは、もっと別の物語が始まる。

 

突如として声を張り上げたアポロンによって。

ヘスティア・ファミリアは前代未聞の危機に瀕することになる。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)という、危機に。

 


 

宴の翌日。

ベルとヘスティアは拠点の廃教会で各々の準備をしながら昨夜のことを話し合っていた。

昨夜、アポロンに宣戦布告をされたときのことを。

 

「全く、アポロンめっ。よくも抜け抜けと戦争遊戯(ウォーゲーム)なんかっ……」

 

ヘスティアは怒りを滲ませながら苛つくようにそう呟いている。

一方のベルは、先程ヘスティアの手で更新されたステイタスを見ながら、少し考え込む。

戦闘とも呼べないような喧嘩ですら、確かな経験として認識されるほどヒュアキントスと自分との間には差があるのだと、実感させられたのだから。

レベル3は伊達ではないということだろう。

もし仮にこのままアポロン・ファミリアとの小競り合いが今後も続いていくとして、自分はヘスティアを守り切れるのだろうか。

そんな不安がベルの頭の中を渦巻く。

 

「ベルくん、気をつけてくれよ。流石に昨日の今日で何かをしてくるってことはないと思うけど、アポロンたちはこじつけてちょっかいをかけてくるかも知れない」

 

「は、はい…。」

 

ベルの身を案じて注意を促すヘスティア。

彼女の過保護とも取れる心配が杞憂になることを祈るばかりだが、そうはいかないだろう。

なんとなくの予感でしかないが、ベルはそう思った。

それをなんとなくヘスティアも察しているのか、くどいほど注意を繰り返す。

 

「ベルくん、何かあったら逃げるんだぞ。移動する時も一人にならないように、人が大勢いるところを行くんだ」

 

「分かりました」

 

「ダンジョンへ潜る時も、しばらく命君たちと行動を共にしたほうがいいかもしれない。タケも事情を分かってくれているはずだから、パーティの申請も受け入れてくれるだろう」

 

注意を繰り返したあと、ヘスティアは最後にフッと笑いながらベルの緊張を解すように優しく話しかける。

ベルも装備を一式身につけ、準備は万端となっている。

 

「ベルくん、出るのが一緒なんだし、どうせだから摩天楼施設(バベル)まで二人で一緒に行こぜ?」

 

「はい、いいですよ」

 

ヘスティアの提案をベルも快諾すると、二人は揃って地下室を出る。

地下室から出るとそこには薄汚れた礼拝堂がある。

こまめにベルがきれいにしているとは言え、それでもやはり使われていない教会は汚れていってしまう。

 

(もっと高位の冒険者になって、お金が溜まったら……。)

 

ベルはいつかここを建て直したかった。

ここは、ベルにとって大切な思い入れのある場所だ。

ヘスティアとの日々が詰まっているというだけでなく、もっと特別な―――。

 

そこまで考えて、ふと違和感に気がつく。

 

周囲に魔力を感じたのだ。

魔法の行使や詠唱中している時に漏れ出る出力の余波。

多くの冒険者がいるダンジョンならともかく、街の…しかも、人がいないような廃教会で感じるものではない。

ベルは魔導士ではないため、ハッキリとしたことはわからない。

だが、この違和感だけは確かだ。

違和感は何よりも大事にしろと、昔教わった。

それを信じるのならば、これは―――。

 

「まずい――!!」

 

「ちょ、ベル君!?」

 

ベルはヘスティアを抱きかかえ、廃教会の脆くなっている壁を蹴り壊して外に飛び出る。

外に出ると、そこには大勢の冒険者たちが廃教会の扉の前で魔法と爆薬のついた矢を構えている。

その冒険者たちは壁から出てきたベルたちに驚きつつも、そのまま矢と魔法を放つ。

すると、元々崩れかかっていた廃教会など、一瞬で跡形もなく崩れ去る。

煙を上げながら燃えていくそのさまを、ベルは眺めることしか出来なかった。

 

「あれって…、アポロン・ファミリア……?」

 

「お、おのれぇ……!?よくもボクとベルくんの愛の巣を……!」

 

「―――――。」

 

