【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ザフトの侵攻を退けてから、数日。
久々に晴れ渡ったヤエセの空の下で、先の戦闘で失われた兵士たち、そして民間人への弔いが、しめやかに行なわれていた。
弔われている者たちの中には勿論、山神隊の真田上等兵──現在は二階級特進により、伍長──も含まれている。
山神隊は一堂に会し、一糸乱れず整列しつつナガンヌ空港に向けて敬礼を送る。
だがその中で、真田の教育係だった時澤軍曹は、感情を堪えきれていなかった。
熱射の真下で微動だにせず敬礼を送りながら、彼の目からはただ涙が溢れる。そんな時澤に、風間曹長が横から黙ってハンカチを差し出していた。
焼け跡から時澤がようやく探り出した、指先ほどの量の僅かな骨片。
砂粒のようなそれを、山神艦長は海に向かって風に乗せる。
軍帽を取ると、彼の白髪と顔に刻まれた皺が、頼りなげに揺れた
――散っていく、真田の欠片と共に。
「人死ににも、順序というものがあろうに……」
調整中のティーダの前では、フレイとラスティが問答を繰り返していた。
「人の心を読むモビルスーツなんて、そりゃ邪道と言われるさ」とラスティが言えば、
「兵器にそのような大それた真似が出来るものか、存在を感じるだけだ」とフレイは返す。
さらに今は、そこにカイキが加わっていた。「だが、マユの神経に如実な影響を及ぼしている。
それは危険だ、『チグサ』にとっても」
「分かっているはずだぞ。
ティーダにマユを乗せているのは、『チグサ』復活の為だ」
冷静に答えるフレイに、思わず激するカイキ。
「分かっている!
だが、マユが──あいつが、感情を覚えている!
少なくとも、『会いたい』という感情を!」
カイキは怒りに任せ、思わずティーダの左脚部外側の装甲を叩いていた。
まるで、ティーダがマユを殺す、とでも言いたげに。
そこへ突然、彼らの背後からかけられる、朗々たる男の声。
「素晴らしい白さだね。
これが、この国の新型というわけだ」
一番早くに殺気を感じ、振り向いたのはフレイだ。そこにいたのは──
「先日はお世話になりました、お嬢さんがた。
この地で山神隊と共に作戦行動を行なうことに相成りました、地球連合軍第81独立機動群・通称ファントムペインです。
自分は指揮官のネオ・ロアノーク大佐。以後、お見知りおきを」
それは亀にも似た仮面で顔の上半分を隠した、金髪の男だった。
仮面の色は制服と同じで、黒というよりもグレーと表現した方が良さそうな色で統一されている。
その背中にくっつくように歩いているのは、3人の少年少女たち。
いずれも連合の少年兵の服装をしているが、フレイが一目見て顔をしかめたほど、だらしなく制服が改造されていた。
突然、その中から水色の跳ねた髪が特徴的な少年が飛び出して、遠慮なくフレイたちとその後ろのティーダを見つめた。
髪色と同じく、澄んだ水色の瞳。そこに全く邪気はない。
「へぇ~……
あの白いモビルスーツ、スゲーな!
スティング、ステラ、ネオ、見てみろよ! あそこにはカラミティもある!!」
キャットウォークを跳ね回りつつ、その少年は奥で修理中のアフロディーテに気づく。
今にも飛び降りそうな勢いで、彼は手すりから猫のように身を乗り出した。
「あっはぁ! あのダガーL、ズタボロじゃんっ」
「無礼な。アフロディーテという名がある!」
少年を叱りつけるフレイ。
さらに彼女はネオに向き直り、堂々と対峙した。
「名乗る時は、その貧相な仮面を外したらどうですか大佐殿。
貴方がたの格好といい、連合のエリートとは思えませんが」
「正直、保育園だ」カイキも突っ込む。
ネオが答えるより先に、水色の髪の少年がすぐにふくれっ面になる。
「な、なんだよぉ~。
助けてやってその言い草、ねぇだろ?」
さらに、ネオの横に付き従っていた薄緑色の短髪少年も、皮肉っぽく吐き捨てた。
「へっ。お前ら民間のモビルスーツじゃ、俺らにかないっこねぇ癖にな」
「アウル、スティング。いい加減にしろ」
元気すぎる少年たちを制するネオ。
だがフレイは間髪入れず彼らを見下げ、前髪を払った。
「強奪したモビルスーツで威張るな。
ウィンダムで同じ働きをすれば褒めてやるがな」
この一言に、ネオはともかく少年たちはかなり動揺したらしい。
モビルスーツ強奪の事実が、こんな民間船にまで広まっている──?
無邪気な動作をぴたりと止め、警戒心も露わにフレイを睨むアウル。
さらに彼女はスティングに視線をやり、傲然と言い放つ。
「それと、そこの少年……袖の中の銃口が丸見えだぞ。
どうした、私たちが怖いか」
きれいに刈り込まれた少年の緑髪が、びくりと跳ねる。
ネオが口元を引き締め、スティングを見やった。
「大変失礼しました。
全く、お前たちは……」
「謝ることなんかねぇ!
