一億年に一度の美少女の兄   作:なぎっぷ

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なんかどんどん字数が増えてるのでどうにか減らしたい……
アンケートは前者を考慮させていただくことになりました。後者を選んでくださった方は申し訳ありません。でも今話はアニメ3話の内容なので大丈夫です。今後ともお付き合いのほど、よろしくおねがいします。


4 闖入者/詰問

テラコマリには何が起こっているのかわからなかった。

 

ラぺリコ王国軍を再度下すと、その勢いのままにゲラ=アルカ共和国に白極連邦、天照楽土とのすべての戦争に連戦連勝し、破竹の快進撃を続けるムルナイト帝国軍第七部隊。

それを率いる七紅天大将軍として、市井を中心に爆発的な人気を獲得した私は、それはもう様々なイベントにひっぱりだこであった。

何かと事につけては開催される第七部隊の宴会に、気付けば私生活にまで侵蝕してきた六国新聞のインタビュー。下剋上を未然に防ぐため、部下の慰労と称して話を聞いたりお菓子を振舞う内に、いつの間にか始まった第七部隊のお悩み相談所。

挙句の果てにはサイン会なども開催されてしまう始末となり、たまたま通りかかった、同僚の七紅天であるガタイのいい神父に「やはりガンデスブラッド家は変わっておりますなぁ」などと笑われ、愛想笑いを返すことしかできなかった。

 

当然、サイン会はさすがにやりすぎだろとヴィルに直訴したが、なんと第五部隊を率いる七紅天も同じようにサイン会や、握手会、さらには写真撮影会まで行っているというのだ。

私と同じような目にあっているどころか、より悲惨な目にあっている七紅天もいるということに、思わず同情を感じてしまう。平穏を愛する私でさえ面倒に思っているというのに、暴力の化身みたいな他の七紅天でこんなイベントを自主的にやりたがるようなやつがいるわけない。今頃爆発でもしているんじゃないだろうか。

 

そのサイン会すら穏やかな結果とはならなかった。サイン会の最中、列に並んでいた人達が急に道を譲ったと思ったら、歴戦の猛者っぽいめちゃくちゃ厳つい強そうなおじさんの吸血鬼が来て、隣の変態メイドが武器を取り出す謎の事態が起こってしまったのだ。

投擲されたナイフを軽く弾くと、射殺さんばかりの血走った目で、「さ、サインお願い……グゥッ……します……名前はいらん……ないで、すゥ!」と鼻息荒く告げてきて、あまりの怖さに涙目になり、足が震えるのをなんとか誤魔化しながらサインを書く羽目になったのだった。

サインが終わるや否や、風圧で人が吹き飛ぶ程の勢いで走り去っていき、よほどトイレを我慢していたのだろうと無理やり自分を納得させた。いや、おしっこ済ませてから来いよ、とは思ったが。

あと勝手にナイフを投げたメイドも叱っておいた。優しいおじさんだったからよかったけど、怖いおじさんだったら私が怒られてたんだからな!

 

そうして波乱に満ちたサイン会が無事終了する頃、黒い大きな外套をまとったお父さんがやってきたと思えば、手渡してくるのは変態皇帝より直々の立食パーティーへの招待状。

当然、そんな面倒くさいイベントに参加などしたくなかったが、変態といえども正真正銘この国のトップである皇帝。そして、私が本当は弱いことを知っているのだから、機嫌を取っておくに越したことはないと思い、招待を受けることになったのだ。

 

 

 

そうした経緯で参加することになった皇帝陛下主催の立食パーティー。着慣れない鮮やかな赤色と黒色のコントラストが映えるドレスを身に纏い、部下のベリウスとヴィルを連れて参加し、皇帝や他の参加者と楽しく雑談をしていた――はずだったのに。

 

「私の名前はミリセント・ブルーナイト。あんたに三年前の借りを返しに来たの」

 

瞬間、フラッシュバックする三年前の記憶。私がひきこもることになった、心の奥底までへばりついた嫌な記憶。

あまりの衝撃に動けないままでいると、いつの間にか少女の手には、銀のナイフが握られており、それが私の目の前まで投擲されていた。

ぎゅっと目をつぶると同時に、「閣下ッ!」と叫ぶ声が聞こえる。急に浮遊感を感じ、自分が投げ飛ばされたんだ、と気付いた頃には、まだ温かさを感じるミートソーススパゲッティに頭から突っ込んでいた。

慌てて立ち上がると、ベリウスはこちらに背を向けて、ミリセントと向かい合っていた。その背には、銀のナイフが突き刺さっており、その身から流れ出る血がマントを伝い、『喝采の間』の絨毯に赤黒い染みを作り出していく。

 

「――ベリウスッ!」

「あら?思ったより頑丈なのね」

 

