【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※ここよりオリキャラ・オリ主・オリ設定が大量投入されますので、苦手な方はご注意ください。



PHASE-01 爪先の月
part1


 

 

 

「芸無しが。

 強奪作戦などという阿呆が、そうそう何度も成功すると思っていたのか」

 

 

 閉ざされたモビルスーツ格納庫の中に、少女の凛とした声が反響する。

 落ち着いた低い声だが、鉄のように冷たい。

 少女の足もとに転がされているのは、3人の兵士。

 

 

「先の大戦が終了してからもなお、戦闘行為を継続するザフトの脱走兵が少なからず存在するとは聞いていたが

 ――このように落ちぶれているとはな」

 

 

 パイロットスーツに細身を包んだ少女は、天井の隙間から漏れるわずかな朝の光を浴びながら、先を続ける。

 

「補給をろくに受けられぬものだから、民間の船を襲い海賊まがいの行為をし、貴様らはこのコロニーにたどりついたというわけだ。

 ザフトの為に、か……聞いて呆れる。

 そのような下賤どものなすことなど、こちらは全てお見通しだ」

 

 少女は拳銃を手に持ってはいるが、銃口は相手に向けられていない。

 ただし、3名の兵士のうち2名は既に腹から血を流してその場に伏しており、即死もできぬまま視線を宙に漂わせている。

 彼らは全員、アキレス腱を撃ち抜かれていた。

 

「暗号の杜撰さに通信手段のお粗末さ、コーディネイターの風上にもおけぬ代物だったな。

 その連合兵の装備、どこから調達したかまでは聞かぬ……

 そんな偽装で、連合兵に化けられるとでも思っていたのか。

 ザフト兵か否かなど、生命の危険に瀕した際の身体能力を見ればすぐ分かる」

 

 少女は血のように紅い髪を揺らし、振り向く。

 着用しているものは髪の色と同じ、全身真紅に染められたパイロットスーツ。

 肩のところできれいに切りそろえられた髪はわずかにウェーブがかかり、両サイドの髪は頭の後ろで小さくまとめられている。

 髪の紅さと対照的な白い肌が映え、足もとには、兵士たちの流した血が飛び散っている。

 彼女はそれを、落ち葉でも踏みつけるように踵で潰した。

 

「しかし、これだけは聞いておかねばならぬ。

 このコロニーを持つ国が――

 新興の、ごくわずかな島国と知っての狼藉か?」

 

 兵士は答えない。

 少女の、灰色の瞳を睨み返しただけだ。それが現在の彼に出来うる、精一杯の行動だった。

 朝の光が格納庫内部の天井隙間から漏れ、少女のすらりとしたシルエットが浮き彫りになる。

 分厚いグラブに包まれた紅い手が、兵士の顎をぐいと掴んだ。

 

「違うな。貴様らの目的は単なる強奪ではない。

 マユ。テレビを」

 

 兵士を無表情に見つめたまま、彼女は後ろに控えていた部下に命じる。すると

 ――その場にそぐわぬ、やけに脳天気な応答が返ってきた。

 

 

「アイアイサー!」

 

 

 ベージュのブレザーに紅いプリーツスカートという、どこかのハイスクール制服にも似た姿の娘。

 そんな子供が、ちょこんと正座してにこにこ笑いながら、血まみれの右腕を上げていた。

 長い黒髪を後ろで二つに分け、先端を結んでいる。だが左腕にはしっかりと、まだ銃身が熱いであろうマシンガンが抱きかかえられている。

 ちなみに彼女が正座している場所は、倒れたザフト兵の上。勿論兵士は蜂の巣になり息絶えていた。

 

「でもー、その前にこれ食べていい? おなかすいたよー」

 

 彼女は倒された兵士の懐から、既に携帯用戦闘食を取り出していた。

 ピンク色のクッキー状のそれをわしづかみにして、娘は包装を不器用に破く。

 

「おいしー! イチゴ味だよ、これっ」

 

