【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part11 少女と爆炎とMS

 

 

 同時に、フレイは崩壊寸前のビルへ走る。

 花束を腰にくくりつけ、ピッケルをビルの壁の境目に突き刺し、傾斜を利用して軽々と壁を登る。傾いているとはいえほぼ垂直に近い壁を、だ。

 足を巧みに動かして窓枠や庇を足場にして、スカートの裾をものともせず。

 フレイは俺の目の前で、ピッケル一本でビルを登りきった。

 

 炎の柱が夜空を舐める。

 惨劇の舞台を、フレイはビルの屋上から眺める形になった。

 ド素人でも分かる。あんなところは危険だ。

 が、俺はその光景を凝視するしかなかった。

 

「ダガー! 来いっ」

 

 屋上の柵から身を乗り出し、炎の華が舞い散る中でフレイは腕を伸ばし、花束をダガーLへと向ける。

 その時フレイはもう一度、遙か眼下の俺を見下ろした。

 その顔が、ほんの少しだけ微笑んだように見えたのは、俺の錯覚ではなかったと信じたい。

 

 

 

 ──この国へ、来い。

 

 

 

 彼女の唇が、そう動いた気がした。

 次の瞬間、ダガーLの頭部がぐるりとフレイを見る。

 頭部のトーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器が火を噴くより先に

 フレイの持った花束が弾け

 中に仕込まれていた銃からワイヤーが発射された。

 

 

 ハイビスカスの真っ赤な花びらが、炎の中へ飛び散っていく。

 ワイヤーの先端はダガーLの腰部のMk315スティレット収納部分

 つまり先ほど炸裂させた手裏剣爆弾のあった場所めがけ、飛んでいく。

 

 

 まさか、生身で、全高18.40m重量55.05トンのダガーLとやりあうってのか。

 

 

 モビルスーツの巨大さに比して、人体はあまりにも小さく、照準が合わせづらいのは納得がいく。

 接近されて死角に潜り込まれ爆弾でもくくりつけられたら、フェイズシフトを展開していない限り、いかに強固な鋼鉄の機体とはいえ無事ではすまないことぐらいは分かる。

 スティレット収納部は開いたままになっており、絶好の足場にもなるだろう。

 しかし、だからといって……! 

 

 俺がそう考えている間に、彼女は既に屋上の柵を蹴って宙に飛び出していた。

 

 ワイヤーの端はマグネットが仕込まれているのか、しっかりダガーLに喰いつき

 フレイはそのもう一方の端、花束の柄にあたる部分を持ってダガーLに向かって飛んだ。

 ダガーLは当然気づき、彼女を振り落とそうとして暴れる。

 トーデスシュレッケンの砲火で、1秒前までフレイのいたビルが完全に崩壊した。

 

 ダガーLの腕が引っ掛かれば一発でフレイは吹っ飛ぶと思われたが

 彼女は巧みに、空に飛んだ自らの身体をコントロールし

 ダガーLの腕の動きまで読みきり

 さらに

 後方から来たストライクダガーの腕を空中でかわす。

 

 

 まるでサーカスだ。

 

 

 ダガーLが回るたびに、彼女の身体はそれ以上に振り回されていたが。

 フレイはむしろ、それを楽しんでいるようにすら見える。

 多少熟練したパイロットならばこんな人間は一撃のもとに引きちぎってしまうだろうが、フレイは明らかにダガーL、そしてストライクダガーのパイロットの未熟さまで読んでいた。

 

 飛び散る汗が彼女の体内の気と共に放出され、スカートが翻る。白い脚が空に踊る。

 鬼の眼前で紅い髪を靡かせ、細い身体を晒す少女。

 

 一見か弱く見える彼女の身体は

 鍛えられた筋に支えられ

 パイロットをからかうように装甲を蹴りながら

 妖精のように敏捷に飛び跳ねる。

 

 後方のストライクダガーがダガーLの胸部あたりに踊るフレイを必死で追い、腕を動かすものの、なかなか捕まらない。

 業を煮やしたか。ストライクダガーはついに頭部75mm対空自動バルカン砲塔システム・イーゲルシュテルンをフレイに放つ。

 味方に、しかも胸部を狙って放たれるバルカン。

 幾重もの衝撃吸収システムに守られているはずのコックピットだが、この至近距離でバルカンを浴びてはさすがにダメージは大きい。

 

 

 まさにそれこそが、フレイの狙いだった。

 彼女は正確にダガーLの腰、スティレット収納部分に、つまり死角に着地した。

 

 と同時に、厚底ブーツをいじる──

 マグネットか何かを作動させたのか、フレイの身体はダガーLの腰から垂直に生えたような恰好となった。

 そのままワイヤーを手繰り寄せ、フレイは一息に腰からコックピット部分へと駆ける。

 靴の踵が装甲の表面を打つ音が響いた。

 

 コックピット付近にたどりつくと、すばやく太ももを上げて中から拳銃を取り出し

 既に何箇所か大きな傷のあるハッチの、最も装甲の弱いと思われる境目に差し込んだ。

 素早く靴のマグネットを解除し、再びワイヤーを伸ばしてフレイがダガーLの背から跳躍すると

 

 

 

 次の瞬間、コックピット部分で大爆発が起きた。

 

 

 

 一瞬、空全体に閃光が散った。

 光の中、伸びきったワイヤーの先に、フレイの身体が舞う。

 

 

 

 おそらくあれは、拳銃に見せかけた強力爆弾だったのだろうが……

 それにしても、何という装甲の弱さだ。

 

 通常、コックピット部分は最も装甲を強化すべき部分だが、いくら量産機といえどそれが小型爆弾一つで吹っ飛ばされるなど、信じられない。

 脱走兵ゆえ、傷ついた機体の整備もろくに出来なかったのだろうか。

 もしくは、ろくでもないジャンク屋に足もとを見られ、不良品を売りつけられたか。

 

