【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
甲板では、砲撃を展開するカラミティのすぐ背後に、ティーダが構えていた。
完全にカラミティに守られる形になっているティーダの中で、マユは上空のセイバーとの距離をひたすら計測している。
「100……80……70……
目標、射程距離内」
黙示録──ブック・オブ・レヴェレイションシステムはいつでも発動可能だ。ナオトも、入力に2回失敗しつつもどうにか全フェイズをクリア。あとはマユの最終判断に委ねられている。
だが、マユはナオトにもう一つの課題を与えていた。
現在セイバーとの距離を計測しているのはマユだが、ナオトはさらにその後方から迫るインパルスの距離を計らなければならなかったのだ。マユによれば、2機が同時に射程距離内に入って来なければ意味がないらしい。
その時にはもう、インパルスはアフロディーテを追いつつも真っ直ぐ、アマミキョ甲板に突っ込んできたのだが。
「目標までの射程距離、200……って、速すぎる!」
ナオトは必死で、モニターで激しく明滅するターゲットフレームを睨み、神速のインパルスを追う。
《『種』が、向こうから二つも飛んできやがった》
カイキの嘲笑がスピーカーから流れたが、ナオトは気づかない。
あまりに集中していた為、アスランの呼びかけも少年の耳には聞こえていなかった。
「ティーダ、黙示録起動フェイズ終了!
照射まで、残り12秒」
ティーダをモニタリングしていたアムルが叫ぶ。瞬間、アマミキョの遮光機能も作動した。
ブリッジのみならず、全ブロック外壁部分にフィルタがかかる。ブリッジ前方の殆どを占める、巨大な展望窓にしか見えないメインモニターも、紗がかけられるように陰が落ちていく。
ブリッジが、一時的な夕闇に包まれる。
「全ブロック、フィルタ作動確認」
「カラミティ、アフロディーテ、及び時澤機のフィルタ作動確認。
風間機──確認できません、照射範囲内に機影なし」
「起動は今までで最速だ。
ナオト──やる気なのか」
そう呟くサイの口調も表情も、決して明るくはなかった。
「僕にSEEDがあるのなら
──弾けろ!」
ナオトの叫びと共に、ティーダはその外殻から一気に光を放った。
瞬間、ティーダが核爆発でも起こしたかと錯覚させるが如き爆光が、海上を、青空を覆い尽くしていく。
これが大気圏内での、初の「黙示録」発動の瞬間だった。
高度3万メートルあたりの宇宙から観測すれば確実に、マラッカ海峡近くに半球状に広がる光のドームが捉えられていたことだろう。
閃光に包まれるアマミキョ。遮光フィルタをかけた筈のカラミティだが、ティーダの光は今までとは明らかに違った。
カイキは思わず声を上げる。
「光量が増してやがる!
大気圏内では、こうも違うのか?」
「も、目標からの発光、照射確認!」
後方で状況を見据えていたミネルバでは、タリアがクルーたちの驚愕をよそに冷徹に光を見据えていた。
遮蔽されたブリッジの中、モニターごしにティーダの光を見ているので、ミネルバクルーに直接の影響はほぼない。震動と共に、わずかに声のようなものが聞こえるだけだ。
だが、光の中にいる者たちは──
海中の状況を示すモニターを確認するタリア。光点が三つ、アマミキョに向かって突き進んでいる。
ティーダの光を見れば、今回の作戦の重要性は嫌でも理解できるはずだ──ヨダカは言い放っていた。
それを今、タリアはまさに実感していた。
あの光は、確実に増幅されている。
以前目撃した時よりも、ずっと。
彼女は続いて指示を出す。「ルナマリアとレイを急ぎ退避させて。
メイリン、インパルスとセイバーの状況は?」
「不明です! この光で、電波障害が著しくて……」
「アソはどうなってるの?」
アソとは、ヨダカが乗り込んできた小型潜水艇である。
現在はミネルバの直下を潜行しており、ヨダカ隊は既にアソから出撃している──
ミネルバに搭載予定のグゥル3機も、未だにアソに残っていた。大気圏飛行が出来ないザクを擁しているミネルバで、グゥルは貴重な武装だ。
タリアは何故かこの時になって、残りのグゥル3機が気になった──その不安は、後に的中することになる。
「イレギュラーな事故とはいえ、親への愛憎がここまで効果を及ぼすとはな」
遥か上空まで退避したアフロディーテの中で、フレイは光を見て呟く。その唇に、いつもの皮肉っぽい笑みはなかった。
光から心を閉ざすように、彼女は目を瞑り、自己の内部へと篭っていく。
フィルタをかけたとはいえ、ティーダからの光は作業用アストレイぐらいなら吹き飛ばしかねないほどの圧力を伴っている。
時澤のウィンダムが、光の中でコントロールを若干失っているのが見えた。
しかしその時、ルナマリアやレイのグゥルはさらにコントロールを喪失していた。
発動に気づいた2機は素早く退避したが、それでも凄まじい光量だ。ルナマリアのザクウォーリアは空中で竦んでしまう。
「あの光──
イヤ、嫌アアアアアアアアッ!!」
ミントンの悪夢再び。
操縦桿を握るルナマリアの指から、一気に痺れが広がっていく。光の悪魔は1秒の間に脳に伝わり、彼女の心そのものの動きを止めようとする。
鍛え抜かれたザフトレッドの魂でそれを跳ね除けようとしても、光と震動と気圧はパイロットスーツを通過してルナマリアの眼球、毛穴、耳、指、全てから入り込み、彼女を侵食していく。
──戦うな、戦うな、戦うな!