おかしなことを言っているヘスティアの言葉すら、ベルには聞こえてなかった。

全身を巡る血が冷えていくのを感じる。

先程までは動揺で震えていた指先がピタリと動きを止めて、冷たくなっていく。

頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。

 

「――シャアッ!」

 

呆然と立ち尽くすベルに、複数人の獣人たちが襲いかかる。

 

「ベル君っ!!」

 

焦ったようなヘスティアの声が聞こえてくる。

だが、その声が耳に届くよりも前に、ベルは動いていた。

 

「ファイアボルト」

 

ナイフを持って襲いかかってきた獣人の頭を掴み、そのままゼロ距離で速攻魔法を放つ。

威力が低い魔法ではあるが、レベル2の冒険者が放つ魔法だ。

ゼロ距離で喰らえば戦闘を続けることなど出来はしない。

 

他の襲撃者たちはそれに怯むことなくベルに斬り掛かってくるが、ベルは一切動じることなく最低限の動きで攻撃を潰していく。

反撃を封じるために、襲撃者たちの手足の骨を折り、反抗の芽を摘む。

その様子に、ヘスティアはなぜか恐ろしいものを感じた。

 

「聞いてたより容赦ない子なんだね…。」

 

襲撃者たちがやられていく様子を見ていた一人の少女―ダフネ―が、どこか意外そうに呟いている。

他の襲撃者たちほど敵意などを感じなかったため、ヘスティアは疑問に思ったが、ダフネの口から次にこぼれた言葉を聞いて、大体のことを察する。

 

「諦めたほうが良いよ。そうやって抵抗しても、意味ないから」

 

ダフネはどこか諦念と後悔を滲ませるような口調で続ける。

 

「アポロン様は気に入った子供を地の果てまで追いかける。手に入れるまでね」

 

「………!」

 

「ウチやカサンドラも、見初められてずっと追われ続けたんだから。都市から都市、国から国……観念するまで、ずっとね。逃げても早いか遅いかの違いだけだって」

 

ベルと同じ境遇の彼女は、ベルを憐れむように声を掛ける。

 

「投降しない?仲間になっちゃう子に、できれば手荒なことはしたくないんだけど」

 

アポロンの執念を甘く見ていたことを、ヘスティアは後悔する。

だが、今は自分とベルの身の安全の確保のほうが優先だ。

後悔など、後でいくらでも出来る。

ダフネの言葉に一切反応しないベルは、今も尚襲撃者ではなく燃え続けている教会を眺めている。

そんな彼に少し疑念を抱いたのか、ダフネは再度ベルに話しかける。

 

「ねえ、聞いて――」

 

「あ”あ”?」

 

ベルの口から、今まで聞いたことがないほど低い声が飛び出た。

苛立ちを隠そうともしないベルは、ここでようやくダフネの方を振り向く。

 

「さっきから聞いていれば、ウダウダと。他のゴミ共より多少マシかと思えば、その程度か。主神が能無しだと眷属の程度も低くなるのは必然と言えば必然なのだろうが、ここまでとはな」

 

「何だと貴様!?」

 

ダフネたちとは違う、アポロンの信奉者の眷属がベルに飛びかかろうとするが、ダフネによって止められる。

その様子を、ベルはつまらないものを見るような目で見つめている。

 

「黙れ。(▪️)は今苛立っている。これ以上私の前で耳障りな雑音を奏でるな」

 

「……べ、ベル君?」

 

今まで見たことがないほど高圧的に、ベルはそう告げる。

初めて見るベルの姿にヘスティアは戸惑うばかりだが、ベルはそれに構うことなく続ける。

 

「偉そうに言っていたが、そもそもあのアホ神如きに屈した貴様らと私を一緒にするな。追われ続けた?当たり前だ。貴様らは逃げたのだからな。逃げずに、叩き潰せばよかったものを」

 

「出来るわけないでしょう、そんなこと……!」

 

「出来ないから貴様らはその程度なのだ。無力な自分自身を私に重ねるな。心底不愉快だ」

 

苛立ちを落ち着かせるように髪をかき上げながら、ベルはゆっくりとナイフを引き抜く。

逃げるつもりはない。

全員ここで、叩き潰す。

火蜂亭の時のような不覚は取らない。

生まれて初めて、人間相手に明確な殺意を持って攻撃する。

相手がどうなろうが、知ったことではない。

 

