【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 明かされる『SEED』

 

 

 シュリ隊の手で作られた、プレハブの仮設住宅。

 ユニウスセブン落下や相次ぐテロにより家を失った人々は、ここに移り住んでいた。もっとも全員を収容するにはほど遠く、シュリ隊は昼夜問わず仮設住宅の増設作業を続けている。

 

 その一角に、公園とおぼしき砂地があった。

 そこは、いつもはサイが子供たちに読み書きや球技を教えている青空教室だったが、今は日がとっぷりと暮れ、子供たちの姿はない。

 代わりに──

 三人の少年少女たちが切れ切れの街灯を頼りに、バスケに興じている。

 そのうち二人は、連合軍の少年兵服を着用していた。ただし、かなり着崩してではあったが。

 この地方の強烈な陽射しに慣れていない彼らにとっては、夜が一番の活動時間だった。しかも今、上官はいない。

 ゴールネットも何もない状態でのバスケだったが、彼らはサイの使った黒板をネット代わりに走り回っていた。

 虫だらけの白い灯の下でボールの取り合いをしているのは、スティング、アウル、それにマユ。

 だが、彼らがボールの奪い合いを始めて数分も経過した後──

 

「この、ドアホ! 

 いつになったらルール覚えるんだよ!」

 

 突然、アウルがボールを乱暴に地面に叩きつけた。

 走りこんできたスティングがアウルの肩を押さえる。

 

「ゲームにマジになるなよ、アウル」

「ゲームにもならねぇから腹立つ!」

 

 投げつけられたボールを両手で大事そうに抱えたままのマユは、きょとんとしてアウルとスティングを見比べる。

 

「ボール取って、黒板に当てればいいんでしょ? やっちゃうよー」

 

 先日の事件が嘘のようにマユはにこにこと笑い、一人で黒板に向き直る。

 そのマユからアウルが強引にボールを奪おうとして、揉める二人。

 

「ちがーう! ゲームにゃルールってもんが……」

「マユ、あれだけ言っただろう? ボールを持ったまんま走るなって」

 

 スティングが眉間を指で押さえながら、二人の間に割って入った。

 だがマユはその言葉が理解出来ないようで、即座に反論する。

 

「やだよスティング。

 ドリブルなんかしたら、すぐにボール取られちゃうじゃん」

「だ・か・らぁ! 

 そーゆールールなんだっつーの!」

 

 激怒したアウルが、マユに掴みかからんばかりに怒鳴りまくる。

 だが彼女も負けずに言い返した。

 

「モビルスーツで同じことしたら、()()()ちゃうよ?」

 

 スティングはその言葉に一瞬ぎょっとして、辺りを見回した。

 ステラの姿は──ない。当たり前だ、今はゆりかごの中のはずだものな。

 

「関係ねぇ! いいからもう、ボールよこせって!!」

「やーだよ♪ ほらほら、取れるものなら取ってみなー、ミジュクなアウルきゅん♪」

「な、この……っ!!」

 

 まさに子供同士の言い争いから、幼子同然に取っ組み合いを始めるアウルとマユ。

 頬を思い切りわしづかみにされながらも、アウルは懸命に彼女の頭を押さえつける。

 マユの手から離れたボールが、ころころと草むらへと寂しそうに転がった。

 

「戦場とバスケは別モノだってぇの……

 って、いて、痛てぇえ、離せってば!!」

 

 必死で抵抗しながらも、アウルは意外なまでに強いマユの腕力に、いつの間にか地面に倒されていた。

 ――スティングはその光景を眺めながら、少女の細い手足をじっと睨んでいる自分に気づく。

 別に色っぽいからではない。色気という点ではステラの方がまだマシだ――世間的にはどんぐりの背比べかも知れないが。

 いや、そんなことより。

 

 

 細さに比例しないあの腕力は、一体何だ? 