──衝動を消せ、鎮めよ。
忌まわしき感情を消滅させよ!
何者かの声が、心臓を直接叩く。
それでも、一度この感覚を味わっているルナマリアは何とか、冷静さを心の何処かで保っていた。光の中で確認は出来ないが、レイも同様だろう。
それにしても、あのド真ん中にいるシンは、アスランは──
そう慮った一瞬を、ルナマリアは衝かれた。
《惑うなルナマリア!
下だっ》
レイの声と共に、足下のグゥルが突然爆発する。
足場を失い、そのままザクウォーリアは海へと落下していく──
海面スレスレを飛ぶウィンダムが、こちらに照準を合わせているのがはっきり見えた。ウィンダムの肩に刻まれたロゴ「天海」までが、光の中で輝いているのが分かる。
撃たれたんだ、私は。連合のウィンダムなんかに!
レイのザクファントムがすぐに追いつき、彼女を庇うように前に出て敵を撃つ。
だが、そのまま落下して着水した瞬間、ルナマリアはザクファントムのグゥルまでが撃ち落される光景を見た。
――信じられない。
グゥルをとはいえ、あのレイがああも易々と撃たれるとは。
向こうのパイロットの技量ではない。この光だ。
あの白いモビルスーツの光が、私を、レイを惑わせた。
そう、レイが戸惑っている──
これまた信じられない出来事だが、ルナマリアはそれが分かった。
彼女と同じように侵食されていくレイの神経細胞を、ルナマリアは肌で実感していた。
アマミキョブリッジもまた、あまりの光量にフィルタの調整が追いついていなかった。ブリッジクルーの中には、光を間近に見て目を回してしまった者さえいる。
サイは自らの両腕が痺れていくのを自覚しながら、それでも甲板上のティーダをモニタリングすることは忘れなかった。
「これは……
ナオトの力か?」
そんなサイの肩を、がしりと掴む手があった。唐突にブリッジに現れたミゲルだ。
「そのようだな。短期間でここまで成長するとは、俺も驚いた」
「成長と言うのか……これが」
「成長だよ。正義だろうと憎悪だろうとトラウマだろうと、力に変えられりゃ戦場なら何でもいい。
だが気をつけろ、ザフトを甘く見るな!」
その声と共に──
太陽が無数に満ちたが如き天空を、一気に滑降する怪物が現れた。しかも2体。
こちらをブリッジごと捕まえようとするように、人型の怪物2体は光の膜を突き破る。
ブリッジ中が悲鳴で煮えきる。
そして、床を走る震動
──甲板に着地された!
怪物がモビルスーツだとサイが気づいたのは、その時だった。
ザフトの新型2機は、見事にティーダの「黙示録」を突破してしまったのだ。トリコロールカラーの筈のモビルスーツは、今や光を背にして真っ黒に見える。
そのストライクもどきが、サイに──つまりブリッジに直接、銃口を向けた。
見かけはストライクに似ているが、そこに乗っているのはキラではない。
オーブに対する憎しみの塊がある。キラとはおよそ正反対の、焼けつくような激しさがある。
光の中で、サイは何故か確信した。何故か、分かってしまった。
汗びっしょりになって顔を上げた時、ナオトの目の前に展開されていた光景は
――俄かには信じがたいものだった。
何しろティーダの光をものともせず、紅のモビルスーツが甲板に降下し、自分らへ近寄ってきたのだから。
「まさか! 黙示録が突破されるなんてっ」
驚きと絶望で、ナオトは思わずコンソールパネルに突っ伏す。
「……SEEDは、まだ割れないのか。
父さんをあんなに狂わせたSEEDなのに、どうして!
