【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
背部のジェットストライカーを丸ごとアッシュに投げつけ、そのふざけた頭部を砕き大爆発が起こった直後――
ストライク・アフロディーテは一息にアッシュの背後を取った。
そして砕けた頭部の中からケーブルを掴み、引きむしる。
まるで、親の仇の内臓をちぎろうとするように。
最初の一撃で、アッシュは完全に沈黙してしまっていた。アストレイが、そしてナオトのヘリがあれだけ苦闘したのが嘘のように。
火花を散らし、軽くスパークを繰り返しながら、どんどんちぎられていくアッシュのケーブル
――ひときわ大きな鋼鉄のブロックをその中から引きずり出すと、全く躊躇することなくアフロディーテは拳を叩きつけていく。
一切の情け容赦なく、
あまりの決着方法に呆然とするナオトの前で、アフロディーテのハッチが開き、紅の痩身が飛び出してくる。
フレイ・アルスター──
ナオトに提出された、重い課題の一つ。
ようやく泥から這い出したナオトは、足をかばいつつアストレイに近づく。
幸い骨折はしていない、ひねった程度だ。腕の出血は酷いが、今のナオトには殆ど気にならなかった。
フレイはアフロディーテのハッチを蹴り、鹿のようにしなやかに身を躍らせアストレイへ飛び移る。その距離は、約8メートルはあった。
熱せられた装甲をものともせず、彼女は半壊したアストレイのハッチを手でこじ開け、中へ滑り込んでいく。
紅のパイロットスーツ、その掌部分が、わずかに熱で溶けたのがナオトにも見えた。
――あんなの、ものすごく熱いはずなのに。たとえコーディネイターであっても。
なのに一瞬も迷わず、フレイさんはハッチを触った……?
脚を引きずりながらナオトがようやくアストレイの足元にたどり着いた時にはもう、フレイはハッチから再び姿を現していた。
人間の形をした、血の袋を抱いて──
少なくとも、ナオトにはそうとしか見えなかった。
さらによく眼を凝らすと、その袋はメットを被り、朱色の作業用ジャケットを着用している。
血の塊に見えたのは、そのジャケットの色のせいかも知れない。
そしてその左腕には、さっきまで肩から吊られていたと思われる包帯が巻かれている。これもとっくに血で染まっていたが。
「奇跡だ――
五体満足とはな」
フレイは雨に洗われるその塊──サイ・アーガイルに向けて、ぽつりと呟いた。
そして眼下のナオトに向けて、敢然と命令を下す。
「何をぼさっとしている、手を貸せ!
ジャマーの影響は落ちている、私の機体から通信を送れっ」
声に弾かれたように、ナオトはアフロディーテへ走り出す。とはいえ、足を引きずりながらの状態ではあるが。
フレイはサイを抱きかかえたまま、またしても機体から機体へ跳躍する。
アフロディーテのハッチに着地すると、彼女はサイをコクピット後方へ収容した。
そして、機体によじ登ろうとしていたナオトをアフロディーテのマニピュレータでつまみ上げ、無理矢理コクピットに放り込む。
犬でも掴むように持ち上げられ、コクピットに放り込まれた瞬間。
ナオトはフレイの太もも、そしてそこへ抱かれたサイに気づいた。
コクピット中に猛然と漂う、血の臭い――
すぐそばに、会いたかった人がいる。話をしたかった人がいる。
だけど、血みどろのまま答えてくれない。これだけ呼び続けていたのに。
そしてナオトは気づいた。未だにアストレイの操縦桿を握り締めている、サイの右手に。
勿論その操縦桿自体は根元から砕け散っていたが、その断片は未だサイの手に残っていた。
「駄目だよ、そんなの……
最後にそんなの、似合わないよ。サイさん!」
必死でナオトはその手から、壊れた操縦桿を引き離そうとする。ぼろぼろと涙がこぼれ、サイの手の上に落ちた。
だが完全に我を失っているナオトを、フレイはさらに叱り飛ばす。
「まだ生きている、生理食塩水と止血帯を!
