【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 たった一人の死闘

 

 

 スティレット自体の火力に加え、アストレイ左腕の破片が榴散弾のように飛び散り発生した爆風は凄まじかった──

 しかし爆発の衝撃は当然、アストレイのサイをも直撃していた。いや、相手の被害よりも物理的ショックは酷かったかも知れない。

 

 メットのバイザーは割れ、包帯は血でまみれ、サイの意識自体が朦朧とし始めていた。

 彼はそれでも頭を上げる。ディスプレイが、機体の破損状況をけたたましく伝えてくる。

 致命的損傷を示す、真っ赤な点滅ばかりだ。

 

 ――だが、まだだ。

 

 まだ、何とか脚部も右腕も動く。機体の傷みを伝えられるということは、まだ動けるということだ。

 サイは冷静さだけは何とか保ちつつ、前方モニターを確認する──

 そして

 

 

 ――息を飲んだ。

 悪夢なら早く終われ。

 最早俺にとっては、一体どこからが悪夢か分からんが。

 

 

 相手は、ほぼ無傷だった。

 ビームクローの一部が少しばかりひしゃげている以外は。

 

 

「……馬鹿な! 

 フェイズシフトだってのかっ」

 

 いや──違う。サイはすぐさま自分の言葉を否定した。

 装甲ではない。相手の技術だ。

 

 

 何故か唐突に思い出したのは、コーディネイターたちと作業をしていた時のこと。2年前、あの戦いの時。

 自分がどうしても一度では覚えられない作業手順を、アスランはメモりさえせず、一度教えられただけで完璧に覚えた。

 逆にディアッカに「メモる必要なんてないぜ、元々連合機だし超簡単だから」と言われて説明されたバスターの通信システムを、どうしてもサイやミリアリアは一度で理解することが出来なかった。

 しまいにはミリィはキレてたっけ、せめて10000文字以内で説明しなさいよ! って。ラミアス艦長が間に入って説明してくれて、やっと俺たちは理解出来たなぁ……

 

 どれほど俺が急いでドタバタと作業をやろうとしても、あいつらはテキパキと、俺の倍以上の速さでこなす。

 俺の決死の一撃など、彼らはこのように簡単に握りつぶせる。

 

 

 でも――と、同時にサイは思う。

 そんな有能な人間たちだからこそ、利用されるんだ。

 俺たちがキラを利用したように。俺がナオトを戦わせてしまったように。

 

 

 ぬうっと緑のモビルスーツが装甲を光らせ、再びアストレイに迫ってくる。

 背中に装備されたミサイルランチャーは、まるで紅い斑点を持つ白の毒キノコか、もしくは毒虫の卵に見えた。

 光る単眼。

 

 

 「あ……あぁ……!」

 

 

 サイの内股が、恐怖で痙攣を起こしかけている。

 落ち着け、ペダルはテンポ良く踏むんだ。歌うように、踊るように──

 

 サイは頭部バルカン・イーゲルシュテルンを狂ったように撃ちながら、懸命にアストレイを再び疾駆させる。

 がくんと落ちている、スラスターの出力。最早さっきのようなスピードは出ない。

 

 当然のことながら、相手はすぐに追いついてまたしてもクローを突き出してくる。

 その動きがやや感情的になっているのが、サイにも分かった。

 この状況で、もし背部のミサイルランチャーでも撃たれたら──

 

 振り回されるクローの一撃を何とかかわし、くねくねと折れ曲がった道路を駆け回って再度ビル陰に飛び込みつつ、サイは思う。

 

 

 キラ──すまない。

 お前が感じたこの恐怖も、コクピットの閉塞感も、俺は全然知らなかった。

 そりゃ、腕の一つも捻られるよな。

 ナオト──申し訳ない。

 俺はお前を、無責任な言葉一つでこんな場所に押し込んだ。嫌われて当たり前だ。

 フレイ──

 

 ……どうして君は、こんな戦いに

 

 

 そこまで考えた瞬間、サイの視界いっぱいに光が弾けた。

 

 

 

 

 自分が、ビーム砲を使ってしまった。

 このしぶといナチュラルは、遂に自分にビーム砲まで使わせた。畜生! 