 動かない兵士の上に、ぼろぼろと食べかすが飛び散った。

 そんな娘を見ながら、紅い髪の少女はわずかに顔をしかめる。

 彼女の心を代弁するように、さらに別の男の声が響いた。

 

「どれだけ豊かな食生活してやがるんだ、ザフトの脱走兵様がたは」

 

 緑がかったボサボサの髪を、後ろで無造作にまとめたロングコート姿の男が、制服の少女のすぐ横に控えている。

 彼の背後にもザフト兵がいた。但しこちらも、壁に頭から叩きつけられ、そのまま脳漿で壁にへばりついている。

 

「ねーお兄ちゃん、おいしいよっ。多分こっちがバナナ味」

「マユ、その前に顔拭くんだ。

 それにしてもこいつら一体、誰に買われたんだ? よほど飢えてたらしいな」

 

 返り血を浴びたままだった娘の頬を、男がそっとハンカチでぬぐう。

 マユと呼ばれた娘はにこにこと嬉しそうに笑い続け、携帯テレビを取り出した。

 

「もう始まってるかなぁ、朝いちウーチバラ♪」

 

 スイッチを入れると、軽快な音楽と共に女性アナウンサーの明るい声が流れ出す。

 

《只今時刻は、ウーチバラ時刻で午前8時20分です。

 それでは本日のメインレポート! 

 あの、悲劇のヤキン・ドゥーエ戦終結から2年。平和を守り、戦乱から人々を救う船が、ついに出航の日を迎えました! 

 シライシ記者が現場からお送りします。シライシさーん》

 

 それに答えるように、男性レポーターの声が流れる。

 滑舌は悪くはないが、緊張気味ということがありありと窺える声だ。

 そして、男性というよりも明らかに少年に近い声。それも、まだ声変わりを迎えていないような。

 

《はいっ! こちらはウーチバラ宙港区画正面ゲート前。

 太陽の光が本日もコロニーウーチバラ内部を照らし、これから月軌道へと旅立つ私たちの「アマミキョ」を守るように、大気が温まっていく朝であります。

 天候予定表によりますと本日は快晴、絶好の出航びよっ……日和です》

 

「ナオトってば、また噛んだねー」

 

 聴きながら、マユがキャハハと笑う。

 緑髪の男はこれっぽっちも笑わず、吐き捨てた。

 

「また例のレポーターか……

 あの喋りでコーディネイターだってんだからな。こいつらといい、コーディネイターといっても最近はクズが多いのか?」

「でも、ナオトはまだ14歳だよー。それでニュースでレポートやってるんだから、すごいってば。

 それにナオトは……」

「黙れよ。お前は12でパイロットだろうが」

 

 男は不機嫌そうにマユの言葉をさえぎった。

 

《連合に加盟している東アジア共和国内にありながら、コーディネイターとナチュラルの融和を図ってきた国、チュウザン。

 現在、内乱と飢餓に苦しんでいるかの国に対して、2年前同様に壊滅の危機に晒された我が国・オーブが出来ることの象徴、それが緊急救援船・「アマミキョ」である

 ──カガリ・ユラ・アスハ代表の言葉です》

 

 かしこまった少年レポーターの声が、まだ響く。

 

《大戦終結から2年。

 しかし世界各国では未だ紛争の火種が絶えることはなく、東アジア共和国の中でもオーブと親交の深いチュウザンも現在、南北に勢力が分散され対立が深まっている状況です。

 オーブ政府は昨年9月27日──ヤキン・ドゥーエ戦終結記念日に、チュウザンへの緊急援助隊及び復興協力隊の派遣を決定し、チュウザンの新興企業「文具団」と協力しつつ、総員320名で構成された援助隊・シュリ隊を結成……》

 

《さらに、シュリ隊を乗せチュウザンそして世界各国の紛争地域へと赴く予定の輸送船の建造の模様が一般公開され、つい先日完成式典が行なわれたのはご承知の通りです。

 その船「アマミキョ」は現在、このコロニーウーチバラ宙港区画に停泊中であります。

 では、今から宙港内部を移動してみましょう》

 