「僕の母は、僕を生んですぐに亡くなりました。ここは、そんな母が大切にしていた場所でした。顔も知らない母ですが、思い出など何一つありませんが、ここにいると母を感じることが出来ました。ここは、僕と母を繋ぐ唯一の場所だった」

 

一瞬だけ元のベルの口調に戻ったが、怒りは変わらずそこにある。

地面を踏み鳴らし、ベルは怒りを表す。

 

「それを貴様らは、くだらん理由で壊したのだ…!この、場所を――ッ!!」

 

怒りを表すベルに、ずっとダフネの後ろに隠れていたカサンドラが怯えている。

そして、恐怖のままにダフネにすがりついて怯えている。

 

「だ、ダフネちゃん!やっぱりやめた方が良いよ!これ以上あの子を刺激するような真似は……。」

 

「また予知夢…?今度はどんな夢を見たのよ?」

 

「う、兎が大きな鐘の音を鳴らしながら、月を飛び越えて太陽を飲み込んじゃう夢……。」

 

「ハァ…。馬鹿らしい」

 

カサンドラのいつもの予知夢発言を、妄言だと片付けたダフネは再び部隊を指揮してベルを取り囲む。

それを見たベルは、ヘスティアを背に守るようにしながらナイフを構える。

 

「来い。私の教会を壊した罪、貴様らの全てで贖ってもらう」

 

こうしてアポロン・ファミリアの一団と、ベルとの戦闘が幕を開けた。

 


 

時を同じくして、ロキ・ファミリアの拠点『黄昏の館』にて。

食堂で同じファミリアの仲間とお茶を飲んでいたレフィーヤは、突如として目の前の机をその拳で叩き割った。

後衛の魔導士とは言え、レベル3の冒険者。

机を叩き割るくらいの力は持っていたようだ。

 

「ちょ、いきなり何やってるの、レフィーヤ!?」

 

「すいません…。なんか、急にイラッときて…。」

 

「え?私達、なにか怒らせるようなこと言った?」

 

「いえ、そうではなくて……」

 

急に苛立ちを覚えたのは事実だが、それは眼の前にいる仲間に向けてではない。

むしろ、この苛立ちが自分のものかも怪しい。

なにせ、何の前触れもなく急に苛立ったのだ。

 

そのことに疑問を覚えたレフィーヤは、原因を考える。

精神病などは患っている覚えはないので、原因はもっと別のこと。

そこまで考えて、レフィーヤは背中が熱くなっていることに気がつく。

隠されてはいるが、ステイタスが刻まれている場所。

もっと言えば、スキルが刻まれている場所。

ここまで来れば、原因がなにかはすぐに分かった。

 

「………兄さん?」

 

「え?レフィーヤって、お兄さん居たっけ?―――って、ちょ、レフィーヤ!?」

 

確信を持ったレフィーヤはすぐに部屋に戻り、杖を持って館の中を走る。

この確信が間違っていればそれに越したことはないが、まず間違いない。

ならば、他の人たちにも協力を仰がなくてはいかない。

 

「お姉様!ベートさんたちも!!」

 

「レフィーヤ…?急にどうしたの?」

 

「何かあったのか?」

 

団長室にいたアイズを探し当てたレフィーヤは、その勢いのままに彼女を呼ぶ。

ベルの前ではないのでどこか幼い剣姫となっている彼女に、自身の持つ確信を告げる。

 

「ベルが危ない!!」

 

「!?」

 

「た、大変です!団長!アポロン・ファミリアがヘスティア・ファミリアを襲撃して―――」

 

アイズはレフィーヤの言葉を聞くのと同時に、窓に足をかけて飛び降りようとする。

そして、それとほぼ同時にフィンに報告に来た団員が事態を説明する。

もう、アイズが止まる理由などどこにもない。

ベートとティオナも同じように窓から出ていこうとしている。

しかし、そんな彼女たちをフィンは止めようとする。

 

「全員待て!これは他の派閥間の問題だ!僕たちが介入することは出来ない!ロキからも、この問題には介入するなと厳命が―――」

 

「知るか。それは私達が止まる理由にはならん」

 

「処罰が必要なら後でいくらでも受けてあげるわよ」

 

「お説教は後で聞きます」

 

