夢を踠く   作:水が死んでる

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もう少しでワールドリンクイベントが始まりますね。
3DMVアナザーカットを持っているガチャもあるみたいで。
サンリオコラボ……はまだ先ですが。


5 花に雨を

文化祭の準備期間だ、と校内が浮ついた空気になっている中で。

私は相も変わらず屋上で時間を潰していた。

 

「あっつ…」

 

屋上の日の影になっている所に座り込み、制服の胸元を掴んで空気を送り込む。

正直外の空気も熱すぎる。まさに焼け石に水だ。

 

結局、私は瑞希を誘っていない。

そもそも文化祭の事なんて頭にないと思ったのはそうだけど、誘う勇気が、私には無かっただけだ。

あえてこの場に呼ばなければならない、なんて。

 

瑞希の身の回りと言うか。

過去のことはともかく、この学校内での噂は耳にしている。と言うか、嫌でも入ってくる。

実際に瑞希がどう思っているかはともかく、聞いていて気持ちのいいものでは無い。

と言うか、1年かけて仲良くなった友達が友達じゃなくなった。

 

カバンから保冷バッグを取り出して、中からおにぎりを取る。

お昼時ではあるが、食欲はない。ただ食べないとバテるので、お弁当はおかずだけにして、米は中に梅を入れておにぎりに。

 

「……アルミホイルで包んでみたけど、ラップと何が違うんだろ」

 

今日はたまたまラップが切れていてアルミホイルで包んだのだが、何か違いがあるんだろうか。

 

「…? なんか、教室の方が騒がしい…?」

 

ちょうど、私の教室は屋上から見える位置にある。

そんな場所に目をやると、何やら生徒たちが盛り上がっているのが分かった。

 

あの場にいなくてよかった、と安心感8割。せっかくだから参加しておけばよかったかな、と後悔2割。

思わず苦笑いを零していると、ポケットに入れていたスマホが震えた。

 

「ん? 奏から…なんだろう、もしかして絵の催促、かな」

 

だとしたら、本当に申し訳ないがもう少し時間が欲しい。

いつもの自分とは違うことをする事で、何となく、何かが見えてきた気がするのだ。

アルバイトも少し前までの自分とは全然違うが、そちらでは何と閃かなかった。

 

登校前に軽くランニングするようにはしたし、色々とやっているつもりなのだが、まだ何かが足りない。

まるでヨーロッパ大陸で3匹しか存在しないハチを探してる気分。…いや、これはこの間雑学を見かけただけ。宇宙の星の密度なんて、壮大過ぎてぱっとわからないし。

 

まふゆならわかるんだろうな、と思いながらスマホを見ると、『時間のある時に家に来ないか』という誘いだった。

 

「…は?」

 

思わず、首を傾げた。

脈絡が、前後の流れが分からない。そんな話をしていた記憶はないし、そもそも奏の家に遊びに行くような仲でもなかったと思う。

 

確かに、お互いの姿は知っているし、実際リアルでも会ったことがある。ただそれだけで、お互いの家までは知らないし、知る予定もなかったはずなのだ。

 

「…もしかして、私がいない間に何か話してた?」

 

ドッキリ…にしても、どう転べばネタばらしになるんだろうか。

このまま乗れば、奏の後ろにいる瑞希かまふゆは満足して、実は、なんて言ってくるんだろうか。

 

「はぁ…なにそれ。どんな被害妄想よ」

 

瑞希はともかく、まふゆと奏は意味のないことはあまりしたがらないはず。

とりあえず、少なくとも乗り気という姿勢を見せるために、奏に返信をした。

 

それはいいけど、どうして。それだけ送って少しの間反応を待っていると、ほどなくして返事が来た。

 

『作りかけだけど、絵名に聞いて欲しい音楽があるんだ。少しでも絵の参考になればいいなと思って』

 

