【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 追跡作戦と呆気ない別離

 

 

 さらに半日後には、アマミキョ周辺の動きは一気にせわしくなった。

 ネオ・ロアノークらファントムペインを乗せた連合艦J・Pジョーンズが、一足先にチュウザンを発ったのである。

 ザフトがインド洋前線基地に向けてカーペンタリアを発ったとの情報を受けての、急遽の出航だった。カーペンタリアから目と鼻の先にあるインドネシアに、連合はカーペンタリア攻略の為に基地を設営していたが、ザフトの侵攻により危険な状態になっているという。

 ファントムペインの代替として、チュウザンには多くの連合軍駐留部隊が次々に到着していた。山神隊の指導とシュリ隊の協力により、基地の設営も進んでいる。住民の中には進んで基地設営の協力を申し出る者もいた。ディープフォビドゥンやユークリッドを始めとした様々な新型の威容に、チュウザンの子供たちは純粋に喜んでいた。

 

「本来、シュリ隊や地元住民に基地設営の協力など、させるべきではないのですがな」

 

 揚陸艦タンバの甲板からヤエセの海を眺めつつ、山神艦長は傍らのフレイに慇懃に礼を言った。

 

「ご協力感謝いたします、アルスター隊長」

「誰しも無差別テロはご免被りたいのです。尤も、住民が協力してくれる一番の理由は、賃金でしょうが」

 

 そばにカイキとトニー隊長を従わせ、フレイはそっと陽射しをよけるように前髪に手を触れた。

 

「それにしても連合軍人らしからぬ物言いですね、山神艦長。

 ブルーコスモスの強硬派が幅をきかせるこのご時世、色々とご苦労も多いのでは?」

 

 彼女らしからぬ気遣いに、山神は思わずその白い頭を掻いた。

 

「いやはや、よく言われます。

 何しろ我々山神隊は、腕は確かですがアクの強すぎる連中が多いもので、少々偏屈な老体でなければ勤まらん。未だに姓名に旧日本の文字を使いたがる者どもと、笑われておりますよ」

 

 傍らに直立している伊能大佐と広瀬少尉は、特にその言葉に気を悪くした様子はない。彼ら自身も自らの性格を熟知しているのだ。

 ただ伊能は一言ぐらい反撃せずにはいられぬらしく、つい口を挟んでくる。

 

「貴女も、かのナタル・バジルールの如き物言いをなさいますな、アルスター隊長。

 随分前に貴女を映像で拝見した際は失礼ながら、戦場に出るべき女性ではないと思っていたものですが」

「ナタル・バジルール──彼女に例えられるとは、光栄です」

 

 フレイはそっと眼を伏せる。

 

「記録によれば、私は彼女と共にアークエンジェルやドミニオンに搭乗していたそうで……ご存知の通り、その記憶は私の中から失われておりますが」

 

 そう言いながら彼女は眩しげに、光溢れる空を見上げた。

 

「彼女は、かつてのアークエンジェルの良心とも言える存在だったと聞きます。同型艦ドミニオンで若き命を散らせた件は、実に悔やまれる。

 彼女が存命ならば、アークエンジェルも今回のような行動は起こさなかっただろうに」

「全くです。

 バジルール大佐の遺志を無駄にせぬ為にも、かの船は捕らえねばなりません」

 

 山神の目には、柔和ながらも強い光が宿っていた。

 だが今度は、広瀬が口を挟んでくる。

 

「しかし、目的も行き先も不明な奴らの追跡など、砂漠でダイヤモンドを探すようなものですよ。

 いっそここに来てくれりゃ、時澤たちも行かずにすむものを」

「広瀬少尉、それはない。俺たちがいる限りな」

 

 伊能は笑って手元のタブレットを広げる。「消息は分からんが、奴らの行き先は限られている。いくらアークエンジェルでも、補給なしで飛べはせんよ」

 

 そのディスプレイにはインド洋からユーラシアに至るまでの海図が表示されており、インドやスリランカなどの国々が黄色で塗られている。オーブが条約を締結するまでは中立だった国々だ。

 それを確認しながら、フレイも言う。

 

「スカンジナビア王国はアスハ家と親交が深い。セイラン家の支配に、スカンジナビアは今ひとつ良い顔をしていなかった。

 おそらく彼らは、その保護下に入ると思われます」

「馬鹿な! オーブからは地球の真裏だ」

 

 思わず広瀬が叫んだが、伊能は手でそれを制す。

 フレイはさらに続けた。

 

「確かに、いかに彼らといえども、まともにスカンジナビアに向かうとは思えません。

 だがその道中は、アスハ寄りの国々も数多い――そこに表示されている国がそうです。

 これらの国々は、オーブが条約に加盟した今でこそ連合側ということになりますが……

 内部の親アスハ派の連中には当然、オーブ本国に通報せず彼らを匿う者もいるでしょう。恐らくその者たちを頼りに、彼らはインド洋経由でスカンジナビアへ抜けていく」

「おめおめと奴らを受け入れる港がどこにある。連合が黙っちゃいないぞ」

 

 広瀬はなおもフレイに詰め寄ったが、彼女は冷静だった。

 

「アスハ派とはそういう連中です。

 カガリ姫は未だに普通に姫と呼ばれるほど未熟ではあるが、その父ウズミの影響は計り知れない……

 しかしおかげで、彼らの位置は絞り込める」

 

 広瀬はフレイの言葉で、何とか怒りを抑えこんだ。それでも困難な作業には違いない、と如実にその厚い唇は語っていたが。

 そんな広瀬に、伊能はタブレットを押しつけた。

 

「調べてみろ、ザフトの動きはどうなってる? 

