一億年に一度の美少女の兄   作:なぎっぷ

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更新ペース牛歩で申し訳ありま候


2 引きこもり吸血姫、外に出る/日常

魔核と呼ばれる特級神具がある。

無限に魔力を生み出し、無限に再生するというその効果は、自身の血液の一部を魔核に捧げる儀式を経ることで、魔核に己を一部と認識させ、無限の再生力そのものとなる。

つまり、実質的に魔核の効果が及ぶ範囲において、不死同然の肉体となるのだ。

ムルナイト帝国を含めた六大国と呼ばれる6つの国々はそれぞれ魔核を1つずつ保持しており、6つの魔核すべての影響範囲がちょうど重なる領域がある。

通称《核領域》。各国同士の戦争は基本的にここで行われ、お互いが死ぬことはない争いには、どこか命をかけた必死さが失われ、今ではエンタメ戦争と呼ばれている。

 

もちろん、参戦している者たちは皆全力を出してはいる。各国の威信をかけた戦争なのだ。武力の誇示に、将軍の宣伝、ひいてはその両方を持つ国力のアピールと、手を抜くようであれば即座に左遷されてもおかしくはない一大業務である。

だがしかし、本当の生死のかかっているソレはきっとこんなおままごとみたいな戦争とは訳が違うのだろう。

一時的には死ぬが、死んでもすぐに生き返るのだ。命のかかってない争いにどこまで死に物狂いになれるのだろうか。

 

世界の中央に位置する《核領域》にて行われたのは、私率いるムルナイト帝国軍第七部隊の初陣。

対する相手は、チンパンジーを大将に据えた屈強な獣人で構成されたラぺリコ王国軍。

 

余談だが、大将のチンパンジーはハデス・モルキッキという名前らしい。似合ってない。

 

不本意ではあるが、七紅天に就任し、第七部隊隊長となってしまった以上、爆死して痛い思いをしないためにも、仕事として戦争に参加しないといけないのだ。

本来はさすがに就任すぐに戦争とはいかないが、今回は下剋上された前任者が日程を既に組んでおり、国家の威信のためにも、こちらの事情で戦争をキャンセルするわけにもいかなかった。

 

はじめての戦場。変態メイドは「必ずお守りします」と言っていたが、なんかの間違いで流れ弾が当たったりしたら痛い思いをするかもしれない。

そうしてびくびくした思いを内側にとどめるように努力しながら始まったエンタメ戦争の結果は、あまりにもあっけなく、ムルナイト帝国軍第七部隊による圧勝で終わった。

もちろん、怖い思いをしなかったかと言えばうそになる。だって、カオステルとかいう枯れ木みたいな吸血鬼は「閣下が戦うところが見てみたいです」などとほざくし。

 

アホか!!前任者を弱いからって下剋上するような奴らに弱いってバレるとか、殺してくれって言ってるようなものじゃないか!!

 

あと私は何度も言うように痛いのは嫌だが、痛そうなのを見るのも嫌なのだ。人が死にまくる戦場は、後で再生するとは言え見ていて気持ちのいいものではない。

 

そうした理由から、カオステル達をなんとかごまかした後はテントに籠って戦場に目を向けるフリをしながら『ガンガンいこうぜ』と指示を出していただけだった。

だが、相手は所詮は突撃しか能のない獣人達であり、なぜかとてつもなくやる気を出していた第七部隊の面々によって、適当な作戦でも大勝を収める結果となったのだ。

決着後に唐突に現れた面倒な蒼玉種の新聞記者からのインタビューも終わり、ひょっとしたら戦争中より熱気にあふれていたのではないかと思うほどのこまりんコールもいつのまにか鳴りやみ、戦場はいつしか夕焼けに照らされ、静寂に包まれた。

死んでいた獣人や吸血鬼も再生しながら、自国へと帰っていく。それを丘の上でただ1人見つめていた。

 

「……これからも、こういう毎日が続いていくんだよな」

「もうすでに憂鬱ですか?特に何もしていないというのに」

 

なんて辛辣なメイドだ。そういえばこいつもいたな。

一般人からしたらそれほど激動な1日ではなかったかもしれないが、3年もののエリート引きこもりにはとてつもなく濃厚な1日だったというのに。

 

