【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 化け物

 

 

 ヨダカが追い込んだはずのティーダの中では、マユが胸を押さえてじっとコンソールを見つめていた。

 

「ナオトがいる。呼んでる……ドキドキする。

 どうして?」

 

 同乗するラスティもまた、戸惑いを隠せない。自らの脳に入り込んでくる感覚に。

 

「ろくに乗ってない俺すら、分かる。

 この空域のナオトを感じる……この空域の人間も」

 

 ラスティは思わず、ディスプレイを確認する。

 ティーダに搭載されたレーダーは第14ヘリポートのアストレイは勿論、ヤエセ全体の戦況を確実に把握していた。海岸で暴れまわっている謎の味方機がいるのも分かっている。

 そんなティーダの機能は、俺たちも熟知しているはずだった。しかし──

 

「ティーダは……

 乗ってる人間まで、レーダーにしちまうのか?」

 

 しかもマユは、ラスティが感じなかったはずのサイをはっきりと感じていた。

 ティーダに乗っている時間が長ければ長いほど、その感覚も強くなるというわけか。

 

「――ホント、この機体と俺、合わないな」

 

 ラスティは自分でも気づかないうちに、不満げに漏らしていた。

 

 

 

 

 ヤエセ第14ヘリポート付近、市街地──だった場所。

 眼下でまたしても起こった爆風に、ナオトのヘリは危うく巻き込まれる寸前だった。

 

 何とかヘリの体勢を立て直したナオトは──

 光と高熱の中、鋼鉄の人形が骨組みだけとなり、砕け、倒れこむイメージを見た。

 

 

 何だろう、あれは。

 形だけはアストレイのようにも見えるが、紅白に彩られた鮮やかな装甲はどこにも見えず、真っ黒な鉄の塊があるだけだ。

 両腕がもげ、首が吹き飛ばされ、瓦礫と化した百貨店の中に倒れている。まるでモビルスーツの焼死体だ。

 

 そのアストレイらしき物体の前に、土下座でもするように突っ伏しているのは

 ――ゾノに似たその形状からして、ザフトの新型だろうか? 

 

 

 一帯を焦がす炎に眼が眩みそうになりながらも、ナオトはヘリをさらにそちらへ向けていく。

 何故かは分からないが、そこへ行かねばならない気がした。

 

 

 すると──

 うずくまっていたはずのザフト機が、動いた。

 

 

 泥を被ったカエルのようにも見えるそいつは、まだ生きていたのだ。

 全てを焼き尽くす、あの業火の中で! 

 

 

 両腕に装着されていたらしいクローは片方が吹き飛び、もう片方もひしゃげていたが。

 それでも壊れたままの爪は雨に打たれ、血を吸うように動く。

 そいつの頭部に矢じりの如く突き刺さっているのは、爆発したスティレットの残骸。

 半分砕けた頭の中で、紅の単眼が二度、はっきりと点滅した。

 

 

 ――この化け物に、アストレイはやられたんだ。

 ナオトの想いは、アマミキョより先に、黒ずみのようにされたアストレイに向かっていく。

 ヘリの機首を、一気に傾ける。

 

 

 ――助けなきゃ。

 痛いほどに感じる──自分が一番会わねばならない人物を、あの中に。

 自分が今、一番会いたい人が、あの中にいる! 

 

 

 何故そう感じるのか分からない。ティーダの及ぼす影響を、ナオト自身は未だ知らない。

 だがその眼前で、ザフト機の砕けた爪が、泥を跳ね飛ばしながらイソギンチャクのように動き、伸ばされる。瀕死のアストレイを喰らおうとして。

 その爪が、まだ形は残っているアストレイのコクピット部分に近づき、黒ずんだ機体を無理矢理掴み、そして──

 

 

 ナオトはその0.3秒の間に閃いた。

 アストレイのパイロットを助ける方法を。自分に残された、ただ一つの方法を。

 これしかない。胸元のフーアのお守りを握り締める。

 

 

 お願いします、僕を守って下さい、フーアさんアイムさん、ミリィさん、真田さん──

 あの人の命が、小さくなってる。掌に乗せたら溶けて消えてしまうほどに、弱くなっている。

 消えないでくれ。どうか、こんな処で消えないで。

 

 

 思い切り操縦桿を前方に倒すナオト。

 ヘリの窓を叩く雨粒がさらに激しさを増し、その雨の向こうには赤黒く変色したザフト機が迫る。

 傾くヘリ。ナオトは足を踏ん張った。

 

 もう一度、あの人に会いたい。会って、謝りたい。

 行け──ミリィさんの想い、真田さんの祈り、僕の心。

 

 目の前にぐんぐん迫る、鋼鉄のタコ野郎。単眼のカメラアイはこちらにまでは向いていない、うまい具合に壊れている──

 あの紅の眼まであと、30メートル、15メートル、10、5。

 

