【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 不穏に満ちた出発

 

 

 アマミキョの分離作業は、順調に進んでいた。

 チュウザンに必要な人員と作業区域はこの地へ残し、アマミキョはブリッジやカタパルトのコアブロックを主として、アークエンジェルの追跡及びアスハ代表保護の任務を遂行することになる。

 

 だがこの船はその後、さらにユーラシア方面の救援へも向かうことになっていた。

 ユーラシアへの救援隊派遣は、元々アマミキョのスケジュールにも入っている。ユニウスセブン落下の影響が大きな痕跡を残し、さらに今後最前線となることが容易に予測される地域だ。必然的に、アマミキョが救うべき人々は激増する。

 しかし傷の深さは、チュウザンも一緒だ。いくら連合の大部隊が到着し内乱が減少傾向にあるとはいえ、ザフトの勢いも脅威には違いなかった。

 いかに南チュウザンがザフトを牽制したとはいえど、それだけでこの島を守ることが出来るのか──

 

 

 

 作業がひと段落した深夜の調理場で、マニュアルを読みふけりつつ、一人で鍋をかき回しながら、サイはその頭の中で思考を巡らせていた。

 

 南チュウザン。隣国でありながら、未だに正体の掴めぬ国だ。

 かの国を率いる、ヤミー・オーガ党党首──タロミ・チャチャ。

 彼がザフトを牽制し、北チュウザンへの侵攻を食い止めたという話も、サイは俄かには信じられなかった。未だに旧時代の宗教色の濃いあの国は、同じ国名を冠していながら北チュウザンの住民たちにとっても不可思議な存在らしい。

 

 だがフレイは、タロミ・チャチャの態度を毛ほども疑っていなかった。

 客観的に見れば、いつ手のひらを返されてもおかしくないというのに――北チュウザン内のテロの半数ほどは、オーガ党の過激派が引き起こしたものだという確たる証拠もあるのに。

 一体、隣国に何があるというのだ。フレイがタロミを信用し、あれほど固執していたこの土地から、アマミキョを引き離す理由は何なのか。

 

 腕に巻き直された包帯にそっと手を触れ、サイは考える。

 

「姫」──

 ナオトの父親は、確かにフレイにそう言い放った。

 

 フレイ自身の告白によれば、彼女はヤキンで奇跡的に救出された後、チュウザンの研究所で強化され、アマミキョを守る傭兵となった。連合の外務大臣の箱入り娘だったはずが、二年後には強化された二重人格の女兵士になってしまった──はずだった。

 

 だが、フレイが語った「SEED」が、その話を混乱させる。

 彼女自身から渡された資料が正しければ、SEEDは強化されて植えつけられる代物ではありえない。

 俺に無邪気に香水をねだっていたあの頃から、フレイはSEED持ちだったというのか。

 そいつは、彼女の守るべきチュウザンを離れてまで欲しいものなのか。埋もれたキラの記憶がフレイをそうさせるのか、フレイ自身のSEEDがSEEDを欲するのか、サイには判断出来ない。

 

 それにしても──

 畜生。夜の仕事をしているとか強化されたとか告白された時に、もっともっと突っ込んでおくんだった。

 サイは今更のように、フレイと再会した時の会話を思い出す。

 

 何故俺は、元婚約者がいかがわしい仕事をしていると知っても、無視を決め込んだ? 

 再会を果たしたあの時、フレイが言ったところの、「命の味を思い出させる」「夜の」仕事。

 今ならそれがアマクサ組での活動のことだろうと分かるが、あの時何故、俺はちゃんと聞かなかったのか。

 

 フレイの心に触れるのが怖かったのか。俺にもっと聞いて欲しかったんじゃないのか、あの時のフレイは。

 だからミントン出航直後に、フレイはあのシャワー室でわざわざ危険を冒し、俺に自分の正体を晒した。あまりの現実に、俺は聞かされるがままだった──

 身体を無理矢理いじられたと彼女自身から告げられたにも関わらず、俺は受け流していた。

 状況が状況だったから──って、そんなことが理由になるか。

 

 ゆえに、三度目に元のフレイが現れた時俺に告げた言葉は、「貴方のことなんか、思い出さなかった」だったのだろう。

 彼女に対して何もしようとしなかった俺には、相応しい侮蔑だ。

 

 SEED、姫、タロミ。それらの不可解な単語と共に、激しい後悔が心臓を貫く。

 元のフレイが俺の前にもう一度現れることなど、あるのだろうか。

 そもそも──

 

 

 サイはその先の思考を、強引に断ち切る。

 彼の頭ではかなり前からフレイに関して、一つの仮説が渦を巻いていた。

 それはサイ自身、絶対に認めたくはない禁忌とも言える説だ。禁断の領域に思考が及ぶたびに、彼はそれを追い払っていた。

 だが()()()()()()()、彼女の殆どの行動は見事なほどにつじつまが合う。ただ一点を除いては。

 その一点をもって、サイは心臓を引きちぎる勢いで自分の仮説を否定していた。

 

 

 ──そうだよ。そんなこと、あるわけがない。

 だって、フレイはずっと……

 

 

「オイ。プラントじゃ絶対にお目にかかれん料理が出来てやがるぜ」

 

 迷走するサイの思考が、不意に肩を強くどつかれて中断された。

 久々に聞くだみ声。慌てて振り向くと、ハマー・チュウセイが腕を組んでいた。

 サイは一瞬彼の背後を警戒したが、どうやらハマーは一人で調理場に来たようだ。ガーネット色の小瓶を手にしてはいるが、酒の匂いはしない。

 少し胸を撫で下ろし、ハマーに笑顔を向けてみせる。

 

