【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 アスランの焦燥

 

 その連合基地を突破したザフト艦──ミネルバには今、ヨダカ・ヤナセの部隊が合流していた。

 先日チュウザンの地でまたもやアマミキョに煮え湯を飲まされたヨダカは、その怒りと執念の爪をさらに研ぎ澄まし、ミネルバに乗り込んできた。他でもない、今度こそティーダとアマミキョを捕らえデュランダルへの贄にすべく、彼らと交戦経験のあるミネルバ隊を利用しようというのである。

 ジオグーンで痛い目を見、部下を失い、自らもその頬に火傷を負ったヨダカ。彼は今度は、5機のグゥルとゾノ部隊を引き連れていた。

 

「既にアマミキョのチュウザン出発は確認した。あの島国では無理でも、海の上に出たとあらばいくらでも攻められる。

 何としてでも、奴らのモビルスーツと船内の不穏分子を捕獲せよ──

 これはデュランダル議長、直々の指令である! 

 諸君の知る通り、例のモビルスーツは神経を削り取る、禁忌の兵器だ!」

 

 ブリーフィングルームで声を轟かせ、黒い豪腕を振り上げるヨダカ。その襟元には燦然と『FAITH』の印が輝いている。

 ヨダカはクルーを見回し、さらに声を張った。艦長のタリア・グラディス、背後には副長のアーサー、そしてミントンで作戦行動を共にしたレイ、ルナマリア、そしてシン・アスカの姿も見える。

 その全員が、不審げな顔でヨダカを見ていた――

 当然だ、三度もあの白ブリッツと血のストライクに苦汁をなめさせられた自分が、こともあろうにFAITHだなどと、ひよっ子どもには理解しがたいに違いない。

 そんな彼らの感情を分かりつつ、ヨダカは敢えてFAITHの証を掲げてみせた。

 

「プラント国防委員会の直属下となるこの証の意味、諸君らには分かるであろう! 

 それだけこの捕獲作戦が、プラントの命運をかけた重大な任務であるということだ。

 例のモビルスーツ、連合の手に渡してはならぬ!」

 

 やや興奮気味にまくしたて大仰に腕を差し上げるヨダカに、まずタリアが冷静に問いかけた。

 

「お言葉ですがヤナセ隊長。この作戦はミントンの時と同様、文具団の船を襲撃すると同義です。

 かの船がテロリストの集団ではないことは、貴方もご存知でしょう」

「あの時とは状況が全く違う。成金社長の件なぞ放っておきたまえ、グラディス艦長。

 奴らは既にプラントの敵ぞ」

 

 ヨダカは今度は激昂を敢えて封じ、逆に極めて冷静な口調を装いタリアを睨みつける。

 だがそこに、アーサーが割って入った。

 

「し、しかし……民間の救援隊には違いありません。

 モビルスーツを積んでいるとはいえ、昨今の東アジア情勢を鑑みるに致し方ないことと思われます。今時、傭兵の一部隊もない救援隊など──」

「だから攻撃するなと? そんなことでよくインド洋を突破できたな、トライン副長。

 奴らはただの傭兵部隊やジャンク屋どもとは違う。ミントンで痛い目に遭っておいて、まだ分からぬか!」

 

 その時。

 控えていた赤服の若者から、ひときわ鋭い言葉が飛んだ。

 

「そりゃ感傷的にもなるよな。

 よりによって、オーブの偽善船に手こずるなんて」

 

 シン・アスカだ。黒髪に紅の瞳を持つ、若きインパルスのパイロット。

 その横で彼の言葉に驚き、慌てて肘で彼をつついているのはルナマリア・ホーク。

 

「シン! 貴方はまた上官に……」

「関係ないだろ、事実だ」

 

 そんな二人の後ろから、聞きなれぬ声が割り込んでくる。

 

「よせ、シン。

 ブリーフィング中だぞ」

 

