【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 アスハ代表、拉致られる

 

 

 

「大丈夫でしょうか? 彼らに追撃させるなど──」

「間違えるな広瀬少尉、追跡だ」

 

 アマミキョが関わる今度の作戦に、山神隊の中で真っ先に疑問を提示したのは広瀬少尉だ。

 

「しかも、自分らには残ってテロの掃討を続けよと? 

 この国に必要なのはアマミキョじゃなかったのか」

「その為のアマミキョ分離機構だろうが」

 

 伊能大佐が広瀬の言葉を制する。

 

「連合の俺たちが、オーブにそこまでする義理はないよ。

 既にアマクサ組には通達してある、今頃アーガイルやバスカークにも伝わっているだろう。

 どんなツラをするか、見ものだぞ」

 

 作戦を肯定し、なおかつ茶化すだけの余裕を見せているものの、伊能の口調は若干の不満が含められていた。

 タンバの作戦会議室で、山神隊はこの大事件、及びそれに伴う追跡作戦を知るに及んで、口々に驚きと不平を唱えている。

 正確には作戦ですらない。民間にほぼ全面委託してしまうのだから。

 はっきりした意見を言えず、口ごもる時澤軍曹。

 

()()の関係者がいて、なおかつある程度の武装を施した民間船であるアマミキョにやらせるのは、確かに道理は通ります。

 今ならそれほど距離は離れてもいないですし、アマミキョ相手であれば確かに、()()も無暗に攻撃することはないでしょう。しかし……」

 

 そんな彼に、風間曹長が噛みついた。

 

「あいつら自体、道理の通る連中じゃないんですよ時澤軍曹。

 この事件見ても分かるでしょう、正気じゃないわ」

「ナオト君なら絶賛するだろうなぁ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

 

 黙って腕を組んだまま隊員の議論を聞いていた山神艦長に、広瀬が勢いよく詰め寄った。

 

「艦長、せめて自分をアマミキョ護衛に。

 いくらフレイ嬢とはいえ、こいつらの相手は無理です!」

「逸るな広瀬。戦闘が目的ではない」

 

 山神は頭をかきつつ広瀬を抑えるが、老艦長自身もこの状況には戸惑っている。

 広瀬の怒りは山神隊全員の怒りだ。これほどの馬鹿をやらかす連中を誰が想像出来ようか。

 条約締結寸前に、全くどえらいことをやらかしてくれたものだ、この連中ときたら。

 広瀬は唇を尖らせ、なおも吠える。

 

「それに、道中だって何があるか分かりませんよ。

 奴らの行き先がユーラシア方面だとすれば、非常に危険です。ザフトの連中がうようよしていますし、アマミキョだって無事ではすまない!」

 

 その広瀬の肩を、伊能が強引に制した。「落ち着け。フレイ嬢は快諾したんだ」

 さらに反論しようとした広瀬の後ろから、風間も加勢する。

 

「しかし伊能大佐、ファントムペインも残り数日でこの地を去ります。

 自分たちだけでチュウザンの拠点を守るのはやはり無理があります、アフロディーテにティーダ、カラミティが一斉に戦力外となると……」

 

 だが伊能は余裕を崩さなかった。

 

「同時に残りの部隊も来る。ここが重要拠点という事実ぐらい、上層部だって知っているよ」

「大佐。真田のようなひよっ子が来ても、犠牲が増えるだけです」

 

 風間が冷たく言い放つと、途端に時澤が噛みついた。

 

「風間曹長、言い方を慎んでください。真田は立派に戦いました!」

「安全装置の確認ミスによる死亡……正直、練度以前の問題だったのは否めないでしょう」

「それでも! 

 彼がいなければ、自分は死んでいた!!」

 

 喧々囂々の議論が沸騰し喧嘩になりかけた隊員らを制したのは、山神艦長だった。

 

「ぐずぐず言っている余裕はない、この間にも連中は動いている。

 事件から分かる通り、野放しにしておけば何をしでかすか、予想もつかん。

 ウィンダム隊アマミキョ配備の件は、上層部に請け合ってみる」

 

 

 

 

 

 

 ナオトは茫然としたまま、自分の両手を見つめていた。血のついた包丁を握り締めたままの手を。

 もうもうとたちこめる蒸気の中で、サイがフレイをかばって倒れている。

 そのワイシャツの右肩のあたりから、じわりと血が滲み出していた。

 