三人はそれだけ言うと、フィンの静止を振り切って窓から飛び降りる。

一歩遅れる形で、レフィーヤも駆けていく。

それを眺めながら、ガレスとティオネは呆れるように話す。

 

「まあ、あれを止めるのは無理じゃろうな」

 

「もし仮にベルが国一つ敵に回したとしても、迷うことなく助けに行くだろうからな」

 

「そうじゃろうな。ハァァ…、儂も行きたいところじゃが、ギルドやその他の面倒な連中の相手をせねばならんからな」

 

「あの男の尻拭いは私達の十八番だろう?いつものことだ。それに、私達が行ったところで意味はない。あの4人だけでも過剰戦力だ」

 

「じゃな」

 

そう言いながら、二人はこれからの面倒ごとを調整するために立ち上がる。

そんな彼らの様子を、フィンはなんとも言えない表情で見つめていた。

 


 

場面はベルとアポロン・ファミリアとの戦場に戻る。

周囲の敵の相手を粗方終えたベルは、駆けつけた団長ヒュアキントスと戦闘を行っていた。

戦闘と言っても、本当につい先程始まったもの。

数手しかやり合っていない。

 

しかし、それでもベルはすでに追い詰められている。

斬り付けられた体はボロボロになっており、戦い続けるのは難しい。

だが、それでもベルは気丈に振る舞いながら殺意を持ってナイフを振るう。

 

「―――遅い」

 

「チィッ!」

 

ふるったナイフを軽々と弾かれたことで、ベルはこの場でヒュアキントスに勝利するのを諦める。

逃げるわけではないが、この場で勝つことは困難だと悟った。

状況を整え、もう少しステイタスが違えば話も変わってくるが、周囲に他の団員や人質になりかねないヘスティアがいる現状では、勝つことは出来ない。

勝てたとしても、力尽きて結局同じ結果になってしまう。

 

そう判断したベルは、攻撃よりも防御することを優先させた戦い方をする。

今は取り敢えず、時間を稼げば良い。

 

「不様だな。醜く、品性もない。なぜアポロン様はこのような輩に執着されるのか」

 

「アホ神に群がる猿山の大将よりは、美しさも品性も持ち合わせてるつもりだ。あぁ、それとも猿に人間の美醜は分からんのか。あのような醜い神を信奉する猿どもには難しかったか?」

 

「貴様ッ!!」

 

敢えて怒らせることで、スキを生じさせるベル。

そして、その隙をついて左手を前に突き出し、魔法を放とうとする。

ベルの速攻魔法を止めることは、ヒュアキントスには出来ない。

 

「貴様の魔法ごときが通じるとでも!?」

 

十分な装備をし、一つ上のレベルを持つヒュアキントスにはそう大した威力は期待できない。

ヒュアキントスはそれを分かっている。

もちろん、ベルも。

しかし、ベルはそれでも魔法を放とうとする。

 

「通じんだろうな。―――先程までと同じなら、な」

 

ベルはそう呟くと、迷うことなく魔法の名を唱える。

 

「ファイアボルト」

 

その瞬間、赤い炎雷がヒュアキントスを焼く。

炎雷は先程よりも威力が高くなっており、ヒュアキントスも思わず膝をついてしまう。

 

「なッ、貴様―――」

 

目覚めよ(テンペスト)ッ!」

 

「アルクス・レイ!!」

 

反撃に出ようとするヒュアキントスを突き離すように、二人の間に風を纏ったアイズとレフィーヤの魔法が割って入る。

当てるつもりはなかったので当然躱されるが、今はそれでいい。

 

「剣姫に、千の妖精(サウザンド・エルフ)…。ロキ・ファミリアの幹部がなぜここに?」

 

「ベルを助けに来た。それ以外の理由があるとでも?」

 

「それに、そいつ等だけだとでも思ってんのか?」

 

凶狼(ヴァナルガンド)大切断(アマゾン)……。」

 

レベル6の冒険者3名に、レベル3の冒険者1名。

ヒュアキントスたちに勝ち目など、あるわけがなかった。

 

「……引くぞ、ダフネ。ここで戦っても無意味だ」

 

勝ち目がなくなり、退却しようとするヒュアキントスたち。

だが、それはベルによって引き止められる。

 