「サイさんをこれ以上、侮辱するなあああああぁぁぁ!!!!」

 

 叫びと共に、ナオトはヘリを、ザフト機の顔面に激突させた。

 雨の中に飛び散るガラス、計器、シート、そしてナオト自身の身体。

 脳裏にスパークが万華鏡のように広がり

 飛び散っていく破片や火花やケーブルがスローモーションと化し

 雨粒の中に浮いていく。

 その直後に、ナオトの背に轟音が叩きつけられた。

 

 

 

 

 フレイのアフロディーテが飛翔した空域には──

 ドンピシャのタイミングで、ミゲルのスカイグラスパーが追いついていた。

 バッテリー切れ寸前のアフロディーテは、自ら背中のIWSPを切り離す。

 

 一瞬素のダガーLになってしまったアフロディーテに、ミゲルはすかさずスカイグラスパーからジェットストライカーを射出。

 そしてアフロディーテは見事、空中での換装を成功させた。

 ジェットストライカーがアフロディーテの背中に綺麗に嵌まり込み、バッテリーが紅の機体に流し込まれる。

 換装にかかった時間は、約4秒。

 

「換装時間新記録更新だぜ、フレイ! 機体損傷度も!!」

 

 ミゲルの軽い皮肉にも、フレイは何も返さなかった。

 無言のままジェットストライカーを全開にし、爆音と共に一気に第14へリポートへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 気を失っていたのは、ほんの30秒程度だったらしい。

 意識を取り戻した時ナオトは、温かい泥の中に突っ込んでいた。

 

 どうにか、頭だけを上げてみる。

 雨が顔に叩きつけられ、こびりついた泥を洗い流していく。

 ぼんやりした視界もそのままに自分の身体を眺めてみると、スーツの右袖が肩からちぎれて破れており、剥きだしになった二の腕は血だらけだ。服は殆ど泥を吸収し尽したに等しい状態で、べっとりと肌にくっついている。

 

 しかしそんなことより、全身を貫く左足の痛みで、すぐには動けなかった。

 何しろ、20メートル近い高さから飛び降りたのだ。下が柔らかな泥でなくコンクリートの道路だったら、今頃ナオトは確実に肉片となっていただろう。

 いくら半分コーディネイターだからといって、この蛮勇の代償がただで済むわけがない。

 

 

 ──これは罰だ。あの人を馬鹿にした僕の。

 あの人は、もっと痛いはず。

 

 

 ほぼ腕の力だけで、ナオトは身体を起こす。

 煙と雨で視界は悪かったが、それでも炎に照らされたアストレイの姿ははっきりと確認出来た――殆ど原型を失った、オーブの勇士が。

 そして手前で炎上しているのは、さっきまでナオトが乗っていたヘリの残骸。

 ――何とか爆砕出来たザフト機が、その向こうにあるはずだ。

 ナオトはざまぁみろ、と言いたげに顔をほころばせつつ、炎の向こう側に眼を凝らす。

 

 が──

 その笑みは一瞬の後、凍りついた。

 

 炎の中でうごめくもの。あの黒い毒針は、奴の頭部に突き刺さったスティレットだ。それが動いているということは──

 ナオトが思考をめまぐるしく巡らせている間に、炎と黒い雨をかいくぐるように、ザフト機の単眼が光った。

 

「ねぇ……ちょっと、まさか……

 冗談でしょ!?」

 

 ヘリの残骸を踏み潰す、化け物の足。

 飛び散ったヘリのオイルが、血のように半漁人野郎、もといザフト機の装甲を流れる。

 ナオトは立ち上がることも出来ないまま、その光景を眺めているしかなかった。

 

 もう、武器もない。声も出ない。

 

 執拗にザフト機の爪が、アストレイのコクピットにかかる。

 既にハッチは砕けており、ナオトにはわずかに中の様子までが見えた。

 

 

 何だ、あの血だらけの腕らしきものは──包帯も見える──吊られている腕。

 もう間違いない。あぁ、どうして、貴方はそんな無謀を。頭のいい人だったでしょう、貴方は! 

 

 

 だが、その刹那。

 発狂寸前となったナオトの目の前で

 さらに予期せぬ事態が発生した。

 

 

 

 ──天空から突如舞い降りた、黒い鋼鉄の翼。

 それが、ザフト機の真上に叩き落とされたのだ。

 

 

 

 いつか聞いたことのある、「神が降りた」という表現はこういう現象をさすのか。

 ナオトはあまりの状況に、狂うことすら忘れ、逆に酷く冷静にその光景を眺めていた。

 彼の乗っていたヘリとは段違いの加速をつけたその翼は、一気に半漁人の頭にメリメリと食い込んでいく。

 

 

 見上げると、黒煙と豪雨の空から、女神の名を持つ紅蓮の機体──

 ストライク・アフロディーテが、滑降してきた。雨の上を流れるように。

 

 

 

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