続きます。ちょっと傷心なので…優しくしてね
病院の廊下を息を切らしながら走る青年は、ある病室に行き当たると勢いよく病室のドアを開け、顔を出す。
「兄ちゃん!!」
脹相のいる病室に駆け込んだ虎杖悠仁の片手には、詰め合わせフルーツのバスケットが握られている。
脹相はベッドの上に腰を下ろして、上着を脱いだところに肩口を包帯で巻かれていた。脹相が病院に運ばれたという知らせを受けて、急いでお見舞い用のフルーツを買ってきていた虎杖だったが、入院するわけではないが急いできたということが伝わり、脹相は目頭が熱くなるのを感じて、両目の目頭を指で摘み少し上を仰ぎ見た。
「すまん、心配かけたな。少し油断してしまった様だ」
「確かに、Mr.脹相にしては"らしくない"…一体何があった?」
どこからともなく現れた東堂葵は病室の引き戸に背中を預け、包帯を巻いた片手を上にして腕を組んでいた。
「水臭いじゃないかブラザー、Mr.脹相のお見舞いなら、誘ってくれてもよかっただろう」
東堂は両腕をガバッと開き暑苦しく自己アピールに尽力した。
「…悠仁が呼んだのか?」
「兄ちゃんが呼んだんじゃないの?」
二人で顔を見合わせ東堂に目をやると、なんとも言えない時間が流れた。
「まぁいい、本題に入ろう。Mr.脹相、貴方が不意をつかれたという人物について詳しく聞かせてもらいたい」
急に真面目な話になり落差で調子が狂いそうになった脹相と虎杖だったが、仕事で来ていることだと分かり、気分を切り替えた。
「俺を襲ったのは、中肉中背の髪の長い男の見た目をした呪霊。見た目だけなら普通の人間に見えたが、俺の様な半分呪霊の受肉体でもない分類上は普通に呪霊だったな」
「ただの呪霊か…にしては妙だ」
「その通りだブラザー、人間の見た目をした呪霊というのは、今まで俺たちが戦った真人とかいう呪霊しか現れなかった。しかも最近現れたと仮定したとしてMr.脹相を気絶させられるほどの呪力出力をそう易々と出せるものでもないだろう」
「その点についてはもう一つ話さなければいけないことがある。奴は俺の術式を奇妙なレリーフの様な装置で奪った点だ。奴はその奪った術式で、穿血を繰り出した…"俺が出そうとしていたまるっきり同じ威力の穿血を"だ」
「その話は本当か?Mr.脹相」
「ああ、他ならぬ俺の術式だ、見間違えることはない」
脹相の話を聞いた東堂は深く考え込み、一つの結論を出した。
「これは俺の仮説だが…その呪霊は術式を"奪った"わけではないかもしれん」
「術式を奪ったわけではない…ってどういうことだよ東堂、兄ちゃんの術式は発動しなかったって話だっただろ」
「待てブラザー、問題は二つある。一つ、Mr.脹相が術式を発動させようとしたのに発動しなかった。そして二つ、相手の呪霊が赤血操術の奥義である穿血をすぐに繰り出した点だ…この事に何か違和感はないか?」
指を二つ立てた東堂の言葉に、思い出す様に脹相は口を開く。
「確か…穿血を撃つには必ず"貯め"の技である百斂を挟む必要がある…しかしあの呪霊が百斂を使ってる様な動作はなかったはずだ」
脹相の言葉を聞いたその瞬間、虎杖はハッと何かを閃いた様にして口を開く。
「まさか…東堂…"術式を奪う"じゃなくて、"未来で使う予定の術式効果を持ってきている"とか考えたんじゃ」
虎杖の答えを東堂は指をパチンと正解のベルの様に鳴らした。
「流石はブラザー」
「いや、流石に無茶な考えじゃないか?それじゃ未来を操作しているって言ってる様なもんだろ」
呆れながら答える虎杖だったが、何かに引っかかった脹相は顎に手を置き、重苦しく言葉を発した。
「…しかし、本当に未来を操作しているという話なら…俺達はそんな奴とどうやって戦えばいいんだ」
脹相の言葉に虎杖も東堂も答えられなかった。
◆◆◆
仕事もひと段落ついたし、少し遅れての昼食を探していたところに、パイセンとよく任務終わりに行っていたラーメン屋を発見した。別にここにくるために総連盟付近から抜け出したわけではないけど、付近の食べ物屋は食べ飽きていたのも事実だった。
