【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ナオトの拳が、ぎゅっと固く握りしめられる。
もう逃げたりしない。論破されたりするものか。
まだ腕はずきずきと痛んだが、サイの痛みに比べれば何のことがある。
「いつも通り、上から人を見下ろしてのご登場ですか。
毎度ありがとうございます」
ナオトはフレイを敢然と睨みつけて、言い放った。
彼女の顔には何の反応もない。ただ、鼠を見るような眼があるだけだ。
さっきあれだけサイを必死で助けようとしたのは、嘘だったのか?
――だけど、僕はもう騙されない。
フレイはそんな彼に、あくまで冷たい。
「何をしに戻ってきた、子鼠?」
今だ。僕の、唯一にして最大の攻撃を受けてみろ、フレイ・アルスター。
ナオトは呼吸を落ち着かせ、一言一言、はっきりと言葉を継ぐ。
「真実を、確かめにきました。
ナガンヌ空港で、ミリアリア・ハウさんに会いました。
貴方のことを聞きました、フレイさん。
いいえ──貴方は、フレイさんなんかじゃない!
本物のフレイ・アルスターさんは、もう死んでるはずなんです!」
そのナオトの言葉は、確かに結構な反応をもたらした。主に、クルーたちに。
さざ波のように拡がっていく、ざわめき。
丁度いいことに、この放送は船内中に響いている。予備のスピーカーを開けておいて良かった。
やった、ざまあみろ。これで貴方の統制も終わりだ――
してやったりとばかりに、ナオトはフレイの表情を確認する。
だが──
最も肝心なフレイ「もどき」の表情は、全く変化がない。
思わず白眼を剥いて慌てふためいて放送を止めさせるぐらいの、素晴らしい反応を期待していたというのに。
それどころか、彼女はナオトにすらちょっと可愛く見えるようなぽかんとした表情を作り。
次にやれやれ、とでも言いたげに頬のあたりを指で撫でてみせた。
あまりの落ち着きぶりに、ナオトは焦った。目を剥いてるのはこっちじゃないか──
「ミリアリアさんのことは知っているでしょ。貴方の友達だったはずの人です。
いや、知らないからそんな冷たい態度が出来るのかな?
彼女が証言したんだ……貴方は2年前、ヤキンで死んだはずだって!」
ナオトは必死で怒鳴る。大丈夫、クルーの間には確実に動揺が走っているんだ。
もう死んでる? 死んだ人間が、どうしてピンピンしてるんだ?
偽者? だったら何故? ――
突然大公開された情報に、ざわめくクルーたち。
その中でカズイは、何も出来ずにただおろおろするだけだ。
「ミリィが、ナガンヌに? どうして……」
そんなカズイの肩をアムルが押さえ、小声で尋ねてくる。
「貴方、知ってるんでしょ詳しいこと。
どういうことなの?」
だが、フレイの口から出た次の言葉は――
ナオトは勿論、その場の全員を驚愕させた。
「確かに、死亡記録に私の名はあるかも知れん。
あの大戦で失われた個人情報は、実際に消えた命より大量だ。
混乱の中で私が死亡したとされても、おかしくはないな。
──で?」
「は?」
ナオトは戸惑う。
ちょっと待ってよ。こんな言葉で返されては、どんなに追いつめても逃げられるだけじゃないか。
「違う、データの問題じゃない!
ミリアリアさんが言ったんです、自分の目の前で、貴方は死んだって!」
「よほど貴様は私を殺したいようだな。
それでは認めようじゃないか――あの大戦で私は死んだ。
アークエンジェルの目の前で、何らかの戦闘に巻き込まれて死亡した。
それをミリアリア・ハウは見ていた。貴様がそう主張するなら、全て認めようじゃないか。
──で?」
ちょっと待て、待ってくれ。何だよその余裕は。
どういうつもりだ。その、笑みすらたたえた唇は。
僕は貴方の鼻を明かすつもりで、戻ってきたのに!
「で? 貴様は何を言いたいのだ。
私が死亡しているからといって、貴様は何を主張したいのだ」
「だから……
今、ここにいる貴方は、偽者です。
どうしてフレイさんの名を騙り、この船を乗っ取るんです?」
さっきまでのナオトの勢いは、半分がた消失している。
それでも彼は踏ん張る。何とか、ミリィさんの思いを、サイさんの無念を──
だがそれを嘲笑うように、朗々と続くフレイの答え。
「そうか、私は偽者だったのか。当然の発想だな、それも認めよう。
船を乗っ取った、か。確かに見方によってはそうとも取れる。それも認めよう。
で?
仮にそうだとして、貴様は私をどうするつもりだ」
答えはただ一つ。どうすることも出来ない。
既にフレイの力は、アマミキョどころかヤエセ全域にまで及んでいる。
実力に裏打ちされたカリスマ性は、多少の不満が噴出することはあっても見事にクルーたちを引っ張り、人々を護ってきた。
彼女の凄まじき戦いぶりは、ついさっきも実証されたばかりだ。ナオトの目の前で。
そんなフレイの秘密を今ナオト一人が暴いたところで、一体どんな影響力があるというのだろう。
少年は今更のように、自分の無為無策を悔やんだ。
これじゃ、恥をかきに帰ってきたようなもんじゃないか!
フレイの後ろでは、カイキが冷たく自分を睨んでいる。
マユにはもう手を出させない――如実に彼の眼は語っていた。
それが、ナオトの怒りをさらに増幅する。
「ごまかさないで下さい!
貴方の目的は何なんです、いずれマユも殺すつもりでしょうが!
サイさんをじわじわ殺したように!!」
ナオトは残りの勇気を全て振り絞り、カタパルト奥のティーダに視線を走らせる。
一気にあそこまでダッシュして、ティーダを使ってアマミキョをぶち壊す──
そんな刹那的妄想まで少年の思考が至ろうとした、その瞬間。
「勝手に、人を殺すんじゃないよ。ナオト」
──聞き慣れた声。
ちょっと前まで、一番鬱陶しかった声。
だけど今、一番聞きたい声──それが、背後からかけられた。
ナオトは思わず振り返る。
外側へ開け放されたままのカタパルトから、いつの間にか午後の陽光が燦々と降りそそいでいた。雨がようやく上がったのだ。
あまりに強い光のせいで、そこにいるのが誰か、ナオトは一瞬では分からなかった。
だけど、この声は──
「助けてくれて、俺、嬉しかった。
おかえり――ナオト」
胸からやっと押し出したような、苦痛に満ちた声。
血で滲んだ包帯。
立つどころか息をするのもやっとの身体を、看護師のネネが必死で支えている。それでも──
サイ・アーガイルは、生還したのだ。
ナオトたちの前に、笑顔まで見せて。
~~~~~~
次回予告
一つの戦いが終わった。
だが、やまぬ戦火は、ティーダの力をさらに拡大させる。
それは人々の過去を抉り、少年の心と身体を容赦なく傷つける。
その中で明らかになる真相とは──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「キメラ」
穢れた大地、蹴り上げろ! ガイア!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
このエピソードで、全体のおおよそ4分の1が終了しました。テレビアニメだと第1クール終了といったところです。
まだまだ問題山積みの彼ら彼女らですが、それでも前に進んでいきます。
次回からはようやくAA編に踏み込める……か?というところ。
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