【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 少年は『父』を求めて

 

 

「あのストライクダガーには、ここから脱走した子供たちが詰め込まれている」

 

 先日の戦闘の影響で脚部が安定しないアフロディーテを駆りつつ、フレイは頭部バルカンで果敢に3機のストライクダガーに応戦していた。破壊された工場の、西側ブロックから飛び出してきた奴らだ。

 後方からソードカラミティが飛び出し、傷だらけのアフロディーテを左腕のロケットアンカーで援護する。

 エメラルドの腕から飛び出した鋼鉄の爪が、一瞬でストライクダガーの首を吹っ飛ばす。

 それでもなお、無謀に突っ込んでくるストライクダガーたち――

 

「ガキどもに、工場を名乗るクソ施設は破壊されたってわけか! 

 俺らと似たようなこと考える奴は多いもんだな」

 

 カイキはいつもの皮肉めいた笑いと共に、アーマーシュナイダーを振るう。

 相手がビームライフルを手にする前に、鉄鎧さえ切り裂く刃はライフルごとその腕を切り落とした。

 

「わがままな奴らめ。

 俺やチグサよりは贅沢な暮らしだぞ、畜生!」

 

 そのままソードカラミティは、返す刀で相手のコクピット部分に容赦なく刃を突き立てた。

 バチン、と一瞬コクピットのあたりで激しい電撃が跳ね、それきり力を失いガクリと崩折れていくストライクダガー。

 

 

 

 アマクサ組への援護はさらに続いた。ストライクダガーを空襲する、紫のウィンダム。

 その上、黒き獣──ガイアガンダムが、木々を蹴散らしながらフレイたちの反対側から突っ込んでくる。

 煤だらけのストライクダガーたちは、もう逃げられない。

 アフロディーテのフレイは、そんな彼らを無感情に眺めるだけだ。

 

「連合がガス爆発と偽り、モビルスーツ部隊まで動員して反乱を潰す理由──

 貴公には、もうお分かりであろう? ネオ・ロアノーク大佐」

 

 

 

 

 通信で飛び込んできたフレイの皮肉めいた囁きに、ウィンダムのネオは唇を噛むことしか出来なかった。

 簡単なことだ。ここはステラたちのいたラボと同等の、連合と繋がる実験施設──

 だが内部で反乱が起きた。公になる前に潰す。俺たちの手まで借りて。

 ――不祥事は内密に処理する、連合のいつもの手だ。

 

 しかし、それだけではない。ネオの勘が警告を発する。

 名目上とはいえ、ここは文具団の工場だったじゃないか。コーディネイターを重用する文具団が、連合の実験施設を抱えていたというのか? 

 それに、連合がここ北チュウザンに実験施設を構えるメリットが何処にある? 

 チュウザンは連合支配下とはいえ、コーディネイターとも繋がりがある国だ。連合中枢部の信頼度は相当に低い。そのような国に、最大級の機密事項であるエクステンデッド養成施設を置くか? 

 しかも規模を見たところ、この施設はおそらくロドニア以上──

 

 

 そこまで考えた時、眼下のガイアが突如、激しい突進をかました。

 ステラの叫びと共に。

 

《ネオ! 

 ここは嫌だ、すごく汚れてる! 

 ロドニアとも違うっ!!》

 

 ガイアの背面の翼から発振されたビーム刃が、ストライクダガーを切り裂く。鬱蒼と茂った森や土と一緒に。

 ガイアの疾走と共になぎ払われていく樹木。それは、地母神を名乗る機体にしては乱暴すぎる所業と言えた。

 

 フレイのアフロディーテが暴れるまでもなく、ストライクダガーはガイアの怒りの前に、僅か10秒の間に全機爆散した。

 そして最後のストライクダガーの爆発で、崩れかけていた工場の壁が完全に吹き飛び、露になる内部――

 

 

「アウルたちを連れてこなくて、正解だったな」

 

 

 ウィンダムのモニターで破壊の跡をズームアップしたネオは、思わず呟いた。深い嘆息と共に。

 そこにあったのは、既に焼き殺されていた人間たちの山。

 焼け残った死体の服装を見るに、ここの研究員だろう。恐らく、反乱を起こした子供たちにまとめて──

 こんな光景をアウルが見たら、彼はそれだけで再起不能になるだろう。研究員を母と慕っていた彼は。

 幸い、ステラに内部は見えていない。ガイアは森の奥にまだ潜んでいたダガーL2機に応戦している。

 

《自分と同じモノだろうと、容赦なしか。

 さすがはファントムペインの名に恥じぬ兵士だな》

 

 フレイの言葉が、ネオのコクピットにこだまする。

 それはまるで、魔女の囁きのように。

 

 

 

 

 同時刻。

 工場の中央区画には山神隊の広瀬少尉、風間曹長のウィンダムが突入していた。

 だが、彼らに応戦する機体の反応はゼロ。既にガス爆発という報告が虚偽であることを見抜いていた広瀬だったが、それでも一応の周囲の汚染状況はモニターしていた。勿論、有毒物質は検知しない。

 あまりの反応のなさに、広瀬は少々拍子抜けになりつつ、内部へ機体を滑り込ませる。

 風間のウィンダムもそれに続いた。

 

「考えすぎか……

 この位置にしては不自然な規模の工場な気がしたが」

《広瀬少尉。お得意の陰謀ごっこですか?

