【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

100 / 436
part8 炎と雨

 

 ナガンヌ上空では、ジェットストライカーを閃かせ空へと飛翔した2機のウィンダム(時澤機と他1機)が、バビ2機とビームの応酬を繰り広げていた。

 

「空への道は死んでも守る! 

 真田、来いっ」

《了解!》

 

 真田の緊張気味の応答が、時澤のコクピットに響いた。

 時澤は敵機に包囲されつつも、バビのビームをシールドで見事に防いでみせる。Gに耐えつつ火線をかいくぐる時澤機。

 普段は柔和な仏のような彼の口元に、今は不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「空戦に……

 背丈もナチュラルも関係ないこと、教えてやる!」

 

 真田のスカイグラスパーが時澤機に追従し、こちらはやや危なっかしい動作でバビのビームをくぐり抜ける。

 

《時澤さん! もうバッテリーがないでしょう!》

 

 スカイグラスパーに搭載されたキャノン砲でディンの翼を狙いつつ、真田は時澤を案じる。

 自分たちは背後の空港を守らねばならず、その点もバビ部隊より不利だ。しかし、時澤はまだ応答を返す余裕があった。

 

「何の為にお前がいる! 

 それと、いい加減『軍曹』と呼べ!」

 

 怒鳴りつつ、時澤機はバビにビームサーベルで襲いかかる

 ――と、バビの胸部から閃光が放たれた。

 噴出する血飛沫にも似たその光は、アルドール複相ビーム砲――量産機にしてはやたらと大火力の武装だ。

 

「こんなモノっ……!」

 

 咄嗟にアンチビームシールドで火線を防ぐ時澤機。

 力と力の激突で、空が白く染まる──その光で、バビに一瞬の隙が生じた。

 

「魔術師気取りか、三角帽子君!」

 

 ほぼゼロ距離に近い位置から、時澤機はシールドの裏に隠しておいたミサイルを2発とも、盛大に撃ちこんだ。

 雨空を染める紅の爆発。

 直後、時澤機のバッテリーがけたたましい警告を発した。

 

 

 

 

 時澤たちの激闘を上空に見ながら、ナオトとミリアリアはようやく目的地に着いていた。

 そこは、空港近くの緊急用発着所。既に他の戦闘機は全機出撃しているらしく、あとは小型輸送用ヘリ数機しか残っていない。

 当然警備兵がおり銃を向けられる二人だったが、ミリアリアは堂々と叫ぶ。

 

「この子はモビルスーツパイロットよ! 道を開けてっ」

 

 彼女の威勢に、警備兵たちは思わず銃を逸らしてしまう。

 その言葉がどれだけ異常かすら感じさせない威圧が、二人にはあった。

 

 理屈などどうでもいい。とにかく行くんだ、戻るんだ――

 サイの処へ。マユの処へ。フレイの処へ。アマミキョへ! 

 ミリアリアとナオトの思いは、今や一つだった。

 

 

 その瞬間だった──時澤機がバビにミサイルを発射したのは。

 またも土の上を滑るように伏せる、ナオトとミリアリア。大気を包む炎の臭い。

 だが彼女はすぐに立ち上がり、ナオトを強引に引っ張った。

 

「立って! 早く!!」

 

 その怒号に、ナオトは空を見る──

 

 

 ほぼ接触しているも同然の距離でミサイルを浴びせてもなお、バビはまだ爆散してはいなかった。

 モビルアーマー形態に変化し、炎をかいくぐり、三角帽子は時澤機に迫っていく。

 

 

 

 

 さすがの時澤も、バビのしぶとさには若干怯みを隠せなかった

 ――バッテリー切れまで、残り5秒。

 

 余裕を持ちすぎたか。考えてみれば、3年前まで何をやっても、こいつらにはまるで歯が立たなかったんだ。

 モビルアーマーに変化してさらに火力を強めたバビが、時澤のウィンダムに襲いかかる。

 時澤機はジェットストライカーを背部から切り離し、それを怒りに任せてバビにぶん投げ、さらにありったけのビームを撃ち込んだ。

 虎の子のストライカーが壊れる? 何を言ってる、自機と命がぶっ壊れるよりマシだろう!

