ようやく終わりが見えて来ました。
熾烈な攻防の末、愛染が宿儺に対して放った斬撃に黒い火花が咲き乱れる。
"黒閃"、それは呪術師としてのポテンシャルを引き上げ、スポーツ選手で例えられる"ゾーン"に入った感覚を味わうことになり、そのポテンシャルの上昇は百二十%に及ぶ。
「クハッ…」
「今しがた発動した黒閃を以て、君を魔虚羅ごと巻き込み、その適応そのものと共に無に
黒閃が発生した斬撃の威力から本能的に距離を取って膝をついた宿儺に対して、愛染は人差し指を天に上げ、高らかに詠唱しようとする。
無論そんな隙は許さないと言わんばかりに、宿儺は魔虚羅をけしかけるが、愛染は接触する前にその詠唱を終わらせようとしていた。
「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し、痺れ・瞬き、眠りを妨げる、爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れッ!破道の九十、黒棺ッ!!」
詠唱の終わる瞬間、魔虚羅が愛染のすぐ目の前まで迫っていたが、黒棺の漆喰のような黒い壁で隔たれた。
「長い歴史に…廻る呪いの因果をこれで、終わらせられる」
肩で息をしていた愛染は黒棺を解除しようとしていた。しかし解除するまでもなく、黒棺の壁はヒビが割れるかのように崩壊し、中で佇んでいた宿儺の姿を露わにした。
「なん………だと…」
腕が四本、腹部にも口を宿したその姿はまさに異形、手印をしたまま武器を持てる四本の腕に、詠唱しながらでも息継ぎの心配のない腹部の口は呪術師としての機能を突き詰めた形とされる。
「魔虚羅の適応の更に上を行かれるとは思っても見なかった。そしてこの姿を見せることも正直…考えていなかった。その点は謝罪する。そして俺の本気を味わえる事を誇りとして、安らかに逝け…それが俺が貴様に送る唯一の手向けだ」
"領域展開 伏魔御廚子"
逃げられないように敢えて領域を閉じられた愛染は、移り変わる景色の中でその感情を"恐怖"で埋め尽くした。
◆◆◆
崩玉とはBLEACH作品における重要アイテムである。詳細は省くが、その効果として周囲の人の精神に干渉して、"その人の願いを叶える"…いわゆる願望機としての性質を持っていると考えていい。
どんな願いでも叶うわけではないにせよ、つまるところ万能の長物と言ってもいい代物だが、そんなファンタジーやメルヘン世界でも存在しそうにない物質の話を持ち出したことには理由がある。私の領域、"無鏡水掌"はその副次的効果として、領域内限定で一度きりの幻想の創造を行える…。
言いたい事はわかってくれたかな…その効果を使い崩玉を創造させ、崩玉そのものの特性を持って私の生得領域外でも存在させられるようにした。
五条が私を視ているのであれば、私の呪力量は毎秒爆発的に上がり続けていたことだろう。しかし覚醒前の崩玉の効果は黒閃で身体に慣れさせたとしてそれまでだ…"それまでだった"。
崩玉と融合した私だが、その身を"進化"させるにはある要因が必要だった…生物としての恐怖、ただそれだけだが唯一にして最大の要因だった。
「私の存在はもはや、人や呪霊とは隔絶され、生物として存在するステージを一つ上げた。君の
「馬鹿なッ!?貴様のその姿…呪力が…。いや違う、ありえん…貴様は、俺の領域で確実に殺したはずだッ!!」
「…無理もない事だ、同情しよう」
領域で確実に殺したと思っていた存在が、進化したなどそうそう考えつくものでもない。
「この世界には最初から真実も嘘もない、あるのは
しかしあまりの恐怖と宿儺の領域の特性から、はんぺんみたいな…呪霊で言うところの呪胎である進化の兆しを見せている、壁塗りのような形態をすぐに終わらせてくれたのは私としても嬉しい誤算だ。本当に感謝しよう。
あそこで普段通り閉じない領域をされていては、恐怖という点でははんぺん形態止まりだっただろう。
そして崩玉の力を完全に制御出来た私ならば、このような芸当が出来る。
「では両面宿儺、そろそろ返してもらおう…"彼"は私の大事な教え子なのでね」
私の傍ではグッタリとしている"伏黒くん"が私に支えられ眠ってる状態だ。
「愛染宗介!!貴様ァ!!」
周囲の人の精神に作用する崩玉の力を以て、伏黒くんの体と魂を両面宿儺から切り離した。本来の姿になった両面宿儺は、あの見た目であれば外郭を維持でき、世界に存在することができるだろう。
「"龍鱗"、"反発"、"番いの流星"!!」
この感覚…魔虚羅の手本無しの土壇場で時空を捉えた斬撃を放つ気か…。しかし…私がこの姿になれた後では既に手遅れだ…。
"今"ならできるはずだ。まがいものでなくなった、私という存在が確固たる意思を持って存在した私ならばッ!。
「卍解___
私の手にしていた天逆鉾が、ガラスのようにひび割れ、現れたのは見た目だけなら普通の日本刀だった。崩玉よ…私を"主"と認め、応えてくれたか。
宿儺の攻撃に合わせて私も刀を振るう。
私の実体化した斬撃が飛び、見えないはずの斬撃を放った宿儺の斬撃とかち合う。
「俺は、俺がッ!こんな虫ケラなんぞに!!」
次元を絶つ斬撃が私の呪力を斬撃として飛ばしているだけの攻撃に止められている時点で、結果は見えていた。
「さようなら、宿儺…おやすみ、今はゆっくり眠るといい」
かち合っていた攻撃同士は徐々に宿儺の方に近づいていき…その身体を光で包んだ。
「…ケヒ、負けるのも…偶にはいい…かもしれん…な…」
お疲れ様でした。
宿儺の最後は、満足して逝った方が格落ち感ないかなって思いながら書きましたね
鏡花水月の卍解は、自分をまがいものだと思っていた愛染が、自分を肯定するために、生み出した物だったりします。
まさかノリと勢いだけでここまで続くなんて…