ネオ。この船本当なら、とっくに俺たちが接収しててもおかしく……」
「スティング! フレイ嬢の前だぞ」
ネオはスティングの銃を取り上げつつ、少年たちの感情を強引になだめる。
だが騒動が収まると、ネオは改めてフレイに向き直った。
「無礼と知ってお聞きしますが、フレイ・アルスター嬢。貴女も仮面を被っておられるのでは?
──
俺は貴様の秘密を知っているぞ。
いかにもそう言いたげなネオの問いだったが、フレイはいささかも動じなかった。
「世の中とは面白いものですね、大佐。ウーチバラを襲ったはずの貴方がたが、今ヤエセを救うとは。
アマミキョを堂々と探る理由づけの為かどうかは知らぬが、この国をあまり甘く見ない方が良い。
今のうちに忠告しておきます。我々の何を知っていたとしても、貴公に出来ることは何もない」
「分かっておりますよ。今は一時休戦ということです……」
そこまで言った時、ネオは面倒そうに両手を振り上げる。
ごく軽めの、いかにも兄貴分らしい口調に切り替えながら。
「……って、ええい、もう!
腹の探り合いなんてよそうぜ、フレイ嬢。苦手なんだよこういうの。
ついでに俺は、何故君が俺の記憶の切れ端にいるのか――その理由を知りたいだけでね」
だがその一方、フレイはいささかも態度を緩めない。
つかつかとネオに歩み寄り、少年たちに聞こえぬように言い放つ。
「子供の記憶を奪っても、ですか?
記憶を求める貴公が、子供で記憶遊び。皮肉なものだ」
「その説教は、ウーチバラの宙域で聞き飽きたよ」
おどけてみせるネオ。
だが、その胸倉をフレイが掴む。
「しかしその後も、彼らの記憶を弄んだ。
あの少年たちに、アフロディーテやカラミティ、ティーダの記憶が
貴公の率いるファントムペインの人員から推測するに、ウーチバラであの少年のどちらかは、私に撃破されたはずだがな。
――あの後、あの二人に、貴公は何をした?」
「やれやれ、確かにアマクサ組の情報網は素晴らしい。
それに、君のその怒りっぷり……
ひょっとして、同族嫌悪というやつかい?」
かなり強めに胸元を掴まれながらも、ネオも決して怯みはしない。
「じゃあ、君が率いているアマクサ組の子供は何だ?
ティーダに乗っていた子供は?
そして――君自身は、何者だ?」
「質問を質問で返すやり方は気に食わんな」
「あの二人に何をしたかなんて――君はとっくに分かっているはずだ。
お互い答えの分かっている問いに、わざわざ答える義理はない。だから自分は質問を返したまでだが?」
「無礼には違いないだろうに!」
フレイが珍しく、生身の人物に対して激昂を露にしたその時──
「駄目だよ。
人を怖がってちゃ、駄目なんだよ!」
調整中のティーダコクピットから脱け出していたマユが、いつの間にやらネオの周りをうろついていた。
正確には、ネオの背中に隠れている、連合少年兵服の少女の周りを。
無邪気にその少女の腕を引っ張るマユ。
「ねぇ、その制服の改造方法教えてよ! 両肩をそんなに上手に出すのってどうやるのー?
私がやると、いつもボロボロ破れちゃうんだぁ」
マユは強引に少女をネオから引き剥がそうとする。何も知らない者が見れば、中学生ほどの女子同士の戯れにしか見えない。
だが少女は最初はぽかんとマユを見つめていたものの、出てくるどころかさらに怯えてしまい──
「嫌だっ!
な、何する、近づくな!!」
ついには悲鳴をあげながら金髪を激しく揺らして、ネオの背中に抱きつくように隠れてしまった。
カイキが無造作にマユを引き離し、そのカイキを今度はスティングが睨みつける。
「やれやれ……
誰のせいで、ステラが怖がっていると思っている?」
ネオは少女の頭を優しく撫で、仮面の下からフレイを軽く見据えた。
だがフレイは必死で隠れようとする少女を、容赦なく凝視する。灰色の瞳にますます怯える少女。
やがてフレイの唇に浮かんだものは、皮肉めいた微笑み。
「彼女の具体的な記憶は消えても、深層心理に恐怖は植えつけられている、というわけか。
人の肌と肉と神経の力だな」
言いながらフレイはようやく、ネオから手を離した。
だがその鋭い眼光は、執拗に彼を睨む。
「今は、マユに感謝するのだな。
アマミキョとこの国を汚せば、今度は容赦なく貴様らを撃つ」
それだけ言い残すと、彼女はカイキやマユと連れ立ち、背中を向けた。