【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 シンとマユ、邂逅す

 

 

「やめてくれ、アスラン! 

 ナオトたちに手を出すな!!」

 

 組みつかれたティーダを見て、サイは思わず叫んでいた。

 

「君たちの言い分はよく判った――

 甲板で暴れるのはどうかやめてほしい、みんなが怯える。

 だが、俺の力ではアマミキョも、ティーダも、どうにもならない! 君だって、自分の一存で母艦が動かせるわけじゃないだろう!」

《だが、こちらも退くわけにはいかないんだ。

 力づくでも、やらせてもらう!》

 

 サイの訴えにも、頑として態度を変えないアスラン。

 念の為、サイはリンドー副隊長を振り返る。当然だが、彼は白髪頭を縦に振りはしなかった。

 その間にもティーダは頭部を掴まれ、インパルスに押されていく。揺れる甲板。

 腕を飛ばされ踏み台にされたカラミティも、どうやら動けないようだ。ティーダの圧倒的な光は、ザフトのみならずカイキにも著しい影響を与えてしまったらしい。

 肝心のフレイからの通信は──ない。

 その時、じっと様子を見守っていたミゲルが、突如として通信権を奪い取った。

 

「サイの言う通りだ、アスラン・ザラ!」

 

 

 

 

 信じられないとは、まさにこの事だ。幽霊がスピーカーから飛び出してきたのか? 

 先ほどの光とは別の衝撃に、アスランの両腕が一息に固まる。瞳孔が縮む。

 これは……この声は。

 

《久しぶりだな。俺のこと、覚えてるか? アスラン。

 黄昏の魔弾こと、ミゲル・アイマンだ》

 

 

 

 

 組みつかれているティーダは次第に甲板を滑り、海へ落下寸前の処まで追いつめられていた。

 ストライクもどき(インパルス)が、自分を追い込んでいる──その恐怖に、ナオトは半分パニックになる。

 

「マユ、どうしよう!? 

 このままじゃ……!」

 

 それとは対照的に、前席のマユは落ち着いていた。

 

「大丈夫。

 ()()()()()はね、絶対に私を殺さないから」

 

 相手の眼光をモニターごしに見ながら、何故か、マユは嬉しがっていた。

 バニラアイスを乗せたパンケーキを前にした、空腹の子供のように。

 

 

「つかまるのは、私たちじゃない。

 貴方だよ……お・に・い・ちゃん♪」

 

 

 その言葉と共に、マユは驚くべき行動に出た──

 相手の真正面で、突然ハッチを開いたのである。

 

 

 

 

 

 

 ティーダには二人のパイロットがいる。一人はナオト・シライシ。オーブ出身のレポーターの少年──

 そこまでは、シン・アスカも把握していた。

 しかし、まさか二人目が「彼女」だとは、誰が予想出来ただろう。

 ゆっくりと、こちらを恐れもせずに開かれるティーダのハッチ。

 その奥にいた少女。躊躇なく脱がれるメット。

 小さいメットに窮屈にしまいこまれていたであろう黒髪が一気に解放され、風で大きく煽られる。

 長い黒髪の先をゆるく結わえている、可愛らしいリボン。幼さが目立つ白い肌。

 まるですました猫のように、ふるふると可愛らしく振られる頭。そして──

 

 

 今度こそ、シンの全身の血液が凍った。

 ヨウランとヴィーノのおかげで例の光は突破出来たが、これだけは彼らの力でも、どうにもならない。

 

 

 ──マユが。

 マユが、笑っている。

 

 

 笑顔ごと炎に吹き飛ばされたはずの妹が、目の前で微笑んでいる。

 これは夢か。俺はやっぱり、あの光に囚われてしまったのか。

 

 ──いや、違う! 

