【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 俺は絶対に、心だけは

 

 

 ナガンヌ上空の戦闘空域を、ナオトを乗せたヘリは奇跡的に脱け出そうとしていた。

 バビ、ディンの火線は未だに空を切り裂いていたが、怒れる時澤のウィンダムも止まらない。

 

 ナオトは壊れた水道のように涙を流しながらも、しっかりヘリの操縦桿を握り締めていた。

 窓に一瞬だけ付着していたミリアリアの血痕は、既に雨が跡形もなく消し去っている。

 

 

 ――ミリアリア、そして真田上等兵。

 ナオトは懸命にその小さな頭で考え続けていた。自分に道を指し示しながら自分の前から消えてしまった二人、その想いを。

 

 

 僕に真相を教え、僕を送り出してくれたミリィさん。

 アマミキョから逃げ出そうとする僕を、何とか説得しようとしていた真田さん。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい──

 貴方たちの言う通り、僕はきちんと物事を見るべきだった。僕にしか出来ないことをやるべきだったんだ。

 それなのに、僕がアマミキョに戻る前に──

 

 

「どうして貴方たちは、消えちゃったんだ! 

 フーアさんたちと一緒じゃないか、これじゃ!!」

 

 

 また一つ、黒い空に火球が生まれる。

 真田と同じように、また命が一つ消えていく。

 交錯する閃光は何度かナオトのヘリをも貫きかけたが、時澤のウィンダムがすんでの処でナオトを守っていた。

 激しいノイズ混じりの通信が、ナオトの元に響いてくる。

 

《そこのヘリ! 自殺する気かっ!!》

 

 いつもの穏やかさからは考えられぬほどに激した、時澤の怒鳴り声だった。

 

「時澤さん! 

 僕です、ナオト・シライシですっ」

 

 豪雨とエンジン音にも負けず、ナオトは怒鳴った。相手が息を飲む音がわずかに聞こえる。

 

「お願いします、僕をアマミキョに戻して下さい! 

 アマミキョはどうなってるんです!?」

 

 襲いくるバビから、時澤機は懸命にヘリを守る。

 

《後方で待機中だ。

 ……君があと5分早ければ、真田も喜んだだろうに!》

 

 

 

 

 

 

 サイのアストレイと対峙したアッシュのパイロットは、若干18歳の――少年と言ってもいい兵士だった。

 ヨダカ隊の一人で、アマミキョ及びティーダの動向を探るべく潜入作戦を命じられていたが、目標の半分の道程も行かぬうちにアストレイに発見されてしまったのだ。

 

 パイロットは、その紅と白の装甲に見覚えがあった。

 ザフトを脅かした、例の悪魔――ストライクの動きを導入してオーブで開発された、ナチュラル用モビルスーツ。武装は右腕のアサルトナイフ以外に見当たらず、おそらく作業用機体。

 だが、モビルスーツである以上油断は出来ない。隊長ヨダカからは既に、万が一発見されたら容赦なく撃破せよとの指令を受けている。

 しかもオーブは現在、プラントの敵なのだ。

 

 相手はおそらく味方に急を伝える為であろう、踵を返すように機体を翻した──

 こいつを見逃すわけにはいかない。とにかく動きを止める! 

 

 アッシュの意外なほどの身軽さを利用して、彼は一気にビルを崩壊させてアストレイに追いついた。

 動きですぐに分かった──こいつは、ナチュラルだ。

 しかも軍人ではない。少なくともパイロットとしての訓練は受けていないはずだ。

 もしや、民間人か? 

 

「どっちにしろ──

 黙っててもらわにゃ、困るんだよ!」

 

 作戦遂行の為、派手な火力の応酬は出来うる限り避けたい。しかしあいにく、どういう訳かこのアッシュにはミサイルランチャーだのビーム砲だの、威力優先の武器しかない。

 しかも嫌がらせのように、装甲は滅茶苦茶目立つ蛍光色。どうやら試作機のお下がりらしい。

 ヨダカ隊は議長のお気に入りらしいので頂けた機体らしいが、緑服の自分にはあまりにも過ぎた怪物だ。

 

 ――隊長、俺を疎んじてこの機体を押し付けたんじゃねぇだろうな。

 コーディネイターの癖に、突出した才能など何もなく生まれた俺を。

 

 彼は仕方なく、アストレイに肉弾戦を挑む。

 まあいい――このビームクローでナチュラルのコクピットを貫くぐらい、鼻くそをほじるくらい簡単なのだから。

 

 

 

 

 襲いかかってくる怪物の爪。

 サイはどうにか貫かれる前に間一髪で機体を逸らしたが、同時にアストレイの左腕がいとも簡単にもぎ取られ、宙に舞った。

 