 その血を見て、ナオトは包丁を落としてしまう。

 刃先はカエルの血糊で相当ボロボロになっていたが、そこに新たな血がついていた。

 ほんの2、3滴ではあるが、その血は確かに人間の血だった。しかも、守ると宣言したはずの相手の――

 

 ナオトは自分のやろうとしていた行為に、ようやく気づいた。

 幸いナオトの刃はサイの右肩をわずかに掠めるに留まったものの、そこら中に飛び散ったカエルの血より何より、サイの血はナオトにとって衝撃だった。

 口から漏れていた呻きはいつしか意味をなさない絶叫に変わり、ナオトは力なく座り込んで青空を見上げる。

 

 いつものように笑顔ではしゃいで封印しようとしていた痛みが、フレイの言葉で一気に蘇った。

 それを否定する為、自分は刃を振るった。

 その刃はこともあろうに、サイを傷つけた。下手をすれば殺していた。

 自分はサイに、一緒にフレイを取り戻そうと約束したのに。

 

 胸のお守りを握りしめ、ナオトは傾きかける太陽を見つめる。

 誰かが大声で泣き叫んでいる。それが自分の声だということに気づくまで、ナオトは1分近くかかった。

 いつから自分は泣いていたんだろう。

 父さんがマユに殺された時から? 父さんが狂ったと知った時から? 父さんに傷つけられた時から? 母さんが自分から去ってしまった時から? 

 いや、もっと前からだ。

 自分は、生まれてはいけなかったと知った時から──

 

 

 

 

 サイたちの前でひたすら号泣を続けるナオトを、マユはカイキに抱きしめられながらも大きな瞳で凝視していた。

 とうさん、とうさん、父さん……

 ナオトは確かに空に向かって叫んで、泣いていた。

 

 その光景が、マユには不思議でならない。

 ナオトは喜ぶんじゃなかったの? 

 私がスカートを脱いだら、ナオトは喜ぶんじゃなかったの、スティング? 

 それともやっぱり、恥ずかしがった方が、ナオトは嬉しかったのかな。

 

 ただ、彼女はおぼろげながら理解した。「父さん」という言葉が、ナオトにとって、とても大切なものだということを。

 カイキのコートを掴みながら、マユは呟く。

 

「お兄ちゃん。私、ナオトの父さんを殺したんだね。

 だからナオトは、喜んでくれなかったんだ」

 

 

 

 

「大丈夫だ……ナオト。

 俺は、死んでないよ」

 

 痛みを押さえてナオトの両肩に手を置きながら、サイは笑顔を作った。

 

「泣いてくれて、助かった。

 泣いてくれなきゃ、どうしようかと思ってた」

 

 サイの言葉の意味をナオトは今ひとつ理解することが出来ないようだったが、それでもナオトを落ち着かせることが出来た。

 少年は泣きじゃくりながら、消え入るような声でやっと一つ、まともな言葉を搾り出す。

 

「……ごめんなさい」

 

 彼らの周りに、カズイやオサキ、ヒスイが集まってくる。

 

「サイ、傷は?」「心配しなくても、舐めてりゃ治るよこんなの。

 それよりカズイ、ナオトをスズミさんの所へ頼む」

 

 背後では、フレイが悠々と立ち上がっていた。

 先程思い切り抱きしめたサイの痕跡を振り払おうとでもするように、制服についた砂を振り払っている。

 

 ――はずみとはいえ、俺はあの豊満な胸にもう一度顔を埋めてしまった。

 力いっぱい抱きしめた瞬間に軽く身体を貫いた快感を、サイは否定出来なかった。

 ナオトの刃は、そんな俺への罰でもあるのだろう。

 

 サイは静かに言い放つ。

 

「わざとだろ、フレイ。

 爆発することを予想して、君はナオトにあんな……」

「答える必要はない」

 

 フレイの返答はあくまで冷たい。だがサイは、喰らいつかずにいられない。

 

「君は軽くよけられたはずだ、冷静さを失ったナオトの刃なんて――

 だけど、そうはしなかった。

 ナオトに敢えて自分を傷つけさせることで、君は彼を目覚めさせようとでもしたのか?」

 

 それはSEEDの為なのか──

 さらに問いただそうとしたが、フレイは遮った。

 

