【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 幻影の家族

 

 

《現場はここより5キロ北西、トミグスクの森の中と思われます。

 文具団の人工山中の工場ですが、被害・負傷者は今だ不明。既に山神隊が先発しています》

 

 ティーダのコクピットに、ブリッジの通信が次々に入ってくる。

 ティーダには既に、マユとナオトが待機していた。

 

 しかも何故か、ナオトはフレイから直接命じられていた。

「貴様にとって絶好の取材対象だ。来い」と──

 

 

「良かったね、ナオト。

 もう一度ティーダに乗れて!」

 

 朗らかな顔で、前席のマユが振り向く。

 そんなマユの笑顔に、ナオトも思わず顔をほころばせた。

 

「こんなにあっさりと再搭乗を許してくれるなんて、思わなかったよ。

 ……何考えてるんだろ、フレイさんは」

 

 それに、借りたブリッジの制服に作業用ジャンパーをつけたまま、という格好で乗り込んで良いものか。

「タマネギ騒動の最中、いきなり呼び出されたからなぁ」などとナオトが気にしていると、マユはそれを察したように笑った。

 

「今回はテロじゃないってば、あくまで人助け。

 ガスさえ気をつければ、全然危なくないって。

 取材するなら、ティーダの中が一番安全なんだよ」

「それにしたって、すぐにまた僕を乗せてくれたのは、どうしてかな。

 アスハ代表の手前ったって、代表も今頃は……」

 

 らしくもなく渋るナオトに、マユは彼女なりの説明を始めた。

 

「ティーダのセンサーが、まだ判断出来ていないの。コーディネイターかナチュラルか、どちらのOSに切り替えるべきかって。

 要は、ナオトが長く乗りすぎちゃったんだよね。

 ティーダには、パイロットに合わせて自動的にシステムをリライトする機能があるんだ。

 そこへ、『どちらでもない』ナオトが乗ってきたから、ティーダは迷ってる。

 今のところナオトはサブで、優先度は高くないから混乱はしていないけど」

「他のパイロットが乗ってきたら、システムが乱れるってことか……

 まるで生き物だね、ティーダのOSって。

 ――でも、最優先にされているのは」

「勿論、私! 

 ティーダ、マユ・アスカ、ナオト・シライシ、出まーすっ!」

 

 マユの元気のいい声と共に、ティーダは太陽の輝く空へ飛んだ。

 眼下には、既に出ているフレイのアフロディーテと、カイキのソードカラミティ、山神隊。

 そしてファントムペインのガイアガンダム、紫のウィンダムも見える。

 

「えぇ……どういうことだ? 

 ただの爆発事故に、これだけの部隊を出すなんて」

 

 

 

 

 

 

 熱射の泥道を、その男はひたすらよろよろと歩いていた。

 暗く湿った牢から解放されて数時間。酒という名の薬がとうに切れてしまっていた彼に、この国の太陽ほど苦しい洗礼はない。

 

 舌が、皮膚が、唇が、神経が、肉が、血が、伸びすぎた無精ひげが、アルコールを求める。

 側溝を流れる下水でさえも、美味そうなワインに見える。

 頭を掻いてみると、大量のフケが爪に付着した。

 それすらも酒粕のように見え、男は頭を掻いては、それをひび割れたぶ厚い唇に持って行くという虚しい作業を続ける。

 脳の内部を叩く雷鳴。それはいつしか吐き気に変わり、男の全身を麻痺させ、地面に倒れさせてしまう。

 

「ロゼ……ロゼ」

 

 男の汗臭い胸元から零れるものは、古びたお守り。

 それを握りしめながら、男は顔を上げる。

 

 

 その目の前に広がったものは、彼の故郷だった。

 そう――これは、俺の森だ。

 オーブ西部の森の奥、俺たちは会社員時代に貯めた金で静かな暮らしをするつもりだったんだ。

 

 そうだ、俺にはそれだけの才能も手持ちもあった。俺も妻も、コーディネイターだったから。

 何も宇宙なぞに上がらずとも、オーブならば、オーブの中で閑静な避暑地であれば、俺たちも娘も迫害されず、十分生きていける。

 ――そう、思っていた。

 

 朝は鳥の声と共に起き、昼は土を耕し種を蒔き。

 夜は娘と星空の下、花火でもやる。

 娘は蛾を嫌がるだろうが、すぐに慣れるだろう。

 

 そう、あの森は約束の土地。俺たち家族の森。煙がわずかに出ている、あれはロゼの狼煙だ。

 俺は今まで、何をやっていたのだろう。ロゼをあんなに待たせて。

 

 お父さん。今夜、花火やろう。

 線香花火、オーブの名物。お母さんと買ってきたんだよ。

 だからあまり、お酒飲まないで。

 

 種を蒔いたら、花火やろう。お父さん。お父さん──

 

 

 

 

 

 怪我が何とか回復し、サイはアマミキョ本来の作業の一つ、農地開拓に戻ることをようやく許されていた。

 土を掘り返し岩を砕き、畑を耕す。種を蒔く、その前段階の作業だ。

 

 同時にサイには若干時間的余裕も出来て、それ故にタマネギ騒動の如き大惨事も起こったわけだが、そんな個人的状況に何ら構わず──

 

 事件は起こる。

 

 一つは今、サイたちの作業場から目と鼻の先で起こっている爆発事故。

 もう一つは、たった今、ハマーが暴走気味のオープンジープに乗りながら、事件現場の森へ突っ込んでいくという異様な光景だった。

 

「ハマーさん!? 