 シンは明らかに反抗的に瞳をぎらつかせ、背後に視線を走らせた。

 そこにいたのは、深いエメラルドの瞳を持つ、黒髪色白の若き赤服──ヨダカやタリアと同様、FAITHの襟章をつけている。

 

「来たな、噂の英雄殿――

 アスラン・ザラ」

 

 ヨダカは皮肉たっぷりに彼を見下げ、大仰に腕を組んでみせた。

 パトリック・ザラの息子。赤服を着ていながら、2年前ザフトを裏切り、プラントに銃口を向けた男。オーブで隠遁していれば良かったものを、開戦するや突然プラントに逆戻りした、最強の蝙蝠──

 それがヨダカの、アスラン・ザラ観だった。

 

 デュランダル議長の考えは理解しかねる。三度もアマミキョを逃した自分をFAITHに任命する行為もヨダカ自身納得出来ていなかったが、その上この、アスラン・ザラまでFAITHに任ずる? 議長への忠誠は変わらぬつもりだが、先日までオーブで偽名を名乗り、アスハ代表の護衛をやっていた男を重用するなど──

 

 しかし、ヨダカはこうも考える。

 今回の作戦だけで考えるならば、アスランの存在は好都合だ。この男はオーブの中枢を知っている。ティーダの情報も、彼から引き出せる可能性がある。

 そしてアスランは自ら、ヨダカに疑問をぶつけてきた。

 

「お聞かせ願いたい。現在ミネルバはインド洋を突破したばかり、隊員は疲弊しております。

 にも関わらずミネルバを使い、貴公がアマミキョとそのモビルスーツにこだわる理由は何です?」

 

 小僧っ子が──ヨダカは舌打ちを抑えつつ、クルーの眼前に広がるディスプレイに戦闘データを映し出した。

 ディスプレイの上で、「禁忌の白ブリッツ」が踊り出す。コロニー・ミントンでの戦闘記録だ。同時にヨダカはアスランの横顔も確認する。

 

 ──どうやらこの若僧も、感情を制御する術を知らぬと見える。分かりやすく眼を剥きおって。

 

 ヨダカはそんな心中は一片も見せず、淡々と説明した。

 

「血のストライクもどきにカラミティの改造型も恐ろしいが、問題はこの白ブリッツもどきだ。パイロットの腕が並み以上の上、オーブのレポーターを名乗りこちらをかく乱してくる。

 最大の脅威は、奴の装甲から発振される光だ」

 

 交戦記録が次々にモニターに現れる。ルナマリアが思わず腕を押さえた。

 無理もない。あの時彼女は真正面から、ティーダの光を浴びたのだ。ザクウォーリアの装甲を剥がしにかかるティーダ、そして光の発振──

 その戦闘記録を目撃し、アスランはいつしかその身を乗り出していた。勿論モニター上では光の威力は抑えられ、単なる発光するブリッツにしか見えないが。

 

「この光はおそらく、ミラージュコロイドシステムの応用だろう。

 視覚から光、聴覚から音で訴え、パイロットの神経と精神を直接攻撃する。実に忌まわしき、条約違反機体だ」

 

 慎重に会話に耳を澄ませていたレイが、ヨダカの代わりにアスランに声をかける。

 

「ご存知なのですか? ザラ隊長」

「いや……俺は知らない」

 

 アスランが敢えて否定で答えていることを、ヨダカは見抜いた。

 その細い顎を張り飛ばしたい衝動を丁寧に抑え、おどけてみせるヨダカ。

 

「おいおいザラ隊長、失望させないでくれ。

 オーブ中枢にいたのならば、アマミキョのモビルスーツリストぐらいは把握しているだろうと思っていたが」

「一護衛官に分かることではありませんでした」

 

 固い横顔で、アスランはヨダカに答えるだけだった。あくまでオーブを擁護する気か――

 その時、またしても紅の瞳の少年が口を挟んでくる。

 

「全く、オーブらしいモビルスーツだよ。

 だけど任せてください隊長、あの光の対抗策は考えてあります。ミネルバの整備班は優秀なんだ」

 

