【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 混迷のアスラン

 

 

「貴様ら──

 マユに、何をした!」

 

 動けないインパルスのコクピットで、虚しく叫ぶしかないシン。

 

 分かったことは、目の前でマユが笑っている――

 いや、違う。マユの姿をした()()が笑っている。それだけだ。

 

 そしてあろうことか自分は、マユに踊らされてみすみす捕虜となった。パイロットスーツを着てはいるが、マユの無邪気な笑顔は2年前と全く変わらず、輝いている。

 しかし今のシンとマユの間には、アフロディーテのビームライフルの銃身が割って入っていた。その銃口は真っ直ぐ、自分に向けられている。

 

 ──俺の記憶は、確かだ。

 

 マユはあの時、人としての形を留めていなかった。

 服も肉も肌も全てが一瞬で焼けて崩れ去り灰となり、流れるはずの血すら全て蒸発し、辛うじて原形を留めていたのは片腕だけ。

 それが、こんな笑顔になって戻ってくるはずがない──

 

 頭ではそう理解しているが、シンの中で喜びの感情、悪夢の記憶、そして大きな疑問が激しくぶつかりあい、冷静な判断を一気に消滅させていく。

 マユが、生きていた。

 マユが生きていた、マユが──だが、何故? 

 

「簡単だよ、お兄ちゃん。

 私たちはね──」

 

 

 

 

()()()()を求めて、蘇ったんです。

 探しましたよ、アスラン」

 

 激しく動揺しながらも再び銃を構えるアスランに、サイは思わず感心していた。

 やっぱりザフトの英雄だけのことはある。こんな状況でも、決して逃げ出すことなく正面から事態に対処しようとは。

 アスランは今度はその銃口を、薄緑のちぢれ髪の少年――ニコルに向ける。

 

「旧ザラ隊の名を騙る亡霊を乗せた船──

 イザークたちから噂は聞いていた。それがアマミキョだったとはな……

 もう少しあいつらを問い詰めておくべきだった」

「確かに、偽者と罵られても仕方ありませんね。何しろ貴方の眼前で、僕はストライクに斬られたのだから。

 この脚も車椅子も、その時の恩恵ですよ」

 

 サイは思わずニコルと、その失われた下半身を見つめた。

 やはりこの少年は、かつてキラが殺めた──つまり、間接的には自分が殺めたとも言えるのだ。

 そんなサイの心情を察してか、ニコルは笑った。

 

「サイ、気にしないで。

『戦争だから、仕方ない』──そうですよね、アスラン」

 

 笑みをたたえた優しい表情ではあるが、ニコルの言葉にはほんの少しずつ、氷のような棘が含められていく。

 

「2年前、貴方がアークエンジェルと合流したと聞いた時──

 正直、僕はとてもショックでした。

 こんな身体で、僕はどうすることも出来なかったけど。貴方は僕の父や母、そしてプラントを裏切ったことになったのだから」

「そうそう! アスランの為に作った曲、破いたりしてたよなぁ」

 

 明るい口調と共に、不意にアスランの背後を取る影。揺れる橙色の髪──

 アスランはそのまま両腕を取られ、羽交い絞めにされる。

 

「おひさ、アスラン! ルームメイトぐらいは覚えてるよなぁ?」

「ラスティ!? ……お、お前まで、何故!? 

 一体、これは……?」

 

 アスランにとっては信じがたい現象の連続。ミゲル、ニコルときて――

 この様子だと恐らく、ラスティも『幽霊』なのだろう。サイにしてみればほぼ不明に等しい関係性だが、それぐらいは推測できた。

 

 ニコルはアスランの問いに直接は答えず、淡々と語り続ける。

 

「でも、結果的にアスランが戦争を止める力になったと聞いて、僕は嬉しかった。

 貴方がアスハ代表のもとでオーブにいることも、寂しいけれど当然と思っていました。貴方は平和と正義を尊ぶ人ですから。

 だけど――

 どうして今頃、ザフトに戻っているんです?」

 

 笑ってはいるが、ニコルの言葉は辛らつだ。

 アスランは震えを必死で隠しながらも、それに答えようと努める。

 

「ニコル……戦争だから仕方ないなんて、それは違う。

 そうやって思考を停止するのは危険だ。俺は、ずっと考えていた。

 俺はこの戦争の根を絶ちたい。父が犯した罪を償いたい、俺に力があるのなら。

 プラントならそれが出来ると思った。これは、カガリも納得の上でのことだ。

 俺はもう二度と、お前のような犠牲を出したくなかった。だからプラントへ……」

 