 何かが激しくシンの中で蠢いた。

 俺の記憶は確かだ。飛ばされたマユの片腕を、あの焼け焦げた臭いを、俺は、俺の身体はよく覚えている。

 

 だが、シンが自らを律しようとしたその時、マユの声は再び響いた。

 

 

《お兄ちゃん……

 ずっと、探したんだよ?》

 

 

 目の前のモニターに映し出されたマユは、微笑んでいる。

 今にも涙を零しそうな瞳が、こちらを向いている。こちらだけを見ている。

 俺を抱きしめるように、両腕を広げて。

 

 シンは思わず、インパルスの腕をティーダに伸ばしていた。その瞬間──

 がら空きになったインパルスの背後を取った紅の機体があった。鮮血を浴びた、紅のストライクが。

 

《腕を上げても、精神が退行しては無意味だな、シン・アスカ!》

 

 

 

 

 

 

「何をやっている、あの小僧っ子どもは! 

 既に予定時刻を1分オーバーだっ」

 

 海中を進みアマミキョに狙いをつけるモビルスーツ・アッシュの中で、ヨダカは一人ごちていた。

 チュウザンにおける戦闘では悪趣味なショッキンググリーンをしていたアッシュも、既に量産型用のグレーのカラーリングを施されていた。海中でじっとアマミキョの船腹を睨みつつ、ヨダカは従えてきたグーン2機を待機させる。

 グーンが撃った魚雷は、アマミキョの左わき腹を掠めている。船内は大騒ぎだろう。

 

 だが、沈めるわけにはいかない。ティーダの謎を解くまでは。

 

 先ほどの光は、深めに潜行し状況を見据えていたヨダカも息を飲んだほどだった。どうやらティーダの力は大気圏・海中無関係に影響を及ぼすらしい。

 しかも、パイロットが腕を上げたのか、機体が強化されたのか――前回のデータより明らかに光量が強くなっている。

 しかし、海上の連中は何をやっている? ミネルバとアソがそろそろ接近する時間だ──

 ヨダカはグーンに信号を送る。数秒後にはグーンの魚雷が発射され、再びアマミキョを襲った。

 

 

 

 

 

 

「17、28外壁被弾! 第21ブロックに浸水!」「敵艦が近づいてくるよぉ!」

 

 続けざまに来た衝撃に、アマミキョブリッジクルーは混乱を極めていた。

 操舵手オサキも必死でアマミキョのコントロールを失わぬよう努めるが、魚雷の直撃回避が精一杯だ。

 

「このままじゃ、船底が割れちまうよ!」

 

 そんな中で、甲板に降り立ったはずのザフト機2機は突っ立ったままだ。

 フレイのアフロディーテは、そのうち1機をがっしりと捕らえている。相手のコクピットに真っ直ぐビームライフルを向けて──あのストライクもどき(インパルス)に、だ。

 しかも、ストライクもどきに相対しているティーダはハッチを開き、マユが身体を乗り出している。

 あれだけ激しく闘っていた相手が、マユを見ただけで動きを止めた。

 どういうことだ、一体。蜃気楼のように揺らめく空気の中、サイはその不思議な光景を眺めているしかなかった。

 アスランまで、ミゲルと会話をした途端に明らかに動揺している──

 一体どんな魔法を使ったんだ、アマクサ組は? 

 

「判るだろう? 二人とも怯えているのさ、()()()に──

 へっ、形勢逆転っと!」

 

 通信機を握ったままのミゲルはサイの肩を叩きつつ、落ち着いてアスランと会話を交わす。

 

「アスラン。真実を知りたいのなら、まずお前が降りて来い。

『みんな』が待ってるぜ」

《馬鹿な……ミゲルは、ヘリオポリスで……!?》

「愚痴愚痴言ってる間に、可愛い後輩が死んでもいいのか?」

 

 

 

 

 予定時刻経過を確認したミネルバは、僚艦アソと共に前進を開始した。

 海中に落下したルナマリア、レイ両機は既にミネルバに回収されている。ヨダカ隊の攻撃は続いていたが、ティーダの「黙示録」照射以降、肝心のアスラン、シンからの応答がない。

 

「インパルス、セイバー、耐えてます! 機体を確認しましたっ」

 

 メイリンの弾んだ声が響き、同時にカタパルトからヨウランとヴィーノの歓声が艦内無線を通じて聞こえたが、タリアの表情は優れない。

 あの光が人体を直接傷つけるものである以上、機体が無事だからといって油断は禁物だ。

 タリアは歯噛みしながら、メイリンに再度の交信を命じていた。そして彼女は呟く。

 

「ティーダを手中にすれば、全ての争いは終わるというの? 

