「――テラコマリ・ガンデスブラッドはとんでもないブラックボックスですよ」
七紅府のテラコマリ・ガンデスブラッドの執務室にて行われた第一回の幹部会議の帰り道。長い廊下を歩きながら、カオステル・コント中尉――褒賞という名目でテラコマリの様々なコスプレ写真を撮っては満面の笑みを浮かべていた気色悪い枯れ木のような男はそう前置きをし、自分の得た情報を語り始める。
帝都帝立学院襲撃事件。3年前に幼い吸血鬼達の学び舎で起こった悲惨な事件であり、生徒30名、鎮圧に赴いた帝国軍第五部隊70名の命を奪い、現七紅天の第五部隊隊長によって
史上類を見ない程の大虐殺であり、犯人は学院の生徒というのもあって、当時はかなりデリケートな話題として扱われたことを覚えている。
カオステルが言うには、それの犯人は挿げ替えられており、真犯人はテラコマリ・ガンデスブラッドであったとのことだ。今更明かされる衝撃の事実に驚きを隠せない。
「首謀者は確か、ミリセント・ブルーナイトだったはずだが?」
「おや、よく犯人の名前を憶えていますね。ええ、表向きにはそうなっています。ですが、こちらの宮廷の機密文書……これによると、実際に殺戮の限りを尽くしたのはテラコマリ閣下とのことです」
「意味がわからん」
「しかもですね、100名の死者すべて小指1本で殺害されています」
まさか、本当に。とベリウス・イッヌ・ケルベロ
あの場では、それに準ずる力はあるだろうが、少しは誇張も入っていると思っていた。だが、実際に宮廷の機密文書という改竄されることのありえない記録として存在している以上、それはまぎれもない事実であると証明されている。
それほどのお方に率いられているという事実に、寒気とともに歓喜の感情が湧き上がってくるベリウスであったが、そこで、ふと1つの疑問が思い浮かぶ。
「今の今までなぜ疑問に思わなかったのか不思議でしかたないのだが……表向きの犯人、ミリセント・ブルーナイトはなぜ追放されているのだ?」
「というと?」
「ムルナイト帝国は実力至上主義だ。当時12歳で帝国軍人を70名も殺していることになっているのであれば、追放ではなく将来性を見込まれてお祝いムードとなってもおかしくはないと思うのだが」
実際、100名は確かに死んだが、魔核の力で元通り再生し、今は何の問題もなく生活を送っているのだ。
犯罪を犯して一時的に投獄されるならいざしらず、追放ということに対し、ベリウスは獣人故に推測しかできないのだが、吸血鬼の感性として少し変に感じた。
規模は違うが、ベリウスとて殺人の罪を犯したし、むしろ同僚であるメラコンシーによる宮廷爆破未遂のほうが追放されてもおかしくはなさそうである。
「ああ、それは閣下のご家族によるものでしょう。ガンデスブラッド家であれば、民意を自分たちの思う方向へ運ばせることなど容易いはずです」
「アルマン・ガンデスブラッド宰相のことか?だが、文官のトップといっても国のナンバースリー。それほど無理やり意見を押し通せる立場にはいないと思うが」
「いえ、それよりは閣下の兄君によるものでしょう。『
カオステルが不意に口を止める。前が見えているのか疑問なほどの細目がさらに細められ、額に皺が寄っている。
七紅府の門を出てすぐの庭園。石畳の噴水のまとなり。そこに、闇夜に溶け込むように、漆黒のフードをまとった人物が立っていた。
鼻から上は狐の面で隠されており、唯一見える、艶やかな赤が歌うように言葉を紡ぐ。
「――ねぇ、テラコマリ・ガンデスブラッドが七紅天になったって本当?」
赤い満月の下。月光を反射させながら、銀色のナイフと大斧が交錯した。
◇◆◇◆◇
狐面の不審者を取り逃してしまったベリウス。
カオステルと2人がかりで影も踏めなかったその実力に戦慄を覚えたが、自身よりも強者との接触を受け、その身には戦意が迸るほど燃え滾っていた。
「遅かったな、ベリウス」
自身の部屋のドアを開けた瞬間、脳を震わせるような甘い声が聞こえるとともに、即座に跪き、忠誠を捧げるように恭しく頭を垂れる。先ほどまで溢れさせていた戦意は、まるで冷や水を浴びたかのように失われ、その身は静かな忠義で満ちていた。
対し、窓際に置いてある椅子に座り、赤い満月を見ながら、グラスに入った血を嗜む金髪赤目の美丈夫。
ムルナイト帝国の女子供の人気を、すべての吸血鬼による衆望を一身に受けるその吸血鬼は、夜空に浮かぶ真っ赤な満月から目をそらさず、空気を入れるようにグラス内の血をゆらりと揺らす。
「遅れて申し訳ありません。本日の報告ですが……」
そうしてベリウスは、目の前の相手に今日起こったすべてを伝えた。