 シンは「隊長」という言葉を、明らかにヨダカに対して使っていた。それも、本来の隊長であるアスランに聞かせるが如く。

 

「今度こそ撃ってやるよ。あの紅のストライクごと、俺が!」

 

 言うが早いか、シンは勝手にブリーフィングルームから飛び出していく。彼の思わぬ行動に、アスランが赤服の裾を翻して追いかけた。

 

「シン、勘違いするな! 命令は撃墜じゃないっ」

「今のオーブに与するなら、貴方の意見でも聞けませんよ!」

 

 ルナマリアまでもが、彼らを追って駆け去っていく。

 

「全く二人とも……子供じゃないんだから!」

 

 そう吐き捨てながら自らもミーティングを放り出し、アスランの背中を追っていくルナマリア。

 辛うじて礼儀がなっていたのは、ヨダカに丁重に隊員の非礼を詫び、白ブリッツの光の解析結果を提出したレイぐらいのものだった。

 何なのだ、今のザフトの若者どもは。FAITHたるアスラン・ザラが入って少しはミネルバ隊も統制が取れたかと思ったら、ますます悪くなっている。

 シンとアスランの間には部外者が見ても分かるほどに溝があり、しかも彼らを追いかけていったルナマリアはこともあろうに、会議中に度々アスランに色目を使っていた。

 タリアやアーサーの苦労を思い、ヨダカは先ほどまで剥いていた彼女らへの心の矛を、少しだけおさめた。

 

 

 

 

 ミネルバのハンガーでは、各機体のOS書き換え作業が急ピッチで進められていた。

 整備班長マッドの怒声が響く中、パイロットもそれぞれの機体に乗り込み、整備班のヨウランやヴィーノと共に念入りにチェックを行なっている。

 シンが作戦会議中堂々と叫んだ通り、「忌まわしき白ブリッツ」への対抗策は進んでいた。

 各機体のコクピット部の遮光フィルタを強化するのは勿論、ミントンでの戦闘記録を元に例の機体から放射される光と音を解析し、その波長パターンを割り出したのだ。尤も、具体的に分析していたのはシンではなく、主にレイだったのだが。

 

「パターンが分かったとはいえ、フェイズシフトがなきゃ防げないんじゃ、私の出る幕なしね」

 

 ザクウォーリアのコクピットで、ルナマリアが愚痴る。その上から、ヴィーノがコンソールパネルを覗き込んでいた。

 

「大丈夫、ヨダカ隊長がグゥルを5機も持ってきてくれたんだ。

 ルナもレイも移動砲台になれる、この前みたいに溺れたりはしないさ」

「でも、興味深いよな」

 

 隣のインパルスガンダムのマニピュレータで最終調整を行なっていたヨウランも、額の汗を拭いつつルナマリアに声をかける。

 

「ここまで念入りにフェイズシフトシステムを修正したのなんて久しぶりだ。

 一定の帯域を持つ光と音の波動をシャットアウトしてコクピットに伝わらないようにするなんて、最初は夢物語かと思ったよ」

 

 それを受けて、ヴィーノがわざと欠伸をしてみせる。

 

「500万回のパターンテストの為、俺たち今日も徹夜なんだけど。何で遮光フィルタじゃ駄目なのさ?」

「ある程度の防御は効くらしいけど、ヨダカ隊長によれば完璧に防ぐ方策が必要なんだと。モニター切るって手もあるけど、危険すぎるしな。

 それに問題は、光だけじゃないし。音と、恐らく大気の振動も関係してくる。コクピット内の気圧調整もしなきゃあ」

「だけどどんな機体なんだか、楽しみだよなぁ。機体を壊さず人間だけ止めるなんて、整備士がラク出来るよ」

「ちょっと。あの光を喰らうのは私たちよ!」

 

 能天気なヴィーノの言葉に、ルナマリアは腰に手を当てて膨れっ面をしてみせる。

 