 衝撃と共に、大きく右へ弾き飛ばされる身体。

 何とか機体はその場に踏みとどまらせたものの、反動で今度は左にのめる。シートベルトが身を切り飛ばすほどにサイに食い込んだ。

 

 負傷している方の腕が激しくコクピットの壁にぶつかり、雷鳴の如き痛みに呻く。

 さらに、メットをしていたにも関わらず頭を激しくサイドのパネルにぶつけ、耳が一瞬遠くなり、温かいものが額を流れ出す。

 唇の間からその液体の味を感じた時、サイは頭部の傷が完全に開いてしまったことに初めて気づいた。

 

「……これじゃ、勝負にもならない!」

 

 この機体はあくまで作業用。従って、コクピットに施された衝撃吸収システムは戦闘用のそれほど強力ではない。

 おまけにサイはパイロットスーツも着ていない。だが――

 

 それでも彼は耐えた。

 左腕が取れたおかげで、機体重量は減っている。バランスの調整が若干難しいが、身軽になったことは確かだ。

 

 しかし、何という相手の速さ――これが、コーディネイターの力か。

 改めてサイはザフトの強さを思う。

 だが感心している暇などあるはずもなく、相手のクローの内側に仕込まれた機関砲が火を噴いた。

 

 

 アストレイ、キラ、頼む――

 よけろ、よけてくれ! 

 

 

 激しく揺られほうぼうに身体をぶつけながら、サイは絶対に操縦桿から右手を離さず、機体の操作を続けていた。

 祈るように──

 祈り? 誰に? キラに? フレイに? いや、誰へでもない。

 

 ──神に。

 

 その一瞬の祈りが少しは通じたのか、アストレイは見事なステップを繰り返しながら市街地を駆け抜け、機関砲の雨をくぐり抜けていた。

 そして自ら機体を転がすようにしながら落ちた左腕を拾い上げると、アストレイはビル陰に回りこんだ。

 迷路のようなこの市街地。たとえザフトの索敵機といえども、こちらに若干の地の利があるはずだ。

 

 もうこの時点で胸の傷も開き、包帯が紅に染まっていたが、サイはここで止まるわけにはいかなかった。

 吐き出される息でバイザーが曇る。その息にも、血の臭いが混じっている。

 

 フレイ、見ていろ。これが俺の意地だ。

 あの砂漠で、営倉に入れられた時から俺は決めたんだ。

 どんなに負けても。どれほど苦しくても。

 どれほど恥をかこうと、どれほど叩きのめされようと──

 

「俺は絶対に、心だけは折れるつもりはない!」

 

 

 

 

 意外に素早いアストレイの動きに、アッシュのパイロットは戸惑いを隠せなかった。

 尤もそれは、普段目にする連合の量産機よりも少しは早いというだけの話で、決してザフトのパイロットの手を煩わせるだけの技量があるというわけではなかった。

 しかしそれでも、まだ若いパイロットを苛立たせるだけの効果はあった。

 

 彼の中で、ヨダカの声が蘇る

 ──気をつけろ。あのモビルスーツには、キラ・ヤマトのデータが組み込まれている。

 

「コーディネイターに頼らなきゃ、戦闘すら出来ない癖に!」

 

 作業用の癖に。民間人の癖に。

 ナチュラルの癖に。劣等種の癖に! 

 

 この地域特有の熱と湿気、そしてやまぬスコールが、彼の苛立ちをさらに強めていた。

 こんなモノに少しでも手こずるような事態になれば、自分のザフト兵としての尊厳にかかわる! 

 

 今、彼の若さは、アストレイへの敵意となって剥きだしになっていた。

 本来なら相手の脚だけ蹴飛ばして川に戻り、作戦行動を続行すれば良かったものを、彼はそうは出来なかった。

 そして彼は見た。アストレイが既に使い物にならぬはずの左腕を拾い上げ、暗いビル陰に回りこむ光景を。

 

 ――小賢しい。

 迷路に誘い込もうなどと、そんな小手先戦法が通用するか! 

 

 アッシュのビームクローが、アストレイの隠れたビルを直撃する。

 崩壊しかかっていたビルはあっけなく粉砕され、ガラスと鉄骨の嵐が豪雨に混じる

 

 

 ――その瞬間、モニターに大写しになるアストレイの左腕。

 砕いたはずの左腕が、アッシュに向かって突き出されている!? 

 

 

 彼はその時、初めて気づいた。その左腕内側に、装甲貫入弾スティレットがワイヤーでくくりつけられていることを──

 とっさに防御姿勢を取るのと、大爆発が起こったのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

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