 いずれにせよ──未熟な兵士だ。

 フレイはそこまでしっかり見抜いていたのだ。

 とどめが先ほどの、ストライクダガーの誤射だ。

 

 後方のストライクダガーが、ダガーLに取り付くフレイに襲いかかる。

 しかしその時にはもうフレイはストライクダガーの攻撃をよけ、前方に回っていた。

 爆破され大穴の空いたコックピットから、身体の半分を吹き飛ばされたであろうパイロットが血を流し、ぐったりしている光景が俺の目にも見える。

 

 フレイは腰に挿していたピッケルで素早く灼熱のハッチをこじ開け、中へ上半身を差し込んだ。

 何が起こっているのか俺の目からではわからなかったが、棒立ちになったダガーLからやがて

 

 

 ――血まみれになった連合のパイロットスーツが、落ちていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先はあっという間だった。

 フレイが奪ったダガーLの動きは、俺の目から見てもはっきりと違っていた。まるで、ナチュラル用のOSをコーディネイター用に書き換えたのかと思うほどに。

 キラがストライクでやったのと同じことを、フレイはやったのではないか? 

 いや、実際やったのだろう。俺は確信した。

 

 

 フレイがダガーLに乗り込んだ直後

 機体頭部は180度回転し

 後方に来ていたストライクダガーに向かってトーデスシュレッケンが火を噴いた。

 

 

 ストライクダガーが間一髪でその攻撃を避けた隙に、ダガーLは腰部から右手でビームサーベルを抜き放ち。

 そのままの姿勢で、相手の胸部に、出力を最小限に落としたビームサーベルを叩き込む。

 コクピットがあるであろう胸部に、ためらいもなく。

 

 

 

 光の粒子で形成された刃が、一瞬でコックピットと中の人間を焼いた。

 あまりにも素早い反応で、機体の方が追いつかない印象すら受けた。

 

 機体への被害は最小限に、中の人間だけを殺す、もしくは操作系を不能にする──

 フレイがとった戦い方は、キラとは真逆のものだった。

 

 

 

 フレイの乗ったダガーLは、駅へと向かったストライクダガー2機を追った。

 そして駅付近には既に、テロリストたちを待ち伏せしていたモビルスーツがいた。

 

 それは、ソードカラミティ

 ──型式番号GAT-X133。GAT-X131カラミティの派生機。

 

 カラミティ自体は、俺がアークエンジェルにいた時に戦ったことがある。あれは砲撃戦用に特化された連合のモビルスーツだったが、ソードカラミティはこれをベースにして近接格闘戦を目的に製造されたものだ。

 確か、ロールアウトしたのはたったの3機と聞いたが、それがここに現れたのは不思議だった。もしくは、連合のデータをコピーして新たに製造されたものか──

 

 カラミティと同じエメラルド色にカラーリングされ、対艦刀シュベルトゲベールに、ビームブーメランとロケットアンカーを装備したモビルスーツ。

 そんな機体に――

 

 整備すらなっておらず、パイロットも未熟なストライクダガーが勝利できるはずもなかった。

 明らかにソードカラミティの存在に気圧され、残りのストライクダガー2機は2機とも我を失い、後方から迫ったフレイのダガーLに撃破された。

 やはり出力最小限のビームサーベルでコックピットを正確に貫かれ(しかも動力部に触れることなく、爆発も起こさず)、中の人間だけが焼き殺されて。

 

 

 

 

 

 

 フレイ・アルスターはそのまま、ダガーLやソードカラミティと共に、俺の前から姿を消した。

 俺が遭遇したあのテロは、その後の調べによるとやはり、ブルーコスモスの末端組織によるもの。チュウザンを牛耳る文具団、そしてコーディネイターへの抵抗活動だったらしい。

 

 そんなことは今や、この国では日常茶飯事だそうだ――フレイの言った通り。

 

 雨の中に現れた、いなくなったはずのフレイ。

 彼女と触れ合い、真実を話すことで俺は自分の中で決着をつけた、つもりでいた。

 しかしその直後――炎の中に現れた、明らかにフレイではないフレイ。

 二人のフレイが、俺を混乱の底に叩き落した。

 彼女は俺を助け、モビルスーツをいとも簡単に奪い、あっさりと人を殺し、戦闘に勝利した。

 並みのコーディネイターなんかじゃない。彼女と同程度の能力を持つ人間を、俺は他に一人しか知らない。

 

 彼女は、一体何だ。

 何の為に、俺の前に現れた。

 

 

 ──貴様は私が守る。だから私に従え!! 

 

 

 意味は分からないが、その言葉は確かに俺の全身を貫いた。

 ダガーLという鬼を前にして放たれたその言葉は、俺の中の時間を再び動かすきっかけとなったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 考えても分からないことは、一旦考えるのをやめる。代わりに、動く。

 それが俺の出した結論であり、俺が緊急救難船・アマミキョへ乗るに至った理由だ。

 

 

 ──フレイ。

 俺はもう一度、この国に来る。必ず。

 

 

 この時代に生きていて、俺にできることがあるというならば、俺は喜んで何処にでも行こう。何にでもなろう。

 その想いがたとえ、俺自身すら自覚していない偽善から来るものだとしても。

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 

 紅蓮の再会から時は経ち、宇宙の片隅で再び争いの砲火が巻き起こる。

 青年の乗った船は、果たして希望を運ぶ船となるか。

 彼の止まった時間は、再び動き出すことが出来るか。

 そして、少年は少女と出会い、太陽のガンダムが大地に立つ。

 

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation 「爪先の月」

 まだ見ぬ運命へ、飛翔せよ、ティーダ! 

 

 

 

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