【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-13 キメラ
part1


 

 サイの姿を見た、その瞬間。

 ナオトの目から、涙がビー玉の洪水の如く溢れ出していた。

 

 

 帰ってきた──

 死線から、サイさんが帰ってきたんだ。

 ネネさんに支えられなければとても立てない状態だけど、それでも!! 

 

 

 ナオトの張りつめていた心が、一気に解きほぐされていく。

 その顔が、アイドルレポーターだったというのが信じられないほどに、クシャクシャの皺と涙と鼻水で満たされていく。

 

「サイさん! 

 ……良かったぁ!! サイさん!!」

 

 僕はもう一度、貴方の声を聞きたかった──

 どんな時でも僕を励まし、時には叱ってくれた、兄のようなあの声を。

 

 ナオトはサイの名をひたすら連呼しながら一目散に駆け寄り、危うく思い切り飛びつきそうになる処をネネに止められた。彼女が止めなければ、ナオトが激突した衝撃で、今度こそサイの命は消えていたかも知れない。

 

 まだ痛みのひかない胸に、遠慮なく飛び込んできたナオト。サイはその頭を軽く撫でる。

 糸が切れたように、ナオトは包帯だらけの彼の腕で泣きじゃくった。

 

「ごめんなさい……

 僕、サイさんが死んじゃったと思ってました」

「俺もそう思ってた。でも、お前と医療ブロックの人たち、それに──

 フレイが、助けてくれたよ。

 俺一人じゃ、戻っては来られなかった」

 

 サイは汗まみれの身体をどうにか立て直し、ナオトとネネに支えられながらも顔を上げる。

 その視線の先に堂々と立つは――

 

 

 勿論、フレイ・アルスター。

 そして、彼らを取り巻く無数のクルーたちの目。

 何人かは考え込んでいるが、大半は白けた表情でこのやりとりを眺めている。

 

 

 と、突然その中から、ハマー・チュウセイの怒声が響いた。

 

「感動の再会なら外でやりやがれ! これ以上騒いで作業を遅らせるな! 

 アストレイだけじゃねぇ、アフロディーテの惨状を知ってるのか貴様らっ」

「アフロなら構わん。

 8割は、パイロットたる私の責任だ」

 

 ハマーを遮ったのは、冷徹なフレイの言葉。

 さらに彼女はハマーに問いただす。

 

「それより……

 貴様は瞑想室だったはずだな」

 

 彼女の権威に逆らうことはハマー自身が自らに許さないようで、彼はそれきり黙りこんでしまった。冷たい床に落ちる視線。

 そしてフレイは髪をかき上げ、改めてサイを見降ろした。

 

「例の、ヨダカ隊を名乗るザフトの潜入部隊は全て、殲滅を確認した。

 サイ──お前がわざわざ出動せずとも、連合の駐屯部隊がやってくれた仕事だ。

 にも関わらず、お前は無断で戦闘行為を行なった。その結果出来たことといえば、作業用アストレイ1機の全損──

 戦闘は自らの領分でないと、2年前に悟ったはずではないのか」

「フレイさん、少しは情けってもんを知ってください!」

 

 ナオトが叫ぶ。

 彼だけではなく、呼応するようにネネも声を上げた。「サイさんがいなければ、血液は間に合わなかったですよ!?」

 

 ほぼ同時に、クルーの中からも甲高い叫びが一つ起こった。

 

「偽者が、ナニ調子こいてやがる! 

 何の目的で、アタシらをハメるんだよ!?」

 

 操舵士オサキこと、サキ・トモエだ。

 コーディネイターだらけのブリッジで頑張っているナチュラルの彼女にとって、フレイの統制はこれ以上我慢できるものではなかったのだ。

 オサキの言葉を皮切りに、クルーたちのざわめきが一層高くなる。

 

「やめなさいよ。アマクサ組は守ってくれてるのよ!」「しかし、だったら何故フレイ・アルスターを名乗ってるんだよ」

「散々俺らをこき使って、差別して……」「何のつもりだ、この売女!」

 

 状況が、ようやく先ほどのナオトの目論見に近いものになりつつあったが──

 それでもフレイは、何ら動じていなかった。それどころか、唇には微笑みすらたたえてクルーたちを見ている。

 ――まるで彼らの感情が昂ぶっていくのを、期待しているかのように。

 

 

 だが、ちょっとした騒動になりかかったその時、またもや絞り出すような声が響いた。

 

 

「やめろ……

 みんな、もういい! 

