【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
爆破テロだ。全くの勘だが、俺には分かった。
爆発と同時に、俺は反射的に身を伏せる。が、フレイは花束を持ったまま、衝撃の起きた方向へ走っていく。
俺から見て右方向、丘の斜面より少し下ったあたりの街並みから、既に何本も火柱が上がっていた。
あれは郵便局とケーブルテレビ局、そしてショッピングモールの駐車場。
明らかに街の要所を狙っている。火柱の中に、吹き飛ばされた建造物の骨組みが見える。
俺もフレイの後について柵を(フレイの数倍の時間をかけて)越え、彼女を追う。
崖を滑り降りようとして腰をうってしまった
――どうして彼女は、あれだけ軽く滑り降りられた?
続けざまに爆発。さっきまで遊び回っていたオフィス街が焼けていく。
夜の湿気をものともせず黒煙がたちのぼり、空が炎に照らされる。
フレイの告げた道を行かず、俺はあえて逆方向に走り、彼女を追った。既に彼女の姿は斜面の向こうの林の中へと消えている。
一体、彼女に何が起きた?
行動力、毅然とした横顔、あの口調──
やや高めの声質に変化はなかったものの、言葉と雰囲気がまるで違う。
もともとフレイはお嬢さん育ちだが、あれはお嬢さんという程度で済まされる者の使う口調ではない。
俺は手近に、乗り捨てられたボロ自転車を見つけた。
飛び乗り、そのまま斜面を駆け抜ける。
目まぐるしく流れていく視界の右方、炎が光の粉を噴き上げて輝く。
フレイが指し示した避難ルートはおそらく正しいのだろう、しかしその道を行くつもりは毛頭なかった。
理由は簡単。フレイが、炎に向かって走っていったんだから!
土がむき出しになった小道を、自転車で飛ばす。
顔にあたる熱気の中に、鉄の焼ける臭いが混じった。
家や建物からは人が飛び出し、一斉に避難所へと向かっている。
炎はほんの目と鼻の先。
俺とは逆方向に逃げ惑う人々、飛んでくるガラスの破片、悲鳴、サイレン。華やかな夜は一気に紅蓮の地獄となる。
坂を一息に滑り降りていく最中、俺は炎の中――
確かに、4体の巨柱が蠢く光景を見た。
その柱がモビルスーツだと脳が認識するまで、1秒程度かかった。
距離にしてほんの50m足らず。そのうち1機は型式番号GAT-02L2、ダガーL──
地球連合の、主力量産型モビルスーツだ。ストライクダガーや105ダガーの後継機。
青と白を基調にカラーリングされているはずだが、今はどの機体も炎に照らされ、しかも整備が行き届いていないのか表面が変色し。
さらに、下手に人間の顔のような頭部を持っているので黒い鬼のように見える。
鬼――オーブ古来の言葉だが。
人には理解できず、恐怖を撒き散らし暴れるモノ。
しかしその容姿は人に酷似しており、輝く目玉と角を持つ。まさに今俺が目にしているモノがそれだ。
他に俺の確認した限りでは、ストライクダガーが3機。
それが街を焼いていた。チュウザンで最も活気があるであろうこの街を。
ダガーLが、駅の方へと向かう。今はちょうどラッシュ時間帯だ、そこをやられたら……
満員電車をビームカービンで狙撃するダガーLを想像して、俺の背すじが凍った。
しかし俺は、電車より先に自分の心配をする必要に迫られていた。
舗装された道路に出た途端、ダガーLのビームカービンの砲口が目の前で火を噴き、逃げる人々の上に降りそそぐ。
数メートル先にいた人々の身体が吹っ飛ばされていく光景を目撃しながら、俺も自転車ごと宙に飛ばされていた。
衝撃とともに、俺は瓦礫だらけの道路に叩きつけられる。
爆風が頭上を通り過ぎ、炎の粉がまともに体中に吹きつけた。
頭を上げないようにして様子をうかがう。ビームカービンの銃口がまっすぐ道路へ、今しがた人だかりがしていた場所へ向けられていた。
その下には、既に原形を留めていない肉片と瓦礫が積みあがっていた。
──どこのドアホな脱走兵だか知らないが。
モビルスーツが、直接、生身の人間を撃った。
主義も戦術もない、虐殺行為だ!
その事実を俺が認める前に、ダガーLは動いていた。
腰部のMk315スティレット投擲噴進対装甲貫入弾を取り出す。
馬鹿な──こんな、幅10メートルもない市街地の道路のド真ん中で、あの、通称手裏剣爆弾を!?
俺のいた地面が噴きあがる。
爆風が全てを覆う。
耳が遠くなる
視界が半回転する
――と思った瞬間、身体が何かに抱きとめられた。
というより、腹に何かが喰いこんで無理矢理ひっぱりあげられた。
それは腕だった。真珠に塗られた爪をした白い手。
俺は事態をよく掴めぬまま、頭を動かして持ち主を──
つまり、俺を掴んでいる人間を見上げた。
紅い髪。薄いグレーに煌く眼。
ほんのりと薄紅の唇から飛び出した言葉は。
「愚か者が!