 危険ですよ、そっちは!!」

 

 サイは慌てて、転がしておいたバイクに飛び乗ってハマーの後を追う。

 ハマーのジープは泥を跳ね飛ばしながら、舗装もろくにされていない道をジグザグに暴走していた。

 明らかに、正常者の運転ではない。

 

「全く……

 また飲んでるのかっ!」

 

 舌打ちをするサイの頭上を、紫のウィンダムが滑空していく。

 そのすぐ後から、耕したばかりの大地を無遠慮に踏みつけつつ、黒の巨獣が跳ねていく。

 

 2年前、砂漠で見たザフトのモビルスーツにも似ている──

 それもそのはず、ザフト製の新型機を連合が強奪したものだそうだ。

 名は「ガイアガンダム」。

 

 ザフトが連合からモビルスーツを奪った瞬間以降、自らの運命を大きく変えられたサイとしては、強奪された機体と聞くとどうしても複雑な思いで見上げずにはいられない。

 ――そこにいた基地の人たちは、どうしただろう? 

 

 だがそんなサイの思考などお構いなしに、ガイアは突然、彼とハマーの間に乱暴に前脚部を割り込ませた。

 

「わ、わぁっ!?」

 

 慌てて急ブレーキをかけたが、間に合わない。

 おいおい──もしかして、このパイロットもおかしいのか!? 

 

 脆い土が割れ、乾いた砂が巻き上がる。横転するバイク。

 あっという間に地面に転がされたサイだが、幸いどこにも怪我はなかった。というか、これ以上妙な怪我を増やされてはたまらない。

 危うく、ガイアに踏み潰される処だった。ガイアはそんな彼に全く気づきもせずに、地響きをたてつつ森の方角へと駆けていく。

 

 仕方なくサイは転がったバイクを立て直し、もう一度ハマーを追った。

 既にジープもサイのバイクも、現場近くの森へとさしかかっている。森の奥で火柱が上がっている――煙が見える。

 

 ただの事故じゃない。サイは直感していた。

 

 泥を散々タイヤに巻き込み、その上森に入ったせいで、ハマーのジープは大幅にスピードを落としていた。

 その片側にバイクを寄せたサイは、必死で叫ぶ。

 

「戻って下さい、ハマーさん! 

 貴方がいないと、もう整備班が成り立たないんです! フレイの機体だって、修理が追いつかないっ」

 

 しかしスピードが上がらぬことに躍起になっているハマーは、サイの叫びなど全く聞こえていない。ただ、森の奥を目指してエンジンを轟かせるだけだ。

 その時サイは、はっきりと聞いた。その厚い唇から漏れる、悲鳴に近い呻きを。

 

「この地は、故郷だ……ロゼの大地だ……俺の家だ! 

 俺はここで種を蒔く、そしてロゼと花火をやる!」

「え……? 

 ちょっと! ハマーさん!?」

 

 そこには既に、整備士として仕事をこなしていたうるさい職人はいない。

 ただ、幻覚に踊らされているアルコール中毒者の姿しかなかった。

 サイは唖然としながらもそれを止めることも出来ず、共に森の奥へと突っ込んでいく――

 

 

 

 

 

 

「こんな山に、こんな大きな工場があったなんて」

 

 ナオトたちを乗せたティーダがたどり着いた場所は、ヤエセ北西部の山を抉り取るようにして建造された工場だった。

 この山自体自然のものではなく、文具団が土地を買い取って山を造成したものだが、その山の裏側全てを切り取るように工場が出来ていたとは。しかも、ヤエセ中心街からは全く気づかれない形で。

 フレイたちが向かったのは、ナオトが今いる地点よりもさらに遠く、工場の反対側だ。500メートルは離れている。

 爆発はそこで発生したとされている。実際、先ほど火柱が上がったのもナオトたちのいる処よりはほど遠い。

 

「こっちはまだ無事みたいだ、ガスも検知されてない。

 まだ人がいるかも知れない、見てくるよ」

 

 ナオトはマスクだけつけてハッチを開き、ワイヤーでティーダから降りた。

 

「ティーダに乗ってた方が、安全だってのにー」

 

 マユはコクピットから離れぬまま、工場へと歩き出したナオトに向かって身を乗り出す。

 だが、その声はあくまで呑気だった。

 

「いいんだ、君はここで待ってて。久々にレポーターらしい仕事をしたいしね。

 それに、ティーダが無理に入ったら、人を踏んじゃうかも知れないだろ?」

「踏んだらいけないの?」

 

 その答えに、ナオトは諦めたように首を振る。

 どう言えば、マユは分かってくれる? 

 ――人が死んだら、悲しい。そんな当たり前のことを。

 ナオトは怒りを精一杯抑えこみ、胸元のフーアのお守りをかざしてみせた。

 

「僕の大切な人たちは、モビルスーツに踏まれて、亡くなった。分かる? 了解? 

 分かったら、おとなしくそこにいてくれ!」 

 

 

 

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