【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「貴様ら──
マユに、何をした!」
動けないインパルスのコクピットで、虚しく叫ぶしかないシン。
分かったことは、目の前でマユが笑っている――
いや、違う。マユの姿をした
そしてあろうことか自分は、マユに踊らされてみすみす捕虜となった。パイロットスーツを着てはいるが、マユの無邪気な笑顔は2年前と全く変わらず、輝いている。
しかし今のシンとマユの間には、アフロディーテのビームライフルの銃身が割って入っていた。その銃口は真っ直ぐ、自分に向けられている。
──俺の記憶は、確かだ。
マユはあの時、人としての形を留めていなかった。
服も肉も肌も全てが一瞬で焼けて崩れ去り灰となり、流れるはずの血すら全て蒸発し、辛うじて原形を留めていたのは片腕だけ。
それが、こんな笑顔になって戻ってくるはずがない──
頭ではそう理解しているが、シンの中で喜びの感情、悪夢の記憶、そして大きな疑問が激しくぶつかりあい、冷静な判断を一気に消滅させていく。
マユが、生きていた。
マユが生きていた、マユが──だが、何故?
「簡単だよ、お兄ちゃん。
私たちはね──」
「
探しましたよ、アスラン」
激しく動揺しながらも再び銃を構えるアスランに、サイは思わず感心していた。
やっぱりザフトの英雄だけのことはある。こんな状況でも、決して逃げ出すことなく正面から事態に対処しようとは。
アスランは今度はその銃口を、薄緑のちぢれ髪の少年――ニコルに向ける。
「旧ザラ隊の名を騙る亡霊を乗せた船──
イザークたちから噂は聞いていた。それがアマミキョだったとはな……
もう少しあいつらを問い詰めておくべきだった」
「確かに、偽者と罵られても仕方ありませんね。何しろ貴方の眼前で、僕はストライクに斬られたのだから。
この脚も車椅子も、その時の恩恵ですよ」
サイは思わずニコルと、その失われた下半身を見つめた。
やはりこの少年は、かつてキラが殺めた──つまり、間接的には自分が殺めたとも言えるのだ。
そんなサイの心情を察してか、ニコルは笑った。
「サイ、気にしないで。
『戦争だから、仕方ない』──そうですよね、アスラン」
笑みをたたえた優しい表情ではあるが、ニコルの言葉にはほんの少しずつ、氷のような棘が含められていく。
「2年前、貴方がアークエンジェルと合流したと聞いた時──
正直、僕はとてもショックでした。
こんな身体で、僕はどうすることも出来なかったけど。貴方は僕の父や母、そしてプラントを裏切ったことになったのだから」
「そうそう! アスランの為に作った曲、破いたりしてたよなぁ」
明るい口調と共に、不意にアスランの背後を取る影。揺れる橙色の髪──
アスランはそのまま両腕を取られ、羽交い絞めにされる。
「おひさ、アスラン! ルームメイトぐらいは覚えてるよなぁ?」
「ラスティ!? ……お、お前まで、何故!?
一体、これは……?」
アスランにとっては信じがたい現象の連続。ミゲル、ニコルときて――
この様子だと恐らく、ラスティも『幽霊』なのだろう。サイにしてみればほぼ不明に等しい関係性だが、それぐらいは推測できた。
ニコルはアスランの問いに直接は答えず、淡々と語り続ける。
「でも、結果的にアスランが戦争を止める力になったと聞いて、僕は嬉しかった。
貴方がアスハ代表のもとでオーブにいることも、寂しいけれど当然と思っていました。貴方は平和と正義を尊ぶ人ですから。
だけど――
どうして今頃、ザフトに戻っているんです?」
笑ってはいるが、ニコルの言葉は辛らつだ。
アスランは震えを必死で隠しながらも、それに答えようと努める。
「ニコル……戦争だから仕方ないなんて、それは違う。
そうやって思考を停止するのは危険だ。俺は、ずっと考えていた。
俺はこの戦争の根を絶ちたい。父が犯した罪を償いたい、俺に力があるのなら。
プラントならそれが出来ると思った。これは、カガリも納得の上でのことだ。
俺はもう二度と、お前のような犠牲を出したくなかった。だからプラントへ……」
この言葉を聞いていて──サイには何となく分かった。
アスランは、未だに自分が何をしたいのか分かっていない。
目標とするものが大きすぎて、自分の力をどう使っていいのか悩み、あがいている。
今の曖昧な言葉が、何よりの証拠だ。
綺麗な言葉を使ってはいるが、何故か心に響いてこない。
ニコルも瞬時にそれを見抜いたようで、さらに言葉を畳みかける。
「で、議長の口八丁でおめおめアスラン・ザラに戻ったわけですね。ついでに地位まで頂いた。気がついた時にはザフトへとんぼ返り。
代表も可哀相だな」
「違う!