「まぁ、なったからには頑張るよ。やりたくないけど」

「……コマリ様ならもっと駄々をこねると思っていましたが、意外と前向きなんですね」

「だってお兄ちゃんに期待されちゃったし。あとお父さんにも」

 

本当はやりたくない。帰って前のひきこもり生活に戻りたい。

だが、お父さんとお兄ちゃんのことを考えると、そう簡単に戻ってはいけないと考えさせられる。

確かにやり方は強引だったが、お父さんだって3年もひきこもっていた私の将来のことを真剣に考え、七紅天の仕事を持ってきた。

お兄ちゃんも、私が働くという決意を聞いて、本当にうれしそうに喜んでくれた。「よく決意したね、えらいよ」と、頭をなでてくれた。

 

2人の信頼がこもった眼差しを受けて、私に期待してくれていると強く肌で感じて……この想いは裏切りたくないな、と。そう思ったのだ。

 

「……なんだよ」

「いえ別に」

 

見れば変態メイドはぷいっと頬をふくらませながらそっぽを向いていた……かと思いきや時々こっちを見てまたぷいっとそっぽを向く。

 

なんだ?なにがしたいのかさっぱりわからない。

 

「……私のほうがコマリ様を愛しているのに」

「ん?なにかいった?」

「こんないたいけなメイドの純情を弄ぶなんて、ひどいご主人様ですって言ったんです」

 

何を言ってるんだお前は。主人の裸に興奮するメイドがいたいけで可憐な存在なわけないだろ。

 

「さぁ、帰りましょうかコマリ様」

 

先ほどまでの拗ねたような態度でなく、お淑やかな微笑みを浮かべた顔で手を差し出してくる。

いつもの変態メイドではなく、まさしくメイド然としたその姿は、敵と味方の血が染みついた戦場にはひどく場違いであり、美しく可憐に見えた。

 

仕方ないな、とおとなしくヴィルの手を取り、2人で並んで帰路につく。

 

「そういえば、コマリ様。お召し物のご様子はいかがでしょうか」

「特に問題はないけど。どうかした?」

「いえ、今朝のこともありますので。あまりの恐怖にもしや、と思いまして」

「あ、あれは……というか元を言えばヴィルがトイレに行かせなかったからだろ!」

「グルグル様が頭から突撃したせいだと思うのですが……」

「うっさい!!」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「コマ姉!おもらししたんだって?」

 

最悪だ。

 

「……誰が言ってたの」

「お父さんっ!」

 

お父さん何言ってるの。

 

けたたましく私の部屋のドアをあけて侵入してきたのは、ロロッコ・ガンデスブラッド。私の妹である。

無邪気で天真爛漫なかわいらしい少女であるが、私の平穏生活を最も脅かす小悪魔ならず大悪魔でもある。私が独自に定めた危険度評価では5という最大値を変態メイドと同じく獲得している危険人物である。天敵といっても過言ではない。

 

「おもらししちゃうコマ姉もかわいいよっ!情けなくて大好き!」

「お前はどういう感性をしてるんだ」

「グル兄も言ってたよ?」

「待ってコマリ。私は言ってない」

 

信頼していた存在からの突然の裏切りに慌てて背中を預けていた人物を見るが、当人も少し焦った様子で読んでいた本を閉じて、身振り手振りで否定している。

 

「ロロ。お姉ちゃんにちょっかいかけるのはいいけど、嘘はよくないな」

 

いや、ちょっかいもよくない。

やめさせてほしいと思うが、お兄ちゃんはロロの行為は愛情表現の1つだと思っている節があるので、止めてくれないのだ。

 

「はーい、ごめんなさいっ!」

 

どしん、という音とともに背中に大きな衝撃が加わりベッドが少し揺れる。

見れば、お兄ちゃんの背中にロロがのっかっており、甘えるようにぎゅーとしがみついている。

 

「んー!いいこ!!あやまれてえらいねー!!かわいいよロロー!」

「私のこと好き?」

「大好き!!」

 

私の頭をなでていた手が離れ、その手は今はロロの頭に置かれていた。

頭の上から消えたぬくもりに、ずきん、と少し胸が痛むのを感じた。

 

全身全霊で甘えを表現しているロロに、それにかまい倒しているお兄ちゃん。身体の位置こそ、私が背もたれにしているから変わってはいないものの、その意識はすべてロロに注がれていることが分かってしまった。