 ファントムペインたるアウルが、遊び半分とはいえ、あそこまで簡単に押し倒されるとは。

 

 

 マユに関して、気がかりなことはまだある。

 強引にスティングたちのゲームに割り込んできた時のマユの笑顔は実に朗らかだったが、今考えれば、目の焦点が合っていなかった気もする。

 ステラやアウルが暴れる時は決まって薬物を投与されるものだが、その薬物の量が若干多めだった時の顔とそっくりだ――あの笑顔は。

 その笑顔で、マユはスカートの中をスティングに丸見えにしながら、アウルと取っ組み合っていた。

 

「あははは、アウルの顔、おっかしー!」

「うるせぇ、思いっきり頬掴みやがっ……もう、ガチで痛いからやめろって!!」

「でも、こーして見るとアウルって、ナオトと同じくらいカワイイよ? その青い眼も滅茶苦茶キレイだし! これはホント!」

「ば、馬鹿にすんじゃねぇよ! てか、俺の髪引っ張りあげながら言うことじゃ

 ……って、おま、いくら何でも人の眼に直接指突っ込むのやめろ、馬鹿ー!!」

 

 

 

 

「二年前の記憶を失っていた流浪人──

 しかもナチュラルでありながら、短期間で実力を認められ大佐にまでのし上がったのは、ひとえにその能力の高さ故だろう」

 

 フレイの言葉の矛先は、ネオを執拗につけ狙っていた。彼女は手元のコップを取り、一旦氷水を唇へと流し込む。

 

「レーダーの効かぬこの宇宙時代、人の動きを感じる能力は貴重だ。それはSEED発現の前段階とも言われる、ヒトの大脳の進化の証でもある」

「記憶が? しかも、二年前って……」

 

 サイは思わずネオを凝視する。

 だが、グレーの仮面は指を軽く頭の横で回し、おどけてみせた。

 

「化物見る目で見てくれるなよ、そう珍しいことじゃない。お恥ずかしいことだが大戦で、脳が傷ついちまったらしくてね。

 この仮面も傷隠しさ、俺はこれでも見栄えを気にするもので」

「ふざけた仮面の由来などどうでも良い。今は貴公の力の話だ」

 

 フレイにはネオの軽さは全く通用しない。

 それを理解してか、ネオは改めてフレイに向き直り、衿を正した。

 

「キラ・ヤマトを苦しめた、ザフトのラウ・ル・クルーゼを知っているか?」

 

 フレイは手元の写真をネオに突きつけた。そこには白い仮面をつけた金髪の男性が写っている。

 

「彼は、貴公と同様の能力を持っていたことが確認されている」

 

 持っていた──過去形ということは、既に今はいない男性なのだろう。

 サイはネオの横から、その写真データを眺める。

 ザフトの白服が眩しいが、仮面で隠された表情からは何も読み取れない。

 ――この男が、キラを苦しめただと? 

 

 世界樹攻防戦、カルバーニ艦長、ヴェサリウス受領などの輝かしい戦績が並ぶその隅に、サイはヘリオポリス、そしてアークエンジェルの名を発見した。

 そういえば、アスランやディアッカを統率していた隊長の名は──

 

 そんなサイの思考を見透かしたかの如く、薄笑いを浮かべるフレイ。

 

「面白いだろう? お前たちの生活空間だったコロニーを丸ごと破壊し、アークエンジェルやキラを執拗に追い続けた男だ。

 そして、私を捕虜としていた男でもある」

 

 弾かれるように立ち上がってしまうサイ。

 

「フレイ! 

 君、ザフトでの記憶が……!?」

 

 落ち着いてなどいられない。

 この男はザフトでフレイと共にいた。彼女を捕らえ、そして──

 この男は、何をした? 

 俺たちの生活を奪い、キラを苦しめ、アークエンジェルごと俺たちを焼こうとした。

 俺たちは皆、完全に運命を狂わされた。

 ヘリオポリスの避難民、フレイの父親、トール、みんな……この男が消したというのか。

 メンデル付近で、フレイをたった一人でポッドに詰めて捨てたのもこの男か? 

 あの時、宙域で痛々しく交錯したキラとフレイの叫びを、俺はただ聞いていることしか出来なかった──

 

 そしてサイは気づく。

 キラが救出しようとしていた、ドミニオンからの脱出艇――

 あれを撃ったのも──つまり、フレイを撃ったのも──? 

 

 だが、サイの頭が煮えたぎる血で沸騰しかけた時にはもう、笑うフレイの唇が眼前にあった。

 

「無様なナチュラルの代表格たるお前に、いいことを教えてやる。

 大戦後の調査によれば、彼はナチュラルだったそうだ。

 嬉しいだろう? ナチュラルでもザフトの幹部になり、キラ・ヤマトと対等に戦いうるのだ。

 もっとも、能力があればの話だが」

「――!!」

 

 気がつくとサイはプリントアウトされた写真データを握り潰し、その手で彼女の肩に掴みかかろうとしていた。

 ネオは突然のサイの暴発に、慌てて彼の両肩を押さえつつ、フレイに向き直る。

 

