【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ナオトはずっと、サイのベッドのそばで彼の話を聞いていた。
あのカタパルトでの騒動直後に襲ってきた高熱から、ようやく回復したサイ。
そんな彼に、ナオトは必死で懇願していた――全ての真実を話してくれ、と。
ヘリオポリス崩壊の状況、アークエンジェルで起こった過去の事件、フレイの死の真相、2年前の悲劇の全てを。
「全部話してくれるまで、僕、絶対にここを動きませんからね!」と言い張り、本当に一晩中動かなかったナオトに、サイも遂に折れ。
──そして、語った。
2年前だけではなく、つい最近起こった事件までも。
つまり、チュウザンでフレイと再会した時のことも、サイは包み隠さずナオトに打ち明けたのだ。
「……どう判断していいのか、未だに俺は分からない。
だけど、フレイは生きて、俺の目の前にいる。だったらそのことだけを、事実として受け止める──
その時から、俺は決めた」
そこまでサイが話した時にはもうナオトは、ボロボロ零れる涙を押さえることが出来なかった。正確には、サイがストライクを動かした話のあたりから、ナオトの涙は止まっていなかったのだが。
そんな彼の頭に、サイは包帯だらけの手をぽんと乗せる。
「ごめんな、ナオト。俺も頑固だった。
フレイのことを一人で抱え込むなんて、そりゃ嫌われたってしょうがないよ。ミリィの言うとおりだ……
な、カズイ?」
突然出てきたその名に、びっくりして振り向くナオト。サイの視線はナオトから、その背後へと向けられていた。
カーテンで他の区画と仕切られているだけで、医療ブロックの騒音が容赦なく響いてくるサイの病室。
そのカーテンに今、一つの小さな人影が映っていた。
サイの一声で、その影がびくりと動き──
カーテンの間から、おずおずと顔を覗かせた。
「お前にも本当に申し訳なかったと思ってる、カズイ。
俺が誘っといて、詳しい話もしないで、また戦闘なんかに巻き込んでさ……
お前が怒るのも、当然だよな」
その言葉で、カズイはうつむき加減になりつつも、やっと部屋の中へ入ってきた。
そしてサイから眼を逸らしつつ、報告する。
「あの……
ミリィ、無事だったって。山神隊から聞いた」
「ホントですか!?」
ナオトの顔がぱっと明るくなる。同時にサイの表情にも安堵が溢れた。
2年前、苦しみも悲劇も共有した仲間──そして今離れてなお、ミリアリアはサイやフレイを思い、ナオトをアマミキョへ戻させた。
今ここにいるこの少年は、いわば彼女の分身だ。
サイが全てを話すつもりになったのは、ナオトを通じて彼女の想いの強靭さを知ったからとも言える。
――それだけに、ナオトからミリアリアの負傷を聞かされた時には、サイは大分動揺したものだ。
「それで、今彼女は何処に?」
先を急いで問うナオト。
だが、カズイは半分怒鳴るように現実を突きつけた。
「帰ったって。
オーブ本国からの命令で、強制帰還さ」
「そんな……ミリィさんがいないんじゃ……」
がっくりと肩を落とすナオト。
サイもどっと疲れが出たのか、ため息をついてしまっていた。
口では「良かった。オーブに帰れば、ミリィも安全だよ。尤も、またすぐ飛び出すだろうけど」とは言ったものの。
カズイはぶっきらぼうに言い放つ。
「オーブだって、今後どうなるか分からないさ。
条約締結と同時に、アスハ代表がセイラン家の息子と結婚なんかするらしいし」
「ケッコン!? まままさかあの、もみあげユウナとアスハ代表が、ですかっ?」
ナオトは肩だけでなく腰まで落としてしまう。「何てことだ、僕らの女神が……
あんな馬鹿に汚されて」
「落ち着けよナオト、アスハ代表にとっては良い話とも言える。
今までがおかしかったんだ。あの歳で一国を担うなんて」
サイはそう言いつつも、カズイにも改めて問いただす。
「でも、本当なのかカズイ?
俺もここ最近噂話に疎くなってたから、推測は出来ても具体的な情報は聞いてなかった……
まさか、そこまで話が」
「やめてくれよ。俺だって動揺してるんだ」
カズイはぷいとそっぽを向いてしまう。
だがその時、ナオトは突然顔を上げ、サイをまっすぐ見つめた。
「しょーがないです!」
そしてぴょんと元気に立ち上がり、サイの手を握りしめる。
「じゃあ僕が、サイさんを全力で守ります、必ず!」
「「は?」」
サイとカズイは同時に声を出してしまう。だがナオトの表情は真剣そのものだ。
大きな瞳は決意と希望に満ちあふれ、きらきらと星の如く輝いている。
「嫌だったって、駄目ですからね。
フレイさんやアマクサ組に何をされたって、僕がミリィさんの代わりにサイさんを守りますから!