内装はちょっと前まではカウンター席しかなかった小さな店だったけど、今ではファミリー層向けにボックス席も備え付けられている。見た目にあの時のノスタルジーを感じることは出来なかったけど、ここのラーメンの味は変わってないだろう。
今はピークのお昼時が過ぎていることもあって、四人の団体と数人の個人らしく客もまばらな様子だった。
「いらっしゃい」
「一名で」
やっぱり店主は変わらずあの頑固っぽそうなおじさん、話してみると面白いけど、人見知りらしい。パイセンと傑と硝子とよく行っていた時は、結構話し込んだ記憶がある。
昔を懐かしむままに入り口に近いカウンター席に座る。
「食い終えただろう、早く行くぞ」
「ちょっと待って、スープをもう少し飲ませてくれよ」
「お前、塩分のとり過ぎは体に毒だ」
僕が席に着くと同時に、声からして若い男女四人グループがちょうど席を立ち、僕の後ろを通っていた。
「ご馳走様、美味しかったよ」
その声が聞こえた瞬間、僕は去っていく四人グループを目で追った。
店員が僕の席にラーメンを運んでくるところを見えながらも、僕は急いで席を立ち、出入り口から飛び出た。
「パイセン…」
すぐ飛び出したのに、不思議な事に四人グループは人混みに紛れてか姿を消していた。
先ほど談笑していた四人グループの一人がパイセンと同じ声だった。本当に本人かどうかは確かめてみるまでわからないけど、もし近くにいるとしたら、居場所を探るヒントになるかもしれない。
今まで掴めない雲の様な存在だったものが、手の届きそうな位置に来た様な錯覚を覚え、自然とやる気が出てきた。
「僕は諦めないよ…パイセン…」
◆◆◆
「さっきのは五条悟でしょ?せっかく会ったのに挨拶もせずに去っちゃってよかったのかい?」
「別に会いたくないわけじゃないけどね。記憶も消えているだろうし、私は既に彼らの世界に不要な存在だから、干渉すべきじゃないさ」
「フン、俺には会わない理由作りをしている様に聞こえるな」
「宿儺様の言うとおりだ、貴様は自分自身を鎖で繋いでいる様なものだ。傍からみると息苦しそうでこの上ない」
「はは、これは手厳しい」
◆◆◆
暗い部屋をコツコツと足音を立てながら男が一人部屋の扉を開けた。
「今戻りました」
「早かったわね、トリスタン」
トリスタンと呼ばれた美しい見た目の髪の長い男は、やや筋肉質な美しい女性、ガウェインの言葉に答えた。
「ああ、聞いていた話より随分呆気なかったよガウェイン。もう我らの存在を明るみにしても良いとさえ思えてくる」
「転移も無下限も御廚子も星の怒りも揃っている。もう動いても良いと思うが、我らの主の判断に任せる他ない」
トリスタンに同調したのは腰まで伸びる金髪が特徴な、これまた美しい見た目の男性、ランスロットだった。
「そう血の気が多いと足元を掬われるよトリスタン」
トリスタンを嗜めたのは見た目は一番若いであろう少年の姿をしたパーシバル。その幼さの残る見た目だが、どこか底知れなさを感じさせている。
「パーシバル…そうは言うが、これだけの術式があれば例えあの五条悟であろうと___」
「五条悟であろうと………なんと言おうとした?」
一つの男の声が聞こえた途端、話し合っていた四人が一斉に跪き、トリスタンの額から一筋の汗が頬を伝った。
「私の目の前にいる、お前は預言者か?」
「あの…それは…?」
トリスタンがその男に跪きながら顔だけを上げ、その男を見上げる。
「答えろ。私は今、"お前は預言者か?"と問うている」
「…違います…」
「ならば何故、五条悟と戦ったことも、ましてや会ってすらいない現状で勝てると"未来の話をしている"…故に"お前は預言者か?"と問うた」
「………」
トリスタンはその男に何も言えず、口を慎んだ。
「私は、"今"の言葉が聞きたい…それでは、平和のための知らせを聞こうか」
お疲れ様でした。
なんか悪そうな雰囲気を出している何某さん…一体何者なんだ………。
ヨハネの四騎士を従えてるのが人間の呪霊って展開なのが良い、「神は皆、人の紛い物」って藍染様のオサレポエムがある点と何気にちょっとリンクしちゃってるんですねぇ。
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