つまりは、私の絵の進捗が芳しくないのを知って、何か助けになれば、と思ったということか。

でもそれだと、いつも通りと変わらないんじゃないか。

 

まぁ別に、それでもいいかと奏に了承のメッセージを送ろうとしたとき、なぜかまふゆの顔が頭をよぎった。

 

「…このまま奏の曲を聴いて描いたとして。まふゆは、満足しないんだろうなぁ…」

 

私の絵の出来栄えではなく、私が描き切った理由について、いい顔をしないかもしれない。

なんでこんなことを思ったかは分からない。けど、何となくそう思った。

 

ひとまず奏には、もう少しで何かつかめそうだから、また今度。とだけ返して、スマホをポケットにしまい込んだ。

もう少しでチャイムが鳴る。きっと誰もが、私がさぼっていることには何となく気付いているだろうけど、終わったタイミングでその場にいれば、何かしていたんだろう、と思ってくれるはず。

 

そんな甘い考えを持ちながら、屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

月日が経つのは早いもので、あっという間に文化祭当日になった。

結局最後まで準備には関わらなかったわけだが、そのかいあってか、絵は完成した。

奏もまふゆも異常なスピードで仕上げていくものだから、若干とはいえ私の方が先に始めているはずなのに、一番最後に作業が終わったのは私だった。

 

「ま、奏からもまふゆからも及第点をもらえたみたいだし、よかったかな」

 

手ごたえはない。ただ、なぜか今までの評価の中で、一番まふゆの評価が良かった。

不思議だが、ありがちなんだろうか。手ごたえがないのに反して結果が出る、というのは。

 

別に朝この場にいたら、あとは最後の時間に戻ってきたら十分だろう。

そう考えてカバンを肩にかけて、人目につかないように歩いて帰ろうとしていると、後ろから肩を掴まれた。

 

「え~なさんっ! どこいくんですか? もう始まりますよ?」

 

「し、白石さん…。ちょっと外に用事が…」

 

後ろを振り向けば、いつもの3倍は楽しそうな笑顔を浮かべた白石さんが立っていた。

その眩しさに思わず目をそらしながら、苦し紛れにとっさに嘘を吐いた。

 

白石さんは不思議そうに首を傾げて、すぐに何かに思い至ったように「あ!」と声をあげた。、

 

「そういえば、彰人に言われてたんでした。絵名さんが帰ろうとしてたら引き留めて、無理そうなら引きずってでも連れ戻してくれ、って」

 

「…は? あ、いや。…なんで?」

 

「さぁ…理由は私には話してくれませんでしたから。でも、絵名さんのしそうなことを言い当てるなんて、さすが姉弟ですね!」

 

「はは…嬉しくないかも…」

 

結局、私は白石さんに手を引っ張られて校舎へと戻らざるを得なくなってしまった。

おのれ彰人。顔を合わせたら一発拳を入れるしかない。

 

「そうだ、絵名さん。どうせなら一緒に回りますか?」

 

「え、でも白石さんは一緒に回る人がいるんじゃないの?」

 

「大丈夫です。初対面の人とも打ち解けられるようになるのも、いい練習になるので!」

 

「いい練習って…」

 

というか。ぶっちゃけ遠慮したいのが本音だ。

 

別に私は大丈夫だけど、なんの準備もしていない私がのうのうと回るといい気はされないだろうし、その目が私以外に向けられるのが嫌だ。

白石さんはきっと、みんなを引っ張っていくような立場にいたんだろう。それなのに私が側にいると、無用な誤解を生みそうだ。

 

「せっかくだけど、私は___」

 

「杏ちゃーん!」

 

1人で回るから、と告げようとしたところで、後ろから誰かが白石さんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り向くと、そこには神山高校の制服じゃない女子がこちらに手を振りながら歩いてきていた。

確か、あの制服は宮女のだったか。

 

「あれ、こはね、もう来れたの? 用事は?」

 

「思ったより話が早く進んで。それで、えっと…」

 