ベリウスは険しい顔をしながらも唸り声をあげ、ミリセントを強く睨む。その顔には大粒の汗が滴り落ちており、立っているのもやっとという有り様であった。その身を襲うのはいったいどれほどの苦痛なのか。私には想像することもできなかった。

 

ベリウスは背中の大斧を掴もうとするが、その手は空を切る。当然だ、皇帝陛下直々に開催されたパーティーに武器を持ってきているわけがない。

仕方なく両の拳を強く握ると、その大柄な図体からは想像もできない速度で距離を詰めた。同時に、へたり込んでしまっている私の下にはヴィルが駆け付け、どこからか取り出したのかその手には幾本ものナイフが握られていた。

 

第七部隊随一の武力を誇る拳が不埒な闖入者へと迫る。

私の目には早すぎてあまり見えないが、ミリセントはまるで蝶のように舞い、ベリウスの拳をあざ笑うかのように紙一重で避け続ける。

 

「へぇ。ワンちゃんにしてはなかなかやるじゃない」

「ベリウスだッ!」

 

懐へと踏み込んだ一撃。それすらも大きくバックステップで避ける。開いた距離を詰めようとして、ベリウスは駆けるが、それよりも早く、魔法陣が展開される。

初級光撃魔法【魔弾】。それが目の前に迫ってくるのをみて、ベリウスは避けようとし――丁度背後にいたヴィルに守られている私と目が合う。

 

刹那、なにを考えたのか。ベリウスは回避を取りやめると腕を交差させた。

ばか、避けろよ。それじゃ【魔弾】が当たっちゃうだろ――私がそう念じるよりも先に、【魔弾】はベリウスへと迫る。

 

「……ぐ、があッ……」

 

滝のように流れ出た血液が、足元に血溜まりを作る。

なにが起きたのかわからなかったのか。ベリウスは大きく目を見開いたまま、目線を下に向ける。そこには背中を貫通した刃先が飛び出ており、口から血を吐き出すと、自分の血溜まりに倒れ伏した。ビシャッと跳ねる紅が、私のドレスの赤に染み込み混ざり合う。

 

私にはその瞬間がはっきりと見えていた。腕と接触し、炸裂するはずであった【魔弾】は、衝突の直前にふくらむようにその軌道を変え、背中に刺さるナイフを衝撃でさらに奥へと突き刺したのだ。

 

「そ、そんな……」

「きゃははは!テラコマリ、あんたも同じようにしてやるわ!」

「――おい、下郎。朕のパーティーを台無しにするとは、惚れ惚れするほど豪胆だな。疾く死ね」

 

いつの間にか、ミリセントのすぐ後ろに移動していた皇帝の指先が淡く光り始めると、雷撃が放たれる。

ミリセントは襲いかかろうとする動作を中断すると、先ほどよりも機敏な動きで雷撃を避け続ける。遠目で事態を見守っていた参加者や、どうすればいいのか右往左往していた警備兵の頭を貫いて終わった雷撃は、しかし確かに青色のドレスの裾を焼き焦がしていた。

 

チッという舌打ちと共に、ベリウスの背からナイフを抜き取ると、先ほどの【魔弾】とは異なる魔法陣が展開される。

 

「まぁいいわ。今日のところはこれで勘弁してあげる。テラコマリ、あんたに魔核で蘇ることもできない正真正銘の死を味わわせてあげるから――」

 

楽しみにしていなさい。

 

皇帝の放つ二発目の雷撃が当たる直前、ミリセントはそう言い残すと魔法陣に包まれ姿を消した。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

諸悪の根源――アルマン・ガンデスブラッドからミリセントがなぜテラコマリを狙うのかについて聞いたヴィルヘイズは決然とした思いでその拳を握っていた。

 

コマリが虐められていたのが許せなかった――それはわかる。一族郎党に国家反逆の塗れ衣を着せて国外追放という処置にしたのも理解できるし、あの一億年に一度の美少女の笑顔を曇らせたのだからそれくらいが妥当だとも思う。

 

だが――困った困ったとヘラヘラと笑う、それは理解できなかった。

あなたはコマリ様を愛しているのではないのですか。なぜ、ひきこもったコマリ様のお傍にずっといないのですか。いじめの記憶を思い出してひきこもったコマリ様を見て、なぜヘラヘラしていられるのですか――

 

ヴィルヘイズは分からなかった。そして、怒りを燃やすのは、もう1人――

 

「ん、ヴィルヘイズか。こんなところで立ち止まってどうしたんだい?」

「グルグル様」

 

廊下の角を曲がった先から姿を現したのは、変装のつもりなのだろうか。なぜか真っ黒なサングラスを装着したグルグル・ガンデスブラッド。ヴィルの愛しの主人であるテラコマリ・ガンデスブラッドの兄であり、コマリを溺愛し、羨ましくもコマリからの愛情を受ける吸血鬼である。