 あんまり突っ走ると、また伊能大佐の雷喰らいますよ。頭でっかちの短小野郎って》

「胸に脳みそ入ってるお前に言われたかないね」

《……ふぅん。

 そんなに胸がお好きなら、この胸部のトーデスシュレッケン、ゼロ距離射撃してさしあげましょうか? 

 少尉の目の前で》

「いや、待て、冗談だって! 変に近寄るな!!」

 

 というか、お前の方こそ今のはライン越えだろ。見せてやろうか俺のドッペルホルンを

 ――危うく広瀬がそう言いかけた、その時。

 

 

 ふと――

 闇の中から、ウィンダムの脚部に突進してくる小さな物体があった。

 ウィンダムの脚部装甲を食いちぎろうとでもしているのか、微かな金属のこすれる音が広瀬のコクピットに響く。

 モニターで見る限り、耳が結構長めの大型犬だろうか。

 

「やれやれ。

 警戒もせずモビルスーツに突進してくる犬なんて、最近じゃ珍しいんだが」

 

 広瀬は軽くウィンダムの脚部を動かし、犬たちを追い払う

 ――その瞬間、風間が彼女らしくもない悲鳴を上げた。

 

《少尉! 

 犬じゃない……服を着ていますっ!!》

 

 その言葉に、広瀬は反射的にモニターの感度を最大に上げた。そこに映し出された獣の姿は

 ──確かに、服を着ている。分厚い拘束服を。

 両腕が不自由でも牙だけはウィンダムに剥かれ、滝のように涎を垂らしている。振り乱される長い髪。

 確かに犬じゃないな、二本足で歩いているし。だが。

 

「人間でもねぇだろ、こいつら……

 何なんだよ、ここは!?」

 

 

 

 

「ヒトの未来を変える、新たな種を蒔く場所さ」

 

 ナオトの目の前に立つのは、もう何年も会っていなかった父親だった。

 しかも、ナオトが今まで一度だって見たことのない優しい微笑みまで見せて、父はそこにいる。

 

 ――そうだ。

 僕の父さんも母さんも、とても優秀な研究者だった。

 二人ともコーディネイターで、僕の自慢で──でも、時には重圧だった。

 僕はいつも父さんの期待に答えられなくて、父さんを怒らせてばかりで、母さんを泣かせてばかりだった。

 何故って、僕は父さんの本当の子供じゃないから。僕はハーフだったから──

 

「驚いたよナオト、お前にアスハ代表に買われるほどの才能があったとはね。

 さすがは私のナオトだ」

 

 ナオトは思わず目を瞑り、その言葉を噛みしめる。

 こんな言葉を、父さんは一度も言ってはくれなかった。でも今、こんなに優しく声をかけてくれる。僕を認めてくれる。

 やっぱり僕は、ティーダに乗っていて良かった。アマミキョに戻って良かった。

 そのおかげで、こうして父さんに会えたじゃないか! 

 その為に僕は、レポーターにまでなったんだ。父さんと母さんを探して、認められる為に。

 

 上階からステップを降りてきた父に、ナオトは思わず飛びついていた。

 白衣の清潔な匂いが鼻をつく。

 

「会いたかった、父さん!」

 

 僕は父さんの子じゃないけれど、それでも父さんは僕の、たった一人の父さんなんだ。

 ナチュラルの父さんは、前の戦争で死んでしまったから。

 

「大きくなったな、ナオト。

 随分辛い目に遭わせた。父さんのこと、許してくれるか」

 

 にっこり笑う父に、ナオトは犬のように従順に縦に何度も首を振る。ナオトは既に、さっきその場で戻したことすら忘れていた。

 

「うん……うん! 

 勿論だよ。父さんに会えて……本当に!!」

「しかも、ティーダに乗っていたとは。

 あれこそフリーダムにも勝る、希望の象徴だ」

「あ……そうだ!」

 

 ナオトはようやく我に返り、顔を上げた。「この工場、ガスが漏れてるんだ。

 早く退避して、父さん! 他の人たちも……」

 

 だが、父は笑みを絶やさず、冷静だった。「ガス漏れなど、ない」

「えっ?」

 

 その指が、優しくナオトの顎を持ち上げる。

 

「希望の意味を、未来の意味を理解出来ぬ哀れな子供たちの、些細な反乱だ。

 もうすぐ連合が来て始末してしまうだろう。

 父さんたちは彼らを懸命に育てた──だが彼らは、理解してくれなかった」

 

 ナオトの肩を抱きながら、父はふと天井を見上げ、縁なし眼鏡を直した。

 それが悲しみを感じた時の父の癖であることを、少年はよく覚えている。

 

「しかしナオト……

 お前は父さんを裏切らなかった。嬉しいよ」

 

 息子の頬を撫でる、父の大きな手。

 少し薬品臭いが温かい手に、ナオトは完全に自分を委ねていた。

 きちんとしたオールバックは変わらないけど、白髪が増えたな、父さん。

 

 

「――お前が、SEEDを持っているとは」

 

 

 SEED。

 意味不明の単語に、ナオトはきょとんと顔を上げる。

 その時突然背後から響いたものは、低い唸り声。

 

「何? 野良犬?」

 

 慌てて振り向いた。

 脳の浮いているガラス棚の列、その間から──唸りの主が顔を出す。

 ナオトの背丈とそう変わらない大きさの黒い獣が3匹、獰猛な牙を剥いていた。

 血に飢えた、真っ赤な眼球をぎらつかせて。

 

 

 

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