 ラジオからひっきりなしに流れる声を無視し、紅い髪の少女はあくまで冷静に相手に尋ねる。

 

「最後に補給を受けたのはいつだ? そして何処だ?」

 

 勿論相手は答えない。 ただ、レポーターの少年の声が高らかに鳴り響くだけだ。

 

《現在、ウーチバラ宙港では港湾施設内部でアマミキョの調整が続けられております。

 全長245メートル、最大幅41.5メートルの巨大な船。オーブとチュウザンを結ぶ友好の架け橋となり、国際平和の礎となるであろうその姿はここからでは見えませんが……

 我々は昨夜、アマミキョに搭乗するNGO・シュリ隊の方々、そしておなじみ「文具団」社長・ムジカノーヴォ氏にお話を伺って参りましたっ! こちらの映像です》

 

「ナオト、色々難しいこと言ってるけどぉ……

 要はプロバカンダだよね。オーブの」

 

 マユが晴れやかに言い、彼女に「お兄ちゃん」と呼ばれた緑髪の男が答える。

 

「分かったような口をきくな、プロ「パガ」ンダだ。

 それより、始まるぞ」

 

 男の声と共に――

 兵士を前にした紅毛の少女の声が、皮肉めいた呟きに変わる。

 

 

「なるほどな。母上……これもテストのうちですか。

 娘の居場所に軍を送り込むとは、貴方らしい冗談だ」

 

 

 彼女はゆっくりと、銃口を兵士の額へとポイントする。

 その目に憐憫は、ひとかけらとして存在しない。

 激しい声だけが兵士の耳を、脳をつんざく。

 

「貴様らには息子はいるか? 娘は? 未来を約束した女は? 

 その女に産ませる子のことを考えたことがあるか?

 次の世代にこのような世界を押し付けること、恥ずべきこととは思わぬか!!」

「いるわけないよ、この人。

 だってブッサイクだもん、見てよ」

 

 マユが、自分の座している下の兵士を揺さぶって言う。

 残り少ない血がさらに流れる。

 緑髪の男が、被せるように呟いた。

 

「分かってるさマユ。

 やりたいんだよ、いつもの」

 

 マユと男は顔を見合わせ、そっと笑いあった。マユはひとつウインクする。

 

「そうだね。

 フレイは──祈りたいんだよね」

 

 

 今度こそ、逃れられようもない。

 死への恐怖による引き攣りが始まり、兵士の顔が歪んだ。

 股間からは血とは別の、温かいものが流れ出していた。

 紅毛の少女はあくまで静かに、怒りをこめつつ、歌うように言い放つ。

 

 

「貴様らは、神の存在を知っているか?

 再構築戦争より前の時代、人々はこのようなケースにおいては神に祈ったそうだ。神なるものが確固として存在した時代の話だが。

 

 しかし貴様らは知らぬだろう。

 神が失われ、争いと差別と保身にまみれた時代の人間には、祈りという行動の概念そのものが理解できないはずだ。

 願うこと、祈ることならあるかも知れぬ……

 しかしそれは誰への祈りだ? 説明できる者はいるまい。

 当然、神たるものの存在も、分からぬ。

 だが私は祈る、貴様らのために。

 次の世代の無惨さも見ることなく、楽に死にゆく貴様らのために」

 

 そして少女は呟き始める。

 死にゆく者の為の、呪詛とも祝詞ともつかない言葉を――

 

 

 

「──心正しき者の歩む道は

 心悪しき者のよこしまな利己と悪虐によって行く手を阻まれる

 愛と善意の名において暗黒の谷で弱き者を導く者は幸いなり

 なぜなら、彼こそは真に兄弟を守り、迷い子たちを救う者なり

 よって我は怒りに満ちた懲罰とおおいなる復讐をもって

 わが兄弟を毒し

 滅ぼそうとする汝に制裁を下す者なり」

 

 

 

 情け容赦ない乾いた銃声が、その場にこだました。

 今はすっかり失われてしまった、聖書の言葉と共に。

 

 

 

 

 

 

(※映画『パルプ・フィクション』(1994)より一部台詞引用)

 

 

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