マスクも!!」
フレイが壊れたメットをサイの頭から外すと、彼女の膝にメット内の血と吐瀉物が、一気に流れ落ちていった。
海岸線における状況を一変させたのは、たった一機の新型だった。
海中をビームランスで切り裂いてゾノ3機を一気に貫き、水柱を上げて海面に飛び出す新型。
その水色の円盤状モビルアーマーは外殻をきれいに二つに割り、別形態へと変化した。
半分に割れた円盤に守られる形でザフトの前に姿を現したのは、鮮烈な青に彩られたモビルスーツ。
数瞬前まで円盤だったものは、大きく展開されて半円状の翼となる。その内側から──
ビームと実弾が同時に炎を噴き、グーンやゾノを一撃のもとに叩き落していく。
ザフトは勿論、山神隊の苦闘まであざ笑うように。
常識外の事態。
ウィンダムを駆る山神隊一同は、感謝や呆れを通り越して怒りすら覚えていた。
《なんてこった。
一機で戦闘を終わらせちまう、あいつは!》
その新型に助けられたはずの広瀬少尉の怒声に、伊能は余裕綽々で答える。
「ザフトの新型・アビスガンダムだそうだ。
尤も、今は俺たちのものだが」
伊能の通信に、風間が割り込む。
《もしや、ファントムペイン? 到着していたんですか》
「そうなら、時澤も真田も無事帰ってくるはずだがな……」
伊能は浜に打ち上げられたウィンダム、ディープフォビドゥンの無数の残骸を眺めつつ、ナガンヌ方面へ思いを馳せた。
油で黒く汚れた浜辺を、雨と波が洗っていく。
海では、今度はザフト潜水艦相手にアビスが暴れている。
そのパイロットが、まだほんの10代の少年にすぎないことを、山神隊は全く知らなかった。
ヘタをすれば伊能の子供、山神の孫程度の年齢かも知れぬことも。
若さより幼さの方が目立つその少年が、ザフトを手玉に取りグーンの丸焼きを大量生産しながら、コクピットで無邪気に呵呵大笑していることも。
AD時代には「美ら海」と呼ばれたというチュウザンの海が今、血と炎に染め上げられていく。
その彼方から、連合艦J・P・ジョーンズが堂々迫ってくるのが確認出来た。
ナガンヌ上空でバビ・ディン部隊に追いつめられていた、時澤のウィンダム。
援護してくれる味方はもはや誰もおらず、時澤機はたった一機で炎の空を彷徨っていた。
既に左脚部が撃たれ、関節から切断されていたが、それでも執念でウィンダムを飛ばし続ける時澤。
目の前で部下を失う事態がこれほどまでに、自分の怒りを呼び覚ますとは──
「真田……だからあれほど、コクピット周りの点検を慎重にって!」
泣くのも呻くのも後だ。真田のくれたこのジェットストライカーのエネルギー、無駄にするわけにはいかない。
だがそんな時澤の思いも虚しく、眼前にバビの三角帽子が2機、迫る。
地上ではディンが待ち構え、自分を狙う。もはや集中攻撃だ。
武運尽きたか──
時澤が歯を食いしばった、その時だった。
突如天から降ってきた炎が、時澤のモニターいっぱいに迫ったバビを一瞬で貫いた。
爆砕していく三角帽子。その炎は竜のようにうねり、空を駆け、まるで意思でも持つようにバビを焼いていく。
それだけではない。その業火は地上をも狙い、時澤機に向かって砲撃していたディンを粉砕していた。
あのフリーダムを思い出させるかのような、圧倒的攻撃力。炎と雨の中、時澤のモニターが一瞬ぶれる。
その間隙を利用するかのように、何かが自分の後ろを取った。
機体の肩部を無遠慮に掴まれ、わずかにウィンダムが軋む。
時澤が思わずモニターを確認する前に、接触による通信で割り込んできた声があった。間違いなく少年と思われる声が。
《目立つなよ!