大きく笑いながらじゃれあう2人の空間は、先ほどまで私とお兄ちゃんだけだった静かな空間とはひどく対照的で、急に世界から隔離されて、1人だけになってしまったかのように感じる。

 

「……ねぇ」

「ん?どうしたのコマ――」

「私のことは好きじゃないの?」

 

――気付けば、口から出ていた。

おかしな言葉を言った自覚はある。ただ、不意に想いが漏れてしまった。

私の言葉に心底驚いたように、2人は目を大きく見開く。

 

「――大好きだよコマリ―!!」

「ぐえ」

「ああもうかわいいよコマリ!!一億年に一度の美少女!お兄ちゃん冥利に尽きるよ!!」

 

く、苦しい……

 

思いっきりきつく抱擁されて首が絞まる。

息ができなくなってぺちぺちとお兄ちゃんの腕をたたくが、あまりにも非力すぎたのかお兄ちゃんは気付く様子はなくそのまま抱きしめられ、髪の毛に顔をぐりぐりとおしつけられる。

 

「グル兄首!首!絞まってる!」

「はっ、おわー!!コマリー!!大丈夫か!?」

「ら、らららいじょぶぅ~」

 

パッと離れたかとおもいきや、すぐさま思いっきり肩を強くゆすられ、目が回ってしまう。

その勢いで呂律もまわらなくなってしまうが、ロロが「お兄ちゃん落ち着いて!コマ姉死んじゃう!」と叫ぶことでひとまずの落ち着きを取り戻した。

 

妹よ。お前は私がお兄ちゃんのゆすぶり程度で死んでしまうと思っているのか。いや実際死にかけたけども。

色々と物申したかったが、お兄ちゃんとロロ、2人分の体温で頭をなでられるのを感じると、どうでもよくなってしまう。

 

「もーコマ姉ってば……これじゃ私がお姉ちゃんじゃん」

 

なんかいってる。

 

……いやなんかいってるじゃねー!

私がお姉ちゃんなのに、なんで頭なでられて喜んでんだ!

ぐっと起き上がりたいが、2人でなでられるととてつもなく気持ちよくて、起き上がる気力が失せてしまう。

 

「ふふふ、今日は久しぶりに3人で寝よっか」

「さんせーいっ!グル兄真ん中ね!」

「……しょうがないな。一緒に寝てやるとするか」

「コマ姉は別にいいよ」

 

なんで!?

とツッコミをいれようとしたところ、お兄ちゃんによって問答無用で布団に引き寄せられる。

そうして、左から順に私、お兄ちゃん、ロロで同じ布団にくるまることになった。

お兄ちゃんは仰向けになり、片方の手で私を、もう片方でロロの頭を撫でている。

私は、いつもイルカ型の大きな抱き枕にしているのと同じように、お兄ちゃんの半身にだきつく。みれば、ロロも同じようにしてお兄ちゃんにくっついており、2人して目を合わせて、なんだかおかしくなってくすりと笑みがこぼれる。

 

「コマ姉、今日のお仕事はどうだった?」

「よ、余裕に決まってるだろっ!何の問題もないね!」

「わあよくそんな虚勢張れるね」

 

虚勢っていうな。

 

「コマリ、七紅天で何か困ったことがあったら相談してね。頑張ってなんとかしてみるから」

「おーありがとうお兄ちゃん」

 

適当に返事しつつも、ただの軍人のお兄ちゃんになにかができるとは思っていない。ただ、いつも本当に困ったときには色んな手段を駆使して助けてくれた。

きっと、七紅天の問題だろうと、どうにかして解決してくれるのだろう。その姿を簡単に脳裏に思い浮かべられる。

 

今日感じたストレスが、色々な悩みが、家族と一緒にいて、一緒に寝るだけでだんだんと消えていくのを感じる。

 

「おやすみ。ロロ、コマリ」

「おやすみなさい。コマ姉、グル兄」

「おやすみ。ロロ、お兄ちゃん」

 

 

 

ちなみに翌朝私がヴィルに起こされた時には2人は既に仕事、学院に行っており、私だけが寝坊していた。

 

いやだ!私はもう働かないからな!もっと惰眠を貪ってやる!

 

そう決意するものの、私の抵抗むなしく、ヴィルによって布団から追い出される結果となってしまうのだった。

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