【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
M1アストレイを駆るサイは、激しくなる豪雨の中、どうにかヤエセ第14ヘリポート付近の封鎖箇所にたどり着いた。
周辺は既に避難する人々と車でごった返しており、収拾がつかなくなっている。
戦闘による爆音が人々の怒号をさらに煽り立て、道路封鎖に躍起になっている連合・チュウザン合同軍の兵士たちも疲労の色を隠せないでいた。既に警戒レベルは最大だ。
そんな時だった。サイがアストレイで到着したのは──
程なくサイは、道路上に詰まりまくっている車の列の中に、アマミキョの血液輸送車を見つけた。外部スピーカを全開にして叫ぶ。
「道を開けて下さい、アマミキョに緊急で血液が必要なんです!
お願いします、血液輸送車だけでも通して下さい!!」
そんなアストレイの大声に気圧されたか。
それまで騒々しく喚いていた人々が一瞬だけ、静かになった。そして渋々ながら道を開き、サイのアストレイを通そうとする。
俺が生身でいくら叫んだって、この人らは聞かないのに。
モビルスーツとは、こんな威力もあるんだ――俺は今、ろくでもないモノを動かしている。
サイはマニピュレータを慎重に操作しつつ車列から血液輸送車を拾い上げると、帰途をコンソールパネルで探った。
アストレイで移動してくる間にも、ザフトの手は確実にこの地を侵食しつつあった。
同時に道路封鎖箇所も加速度的に増加していき、アストレイをもってしても通行可能か、分からない地点も増えている──
サイは致し方なく、今来たばかりの川沿いの道を選択した。
少し前までは栄えていたが、テロの頻発で現在は廃墟となっているビル街である。
子供たちとよくスティレット撤去作業の為に往復しており、サイにとってはそこが最も安全な道に思えた。
比較的道幅の広めなその道路に出て、サイは先に輸送車をアストレイから下ろした。すぐさま走り去っていく輸送車。
《あんたも早く逃げろ!
ここはヤバ……》
車はまだ見えているのに、一瞬のうちにその通信は遠くなっていく。
――ニュートロンジャマーの影響が、確実に強くなっている。
しかしサイは、それだけではない何かを感じ取った。
すぐそばのビルの向こうを轟々と流れる、川の中に。
何てこった。ヤキンの経験は、こんな俺の中にまで戦闘に対する勘というものを生み出してしまったらしい。
川を遡ってくる、この不穏な気配は何だ。思い過ごしであればいいが──
「いや……来る!」
アストレイを崩れたビルの陰に隠し、サイはじっと息を潜めて様子をうかがう。
右手だけで握りしめた操縦桿。
手袋の中が、汗でじっとり濡れていた。
包帯も汗だらけだ。湿気と暑さのせいだけではない。
サイの身を守るものは、朱の作業用ジャンパー、薄手の病院着、急いで取ってきたヘルメット。あとは全身を覆う包帯のみだ。
モニターから、雨の流れる音が響いてくる。時折混じるドラムのような雷鳴と地響きは、このすぐ近くに迫っている戦闘の音だ。
ビルの窓越しに、サイはアストレイのカメラアイを向ける。
窓の向こう側を、カメラは無機的に映し出す。暗く、棚が倒され書類の散乱したままのオフィス、その向こう側の濁った川を。
――サイが映像を確認するのと、その川面が不自然にごうっと盛り上がったのは、ほぼ同時だった。
「……!?」
自分の心臓が、喉下まで大きく跳ね上がる感触を覚える。
声も出ない。いや、出してはいけない。
窓の向こう、ぬめる水を落としながら現れたモノは
──ひどく大仰な双対の鉤爪を持つ、蛍光緑の怪物。
あぁ、オーブの神話の中にあんなのがいたな。あれが鬼とか、荒神とかいうヤツだろうか。
川から音もなく這い上がり、娘をさらう怪物。そのへんの植物の栄養素を全て吸収したかのように、ぎらぎらと緑に輝く皮膚──
いや、落ち着け! あれは装甲だ。モビルスーツだ。しかも、見たこともない機体。
サイは大急ぎで脳内データベースと手元のデータベース、両方を探る。