テラコマリ閣下と第一回幹部会議を行ったこと。その後に戦での功績をたたえられ、カオステル、メラコンシーと共にお褒めの言葉を授かったこと。その後、七紅府を出てすぐ狐面の不審者と遭遇、カオステルと共闘に入るものの、歯牙にもかけられなかったこと。
目線こそ寄越さないものの、「そうか」と時々相槌を打ちながら報告を聞く吸血鬼。カオステルがテラコマリ閣下に色々なコスプレをさせて写真を撮っていたと告げたところ、猛烈な殺意が部屋中を吹き荒れ、少し放心してしまう。しかし、すぐに収まり、「すまないな、続けろ」という言葉と共に我に返る。
あいつ死んだな……とベリウスは同僚の死を確信したが、どうせ魔核で再生するし変質者だしいいか、と気にも留めず報告を続ける。
「取り逃した、か。いや、いい。気にするな」
「例の女はその……やはり、ミリセント・ブルーナイトなのでしょうか」
「ああ。間違いない」
3年前の事件の表向きの犯人である、ミリセント・ブルーナイトについてを目の前の吸血鬼から聞かされていたベリウス。その特徴から狐面の不審者が件の存在ではないかと推測していたが、吸血鬼は一切の迷いなく、その存在を断定した。
しかし、ミリセント・ブルーナイトについて思慮を巡らせているであろうその顔は、眉間にしわが寄っており、率直に言って少し不機嫌そうであった。
「それで、テラコマリ閣下には「いや、言うな」――は?」
「だから、言わんでいい。あのロリコンもその腹積りなのだろう。コマリが狙われている情報が流れれば、敵の行動もより陰に隠れることになる」
「なるほど、承知いたしました」
「……そうか、やっとここまで来たのか」
クククっと微かに笑い、機嫌のよさそうな顔がはじめて月から逸らされ、ベリウスを見下ろす。
「ベリウス。お前は、いや第七部隊はこれからコマリの覇道の第一歩を目撃する。テロリストとの戦いが終われば、俺も舞台にあがる。つまり、俺がお前とこうして会うのもこれが最後になる」
存外、楽しかったぞ。と言葉が聞こえるとともに、ベリウスは初めて目の前の吸血鬼と会った時のことを思い出していた。
殺人罪で左遷された後、月に1度の戦闘指導を見返りとし、始まった密会の日々。吸血鬼の指示で、本来であればとっくに爆発していたであろう第七部隊の前任者に対する下剋上を、特定の時期まで遅らせた。うまくはいかなかったが、欠片も統率がとれない第七部隊をまとめ上げようともしてみた。
戦闘指導のおかげで、実力も向上したと考えており、目の前の吸血鬼には恩以外を感じることなどできない。
回想から戻ってきたとき、すでに吸血鬼は椅子から立ち上がっており、その姿から帰宅の意志を感じたベリウスは、予てからの疑問を慌てて尋ねる。
「1つお聞かせください。『最強の吸血鬼』とテラコマリ閣下、どちらのほうがお強いのか」
尋ねられるとは露程も思っていなかったのか、その身は一瞬硬直する。しかし、ふっと軽い微笑をこぼすと、グラスに残っていた血を一気に飲み込む。
口の端からこぼれた血を舐めとり、妖艶さを醸し出す深紅に染まった口が紡ぐ。
「コマリの真の実力は俺をも優に超える。だが、致命的なまでに俺とは相性が悪い。
爛々と光り輝く紅の双眸が、再び赤い満月を見上げると、その姿は霧のように、魔力の残滓を欠片も残さず、一瞬で消滅した。
こんにちは。アニメはいけて原作4巻だろうと思ってるので、ロロッコは普通に出しちゃいましたが、アニメの次話をやるのってどうなんだろうという思いがあります。
つきましては、普通にアニメ追い越しちゃってもいいか、アニメの該当箇所終わってからがいいか、アンケートを下に設けさせていただきました。ご協力いただけたらうれしいです。
アニメを追い越す場合、具体的な例をあげると、オディロンさんやヘルデウスさんの描写等アニメのネタバレを食らう恐れがあります。多数決ですが、後者もそれなりの票数あれば配慮いたします。また、前者のが多かったとしても、多忙な時期ですので、めっちゃ投稿頻度があがるというわけでもないです。結果的に後者みたいになることもあります。その点はご了承ください。お手数ですが、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
あ、あと評価に色ついてたのめちゃうれしかったです。ありがとうございます。
アニメより先に進んでもOKか
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アニメより先に進んでも問題なし
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アニメのほうが先だとうれしい