 この言葉を聞いていて──サイには何となく分かった。

 アスランは、未だに自分が何をしたいのか分かっていない。

 目標とするものが大きすぎて、自分の力をどう使っていいのか悩み、あがいている。

 今の曖昧な言葉が、何よりの証拠だ。

 綺麗な言葉を使ってはいるが、何故か心に響いてこない。

 

 ニコルも瞬時にそれを見抜いたようで、さらに言葉を畳みかける。

 

「で、議長の口八丁でおめおめアスラン・ザラに戻ったわけですね。ついでに地位まで頂いた。気がついた時にはザフトへとんぼ返り。

 代表も可哀相だな」

「違う! 

 オーブに戻った時には、もうカガリとセイランの婚約が成った後で、しかもオーブはザフトと交戦状態だった!」

 

 抗弁するアスランを、ニコルはちょっと眠たそうな眼で眺めていたが。

 やがて、ゆっくりと口を開いた──

 

 

「ラスティ。

 解放しましょう、そのクズ」

 

 

 捨てちゃいましょう、そのオモチャ。そんな口調でニコルは言い放ったのだ。

 優しげな少年の口から飛び出したあまりの言葉に、アスランやサイは勿論、ラスティまでが驚愕する。

 

「はぁ? だってお前、あれだけアスランを……」

「いいんですよ、ラスティ。音声聞けば、フレイだって納得してくれます。

 悔しいなぁ……やっぱりフレイの言う通りだった。

 何なんだろ、僕の価値って」

 

 台詞とは裏腹に、ニコルはちょっと肩を竦めてサイに笑ってみせる。

 勿論、サイには彼らのやりとりの意味は半分も分からない。船底に虚しく流れ続ける歌は、3回目のリピートを終えようとしていた。どこか空虚を感じさせる陽気さを全く失わないまま、幾度も繰り返されていくアップテンポのジャズ。

 これが終われば、遂にアマミキョは動く──

 

 

 曲が終わった瞬間、微かな震動が水面を揺らし始めた。

 歌の代わりに全員の頭上で、工事現場の掘削音にも似た轟音が鳴り始める。

 同時に、サイのインカムからミゲルの声が轟いた。

 

《急げ、サイ! 

 もうすぐパージが始まる!!》

 

 

 

 

 

「ねぇ、出てきて。お兄ちゃん!」

 

 マユが身体を光の中に晒したまま、ストライクもどき(インパルス)に呼びかけている──

 その不可解な光景を、ナオトは理解できなかった。

 マユの「お兄ちゃん」とは、カイキではないのか? 何故あのパイロットが「お兄ちゃん」なのか? このマユの行動に、フレイもカイキも何の反応も見せないのは何故だ。

 あらかじめ、計画されていたことなのか。ナオトの小さな頭でも、そこまでは読めた。

 

 しかし次の瞬間──さらに不可解な現象が発生した。

 

 ストライクもどき(インパルス)のコクピットハッチが開き、パイロットが姿を現したのだ。

 しかも、大きく身を乗り出して、全くの無防備にマユを見ている。

 そして1秒後

 ――船体を、大きな縦揺れが襲った。

 

 

 

 

 激しい掘削音が轟く中、ニコルが叫んだ。

 

「サイ、乗って!」

 

 自分の車椅子に乗れ、ってのか。

 戸惑うサイに、さらにインカムからミゲルの怒声が響く。

 

《この状況でお前に何かあったら、俺らがフレイに殺されちまうんだよ! 

 早くしろっ》

 

 君たちは一体何を言っているんだ――

 そう怒鳴りたいのをこらえつつ、サイはニコルの車椅子に飛び乗った。

 そしてニコルは、ラスティに捕らえられたままのアスランに向き直る。

 

「忠告しておきます──

 貴方、今のままじゃどこ行っても、長続きしませんよ。

 どんな事情があったにせよ、第三者から見れば、貴方のやっていることは裏切りの繰り返しです。

 恐らく貴方は今後も、同じことを繰り返す」

「違う! 