「連合に、あんな機体は!」
サイの脳の方が、結論を出すのは早かった。
あぁ。何で俺の頭は、こうも絶望的な答えばかり想像してしまう? 今は一応味方である連合の新型が、偶然川流れしてきたのかも知れないじゃないか。
――否。それは全く楽天的な願望にすぎない。
ザフトの水中用モビルスーツ、グーンによく似ている。
後継機だ、間違いない。
おそらく海から侵入し、この川を遡上してきたのだろう。
この地域の河川は蛇行を繰り返していることが多く迷路のようでもあるが、同時に水深もかなりのものだ。あのモビルスーツ一つぐらいは余裕で隠せる。
それにしても、あんなものに易々と侵入を許すとは――
サイは唇を噛まずにはいられなかったが、今の自分が何を言った処で無駄だ。
既に海岸線や空港上空では熾烈な攻防が展開されている、その隙を突かれたのだ。
何とか、山神隊やアマミキョに通信を送ることは出来ないか。
この区域のニュートロンジャマーの影響はこんな時に限って強くなり、既に先に行った血液輸送車との通信は途絶している。
「これが、ティーダだったら……」
思わずサイは呻いたが、同時にナオトの姿を思い描いてしまい、懸命にそれを頭から振り払った。
もう、あいつは戻ってこない。
相手の機体は驚異的なほどの遅さでのろのろ動き、周囲を探っている。
索敵用の機体なのだろうが、それにしても何というカラーリングだろう──
ザフトの、傲慢なほどの自信の現れだろうか。真っ赤な単眼に、輝かんばかりのショッキンググリーン。
灰色の雨の光景の中、それは全く異質な存在だった。
通信はどうやっても繋がらない。それがサイの焦りを募らせ、ミスを生んだ。
吊られたままの左腕が操縦桿にわずかに当たり、機体がほんの少しだけ予想外の方向へと動いてしまう。そして──
何という運の悪さだろうか。丁度アストレイの足元には、大量の自転車やバイクが乗り捨てられたまま放置されていたのだ。
この地域では自転車やバイクが必需品でもあったが、このように乗り捨てる愚か者も大量におり、付近の交通を著しく阻害してもいた。
サイたちシュリ隊もこの放置自転車の撤去作業を何度となく行なっていたものだが、それでもこの馬鹿者集団が消えることはなかったのだ。
アストレイの脚部が当たり、自転車は盛大にドミノの如く崩れ落ちていく。
果てしない絶望を伴って、その音は無慈悲にサイの心臓を貫いていく。
当然の結果として──
化け物モビルスーツの紅の単眼が、ぐるりと動いてビルの窓を貫き、サイのアストレイを捉えた。
ビルの窓いっぱいに閃く炎。
次の瞬間にはもう、サイの眼前でビルは倒壊し、雨空を切り裂いて緑の怪物が飛びかかってきた。泥飛沫をあげながら。
「ゲテモノが!」
最早、引けない。
サイはやむなく、アストレイに強引に装備させていたアーマーシュナイダーを抜き放つ。カラミティの使い古しだ。
雨あられと飛んでくるビルの瓦礫をモロに被りながら、アストレイは咄嗟の機動で相手の体当たりをどうにかかわした。
機体が激しく揺れる――
揺れるたびに、サイの傷も酷く痛んだ。
「キラ……
信じてるぞ、俺は!」
キラの作った、ナチュラル用OS。アストレイに組み込まれたこのシステムを──
キラの魂同然のこのOSを、今は信じるしかない。
負傷しているナチュラルの自分と、コーディネイターの新型。
しかも俺はストライクを土下座させた大逸材ときた、畜生。
圧倒的不利、どころの話ではない。誰がどう見ても敗北必至。
一体どこまで渡り合える? 何分もつ? いや、何秒?
サイは汗まみれの右手で、操縦桿を力いっぱい引いた。
とにかく今は、逃げるしかない。逃げて逃げて逃げまくり、山神隊とアマミキョへ、この化物の存在を伝える。
他にも潜入した部隊がいる可能性は十二分にある。中から切り崩されては、この地は終わりだ。
スラスターを限界まで噴かし、来た道へ一目散に退却を試みるアストレイ。
――だが当然、これを見逃す相手ではなかった。
PHASE-12 疾走する魂