俺らの存在意義、なくなっちまうだろーがっ》
そこにいたのは、深緑の装甲を持ち背中に機動兵装ポッドを担いだ、新型モビルアーマー。
頭部がカマキリの頭にも見える。
そこで初めて、時澤は気づいた──ファントムペインだ。
うねる天の火は、この機動兵装ポッドから射出された、ファイヤーフライ誘導ミサイル。
間違いなく、これはザフトの兵器だ。それが山神隊に加勢しているということは、あのファントムペインが強奪したという機体なのだろう
――しかし。
もっと早くに来てくれれば。
時澤は思わず、コンソールパネルを叩いていた。
その間にも新型・カオスガンダムはモビルスーツに変形し、ヴァジュラビームサーベルを携えつつ光を帯びて舞い、バビを撃墜していく。
まるで、赤子の手をひねるように。
雨のやまぬナガンヌ空港の第3発着所は、臨時の野戦病院となっていた。病院とはいえ、野ざらしの地面に負傷者が延々と並べられているだけという状態だが。
そこに寝かされていたミリアリアは、頬に打ちつける雨の冷たさで、ようやく眼を覚ました。
すぐ横で、何かが地面をそっと引きずられていくような音も聞こえてくる。
その方向へ顔を向けようとしたが、途端に左肩に電流の如き痛みが走る。
酷い痛みで初めて、彼女は気づいた
――まだ、生きてる。私は。
今度は肩をかばいつつ、改めて横の光景を確認する。
そこにあったのは、血だまりが引きずられたような跡。
おそらく自分と同じように、横に寝かされて放置されていた負傷者のものだろう。
血の量から判断して、ここで寝ていた者がどうなり、何処へ運ばれていったかは──言うまでもなかった。
ミリアリアはゆっくりと周りを見回す。
自分の周囲にきれいに並べられている、負傷者の群れ、群れ、群れ──
うち、既に白い袋に包まれ動かなくなっている者、5人に1人。
彼女は胸元のカメラを確認した。幸い、何も手をつけられてはいないようだ。
彼女の手は自然にカメラをいじり、横の血だまりにレンズを向けていた。
遥か向こう、未だに煙を吐く空港の建物まで続いている、人々の身体。
這いずって助けを呼ぶ者。既に息絶えた母親にすがり泣き喚く兄弟。
腸が飛び出したまま動けない男性を、重そうに引きずっていく看護師――
雨にも構わず、ミリアリアは夢中でシャッターを切っていた。
それらの人々、全てにレンズを向けた。
自分の無力を呪いながら。
そう──独りというのは、無力だ。
ナオトについていくことも、サイを助けることも、フレイの真実を確かめることすらも、出来ない。
ナオトはうまくたどり着けただろうか。
そもそも自分に、彼をどやしつける資格なぞ、あったのだろうか。
──独りなら、自由に行動できると思った。
だから、
今思えば、アイツは懸命に忠告してくれていたと思う。
でも自分は、それを振り切ってしまった。そうまでして選んだジャーナリストの道。
なのに現実は、度重なる連合の妨害工作に、新人ジャーナリスト故の情報網の貧弱さに振り回される日々の連続だった。
おまけにナチュラルの女というだけでなめられ、時には暴行を受ける寸前になったことさえある。モビルスーツに乗って世界を飛び回っているという、あの野次馬ジェスの足元にも、自分は及ばない。
しまいにはこんな怪我までして、アマミキョの重要情報を掴みながら、サイのもとへ行くことすらも出来ない。
いくらフリーのジャーナリストとはいえ、かつてアークエンジェルに搭乗していたミリアリアの行動範囲は、相当の制限を受けている。
アスハ代表のおかげで表向きは自由に行動出来ているように見える彼女だが、実際はオーブ本国からの命令があれば、すぐにでも戻らなければならなかった。逆らえば、連合に身柄を売り渡されても文句は言えない。今度の件もそうだった。
彼女のような状況は、実はサイやカズイも同じである。ただ彼らはアマミキョにいる為、自動的にオーブの監視下にいると見なされているだけだ。
──こんな時に、アークエンジェルがいれば。
ミリアリアは何度となく心をよぎったその願いを、またも繰り返していた。