「待て」

 

「なんだ?援軍が来たから気が大きくなったか?これだから品性がない醜い者は……。」

 

「貴様ら猿山共じゃあるまいし、そんなわけないだろう」

 

嘲笑するヒュアキントスを挑発しながら否定すると、ベルは一度ヘスティアに向き合う。

先程までのような高圧的な口調ではなく、いつも通りの落ち着いた口調で話し始める。

 

「神様。僕はアポロン・ファミリアを許すつもりはありません。母の教会を壊し、こんな卑怯な真似を続けるこんな奴等を許すつもりなど、毛頭ありません」

 

「……ああ」

 

「だけど、神様の今後も大きく関わっている以上、神様が止めるのなら僕はこの怒りを抑えます」

 

「止めるわけないだろう?君の怒りは、ボクの怒りでもあるんだから」

 

「神様…。」

 

迷うことなく自身の背中を押してくれるヘスティアに、ベルは目を見開いた。

自分がこの神に巡り会えた幸運に感謝しながら、覚悟を彼女に告げる。

 

「神様の命、僕に預けてくれますか?」

 

「もちろんだ!」

 

「………ありがとうございます、神様」

 

ベルの問いに、ヘスティアは勢いよく答える。

その答えを聞いたあと、ベルはヒュアキントスに向き合う。

そして、左手の手袋を外し、ヒュアキントスの顔面に叩きつける。

 

「戦争だ。私達に手を出した報い、貴様らの全てで受けてもらう」

 

こうして、二つの派閥の戦争は、火蓋を切った。

 


 

アポロン・ファミリアによるヘスティア・ファミリア襲撃事件のあと。

ロキ・ファミリアに在籍している古代の英雄たちは一同に介し、話し合っている。

 

「まずいことになったな…。どうする?」

 

「どうもこうもあるか。私は今すぐヘスティア・ファミリアに改宗(コンバージョン)する。それで解決する話だ」

 

「こ、改宗(コンバージョン)って、本気ですか!?」

 

「元々、記憶を取り戻す前の私がそこのクソドワーフに負けたから入っているだけだ。ここに拘る理由などない」

 

「で、でも……。」

 

「それとも、お前は自分の兄がどうなってもいいとでも言うつもりか?」

 

「そ、そんなこと言うわけ―――」

 

「全員落ち着きなさい」

 

混乱が冷めぬままに話し合いに突入し、熱がこもっていく。

言い合いにまで発展しそうになったその時、ティオナにより静止が入る。

 

「ここで言い合いしても意味がないでしょう?冷静になりなさい」

 

「チィッ!」

 

ティオナの言葉に水を差されたベートは舌打ちをして不機嫌な様子を隠そうとしていないが、それでも一応は納得した様子を見せる。

その様子を見たオルナは一度全員を見渡したあと、アイズに尋ねる。

 

「で、どうするの、アイズ?このまま黙っているつもり?」

 

「そんなわけないでしょう」

 

静かに怒りを滲ませながら、アイズは答える。

 

「取り敢えず、全員勝手な行動は禁じます。改宗(コンバージョン)など以ての外です。改宗(コンバージョン)がバレた場合、ベルは不利な条件の戦争に挑むことになりかねません。リューやクロッゾならともかく、都市最大派閥である私達は一挙手一投足が目立ってしまう以上、バレずに改宗(コンバージョン)することはほぼほぼ不可能です」

 

「なら、どうするつもりだ?」

 

「最悪の場合、私達でアポロン・ファミリアと同じことをします。神ヘスティアの送還前に戦争遊戯を仕掛け、応じなければ応じるまで殲滅します」

 

「それまで黙っているつもりか?」

 

「違います。ただ、出来ることが限られているのも事実。そこで、今の私達にできることを考えました。もちろん、行うことが決定しているベルの特訓以外で」

 

「何をするつもりだ?」

 

「それを答える前に。この場にいる全員に聞きます」

 

アイズは厳かな口調で、尋ねる。

同じファミリアの団員同士であっても、滅多に知らないことを。

 

「貯金、いくらあります?」

 

「「「「「………は?」」」」」

 

そして、アイズの口調に反し、全員間抜けな声を漏らす。

 


 