「時々とんでもなくデリカシーのないこと言うあんた達の癖、抜けてないのね。

 アスハ代表に怒鳴られて思い知ったはずでしょ。自覚しなさい!」

 

 ヴィーノは慌てて首を横に振る。橙の前髪がぶんぶんと可愛く揺れた。

 

「ごめんごめんルナ……だけどメカマンとしてはつい、血が騒ぐんだよ」

「そーいうこと」ヨウランがヴィーノを庇うように、陽気に加勢した。そしてインパルスの中のシンに声をかける。

 

「なぁシン、うまく捕まえてこいよな。

 間違えるな、くれぐれもあの機体だけは壊さないでくれよ」

「くどいぞヨウラン。俺はそこまで問題児じゃない」

 

 シンはそう軽口を叩きつつも、インパルスの調整に余念がなかった。

 

 

 

 

 そんなミネルバクルーのやりとりを、少し離れたセイバーガンダムのコクピットで、アスランはじっと聞いていた。直接声は聞こえないが、陽気な会話は通信で響いてくる。

 その脳裏には、先ほどのティーダの戦闘記録と

 ──カガリの慟哭する姿が、交互に浮かんでいた。

 

 オーブの首相官邸でティーダの報告を受け、ユウナに乗せられるがままにナオト・シライシをパイロットに任命してしまった件に関して、カガリは代表らしくもなく髪をかきむしっていた。

 そんな彼女が目下のところ行方不明だという事実が、さらにアスランの心を曇らせる。

 しかもカガリを浚ったのはアークエンジェルであり、あのフリーダム。

 ということは、おそらくカガリは無事でいるのだろうが

 

 ――キラは一体、何を考えている? 

 

 インド洋の戦闘でシンと対立した件もあり、アスランは焦っていた。それに加えて、今度はティーダ捕獲作戦だ。

 アスランがオーブを出る前に行政庁に入っていた情報が正しければ、未だにナオト・シライシはティーダに乗っている。無邪気そのもののあの少年とティーダの存在は、一時煙草に手を出しかけたほど、カガリの重荷になっていた。

 しかも問題の船──アマミキョに乗っているのはティーダとナオトだけではない。あのサイ・アーガイルも、だ。

 

 

 彼は、キラのヘリオポリスでの学友。二年前のヤキン戦ではアークエンジェルで共に戦ったこともある。

 アークエンジェルに合流したばかりのあの時、ディアッカと違ってどうしても自分は、艦の連中になじめなかった――当たり前だ、自分は彼らの居住空間を破壊した上、大切な仲間を撃ったのだから。

 

 そんな自分に最初に声をかけてきたのは、サイとミリアリアだった。彼らの協力がなければ、自分はアークエンジェルと、ろくに連携が取れなかったはずだ。

 その彼をまた──

 

 いや、待て。何も、撃つ必要はないじゃないか。

 そうだろう、カガリ──アスランは自らと、消息不明のカガリに言い聞かせた。

 

 ティーダを捕らえ、ナオト・シライシを引きずり出せばすむことだ。彼を機体から引きはがしてとっととオーブに帰国させれば、後はヨダカが何とでもしてくれる。

 撃墜命令ではないことに、むしろ感謝すべきだろう。カガリの心を少しでも軽くする為なら、この作戦は好都合じゃないか。目的ははっきりしている。

 

 アスランはふと、インパルスの調整を続けるシンの方を見た。

 インド洋の戦闘後に行き過ぎた行動をした彼を諌めて以来、どうもシンとはうまくいかない。さっきの作戦会議で見せた態度は何だ。

 爛々と燃えるあの紅の瞳を思い出しながら、アスランは悪い予感を隠せなかった。

 

 うまくいくわけがないと直感で分かっており、なおかつそれが逃れられない道である時、人は必死で自らに言い聞かせる。うまくいくはずだと。

 ──この時のアスランが、まさにそうだった。

 

 

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