この世界には古来より『浴』と呼ばれる物がある。呪霊の血を一箇所に溜めそれに浸かることで魔に近づき、体そのものの構造を人間から呪霊に寄せるような役割があるとのこと
人間を辞めるような行為にどういった利点があるのかと問われると、本来呪いで出来ている呪霊はシンプルに呪力の扱いが上手い。人間で例えるなら、生まれた瞬間から自転車の乗り方を知っているくらいのアドバンテージはあると私は考えている。
かの両面宿儺でさえ生まれた時は人間であり、最初から最強ではなかったそうだ。詰まるところこの『浴』と呼ばれる一種の儀式には、人間の呪いに対する耐性と内包する呪力量の向上が期待できるのではないかと考えた
呪いに対する耐性と、呪力量の向上は一級相当で『アッチ側』に届かない私には魅力的に感じ、実践することにした。
術師であっても人間からすれば呪霊の血は毒にあたるので体を慣らすために最初は四級の
私がやっていることは、金属アレルギーがある人の肌に金属を当てているような物で、当然拒否反応は体に出てくるが反転術式で無理やり治して、毒に慣れさせる。しばらくすると蝿頭の血では拒否反応が出なくなり、『浴』の中身を三級相当の呪霊に切り替え最終的に準一級相当の呪霊の『浴』も問題なくなるほどに呪いに対して耐性を得たところで、次は
本来術式は脳に刻まれた一つであると決まっているが、術式を持っている呪霊が受肉した際、受肉体に術式が宿っているなら受肉した呪霊の術式と受肉体の術式のどちらも使えることになる
それなら自分が気に入った術式を持っている呪霊に出くわしたなら、そいつと主従関係を結び、呪霊側に圧倒的不利な縛りを設けて呪物化させて取り込むことで、その術式を自分が使えることになるのではと考え実践し…成功させた。
◆◆◆
星槳体、天内理子の護衛はほとんど原作通り完了した。現地でのバックアップ止まりであった私は、若干歳が離れていることもあって天内理子との会話はほとんどなく、沖縄にもついて行ったもののほとんどの護衛を五条と夏油の二人に任せた。私の術式は市街地での戦いに向かなかったのもあり、何かあった時のための連絡役程度に留まった。
高専の結界内へと入り、普通であれば私のお役目はここで終わりだったが、少し無理を言って
やはり甚爾くんか…警戒していても本当に透明人間みたいに気配がまるで分からなかった。
「悟ッ!」
呪霊操術で甚爾くんを拘束して五条に近づこうとした夏油を止める。
「夏油、天内理子を薨星宮へ連れて先に行ってくれ、最優先は天内理子だ。…立てるな五条」
やはり心配ではあるが、五条であれば大丈夫という安心感からフッと微笑むとやはり五条の方も応えるように不敵な笑みを浮かべて返す。
「モーマンタイ、刺された瞬間は間に合わなかったけどそれ以降は呪力で塞いだし、刃を引かせなかったから傑も心配しなくて大丈夫だ、ニットの服に針を通すようなもんだ本当に大丈夫。それよりもパイセンの言ったように天内優先、薨星宮に行ってくれ…アイツは俺らが倒す」
◆◆◆
初めて会った瞬間、俺は「キッショ」と口に出していた。内包している呪力量は御三家にいる一級術師などとは比較できない最上位の量であり、その総量は俺に並ぶものであった。更に内側に秘めてる呪力は呪霊のように禍々しい。それなのに周りはその呪力を感じ取ってないように窺えたからだ。
そしてその態度も拍車をかけた。見た目は柔和な笑みを浮かべる優男然としているのに、内側の呪力はドス黒い、裏表のあるコインを裏表同時に見ているかのような気色悪さが、六眼を持ってる俺にしか分からない事実に最初は嫌気が差した。
しかし会って数ヶ月が経過したところで呪力は禍々しいのに悪意はなく、見た目通り話しやすいし親しみやすいので、もうそういうものなのだろうと警戒はある程度しているが自分を納得させた。仮に高専側を騙しているのならそれはそれでぶちのめせばいい。
「なぁパイセン、これも想定通りだったりしない?」