オーブに戻った時には、もうカガリとセイランの婚約が成った後で、しかもオーブはザフトと交戦状態だった!」
抗弁するアスランを、ニコルはちょっと眠たそうな眼で眺めていたが。
やがて、ゆっくりと口を開いた──
「ラスティ。
解放しましょう、そのクズ」
捨てちゃいましょう、そのオモチャ。そんな口調でニコルは言い放ったのだ。
優しげな少年の口から飛び出したあまりの言葉に、アスランやサイは勿論、ラスティまでが驚愕する。
「はぁ? だってお前、あれだけアスランを……」
「いいんですよ、ラスティ。音声聞けば、フレイだって納得してくれます。
悔しいなぁ……やっぱりフレイの言う通りだった。
何なんだろ、僕の価値って」
台詞とは裏腹に、ニコルはちょっと肩を竦めてサイに笑ってみせる。
勿論、サイには彼らのやりとりの意味は半分も分からない。船底に虚しく流れ続ける歌は、3回目のリピートを終えようとしていた。どこか空虚を感じさせる陽気さを全く失わないまま、幾度も繰り返されていくアップテンポのジャズ。
これが終われば、遂にアマミキョは動く──
曲が終わった瞬間、微かな震動が水面を揺らし始めた。
歌の代わりに全員の頭上で、工事現場の掘削音にも似た轟音が鳴り始める。
同時に、サイのインカムからミゲルの声が轟いた。
《急げ、サイ!
もうすぐパージが始まる!!》
「ねぇ、出てきて。お兄ちゃん!」
マユが身体を光の中に晒したまま、
その不可解な光景を、ナオトは理解できなかった。
マユの「お兄ちゃん」とは、カイキではないのか? 何故あのパイロットが「お兄ちゃん」なのか? このマユの行動に、フレイもカイキも何の反応も見せないのは何故だ。
あらかじめ、計画されていたことなのか。ナオトの小さな頭でも、そこまでは読めた。
しかし次の瞬間──さらに不可解な現象が発生した。
しかも、大きく身を乗り出して、全くの無防備にマユを見ている。
そして1秒後
――船体を、大きな縦揺れが襲った。
激しい掘削音が轟く中、ニコルが叫んだ。
「サイ、乗って!」
自分の車椅子に乗れ、ってのか。
戸惑うサイに、さらにインカムからミゲルの怒声が響く。
《この状況でお前に何かあったら、俺らがフレイに殺されちまうんだよ!
早くしろっ》
君たちは一体何を言っているんだ――
そう怒鳴りたいのをこらえつつ、サイはニコルの車椅子に飛び乗った。
そしてニコルは、ラスティに捕らえられたままのアスランに向き直る。
「忠告しておきます──
貴方、今のままじゃどこ行っても、長続きしませんよ。
どんな事情があったにせよ、第三者から見れば、貴方のやっていることは裏切りの繰り返しです。
恐らく貴方は今後も、同じことを繰り返す」
「違う!