 

 

 放り出したストライカーが目くらましになったか、時澤の執念がまさったか。

 相手めがけてほぼ無茶苦茶に撃った一発が、幸運にもバビのエンジンを直撃したらしい。

 

 

 時澤機が地上に降りた瞬間、空がまたもや閃光に染まる。

 あっけなく四散する、三角帽子の尖った図体。

 

 

 そのパーツが地上へ、次々と舞っていく――

 決して小さくはない、しかも高熱を帯びた破片が、無数に。

 勿論ヘリ発着所の施設も、バビ墜落の被害を受けた。

 ――せめて爆発せずに落ちろと願ったところで、無茶な話だ。

 時澤は舌打ちを禁じえなかった。

 

 

 その間にも当然、他のバビやディンは攻撃を止めてくれるはずがなく、時澤機を狙ってくる。

 味方のウィンダムは既に撃墜され、火柱が轟々と上がっていた。

 

 ――まだか、真田。

 

 あのスカイグラスパーから新規のジェットストライカーを受け取れば、形勢逆転のチャンスもある。時澤はくいいるようにモニター上のスカイグラスパーを確認する。

 全速力で滑空しているのだろうが、今の時澤にはドン亀そのものだった。

 

 

 

 

 雨と鉄屑と炎が次々と降りそそぐ中を、どうにかナオトとミリアリアは走り抜け、飛び立てる状態にある小型ヘリにたどり着いた。

 本来は一人乗りであろうそのヘリに、ミリアリアは彼の尻を蹴飛ばすようにして彼を乗せる。

 

「とにかく、貴方だけでも……

 操縦は出来るわね?」

「はいっ」

 

 だがナオトがヘリに乗り込んでエンジンをかけた瞬間、またしても前方に炎が上がった。

 時澤機を狙ったバビのビームが、ナオトたちのすぐ前のヘリを直撃したのだ。

 

 幸いナオトたちのヘリに被害はなかったが、視界を炎で防がれてしまう。

 ――だが、ナオトの目にはまだ、時澤たちの戦いが見えていた。

 

 時澤機がスカイグラスパーからジェットストライカーを受け取り、再び息を吹き返して上空を舞おうとする

 ――が、そこで生まれた一瞬の隙を見逃すザフトではなかった。

 スラスターを噴かして飛び立った時澤機の左後方の地上、待ち伏せていたディンが彼を狙う。

 いち早くそれに気づいたのは、真田だった。

 

 

 ――時澤さん、危ない! 

 

 

 ナオトの耳に、そんな声が聞こえたような気がした刹那。

 

 ウィンダムをかばうように、強引に前に飛び出していくスカイグラスパー。

 その結果──

 

 

 ナオトは見た。ディンのランチャーから発射された炎が、スカイグラスパーの右翼を貫く光景を。

 さらにナオトは見た。上空50メートルの空域で炎上するスカイグラスパーから、コクピットの脱出装置と共に、パイロットが飛び出していく光景を。

 炎と雨の中、パイロットが落下していく光景を。

 

 

 ――そして、ナオトの眼球はさらに衝撃的な映像を映し出す。

 

 

「どうして……何で? 

 どうして、パラシュートが開かないんだ!?」

 

 

 脱出装置はパイロットを乗せたまま、50メートル下の地上へくるくる回転しながら落ちていく。

 揚力も推力も働かない、ただ重力に任せて落下していく脱出装置。

 ──明らかに、動作不良だった。

 この、極凶とでも表すべき不運に見舞われたパイロットが真田上等兵であることを、ナオトは既にその肉眼で確認していた。

 

 

 真田さんが、落ちていく。

 僕を励ましてくれた真田さんが、最後に僕を心配してくれた真田さんが、炎の中へ落ちていく。

 手を合わせながら。逆さになり、まっすぐに、大地に向かい、手を合わせて。

 

 

 ──あれが、「祈り」だろうか? 

 

 

 AD時代の遺物であるはずの言葉が、何故かナオトの中で閃いていた。

 宗教は勿論、歴史などまるで知らないはずの真田が、祈っていたのか? 

 死の前に? 何故? 

 

 

 ――その謎は、永遠に解明されることなく。

 2秒後にはもう、真田の身体は炎の地表に叩きつけられ、装置と共に砕け散っていた。

 

 

「こんなの、嘘だっ! 