言ったはずだ、逃げろと!」
間違いなく、フレイの声だった。
しかしその行動・言動、
──到底、彼女とは思えなかった。
信じられるわけがない。
フレイが、俺を片腕で掴み、もう片方の手には花束を持ったまま、爆炎をかわしてスカートを翻し、宙を舞っているんだから。
フレイは着地し、さらに次の瞬間には瓦礫を飛び越えた。
その瓦礫は、さっきまでビルの看板だったはずのもので、軽く2メートルはあった。
炎の壁の向こうから、さらにビームの閃光が走ってくる。
崩れかかりやや傾斜している4階建てのビルを前方に発見したフレイは、俺を抱えたままそちらに向かって走る。
しかも、次から次へと降りそそぐ火線を、右へ左へギリギリのところで避けながらだ。
炎が走り、死体が積み重なり、ガラスや鉄筋が落下してくる中を、彼女は躊躇することなく駆けていく。
「フレ……」
「喋るな。舌を噛むぞ」
ダガーLの視界から抜け、ビルの裏手に回りようやく、フレイは俺を降ろした。
あまりの事態に腰が抜けてしまい、俺はその場に座り込む。
が、フレイは俺には目もくれず、花束の中に手を突っ込み鎌にも似た物体を引っ張りだす。
それは登山用に使われるピッケルだった。
手早くそいつを手に取りながら、彼女は忌々しげに言葉を放つ。
「下衆どもめが。奴ら、遊んでいる。
火器装備が少ないことを逆利用して、より人々に恐怖を与える手段を選ぶ……
ユニウス条約によって火器は著しく制限された、だがおかげで、戦いの残虐度は一時代昔に逆戻りだ。
これは兵士の鬱憤を晴らす為の、ハンティングでもあるからな」
「バカな! 人を撃ってストレス解消になるとでも言うのか?」
「人間には戦闘が必要だとする主張を、貴様も聞いたことがあるだろう。
だが、あまりにも戦い方が阿呆すぎる」
「そもそも何なんだ、アレ。ブルーコスモスか」
「パイロットの力量からして、末端の末端だな。
しかし……あのダガーL、十二分に改造の余地ありだ。量産機とはいえ、ストライカーパックが使えるのは強い」
冷厳、不敵、大胆。
それでいてどこかに優美さすら感じさせる、フレイの横顔だった。
舌が唇を舐める。この状況下で、何と彼女は笑った。
口の端からニヤリと音がしたような笑みだ。
「君は知っていたな、この爆撃をっ」
ビルは大きく軋み始めていた。
その向こうでダガーLが蠢く、それにストライクダガー1機が続く。
鋼鉄の巨体が地面を打ち鳴らす轟音が、俺を揺さぶった。
炎の照り返す中、フレイは俺を振り返る。さっきの優しい表情は欠片も見えなかった。
ただ、炎まで凍らせるような冷たい瞳があるだけだ。
スカートを何処かで引っ掛けたのか、腰のあたりまで裂け、太ももに装着された黒い拳銃が見えた。
「貴様は真実を語った。
だから私も、真実を見せる」
フレイが俺に何かを手渡す──それは俺の眼鏡だった。
逃げる途中何処かで落としていたが、今の今まで気がつかなかったのだ。
ダガーLの動きを注視しながら、彼女は無愛想に言い放った。
「逃げろ、ここは私が守る」
「どうやって。それに――君は誰だ」
「私はフレイ・アルスターだ」
「へぇ。記憶喪失の上に二重人格ってわけか?」
「そう思いたければ、思っていれば良い」
「君は明らかにフレイじゃないっ!」
そんな俺の口調が癇に触ったのか。
その『フレイ』は俺の頭上に、ミサイルより強烈な怒鳴り声を炸裂させた。
「たわけ!
その眼鏡はダテかっ、これが現在のフレイ・アルスターの真実だ!」
――大いに反論したかったが。
彼女の声には、人の全ての思考と行動を一瞬停止させてしまうほどの重い響きがあった。
声の高さはさっきまでとそう変わらないはずなのに。
白い肌に、ほんのりと光る汗が見えた。
空気は極限まで熱せられていたが、フレイの身体から放散される熱気はそれを上回っている。
「ろくな力もない分際で、無責任な行動をとるな。
貴様のような阿呆は、人の話を黙って聞いていればよい」
ピッケルを真正面に構え、フレイはダガーLとの位置を測る。
身体の中に宿る魂から放たれる闘志。
「貴様は私が守る。だから私に従え!!」
──俺の中の錆びついていたネジが、強引に回されたような気がした。