「と、いうわけで、改宗(コンバージョン)したいので、許可をください」

 

自身を除く派閥のメンバー全3名と主神1柱を前に、リューは淡々とそう言った。

大事な話があるから、と全員を集めて、第一声がこれだ。

接続詞を使っているが、前に言葉などありはしない。

最初っから、このセリフだった。

 

「待って、リオン。お願いだから待って、リオン。というわけって、どういうわけ?それに改宗(コンバージョン)したいって、どこに?」

 

「ヘスティア・ファミリアに」

 

アリーゼの問いかけに、リューは短く答える。

そして、リューの言う改宗(コンバージョン)先の名を聞いて、全員薄々感じていたことが正しかったことを悟る。

 

「ヘスティア・ファミリア…。まさかお前、アポロン・ファミリアとの喧嘩に首突っ込む気か?」

 

「そのまさかです。おそらく、アイズ殿たちロキ・ファミリアは動けません。動けば、ベルを更に不利な状況に追いやってしまう可能性がありますから。ならば、動けるのは私かクロッゾ殿しかいない。クロッゾ殿も動くでしょうが、魔剣があるとはいえ、彼だけではハッキリ言って心許ない」

 

「だから、貴様も動くと?」

 

「ええ。腐ってもレベル4ですので。力になれるでしょう。クロッゾ殿が力を貸す以上、ベル殿だけでも勝つ可能性は十分ありますでしょうが、万全を期したい。神の情欲などという、こんなくだらない理由でベル殿の道が奪われる可能性など、徹底的に潰すべきです」

 

確かな決意とアポロンへの怒りを滲ませながら、リューはハッキリとした口調でそう言った。

しかし、主神アストレアと他の団員たちの顔は暗い。

自主性を重んじる派閥であるため、本来であればここまで強く言うのならば背中を押したいところではあるのだが、今は都合が悪い。

1年後ならばまだ分からないが、今は都合が悪すぎた。

 

「リオン。あなたの思いは分かったし、出来ることなら力になってあげたい。あなたがベルくんに入れ込んでるのは知ってるから、余計にね。本来なら背中を押してあげるのが仲間なんだろうけど……。」

 

「悪ぃが、今は都合が悪すぎる。闇派閥の連中が活発に動いてるの、お前も知ってるだろ?下手すりゃ5年前と同じ悲劇が起きかねねえ」

 

「そんな状況で都市の治安維持に務めているファミリアの、中でも最高戦力とも言える貴様を、おいそれと送り出せるとでも?5年前の件で半ば壊滅状態にあるとはいえ、私達はレベル4の冒険者だ。ファミリアの等級は高く、治安維持に与える影響も大きい」

 

団員たちからは否定的な意見が飛び出る。

もちろん、リューもこれは予想できていた。

何をするにしても、時期というものがる。

今はそれが悪すぎたのだ。

それはリュー自身もしっかり理解できている。

 

だが、だからといって諦めるわけにはいかない。

諦めたら、希望はなくなってしまうのだから。

 

「あなた達がそういうのは予想していました。しかし、だからといって私も引き下がるわけには行きません。私が引き下がることで、ベルの道が潰える可能性がある以上、私も譲るわけにはいかない。もちろん、治安維持のことも考えています。改宗しても、今まで通りアストレア・ファミリアの活動には従事します」

 

「馬鹿か、貴様は。ファミリアが違う時点で、協力するにも時間がかかるだろうが」

 

「それにリオン、言わせてもらうが、お前がそこまでする必要性はない。別に、アポロンのヤツだってあのガキの命奪おうって訳じゃねえんだ。ただ、自分の手中に収めたいだけだろ?」

 

「神ヘスティアはどうなるのですか?あれほどの善神、オラリオを見渡せど数少ない。それに、アポロンではダメだ。あのようなファミリアでは、ベルは冒険を続けられない」

 

「神ヘスティアに関しては、あとでアストレア様に直訴してもらえば送還だけは避けられるだろう。元々影響力の小さいファミリアだ。それくらいは許されるはずだ」

 

「送還を阻止しただけで何になる?ベルがベル自身の意志で、自らの足と意思で先頭に立ち、冒険をしなければ何の意味もない。それには神ヘスティアの元が最適だ」

 