こはね、と呼ばれた少女が不思議そうな顔でこちらを向いたところで、いいタイミングだと私は2人に背を向けた。

 

「待ち人も来たみたいだし、私はこれで。またね」

 

「あ…わかりました! 文化祭、楽しんでくださいね~!」

 

到底無理なことを告げられ、思わず苦笑いを浮かべながら、私はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏ちゃん、今の人って…」

 

「うん。あの人が、彰人のお姉さん。東雲絵名さん。…これを機に仲良くなろうと思ったんだけど…だめだったかぁ」

 

「優しそうな人、だったね」

 

「うん。優しい人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない、使われていない教室の中で1人。私は出店で出ていた焼きそばを食べていた。

幸い、バイトをしていたおかげでお金には余裕があった。いつもなら出店の焼きそばなんて、値段を見て顔をしかめること間違いなし…いや、別に今回もしかめていたか。

ただ、余裕があるのは間違いなかった。

 

「あれ、絵名?」

 

「その声…瑞希?」

 

焼きそばを半分まで食べ勧めたところで、どうしたものかと机の上にパックを置いたタイミングで、教室の入口から瑞希が顔を出していた。

 

というか、来ていたのか。

 

「なんだ、絵名も来てたんだ。連絡くれればよかったのに」

 

「そもそもあんたは普段学校に来てないんだから、行事自体知らないと思ってたの。知ってたんだ」

 

「まぁね…っていうのは嘘で。電話きて知ったんだよね」

 

「…瑞希らしいけど」

 

えへへ、と言いながら私の正面の席に座ったので、余った焼きそばを瑞希の方に寄せた。

私の食べかけだし、箸も一善しかないけど…まぁいいだろう。手で食べるわけにもいかないし。

 

「え、なにこれ」

 

「何って、どっかのクラスが出してた焼きそば。意外と値段相応に量もあって、私1人だと食べきれなかったんだよね。ちょうどいいところに来たから、食べてもらおうと思って」

 

「え~。残飯処理班じゃないんだけどな~。まぁいいけど…あれ、箸ってもう一善あったり…」

 

「ないわよ。もらったのはそれだけ」

 

「…うん、じゃあいただこうかな」

 

「はい、どうぞ…って、私が作ったわけじゃないけど」

 

途端に目線をうろうろさせながら焼きそばを口に運び始めた瑞希を横目に、教室の窓から外を見る。

ちょうど下は何か出し物をやっている場所らしく、人もかなりの人数いるようだ。普段買い物をしに外にいくとこれぐらいいるものだけど、なぜだろう。上から見ているからなのか、億劫になる。

 

「人いっぱいだね~」

 

「ほんとにね。そういえば、連絡が来たからって、なんで来たの? ぶっちゃけ、瑞希は来ないと思ってたんだけど」

 

「ん…まぁ気まぐれ、かな。絵名は何してるの? 1人?」

 

「まぁ、私は学校には来てたし授業も出てたけど、準備は参加してなかったから。いても意味ないし帰ろうと思ってたんだけど、白石さんに捕まって、逆戻り」

 

「あっはは。杏に戻されたんだ。実は、ボクのとこに電話してきたのも杏だったんだよね」

 

「え、そうなの? 交友関係広いんだ、あの子」

 

これには、少し驚いた。

確かに杏と瑞希は気が合いそうな2人ではあるけど、どういう繋がりで知り合い…いや、文化祭当日に電話してくれるんだから、友達か。そんな関係になったんだろう。微妙に気になるけど、聞いてもはぐらかされるんだろうな。

 

白石さんに聞いたら、すんなり教えてくれそうだけど。

 

私がそう言って驚いていると、焼きそばを食べ終わった瑞希がパックの中に真っ二つに折った割り箸を入れて、ジト目で見てきた。

 

「まぁ、校内の人と知り合いってだけで、広いって言うのもどうかと思うけど…」

 

「うっさい」

 

うっさい。

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