 今、最も警戒すべきはザフトだ」

 

 広瀬は素早く画面を指で叩き、2秒で別画面を呼び出した。

 

「今朝の緊急連絡以降、情報は入っておりません。

 ファントムペインも向かったことですし、突破される危険性は少ないと自分は考えますが……」

「だから貴様は甘いというのだ、広瀬」伊能がすかさず突っ込む。「例のミネルバ隊やらに来られてみろ、いかに亀仮面殿でも無事ではすまんさ。

 アマミキョのミントンでの戦闘記録、見ていないとは言わさんぞ。まだ挙動はひよっ子のそれだったが、あのモビルスーツは……」

 

 そんな彼の言葉に、広瀬はやや骨ばった頬を膨らませてみせた。

 

「伊能大佐、言動にはご注意願います。今の発言は……」

「上層部への不信か? 俺は直感の男だからな」

 

 あくまで飄々と答える伊能。

 呑気と取られても仕方がないその態度に、広瀬はさらに苛立ちを露わにする。

 

「ザフトがインド洋を突破するなど、ありえない。万一そんな事態が発生すれば、チュウザンも無事ではすまない。

 それを想定しているなら伊能大佐、即刻対応を検討すべきです。他人事じゃないんですよ」

「その心配はない、広瀬少尉」

 

 広瀬と伊能の言い合いには慣れているらしい山神艦長が、ようやく割って入った。

 

「この島に攻め入るには、奴らには今のところ、南のカーペンタリアからの道しか残されていない。インド洋を突破したとて同じこと。その道程には当然、あの南チュウザンが構えている」

「タロミ・チャチャですか。未だに態度保留の頑固爺が……

 ザフトを牽制してくれたおかげで北チュウザンも比較的安全になってくれたのはいいが、何を考えているやら」

 

 伊能が茶化すように言うと、フレイがその言葉を継いだ。

 

「彼の方法は狡猾で利口です。

 アスハ家のように単に中立を声高に叫ぶだけでなく、連合とザフト双方の弱みを握っている。だからザフトも、迂闊にチュウザンを攻められなくなった。

 コロニー・ウーチバラを北チュウザンが守りきった今、大気圏外でも侮れぬ勢力と言えるでしょう」

 

 フレイは彼方の海へ視線をやる。

 既に出航したJ・Pジョーンズの姿は、水平線の向こうに消えていた。

 

「このチュウザン、守る為にも──必要なのだ、種は」

 

 

 

 

 

 

 J・Pジョーンズのブリッジでは、フレイと全く同様の冷ややかな視線で、ネオがチュウザン海域の青空を見つめていた。

 

 ――おそらく同じように、向こうも俺の痕跡を睨んでいるだろう。

 

 緊急の召集だった為に、アマミキョで相変わらず戯れるスティングたちを呼び寄せるのはかなり骨の折れる作業だった。スティングにアウルはまたしても医療ブロックの看護師たちにちょっかいをかけてスズミ女医の激昂まで買い、ステラはステラでマユにスカートをめくられ、洒落にならない大騒動になる寸前だった。

 

 しかし、本来はあのままにさせておいた方が良かったのだ。

 アマミキョでマユやサイたちシュリ隊に出会い、ファントムペインの子供たちは一瞬だけでも、本来の子供らしさを取り戻していた気がする。

 コロニー・ウーチバラでは、撃ち合ったはずの相手なのに。

 記憶を消去していたとはいえ、スティングやアウルがあそこまで彼らとじゃれあうとは思わなかった。ステラの身体に刻まれていた恐怖も、幾分かおさまったようだ。

 ネオはその仮面の下で、静かに誓っていた──

 

 世間の騒動が少し治まったら、俺はまたあいつらを連れ、この国に来る。

 スティングたちの為に。そして、俺の記憶の真実を取り戻す為に。

 

「待っていろ、フレイ・アルスター

 ──メンデルの皇女」

 

 ネオがつけたフレイの通称が、自然に唇からこぼれる。その通称の意味を、彼自身は未だ把握していない。

 この言葉の意味が分かるのは、俺の記憶が完全に戻る時だ。

 

 

 だが哀しいかなこの時、神ならぬネオ・ロアノークは何も知らなかった──

 これから彼自身や、子供たちを待ち受ける運命を。

 インド洋で間もなく自分たちの部隊が、ウィンダム30機と共に撃破されることは勿論――

 スティングもアウルも、そしてステラももう二度と、チュウザンの草原を走ることはないという未来を。

 

 

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