「だからなんだ?一介の冒険者。しかも、たかだかレベル2になり立ての子供だろう?」

 

「レベルだけが全てだとでも思っているのですか、輝夜」

 

世界最速記録(レコードホルダー)のことか?あんなものが理由になるとでも?」

 

「レベルですべてを判断し、レベルが低い冒険者を見下すとは…。あなたも随分偉くなりましたね」

 

「なんとでも言え。都市の安全のためなら、貴様の怒りなどいくらでも買ってやる」

 

輝夜とリューは静かに睨み合う。

アリーゼたちは睨み合ってこそいないが、眉間にシワを寄せて険しい表情を作っている。

緊迫感漂うその空気がしばらく続いたその時、今まで沈黙を保っていた主神アストレアが遂に口を開く。

 

「リュー。あなたはなぜ、あの子供をそこまで気に掛けるの?なぜそこまであの子供を助けようとするの?」

 

「全ては友のため、と言ったら納得してくれますか?」

 

「納得するとでも思っているのか?」

 

自身の言葉にすぐさま反論する輝夜に対する怒りを、グッと飲み込み息を吐く。

手で顔を覆い、気を落ち着かせる。

ここで怒りをぶつけても意味がない。

話は平行線を辿るだけ。

感情論でも理性的でも、どちらでも構わないからこの場にいる全員を納得させる必要がある。

そして、それはリュー・リオンには不可能だ。

 

感情的で感傷的な彼女には、売り言葉に買い言葉で対抗してしまう彼女には不可能だ。

こういう時自分の至らなさが腹立たしい。

 

クロッゾやユーリなら、友のため、という言葉だけで説得が事足りただろう。

エルミナやガルムスならば、恩ある戦友のため、という言葉だけで説得が事足りただろう。

フィーナやオルナ、アリアドネならば、愛する彼のため、という言葉だけで説得が事足りただろう。

 

だけど、自分にはそれらがない。

それらの言葉を紡ぐには、自分という存在は不甲斐なさすぎるのだ。

ならば、どうするのか。

 

ならば、自分にしかないもので説き伏せるしかない。

 

「私…私は…リュー・リオン…。いや、違う…。」

 

「リオン?」

 

一人つぶやきながら、リューは意識を傾ける。

無意識的に行っていたことを、意識的に行うために。

 

自覚はなかった。

アーディに言われ、初めて気がついたくらいだ。

おそらく、意識の問題。

彼らといると、意識が昔に戻る。

 

罪人と相対する時過激な態度を取るように。

街の住民と相対する時穏やかな態度を取るように。

それと同じように、彼らといる時の自分は、確かに昔の自分に戻っていた。

無意識で行っていたことだ。

意識すれば、出来ないことはないはずだ。

 

そうして、リューは軽快な口調で喋り始める。

歌うように、演じるように、踊るように。

 

「いやはや、自分の至らなさが嫌になってきますなぁ。クロッゾ殿ならばもうとっくの昔に説得など終えてるでしょうに。何をするにしても中途半端。その道を選んできたのは自分とは言え、やはりこういった場面ではやり辛い」

 

滅多に笑わないリューが軽快に笑い話し始めたことにアリーゼたちは少し驚き、同時に警戒する。

7年前…、いや、オラリオに来てしばらく経った時から、リューの雰囲気が突然変わることは何度かあった。

アーディを助けたときだったり、5年前のダンジョンの異常事態(イレギュラー)の時だったり。

彼女が彼女でなくなるような不安を覚えたことも一度や二度ではない。

しかし、ここまでではなかった。

ここまで豹変したのを見るのは、初めてだった。

 

「リオン…?」

 

「失敬失敬。余計なことを喋りすぎてしまったようで」

 

「…なんだ、貴様?気でも触れたか?」

 

「ハッハッハッハッ!輝夜には言われたくありませんねぇ。あなただって、相当な化け猫の毛皮を被っているでしょう?それと似たようなものですよ。ただ、私のこれは両方とも私自身であると言うだけの話です」

 

煙に巻くように、踊り明かすように、リューは笑いながら言葉を回す。

そんなリューを逃さないために、アストレアはもう一度口を開き、再度彼女を問いただす。

 