「どうかな?…ただ、可能性程度なら考慮していたのは事実だね」
そうだろうな、普通なら高専結界に入った時点でパイセンの任務は終わり、そのまま帰っても問題なかったところを念の為と言いながらついてきたのだからこの展開はある程度想定していたのだろう。
しかし俺の質問に呪力の乱れを感じなかったところから、最悪の展開だった俺VSパイセン&襲撃者の構図は無いだろう。単純に二人がかりというアドバンテージはデカい。
「それでなんかいい案ある?」
「そうだね、では…逃げる隙も与えない範囲で押し潰して仕舞えばいい。五条は無下限で私を含めた防御に専念しててくれ」
「なるほど、アレね」
俺とパイセンは背中合わせのような立ち位置に移動して、現在高速で撹乱している襲撃者に対して死角を極力なくした。呪力での追跡も無理、気配はおろか肉眼では捉えられないとなれば、あとは無下限の防御頼りとなる。
「足引っ張んなよ、パイセン」
「はは、善処しよう。それより…潰れてくれるなよ」
俺の言葉に答えたパイセンは人差し指を天へと掲げた。
「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器」
無下限の内側であっても空間の軋みを感じる。まるで真夏のアスファルトで見る陽炎のように視線の先がゆらゆらと輪郭をぼやかせる。
「湧き上がり・否定し、痺れ・瞬き、眠りを妨げる」
遥か向こうの景色には高層ビルのような高さの黒い壁が徐々に地面から天へと伸びていく
「爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形」
天まで伸びた漆黒の壁は"帳"などとは訳が違うブラックホールの内側を想像させる黒さを持って天を閉ざす。
パイセンは自分の技の対象を
「結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れ!!──破道の九十、黒棺」
瞬間…時空が歪むほどの超重力を無下限越しに感じた。
「どうにか…耐えてくれたようだな」
「当然、よゆーだって」
「その割には足元がフラついていないか?」
あの瞬間、無下限を突破されそうになるほどの時空すら歪む超重力を耐えるための危機反応が、今まで感じたことのない俺の脳みそに生存本能かのように訴えかけ、呪術の核心に触れ反転術式の取得と共に全神経を反転術式に注ぐことでなんとか耐えることが出来た。
「どこ見て言ってんだよ。まぁでもこれだけやったんだから流石に勝ってるでしょ」
見渡す限りの更地が広がっているが、怒られるのは俺ではなくパイセンなので別にいいでしょ、パイセンの頭に落ちる先生のゲンコツは見てみたいし。
「それにしても夏油と天内理子達はしっかり離れてくれただろうk──」
瞬間、目の前にいたパイセンの胸に呪具を突き刺す襲撃者がいた。
◆◆◆
違和感
五条悟の気配、目視による位置と自分の勘による配置のズレ。
違和感
周りの風景は超重力で押しつぶされて更地となったが、太陽の位置から割り出された半歩ほどのズレ…いや、コレでいい。全て問題なし。
「私の姿が…五条悟に視えているか」
確実に五条悟に突き刺したと思った特級呪具、天逆鉾は何故か同伴の術師、愛染宗介に突き刺さっていた。
認識の誤認…そうか、お前は
一瞬の動揺を見逃す様な五条悟ではなく、奴は動きの止まった俺を射抜いた。
「虚式『茈』」
違和感
超重力から逃れきれず左脚を消失した時点でいつもの俺なら「割に合わない」とトンズラこいた。
否定してみたくなった。まるで地を這うアリを踏み潰すかの様な技を使う奴らを見返してみたくなった。生まれた瞬間から才能で溢れたやつをねじ伏せてみたくなった…自分を肯定するために、いつもの自分を曲げちまった。
その時点で負けていた。
「
「最期に言い残すことはあるか?」
「……ねぇよ。───2、3年したら俺の子供が禪院家に売られる。好きにしろ」
お疲れ様です。
正直コレがやりたかっただけの短編かもしれねぇ…