「良かったです、ハマーさんも調子が戻って。

 貴方がいないと、整備班も気合が入らないようですし」

「当然だ。フレイ嬢のお許しも出たことだし、はりきってアークエンジェル討伐に向かわせてもらうぜ」

 

 この人まで行くのか。

 サイは一瞬ぎょっとしたが、よく見るとハマーの様子は今までになく冷静に見える。

 ハマーは下から舐めるようにサイを睨みつけ、ぶ厚い唇をすぼめると、不器用に彼の鼻先に小瓶を突きつけた。

 

「入れてみろ。少しはマシな料理になる」

 

 いくら何でも、この人物から渡されたブツをホイホイと料理に入れるほど、サイはお人よしではない。注意深く栓を開け、匂いをかいでみる──

 全てのくだらぬ思考を吹飛ばす刺激臭が、サイの鼻孔を突いた。

 

「って、工業用アルコールじゃないですか、これぇ!」

「グッハハハ! てめぇのポリバケツスープよかマシだろ?」

 

 爆笑され、サイはかき回していた鍋を改めて振り返り──素晴らしい悲鳴を上げてしまった。

 配給用の固形ポタージュに手を加えたつもりが、目の前では何故か、明るい青色の液体が沸騰していたのだ。ハマーの言うとおり、まさにポリバケツブルーである。

 大方、パッケージを縛っていたテープでも一緒に巻き込んだのだろう。横に置いたマニュアルと自分の思考に耽溺しすぎた。

 慌てて火を消すサイの背に、ハマーの笑いがさらに飛んだ。

 

「同時に二つ以上のことを考えられねぇとは、さすがナチュラルだな。

 まさか、約束まで忘れちゃいねぇだろうが」

 

 熱しすぎた鍋の中身を水で少しずつ流して処理しつつ、サイは首だけはきちんとハマーに向けて答えた。

 

「忘れるわけありませんよ。

 ……ロゼさんの種でしょう」

 

 ハマーはひゅうと皮肉っぽく口笛を吹く。よく覚えていたな、とその唇が語っていた。

 サイは手早く鍋を洗いながら言う。

 

「必ず、約束は守ります。

 だからそれまで、無茶はしないで下さいね」

「俺も男だ。ロゼの種を植えられるまで、貴様に手は出さねぇよ」

 

 ポケットに手を突っ込み人を睨みつけ、今にもツバを吐きそうなどす黒い面構えは変わらないものの――

 ハマーの内面は、驚くほど変貌していた。

 あの雨の日に殴られ割れた左腕は今でも痛むが、そのサイの腕を見据える眼には幾分か悔悟の色が混じっている。

 だが彼が答える前に、ハマーは背を向けてしまった。

 薄汚れた作業着の背中が、ふと呟く。

 

「それから……きちんとあの子鼠を守れ。

 あんな状態でティーダに乗せてみろ、被害を食らうのはこっちだ。

 ガキを守るのは大人の役目だぞ」

 

 サイはその言葉で確信した。

 やはりあの工場で、ハマーはナオトの中に、娘のロゼを見ていた――

 ティーダの力がハマーのトラウマを呼び起こし、医療ブロックの隅で彼は朽ち果ててしまうかと思っていたが

 ──今の表情を見る限り、その心配は無用だったらしい。

 きっとハマー自身が持つ本来の強さが、そうさせたのだろう。

 

 しかしそんな風に思考しつつも、サイ自身は気づいていなかった――

 あの地獄のような地下で、彼と交わした約束がなければ、その強さは決して呼び起こされなかったことを。

 

 

 

 

 翌日午前。

 分離作業の完了したアマミキョコアブロックは、チュウザンを発った。

 サイやナオトを始め、アマクサ組、アムルやオサキのブリッジ組、さらには整備班にはハマー、医療ブロックには勿論ネネとスズミが待機している。

 その上、山神隊の風間曹長に時澤軍曹も、ウィンダムとディープフォビドゥンと共に乗り込んでいた。

 食糧班にはヒスイもいる。しかもトニー隊長の補佐役だ。

 ルーチンワークとはいえ、耐久力のいる緻密な仕事がアマクサ組に評価されての大抜擢だったのだが、何よりヒスイ自身が自らを変えたいという意思が大きかったのだろう。

 サイやオサキたちとの出会いは、確かに彼女の転機となりつつあった。が――

 

 知った顔が大勢乗り込んできたことは頼もしいが、彼らと行くのは戦場の最前線であってサッカー場ではない。それを思うと、サイは素直に喜ぶことが出来なかった。

 

 しかしサイが最も驚いたのは、何とカズイまでが乗り込んできたことだ。

 好きな異性や友人がいるというだけで一緒に戦場へついていく行為がどれだけ危険か、サイは身をもって知っている。二年前にあれだけ反省したはずなのに、カズイはまた同じ過ちを犯すつもりだろうか。

 フレイも、カズイの同行に関しては何も言わなかった。やる気があるならついてこいということだろう。問題はカズイがアークエンジェルではなく、明らかにアムル・ホウナが目的で乗り込んできたことだ。

 自分と一緒にアマミキョに乗ってきた時は、確たる意志があったはずなのに──

 アムルに船内の状況を嬉々として報告しているカズイを見ながら、サイは歯噛みをせずにはいられない。

 

 カタパルトではナオトが俄然やる気を見せ、自らティーダの調整を行なっている。

 キラ・ヤマトやアークエンジェルに会えるという気持ちがそうさせるのか、彼は行く手の危険も知らず、マユと共に「黙示録」のテストまで行なっていた。意気揚々と。

 

 

 

 そして――

 インド洋の連合軍基地がザフトに撃破されたという緊急連絡が入ったのは、彼らが出発して20時間後のことだった。

 

 

 

 

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