 ──ギルバート」

 

 

 

 

 フレイ──君はまた、卑劣な方法を使うのか。

 ワイヤーを伝い静かに機体を降りてくるアスランを見ながら、サイは拳を握らずにはいられない。

 フレイがどうあってもティーダを譲渡しないつもりならば、アスランたちには諦めて帰ってもらうしかない。アスランたちが譲歩しないのならば、待つものは破滅だけ。

 ──それなら。

 サイは立ち上がり、リンドーに向かい正面切って言い放った。

 

「副隊長、自分に提案があります。

 作戦コード"LOVE IS BUBBLE"の実行を!」

 

 その言葉に、リンドーも無精ひげを引っ張り上げる。意外な意見を言われた時の彼の癖だ。

 

「確かにアレなら基本的な戦法ゆえ、乗員どもの対処も早いだろうな。

 アマミキョの損害は避けられんが」

「同じ損傷なら、生きのびる可能性の高い方に賭けるべきです」

 

 だがそこへ飛んだのは、アムルの悲鳴。

 

「駄目……5番チューブに動作エラーが出ています! 

 サイ君、ここが作動しないとその作戦は……」

 

 サイの腹は決まっていた。その為に、俺がここにいるんじゃないか。

 

「チューブ自体はまだ生きているはずだ。

 自分が直接現場に行って、手動で動かします。それなら問題ないでしょう」

 

 オサキが驚いて怒鳴りつける。

 

「バカヤロウ死ぬ気か! 作戦通りなら、あそこは危険区域──」

「やると言ったらやるんだ。これ以上、フレイや子供たちにあんな真似をさせるわけにはいかない。

 副隊長、指示を」

 

 サイはリンドー副隊長の意向を改めて確認する。すると副隊長はぼそりと言った

 ――鼻毛を抜きつつ、いかにも面倒くさげに。

 

「好きにしろ。

 但し──ちゃあんと、戻ってこいよ」

 

 

 

 

 アップテンポの曲調と共に、軽快なジャズが船内に流れる。

 どうやら副隊長お気に入りの昔のアジアの歌らしいが、これは作戦発動及び退避のサインだ。

 曲が流れ出すと同時に、乗員たちは一斉に指定区域へ避難を開始する。

 この曲の意味を理解していない者の為にカズイとトニー隊長が走り回ったが、フレイとリンドーの教育が徹底していた為か、迷う者は殆どいなかった。

 

 サイは、既に水が流れ込んでいる船底近くを走りながら、問題の5番チューブへ向かう。

 また、アムルの嘘では? という考えがチラと頭を掠めたが、そんな嘘がすぐにバレることぐらい、彼女も承知しているだろう。

 皆が退避していく方向とは真逆へ走りながら、サイは水を蹴飛ばして忙しくチャンネルを切り替えつつ、頭に装着したままのインカムに叫ぶ。

 

「負傷者の運搬は7Aからストレッチャーを使え! 大丈夫、浸水はレベルBで止まってる。

 それからカズイ、食糧班で負傷者発生だ。そっちを優先しろ」

 

 被弾の影響か、電気が止まり暗闇に沈む船底を、サイはインカムと会話しながらひたすら走り続ける。

 そして曲が2回目のリピートを開始したあたりで、彼は5番チューブに到着した。

 油混じりの水は既に、膝あたりまで来ている。あたりに人は誰もいない──

 妙に明るい曲だけが虚しく流れる中、チューブに通じる扉を開き、サイは体躯の半分ほどもある非常用のレバーに両腕をかけた。

 予想以上に重く閉じられたレバーにサイは苦戦しながらも、何とか数十秒後にはレバーを半分ほど回した。

 チューブの向こう側で微かな手ごたえがして、手元で点滅していた安全装置のランプが緑から赤に切り替わる。

 