一緒に、本当のフレイさんを取り戻しましょうね!!」
勢いあまって、ナオトはサイの右腕を捻らんばかりに握ってしまっていた。
「いや……その、ナオト、熱意は分かる。すごく嬉しいよ、でも……
痛い、痛いよコラっ」
「す、すみません」
慌てて身を引くナオト。このちょっとした騒ぎに、看護師のネネまでがちらりと顔を覗かせていた。
「でも、サイはこれからどうするつもりだよ?
この船でやってくのは、もう……」
カズイがまたしてもぽつりと、現実を呟く。
サイを下から睨みつけるような小さな瞳の中には、未だに彼への疑惑と嫉妬が潜んでいた。
そんなカズイに、すかさず噛みつくナオト。
「空気読んでくださいよカズイさん! 負け犬の感情ばっかりでモノ言ってっ」
「お前は馬鹿か? 現実にサイは、裏切り者なんだよ!」
「サイさんの話を全然分からずに! ミリィさんの言葉、カズイさんにも聞かせてやりたいよっ」
「だけど、サイがザフトを逃がしたのは事実だろ?」
「もう、カズイさんてば!」
「ちょっと、やめなさーい! ここは病室よっ」
掴み合いの喧嘩を始める寸前のナオトとカズイに、慌てて仲裁に入るネネ。
そこへ静かに響いたものは、サイの言葉。
「やめてくれ、ナオト。
確かにカズイの言うことは現実だ」
荒れかかる二人の感情を鎮めるように、彼は言葉を紡ぐ。決意と共に。
「だけどカズイ。悪いけど俺には、船を降りるという選択肢はない。
だから、今からでもうまくやっていく方法を考える」
そこでサイは、少しばかり悪戯っぽく笑ってみせた。
「でさ、ちょっと相談。
結構前から考えてたんだけど……」
それから数週間が経過。
ようやくサイが、通常作業に出られるまでに回復した頃──
「料理研究う?」
トウキビ畑で山神隊に作業を監視されつつ、オサキ、ネネ、そしてヒスイの三人が陽射しをよけて休憩していた。
「少ない食糧を有効活用する為の、調理方法の研究だそうですよ。
サイさん、調理場の隅で色々苦戦してるみたい」
ネネがオサキとヒスイにヨーグルトジュースを配りつつ、状況を説明する。
ザフト撤退後にシュリ隊内部でグループの再編成がなされ、同じグループに偶然振り分けられたということもあってなのか──
オサキとヒスイは全く性格を違えてはいるが妙に気が合い、最近共に行動することが多くなっていた。
尤も、彼女らが結束するのは主にフレイや山神隊やコーディネイターたちへの文句を言う時ぐらいであったが、それでも今までパソコンの前で閉じこもっていたヒスイにとっては大きな進歩と言えた。
またオサキにとっても、コーディネイターばかりに囲まれて鬱屈していた処に現れた、元ブリッジ要員のナチュラルの女性ということで、ヒスイは案外話せる相手となっていた。
――最大の共通要因は、ネネを含めた三人共、傷ついたサイに思わず駆け寄った人間たちということだったが。
「アタシは嫌だね、何でこのクソ忙しい時にママゴトなんざ。
第一、ネネ。お前だってサイを軽蔑してたじゃねぇかよ」
オサキはジュースをまずそうにストローで啜りつつ、ネネを睨む。
だが、ネネはあっけらかんとしたものだ。
「サイさんはあれ以降、医療ブロックにとっては英雄ですから。同グループのよしみもありますしね。あと……
あれからちょっと子供たちの話聞いたんですけど、サイさんが子供を一方的に殴ってたのって、実はちゃんと理由があったみたいです。
あの子たち、ナチュラルとコーディネイターで大喧嘩してて。それで彼、ナチュラルの子たちを助けようとして、ああなったらしいですよ」
「え?」
「どんなことがあっても、人を辱めちゃいけない――
そう、お兄ちゃんが叫んでたって……あの子たち、言ってた」
「えぇ!?