 フレイの言うことは、事実だ」

 

 

 支えられながら立っていることも、声帯を震動させることさえ精一杯なサイの声。

 その頬は青白く、作業用ジャケットの下の包帯は汗でびっしょりだ。

 

「俺を助ける為に、フレイの機体も損傷してしまった。

 瞑想室にでも何にでも、入れてくれ」

 

 全身の痛みのあまり、サイはその場に崩れ落ちかかる。サイの体重が一気にナオトとネネの腕にかかり、彼らの手はべっとりと血に染まっていた。

 涙声で訴えるナオト。

 

「駄目だよサイさん、みんな自分で引き受けちゃ! 

 それにこの人は、フレイさんじゃないですっ」

「分かってる……だけど、今は何も聞くな。聞かないでくれ。

 目の前にフレイの姿がある──その事実だけで、俺は十分だ」

「でも、許せないでしょそんなの!」

 

 ナオトの反論に、クルーの中から一歩踏み出したオサキが同調した。

 

「そうだよ! お前が一番酷い目にあってるじゃねぇか、この女のせいで!」

 

 だが──

 

 

「頼むからっ!!」血を吐くようなサイの言葉が、全てのざわめきを中断させた。

「今は、何も聞くな……

 俺の頭が、先におかしくなっちまう!」

 

 

 そんなサイの態度を見透かしていたのか──

 フレイは、腰に手を当てたままの余裕の姿を崩すことはなかった。

 

 うっすらと微笑みをたたえる、濡れた唇。

 冷酷極まりないかつての恋人の眼前で、サイは遂に倒れこんだ。

 

 泣いてサイを呼び続けるナオト、手早く傷の様子を確認するネネ。

 そんな彼らのもとに、オサキ、そしてヒスイ・サダナミまでが駆け寄っていく。

 

 

 

 

 その中でカズイは、ただ様子を凝視していることしか出来なかった。

 すぐ隣のアムルは騒ぎにも動じず、ただ猫のように会話に耳をすませている。

 彼女に気を使うあまり、カズイはサイのもとへ戻ることが、どうしても出来なかった。

 

 サイが生還してくれたことは、勿論嬉しい。だが──

 今更俺が駆け寄って、どうなる? 

 

 それに、サイがアムルさんを傷つけたという疑いは、消えていない。そして……

 いっとき酷い状態になったとはいえ、サイはこうしてナオトを取り戻し、ネネやオサキたちの心まで掴んでいる。

 

 

 それは、絶対に自分には出来ない芸当だった。

 

 

 どうしてだ。

 どうしてサイにはこうも簡単に人が戻り、自分はアムル一人すら、手に入らない? 

 

 

 ――そんなカズイの心をよそに、状況は動いていく。

 場を制御する、フレイの声。

 

「サワグチ看護師。

 第14ヘリポートからの血液バンクで、助かった患者は何人だ? 

 正確な数字を」

「え? は、はい」

 

 突然呼びかけられ、慌ててネネは顔を上げたが、ホウセンカの種のように元気よく答えを返す。

 

「現時点で22名、重傷者が4名です。

 あ、重傷者には一応、サイさんも数に入っていますが」

 

 フレイは若干考え込むような素振りをしつつ、唇に触る。そして──

 

「了解した。瞑想室入りは延期だ、サイ。

 優秀な医療スタッフに感謝するのだな」

 

 再び意識を失う寸前に、サイは確かに聞いた。彼女の声を。

 ――そして、確かに感じた。

 その声色にほんの少しだけ、いたわりの気持ちが含まれていたと。

 

 

 

 

PHASE-13 キメラ

 

 

 

 

「サイを責められるのかよ、このアフロのイカレっぷり!」

 

 改修中のアフロディーテを前にしたキャットウォークの上で、ミゲルは堂々とフレイを怒鳴りつけていた。

 

「関節モーターが両側きれいに2個ずつ飛んで、足先の無理な改造のせいで直立状態すらヤバヤバ! 

 それに、一体あのアッシュにどんなトドメを刺したんだよ? ケーブルがマニピュレータに絡みつきまくって指関節までちぎれかかり! 

 挙句の果てには、借りたジェットストライカーをたった一度でオシャカ! おぉ、もう……

 山神艦長が連合にしちゃ今や超レアな、話の分かる穏やかなお方だから良かったようなものの、これがブルーコスモス寄りの軍人なら俺ら全員斬首モノだぜ? 