「ロック解除、確認しました」

 

 サイがインカムに向かって告げ、副隊長のどこかほっとしたようなため息を聞いた──

 その時。

 

 

「無駄だ。

 この船は包囲されている」

 

 

 ──ミゲルも味な真似をしてくれる。

 よりによってこんな場所まで、この男を誘導するとは。

 

 サイは肩を落とし、観念したように両手を挙げた。

 

 

「久々の再会で、第一声がそれかい。

 相変わらず不器用だね」

 

 

 背中を向けたまま、念の為後方を確認するサイ。

 ザフトのパイロットスーツを着用したアスラン・ザラが、銃口を向けて立っている──

 予想と寸分違わぬ光景に、サイはもう一度ため息をついた。

 

「君がザフトに戻っているとは思わなかったな。どういう心境の変化? 

 アークエンジェルが代表をさらったのと、関係あるのか」

 

 妙に度胸がすわってきたと、サイは自分で自分に感心してしまった。

 アスランはその問いに、僅かに動揺を見せている。

 

「お前も、知らないのか。アークエンジェルのことを……」

「彼らのせいで俺たち、無理矢理チュウザンから引っ張り出されてきたんだけど。

 その様子じゃ、君も何も知らないみたいだね。ラクス・クラインの復活の件も」

 

 アスランの表情がまた微妙に変わった。わずかに顰められる眉が、彼の混迷を如実に表している。

 自分ではきっと何も表情を変えていないつもりなのだろうが、少しばかり経験を積んでしまうと相手の瞳の動き、瞼の角度で心情の変化ぐらい、すぐに読み取れる。

 サイはそんな自分が、多少悲しくもあった。

 

「ナオトが、水の証の復活がどうたらとか言ってた。

 変だと思ってたけど、君のザフト復帰と何か関係ある?」

「お前が知る必要はない。

 頼むから、俺にお前を撃たせるな」

「へぇ~。

 やっぱ、何か知ってるんだ」

 

 サイは思い切ってアスランに向き直った。自分でも驚いたが、子供のように軽くジャンプまで加えて。

 どういうわけか、恐怖より悪戯心の方が先に立ってしまっている。

 相手が自分を撃つほどの蛮勇はないと、分かっているせいだろうか。

 

 案の定――サイに向けられたアスランの銃口はいつまでも火を噴くことなく、震えるだけ。

 

「質問をしているのは俺だ。要求をしているのもこちらだ。

 素直にティーダを渡してもらおう、出来ないなら責任者を出せ。

 死んだ戦友を騙る人間がこの船にいる。そいつなら何か分かるだろう!」

 

 やはり先ほどのミゲルの声は、彼に相当のダメージを与えていたのだ。

 とするとミゲルが、アスランの死んだ戦友だっていうのか──

 サイはディアッカの忠告を思い出す。あの血文字を。

 

 

 ──気をつけろ。幽霊船だ

 

 

 その時だった――

 静かな水音と共に、可愛らしい少年の声がりんと響いたのは。

 

「無駄ですよ、アスラン。

 その人、何も知りませんから」

 

 闇の中から、水をかきわけ現れる車椅子。

 その上に乗せられた、薄緑の柔らかな髪の毛を持つ少年が、純真な瞳をゆっくりと上げた。

 アスランの身体が、雷鳴に撃たれたように激しく震えだす。

 知らない人間が見たら、精神を病んだと思われても仕方のない挙動だ。

 

「まさか」「ニコル」「お前が……」

 

 その時アスランの発した大量の意味不明の呟きの中から、サイはやっとこの3つの単語だけを聞きだした。

 最初は、下半身のないニコルの姿に驚愕しているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 対するニコルは、全く怯えることなく言葉を紡ぐ。

 

「お久しぶりです、アスラン。

 父と母は、お元気ですか?」

 

 

 




※本エピソードで使用している歌はBONNIE PINK「LOVE IS BUBBLE」をイメージしています。
このあたりを最初に書いた当時は「嫌われ松子の一生」にハマりまくっておりました。
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