 真田さああああんんっ!!」

 

 

 叫んでいた。ヘリの操縦桿を掴んだまま、ナオトは叫んでいた。

 

「知ってる人?!」

 ミリアリアが驚いて肩を揺さぶったが、ナオトには何も聞こえない。

 胸元のフーアのお守りが、揺れていた。

 その叫びは勿論、時澤がウィンダムコクピットで発した絶叫とほぼ同じだった。

 

 

 

 

 真田の命が消し飛んだその頃

 ――サイは、M1アストレイに乗り込んでいた。

 

 右手だけでOSを立ち上げ、システムの状態を確認する。作業用プログラムから戦闘用への切り替えは、何とかうまく行ったようだ。イーゲルシュテルンの動作も問題ない。

 モニターに、豪雨で曇るヤハラの森が映し出される。

 時折モニター全体に雷光の如く閃くものは、炎の照り返し。

 

 機体の足元に、スズミ女医が慌てて走りこんできて何やら叫んでいるようだが、サイは何も聞かないことにした。

 

「キラ、フレイ──

 見ていてくれ。俺は行く!」

 

 サイは右腕だけで操縦桿を掴み、機体の動作を確認した。

 ナチュラルでも動かせるよう、キラが調整に調整を重ねて誕生したモビルスーツ――

 腕、腰、脚、その他各所にワイヤーなどでくくりつけたスティレットの状態を見つつ、サイはアストレイを動かし始めた。

 

 最初は緩慢に、しかし次第に滑らかな動きで、歩行を始めるアストレイ。

 防護シートをばっと頭部から取り払い、アストレイのカメラアイが光る

 ――カタパルトも、発進オペレートも何もない、たった一人のサイの出動だった。

 目標はヤエセ市街地──第14ヘリポートの防衛。

 

 

 

 

 エンジンをかけたまま錯乱状態に陥ってしまったナオトに、ミリアリアが叫ぶ。

 

「行くのよ! 飛びなさいっ」

 

 開放されたままの昇降口から、煙と雨が吹き込んでくる。

 一人乗りのヘリには本来ナオト以外は乗れず、ミリアリアは身体の大半を外側に出したままというかなり中途半端な体勢になっていた。

 元より、彼女はアマミキョには行けない。オーブからの帰還命令はそれだけの強制力があった。それは彼女自身もナオトも分かっている──

 

 それでもミリアリアはナオトの腕を、折れよとばかりに掴んていた。そのおかげで、ナオトはどうにか冷静さを失わずにすんでいたといえる。

 だが次の瞬間

 

 ――またしても、ヘリの左後方あたりで大爆発が起こった。

 ミラーに映しだされたのは、炎の中へ吹き飛んでいく警備兵の四肢。

 怒りにまかせて時澤がディンを撃墜した、そのディンの墜落による爆発だった。

 

 

 その時──ナオトの腕を掴んでいたミリアリアの手から、突然力が抜けた。

 

 

 爆発を背後にして、ミリアリアの身体が二度ほど跳ねる。

 肩を押さえ倒れこみかかり、無理にでも足を踏ん張ろうとするも――

 

 

「ミリアリアさん! どうしたんですかっ」

「……大丈夫、ちょっと破片が当たっただけかな。急いで!」

 

 

 痛みをこらえながらも、何とか笑顔を見せるミリアリア。

 ヘリはナオトの操縦に従い、ようやく浮遊を始めていた。エンジンの激しい振動。

 ミリアリアは強風と豪雨に煽られながらもどうにかヘリにすがりつこうとしたが、出来ない。

 ――手をヘリの窓にかけようとしたが、その努力も虚しく

 

 

 

 彼女の身体は背中から崩れていき、振り落とされる。

 ヘリの窓についた血。それはあっという間に雨で流れていく。

 

 

 

 その瞬間ナオトは確かに、ミリアリアの唇が、こう動くのを見た。

 

 

 

 ――サイを、フレイを、お願いよ。

 

 

 

「嫌だあっ! 

 僕だけじゃ無理だ! ミリィさんっ!!」

 

 

 飛び立っていくヘリからでも、ミリアリアの肩口からの出血がわずかに見えた。

 泣き叫ぶナオトをよそに、その身体はそのまま乱暴に大地に転がされていく。

 

 すぐにでも駆け降りて助けたかったが、もうヘリは15メートルほども浮遊していた。バビやディンの攻撃はまだ続く──

 炎の中、ミリアリアの姿は瞬く間に見えなくなっていった。

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 アマミキョに迫る戦火。

 炎の雨の中で人の想いは交錯し、血煙と消えていく。

 爆光のさなか、容赦なく傷つけられていくサイとその機体。

 だが彼の強靭な想いは、この街の片隅で、一つの奇蹟を起こす。

 

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「疾走する魂」

 鋼鉄の意思、貫け! アストレイ! 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。