それ、マジかよ」
「つまり完全に、私たちの誤解だったですね……偶然、叩いた瞬間だけ見ちゃったから」
「……そっか。
結構最低な勘違い、やっちまったかもなぁ……」
彼女らしくもなくどもり、思わずストローの端をイライラとかじってしまうオサキ。
それを眺めながら、悪戯っぽくネネは笑う。
「そーいうオサキさんだって本当は、ブリッジにサイさん、いてほしい癖に」
「別にいてほしいってわけじゃ。いたら便利、ぐらい?」
「またまたぁ。照れ方分かりやすいなー」
「そんなんじゃねぇって!」
強い日差しの中で、ネネもオサキもじゃれあいながら土の上に思い切り素足を伸ばす。
ストローをくわえて黙ったままのヒスイも、それに倣って白くむくんだ脚を放り投げた。
大丈夫、今は監視の目は緩い──
この時、「灼熱の南国に大根が6本。いいねぇー」などと、ファントムペインのスティングとアウルが双眼鏡で覗いていることなぞ、三人は知らなかったが。
「同グループのよしみってんなら、ハマーでも誘えばいいだろ」
「嫌ですよ、とんでもない! あの人が来たらブチ壊されるだけじゃないですか」
「意外と話せるかも知れんぜ? 今もまた瞑想室に逆戻りらしいし、少しは懲りたんじゃね?
あの、人間嫌いのド差別主義クズ野郎も」
オサキの言う通り、ハマー・チュウセイは再びフレイに瞑想室送りにされていた。
心を入れ替えるどころか、敬愛するフレイに激しく殴られたことで自虐的になった彼はますます酒に溺れ、新たな暴力事件を起こしていたのだ。
しかも、お菓子をねだって寄ってきたナチュラルの子供を本気で殴るという、最悪の事件を。
ストローの端をちょこっと噛みつつ、ネネは呟く。
「ホント、冗談じゃないですよ……帰国させなかったのが不思議なくらい。
今日あたりで出てくるみたいですけど」
その時、唐突にヒスイがたどたどしく言葉を口にした。
「あ、あの、料理研究、でしたっけ……
なんか、それって、別の意味で……嫌な予感がするんですが」
ネネとオサキが顔を見合わせる。
――と、その時。
突然畑の向こう側から、この世のものとは思えぬ絶叫が轟いた。
最早大分聞きなれた、ナオト・シライシの叫びである。
オサキたちが慌てて現場に踏み込むと。
大地に仰向けにぶっ倒れているナオトと、必死で彼を介抱しているサイと、それを遠巻きに見て震えているカズイがいた。
ナオトがたった今手をつけたであろうランチボックスの中にあったものは、無造作に盛られたサンドイッチらしき物体。
「ナオト……
何も、そんなにガツガツ食うことなかっただろ? しっかりしろって!」
泡を吹いたままのナオトを揺さぶりながら、サイは涙声で訴える。
涙ながらに突っ込むカズイ。
「味わわないように一気に食べたから……
畜生、予想出来た惨劇だったのに!」
「そんなにヤバイもんか?
生タマネギとバナナクリームとイチゴジャムのサンドイッチって」
真顔で言ってのけるサイ。
絶句するオサキたち。ネネは思わずナオトに駆け寄りその背中をさすり始める。
「は、吐き出して! ナオト君っ!!」
ネネにナオトをぶん取られ、サイはおろおろとカズイに弁解するしかない。
だがそれがさらに墓穴を掘る結果になり――
「やっぱり、ドライマンゴー入れた方が良かったかな?
ここってタマネギには結構困らないだろ? それにバナナクリームもジャムも意外に在庫あったし、簡単に栄養とるにはいいかと思って……」
「馬鹿野郎!」
皆まで言わせず、肩を震わせながら叫ぶオサキ。
「今どき殺人料理キャラって、どんな絶世の美女でもそこそこガチめのヘイト買うんだよ! 分かれぇ!!」
そして
「みじん切りのマヨネーズあえならまだしも、タマネギの輪切りのみはヤバイと思うよ……しかもジャムのトッピングにとどめにバナナクリームって……うぅ、思い出したら吐き気が……」とカズイ。
さらに容赦なく追撃するヒスイとオサキにネネ。
「サイさんを調理班に配属させたら、間違いなくアマミキョ壊滅じゃないですか……?」
「お前がフられたのって、もしかして味覚とファッションセンスのせいじゃね?」
「絶対、間違っても、そのへんの虫まで適当に入れて料理しないでくださいね!」
「そ、そんなぁ。酷いなぁ、みんな!!」
だが、そのちょっとした惨劇もそこまでで終わった。
トニー隊長の、いつもの罵声と共に。
「何を騒いでる、連絡を確認しなかったのか!?
ヤエセ西部工場で爆発事故だ!」