割れろ、割れろ、割れろよ……これ以上僕を傷つけるなよ、畜生!」
ナオトの憤怒で、胸元のフーアのお守りが揺れた。
眼球は剥かれ、噛みしめた歯の間から唾が飛び出し、バイザーを汚す。
――明らかに狂気が混じる、少年の形相と言葉。しかもこの時誰も、サイですらもその様子に気づけなかった。
そんな彼の心情など一切構わず、ずいと近づいてくる紅のモビルスーツ。
しかし、こんな時でもマユは朗らかだった。
「へー、意外。
結構早く対策しちゃったんだぁ~、サイの言う通りになったね。
ま、かえって好都合だけど!」
その能天気さを責めようと、ナオトが口を開きかけた瞬間――
さらなる衝撃がティーダを、アマミキョを襲った。
「海中からの攻撃です!
第13外壁に被弾、損傷度4!」
「グーン2機及び新型1機、接近を確認! 二時の方向ですっ」
グーンの魚雷が、アマミキョの腹を直撃した。
サイたちクルーの眼前のモニターが、アマミキョ船体の被弾状況を示すウィンドウに切り替わる。
CGで描かれた船底の一部が黄色に変わっており、さらに、重度の損傷を意味する赤い部分が点滅している。その赤は次第に拡大していた。
「風間曹長は何してるんだ! ディープフォビドゥンで出たはずだろ!?」
「まさか、逃げたの? あの連合の女!」
その時、再びアスラン・ザラの叫びが轟いた。
《やめるんだシン、民間船だぞ! お前はティーダの接収に回れ!》
甲板に降り立った紅のモビルスーツは、半ば強引に同僚の銃口を逸らそうとした。
《しかし、隊長!》
《インド洋で民間人を救ったお前が、今度は理由もなく民間人を撃つのか!》
その一言で、ようやく銃口は逸らされた。
どうもこのパイロットは、アスランに反抗的らしい──まるで、自分とナオトのように。
揺らめく光を通じて、サイは何故かそこまで掴めてしまった。
畳みかけるようにアスランの声は響く。光の影響か、やや息を切らしてはいたが。
《サイ・アーガイル!
そこにいるのならば聞いてほしい。ヤキンの同志として!》
サイ自身が驚くより先に、全員が一斉に彼を振り向いた。
この状況下で、すがるようなクルーの視線がサイに刺さる。アスランの声はさらに続いた。
《君たちがまごうことなき民間救援船であること、自分はよく判っている。
だが、このような危険な光を放つモビルスーツを、君たちに委ねるわけにはいかない──
それが、ザフト側の見解だ》
ティーダはエネルギーを消耗しきり、すぐに機動出来なかった。
その中で、ナオトもマユもじっとアスランの言葉を聞いていたが、やがてセイバーの頭部がぐるりとティーダに向いた。
《ナオト・シライシ、君はそこから降りるんだ。
アスハ代表は苦しんでいた、君のことで!》
その言葉の意味を、ナオトはすぐに理解出来ない。
そんな馬鹿な。アスハ代表は喜んで、僕をティーダパイロットに任命してくれたんじゃないのか? あのビデオレターの笑顔は、僕へのプレゼントじゃなかったのか?
「いくら貴方が護衛官だったからって、そんなの信じられません!
アスハ代表は、僕を認めてくれたんです」
《それは違う!
君を乗せたのは、セイラン家の意向だ》
「信じませんよ。だいたい何で貴方、代表を見捨ててザフトにいるんだ!?
僕を惑わそうったって、無駄です!」
シンといい、今の子供は聞き分けのない奴らばかりか──アスランは頭を抱えそうになった。
フェイズシフトの改良でかなりの震動を防いだとはいえ、身体を直接侵食してきた光の威力は未だ消えず、メット内の髪は汗でまみれ、手の震えは止まらない。
ティーダの力がこれほどとは、アスラン自身予測出来ていなかったのだ。
アマミキョからの応答はない。いるなら返事をしろ、サイ・アーガイル。
もし駄目なら、ナオトの意志がどうあれ、強制的にティーダを接収するしか──
その時だった。横からカラミティが、エメラルドの巨体を突進させてきたのは。
《裏切り者が!
汚ねぇ手で、ティーダに触るんじゃねぇ!!》
インパルスが即反応し、咄嗟に対装甲ナイフをカラミティの左腕接合部に突き刺す。
電撃と火花が跳ね、カラミティの腕は空を飛び──
さらにその1秒後には、跳び箱の要領でインパルスがカラミティを飛び越え、ティーダに組みついていた。