 ニコル。俺は二度と、お前たちのような犠牲を出したくないだけだ!」

「それが寝返りの理由ですか」

「そうだ。それが理由じゃ、納得できないか!」

 

 その言葉にほんの少しだけ、目を伏せるニコル。

 だがすぐにきっぱりと顔を上げ、冷徹に言い放つ。

 

「それは……

 ちょっとだけ嬉しいですけど……違うんですよ、アスラン。

 それじゃ、貴方は何も成しえない」

 

 なおも反論しようとするアスランの腕を、ラスティが素早い動作で掴んだ。

 いつの間にやら、ラスティの手には注射器が握られている。パイロットスーツの上から、彼は半ば強引にアスランの左腕に、その針を突き刺した。

 

 アスランが本気にさえなれば、ここにいる全員を一瞬で叩きのめせるぐらい、サイも知っている。

 それが全く出来ず、ニコルとラスティにされるがままということは――

 

 見る間にアスランの両膝が力を失い、その身体はラスティの腕にもたれかかる。

 明らかに朦朧としていくその意識に追い討ちをかけるように、ニコルの言葉が響いた。

 

「一つだけ、教えてあげます。

 もうすぐ、議長の計画が発動する。その後です、僕らの『姫』が立つのは──

 その時、貴方の願いは叶います。

 戦争を止めたいなんて、本気で貴方が考えているならば──

 その願い、僕らが叶えます」

 

 

 

 

 アマミキョの異変を、ヨダカが海中で察知したのは、その時だった。

 アッシュで待機していた彼の眼前で、規則正しい動きで外壁が滑り、中のコアに近いブロックが飛び出してくる。

 船が必要以上に傾かぬよう、両側のブロックが海中深くで船体から離れた。そして吹雪を撒き散らすような噴射と共に、まっすぐに海中を走り出す。まるでミサイルのように。

 それを目撃し、ヨダカは瞬時に相手の目的を悟った。

 間違いない、位置からしてあれはエンジンブロック──

 グーン部隊に全力で叫ぶヨダカ。

 

「散開! 奴らの攻撃だっ」

 

 違う。これは、モビルスーツへの攻撃ではない。

 素早くブロックを避けた後にヨダカはすぐに悟り

 ──総毛だった。

 喉が潰れんばかりの怒声を、コクピットに轟かせる。

 

「ミネルバ、アソ、全速で回避! 

 突貫されるぞ!!」

 

 

 

 

 だがヨダカの叫びより早く、ミネルバ側は予想だにせぬ「敵」の攻撃を察知していた。

 思わず声を上げるアーサー。

 

「馬鹿な! 民間船が魚雷など……!」

 

 その時には既に、タリアが素早く指示を送っていた。

 

「違う、魚雷がわりの構造物よ! 

 ウォルフラム、迎撃用意!」

 

 魚雷で迎撃を目論んだタリアだが、操舵士マリクの悲鳴が響いた。

 

「駄目です、射線上にアソが待機中です!」

「くっ……

 全速で回避! アソを下がらせ、総員衝撃に備えて!」

 

 間に合わない。

 瞬間、激しい震動と共に、海中から閃光が走った。チェンの怒号が響く。

 

「アソ、直撃ですっ!」

 

 

 

 

「え、嘘……? 

 ザ、ザフト艦からの爆発を確認!」

 

 アマミキョブリッジでは、アムルが驚きと共に報告していた。同時に、クルーの間から歓声が沸きあがる。

 一番騒いだのはオサキだ。両腕をあげてガッツボーズまでしている。

 

「やったぜ、サイ!」

「まだ終わったわけじゃない、油断するな。

 アーガイルからの連絡は?」

 

 そうボヤきながら、リンドーがミゲルを睨む。だが、金髪の青年はいつになく表情を曇らせていた。

 

「それが、パージ開始より通信が途絶えて……」

 

 そのミゲルの言葉を中断する大声が、ティーダから響いた。通信機を割るが如くの勢いのナオトの叫びだ。

 

《何だコレ!? ティーダのレーダーが変です! 海と空から……味方機? 

 こんなにたくさん? どうして?》

 

 そのタイミングとは少し遅れて、アマミキョのレーダーにも異変が起きた。

 アマミキョとザフト艦を一気に覆い尽くすか如き味方機・味方艦のシグナルが、レーダーに現れている。

 味方機の信号ではあるが、それはイナゴの大群を思わせる不気味さがあった。

 

 一分前まで光で溢れていたはずの空と海が、同時に曇り始める――

 それは天候の変化によるものではなかった。

 

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 突如として出現した援軍。

 彼らが敵か味方かも分からぬうちに、状況は進んでいく。

 そしてやってくる、運命の再会の時。

 折り重なる想いが呼ぶのは、悲劇か、それとも──

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「ラクス・クラインの香り」

 その陽光に、惑うな。フリーダム! 

 

 

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