また、ムルナイト帝国軍第五部隊を率いる、つまりはムルナイト帝国の武力の頂点である七紅天を務め、『最強の吸血鬼』と呼ばれる存在である。

 

「コマリ様のことで相談したいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「うん?かまわないよ。どうしたんだい」

 

ヴィルの言葉に対し、穏やかな笑みを浮かべながら話を聞くグルグル。

 

「なぜ、学院でのいじめを黙認していたのでしょうか」

「……どういうことかな」

 

おかしな点があった。ガンデスブラッド家に仕えてから、ヴィルはグルグルの経歴を探っていた。

 

「グルグル・ガンデスブラッド――18歳。当時10歳の頃に第五部隊隊長を決闘で下し、七紅天入りをする。それから4年、1ヵ月に1回のペースで他国からの戦争を受け、天照楽土五剣帝"アマツ・カルラ”との1度の戦いを除いて、現在に至るまで無敗。華々しい戦績を誇り、『最強の吸血鬼』と呼ばれるほどになる」

「詳しいね。というか、急に私の経歴なんて……ハッ!だ、だめだよヴィルヘイズ。私の一番はコマリなんだから――」

「ところが5年目。ある時期を境に、それまでとは打って変わって3日に1回は戦争を行うようになる」

「……」

「家にも帰らず七紅府と戦場で寝泊まりばかり。そうした生活が数ヵ月続き、これまたとある時期を境に今度は戦争のペースが最低限の3ヵ月に1度となる。誰が相手でも必ず開戦2時間後には敵将を打ち取り、基本的に家にいる生活を続けるようになる」

 

強烈な違和感の正体。それがこの経歴だった。『最強の吸血鬼』による溺愛っぷりは学院でも話題であり、実際にコマリの授業参観などではまったくの変装もせずに参加しているのをよく見かけていた。

家族がおらず、父代わりの人物がいるだけであったヴィルには、その姿がとてもうらやましく、完璧超人の兄がいるコマリを妬んだこともあった。

 

「このある時期とは、コマリ様がわたしを庇い、ミリセント・ブルーナイトと接触する日。それと帝立学院襲撃事件が起こった日です。つまり、コマリ様がいじめを受けていた数ヵ月間。グルグル様はタイミングよく、コマリ様と顔を合わせることはない生活を送っていた」

「ふふふ、探偵みたいだね。ヴィルヘイズ」

「茶化さないでください。――あなたは、コマリ様がいじめられているのを知っていた。違いますか?」

 

鋭い眼差しでグルグルを睨みつける。

グルグルはガンデスブラッド家の人間であり、当然だがガンデスブラッド家に仕えるメイドであるヴィルの主人でもある。当然、解雇する権利も持っており、逆鱗に触れるであろうと推測するこの糾弾も、自身のメイド人生に幕を打つことになるかもしれないと覚悟していた。

だが、あくまでもコマリのためにガンデスブラッド家のメイドとなったのだ。この立場を捨てることになってでも問い質したい、その思いがヴィルにはあった。

 

()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

特段なんてことはないかのように、あっさりと答えた。

ヴィルは唖然とし、放心したかのように口を開く。なぜならその返答は、答えを言っているようなものであり――本当は、自分の推測は間違っていてほしいと心の奥底では思っていたからだ。

窓から入り込む月明かりがグルグルを照らす。艶やかな金髪が月光で煌いており、どこか浮世離れした姿で人差し指を口の前に持ってくると、でもね――と言葉を紡いだ。

 

「安心して欲しい。コマリを宇宙で一番愛しているのは私だよ。ちなみにコマリが一番愛しているのも私だ」

「聞き捨てなりませんね。コマリ様の下着の色は」

「着数から全ての柄まで把握している。ブラも当然だ」

「うわ……」

 

ヴィルは軽く引いた。普通に考えて、家族といえど異性が下着の全てを網羅してるのは意味が分からない。先ほどの推測は間違っていたのではないかと思うほどの溺愛っぷりだ。

 

「ヴィルヘイズ。君はコマリから抱き着かれて眠ったことはあるかい?『なでなでして』、『一緒にお風呂入って』と甘えられたことは?」

「!?!?!?」

「はっきりしたね。それじゃあ私は用があるからこれで失礼するよ」

 

そう言って隣を通り過ぎていく。

 

「……どの口が」

 

用などと。今の時間は既に18時を回っているのだ。コマリが再びひきこもるまで、あなたはこの時間は常にコマリと一緒にいた。それがまた、コマリがひきこもると急に姿を現さなくなった。

まるで、ミリセントの恐怖で震えるコマリを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それがヴィルにはどうしようもなく不気味で、怖ろしく見えた。




闖入はちんにゅうと読むらしいです。別に変な意味じゃないですよ、ちんにゅう。
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