 

 サイの推測どおり、アッシュのパイロットは動揺していた。

 アッシュのビームクローが一本、使いモノにならなくなった――

 ただそれだけのことだったが、その損害は十二分にこのザフトパイロットの激昂を誘ったのだ。

 

 相手の必死の抵抗がなければ、彼はここで自分の怒りを激発させることもなく、ただいつものように爪垢を弾くようにコクピットをなぎ払い、若干の心の痛みと共に先へ進むだけだったのに。

 だが、こともあろうに相手は、この俺の機体に傷をつけた。俺のプライドにも。

 その感情は、モニターで未だ爆砕していないアストレイを確認した瞬間、さらに燃え上がった。

 

 ハハ、面白い。ビルごと吹っ飛ばしたつもりだったのに。

 

 アストレイはその向こうの銀行に叩きつけられ銀行ごと倒壊しつつ、関節部全てから煙を上げながらも、まだカメラアイも腕も脚も動いていた。意外にアッシュのビーム砲の火力は小さめらしい。

 彼の若い激情に油が注ぎ込まれ、さらなる炎上を始める。

 

「後悔するなよ、俺を怒らせたこと!」

 

 瓦礫に埋もれて動けないアストレイに向かって、アッシュは突進を開始した。

 もうビーム砲など使わない、肉弾で倒してやる! 

 

 

 

 

 大丈夫。俺は大丈夫。

 左腕以外は動く――心臓も動いている。まだ。

 

 視界は血で真っ赤になっているが、何とか右目は無事だ。

 計器類もまだ大分生きている。どこかで回路がショートして火花を散らす音が聞こえるが、生きているディスプレイで確認する限り、機体の損傷は5割を超えちゃいない。

 絶望的損傷などではない、大丈夫。まだ。

 

 ビルに叩きつけられた瞬間などは、全身の骨が砕け散りその骨の破片が心臓と胃と腸と脳を直撃したかというほどの衝撃がサイを襲った。

「死」という真っ赤な文字が幾つも溢れかえり、頭の中を満たしていく。

 メットの下部が血の混じった嘔吐物で埋まり、その一部が漏れ出して胸へと流れていく。

 

 それでもサイは驚異的にも、すぐに体勢を立て直した。

 こちらに向かってくるアッシュを確認した時にはもう、サイは血だらけの右手袋で操縦桿を力いっぱい引き絞っていた。

 

 

 ――応えてくれよ、アストレイ、キラ。

 俺はまだ、生きてる。

 どうやらあのビームクローとスティレットは、何とか互角に戦えるらしい。それなら! 

 

 

 サイの想いが、アストレイの半壊したシステムに通じたか──

 瓦礫に埋まり、煙を発していたアストレイの右腕が、軋みながら持ち上がる。

 そのマニピュレータに握られていたのは、アーマーシュナイダー(鎧を切り裂くモノ)

 

 目標はただ一つ──あの怪物の単眼。

 

 ペダルを踏み込み、一息に機体を起こした。

 何とかアストレイは反応し、ギリギリと関節を熱で軋ませながら身を起こす。

 大丈夫、雨がこの熱と煙を少しは冷やしてくれる。

 

 こんな戦闘方法しか取れないとは実に情けないが、仕方ないだろう。俺は頭が悪いのだから。

 女にハメられ、カズイや他のクルー全員から虫の如く扱われ、ヤケっぱちになったんだろうか、俺は? ああ、何とでも言うがいいさ。

 ナチュラルの意地を見せたいのかって? そうかも知れない。その為に命を削るのかって?

 

 ――2年前ストライクに乗った時の俺は、フレイを亡くした時の俺は

 ()()()()()()()()()()()()()()じゃないか! 

 

 

 アッシュが突進をかましつつ、アストレイのアーマーシュナイダーを叩き払う。

 壊れかけのその武器は、武器を握り締めていた手首ごとあっさりとビームクローで払われ、宙に舞う

 

 ――だが、その瞬間こそがサイの狙いだった。

 幸い、腕部全ては破壊されなかった! 

 

 ビームクローを振り上げたその隙を利用して、アストレイは相手の懐に──

 手首から先が切断された右腕を、強引に押し込んだ。アッシュの顔らしき部分へ。

 

 口があるなら、飲め。このアストレイの手首から流れる血を。

 俺の血を! 

 

 押しつけたその腕の内側にもまた、あのスティレットが装着されていた。しかも3発。

 スティレットの鋭い先端とアッシュの装甲が激突し、豪雨の中で火花を撒き散らす。

 

 ──その瞬間、サイは自ら、アストレイの右腕を切り離した。

 

 電磁の閃光が軽くアストレイの右肩を駆け抜けると、その関節部は盛大に爆砕され

 片腕だけがアッシュに執拗に食らいついたまま、アストレイ本体から離れていく。

 

 

 同時にサイはスラスターを全開にし、機体を大きく後退させた。

 1秒後──

 

 

 アッシュの装甲に食い込んだ一発目のスティレットが爆発し、それに合わせて他2発のスティレットも誘爆していく。勿論、アストレイの右腕ごと。

 その威力はさっきの左腕爆発よりさらに強烈で、半径50メートルほどが一瞬にして閃光に呑まれた。

 

 

 

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