 なぁフレイ、頼むよ。これじゃウィンダムか、オーブのムラサメでも買った方が安くつく」

 

 一気にまくしたてるミゲルの説教を風のように聞き流しつつ、フレイは前髪のほつれを直していた。

 そして説教が一段落した頃を見計らい、いつものねぎらいの微笑みを見せる。

 

「すまないと思っている。

 私はいつも感謝しているぞ、今回は特にご苦労だった──ミゲル」

 

 そして、彼女はミゲルに向かってウインクまでして見せた。

 それを見て──

 

 ミゲルは勿論、その場にいたラスティ、ニコルまでもがぎょっと顔を見合わせた。

 見かけは、うら若き少女の可愛らしいウインク。だがそれは、彼らアマクサ組にとって、特別な意味があった。

 一瞬、ぐっと言葉に詰まるミゲル。

 フレイは微笑みを崩さぬまま、彼を挑発するように語り続ける。

 

「大丈夫だ、このアフロディーテはまだ戦える。

 上半身のみだがTP装甲も強化されている。そこらのダガーLとは違うのだ」

 

 フレイは再度、ミゲルに向かって片目を瞑る。

 見ようによっては求愛のしるしとも読める仕草。後でお茶でもしよう。大丈夫、私の奢りだ、心配ない──

 

 ミゲルは意を決したように一歩を踏み出し、「俺はっ……

 あんたが、心配で!」

 

 その叫びと同時に、フレイの頬がパチン、と鳴った。

 子供をなだめる時のような、軽い平手。

 

 ダメージを喰らったのは、叩かれたフレイよりも叩いた方であろう。

 とんでもないことをした──やってしまってから自分の隻腕を茫然と眺め、完全にうろたえているミゲル。

 

「いい平手だ。その調子で頼むぞ」

 

 フレイは全く怒る様子もなく頬を押さえつつ、ミゲルの肩をぽんと叩く。

 そしてラスティを連れ、今は無人のティーダの方へ歩いていった。

 

「ティーダのセンサーの感度──また上昇したのか? データを寄越してくれ」

「フレイ、俺も聞きたいことがある。

 俺からすると、ティーダはマジ訳が分からんぜ。今回の挙動は……」

「質問をする時は、もう少し具体的に整理しろ」

 

 連合の少年兵姿のままの、引き締まったその後姿を見ながら。

 ミゲルはへなへなと腰を落とした。

 

「勘弁してくれよ……

 本来ならコレ、絞首刑だぜ」

 

 そこへ、ニコルの車椅子が寄ってくる。「大丈夫、ミゲル先輩は命令を実行しただけですよ。

 フレイも自制したいんでしょう……

 僕らの、種の為に」

 

 ニコルはふと、キャットウォークごしに自分の足元に広がるカタパルトへ視線をやる。

 そこでは、偶然カタパルトに顔を出したナオトに、弾丸の如くマユが飛びついていた。

 

「ナオト、ナオト、ナオトナオトナオトおぉー!!」

 

 あまりに素っ頓狂な歓声に、ナオトは勿論周りの整備士全員の目が丸くなったが、そんなことを気にするマユではない。

 

「会いたかったっ、ナオト!」

 

 しかもマユはカイキの手で包帯を外されている最中だったので、上半身がほぼ素っ裸という状態で彼に抱きついていた。

 あまりの勢いに押し倒された少年の目の前で、マユの包帯と、その奥の成長途上の胸が奥ゆかしく揺れる。

 

「ぼ、僕も会いたかったよ……

 相変わらずで、良かった」

 

 顔を真っ赤にしながらも、ナオトはマユを抱き上げ、彼女の包帯を直そうとする。

 幸い、マユの怪我はほぼ治っている。ナオトは自分のことも忘れてほっとしたようだ。

 彼の方が、ヘリ墜落時の負傷もあってかなり酷い状態だったのだが、サイの件もあって自分の負傷などどうでも良くなっていたらしい。ついさっきも、いつも通り動き回ろうとしていてニコルが注意したばかりだ。

 

 

 その光景を、少し離れたティーダの足下から、カイキがポケットに手を突っ込みつつ眺めていた。

 ナオトやマユは勿論、この光景をキャットウォーク上から見ているニコルにも、この草色の髪の青年の奥底は読み取れない。

 カイキの心にあるものは、嫉妬か、愛情か、執念か、それとも──

 とりあえず、ニコルは車椅子を重そうに動かし始めた。

 

 

「帰ってきたからには、調査を続けなくちゃ。

 ナオト君のSEEDの可能性も」

 

 

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