【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 紅蓮の種が弾ける時

 

 

 ようやくヤハラ上空へ到達する、ナオトのヘリ。

 奮戦する時澤機は混乱の中、いつの間にやらヘリの後方に遠ざかっていた。もう通信も出来ない。

 その代わりナオトは、遥か彼方に次々と広がる光条を見た。

 

 豪雨の中に広がっていく紅蓮。

 ヤハラは完全に戦場となっている。その中心にいるはずのアマミキョは――

 サイは。マユは。カズイたちは、アマクサ組は。

 

 ナオトは想いを操縦桿と共に、一直線に前方に傾ける。

 ――と、ナオトの左手の河川付近の市街地で、ひときわ激しい火球が広がった。

 既に無人となったビルを薙ぎ倒し、道路を駆け抜けていく爆光。

 

「誰? 

 誰が戦ってるんだ、こんな処で!」

 

 胸に去来する嫌な予感に、ナオトは動揺していた。

 確かここは、アマミキョ医療ブロックが使うヘリポート付近。

 移動していなければ、医療ブロック自体も近いはずだ。あそこにはアストレイが1機しかなかった。

 

 あれを調整していたのは、確か──

 

 ナオトの動悸が激しくなる。

 まさか、そんなはずない。だって()()()は大怪我してたんだ、アストレイに乗れるわけが。

 他に誰かが乗ったはずだ、山神隊か、でなくとも他に乗れる人はたくさんいるはずだろう! 

 なのに――

 どうしたんだ、この嫌な予感は? 

 

 ナオトの不安はそのまま操縦桿を、爆炎の方向へと向けていく。

 

 

 

 

 

 

 ――これで、少しは足止めになるはずだ。

 

 自分の血が飛び散ったコンソールやディスプレイを眺めながら、サイはぼんやりと考えた。

 さすがにスティレットをこれだけ喰らわせれば、いかにザフトの新型とはいえ無事ではすまないだろう。

 尤も、俺もアストレイも瀕死だが。

 

 辛うじて動作しているディスプレイを確認すると、どうやらアストレイは両腕を失ったまま棒立ちになっているようだ。

 火柱の中で豪雨はいつしか黒い雨となり、モニターを汚していく。

 そのモニターも、左半分が使い物にならなくなっていた。カメラアイがやられたらしい。

 

 

 ――が、サイの考えはまだまだ甘かった。

 

 

 炎と瓦礫の中から立ちのぼる、強烈な殺気。

 自分の脳内だけで鳴りだした警報に、サイは思わず身を起こす。

 ――立て。早く立て。まだ終わってない。

 まだ、やれてない。

 胸の傷から盛大に血が流れ出し、シートに海を作っていく。

 

「おい……まさか」

 

 まだ無傷だってのか、と彼が絶望する前に──

 突然、炎の中からビームクローが飛び出した。こんなに長かったのか、この爪は! 

 

 クローは長い上、よく曲がりもした。

 カメラアイ破損で出来た死角で、一瞬クローの先端が見えなくなる。

 

 直後──

 

 モニターの映像が激しいノイズと共に遮断され、コクピットが暗闇に満ちた。

 だがそれも瞬間的なことで

 その0.5秒後にはコクピットは

 自動車がガードレールに車体を引きずるような轟音と共に

 撹拌機に放り込まれたかの如く揺すぶられ

 

 

 1秒後、クローはコクピットの一部を貫通した。

 中心を貫いたわけではなかったのは、最後の幸運か。

 

 

 眼前のハッチが飛び散り、豪雨と煙が一気にコクピットに吹き込んだ。

 ケーブルやら電子回路の残骸やらが細かく砕かれて火花を散らし、サイの上を踊る。

 

 

 それでもなおサイは、操縦桿から手を離さなかった。

 倒れるな、踏みとどまれ、どうか──

 

 

 だが、どんなに必死の祈りであろうと何度も通用するわけはなく、アストレイはクローの衝撃に耐え切れず、サイを乗せたまま勢いよく大地へ横倒しになった。

 機体がコクピットごと、地面に叩きつけられる。

 作業用MSとはいえ、衝撃吸収システムがわずかでも動作したのは不幸中の幸いか、それとも苦痛を引き伸ばす結果にしかならないか。

 半壊したコクピットの中、ちぎれたコードが無数に火花を散らす。

 

 そんな地獄の中――

 砕けたハッチの残骸が無情にも、サイの、最早動かなくなった左腕を直撃した。

 

「あ……

 あ、あぁ、ぎゃあああぁああああああああああああぁああああああ!!!」

 

 自分でも、人のものは決して思えないような悲鳴を上げた

 ――頭のどこかで妙に冷静にそう思ったのは、一瞬。

 腕に食い込んだ、熱を帯びた破片。

 全身を貫く死の恐怖、痛み──

 