「二度も言わせるな、返答の必要はない。

 それより大分時間を食った、手短に伝えさせてもらうぞ……

 我々は明日より、キラ・ヤマト及びアークエンジェルを追う。

 ついてこい、サイ・アーガイル」

 

 そして告げられた事実はサイにとって、台無しになったカエルスープなんぞ世界の果てに放り投げてしまえるほどの──大変事だった。

 

 

 

 

 

 

「なぁフレイ、冗談なら意味の伝わるように言ってくれ。笑えない」

「このようなくだらぬジョークを考えるほど、私は暇ではない。

 しかし、面白い奴らであることは間違いない」

 

 どこが面白いものか。

 アマミキョブリッジへの通路を足早に渡りながら、サイはなおも食い下がる。

 フレイの足取りは速く、彼は必死で大股で歩かねば追いつけない。

 

 カイキはマユを連れてハラジョウへ退き、フレイとサイは久々に二人きりになっていた。

 だが、幾分か興奮し笑みさえたたえている彼女には、元のフレイが現れる兆しは全くない。

 

 

 ――ユウナ・ロマ・セイランとの結婚式の最中に、カガリ・ユラ・アスハ代表が誘拐された。

 しかもテレビ中継もされている中で、堂々と誘拐されたという。

 彼女をさらった犯人は、あの英雄・フリーダム。つまり

 ──キラ・ヤマト。

 

 

 アークエンジェル及び関係者もまたオーブから忽然と姿を消しており、彼らがアスハ代表誘拐の首謀者であることは間違えようのない事実だという。

 

「声明は? 

 キラから、もしくは潜伏中のラクス・クラインから声明は出ていないのか?」

「そんなものが出ていれば、わざわざお前を呼ぶ必要などなくなる。

 奴らの目的を確かめる為に、お前には奴らと接触してもらう。拒否は許さん」

 

 サイは思わず壁をぶん殴る。

 キラ──お前はいつも、いきなりが好きな奴だった。

 ストライクを動かした時も、俺たちを助けた時も、俺からフレイを……いや、そんなことはどうでもいい。

 

 いきなりフリーダムで出現され、オーブ国民が見守る中で花嫁をさらわれたユウナの心境はいかばかりか。

 ユウナ・ロマ・セイランという男はサイもあまり好きではなかったが、さすがにこの件には同情を禁じえない。

 せめて、アスハ代表をさらった理由を言ってくれれば。

 国民の多くが快く思わない結婚とはいえ、これはやりすぎだろう、キラ。

 セイラン家に恥をかかせる為か、カガリを傀儡にむざむざ仕立て上げられるのが面白くなかったのか──

 

 目的は様々に考えられたが、いずれにしてもオーブは一大事だ。

 これを契機にセイラン家はさらに増長し、連合がオーブへの発言権を強化する可能性も強い。

 そもそも何故またフリーダムに乗ったんだ、キラは。ラクスさんやラミアス艦長、砂漠の虎ことバルトフェルドは──

 平和になるまで、傷が癒えるまで、あの人たちと静かに過ごす。それがお前の願いだったんじゃないのか! 

 だいたい、アレックス・ディノは──アスラン・ザラは何をしていたんだ、こんな時に。

 アスハ代表の護衛じゃなかったのか。

 

「現在アークエンジェルはオーブ領海を脱出し、スカンジナビア領へ向かっていると推測される。

 アマミキョにとっても由々しき事態だ、お飾りとはいえ最大のスポンサーが誘拐されてはな」

 

 言葉とは裏腹に、フレイはどこか楽しげでもあった。

 一旦足を止めてサイを振り返ると、彼女は尊大に胸を張ってみせる。

 

「どうした、そのような顔をして。

 私は嬉しいのだ──フレイ・アルスターの記憶が、SEEDを背負ってわざわざ戦いに出てきたのだからな!」

 

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 アークエンジェルを追うべく飛び立ったアマミキョ。

 その眼前に立ちはだかるミネルバ。天空に溢れるティーダの光。

 その中でサイが聞いたものは、かつての敵であり、かつての戦友の声。

 しかし、確固たる意思を持たぬ言葉は、誰の心にも響かない。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「破られた黙示録」

 禁忌の光、打ち破れ! インパルス! 

 

 

 

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