ニコル。俺は二度と、お前たちのような犠牲を出したくないだけだ!」
「それが寝返りの理由ですか」
「そうだ。それが理由じゃ、納得できないか!」
その言葉にほんの少しだけ、目を伏せるニコル。
だがすぐにきっぱりと顔を上げ、冷徹に言い放つ。
「それは……
ちょっとだけ嬉しいですけど……違うんですよ、アスラン。
それじゃ、貴方は何も成しえない」
なおも反論しようとするアスランの腕を、ラスティが素早い動作で掴んだ。
いつの間にやら、ラスティの手には注射器が握られている。パイロットスーツの上から、彼は半ば強引にアスランの左腕に、その針を突き刺した。
アスランが本気にさえなれば、ここにいる全員を一瞬で叩きのめせるぐらい、サイも知っている。
それが全く出来ず、ニコルとラスティにされるがままということは――
見る間にアスランの両膝が力を失い、その身体はラスティの腕にもたれかかる。
明らかに朦朧としていくその意識に追い討ちをかけるように、ニコルの言葉が響いた。
「一つだけ、教えてあげます。
もうすぐ、議長の計画が発動する。その後です、僕らの『姫』が立つのは──
その時、貴方の願いは叶います。
戦争を止めたいなんて、本気で貴方が考えているならば──
その願い、僕らが叶えます」
アマミキョの異変を、ヨダカが海中で察知したのは、その時だった。
アッシュで待機していた彼の眼前で、規則正しい動きで外壁が滑り、中のコアに近いブロックが飛び出してくる。
船が必要以上に傾かぬよう、両側のブロックが海中深くで船体から離れた。そして吹雪を撒き散らすような噴射と共に、まっすぐに海中を走り出す。まるでミサイルのように。
それを目撃し、ヨダカは瞬時に相手の目的を悟った。
間違いない、位置からしてあれはエンジンブロック──
グーン部隊に全力で叫ぶヨダカ。
「散開! 奴らの攻撃だっ」
違う。これは、モビルスーツへの攻撃ではない。
素早くブロックを避けた後にヨダカはすぐに悟り
──総毛だった。
喉が潰れんばかりの怒声を、コクピットに轟かせる。
「ミネルバ、アソ、全速で回避!
突貫されるぞ!!」
だがヨダカの叫びより早く、ミネルバ側は予想だにせぬ「敵」の攻撃を察知していた。
思わず声を上げるアーサー。
「馬鹿な! 民間船が魚雷など……!」
その時には既に、タリアが素早く指示を送っていた。
「違う、魚雷がわりの構造物よ!
ウォルフラム、迎撃用意!」
魚雷で迎撃を目論んだタリアだが、操舵士マリクの悲鳴が響いた。
「駄目です、射線上にアソが待機中です!」
「くっ……
全速で回避! アソを下がらせ、総員衝撃に備えて!」
間に合わない。
瞬間、激しい震動と共に、海中から閃光が走った。チェンの怒号が響く。
「アソ、直撃ですっ!」
「え、嘘……?
ザ、ザフト艦からの爆発を確認!」
アマミキョブリッジでは、アムルが驚きと共に報告していた。同時に、クルーの間から歓声が沸きあがる。
一番騒いだのはオサキだ。両腕をあげてガッツボーズまでしている。
「やったぜ、サイ!」
「まだ終わったわけじゃない、油断するな。
アーガイルからの連絡は?」
そうボヤきながら、リンドーがミゲルを睨む。だが、金髪の青年はいつになく表情を曇らせていた。
「それが、パージ開始より通信が途絶えて……」
そのミゲルの言葉を中断する大声が、ティーダから響いた。通信機を割るが如くの勢いのナオトの叫びだ。
《何だコレ!? ティーダのレーダーが変です! 海と空から……味方機?
こんなにたくさん? どうして?》
そのタイミングとは少し遅れて、アマミキョのレーダーにも異変が起きた。
アマミキョとザフト艦を一気に覆い尽くすか如き味方機・味方艦のシグナルが、レーダーに現れている。
味方機の信号ではあるが、それはイナゴの大群を思わせる不気味さがあった。
一分前まで光で溢れていたはずの空と海が、同時に曇り始める――
それは天候の変化によるものではなかった。
~~~~~~
次回予告
突如として出現した援軍。
彼らが敵か味方かも分からぬうちに、状況は進んでいく。
そしてやってくる、運命の再会の時。
折り重なる想いが呼ぶのは、悲劇か、それとも──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「ラクス・クラインの香り」
その陽光に、惑うな。フリーダム!