 

 これは罰だ。キラやナオトを、こんな戦いに叩き込んだ俺の。

 フレイを理解出来なかった俺の。

 何も出来なかった俺の。

 

 ――畜生。今だってこいつを止めることすら、俺は出来やしないじゃないか。

 カズイの力になることも、アムルを説得することも、ブリッジにいることさえも、俺は──

 

 

 意識が遠くなる。顔に吹きつける雨。どうやらバイザーも飛んだようだ。

 直接肉眼で、外の光景が見える。壊れたモニターよりも視界は良好だが。

 

 そこにぬうと立ちはだかるは──ザフトの新型。

 緑がかった装甲が、熱で今や赤黒く焦げている。

 

 そいつはもう片方の爪を振り上げ、アストレイを豚のように解体しようとしていた。

 まずは頭部を捻り潰しにかかる。双対の紅の角を持ち、人間の顔に酷似した頭部。

 オーブの誇りでもある紅の戦士、その象徴。

 そこに容赦なく怪物の爪は食いこみ、金属同士がこすれる不快な音が響きわたった。

 

 面白い──()()()()に傷つけられたのが、そんなに悔しいか。

 見ていろ。それが最後の罠だ。

 

 

 

 

 アッシュのパイロットは、完全に我を失っていた。さっきの爆風で吹き飛ばされて頭をぶつけ、額から血を流してしまったのだ。

 この野郎、この俺に血を流させやがった。ザフトの俺に! 

 

 俺はただの緑服で、しかも下っ端の下っ端。

 他の奴らと比べたらそこまで大した才能も持たずに生まれて、学校じゃいつも落ちこぼれ。

 コーディネイターとしての取り柄といえばせいぜい、病気にならず超健康であることぐらい

 ――それでも、プライドはあるんだ。

 

 倒した相手のハッチから、わずかに人間の姿が見えた。

 予想通りの民間人。パイロットスーツも着ていない、しかも包帯で腕を吊っている

 

 ──こんな相手に、俺は血を流す羽目になったのか! 

 

 激情に任せ、彼はその機体を破壊しにかかる。

 相手を無力化するというその目的はとっくに達成していたが、若すぎる彼の怒りはおさまらなかった。

 ストライクと似た形状を持つ頭部が、キラ・ヤマトに作られたそのシステムが、憎かった。

 が――

 

 その頭部を掴んだ瞬間──彼は違和感を覚える。

 この、マニピュレータに食い込んでくる感触は……まさか、頭部にまで!? 

 

「また、装甲貫入弾……っ!?」

 

 彼の叫びを巻き込みながら、またしても爆炎に包まれるアッシュ。

 

 

 

 

「命が……消える?」

 

 突然ティーダのコクピットで、マユは胸を押さえてうずくまる。

 

「誰かが、消える。私の知ってる人が消える。

 強い想いが、消えていく。

 誰? 

 消えてしまうのは……誰?」

 

 滝のように額を流れる汗。顔色は真っ青だ。

 その異変に、ラスティは慌ててフレイと通信を繋いだ。

 

 

 

 

 ジオグーンやアッシュと対峙していたフレイに、またもマユからの通信が割り込む。

 悲鳴のように。

 

《フレイ! 

 サイだ、サイが消えちゃう!》

 

 反射的に、フレイは頭を上げる。

 丁寧に紅の塗られた唇が、わずかに震えていた。

 ティーダからのその通信が何を意味するか、フレイは既に分かっていた。即座に彼女は応答する。

 

「マユ。場所は分かるか!?」

 

 だがその返答は、まともな言葉とも言えない絶叫だった。

 

《何コレ……私の中に流れてくる! 

 フレイ、これが死ぬってことなの? 誰かが死ぬってことなの? 

 怖いよ、怖い、怖い……

 嫌、嫌、嫌、いやああああああ!!》

 

 そこへ交錯する、カイキとラスティの怒号。

 

《落ち着けマユ、どうした、落ち着け! 俺が分からないかっ》

《フレイ! 

 ヤエセ第14ヘリポート近くだ、アストレイで単独出撃したらしい!》

 

 ──そんな大混乱を聞き流しつつも。

 フレイは全てを理解したように、静かに俯く。

 

「全く……!!」

 

 その両手が、しっかりと操縦桿を握り締める。残りエネルギーは、76%。

 眼前でアッシュのビームクローが、アフロディーテに向かって突撃をかましつつあった。

 

「子羊を蹂躙する愚か者ども……

 全て消え去れ!」

 

 轟くフレイの言葉。

 再び灰色の瞳を上げた時には既に、その瞳孔は奇妙な形に開いていた──

 

 

 フレイの『SEED』が、弾けた瞬間だった。

 

 

 

 

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