「やれやれ、あの可愛い車椅子君のハッキング能力かい。

 俺は嬉しいよ、自分も知らぬ自分を発見できた。例の事件で俺が感じた嫌悪感も説明がつく。

 それほどの能力者、連合が放っておくはずがないな……

 ってオイ、いい加減落ち着け!」

 

 ネオに組み伏せられそうになりつつもサイは押さえきれず、フレイに叫びかかる。

 

 いるんだろ、元のフレイがその胸の中に。

 目覚めてくれ、今すぐ! 目覚めて、冗談よって言ってくれ。

 暴走フレイがこれだけキラについて語っているのに、何故君は目覚めない? やっとキラを思い出せたと言ってくれよ、畜生! 

 

 本当に聞きたいその問いを、サイは懸命に押し殺す。

 フレイが強化人間であることを、連合のネオの前で言ってしまうのはまずい。そんななけなしの冷静さで、サイは別の質問を投げかけていた。

 

「そんな重大な情報を、どうして君が知っている! 君たちは傭兵のはずだっ」

「アマミキョを護る為だ」

 

 フレイは相変わらずの調子で言い放った。

 彼が握りしめたクルーゼのデータをひっ叩くように取り上げると、彼女はもう一口氷水を飲む。

 サイを侮辱したばかりの唇が、冷たく濡れた。

 

「大佐の言う通り──

 今の世界で、因子保持者やそれに類する者たちが、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その一言に、サイの思考は水を流し込まれたように冷静さを取り戻す。

 答えは明白だ──利用され、潰される。ナオトなどは父親にすら材料として扱われ、傷つけられた。

 さらに流れるフレイの言葉。

 

「彼らは本来ならば、コーディネイターとナチュラルの垣根を超え、失われた神に代わる存在となりうる者たちだ。

 彼らがアークエンジェルに集い、先の大戦を終結させる力となった事実を見れば分かるように、二分された世界を結合させるには彼らの力は不可欠だ」

 

 サイを席につかせ、ネオは今度こそ笑みを完全に口元から消してフレイを凝視した。

 

「逆に言えば、敵に回ればこれほど恐ろしい奴らはいないということだな。

 ジンを初めて相手にした連合軍の如く、叩き潰されちまう。だから出来るだけ捕まえたい、と?」

 

 フレイはネオの問いに直接は答えず、書類を素早くめくり続けた。

 

「SEED同士は勿論、因子を持たない人間たちもSEEDに引き寄せられる傾向がある。

 だからこそ、カガリ姫やラクス・クラインは支持を集める」

「チュウザンの研究施設では、そこまで解明が進んでいるってぇわけか。

 連合がこの国の疑似中立政策を放置するわけだ。国の一つや二つ滅ぼしてでも手に入れたい情報だよ、お偉いさんにとっちゃ。主導しているのは文具団か?」

「そこはご想像に任せる、としか言えぬ。

 オーブのモルゲンレーテとて、モビルスーツ開発技術を連合に売っていた。連合のご機嫌を取らねば、この星で生きるのは難しい」

 

 さらにフレイは立ち上がると、テーブル上に散らばった書類を軽く手で叩いた。

 

「今のアマクサ組の任務は、この船を護ることだ。

 同時にSEED保持者を探し出し、因子を解明し、保護することはアマミキョのさらなる力となる。すなわち、この国を救うことにもなる」

 

 その為に、協力しろってのか。

 サイにとってその言葉は、到底納得のいくものではなかった。そんな訳の分からない因子の為に、ナオトや──

 もしかしたらキラまでも、まな板の上に乗せる気か、君は。

 

「保護? 監視じゃないのか、それは! 

 ナオトをティーダに乗せ続けて傷つけたのはその為か! 

 君こそが、因子保持者を陵辱しようとする愚か者じゃないかっ」

 

 唾が飛びそうな距離までフレイに詰め寄り、サイは叫ぶ。

 またもや両肩をネオに押さえつけられたが、フレイは冷静だった。

 しばらくサイの罵りを黙って聞いていた彼女だったが――

 やがて両腕を組んでサイを見据え、言った。

 

「これだけは言っておく。先日のナオト・シライシの件は事故だった。

 無能なら無能らしく、四の五の言わずにこれだけは信じろ。信じなければ船外投棄だ」

 

 

 

 




※この話で書かれているSEEDの性質には本作の独自設定が含まれます(SEED同士が惹かれ合う、他者を惹きつけるなど)
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