「ねえ、リュー。もう一度あなたの口から本当のことを聞かせて。なぜあの子供をそこまで気に掛けるの?」

 

「……―――単純な話ですよ。彼は、希望だから」

 

リューは先程までの軽快な笑みから、どこか後悔や哀愁が漂う笑みへと変え、答える。

 

「何も出来なかった私と違い、彼は成し遂げた。少女を救い、国を救い、人類を救った。彼が齎した喜劇(きぼう)が、世界を救ったんです。3000年前のあの日、私達はそれをしかと見届けた。3000年前のあの日から始まり、今この時に至るまで続いている英雄時代。その幕開けを飾り、礎となった彼を見捨てることなど、どうして出来ようか」

 

「……3000年前?それに英雄時代?何を言ってるの、リュー?」

 

「英雄時代は1000年も前に終わったはずだろ。神々の降臨によって、英雄の時代は幕を閉じた」

 

「いいえ!英雄時代は終わってなどいない!!」

 

リューは声を荒げ、ライラの言葉を否定する。

 

「彼によって齎された希望は、今も続いています。薄れようとも、忘れられようとも、今も尚輝き続けています。彼が造り上げた英雄の舟は、最後の乗組員を待ちわびているのです。そして、その最後を飾るのは、ベルだ」

 

「…………。」

 

「都市の安寧を祈るのなら、今本当に必要なのは私ではなくベルです。彼が齎す希望が、喜劇が、やがて世界を救うのだから。託されたものすらも満足にやり遂げることが出来ないような不出来なエルフよりも、彼という英雄が必要なんです」

 

リューは後悔を滲ませながら、そう言い切る。

そんなリューの核心に、彼女たちは迫る。

 

「すべてを話して、リュー」

 

「話せば、改宗をお許しくださいますか?」

 

「内容によるわ。それでも、天秤の名のもとに公正に物事を判断することを約束する」

 

「十分ですとも。私の話を聞けば、絶対に理解してくださるでしょうから」

 

「大した自信だな」

 

「ええ、もちろんですとも!なにせ、私達自慢の、英雄の話なのですから!!」

 

竪琴はない。

それでも、リューは声を張り上げ歌うのだ。

 

「オルナ殿にはご内密に。世界の全てへ他言無用に。彼の遺志を守るため、誰にも話さないでくださいね」

 

そして、リューは口にする。

あの日自身が歌い、世界に広めた演目を。

 

「大陸の中心、『楽園』たる王都によって繰り広げられる英雄譚!!歴史に残されなかった王国の闇!ひた隠しにされた英雄の悲壮な思い!それらを今こそ、歌いましょう!あの日歌うことが出来なかったすべてを歌いましょう!私達の英雄を救うために!」

 

いままでの無念を乗せて。

あの日の物語を歌う。

あの滑稽で、どこまでも優しくて、誰よりも強い英雄の物語を。

今度こそ、歌にするのだ。

彼が望むような喜劇ではない。

世界が望むような喜劇ではない。

自分たちが目にした、英雄譚(しんじつ)を。

 

「我が真名ウィーシェの名のもとに歌います英雄譚は『アルゴノゥト』!愚かで優しい、私達の愛した真なる英雄の名です!」

 

こうして語られる英雄譚。

始まるは喜劇ではなく悲壮を含んだ英雄譚。

残されなかった栄光を、リューは歌うのだ。

 

 




あとがき

気がついたら最後にこのシリーズを更新してから3ヶ月が経ってました。
最近時間が過ぎるのが早く感じます。
ゆっくりではありますが、書いていきたいと思います。

Q.「あの二人がベルと一緒に過ごしてたのは一時期だけなの?」
A.一時期だけです。5年くらい一緒に暮らして、療養のために離れて暮らすことになった、という設定です。

それと、追加説明です。
アーディさんを子どもの自爆から助けたのは記憶を取り戻したリューさんです。
そして、アストレア・ファミリアはジャガーノートの出現に遭遇したものの、リューさんの活躍によって四人だけは生き残ることが出来た、という設定です。
とはいえ、半分以上団員を失ってしまったアストレア・ファミリアは原罪も半ば壊滅状態に陥っています。
そのことを、リューさんは今でも悔やみ続けています。
あの時いたのが、自分ではなくアルゴノゥトだったら、と。

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